4.重症虚血肢の評価
本疾患の患者背景、病変背景は多様であり、治療に用いる医療機器の評価において治療対象の決定には本疾患の予後、治療成績を規定する要因が勘案されるべきである。これら要因は患者背景因子、血管因子、創傷因子の3つに大別される。
(1)患者背景の評価血行再建の成否にかかわらず予後が不良である下記の患者群は治験の対象として相応しくない。
1)重症心不全:心機能の低下は左室駆出率、BNPまたはNT pro-BNP測定値、心不全による入院歴、NYHA classなどにより評価される。なお、重症心不全の定義及び評価方法については考慮が必要である。
2)重症虚血性心疾患合併:虚血性心疾患を高率に合併し、予後を規定する要因であるため既知の心疾患がない場合も術前に重症虚血性心疾患合併の有無を評価することが望ましい。
3)重症感染症:全身感染徴候高度例、創部の炎症高度例はともに予後不良の徴候である。感染の評価に関してはCRPカットオフ値など考慮を要する。
4)Rutherfordクラス6:広範囲組織欠損は創傷治癒に時間を要し、集学的に可能な治療を全て試みる可能性が高いため治療用医療機器の評価に適さない。
5)踵部潰瘍例:創傷治癒が他の部位に比し遅く、同一の評価が困難である。
6)多発性潰瘍形成例:多発性潰瘍形成例では個々の創傷の大きさの上限を決めることが望ましい。創部が大きいと創傷治癒に時間を要するため創傷治癒評価による有効性評価には適さない。
7)ステロイド内服例:創傷治癒の遷延化および易感染性に関係するため適さない。
8)低albumin(3.0g/dl未満):創傷治癒が遷延する要因であり、患者背景が不良であることを示唆する因子である。
9)低BMI(18未満):長期間の低栄養が示唆され、予後不良を示唆する指標である。
10)ADLの低い症例:生命予後が不良であり、治療効果も予測困難である。
11)なんらかの客観的血流評価機器により下肢血流が十分と評価され、下肢虚血が原因とは考え難い症例。
12)血管炎など動脈硬化症以外の原疾患:原疾患が異なるため、治療用医療機器の有効性評価に適さない。
その他、患者背景について、以下の点も考慮すること。
1)年齢:予後を規定する要因である。
2)Rutherfordクラス4の症例においては血行力学的評価により虚血が証明されていることが必須となる。
3)透析症例(血液透析及び腹膜透析)は生命、下肢ともに予後を規定する要因と報告されているが、本邦において重症虚血肢に対する血管内治療症例のおよそ半数が透析例であること、本邦における透析例の予後は諸外国よりも良好であることを考慮すると、透析という事象のみで対象から削除することは望ましくないと判断する。むしろ上記のリスクを有さない透析例を加えて検討することが望ましい。
(2)対象血管の決定
重症虚血肢は多血管領域、多病変を特徴とするため責任病変の同定をいかに行うかが重要である。とくに、膝下の血管病変に対する介入試験では、治療血管と創傷との関係が明白と考えられる症例の選択が重要であり、以下の症例は評価対象として妥当と考えられる。
1)大腿動脈、腸骨動脈との複合病変の場合はinflowに相当する病変の治療が先行して実施されていること。
2)直接、間接を問わずangiosomeのコンセプトに基づいた血管内治療が実施された症例。
3)治療後創部への血流(blush獲得)が確認された症例。
4)創傷のないRutherfordクラス4の症例においては治療と症状の関係を明白にするため単一血管病変拡張例に限定する。
かかる症例の治療用医療機器の使用について
1)上記の基準を満たしていることを確認した上で、治療用医療機器を使用する対象血管を決定する
2)Rutherfordクラス5の症例では複数血管の治療を可能とするが、治療用医療機器は最も救肢に重要と考えられる血管病変に限定する。あわせて患肢としての評価も行う
3)同一血管内の複数病変は同一医療機器での治療が望ましい。
(3)創傷の評価方法について創傷の評価では、大きさ、深さ、感染、壊死組織、肉芽組織の5点の評価が重要である。
1)大きさの評価
・デジタルカメラによる写真撮影をおこない最大径×その直角をなす角度の長さで評価する。
・ビジトラック等を使用したトレースによる面積評価も考慮されるべき方法である。
2)深さの評価
・真皮に至る、皮下に至る、筋肉・腱に至る、骨・関節露出、不明に分類される。
3)感染の評価
・デジタルカメラによる写真撮影により発赤や腫脹の観察を行う。併せて、末梢血検査(CRP、白血球数)、単純X線写真による骨破壊像、MRIによる骨髄炎の存在を確認する。なお、MRI撮像は血行再建術後に実施し、骨髄炎の存在を評価する。
5.治療用医療機器の有効性の評価
治療用医療機器の有効性評価は、臨床的評価、血管病変に対する評価、創傷治癒の評価からなる。
血管病変に対する評価はいずれのRutherfordクラスにおいても可能であるが、創傷評価はRutherfordクラス4では不可能である。このためRutherfordクラス4,5に対する有効性を同一の評価基準で判定することは困難である。下肢切断回避率や下肢切断回避生存率といった旧来の評価指標では、血流改善が不十分で創傷治癒は得ていないが評価の時点で切断を回避した場合や、下肢切断に至る前に死亡した場合などは下肢切断回避と判断される。従って、血流改善を目的とした治療用医療機器の評価においては、その直接的効果を判定する血管の開存性、創傷治癒の評価が評価項目として妥当であると考えられることから、これらの点も考慮して臨床評価を実施すべきであろう。
(1)臨床的評価
臨床的成功:Rutherfordクラス3以下に改善し、症候が設定された評価日まで維持されていることを臨床的成功と定義する。Rutherfordクラス4では疼痛の評価を要するが、現在客観性を有する評価方法はない。このため、血流改善の維持を伴った疼痛改善を評価することが妥当であろう。なお、これらの臨床的評価は1、3、6か月に実施する。
(2)血管病変の評価1)初期治療効果の評価
・血管造影における残存狭窄度、造影遅延の有無、及び血管合併症の有無(血管穿孔、末梢塞栓、血流遅延を伴う動脈解離)
・30日以内の院内合併症(全死亡、心筋梗塞、脳卒中、計画外の下肢切断、出血性合併症など)
2)遠隔期有効性の評価
・血行再建治療前に計画されていない下肢切断の有無
・下記の基準に基づく臨床的必要性に基づいた再血行再建の実施の有無
①客観的血流評価機器で血流低下が認められる創傷治癒遅延に対する血行再建
②創傷治癒遅延を伴い、定量的血管像造影で70%以上の高度狭窄、閉塞の存在
・創傷治癒期間(創傷治癒の項目参照)
・開存性評価としては血管造影が最適である。このためサブスタディとして血管造影による追跡評価を推奨する。なお、血管造影による評価は6か月の臨床的評価を実施した後に実施されるべきである。
・現状エビデンスとしては十分といえないが客観的血流評価機器による評価は開存性評価の代替となりえる可能性を有する。客観的血流評価機器は経過中連続して評価することが望ましい。
(3)創傷治癒有効性評価
創傷治癒は独立した第三者が行うことを基本とし、下記2つの主要評価指標の達成期間を評価する。なお、創傷評価のための写真撮影は2週毎に行う。
1)評価開始時点の設定について
下記の2点を創傷治癒評価の起点とする。
① 局所処置を要さない場合は、血行再建施行日
② 局所創傷手術が可能とされた症例においては、デブリードマン、計画された小切断施行後。
2)主要評価指標
① 上皮化:完全上皮化を示す。即ち実際に手術を施行し、抜糸され滲出液がなく、皮膚欠損もなくなった状態とする。
②肉芽形成:植皮術または縫縮術、断端形成術、皮弁術で創が閉鎖可能と評価した時期を評価する。壊死組織がなく肉芽形成が80%以上、感染が制御された状態とする。
3)その他、創傷治癒評価方法
血管内治療後1、3、6か月に実施し、下記指標を評価する。
① 創傷の面積縮小率
② 計画された切断レベルでの最終治癒率
6.安全性の評価について安全性評価は有害事象評価によって行われる。なお、周術期有害事象は、治療用医療機器に起因するものと手技に関連するものに大別される。
(1)設定された評価期間における有害事象
1)死亡率
2)下肢切断率
3)主要心血管事故(死亡、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、心不全)
4)主要下肢事故(予定されていない下肢切断または外科バイパス術への移行)
(2)手技に関連するもの(術後30日間における評価項目の発生)
1)周術期死亡
2)周術期主要下肢事故:予定されていない下肢切断または外科バイパス術への移行
3)周術期心血管事故(死亡、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、心不全)
4)血管合併症(穿孔、末梢塞栓、血流の悪化を伴う解離、急性血管閉塞など)
5)穿刺部合併症(輸血を要する血腫、仮性動脈瘤、動静脈瘻など)
(3)治療用医療機器に起因するもの
1)治療用医療機器固有の合併症
2)その他
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