5. 参考規格
・再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
・ISO13408-1:2008 ヘルスケア製品の無菌操作-第 1 部:一般要求事項
・ISO13408-7:2012 ヘルスケア製品の無菌操作-第 7 部:医療機器及び複合製品の代替プロセス
・ISO18362:2016 細胞ベースのヘルスケア製品の製造―操作中の微生物リスクの管理・品質リスクマネジメントに関するガイドライン(平成 18 年 9 月 1 日薬食審査発第0901004 号/薬食監麻発第0901005 号)
・JIS B9700 機械類の安全性-設計のための一般原則
・JIS Q9001 品質マネジメントシステム-要求事項
・ISO 15746-1:2015(en): Automation systems and integration — Integration of advanced process control and optimization capabilities for manufacturing systems — Part 1: Framework and functional model
・ISO 16484-2:2004(en): Building automation and control systems (BACS) — Part 2: Hardware
・ISO/IEC 2382:2015(en): Information technology — Vocabulary
・The International Society of Automation (ISA): https://www.isa.org/
・ISO 17757:2019(en): Earth-moving machinery and mining — Autonomous and semiautonomous machine system safety
・ISO 13482:2014(en): Robots and robotic devices — Safety requirements for personal care robots
Appendix
A1. 製造装置における自動化の基本的考え方
A1.1 再生医療等製品製造における製造装置の意義
再生医療等製品の製造工程を支援する製造装置には、「ヒト細胞・組織」の特性と、法令により定められた製造要件との両方を考慮した工程の支援が望まれる。
再生医療等製品製造における製造装置の意義には主に以下の点があげられる。
・製造工程の再現性
・リスクの低減・経済性の追求
再生医療等製品は、製品としての多様性が大きいため、個別に対応すべき事項や要求仕様も多様化する傾向にある。このため、他の分野における自動化の一般概念を、製造装置の設計に単純に導入することは難しい場合があり、目標とする再生医療等製品の製造工程を熟慮した装置化およびその自動化のレベルについて考えることが必要である。
A1.2 再生医療等製品製造に特有のユーザー状況の整理
再生医療等製品の製造では、ユーザーは工程設計と運用管理のどちらにも関与している。
このため、製造装置を設計するメーカーにとって、導入予定のユーザーにおける細胞製造のステージを理解することが望ましい(図 A1 における Step 1)。ステージによって、製造装置の自動化に対する期待が異なるためである。
図 A1. 製造装置設計においてメーカーが事項を整理する際のフローチャート「工程設計のステージ」となる時期は、
- 製品開発
- 製造施設への技術移転
- 製造スケール変化への対応
- 製造時の工程改善対応などが挙げられる。
このステージにおける製造装置の自動化には、工程改善に向けたプロセスの理解と最適条件探索のための性能が期待される(図 A1)。
ユーザーが工程の「運用管理ステージ」にある場合、実製造工程における計測や制御の対象および目標は明確となっている。結果として、装置の仕様を明確化しやすく、現在、製造装置の自動化機能の多くはこのステージにおける装置に求められることが多い。
どちらのステージでも、自動化したい作業・操作が「計測」か「制御」かを整理することも重要である。人の作業・操作は「計測」と「制御」の連動的組合せで行われているが、多くの場合無意識に行われているため、手技を技術要素に分解して設計に落とし込むことが難しい場合がある。表 1 の例に示したように、操作(ピペッティング、容器搬送、ボトリング、攪拌、遠心)のような制御技術の自動化のように表現される案件でも、実は目視や触感による状況把握という計測技術の自動化までを含めたような期待があるケースがある。さらに近年では、高度な情報処理アルゴリズムに対する過剰な期待によって、人を超えるような未知の状況に対する柔軟な判断能力などが、装置の自動化に当然含まれる機能として期待されてしまうケースもあり、ユーザーとメーカー間での整理が重要である。
A1.3 再生医療等製品製造に特有のリスクと自動化に期待する効果の整理
ユーザーの状況を把握した後、製造工程において、自動化によって低減したいリスクが何なのかを理解することは有効である。このリスクについての理解をユーザーとメーカーが共同して行うことで、製造装置に求められる自動化対象が明確となり、より最適な装置設計へとつながることが期待できる(図 A1 における Step2)。
多くの場合、細胞製造において自動化が必要とされる最大の理由は、再生医療等製品製造におけるリスクを低減するためである。しかし、人の手作業で大部分が構成される現在の細胞加工において、どの工程がリスクなのか、そのリスクはどのような装置的技術によって置き換えることができるのか、そして、装置による成果をどのように評価すればよいか、についてユーザーが整理することが難しい場合が多い。このとき、リスクについてその原因が「人」、「装置」、「工程」のどこに起因するのかをユーザーとメーカーが共同して整理することは、装置の仕様設計の第一歩となる。さらに、そのリスクが人に起因する場合、人が行う加工の構成要素を「身体的作業」と「頭脳的作業」というカテゴリに分け、どのステップに最もリスクがあるのかを整理することは、装置設計の仕様を明確化するために有効である。
A1.4 製造装置の自動化設計に向けた自動化レベルの整理
自動化によって解決したいリスクを整理した後、次は技術的にどのようなレベルで自動化を実現することを目指すのか、費用対効果のバランスを考えながら整理することは、ユーザーがより深くメーカーの技術を理解し、装置の設計仕様を検証するために有効である(図 A1 における Step3)。このとき、自動化の目標、自動化する時間、自動化する機能について、メーカーの有する技術により達成可能な性能と、ユーザーの求める仕様とをレベル分けしながら整理することは、装置の具体的な設計前に有効である。
A1.5 製造装置自動化の意義および最新技術導入についての検証
製造装置による自動化が、再生医療等製品製造におけるリスクにもたらす低減効果を熟慮することは、本分野における製造装置の自動化において極めて重要である。リスク低減の効果があることで、自動化はユーザーとメーカーの両者にとって有効な手段となりうる。従って、製造装置を自動化するメーカーは、自動化によってどのような製造のリスクがどの程度低減されるのか、ユーザーニーズの調査とともに実施することが重要である。また最終製品の品質に責任を有するユーザーは、自動化が製造のリスクと製品品質に与える影響を熟慮すべきである。1.2 項のように、製造装置の自動化においても、先端的な技術の導入による自動化がもたらす意義について考える必要がある。
近年の機械的技術と情報処理技術は急速に発展しており、製造装置には「まるで人間のような自律性」の機能が期待される場合も増加することが想定される。しかし、再生医療等製品の製造では、GCTP に則った製造工程が必要とされる。このような工程における製造装置の自律性は、規制との関係および品質管理のために人が規定した条件に従うものでなければならない。即ち、近年の情報処理技術の先端的成果として知られる「人の判断や知識を超える判断」や「新しいルールの自律的発見・発明」という機能は、責任の所在が明確化できる工程において、人が規定する条件範囲や適用用途への限定が行われた中で利用されるべきである。具体的には、人が最終的な責任を負う作業において、作業者を支援するミスチェックや情報の整理や可視化機能、工程設計時における工程理解を支援する高度計測や解析などは有効と考えられるが、人の設定したルール外において製造装置が自律的に稼働することは望ましくない。
A2. 製造装置設計例
A2.1 設計方針
生きた細胞を最終製品とする再生医療等製品の製造においては、製造工程において細胞の調製を行う操作の特性が製品品質の再現性に大きく影響する。工程手順を機械操作で実施できる製造装置を作製するための実施例を図 A2.1 に示す。はじめに、工程手順を分析し製造装置の URS を作成する段階において、目的とする再生医療等製品の製造工程の作業分解構造(WBS: work breakdown structure)を基に、機械操作の工程特性を分類し、「機械操作およびその動作に関わる URS」を準備する。並行して、工程中の動作により影響する製品の品質特性(QA: quality attribute)を想定し、リスク分析を行うことで、機械操作が製品の品質(細胞)に及ぼす影響を検討する。これらの結果を用いて、工程が目的とする QA を実現できるかを評価するため、機械操作に割り振られた動作群の工程パラメータ(PP: process parameter)が製品の品質に影響するか否かで分類を行い、品質に影響する PP を有する機械操作に対して細胞製造に関わる工程設計の検証(DV: design validation)を実施し、その結果より機械操作の改善を進める。必要に応じて設備の修正・追加を行い、再度 DV を実施する。これらのサイクルを繰り返し、製造装置が最終製品の CQA を達成可能なPQ を満たすことで装置設計を確立する。
図 A2.1 再生医療等製品の製造装置設計確立に向けた検証フロー例)
本例における DV は、製造の施設・設備を準備する段階で、予め製造装置の設置前から PQ 実施までの間に行うことを想定するが、試作機を作製して予め開発段階で DV を実施することでもよい。
A2.2 DV 実施に向けた動作検証項目決定手順
DV の実施に向けて、QA と相関する PP を決定するために実施する重要度評価の記載例を図 A2.2 に示す。
図 A2.2 DV における動作検証項目決定に向けた PP の重要度評価の例
A3. 培養系に係る製造装置の環境設計の考え方の例
事例 A 容器密閉型製造装置の構造
容器密閉型とは、シングルユース回路を用いた製造システムである。細胞および細胞に直接触れる試薬・培地が器材内部に収容され、無菌操作等区域を含む外部環境に対して開放されることのない培養時の閉鎖系のシステムを示す。器材内部の閉鎖系への原料等の出入に関して、無菌的接続手段を介する製造装置の場合は、完全密閉式培養装置であり、原料等の出入り、および、再生医療等製品の回収から梱包までの操作の完全性を保証することで、ISO クラス 8 の環境下でも、無菌操作環境と封じ込めが担保できると考える。一般
的には、器材が閉鎖系のため、内部の環境モニタリングは必要としない。
事例 B 筐体密閉型製造装置の構造
筐体密閉型とは、アイソレータを用いた製造システムである。市販の培養皿のように、細胞および細胞に直接触れる試薬・培地・工程資材が無菌操作等区域で開放され、無菌操作等区域が外部環境から隔絶されることにより、それらが外部に開放されることのない閉鎖系のシステムを示す。除染機能を有するパスボックスや無菌接続機構または、製造環境を損なうことなくバリデードされた方法により、無菌的に原材料や器材を無菌操作等区域へ搬入を行うことができる構造であれば、環境密閉式製造装置であり、限られた体積の筐体(無菌的操作環境)が、外部環境に対し閉じた形で維持されるため、原料等や資材類の搬入時における汚染リスクを考慮することで、環境微粒子および環境微生物の汚染リスク
は最小限に抑えられる。
事例 C エア密閉型製造装置の構造
エア密閉型とは、安全キャビネットを用いた製造システムである。市販の培養皿のように、細胞および細胞に直接触れる試薬・培地・工程資材が無菌操作等区域で開放され、無菌操作等区域が外部環境からエアバリアにより隔絶されることにより、それらが外部に開放されることのないシステムを示す。原料等や工程資材を無菌操作等区域へ搬入前に外装を消毒する。エアバリアによる環境密閉式製造装置であり、限られた体積の筐体の内部の限られたエリアが無菌操作環境として機能する。無菌操作等区域に対して、操作時に作業者の腕が出入りするため、周辺環境のグレード制御が必要であり、原料等や資材類の搬入時における汚染リスクの考慮、安全キャビネットの適切な使用、運用面での作業者の配慮をするなど十分な運用とリスクアセスメントを行うことで、環境微粒子および環境微生物の汚染リスクは抑えられる。
再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG 委員
座長 浅野茂隆 早稲田大学 招聘研究教授
秋枝静香 株式会社サイフューズ 代表取締役
天野健太郎 株式会社竹中工務店 未来空間研究部 精密環境グループ長
池松靖人 株式会社日立プラントサービス 再生医療協働研究所 所長
牛田多加志 東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 教授
梅澤明弘 国立研究開発法人国立成育医療研究センター再生医療センター センター長
小川祐樹 大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部
大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻 生物プロセスシステム工学領域 特任研究員
加藤竜司 名古屋大学大学院 創薬科学研究科 基盤創薬学専攻
創薬生物科学講座 細胞分子情報学分野 准教授
紀ノ岡正博 大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学専攻 生物プロセスシステム工学領域 教授
小久保護 澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
小林豊茂 株式会社日立製作所 ヘルスケアビジネスユニット
分析システム事業部 先端医療ソリューションセンター 再生医療グループ 主任技師
齋藤充弘 大阪大学大学院医学系研究科 未来細胞医療学共同研究講座 特任准教授
中村浩章 アース環境サービス株式会社 開発本部 学術部 課長
水谷 学 一般社団法人 免疫細胞療法実施研究会 理事
森由紀夫 株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
生産技術部 部長 兼 品質管理部 部長 生産統括副本部長
山本 宏 日本エアーテック株式会社 企画室 室長
若松猪策無 株式会社メディネット 経営管理部 サイエンティフィックアドバイザー
再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG ガイドライン(手引き)素案検討タスクフォース委員会
谷本和仁 澁谷工業株式会社 プラント生産統轄本部製薬設備技術本部
製薬設備技術Ⅱ部 兼 再生医療システム本部 部長代理
幡多徳彦 ローツェライフサイエンス株式会社 研究開発部 部長
|