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4.用語の定義
本文書における用語の定義は、『ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の指針』及び『ヒト(同種)体性幹細胞加工医薬品等の指針』の定義による他、以下のとおりとする。
① 間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells):中胚葉性組織(間葉)に由来する体性幹細胞の一種であり、1) プラスチック培養容器に接着する、
2) CD105, CD73, CD90が陽性かつCD45, CD34, CD14 ,CD11b, CD79a,
CD19, HLA-Class II(DR)が陰性、3) 間葉系細胞(骨、脂肪、軟骨)への分化能を有する、の3条件を満たすものと定義する。脂肪組織、骨髄、臍帯、歯髄等から分離することが可能である。かつ、MHC Class-IIを発現せず、サイトカインや増殖因子を分泌する等の作用で免疫調節機能を持ち、組織再生・修復を促進するなどの特徴を示す。
② 間葉系間質細胞(mesenchymal stromal cells):中胚葉性組織(間葉)に由来しプラスチック培養容器に接着する線維芽細胞様細胞。間葉系間質細胞のうち特定の基準を満たすものを間葉系幹細胞という。
③ MSC:間葉系幹細胞又は間葉系間質細胞をいう。
5.ヒトMSC加工製品の製造販売承認審査において留意すべき事項
『再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律』(平成25年法律第13号)第11条には、「国は、再生医療製品の特性を踏まえ、再生医療製品の早期の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の規定による製造販売の承認を図り、かつ、安全性を確保するため、再生医療等製品の審査に当たる人材の確保、再生医療製品の審査の透明化、再生医療製品の審査に関する体制の整備等のための必要な措置を講ずるものとする。」と定められている。また、同第2条の2には「再生医療の特性を踏まえ、生命倫理に配慮しつつ、迅速かつ安全な研究開発及び提供並びに普及の促進のため、施策の有機的な連携と実効性を伴う総合的な取組が進められるべきこと。」と定められている。したがって、ヒトMSC加工製品の製造販売承認審査において条件及び期限付承認を検討する際にも、ヒト MSC 加工製品自体の特性と、ヒト MSC 加工製品を用いた再生医療等の特性を踏まえる必要がある。
5.1. ヒトMSC加工製品の特性
5.1.1. ヒトMSCの不均一性
ヒトMSCのうちヒト間葉系幹細胞は、骨・脂肪・軟骨などの間葉系細胞への分化能を有するが、ヒト間葉系幹細胞を原料とし、これを体外で分化させることで得られる特定の間葉系細胞を主成分としたヒト細胞加工製品の開発事例は多くはない。むしろ、ヒトMSC加工製品の多くは、培養等の加工が施されたヒトMSC
(以下「加工ヒトMSC」という。)を主成分としたものである。
ヒト MSC のうちヒト間葉系間質細胞は単に中胚葉性組織(間葉)に由来しプラスチック培養容器に接着する線維芽細胞様細胞を指し、また、ヒト間葉系幹細胞に特異的な細胞表面抗原等のバイオマーカーは知られていない。すなわち、ヒト間葉系間質細胞であれ、ヒト間葉系幹細胞であれ、総じてヒト MSC は均質な細胞集団ではなく、複数の細胞亜集団から構成されるものである。
したがって、多くのヒト MSC 加工製品において主成分となっている加工ヒト MSCは、一定の有効性や安全性を確保するために必要と考えられる品質規格や特性解析基準を満たす細胞集団であるという点に限れば製造ロット間では同質と言えるものの、従来の低分子医薬品やバイオ医薬品とは異なり、現時点での技術で測定可能な品質特性をすべて挙げたとしても、有効性や安全性を十分に保証するために必要な重要品質特性及び品質変動要因すべてが完全に同定又は網羅されうるとは限らない。つまり、ヒト MSC 加工製品の主成分が加工ヒト MSC の場合、当該加工ヒト MSC は所定の品質規格や特性解析では捉えられない特性において差異のある複数の細胞亜集団から構成された不均一なものである可能性が高い。当該加工ヒト MSC の有効性と安全性の継続的な再現性を確保するためには、この複数の細胞亜集団による不均一性を理解するための努力が必要であることを認識することが重要である。
5.1.2. ヒトMSCの作用機序の多様性
一般に、医薬品等の有効性の継続的な再現性を確保するためには、その作用機序の理解および作用機序に関連する品質特性の理解と管理が重要である。ヒト MSCには、免疫抑制(抗炎症)作用・組織再生作用・血管新生作用・線維化抑制作用・抗酸化ストレス作用・抗アポトーシス作用・病態部位(虚血・炎症部位)への遊走能など、様々な生理作用が知られている。したがって、ヒトMSC加工製品の主成分が加工ヒト MSC の場合、当該加工ヒト MSC の様々な生理機能が患者において如何に相互作用しながら有効性を発揮するかを定量的に非臨床段階で理解することは一般に困難である。非臨床proof-of-concept試験(効力又は性能を裏付ける試験)において推定することは可能かもしれないが、加工ヒトMSC の臨床における作用機序を正しく理解するためには、製品の品質データと臨床データとを照合することによる解析が、従来の医薬品やバイオ医薬品の場合よりも重要となる。なお、同じく加工ヒトMSCを主成分とする複数品目のヒトMSC 加工製品の間であっても、適応症に対する主な作用機序が異なれば、各製品の有
効性と密接に関連する重要品質特性は製品ごとに異なる可能性がある。
5.1.3. 自己由来ヒトMSC加工製品の品質のドナー間での差
ヒト MSC 加工製品の出発原料となる MSC には、投与対象患者本人をドナーとするもの(自己由来ヒトMSC)と投与対象患者ではないドナーから採取されたもの(同種由来ヒトMSC)がありうる。自己由来ヒトMSC加工製品の利点としては、ウイルス等の感染性因子の混入については同種由来ヒト MSC 加工製品の場合ほど厳重な管理が必要ではないことが挙げられる。しかし、自己由来 MSC 加工製品には、以下に示すような特徴があり、出発原料細胞ドナー(患者)の差による品質の不均質性が生ずる可能性が高いため、これらの特徴を踏まえた慎重な品質の開発計画が求められる。
① 治験開始前に患者由来の検体を入手することが難しく、健常人由来等の検体を用いて特性解析を実施した場合は、治験開始段階で得られる試験製造品の特性解析結果と、患者由来の細胞を用いて実施する治験製品の特性解析結果は、必ずしも同等でない可能性がある。
② 患者ごとに製造する必要がある自己由来MSC加工製品においては、治験製品の品質管理戦略の妥当性、それに基づくベリフィケーションマスタープランの作成が求められるため、治験開始後の品質相談も活用し慎重に進めることが必要となる。自己由来MSC加工製品では、品質規格として定められた特性以外の細胞の特性が患者ごとに異なり、工程の変動要因も複雑であり特定することは容易でない。
③ 製造可能な製品の量に制限があり、特性解析を実施する上で、十分な検体量が得られないことが考えられる。
5.2. ヒト細胞加工製品を用いた再生医療等の特性
5.2.1. 対象疾患の重篤性等
新しい医療モダリティとしてのヒト細胞加工製品は、従来の技術では治療困難な疾病に対して新しい治療法を提供する手段として期待されている。特にわが国のように、ヒトの臓器・組織ないしヒト細胞の確保が困難な医療状況下においてはなおさらのこと、これらを移植する治療法の代替手段等として大きく期待されており、その実用化と広がりを望む声は『再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律』(平成 25 年法律13号)に反映されている。ヒト細胞加工製品の中でも特に、1)重篤で生命を脅かす疾患、若しくは2)身体の機能を著しく損なう疾患、若しくは3)身体の機能や形態を一定程度損なうことによりQOL(quality of life, 生活の質)を著しく損なう疾患など、を罹患し、従来の治療法では限界があり克服できない患者を治療するために用いられる製品については、安全性を確保しつつもできるだけ早期に患者のアクセスを確保することが重要である。したがって、希少疾病用再生医療等製品、先駆的再生医療等製品、特定用途再生医療等製品又は先駆け審査指定制度の指定を受けたヒト細胞加工製品は、早期に製造販売承認を受けることが期待されている。
5.2.2. 外科的手術とともに使用される再生医療等製品
ヒト細胞加工製品を用いた再生医療等製品には大きく分けて、製品を静脈内から投与する場合のように外科的手術を伴わない治療と製品投与時に外科的手術が必要な治療が存在する。外科的手術が必要な治療では、手法確立までの試行錯誤が必要な場合も存在する。このため、従来の多くの低分子医薬品やバイオ医薬品を用いた治療とは異なり、再生医療等製品で特に外科的手術を伴う場合には、手術法を十分に検討するとともに、臨床試験結果に基づき手術法及び留意事項を適切に医療者に情報提供する必要がある。さらに、製造販売後にも引き続き術式に関する情報の収集及びその検討を行うとともに、新たな知見が得られた場合には適切に医療者に情報提供する必要がある。
5.3. ヒト MSC 加工製品の条件及び期限付製造販売承認を検討する際の留意事項
『医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律』(昭和35年法律第145号)第23条第26項によれば、一 申請に係る再生医療等製品が均質でないこと。
二 申請に係る効能、効果又は性能を有すると推定されるものであること。
三 申請に係る効能、効果又は性能に比して著しく有害な作用を有することにより再生医療等製品として使用価値がないと推定されるものでないこと。
のいずれにも該当する再生医療等製品である場合には、厚生労働大臣は、その適正な使用の確保のために必要な条件及び 7 年を超えない範囲内の期限を付してその品目に係る製造販売承認(条件及び期限付承認)を与えることができる。ヒトMSC加工製品についての第23条第26項第一号の要件については、本文書の 5.1.項に留意する必要がある。すなわち、条件及び期限付承認の後に改めて実施される製造販売承認審査までに、1)ヒト MSC 加工製品の主成分となるヒト細胞集団の不均一性の理解、2)主たる作用機序の理解及び臨床有効性と関連する重要品質特性の理解、並びに 3)原料細胞ドナーの差による最終製品の品質のばらつきに関する理解、について何をどこまで明らかにする計画であるかを明らかにする必要がある。製品ライフサイクル初期には品質が均質でないことが不可避であるとしても、製品の有効性及び安全性の継続的な再現性を確保するためには、可能な範囲で品質の不均質性を理解し、その管理に努める必要がある。
第23条の26第1項第2号の「効能、効果又は性能を有すると推定される」ために必要な治験による有効性エビデンスレベルは、当該製品を用いた再生医療等の特性、すなわち本文書の5.2.項に留意しつつ、製品ごとに判断する。次に、明らかに想定される当該製品投与時のリスク(他の治療法の機会損失のリスクも含む)を技術的に可能かつ科学的に合理的な範囲で低減した上でなお残るリスクを明らかにし、これと推定されたベネフィットとの間のバランスを勘案して判断する。
6.条件及び期限付製造販売承認後の承認条件評価計画に基づく評価において留意すべき事項
ヒト MSC 加工製品をはじめとする再生医療等製品の条件及び期限付承認においては、一連の臨床開発のライフサイクルの中で、最終的に製品が患者にもたらすベネフィットを推定した上で、開発早期の探索的臨床試験で得られる一定程度の有効性に関する情報と、製造販売後に承認条件に基づいて実施される評価で得られる有効性(及び安全性)に関する情報を検討することが重要である。すなわち、条件及び期限付承認での上市は、その後にひかえている通常の承認審査、再審査へとつづく臨床開発のライフサイクルの途上と捉えることが適当である。
したがって、条件及び期限付承認を経る臨床開発では、上市後の通常の製造販売承認審査に向けて、製造販売後承認条件評価における有効性及び安全性の評価について、合理的かつ実施可能性のある計画が条件及び期限付承認されるまでに提示される必要がある。
製造販売後承認条件評価で考慮すべき点は、(1)症例数、(2)評価実施施設数、(3)評価項目の客観性、(4)症例のランダム化、(5)評価の盲検化、(6)対照群の設定と方向(前向きor後ろ向き)が挙げられる。これらが妥当と判断されなければ製造販売承認の検討に堪え得るデータとならない。条件及び期限付承認の該当性を検討する場合、申請者及び規制当局は(1)~(6)を踏まえた上で、(7)使用成績調査等の選択の妥当性についての説明も必要となる。再生医療等製品は必ずしも成分が均質ではなく、成分の不均質性を踏まえた上で有効性評価を行うには治験段階で十分な症例数・施設数を得ることが困難である、希少あるいは重篤な疾患を対象とするためもしくは外科的手術が必要なために盲検化が困難であるなど、通常の治験の枠組みでの評価が困難な場合が多いと想定されるからである。したがって、条件及び期限付承認を得た再生医療等製品の製造販売後承認条件評価の計画は重要であり、申請者及び規制当局は上記(1)〜(7)を含め、当該計画の妥当性を明らかにするとともに、事前に達成基準を明らかにしておく必要がある。実際の製造販売後承認条件評価において、申請者と規制当局との間で合意された達成基準に満たない場合には、改めて製造販売承認申請を行っても有効性の確認ができないことから製造販売承認を認められないこともありうる。
製造販売後承認条件評価の一環として自然歴等の比較対照群を前向きに取得することが不可能な場合、選択できる有効性評価方法が限定され、さらに利用できるエンドポイントも限定されることになる。それらにより、臨床的有効性を説明することが困難な試験デザインとなった場合、製品が患者にもたらすベネフィットを説明することができなくなるため、製造販売承認に向かって進めること自体が困難になる。
以下、(1)~(7)のそれぞれに関する留意点を述べる。
(1) 症例数
製造販売後承認条件評価における有効性評価に必要な最低限の症例数は、基本的に臨床的意義のある評価項目において、統計学的に評価できる例数を設定すべきである。ただし症例数は、国内の対象患者数や対象疾患の重篤度、患者のQOL、代替治療法の有無などにより変わりうる。したがって、最低限必要とされる症例数については、これらの因子を勘案した上で品目ごとに申請者と規制当局との間で合意する必要がある。
5.1.項で示したようなMSCの特性等から有効性の検証を行うことが難しい製品においては、対照群の症例数が重要であることに留意すべきである。中間解析に基づく症例数再設計を計画するのであれば、予めその手順を具体的に定めておく必要がある。
(2) 評価実施施設数
評価の施設間差を検討できるように、製造販売後承認条件評価における評価実施施設数は、原則として複数であることが望まれる。一方、製品の保管や輸送が製品の品質へ及ぼす影響の観点から、製造販売後承認条件評価の場所や製造所の場所による制約のために評価実施施設数が限定される場合がありうるが、このような場合、申請者は少数施設で評価を実施する妥当性について説明する必要がある。
(3) 評価項目の客観性
評価項目は、評価にあたり患者や評価者の主観、施設間差といったバイアスが生じないと考えられるもの及び特に非盲検の場合には試験治療を知っていても評価に対する影響がほとんどないもの(例:死亡)であることが望ましい。可能な限り客観的で定量的な評価項目を採用すること。主観的な項目がエンドポイントの場合、バイアスの影響で製造販売後承認条件評価のデータは堅牢なものとはなりにくい。したがって、客観的で定量的な評価項目を用いない場合には、申請者はその必要性又は妥当性について説明する必要がある。有効性評価項目に関しては、製造販売後承認条件評価の前にあらかじめ達成基準を設定すること。製造販売後承認条件評価計画時においてはランダム化や盲検化が困難な製品が多いことを考慮するとともに、自然治癒などを考慮した上で評価項目やその達成基準を設定すること。評価法については、評価者間及び評価実施施設間で標準化されていなければならない。
(4) 症例のランダム化使用成績調査等での症例のランダム化は困難な場合がある。特に、条件及び期限付承認を得た製品の適応症において既存治療法の効果が乏しいなどの場合には、対象患者に当該製品が優先的に使用され、本品を使用しない群(対照群)を設定することが難しく、製造販売承認後にランダム化比較試験を実施することは困難となることが想定される。ランダム化の実施が困難な場合は、申請者はその理由を説明すること。
投与時に外科的な介入が必要な場合は、ホーソン効果や正のプラセボ効果に注意する。例えば、外科的な介入が必要な製品の場合、道義的な理由から対照群の外科的手技が実施できない施設があって、前向きの非介入の対照群と介入の製品群が設定されることもありうると想定される。対照群データが後ろ向き研究では、データ基盤の整備が十分でないと結果の解釈が困難になることを理解する。
(5) 評価の盲検化
使用成績調査等での評価の盲検化は困難な場合がある。ただし、評価者が主治医と患者の診療情報を共有していない者であれば、評価の盲検化ができる可能性はある。したがって、評価者盲検を評価法の標準化と併せて実施することを検討すべきである。有効性の評価について、客観性に配慮した計画(例:複数の医師による評価、第三者による評価)とすることが適切である。主治医による評価を実施する場合には、申請者はその必要性と妥当性を説明しなければならない。
エンドポイントが、評価にあたり患者や評価者の主観、施設間差といったバイアスが生じないと考えられるものである場合(例:死亡)は、盲検下での製造販売後臨床試験として実施されるものではなくても、適切な外部対照や既存のデータが存在するような場合には使用成績調査においても一定の有効性評価は可能である。一方、そのようなエンドポイントであっても、例えば発生イベント数が少ないなどの場合は、有効性を厳密に評価することが困難となる可能性も考えられるため、主要評価項目の設定にあたっては、イベント発生数なども考慮し、適切で評価可能な計画とすることが重要である。重要な副次評価項目についても対照群との比較を行い製品の有効性を評価する計画とすることが重要となる。評価の客観性を担保する方策として、中央判定委員会を設置し、使用成績調査における医療現場での評価の妥当性を審査する体制を構築することが望ましい。中央判定委員会を設置しない場合は、申請者はその理由を説明すること。(6)対照群の設定と方向(前向きor後ろ向き)
製造販売後の有効性評価を非ランダム化での使用成績比較調査で行う場合、本品を使用しない者(対照群)のデータをどのように取得すべきか、どのようなバイアスが発生し、どのように対処できるか、という
課題についての検討が必要である。その際には以下の点に留意すること。
A) 科学的なエビデンスに基づく有効性の評価には、「対照群の設定」及び「対照群との差を見出すための評価項目の妥当性」が必要となる。また、条件及び期限付承認時の有効性のエビデンスのレベルが低い場合は製造販売後承認条件評価における有効性検証は困難になる。
B) 使用成績調査の結果に基づいて再生医療等製品の有効性評価を行うためには、当該製品による治療を実施しなかった場合の疾患経過を検討材料とするための、同じ疾患背景を有する対象疾患患者における臨床経過のデータの収集やその利用可能性が重要になる。情報の収集にあたっては、治療に手技の熟練度が関連するような場合には、施設によって対象疾患に対する医療実態や患者の疾患背景が異なる可能性があること、及び既に実施された臨床試験の成績や後ろ向き研究によって取得したデータでは、対象疾患に対する治療体系が現在又は今後の治療体系と異なる可能性があることから、異なる施設や過去のデータから得られた情報は必ずしも適切な情報とはならないことに注意が必要である。そのため、可能な限り当該製品の投与を行う施設又はこれと同等と考えられる施設において当該製品の適応対象となるような対象疾患患者の臨床経過に関する情報を同時期に前向きに収集し、当該製品使用時の成績と比較検討することが適切である。このような検討方法をとることが不可能な申請者は、自らの検討方法の妥当性を十分に説明しなければならない。
C) 生命予後による評価を行う場合は、本来であれば、ランダム化した同時比較対照群を設定して実施することが適切である。しかしながら、再生医療等製品が条件及び期限付承認を受けて医療現場で使用可能となった段階では、ランダム化比較臨床試験の実施が困難となることが想定される。そのような場合は、外部対照との適切な比較を行う計画とする必要がある。また、対照の選択について、同様な治療を受けていると考えられる同一施設内で当該再生医療等製品を使用しない患者を対照とすることが一案として考えられる。しかしながら、同一施設内では当該再生医療等製品が使用可能な患者では、本品が使用される傾向となることが想定され、結果として対照は本品が適用できない患者に偏るという患者選択バイアスの発生が懸念される場合には、対照となる患者を他施設より選択する方法も受入れ可能である。ただしその際には、施設間差による影響に留意すべきであり、対照として組み入れる患者と本品を使用する患者との背景の差異について、マッチング等の手法を利用することにより、有効性評価におけるバイアスを軽減することが必要である。
D) 再生医療等製品を使用する施設と使用しない施設で前向きにデータを取得して製品の有効性を評価する場合には、以下の点に留意すること:
① 施設が異なることから、患者背景は異なることが予想される。
② 製品が供給される地域が限られることや、カルタヘナ法への対応のため使用施設が限られる場合等など特殊な事情も想定される。
③ 治療前に大量生産が可能で広く流通する製品(例えば同種由来細胞加工製品)に関しては、使用できる施設や医師の要件の限定が緩い場合、あるいは期待感の高い製品の場合には、製品を使用しない患者の経過に関する情報を市販後に前向きに収集することは困難なおそれがある。
④ 投与時に外科的な介入が必要な場合は、ホーソン効果や正のプラセボ効果への注意が必要である。道義的な問題から非介入の対照群と介入の治療群の試験しか実施できない可能性がある。
⑤ 評価実施施設数が多ければ、前向きの対照データを取得する施設を設定しやすくなる。ただし、すべての評価実施施設において、標準化された評価を適切に実施することができることを確認する必要がある。
⑥ 対照群のデータの前向きの収集は、製品群のデータ収集期間を網羅する期間で実施する必要がある。これは、再生医療等製品の有効性は、医療従事者の投与手技の熟練、臨床経験に基づく適用対象患者背景の収斂・変化、病状管理の改善などにより変化する可能性があるからであり、対照群のデータの前向きの収集を製品群のデータ収集期間の早期または他の特定の期間内に終了した場合、対照群のデータが製品群のデータの対照として適切でなくなる可能性が生ずる。
⑦ 有効性評価において外部コントロールを使用する場合、比較データのマッチングについては、少数の因子であれば揃えることが可能である。予後因子があると前向きの使用群と後ろ向きの対照群とでのマッチングは難しく、プロペンシティスコア等による調整が必要となる。したがって、予後因子について考える必要があるのであれば、後ろ向きより前向きで対照データを取得することが望ましい。
⑧ 新規に製造販売承認を受けた再生医療等製品は、多くの場合、使用できる施設や医師の要件が限定される。したがって、同様の背景を持つ他の病院で前向きにデータを取得することが難しいこともありうる。そのような場合は、バリデートされたデータベースにあるデータとの比較、又は同一施設での後ろ向きのヒストリカルコントロールデータとの比較による評価が可能であるかを検討する。
E) 再生医療等製品の使用群のデータを前向きに、コントロール群について後ろ向きにデータをとる場合には、データの信頼性と連続性及び時代背景の影響等を考慮し、使用可能なデータとなり得るかの検討が必要である。対照群のデータ取得方法としては、バリデートされた再生医療等 データ登録シ ス テム(例えば 、NRMD
https://nrmd.jp/ や FormsNet3 https://www.jdchct.or.jp/ctr/ )の活用も考えられる。対照群データを後ろ向きに取得する場合は、評価に必要なデータが得られていることを予め確認する必要がある。
患者背景や時期が異なる、又は被験者の組み入れ方が異なることがあり、データが本質的に揃っていないことがあることに注意が必要である。データの時間性と時代性にも注意が必要である。すなわち、後ろ向きのデータと前向きのデータとでは通常、取得された時期に数年の開きがあること、並びに支持的な治療や薬の進歩及びリハビリテーションの方法の進歩などの因子を考慮して評価可能であるかを検討することが必要である。
(7)使用成績調査等の選択の妥当性
使用成績調査に基づく評価には限界があり、実行可能な範囲でバイアスを最大限排除したとしても、結果には疑義が生じる可能性があり、注意が必要である。治験ではなく条件及び期限付承認後に評価することを許容した場合、条件及び期限付承認後の製品プロファイルを医療現場にどのように継続的に情報提供すべきか、という課題については以下の点に留意すること。
A) 対象疾患の重篤度、対象疾患患者数、患者のQOL、代替治療法の有無使用成績調査のデータ内にあるバイアスの許容度に関しては、対象疾患の重篤度、対象疾患患者数、患者のQOL又は代替治療法の有無などで異なりうる。ただし一般論としては、バイアスを許容することは、有効性・
安全性評価の妥当性を冒すことにつながるリスクである。
B) 製造販売後の有効性の機序及び関連する重要品質特性の検証の体制製品の作用機序やこれに関連する重要品質特性が製造販売前の段階で必ずしも完全には立証されていない場合に、製造販売後の臨床使用実績と製品の品質特性データの解析により、これらの理解を深めることは重要である。製造販売承認後の使用実績と製品の品質特性データの解析により得られる可能性のある情報としては、例えば以下のようなものが挙げられる:
① 臨床有効性と品質特性データとの相関解析による作用機序の理解
② 臨床有効性と品質ベリフィケーション又は製造時の品質特性のデータとの相関解析による、条件及び期限付承認時の有効性関連重要品質特性に関する妥当性の検証
③ 臨床有効性と品質特性データとの相関解析による新規重要品質特性の同定
④ 製品の体内動態もしくは体内分布
⑤ 臨床経験や対象疾患の層別解析による、有効性が期待できる患者群の理解
⑥ 医師の臨床手技の改善・標準化やリハビリテーション等との複合化による有効性又は治療再現性の向上
C) 製造販売後承認条件評価よる有効性エビデンス収集の実現可能性 申請者は、上記(1)~(6)及び(7)のA)~B)に挙げられた要素及び留意点を踏まえた上で、製造販売後の製品の安全性確保のためのリスクマネジメントプランに加え、計画する製造販売後承認条件評価では科学的評価に適う有効性エビデンスの収集が達成できないかもしれないかもしれないというリスクに関する管理計画(製造販売後有効性評価マネジメントプラン)を製品ごとに提示し、条件及び期限付製造販売承認の前に規制当局と合意すること。
(別記)
一般社団法人日本医療機器産業連合会
一般社団法人米国医療機器・IVD 工業会
欧州ビジネス協会医療機器・IVD 委員会
日本製薬団体連合会
日本製薬工業協会
米国研究製薬工業協会在日執行委員会
欧州製薬団体連合会在日技術委員会
一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム
一般社団法人日本医療機器テクノロジー協会
一般社団法人日本再生医療学会
一般社団法人日本遺伝子細胞治療学会
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