ヒト(自己)末梢血 CD34 陽性細胞加工製品を用いた非代償性肝硬変の治療

ガイドラインID 2022-HN-RE-044
発出年月日 2022-02-17
発出番号 薬生機審発0217第1号
WG名 再生医療審査WG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2022-HN-RE-044 ヒト(自己)末梢血 CD34 陽性細胞加工製品を用いた非代償性肝硬変の治療

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35 年法律第 145 号)第 2 条第 9 項に規定する「再生医療等製品」をいう。以下同じ。)のうち、ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」(平成 24 年 9 月 7 日付け薬食発 0907 第 2 号厚生労働省医薬食品局長通知。以下「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の指針」という。)に定められているところである。本評価指標は、ヒト(自己)末梢血由来 CD34 陽性細胞加工製品のうち特に非代償性肝硬変の治療を目的として適用される再生医療等製品について、上述の基本的な技術要件に加えて留意すべき事項を示すものである。

2. 本評価指標の対象
本評価指標は、ヒト(自己)末梢血由来 CD34 陽性細胞加工製品が非代償性肝硬変の治療を目的とし適用される際の、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示すものである。

3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しいヒト(自己)末梢血由来 CD34 陽性細胞加工製品を対象とするものであることを勘案し、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示している。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容等に対して拘束力を有するものではない。
製品の評価に当たっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
なお、個別の製品において必要となる評価については、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に相談することが強く勧められる。本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

GL:本体

4.用語の定義
本評価指標における用語の定義は、「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の指針」の定義による他、以下のとおりとする。
(1) 肝硬変:B 型肝炎、C 型肝炎、アルコール、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、自己免疫疾患、代謝異常、胆汁うっ滞などに起因する慢性炎症によって肝傷害が繰り返された結果、肝細胞が壊死して再生していく過程において線維組織が増生し、肝機能が低下した状態、すなわち慢性肝疾患の終末像の病態を指す。
(2) 非代償性肝硬変:肝硬変のうち、比較的肝機能が保たれ、臨床症状がほとんどない代償性肝硬変に対して、肝性脳症、黄疸、腹水、浮腫、出血傾向など肝不全に起因する症状が出現するものを非代償性肝硬変と称する。なお、一般に(3)で示す Child-Pugh スコア 7 点以上を非代償性肝硬変の目安とすることが多い。 日本消化器病学会・日本肝臓学会肝硬変診療ガイドライン 2020(改定第 3 版)を参照のこと。
(3) Child-Pugh スコア:肝硬変の機能評価法であり、①肝性脳症(なし: 1 点、軽度: 2 点、昏睡:3 点)、②腹水(なし:1 点、軽度:2 点、中等量以上:3 点)、③血清ビリルビン値(mg/dL)(2.0 未満:1 点、2.0~3.0:2 点、3.0 超:3 点)、④血清アルブミン値(3.5 超:1 点、2.8~3.5:2 点、2.8 未満:3 点)、⑤プロトロンビン時間活性値(%)(70 超:1 点、40~70:2 点、40 未満:3 点)の 5 項目における点数の合計で評価する。点数により class A (5~6 点)、class B (7~9 点)、class C (10 ~15 点)に分類され、上述の通り 7 点以上(class B、C)を非代償性肝硬変と定義する。日本消化器病学会・日本肝臓学会肝硬変診療ガイドライン 2020(改定第 3 版)を参照のこと。
(4) 末梢血単核球細胞:末梢血から分離された単球やリンパ球を含む単核球を示す。ヒトから採取した新鮮な血液から、血漿成分、赤血球、血小板および顆粒球を除去することで単離可能である。
(5) CD34 陽性細胞:骨髄・末梢血の造血幹細胞および血管内皮前駆細胞、骨格筋の衛星細胞、上皮の毛包幹細胞など、多くの幹細胞に発現している細胞表面マーカー。
(6) Model for End-Stage Liver Disease(MELD)スコア:12 歳以上の非代償性肝硬変患者の短期予後予測および肝移植適応の判断に用いられる予測式である。①血清ビリルビン値、②プロトロンビン時間-国際標準化比(PT-INR)、③血清クレアチニン値の 3 項目より算出される。 MELD スコア=9.57ln(血清クレアチニン値 mg/dl)+3.78ln(血清ビリルビン値 mg/dl)+ 11.20ln(PT-INR(血液凝固能))+6.43
(7) 原材料:再生医療等製品の製造に使用する原料又は材料の由来となるものをいう。(生物由来原料基準(平成 15 年厚生労働省告示第 210 号)の定義と同じ)
(8) 原料等:原料若しくは材料又はそれらの原材料をいう。(生物由来原料基準(平成 15 年厚生労働省告示第 210 号)の定義と同じ)
(9) クロスコンタミネーション:サンプル間の混入のこと。交叉汚染とも呼ばれる。製造に用いられる原料の間、中間体の間等での混入を意味する。例えば、あるセル・バンクに由来する細胞に別のセル・バンクに由来する細胞が混入する場合や、ウイルス不活化後の原料に不活化前の原料が混ざってしまう場合等が挙げられる。5.評価に当たって留意すべき事項
本評価指標は、ヒト(自己)CD34 陽性細胞を含む末梢血単核球細胞懸濁液を原料として製造所に受け入れ、これを製造所において、加工して製造された細胞を自己の非代償性肝硬変の治療を目的として肝臓に適用することを想定している。
(1)原料等:
原料(ヒト(自己)末梢血単核球細胞)及び専用磁気細胞分離装置(磁気ビーズの結合した幹細胞特異的抗体(ここでは CD34 抗原に対する抗体を意味する)を用いて CD34 陽性細胞を分離することが可能な分離装置)、さらにそれらの製造に用いられる原材料の管理項目については、最終製品に求められる品質が確保できるよう設定することが原則となるが、その原料等を用いても最終製品に安全上の懸念が生じないよう、原料等の品質(無菌性、不純物等)についても考慮し設定することが求められる。
また移植細胞となるヒト(自己)末梢血 CD34 陽性細胞は、専用磁気細胞分離装置により、末梢血単核球細胞懸濁液より CD34 陽性細胞のみに分離したものであり、拡大培養工程は含まない。
① ドナーの選択基準、適格性
ヒト(自己)末梢血由来 CD34 陽性細胞を用いる場合は、ドナーがレシピエントになるため、必ずしも当該者のスクリーニングを必要としないが、クロスコンタミネーション防止や製造者の安全性対策の観点から、B 型肝炎ウイルス(HBV)、C 型肝炎ウイルス(HCV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、および成人 T 細胞白血病ウイルス(HTLV)について検査(血清学的試験や核酸増幅法等)の実施を考慮すること。
また、次に掲げるものについては既往歴、問診等の診断を行い、ドナーとしての適格性を判断すること。
・梅毒トレポネーマ、クラミジア、淋菌、結核菌等の細菌による感染症
・敗血症及びその疑い
・悪性腫瘍
・重篤な代謝及び内分泌疾患
・膠原病及び血液疾患
・伝達性海綿状脳症及びその疑い並びにその他の認知症
・原料となる細胞の採取が困難となる病態(易出血性等)
② ヒト(自己)末梢血由来 CD34 陽性細胞を含む末梢血単核球細胞懸濁液の採取ヒト(自己)末梢血由来 CD34 陽性細胞を含む末梢血単核球細胞懸濁液の採取方法を示し、これらが科学的及び倫理的に適切に選定されたものであることを明らかにすること。採取方法については、用いられる器具、微生物汚染防止、取り違えやクロスコンタミネーション防止のための方策等を具体的に示すこと。

(2) 製造工程において特に注意が必要な事項
末梢血 CD34 陽性細胞の製造(分離)に当たっては、分離方法を明確にし、可能な範囲でその妥当性を以下の項目で検証し、一定の品質を保持すること。
① キットの使用期限の確認
磁気細胞分離システムは、磁気細胞分離装置本体とその専用品(分離用ディスポーザブルセット)で構成されている。磁気細胞分離装置の専用品については使用期限が設けられているため、使用する際は有効期限内であることを確認すること。
② 製造方法
磁気細胞分離システムとは、抗体ビーズで標識された CD34 抗体をアフェレシス採取液中の CD34 陽性細胞と反応させ、磁石により細胞分離カラムに保持させ、その後、磁石をはずすことで抗体ビーズと結合した CD34 陽性細胞のみを溶出させるという方法によって、末梢血中の不均一な細胞集団から CD34 陽性細胞を選択的にかつ閉鎖的に採取することができるというものである。
製造方法について、ヒト(自己)末梢血単核球細胞懸濁液の製造所への受入れから、出発原料となるヒト(自己)末梢血 CD34 陽性細胞に分離されるまでの製造方法の概要を示すとともに、具体的な処理内容及び必要な工程管理、品質管理の内容を明らかにすること。また製造の際は、当該磁気細胞分離装置の専用品である分離用ディスポ
ーザブルセットを使用し、専用の分離プログラムを使用すること。
a) 受入検査
アフェレシスにより採取した末梢血単核球細胞懸濁液(アフェレシス採取バッグに回収されている)について、製造所へ受け入れる際、被検者の病原体検査結果の確認を行う。また、(ア)細胞運搬状況の確認(緩衝材で覆われているか、保冷剤と共に細胞搬送容器に入れて輸送されていたか等)及び(イ)アフェレシス採取バッグの外観の確認(汚染、損傷、開封はないか、液漏れはないか等)を行うこと。
磁気細胞分離装置の専用品について、開封前に外観の確認(汚染、損傷、開封はないか、液漏れはないか等)を行うこと。
b) 細胞等の混同及び交さ汚染の防止措置
汚染防止のため、細胞等に直接触れる器材についてはシングルユース製品を用いること。製造工程中の取り違え及びクロスコンタミネーションを防止するため、同時に異なるドナーに由来する細胞等を取扱わないようにすること等、工程管理における防止対策を明らかにすること。

(3) 製品の品質管理
品質規格の設定について、治験を開始する前段階にあっては、それまでに得られた試験検体での実測値を提示し、これらを踏まえた暫定値を示すこと。
細胞品質試験
① 細胞数及び生細胞率(生存率)試験最終製品における細胞数及び生存率について基準を設定する必要がある。細胞数を測定する方法としては、最終製品の一部を細胞懸濁液とし、血球計算盤やセルカウンターで測定する方法がある。生細胞率を測定する方法として、フローサイトメトリー(International Society for Hematotherapy and Graft Engineering (ISHAGE)法 )により、生細胞数及び死細胞数を計算することができる。
CD34 陽性細胞の測定は、国際細胞療法学会が推奨する ISHAGE ガイドライン(文献 1、2)等に従って必ず ISHAGE 法で行う。フローサイトメトリー機器(医療機器として届出済み)については各医療機関において精度管理を行う必要性がある。測定については各医療機関において ISHAGE 法に習熟した臨床検査技師が行うことを推奨する。
② 純度試験
CD34 陽性細胞は分離直後のフローサイトメトリーにより、CD34 抗体と CD45 抗体を組み合わせた2カラー分析、又は、死細胞検出用試薬や絶対数測定用の内部標準粒子試薬を組み合わせた3~4カラー分析を行うことで、目的とする細胞であることを確認すること。ISHAGE ガイドライン等の推奨測定項目に準じたプレミックス抗体試薬や測定キットも市販されており、それらを使用して確認してもよい。
③ 無菌試験
最終製品の無菌性については、あらかじめ試験的検体を用いて全製造工程を通じて無菌性を確保できることを十分に評価しておく必要がある。最終製品の無菌試験の結果は患者への投与後にしか得られないため、投与後に無菌性が否定された場合の対処方法をあらかじめ設定しておくこと。
④ エンドトキシン試験
試料中の夾雑物の影響を考慮して試験を実施すること。規格値は必ずしも実測値によらず、日本薬局方等で示されている最終製品の 1 回投与量を基にした安全域を考慮して設定すればよい。また、工程内管理試験として設定することも考えられるが、その場合には、プロセスバリデーションの結果を含めて基準等を設定し、その妥当性を説明すること。

(4) 製品の安定性試験
最終製品について、(3)製品の品質管理 細胞品質試験①細胞数及び生細胞率試験と②純度試験における細胞の生存率、純度を指標に運搬を含めた使用時までの安定性を評価し、貯蔵方法及び有効期限の妥当性を明らかにすること。

(5) 非臨床試験
ヒト細胞加工製品については、動物試験において異種免疫反応が惹起される場合があること、またヒト細胞加工製品では、低分子医薬品等で実施されるような曝露評価もなじまないことなどから、量的なリスク評価は困難であり、非臨床安全性試験で得られる安全性情報は限定的と考えられる。したがって、このような限界を理解した上で、ヒト細胞加工製品の非臨床安全性試験を検討することが重要である。「再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)の品質、非臨床試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイダンスについて」(平成 28 年 6 月 14 日付け薬機発第 0614043 号独立行政法人医薬品医療機器総合機構理事長通知)等を参考とすること。
① 一般毒性試験
ヒト細胞に対する異種免疫反応を回避するために、免疫不全動物の利用が考えられる。用量は対照群と投与群の少なくとも 2 群で評価可能である。また、その際の最高用量は、ハザード(有害性)を確認するために、最大耐量、投与可能な最大量及び動物福祉を考慮し、可能な限り多くの細胞数を設定することが重要である。投与回数は可能な限り臨床で予定されている用法と同様とし、臨床適用経路で実施することが望ましい。ただし、動物にヒト細胞加工製品を反復投与しても生体内で蓄積する懸念が低く、毒性所見の増悪が考えにくい場合には、必ずしも反復投与の実施は必要としない。観察期間については、全身毒性を評価可能と考える最短の期間である 最終投与後 14 日間程度とすることは可能であるが、Proof-of-Concept(POC) 試験等を参考に、適切な試験期間を設定する。
② 造腫瘍性試験
再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年厚生労働省令第 93 号)に準拠した工程管理の下に加工されたヒト(自己)末梢血由来CD34 陽性細胞加工製品については、自家末梢血 CD34 陽性細胞移植に関するこれまでの経験を踏まえ、通常、in vitro 試験及び免疫不全動物を用いた in vivo 造腫瘍性試験を行う必要はない。
③ 最終製品の効力又は性能を裏付ける試験
技術的に可能かつ科学的に合理性のある範囲で、対象疾患に対する適切なモデル動物等を用いて、最終製品の機能発現、作用持続性、ヒト(自己)末梢血由来 CD34 陽性細胞加工製品として期待される臨床効果の実現可能性(POC)を示すこと。モデル動物としては、四塩化炭素誘導肝硬変モデルマウス・ラット(イヌ)等が挙げられるが、最終製品の効力又は性能を示すための妥当性のあるモデルである必要がある。(肝硬変モデル動物での、抗炎症効果:aspartate aminotransferase(AST)及び alanine aminotransferase(ALT)の低下など、肝機能改善効果:アルブミンの上昇、総ビリルビン低下など、線維化抑制効果:Sirius Red 染色等での線維面積の改善や Hydroxyproline の定量結果の改善などが示されることが望ましい。)最終製品の効力又は性能を発揮する作用機序について、検討することも望まれる。

(6) 臨床試験(治験)臨床データパッケージ及び治験実施計画書は、対象疾患、目的とする効能、効果又は性能、当該治療法に期待される臨床上の位置づけ等に応じて、非臨床データ等も踏まえて計画することが必要である。初めてヒトへの投与を行う試験など開発初期の試験では、安全性を慎重に評価していくことが重要である。一般的に臨床試験においては盲検化の有無にかかわらず、臨床試験においてより科学的に有効性及び安全性の情報を収集するためには、プラセボ群などの同時内部対照群を設定した比較臨床試験が望ましいが、試験の目的、選択する対象、開発している再生医療等製品の臨床上の位置づけ、製品の特徴、評価項目の特徴を考慮して適切に計画されるべきである。また、評価項目(エンドポイント)も製品毎に設定する必要がある。なお、具体的な治験の立案に際しては、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の RS 戦略相談又は治験相談等を利用することが望ましい。
① 臨床試験における評価技術に関する基本的考え方
臨床試験は被験者の人権の保護、安全及び福祉に関するリスク並びにデータの質に関するリスクを最小限とし被験製品による効果が最大限に評価できるように計画されるべきである。特に目的とする細胞・組織の由来、対象疾患及び適用方法等を踏まえて適切な試験デザイン及びエンドポイントを設定して実施することが推奨される。
評価項目に関しては、その最終目的に応じて主要評価項目(Primary endpoint)、 副次的評価項目(Secondary endpoint)を設定する。有効性評価項目として、検証試験の主要評価項目は、製品の臨床的意義が明確となる指標を設定する必要がある。非代償性肝硬変の治療におけるハードエンドポイントとしては、肝臓関連死亡や肝不全の発症などが考えられる。細胞移植後一定期間での抗炎症・肝障害軽減効果、抗線維化効果、肝機能改善の状態を評価する事ができる項目が一部もしくは全部含まれるものが望ましい。
② 対象疾患
非代償性肝硬変:
肝硬変は B 型肝炎、C 型肝炎、非アルコール性脂肪肝炎、アルコール性、自己免疫性などの慢性的な肝障害により肝臓全体に再生結節が形成され、再生結節を線維性隔壁が取り囲む病変であり肝疾患の終末像といえる。肝硬変は肝機能がよく保たれ、臨床症状がほとんど出ない代償性肝硬変と肝性脳症、黄疸、腹水、浮腫、出血傾向など肝不全に起因する症状が出現する非代償性肝硬変に分けられる。一般に ChildPugh B 以上(Child-Pugh スコア 7 点以上または過去に非代償性肝硬変の既往、治療歴がある場合)を非代償性肝硬変とすることが考えられる。
一般的に肝臓は非常に再生能力が高い臓器として知られているが、肝硬変では、線維化形成に伴いその再生能力は低下していく。肝硬変に対して、代償性肝硬変においては B 型及び C 型肝炎ウイルス、アルコール、脂肪肝等の原因が解決されると線維化が改善すること、再生が起こることが知られているが、非代償性肝硬変では肝再生、線維化改善能力が落ちていき肝機能改善は乏しいことが知られている。現在、特に非代償性肝硬変に対しては既存の薬物療法に加え、新たな薬物療法の登場で、以前より肝機能(肝予備能)の改善が期待できる時代となっており、対象者の前提としてまずはこのような基本的な治療の介入が一定期間行われていることが望ましい。しかし、そのような治療介入にも関わらず一定期間(厚生労働省の重度肝機能障害の身体障害認定では、90 日以上(180 日以内)の間隔をおいた連続する 2 回の検査により評価している)Child-Pugh スコア 7 点以上が持続する症例に関しては、再生促進、線維化改善を促す細胞療法などの新たな治療法の開発が望まれている。Child-Pugh 分類 B 以上が持続する非代償性肝硬変患者を対象とするのが適切である。また、肝硬変の特に進行例では肝移植は根本的治療として知られているが、本邦では脳死肝移植の機会は少なく生体肝移植に頼る現状があり、ドナーから提供を受けられる機会は限定されている。細胞治療はこのような背景を持つ患者にとって重要な治療機会になり得るとして期待されている。
非代償性肝硬変には、Child-Pugh C(肝機能高度低下症例)も含まれており、肝機能高度低下例の組み入れは、有害事象が起きた際に重篤になりやすい可能性があり特に注意を要する。
また、これは肝硬変一般に共通する事象であるが、肝硬変は肝細胞癌の発生母地であり、また、食道胃静脈瘤の合併もあることが知られているため、事前検査によるスクリーニング、投与後の経過観察は十分に行われる必要がある。
なお、Child-Pugh スコアの評価にあたっては、後述の臨床有効性評価の項でも述べるが、プロトロンビン時間(PT)は 2 種類の評価指標(活性値:%と国際標準比: INR)で表す手法があることや、脳症や腹水の評価には主観が影響しやすいため、評価にあたっては一定の基準の策定が必要になる。PT は活性値(%)で評価を行う、腹水は厚生労働省の重度肝機能障害の身体障害認定を参考に、原則として超音波検査、体重の増減、穿刺による排液量を勘案して見込まれる量が概ね 1L 以上を軽度(Child-Pugh スコアで 2 点)、3L 以上を中等度以上(Child-Pugh スコアで 3 点)とする、脳症は犬山シンポジウムで制定された肝性脳症の昏睡度分類(なし: 1 点、軽度 I~II 度:2 点、昏睡 III 度以上:3 点)で評価する、International Society for Hepatic Encephalopathy and Nitrogen Metabolism(ISHEN)基準における Covert(不顕性)脳症は 1 点とするなど一定の基準の策定が望ましい(文献 3)。
一方、特異的に考慮すべき点として、以下のようなことが挙げられる。
a) 幹細胞採取に用いる薬剤・機器に関する有害事象のハイリスク患者の除外(例:顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤を用いる場合:間質性肺炎、巨脾、血液増殖性疾患などを合併する患者) b) 血管再生に関する有害事象のハイリスク患者の除外(例:増殖糖尿病網膜症、悪性腫瘍などを合併する患者)
③ 臨床有効性評価ア.臨床情報
臨床情報としては診察所見、血液所見、画像所見、肝生検所見等から目的に応じて必要な検査を選択して行く必要がある。なお、臨床試験への組入れに際しては、一定期間(例えば、厚生労働省の重度肝機能障害の身体障害認定では 3 か月:90 日以上、 180 日以内で継続していることを確認している)、既存の治療介入を行っても炎症、線維化、肝機能の変化がないことを確認しておく。さらに有効性を評価するに当たっては、新規薬剤の追加(アルブミン製剤、新鮮凍結血漿などを含む)、薬剤の用量変更、腹水穿刺排液などの処置などが加わると修飾される可能性もあることも考慮に入れる必要がある。
イ. 有効性の評価
一般的に主要な有効性評価として、イベント(死亡、肝不全、肝移植など)の発現を評価することが、臨床的意義を検討する上で有用であるが、評価尺度を使用する場合は、信頼性及び妥当性が検討され国際的に普及した評価尺度を用いることが必要であり、評価時における評価尺度のベースラインからの変化や改善症例の割合等を評価に用いる。評価尺度を用いる場合は、評価尺度の臨床的に意義のある変化について説明できるか検討することが重要であり、効果の持続性も重要である。副次的な有効性評価は、主要評価項目で得られた結果の妥当性を検討するだけでなく、得られた結果の臨床的意義を検討するために有用である(文献 3)。
細胞治療に伴い、肝機能及び線維化の変化が期待される。有効性を評価するにあたり適切な評価項目の設定がなされている必要がある。そしてこれらは改善に一定の期間が必要と考えられるため評価時期の設定については、前相試験の結果等を参考にし、移植細胞の作用機序や試験実施可能性等を勘案して検討する必要がある。評価は最終評価時点(例えば半年、もしくは一年)だけではなく、経時的推移を確認できるように、適切な頻度で実施することが望ましい。それぞれの評価に際し、ポイントとなり得る項目を下記に示す。
a)肝機能(予備能)改善効果
肝機能は非常に多くの評価項目が有り、評価に当たっては、その特性を理解する事が重要である。代表的なものとして Child-Pugh 分類(スコア)がある。これはアルブミン値、総ビリルビン値(PT)、腹水、肝性脳症の数値もしくは評価を点数化して評価するシステムである。更に肝機能評価には Child-Pugh スコア同様に肝機能の指標から数値化した albumin-bilirubin (ALBI) スコアもしくは grade もある。その他に、肝機能改善に伴い、倦怠感、かゆみ、浮腫なども軽減する事があり、患者報告アウトカム聞き取り調査、身体所見の評価も参考になる場合がある。その他にも MELD スコアがあり、これは総ビリルビン値、PT、血清クレアチニン値からスコアリングし、特に肝移植待機中の肝硬変における予後予測に関しての有用性が報告されている(文献 4) b)抗線維化効果
血液マーカー検索(ヒアルロン酸、IV 型コラーゲン・7S、P-Ⅲ-P、M2BPGi、オートタキシン)、血液検査に基づく数式での評価、フィブロスキャン、超音波、MRI などを用いた肝硬度測定、肝生検での肝組織評価など多数が考えられる。一つの検査のみでの評価では評価に一定の傾向を見るのが困難な場合が有り、複数を組み合わせることでの評価が望ましい。なお、非代償性肝硬変は出血傾向を呈しているため、非侵襲的検査で評価できれば肝生検は必須としないことも許容される。
また、血液検査において、AST、ALT、alkaline phosphatase (ALP), γ-glutamyl transpeptidase (γ-GTP)、PT、血小板数等の評価も行うことが有用である。Quality of Life の評価や肝臓、脾臓の体積の測定も、間接的な肝予備能、肝線維化改善、再生の探索的な指標になりうる。

腹水に関しては量的な評価を行う際の指標として、厚生労働省の重度肝機能障害の身体障害認定では、「腹水は原則として超音波検査、体重の増減、穿刺による排液量を勘案して見込まれる量が概ね 1L 以上を軽度(Child-Pugh スコアで 2 点)、3L 以上を中等度以上(Child-Pugh スコアで 3 点)とする。」となっている。腹水は変動しやすく、治療が介入された時点での評価、例えば利尿剤投与されている患者でも腹水が消失していれば 1 点など一定の基準をもうけている事が望ましい。また、日本消化器病学会・日本肝臓学会肝硬変診療ガイドライン 2020(改定第 3 版)に記載されている European Association for the Study of Liver(EASL)ガイドラインも参考になる。日本消化器病学会・日本肝臓学会肝硬変診療ガイドライン 2020(改定第 3 版)を参照のこと。

肝性脳症に関しては、本邦では犬山シンポジウムにて制定された肝性脳症昏睡度 I~V に分類する方法や、国際的には、West Heaven Criteria (WHC)や ISHEN の基準で分けられている。評価に当たっては一定の基準を作成して行う事が望まれる。
例えば、犬山シンポジウムで制定された肝性脳症昏睡度の評価では肝性脳症(なし: 1 点、軽度 I~II 度:2 点、昏睡 III 度以上:3 点)と評価し、ISHEN の基準では Covert (不顕性)脳症は 1 点とする等一定の基準をもうける事が望ましい。犬山シンポジウムで制定された肝性脳症昏睡度及び日本消化器病学会・日本肝臓学会肝硬変診療ガイドライン 2020(改定第 3 版)を参照のこと。

PT に関しては活性値(%)で表す手法と、INR で表す手法がある。活性値(%)、 INR の両方を測定しておく事が望ましい。なお、ワーファリンなどの抗凝固剤の服用により容易に変動しうる値であり、評価の際には留意が必要である。

ウ. 安全性の評価
ヒト(自己)末梢血由来 CD34 陽性細胞加工製品は適用時点から観察終了時期まで全身所見、局所所見、自覚症状の有無を確認する。有害事象、感染症やアレルギー反応の有無を観察する。肝動脈経由での投与の際には、カテーテル手技の安全性に加え、投与後の肝胆道系酵素上昇などに注意をする必要がある。さらに、非代償性肝疾患関連イベント発生率(食道・胃静脈瘤出血、腹水、肝腎症候群、肝性脳症)や肝細胞癌発生や死亡イベントの追跡を同時に行う事も望まれる。

GL:付属資料

6.参考文献
1. Sutherland DR, Anderson L, Keeney M, et al: The ISHAGE guidelines for CD34+ cells determination by flow cytometry. J Hematotherapy. 5: 213-226, 1996
2. 日本臨床検査標準協議会,血液検査標準化検討委員会,フローサイトメトリーワーキンググループ:フローサイトメトリーによる CD34 陽性細胞検出に関するガイドライン(JCCLS H3-P V2.0).
https://www.jccls.org/pdf/approval/Guidelines_for_CD34aV2.pdf.
3. Lammertse D, Tuszynski MH, Steeves JD, Curt A, Fawcett JW, et al. Guidelines for the conduct of clinical trials for spinal cord injury as developed by the ICCP panel: clinical trial design. Spinal Cord.45(3):232-242, 2007.
4. Cholongitas E, Marelli L, Shusang V, et al. A systematic review of the performance of the model for end-stage liver disease (MELD) in the setting of liver transplantation. Liver Transpl 12:1049-1061, 2006.

7.参考資料 肝臓専門医テキスト 改訂第 3 版:日本肝臓学会編 南江堂, 2020 年 日本消化器病学会・日本肝臓学会肝硬変診療ガイドライン 2020(改定第 3 版) 厚生労働省 重度肝機能障害の身体障害認定基準(平成 15 年1月 10 日付障発第 0110001 号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)の別紙「身体障害認定基準」、「「身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)について」の一部改正について」(平成 28 年 2 月 4 日付け障発 0204 第 1 号厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部長通知)

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

2020-10-01

WG終了年月

2021-02-01

WGメンバー

座長
吉治仁志   奈良県立医科大学 消化器内科 教授

委員(五十音順)
梅澤明弘   国立成育医療研究センター 研究所 副所長
鍛治孝祐   奈良県立医科大学 消化器内科 講師
酒井佳夫   金沢大学 医薬保健研究域医学系 准教授
高見太郎   山口大学大学院医学系研究科 消化器内科学 准教授
土屋淳紀   新潟大学医歯学総合病院 消化器内科 講師
中村 徹   久留米大学医学部 内科学講座 消化器内科 講師
中本安成   福井大学学術研究院医学系部門 内科学(2)分野 教授
日浅陽一   愛媛大学大学院 消化器・内分泌・代謝内科学 教授
疋田隼人   大阪大学大学院医学系研究科 消化器内科学 講師

厚生労働省
高梨文人   厚生労働省 医薬・生活衛生局医療機器審査管理課/再生医療等製品審査管理室 課長補佐
佐々木佳名子 厚生労働省 医薬・生活衛生局医療機器審査管理課/再生医療等製品審査管理室
医療機器規制国際調整官/新医療材料専門官
柳澤真央   厚生労働省 医薬・生活衛生局医療機器審査管理課/再生医療等製品審査管理室 主査
丸智香子   厚生労働省 医薬・生活衛生局医療機器審査管理課/再生医療等製品審査管理室

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
國枝章義   医薬品医療機器総合機構 再生医療製品等審査部 審査専門員
河西翔平   医薬品医療機器総合機構 再生医療製品等審査部 審査専門員
小野寺陽一  医薬品医療機器総合機構 医療機器調査・基準部 部長
水上良明   医薬品医療機器総合機構 医療機器調査・基準部医療機器基準課 課長
遠藤 健   医薬品医療機器総合機構 医療機器調査・基準部医療機器基準課 主任専門員

オブザーバー
鎮西清行   産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 副研究部門長
廣瀬志弘   産業技術総合研究所 健康医工学研究部門 生体材料研究グループ 研究グループ長
国立医薬品食品衛生研究所(事務局)
佐藤陽治   国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 部長
澤田留美   国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 第二室 室長
河野 健   国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 第四室 室長
草川森士   国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 主任研究官

報告書(PDF)

令和2年度報告書
2022-HN-RE-044-R2-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report