再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造装置についての 設計ガイドライン(手引き)

ガイドラインID 2021-E-RE-055
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療 ヒト細胞製造システム 開発WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2021-E-RE-055 再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造装置についての 設計ガイドライン(手引き)

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. 総則

1.1 目的
本ガイドラインは、再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造を行う製造装置の設計および自動化に関する基本的かつ標準的な考え方を製造装置の製造業者(以下メーカー)に示すことにより、要求事項を満たすために役立てることを目的とする。さらに、使用者(以下ユーザー)の製造工程管理ならびに再生医療等製品の品質確保の一助となることを望むものである。
本ガイドラインにおいて、「製造装置」とは、再生医療等製品の製造工程の一部又は、全部を支援する装置である。

1.2 製造装置設計の基本的な考え方
ヒト細胞・組織の加工を通じた再生医療等製品の製造は、まだ科学的に解明されていない現象や、課題解決のための計測・制御技術が発展途上の段階にあることもあり、製品製造の工程に関わる設計(製品設計、製造設計、運用設計)(図 1)における重要品質特性(CQA:Critical Quality Attributes)および重要工程パラメータ(CPP:Critical Process Parameters)の理解と設定に必要とされるデータが十分ではない場合が多い。特に、製造の途中における CQA の決定にあたって、細胞特有の品質特性(QA:Quality Attributes)の多くについて計測する技術や、安定してモニタリングする技術が確立していない面も存在する。このような現状においてより安定して QA の中から CPP でコントール可能な CQA を決定するには、手作業で行っている操作・作業を装置に置き換えることは有効であり、本分野における特殊性の一面である。
このような現状にある再生医療等製品の製造において、製造工程を担う人を支援するための製造装置を導入するメリットは、コストの削減(経済性・効率化)だけに留まらず、製品品質の恒常的な安定化や、QA・CPP を理解・設定するための一助となる。

図 1. 再生医療等製品の開発における工程設計

製造装置設計の多くでは、製造装置に求める仕様はユーザーが決定しユーザー要求仕様書(URS:User Requirement Specification)として提示される。具体的には、製造装置を導入したいユーザーは、目的の CQA を達成するため制御可能な CPP とその制御機能を検証・評価し、「どの工程において製造装置を導入するか」「製造装置の自動化のレベルをどう設定するか」などを決定し、URS としてメーカーに提示する。また、再生医療等製品の製造では、ユーザーが製造における工程管理ならびに目的物の品質管理について責任を有しており、製造における工程や手順が、目的とする再生医療等製品の品質を達成するために、開発段階の設計から生産に至るまでを一貫して検証(品質リスクマネジメント)し、バリデーションを実施することが求められる。ユーザーはバリデーション活動の一環として、重要な施設・設備およびその付帯設備に対し、製造装置の設計時に、設計時適格性確認(DQ: Design Qualification)、製造装置を用いた再生医療製品等の製造を始める前に、据付時適格性確認(IQ: Installation Qualification)、運転適格性確認(OQ: Operation Qualification)および性能適格性確認(PQ: Performance Qualification)を実施する(図 2)。

図2.設計から導入までのバリデーション活動

このため、製造装置の設計および導入に際しては、最適な装置設計に向けて、ユーザーとメーカーが適切に情報交換し、協議することが望ましい。

1.3 製造装置における自動化の基本的考え方
製造装置の自動化を考えるとき、ユーザーとメーカーとの間で、自動化という表現をめぐって設計思想に乖離(表 1)が生じることは、工程の適格性を確保する上で、双方にとって大きなリスクである。ユーザーの自動化に対する期待が多様化してしまう大きな原因には、開発及び製造段階の活動のほとんどが手作業である点が挙げられる。定性的かつ感覚的に行われるこれらの活動では、各操作・作業の定義が曖昧で、装置設計の観点から整理・分析されたことがないためである。

表 1:製造装置における「自動化」に対するユーザーとメーカー視点のずれと 解決策の例

このようなユーザーとメーカー間の乖離を減らすために、ユーザー・メーカー間における情報の整理と双方向の理解を行うことが重要である。(Appendix 1 参照)

1.4 適用範囲
本ガイドラインは、再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造を行う製造装置の設計に対して適用する。なお、本ガイドラインは、これらの製造装置を設計する基本的指針であり、医療機器の設計指針ではない。

GL:本体

2. 用語の定義
本ガイドラインにおける用語の定義は次に掲げる通りとする。

2.1 加工 (Processing)
疾患の治療や組織の修復又は再建を目的として、細胞・組織の人為的な増殖・分化、細胞の株化、細胞の活性化等を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変、非細胞成分との組み合わせ又は遺伝子工学的改変等を施すことをいう。組織の分離、組織の細切、細胞の分離、特定細胞の単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍、解凍等は加工とみなさない(薬食発第 0907 第 2 号「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」参照)

2.2 培養系 (Culture space)
細胞の接しうる無菌空間

2.3 培養容器 (Culture vessel)
培養系を構成する容器

2.4 自動(Automatic)
人工的なシステムが、一定の条件のもとで人の介在なしに機能し、目的を達成すること

2.5 自動化 (Automation)
自動の状態へ切り替えること

2.6 製造装置 (Manufacturing system)
再生医療等製品の製造工程の一部又は、全部を支援する装置

2.7 容器密閉型製造装置 (Sealed-vessel manufacturing system)
培養系内に原料を仕込んで閉鎖した後、培養容器を開放することなしに、一連の製造
工程の一部又は全部を完了する製造装置

2.8 筐体密閉型製造装置 (Sealed-chamber manufacturing system)
培養系内に原料を仕込んで閉鎖した後、必要な際に培養容器を開放し、一連の製造工
程の一部又は全部を完了する製造装置


3. 製造装置の基本設計指針
再生医療等製品の製造装置の基本計画並びに基本設計に当たっては下記の項目を検討すべきである。

3.1 汚染制御戦略
再生医療等製品の製造にあたっては無菌(的)操作が必要であり、多くの単位操作の効果的な組み合わせで無菌性が維持される。工程資材、製品容器(中間容器を含む)、原料等、製造装置やその周辺環境を通る全ての要素は汚染制御戦略の対象としなければならない。製造工程の設計とリスク評価と汚染制御戦略は相互に関連しており、汚染制御戦略には以下の事項を考慮しなければならない。
1) 無菌操作環境の構築
2) 外因性汚染の防止
3) 内在性汚染の拡散防止(交叉汚染の防止)
4) バイオハザード
5) 取り違え防止
6) 原料等、工程資材、廃棄物管理
7) オペレータ管理
8) 清浄化手段
9) モニタリング
10) 品質リスクマネジメント

3.2 運用と工程管理
再生医療等製品の製造工程の単位操作の運用では、無菌(的)操作は、製造装置にて行うものと作業者により行うものおよびそれらを融合したものがあり、製造装置による工程管理と作業者による工程管理が混在する。これらの運用と工程管理には以下の事項を考慮しなければならない。
1) 指図の正しい実行
2) 操作ログの管理と記録
3) エラーの検知と表示並びに復旧および逸脱管理
4) デザインスペースと製造工程の継続
5) 単品ロットの管理
6) 工程記録と保管


4. 製造装置の設計手順
製造装置の設計に必要な情報はユーザーの作成する URS から得る。ユーザーは自社が開発した再生医療等製品を製造するための製品品質規格や梱包形態までも含めた製造工程の構築を行う。ユーザーは製造工程を実現するため、メーカーへ施設や設備の導入依頼をするにあたって、施設・設備や装置の性能や機能、サービス等について、ユーザーの要求仕様を展開するエンジニアリング活動を行わなければならない。しかし、再生医療分野においては、ユーザーは施設や設備の導入にあたって、リスクに基づく適切なエンジニアリング活動を行うための技能とノウハウが不足していることもあり、ユーザーの求めに応じメーカーがその代わりを行うケースがある。エンジニアリング活動の端緒として、メーカーはユーザーの要求に応じて、以下の事項をユーザーとともに実施することが望ましい。
1) 製造装置が再生医療等製品の品質に与える影響評価
2) マネジメント(装置の品質・納期・コストを含む)における全体最適評価
3) 製造装置に求められる仕様評価
これらの評価を行い、製造装置がユーザーの意図した性能を具備した装置として実現することが求められる。ユーザーは、製造装置の運用とバリデーションの実施が必要である。
エンジニアリング活動を遂行するためには両者の協力が不可欠であり、エンジニアリング活動実施のために必要な製造装置の基本計画から、詳細設計までにおいて必要な事項とユーザーとメーカーの基本的な役割を表 2 に示す。

表 2:エンジニアリング活動実施のための基本的な役割

ユーザーとメーカーの共同作業の事例を Appendix A2 に示す。

基本計画では、装置仕様が製造工程や製品品質に与える影響、マネジメントの影響を評価し、基本計画書や URS を作成する。URS に準じて、メーカーは見積仕様書と見積を作成し、ユーザーは必要に応じてメーカー作成文書のアセスメント(施設・設備構築のビジネス要件での妥当性)を行う。正式な受発注後、基本計画が終わった段階で、ユーザーとメーカーは基本設計書を作成し、デザインレビューを行う。ユーザー要求仕様書と見積仕様書に差異がある場合は差異リストとして文書化する必要がある。詳細設計では、メーカーは詳細設計として、機能仕様書と設計仕様書を作成し、ユーザーによるデザインレビューとアセスメントを行う。

4.1 基本計画
製造工程の構築にあたり、工程の特性に応じた要求事項の明確化と製造装置の設計範囲やメーカーの役務を決定し、エンジニアリング活動全体のマネジメントとスケジューリング行う。

4.1.1 基本計画書
基本計画に基づき、決定された各要件(製品品質への影響評価、マネジメントの全体最適評価、装置に求められる仕様評価)を文書化する。

4.1.2 ユーザー要求仕様書(URS)
URS とは、ユーザーが開発した再生医療等製品を製造するために、製造装置に必要な要求(仕様)を文書化したものである。URS は、原則としてユーザーが作成するが、必要に応じ、メーカーが協力することも許容される。URS はユーザーの要求に応じて、メーカーが見積を進めることが可能なように、製造装置の設計に必要な諸元やメーカーの行う役務について記載する必要がある。
メーカーは URS にもとづいた詳細設計を行い、機能仕様書および設計仕様書を作成し、ユーザーとメーカーはこれらにもとづいた DQ と詳細設計時のアセスメントを行う必要がある。下記はメーカーがユーザーと協力して URS を作成する場合に必要な記載事項を示す。

4.1.2.1 URS の一般的な記載項目
1) 適用範囲に関わる事項
設計・製作する製造装置の範囲や役務を記載する
設計、製作、検査、据え付け、試運転、適格性評価など
2) 準拠する法規に関する事項
GCTP、GMP、JIS、IEC、労働安全衛生法など
3) 納期や検収に関わる事項
設計・製作スケジュール、納期、検収条件、納入後の保証条件および除外事項など
4) 機器類の要求仕様とバリデーション役務に関する事項
5) キャリブレーションに関する事項
6) URS に記載の無い事項に関する取扱い

4.1.2.2 URS の製造装置に関わる記載事項
1) GMP および GCTP に関わる要求事項や開示情報
製造装置の設置環境、並びに環境の清浄度バイオハザードなどの防護レベルなど
製品または中間製品に直接接触する部分に関する仕様
製品または中間製品に間接的に接触する部分に関する仕様製造装置の清掃または除染、滅菌に関する仕様その他ユーザー側で指定する規格または基準
2) 製品品質に関わる要求事項
環境維持に必要な製造装置内部の溶接部品の仕上げ、材質など消毒剤や除染剤への部品耐性
製造に必要な試薬や培地に対する樹脂、プラスチックの耐性滅菌対象部品の湿熱または乾熱滅菌の耐性装置内部からの発塵防護装置内部の清掃性
装置の動作範囲が管理基準内であることを確認するための計器類と警報、記録機能
製品保護に必要な装置動作に関する仕様
製品接触面以外の装置カバーなど装置外部の清掃性に関する仕様
(設置環境の維持に必要な事項)
製造装置の洗浄またはクリーニング方法に関する仕様
アタッチメントなど資材に伴う交換作業が必要な部品の再取り付けに関する仕様製品の品質に関わる可能性のあるリスク開示
3) 安全性に関わる要求事項
可動部分や発熱部分に関する作業者保護停電時の製品および作業者保護集塵や暴露防止など作業者保護操作部の角除去など作業者保護
過負荷やメカニカルストッパなど装置保護の要求フェールセイフまたはフールプルーフの安全設計電気的安全保護回路
回転不良など自己診断機能防爆、圧力容器
4) 再生医療等製品の製造に関する要求または開示情報
使用する工程資材に関する情報(寸法、形状、材質、公差など)使用する原料等および試薬、培地などの物理化学的な情報製造装置に期待する装置能力・時間当たりの処理数
工程資材、試薬、培地などの導入方法と廃液、排出方法製造装置動作に必要な基本フロー
製造装置動作のパラメータ情報(速度、角度、配置)
製造装置動作のパラメータの制御範囲(コントロール範囲、アラート範囲、アクション範囲)
ユーティリティの供給条件
5) メンテナンスに関する要求
日常的点検項目と周期的点検項目
ユーザーによる点検項目とメーカーによる点検項目
点検部位の構造に関する事項調整部位の構造に関する事項

4.1.3 見積仕様書
URS にもとづき、メーカーは見積を行い、見積に準じた製造装置仕様と役務の見積仕様
書を作成し、URS との違いは差異として記載する。


4.1.4 アセスメント
基本計画時のアセスメントは、計画推進の必要性、URS の妥当性、見積仕様書の妥当性、URS と見積仕様の差異、URS に対するメーカーの実現能力(品質保証、技術レベルなど)について必要に応じてユーザーが行う。

4.2 基本設計
基本計画書および URS に基づき、ユーザーおよびメーカーは基本設計を行う。対象となる装置の適用範囲、責務、スケジュール、達成すべき仕様を明確にする。

4.2.1 基本設計書、見積仕様書
基本設計での成果を文書化したものを基本設計書としてまとめる。基本設計書にもとづき、ユーザーとメーカーは装置設計の基本的な合意を得るものとし、メーカーは見積仕様書を作成する。

4.2.2 デザインレビュー
基本設計書と見積仕様書のデザインレビューを行う。基本設計書が基本計画と URS を反映しているか、URS に記載事項の達成が可能かなどを確認する。

4.3 詳細設計
URS をベースとした、基本設計書と見積仕様書に基づき、詳細設計を行う。詳細設計ではエンジニアリング活動のステップが新たに上がることとなり、多くの人員が関与するため、これまで作成した図書類からより具体化した機能仕様書、詳細仕様書を作成し、間違いや後戻りの無いエンジニアリング活動を行うべきである。

4.3.1 機能仕様書
機能仕様書は、URS に記載されたユーザーのニーズを満たす製造装置について、見積仕様書を基本としてメーカーにより記述され、定義される。機能仕様書はユーザーによるレビューと承認を受けるべきであり、URS に記載された設計上の制約事項(ユーティリティ、環境、速度、動作条件など)は全て文書化する必要がある。機能仕様書は URS から読み取れる以下の情報をカバーすべきであり、必要に応じてユーザーと協議しなければならない。
1) 適用範囲と製造装置の主な目的
2) 関連する GxP 規則および法規
3) 再生医療等製品の品質、パラメータおよび取得データの完全性と影響
4) 主要な構成要素
5) 製造装置のインターフェース
6) 設計条件と制約事項
7) URS との不適合事項またはデビエーションリスト

4.3.2 設計仕様書
設計仕様書は、機能仕様書を詳細に技術的に展開したものである。これらは設計・製作する製造装置が機能仕様書で定義された機能をどのような方法で実現するかを記載する。設計仕様書はメーカーが作成し、ユーザーによるレビューと承認を受けるべきである。設計仕様書は機能仕様書から展開される製造装置の要求事項を具現化するものあり、メーカーが行うべき設計から製作、施工、検証、検収までの一連の製造活動の適用範囲を示し、要求があった場合のバリデーション役務の適用範囲示した文書である。

4.3.3 デザインレビュー
設計仕様書のデザインレビューを行う。設計仕様書が URS に記載事項の達成が可能かなどは確認する。デザインレビューの結果、変更が生じた場合はユーザーと協議すべきである。

4.3.4 アセスメント
詳細設計時のアセスメントは、設計仕様書の妥当性について行う。対象とする製造装置のアセスメントは、製造工程への影響、URS の妥当性、設計仕様書の妥当性、URS と設計仕様の差異、URS に対するメーカーの実現能力(品質保証、技術レベルなど)について行う。このアセスメント後、ユーザーの正式承認を経て、メーカーは製造装置の製造に着手することになるので、重要なエンジニアリング活動と考えるべきである。

4.4 バリデーション活動
バリデーション活動はユーザーが主体となって行うべき事項であるが、ユーザーの要求に応じてメーカーはバリデーション活動を行うケースが多い。DQ、IQ、OQ、PQ と、エンジニアリング活動のうち設計以降の活動を含むが、プロトコルの作成において、メーカーの設計が関与する部分が多く、ユーザーと共同して進めることが必要である。

4.4.1 設計時適格性確認(DQ)
URS を基に、機能仕様書および設計仕様書(ハードウェア、ソフトウェア)を作成するが、設計仕様書に対し、ユーザーとともにリスク評価を実施し、URS から機能仕様書、設計仕様書との一連の文書化の流れの中で、URS の要件に対して各文書のトレーサビリティが保たれ、URS の各項目が満たされていることを検証することで DQ が達成できる。URS との不適合事項については、差異リストなどにより、ユーザーとの合意形成が必要である。

4.4.2 据付時適格性確認(IQ)
IQ では、メーカーの工場で出荷承認を得た製造装置または設備が設計仕様書で定めた仕様であり、また正しく据え付けられていることを現地にて確認し、その記録を残す。設計仕様書に IQ として必要な確認要件が全て記載されていないこともあり、メーカーがプロトコルを作成し、実行することが望ましいケースが多い。一般的に、IQ は、電源投入前に確認できる項目を評価対象とすることが多い。設置場所が、電源電圧や設置場所の温湿度、広さなど、製造装置が正常に機能するように準備されていることが前提となる。
IQ の実施は、一般的にメーカーではなくユーザーが責任を持つが、メーカーは、設置環境、付帯設備、大きさ、重量等についての仕様を事前にユーザーに提出し、ユーザーの準備作業が確実かつ円滑に実施できるように支援することが望まれる。また、実際の作業時には立会い確認する場合が多く、ユーザーに対して取扱い説明を実施する場合は、説明内容並びに受講者の記録も作成する。

4.4.3 運転適格性確認(OQ)
OQ では、正しく設置された製造装置や設備が、機能仕様書で定めたとおりに正常に動作することを確認し、その結果を記録する。OQ として必要な確認事項はメーカーの設計時のパラメータ設定などに関わる要件があり、メーカーがプロトコルの作成段階から関与することが望ましい。また、対象となる装置あるいは施設・設備の全てが、取扱説明書等に従い、適切に校正が行われた後に OQ が実施されるのが原則となる。
OQ の実施も、一般的にユーザーが責任を持つものであるが、メーカーは IQ と同様に、ユーザーの準備作業が確実かつ円滑に実施できるように支援することが望まれる。IQ および OQ を実施する間に、ユーザーからは、PQ を自ら実施できるように、製造装置の稼働方法や調整方法について、トレーニング等の提供を求められることがある。

4.4.4 性能適格性確認(PQ)
PQ では、原則としてユーザーにより、実原料を用いた製造(運用)時に、製造装置あるいは施設・設備が要求仕様通りであることを確認するとともに、一貫して目的(URS)に適合した性能を維持していることを確認する。具体的には、操作の上限と下限を包含したある条件、あるいは、一連の条件を含めて実施する試験により、予想される全ての操作条件の範囲において、予め定めた結果を満たしている(意図したとおり稼働する)ことを確認することをいう。PQ はユーザーが中心となって実施すべき事項であるが、製造工程の運用の中で製造装置のアラート基準による判定が必要な場合もある。この場合、判定基準の確立にメーカーの助言が必要となり、PQ の実施にあたってもメーカーが補助する場合がある。

4.5 詳細設計
製造装置のメーカーは設計仕様書に準じて、詳細設計を行わなければならない。詳細設計は、製造工程の実現と装置の能力を決定するうえで、特に重要である。4.1 から 4.4 項に記載した事項を参照しつつ、以下に詳細設計に必要な培養系の考え方並びに留意事項を記述する。

4.5.1 基本的な設計条件
製造装置の設計は、ISO 9001 などを参考にした品質マネジメントを行うことが望ましい。

4.5.2 滅菌および除染、消毒に対する設計
再生医療等製品に直接接触する部位(培養系)は、滅菌を行い、滅菌された状態を維持することにより無菌性を担保することとする。滅菌のバリデーションは、ユーザーの受入基準に合わせる。再生医療等製品に直接接触しないその他の部位は使用する目的と使用方法およびリスク評価の結果に則り、除染や消毒などの適切な微生物除去の手段を採用する必要がある。製造装置の滅菌、除染、消毒を考慮した構造設計の基本的要件は以下のとおりである。
1) 滅菌を考慮した構造設計
製造装置に対する滅菌について、着脱可能な部品を対象とする場合は、湿熱滅菌または乾熱滅菌を行う。細胞、試薬、培地などと直接接触する部位、ユニットまたは部品が滅菌対象物となる。滅菌を考慮した設計は、熱負荷に耐える材質で、耐腐食性を持っていることとである。滅菌対象部品の着脱を行わない場合は、湿熱滅菌または乾熱滅菌が装置に装着した状態で可能であることとする。他に、構造的に可能であれば、γ 線や電子線による放射線滅菌も活用できる。
2) 除染を考慮した構造設計
製造装置に対する除染は、製造装置が設置された無菌操作等区域の環境と同時に行われる場合が多い。除染は薬剤を用いて行われる場合が多く、薬剤負荷に耐える材質であることとする。また、除染薬剤の拡散性を担保するために、微小な隙間や穴は避けるべきである。
3) 消毒を考慮した構造設計
製造装置に対する消毒はほとんどが清拭で行われる。表面は滑らかで清拭しやすい形状の必要がある。消毒剤に対する薬剤負荷に耐える材質であることとする。

4.5.3 試料および培養液の接する容器、回路に対する設計
専用の容器、回路を準備する場合は、ユーザーの要求の範囲で適宜設計を行い、安全性が確認できたものを使用する。基本的にシングルユースであることが望ましい。シングルユースを用いた場合に、ユーザーは素材からの抽出物や溶出物、微粒子、培地成分等の相互作用を考慮し、エンドトキシンや微生物、異物(目視できる異物を含む)の管理をすることが求められるため、これらの素材の選定にあたってはユーザーとの協議が必要である。シングルユースの要求事項については、本開発ガイドラインの「32 細胞加工に特化した
工程資材の要求事項に関するガイドライン 2017(手引き)」を参考にするとよい。

4.5.4 電源、電気計装および制御に関する設計
電源、電気計装および制御に関する必要な事項は以下に示すがこれに限るものではない。
1) 電源の分離(商用電源と無停電電源)
2) センサ類の配線処理
3) 駆動機器と同道する電線類
4) 制御盤の構造
5) 計器類の表示単位
6) 装置間インターロック
7) 手動操作
8) 測定機器の設定値とアラート、アクションレベル
9) グラフィックユーザーインターフェース
10) 異常停止と復旧動作
11) メンテナンス
12) オペレータ保護と安全装置
13) 測定機器の記録と保管
14) コンピュータシステムバリデーション(CSV)
15) 制御盤材質、仕上げ、設置場所
16) 瞬時停電対応と停電対応
17) 制御盤・操作盤の保護等級
18) 防爆対応(必要な場合)
19) 機器と銘板表示
20) 通信仕様
21) 絶縁保護
22) ソフトウェアのバージョンやライセンスの管理

4.5.5 ユーザーインターフェイスの設計
4.5.5.1 誤操作防止
ユーザーインターフェイス設計においては誤入力、誤接続等の誤操作を防止するための配慮を行うことが望ましい。キーボード等の入力装置を用いる場合には、入力支援機能や予期せぬ接触等による誤入力が生じにくい工夫を行うこと。また装置設定情報、動作管理記録等の重要機能へのアクセスは管理基準に応じたアクセス権限設定等を用いることにより、閲覧、編集を制限することができるシステムであることが望ましい。

4.5.5.2 緊急停止システム
製造装置においても作業者の安全を確保するため、製造装置を緊急に停止させるための非常停止システムを備えることが望ましい。非常停止機能については、JIS/ISO 等の適切な規格に基づき設計することが望ましい。

4.5.6 培養系に係る製造装置の環境設計の考え方
再生医療等製品は、製造開始時から移植時まで、一貫して滅菌することができない。特に、自己細胞が原料等である場合は、組織表面のみならず、組織内部や細胞内部が微生物により汚染されている可能性を否定できないまま培養を開始する。そのため、万一の微生物汚染に備え、漏洩防止(封じ込め)対策をしつつ製造を実施する必要がある。これに対応するため、製造は、検体(バッチごと)の独立性を維持しつつ、外因性の汚染を防止することを目的として、全工程を通して、無菌的環境下において実施される必要がある。
従って、製造装置における培養系は、無菌的環境と封じ込めを両立させる構造・機能を有することが求められる。無菌的操作環境と封じ込めの構築要件は、製造環境の設計思想および構造により、ケース・バイ・ケースで異なる。実際の運用においては、リスク評価に基づき、無菌操作環境と封じ込めの機能が維持されていることの確認方法(モニタリング方法、基準、無菌操作手順等)および逸脱の対処方法(原因究明、再発防止措置等)を設定しておくことが求められる。
製造では、製造環境の清浄度評価は微粒子のみではなく、微生物数と合せた基準(グレード A~D)であるため、適宜モニタリングできる構造が望ましい。モニタリング方法として、空中微粒子と空中微生物を常時測定することは可能であるが、必ずしも微生物を含む異物の混入と相関させることはできない。そのため、製造装置の培養系を含む構造は閉鎖系で設計されることが望ましい。閉鎖系の構造では、リスクに応じた工程内の微生物測定等の環境清浄度評価の考慮は必要であるが、リアルタイムのモニタリングは必要としないと考える。また、チェンジオーバー時を含む、無菌操作等区域での清浄度の確立手順は、可能な限り消毒ではなく、除染であることが望ましい。Appendix3 に、事例として各構造の考え方について示す。

4.5.7 一定の製造環境下に設置された製造装置の構造や動作
4.5.7.1 容器密閉型製造装置
容器密閉型の場合、容器内部の無菌的な完全性が求められる。容器に対して容器外部から直接・間接的に操作を加え、必要な操作を行う。この装置の場合、設計時に構造的に求められるのは、細胞に直接接触する部分の器材に対して、素材からの抽出物(Extractable)や溶出物(Leachable)、微粒子(Particle)、培地成分等の相互作用(Interaction)を考慮すること、エンドトキシンや微生物、異物(目視できる異物を含む)の管理をすること、である。
器材に対して外部から操作する装置は、設置環境に準じた機器材質の選定を行う。一般的にはグレード D 環境の場合は、器材の接触部分にはステンレススチールなどの腐食性の素材や樹脂を用い、その他の外装部位は塗装した素材を用いることが望ましい。

4.5.7.2 筐体密閉型またはエア密閉型製造装置
筐体密閉型又はエア密閉型製造装置は、取扱う対象、設置環境に応じて構造の変更が可能である。
a. 取り扱う対象:細胞、試薬、培地などと直接接触する部位や無菌操作等区域に設置する場合
無菌性を維持管理できる構造や動作が必要である。この部位は、無菌操作等区域での操作であり、滅菌、除染消毒などの熱負荷や薬剤負荷が加わる部位である。無菌性を維持管理できる構造設計や動作とは以下を考慮すべきであるが、これに限るものではない。
1) 耐腐食性の材質(ステンレススチール、樹脂、またはそれに準じた材質や腐食処理した部品)の使用
2) 部位の表面仕上げは滑らかであり、洗浄性が良く、不必要な異物溜りがないこと
3) 操作時に異物の発生がないこと
4) 熱による滅菌対象部位は、熱負荷に耐えること。
5) 薬剤による除染、消毒を行う部位は薬剤負荷に耐えること。
6) 開放された細胞や試薬、培地より上部での動作は行わない。動作の上で必要な場合は、リスクを考慮した上で、異物の混入を防ぐ考慮をする。
7) 構造上の隙間や穴、発塵や異物混入のリスクについてはユーザーへ開示し、アセスメントを行うこと。
8) 無菌操作等区域とそれ以外の区域を貫通する構造物がある場合は、シールをすること。
9) 設置環境の気流を乱すような急激な動作は推奨されない。必要である場合はバリデーションまたはベリフィケーションを行うこと。
10) 暴露防止や封じ込めが必要な場合は、そのレベルに応じて、WHO GMP の
Annex 3 の基準にしたがうこと。
11) 間接的に動作を補助する部位は動作の目的に応じた構造や材質とするが、環境への微粒子や微生物の影響がないよう、密閉式のカバーなどで覆うこと。
12) 作業者安全に配慮した構造であること。

b. 取り扱う対象:動作する部位に対して動作を補助し、無菌操作等区域外に設置する場合
設置環境のグレード基準に応じた、構造や動作が必要である。この部位は無菌操作等区域外の動作であり、無菌的操作に関わらない構造設備である。この設備については以下を考慮すべきであるが、これに限るものではない。設置環境またはユーザーの基準に準じた材質、動作であること。
1) ユーザーの規定する清浄化手段に適応した材質であること。
2) 装置に必要な油脂や給油はカバー内に収めること。
3) 作業者の安全に配慮した構造であること。

4.5.8 製造装置の動作
動作管理 URS にもとづいて、製造装置の基本動作を決める。ユーザーからは設定する動作のフローと動作の許容範囲が提示されるべきであるが、提示されない場合にメーカーは動作の速度、範囲、角度、配置などを決定し、その許容範囲をユーザーに開示し相互に合意することが望ましい。

4.5.9 設計図書と変更管理作成する設計図書
1) 仕様書
2) バリデーション図書
3) ミルシート
4) 検査報告
5) 取り扱い説明書
6) 保証書

設計図書の変更管理、装置のバージョン管理を行うことが望ましい。設計変更を行う場合の対処として、変更の重要度や目的、内容、再生医療等製品に対するバリデーションの要、不要等を事前に確認し、機能、性能、安全性に与える影響を十分考慮したうえで行う必要がある。設計変更は、設置環境や経年変化など何らかの原因で、本来設計仕様時に目標とした機能や性能が発揮できないことへの対策の場合は、是正処置として速やかに原因究明を実施し、対応を進めることが望ましい。一方で、設計変更が再生医療等製品に対して何らかの影響を与える可能性がある場合は、設計変更による互換性確認を実施することが求められる。
変更に際しては検証(リスク分析)記録、バリデーション(適格性確認)記録を残し、設計変更内容を履歴として残し、管理する必要がある。

4.5.10 具備すべきマニュアル、ドキュメント
取扱・操作マニュアル、設置マニュアル、キャリブレーションマニュアル、メンテナンスマニュアル、交換部品リスト、等があり、設計した製造装置については、製品仕様書、設計変更履歴等の設計ドキュメントや各種検証記録等の品質に関連する文書を作成する。
品質文書の作成に当たっては事前に文書の作成計画を立て、その計画に従いドキュメントを整備することが望ましい。製造装置をユーザーが適切に使用できるように、取扱説明書などのマニュアル類を準備することが必要である。ユーザーが必要とする場合は、教育訓練の手順など、使用者の資格(要件)について考慮することが求められる。

4.5.11 その他
その他装置設計に関わる事項
1) 装置の騒音
2) 振動
3) 排水
4) 給排気
5) 各自治体の排出規制
6) 地震対策
7) 輸出管理規制
8) 梱包並びに搬入時条件
9) ユーザー支給品
10) ユーティリティ条件と取り合い範囲
11) 予備品

GL:付属資料

5. 参考規格
・再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
・ISO13408-1:2008 ヘルスケア製品の無菌操作-第 1 部:一般要求事項
・ISO13408-7:2012 ヘルスケア製品の無菌操作-第 7 部:医療機器及び複合製品の代替プロセス
・ISO18362:2016 細胞ベースのヘルスケア製品の製造―操作中の微生物リスクの管理・品質リスクマネジメントに関するガイドライン(平成 18 年 9 月 1 日薬食審査発第0901004 号/薬食監麻発第0901005 号)
・JIS B9700 機械類の安全性-設計のための一般原則
・JIS Q9001 品質マネジメントシステム-要求事項
・ISO 15746-1:2015(en): Automation systems and integration — Integration of advanced process control and optimization capabilities for manufacturing systems — Part 1: Framework and functional model
・ISO 16484-2:2004(en): Building automation and control systems (BACS) — Part 2: Hardware
・ISO/IEC 2382:2015(en): Information technology — Vocabulary
・The International Society of Automation (ISA): https://www.isa.org/
・ISO 17757:2019(en): Earth-moving machinery and mining — Autonomous and semiautonomous machine system safety
・ISO 13482:2014(en): Robots and robotic devices — Safety requirements for personal care robots  

Appendix

A1. 製造装置における自動化の基本的考え方

A1.1 再生医療等製品製造における製造装置の意義
再生医療等製品の製造工程を支援する製造装置には、「ヒト細胞・組織」の特性と、法令により定められた製造要件との両方を考慮した工程の支援が望まれる。
再生医療等製品製造における製造装置の意義には主に以下の点があげられる。
・製造工程の再現性
・リスクの低減・経済性の追求
再生医療等製品は、製品としての多様性が大きいため、個別に対応すべき事項や要求仕様も多様化する傾向にある。このため、他の分野における自動化の一般概念を、製造装置の設計に単純に導入することは難しい場合があり、目標とする再生医療等製品の製造工程を熟慮した装置化およびその自動化のレベルについて考えることが必要である。

A1.2 再生医療等製品製造に特有のユーザー状況の整理
再生医療等製品の製造では、ユーザーは工程設計と運用管理のどちらにも関与している。
このため、製造装置を設計するメーカーにとって、導入予定のユーザーにおける細胞製造のステージを理解することが望ましい(図 A1 における Step 1)。ステージによって、製造装置の自動化に対する期待が異なるためである。

図 A1. 製造装置設計においてメーカーが事項を整理する際のフローチャート「工程設計のステージ」となる時期は、
- 製品開発
- 製造施設への技術移転
- 製造スケール変化への対応
- 製造時の工程改善対応などが挙げられる。
このステージにおける製造装置の自動化には、工程改善に向けたプロセスの理解と最適条件探索のための性能が期待される(図 A1)。
ユーザーが工程の「運用管理ステージ」にある場合、実製造工程における計測や制御の対象および目標は明確となっている。結果として、装置の仕様を明確化しやすく、現在、製造装置の自動化機能の多くはこのステージにおける装置に求められることが多い。
どちらのステージでも、自動化したい作業・操作が「計測」か「制御」かを整理することも重要である。人の作業・操作は「計測」と「制御」の連動的組合せで行われているが、多くの場合無意識に行われているため、手技を技術要素に分解して設計に落とし込むことが難しい場合がある。表 1 の例に示したように、操作(ピペッティング、容器搬送、ボトリング、攪拌、遠心)のような制御技術の自動化のように表現される案件でも、実は目視や触感による状況把握という計測技術の自動化までを含めたような期待があるケースがある。さらに近年では、高度な情報処理アルゴリズムに対する過剰な期待によって、人を超えるような未知の状況に対する柔軟な判断能力などが、装置の自動化に当然含まれる機能として期待されてしまうケースもあり、ユーザーとメーカー間での整理が重要である。

A1.3 再生医療等製品製造に特有のリスクと自動化に期待する効果の整理
ユーザーの状況を把握した後、製造工程において、自動化によって低減したいリスクが何なのかを理解することは有効である。このリスクについての理解をユーザーとメーカーが共同して行うことで、製造装置に求められる自動化対象が明確となり、より最適な装置設計へとつながることが期待できる(図 A1 における Step2)。
多くの場合、細胞製造において自動化が必要とされる最大の理由は、再生医療等製品製造におけるリスクを低減するためである。しかし、人の手作業で大部分が構成される現在の細胞加工において、どの工程がリスクなのか、そのリスクはどのような装置的技術によって置き換えることができるのか、そして、装置による成果をどのように評価すればよいか、についてユーザーが整理することが難しい場合が多い。このとき、リスクについてその原因が「人」、「装置」、「工程」のどこに起因するのかをユーザーとメーカーが共同して整理することは、装置の仕様設計の第一歩となる。さらに、そのリスクが人に起因する場合、人が行う加工の構成要素を「身体的作業」と「頭脳的作業」というカテゴリに分け、どのステップに最もリスクがあるのかを整理することは、装置設計の仕様を明確化するために有効である。

A1.4 製造装置の自動化設計に向けた自動化レベルの整理
自動化によって解決したいリスクを整理した後、次は技術的にどのようなレベルで自動化を実現することを目指すのか、費用対効果のバランスを考えながら整理することは、ユーザーがより深くメーカーの技術を理解し、装置の設計仕様を検証するために有効である(図 A1 における Step3)。このとき、自動化の目標、自動化する時間、自動化する機能について、メーカーの有する技術により達成可能な性能と、ユーザーの求める仕様とをレベル分けしながら整理することは、装置の具体的な設計前に有効である。

A1.5 製造装置自動化の意義および最新技術導入についての検証
製造装置による自動化が、再生医療等製品製造におけるリスクにもたらす低減効果を熟慮することは、本分野における製造装置の自動化において極めて重要である。リスク低減の効果があることで、自動化はユーザーとメーカーの両者にとって有効な手段となりうる。従って、製造装置を自動化するメーカーは、自動化によってどのような製造のリスクがどの程度低減されるのか、ユーザーニーズの調査とともに実施することが重要である。また最終製品の品質に責任を有するユーザーは、自動化が製造のリスクと製品品質に与える影響を熟慮すべきである。1.2 項のように、製造装置の自動化においても、先端的な技術の導入による自動化がもたらす意義について考える必要がある。
近年の機械的技術と情報処理技術は急速に発展しており、製造装置には「まるで人間のような自律性」の機能が期待される場合も増加することが想定される。しかし、再生医療等製品の製造では、GCTP に則った製造工程が必要とされる。このような工程における製造装置の自律性は、規制との関係および品質管理のために人が規定した条件に従うものでなければならない。即ち、近年の情報処理技術の先端的成果として知られる「人の判断や知識を超える判断」や「新しいルールの自律的発見・発明」という機能は、責任の所在が明確化できる工程において、人が規定する条件範囲や適用用途への限定が行われた中で利用されるべきである。具体的には、人が最終的な責任を負う作業において、作業者を支援するミスチェックや情報の整理や可視化機能、工程設計時における工程理解を支援する高度計測や解析などは有効と考えられるが、人の設定したルール外において製造装置が自律的に稼働することは望ましくない。

A2. 製造装置設計例

A2.1 設計方針
生きた細胞を最終製品とする再生医療等製品の製造においては、製造工程において細胞の調製を行う操作の特性が製品品質の再現性に大きく影響する。工程手順を機械操作で実施できる製造装置を作製するための実施例を図 A2.1 に示す。はじめに、工程手順を分析し製造装置の URS を作成する段階において、目的とする再生医療等製品の製造工程の作業分解構造(WBS: work breakdown structure)を基に、機械操作の工程特性を分類し、「機械操作およびその動作に関わる URS」を準備する。並行して、工程中の動作により影響する製品の品質特性(QA: quality attribute)を想定し、リスク分析を行うことで、機械操作が製品の品質(細胞)に及ぼす影響を検討する。これらの結果を用いて、工程が目的とする QA を実現できるかを評価するため、機械操作に割り振られた動作群の工程パラメータ(PP: process parameter)が製品の品質に影響するか否かで分類を行い、品質に影響する PP を有する機械操作に対して細胞製造に関わる工程設計の検証(DV: design validation)を実施し、その結果より機械操作の改善を進める。必要に応じて設備の修正・追加を行い、再度 DV を実施する。これらのサイクルを繰り返し、製造装置が最終製品の CQA を達成可能なPQ を満たすことで装置設計を確立する。

図 A2.1 再生医療等製品の製造装置設計確立に向けた検証フロー例)
本例における DV は、製造の施設・設備を準備する段階で、予め製造装置の設置前から PQ 実施までの間に行うことを想定するが、試作機を作製して予め開発段階で DV を実施することでもよい。

A2.2 DV 実施に向けた動作検証項目決定手順
DV の実施に向けて、QA と相関する PP を決定するために実施する重要度評価の記載例を図 A2.2 に示す。

図 A2.2 DV における動作検証項目決定に向けた PP の重要度評価の例
A3. 培養系に係る製造装置の環境設計の考え方の例

事例 A 容器密閉型製造装置の構造
容器密閉型とは、シングルユース回路を用いた製造システムである。細胞および細胞に直接触れる試薬・培地が器材内部に収容され、無菌操作等区域を含む外部環境に対して開放されることのない培養時の閉鎖系のシステムを示す。器材内部の閉鎖系への原料等の出入に関して、無菌的接続手段を介する製造装置の場合は、完全密閉式培養装置であり、原料等の出入り、および、再生医療等製品の回収から梱包までの操作の完全性を保証することで、ISO クラス 8 の環境下でも、無菌操作環境と封じ込めが担保できると考える。一般
的には、器材が閉鎖系のため、内部の環境モニタリングは必要としない。

事例 B 筐体密閉型製造装置の構造
筐体密閉型とは、アイソレータを用いた製造システムである。市販の培養皿のように、細胞および細胞に直接触れる試薬・培地・工程資材が無菌操作等区域で開放され、無菌操作等区域が外部環境から隔絶されることにより、それらが外部に開放されることのない閉鎖系のシステムを示す。除染機能を有するパスボックスや無菌接続機構または、製造環境を損なうことなくバリデードされた方法により、無菌的に原材料や器材を無菌操作等区域へ搬入を行うことができる構造であれば、環境密閉式製造装置であり、限られた体積の筐体(無菌的操作環境)が、外部環境に対し閉じた形で維持されるため、原料等や資材類の搬入時における汚染リスクを考慮することで、環境微粒子および環境微生物の汚染リスク
は最小限に抑えられる。

事例 C エア密閉型製造装置の構造
エア密閉型とは、安全キャビネットを用いた製造システムである。市販の培養皿のように、細胞および細胞に直接触れる試薬・培地・工程資材が無菌操作等区域で開放され、無菌操作等区域が外部環境からエアバリアにより隔絶されることにより、それらが外部に開放されることのないシステムを示す。原料等や工程資材を無菌操作等区域へ搬入前に外装を消毒する。エアバリアによる環境密閉式製造装置であり、限られた体積の筐体の内部の限られたエリアが無菌操作環境として機能する。無菌操作等区域に対して、操作時に作業者の腕が出入りするため、周辺環境のグレード制御が必要であり、原料等や資材類の搬入時における汚染リスクの考慮、安全キャビネットの適切な使用、運用面での作業者の配慮をするなど十分な運用とリスクアセスメントを行うことで、環境微粒子および環境微生物の汚染リスクは抑えられる。

再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG 委員

座長 浅野茂隆   早稲田大学 招聘研究教授
秋枝静香   株式会社サイフューズ 代表取締役
天野健太郎  株式会社竹中工務店 未来空間研究部 精密環境グループ長
池松靖人   株式会社日立プラントサービス 再生医療協働研究所 所長
牛田多加志  東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 教授
梅澤明弘   国立研究開発法人国立成育医療研究センター再生医療センター センター長
小川祐樹   大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部
       大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻 生物プロセスシステム工学領域 特任研究員
加藤竜司   名古屋大学大学院 創薬科学研究科 基盤創薬学専攻
       創薬生物科学講座 細胞分子情報学分野 准教授
紀ノ岡正博  大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学専攻 生物プロセスシステム工学領域 教授
小久保護   澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
小林豊茂   株式会社日立製作所 ヘルスケアビジネスユニット
       分析システム事業部 先端医療ソリューションセンター 再生医療グループ 主任技師
齋藤充弘   大阪大学大学院医学系研究科 未来細胞医療学共同研究講座 特任准教授
中村浩章   アース環境サービス株式会社 開発本部 学術部 課長
水谷 学   一般社団法人 免疫細胞療法実施研究会 理事
森由紀夫   株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
       生産技術部 部長 兼 品質管理部 部長 生産統括副本部長
山本 宏   日本エアーテック株式会社 企画室 室長
若松猪策無  株式会社メディネット 経営管理部 サイエンティフィックアドバイザー

再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG ガイドライン(手引き)素案検討タスクフォース委員会

谷本和仁   澁谷工業株式会社 プラント生産統轄本部製薬設備技術本部
       製薬設備技術Ⅱ部 兼 再生医療システム本部 部長代理
幡多徳彦   ローツェライフサイエンス株式会社 研究開発部 部長

引用関連規格

5. 参考規格
・再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
・ISO13408-1:2008 ヘルスケア製品の無菌操作-第 1 部:一般要求事項
・ISO13408-7:2012 ヘルスケア製品の無菌操作-第 7 部:医療機器及び複合製品の代替プロセス
・ISO18362:2016 細胞ベースのヘルスケア製品の製造―操作中の微生物リスクの管理・品質リスクマネジメントに関するガイドライン(平成 18 年 9 月 1 日薬食審査発第0901004 号/薬食監麻発第0901005 号)
・JIS B9700 機械類の安全性-設計のための一般原則
・JIS Q9001 品質マネジメントシステム-要求事項
・ISO 15746-1:2015(en): Automation systems and integration — Integration of advanced process control and optimization capabilities for manufacturing systems — Part 1: Framework and functional model
・ISO 16484-2:2004(en): Building automation and control systems (BACS) — Part 2: Hardware
・ISO/IEC 2382:2015(en): Information technology — Vocabulary
・The International Society of Automation (ISA): https://www.isa.org/
・ISO 17757:2019(en): Earth-moving machinery and mining — Autonomous and semiautonomous machine system safety
・ISO 13482:2014(en): Robots and robotic devices — Safety requirements for personal care robots  

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

2019-11-01

WG終了年月

2020-02-01

WGメンバー

再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG 委員

座長 浅野茂隆   早稲田大学 招聘研究教授
秋枝静香   株式会社サイフューズ 代表取締役
天野健太郎  株式会社竹中工務店 未来空間研究部 精密環境グループ長
池松靖人   株式会社日立プラントサービス 再生医療協働研究所 所長
牛田多加志  東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 教授
梅澤明弘   国立研究開発法人国立成育医療研究センター再生医療センター センター長
小川祐樹   大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部
       大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻 生物プロセスシステム工学領域 特任研究員
加藤竜司   名古屋大学大学院 創薬科学研究科 基盤創薬学専攻
       創薬生物科学講座 細胞分子情報学分野 准教授
紀ノ岡正博  大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学専攻 生物プロセスシステム工学領域 教授
小久保護   澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
小林豊茂   株式会社日立製作所 ヘルスケアビジネスユニット
       分析システム事業部 先端医療ソリューションセンター 再生医療グループ 主任技師
齋藤充弘   大阪大学大学院医学系研究科 未来細胞医療学共同研究講座 特任准教授
中村浩章   アース環境サービス株式会社 開発本部 学術部 課長
水谷 学   一般社団法人 免疫細胞療法実施研究会 理事
森由紀夫   株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
       生産技術部 部長 兼 品質管理部 部長 生産統括副本部長
山本 宏   日本エアーテック株式会社 企画室 室長
若松猪策無  株式会社メディネット 経営管理部 サイエンティフィックアドバイザー

再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG ガイドライン(手引き)素案検討タスクフォース委員会

谷本和仁   澁谷工業株式会社 プラント生産統轄本部製薬設備技術本部
       製薬設備技術Ⅱ部 兼 再生医療システム本部 部長代理
幡多徳彦   ローツェライフサイエンス株式会社 研究開発部 部長

開発WG事務局
廣瀬志弘   産業技術総合研究所 生命工学領域 健康工学研究部門 上級主任研究員
伊藤弓弦   産業技術総合研究所 生命工学領域 創薬基盤研究部門 研究グループ長

報告書(PDF)

令和元年度
2021-E-RE-055-R1-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report