4. 評価に当たって留意すべき事項
(1) 品目の概要に関する事項
判定に用いるRNA が由来する遺伝子の名称及びコードするタンパク質やRNA の機能について明らかとなっている情報を記載すること。
1) 臨床的意義
プロファイル解析から得られる医療情報の有用性が、既に論文等により科学的に実証されている場合は、それらを引用して説明すること。解析対象とする個々のRNAについても、プロファイル解析における寄与度や個別の臨床的意義などについて説明すること。また海外での臨床性能試験を用いて有用性を説明する場合は、日本人や本邦の医療環境等を踏まえて、日本人集団でも同一の有用性があることを考察すること。予後やQOL の改善などの患者の利益があれば記載すること。
2) 対象とする被験者の範囲と添付文書への記載
対象とする被験者を添付文書において明確に規定すること。プロファイル解析によって得られる医療情報の意義と治療への利用法について、添付文書の中で具体的に記載・説明すること。
3) RNA 測定装置及び測定原理
RNA を定量する手法の原理を詳細に示すこと。RNA を増幅する場合は、増幅手法を説明し、増幅によってプロファイルが歪む可能性について記載すること。測定に用いる専用装置がある場合は、その測定原理を示すとともに測定原理が記載された論文、特許等の文献があれば引用し、必要な実測データと仕様に関する資料を添付すること。既存の測定機器を用いる場合には、使用可能な機種を特定するとともに、その資料を添付すること。いずれの場合も、測定装置の信頼性を示すデータを提出すること。
4) 遺伝子の選択
遺伝子の選択及びアルゴリズムの作成に使用したデータセットが存在する場合には、その詳細な資料とともに、測定するRNA を選択した根拠を示すこと。
5) プライマー、プローブ等の塩基配列
逆転写反応に用いるプライマー配列及び各RNA定量のための特異的プライマー及びプローブ等の塩基配列を示すこと。偽遺伝子や類似配列を持つ他の遺伝子由来RNA の存在を含めて、プライマーやプローブの配列を選択した理由と妥当性を説明すること。ミスマッチプローブ等を判定に利用する場合には、その配列を選択した根拠を説明すること。
6) DNA チップ構成
DNAチップを用いる場合には、プローブの配置と固定方法を詳細に説明すること。リアルタイムPCR 法による検出をマイクロプレート等で行う場合には、測定する遺伝子の位置を明記すること。
7) DNA チップに搭載される対照遺伝子の配列
陰性対照と陽性対照の遺伝子配列を示し、設定の妥当性を説明すること。陰性対照はシグナルのバックグラウンド算定の根拠となるので、複数の配列を搭載することが望ましい。バックグラウンドシグナル値、陽性対照による内部標準等を用いて測定データの補正を行う場合には、その原理、手法について実測データを用いて詳細に説明すること。
8) アッセイ条件
ハイブリダイゼーション、洗浄、乾燥等の反応条件(温度、時間、緩衝液の組成等)の概略(アッセイのプロトコル及び標準手順を含む。)を記載し、非特異反応が生じる可能性等も説明すること。
9) ソフトウエア
蛍光や電流値などのシグナル強度から解析機器に組み込まれたソフトウエア等によってプロファイルを得る場合は、測定アルゴリズムの妥当性に関して説明すること。ソフトウエアの動作に関するバリデーションの方法を示すこと。
10) 判定アルゴリズム
プロファイルから医療情報を導くためのアルゴリズムとその構築方法の詳細について、用いたデータセットを含めて説明すること。いったんアルゴリズムを確定した後は、その後の評価の過程において、その内容を変更するべきではなく、変更の必要が生じた場合には改めてバリデーションを行うこと。
(2) 仕様及び安定性に関する事項
1) 品質管理の方法
DNA チップ等を用いる場合は、デザインした塩基配列と固定されたプローブの塩基配列が同一であることを、実測データを用いて説明すること。核酸増幅反応(PCRなど)を用いる場合は、使用するプライマーの純度、配列を確認すること。用いる手法が、対象RNA のレベルを測定する感度、特異性及び再現性を保証する標準試験を設定し、標準試験の成績からこれらの項目を検証する具体的な方法を、実測データを用いて説明すること。
2) 分析的妥当性(感度、特異性)、測定範囲
一定のRNA(又は相補DNA)のコピー数を含む試料を希釈して測定し、定量的検出限界を示すこと。また、段階希釈試料を用いて、データが直線性を示す範囲を検討し、測定濃度範囲を規定するとともに、補正が必要な場合にはその方法と根拠を説明すること。遺伝子工学技術によって作製した核酸、組織や培養細胞等から得られたRNA を標準試料として使う場合は、臨床検体由来試料の濃度や純度等との同一性に留意すること。非特異的反応やバックグラウンドシグナルの安定性、均一性を検討し、誤判定の可能性を説明すること。試料中のRNA を測定できる最少検体量(RNA の最少必要量)を示すこと。必要に応じ、許容される最大検体量について検討すること。RNAレベルの異なる二つの試料を一定の割合にて混合した試料を測定し、プロファイルが RNA レベルに依存しないことを検証すること。また、データの精度を保証するための、データ受け入れ基準について明確にすること。
3) データの標準化
試料間でのレベル変動が無いRNAを複数種用いてデータを標準化することが望ましいが、それらの選択根拠と標準化の手法を説明すること。標準化のためのRNA の選択が難しい場合は、全RNA 量の総和等により標準化(グローバルノーマライゼーション)を行うことになるが、その方法の詳細と妥当性に関して説明すること。標準化の際のバックグランド値の測定方法とシグナル強度の補正方法を説明すること。
4) 測定装置の較正
一定のシグナルを安定して発生する較正用DNA チップ又はそれに準ずる標準試料を装置の較正に用い、作動バリデーションを定期的に行うことができる場合は、較正用チップ、標準試料の妥当性を説明すること。これらが利用できない場合には、陽性及び陰性較正用試料を用いた測定値の評価等によって作動確認をとる方法を示すこと。較正用試料の妥当性を説明すること。測定・解析装置を一体として評価する際に、これらの情報が必要になることに留意すること。
5) 安定性に関する資料
DNA チップや測定用キットの保存条件、有効期限を設定し、その妥当性を説明すること。提供される試薬を用いて使用者が反応液等を調製する場合は、調製方法や品質管理の方法を示すこと。
6) 試薬
キットとして提供されない試薬類がある場合には、適切な試薬を選択できるように、その品質に関して情報を提供すること。
(3) 性能に関する事項
1) プロファイル取得の精度
個々のRNA の定量精度は、信頼性の確立されたリアルタイムPCR 法などや、精度が確実に担保されているDNA チップ等を用いて検証すること。同等の既存品がある場合には、それとの比較によって検証すること。標準試料又は異なる試料間でのRNA 量比が一定となることで、精度は担保される。
2) 検体と共に測定する対照試料陽性対照試料、陰性対照試料を選定し、選定した理由を説明すること。公的機関より適切な標準試料が供給されている場合には、これを用いること。そして、それらを用いた精度管理の方法を、実測データを用いて説明すること。
3) 再現性、頑健性
標準試料を用いた3 回以上の繰り返し測定によるシグナル検出及びRNAプロファイルの再現性に関する検討を行うこと。同一施設内で測定日や作業者を替えた測定や、複数施設における測定によって、再現性を確認すること。必要に応じて頑健性に関する情報、外部精度管理の方法に関する情報を提供すること。複数の製品ロットを使用すること。
4) コンタミネーション防止対策、データ取り違え対策
検体の前処理や測定にPCR 等による核酸の増幅過程が含まれる場合、コンタミネーションによる誤判定の可能性とそれらを排除するための方策を、必要に応じて実測データを用いて説明すること。また、キャリーオーバー対策を講じ、キャリーオーバーを否定する試験を説明すること。バーコード等を使ったデータ管理システム等により、検体情報と解析結果の対応等における誤りを防止する方策を説明すること。検体や試薬類の入れ間違いなどの人為的ミスを防ぐ方策と、それを確認する方法に関して検討を行うこと。また、測定値の生データを保存し、データ処理各ステップの追跡、検証を可能にすること。
5) RNA 試料の調製
検体の質がRNA プロファイルに大きな影響を与えるため、検体の取り扱いには細心の注意が必要である。高品質なRNA 試料を得るために、採取する検体の種類に応じて、採取、保管、運搬等に関する適切な取り扱い方法を設定し、その妥当性を説明すること。特にRNA の分解を防ぐ方策を講じることが望ましい。測定に使用できるRNA 量と濃度の範囲を示すこと。
検体の種類(血液、組織等)に留意しながら、検体の受け入れ条件を示すとともに、検体からRNA を抽出する方法と得られた試料の品質を評価するための方法又は参考値(量、純度、分解度等)を示すなど、試料の評価基準を明確にすること。また、調製した試料の安定性について説明し、保存方法、輸送法、保存可能期間を示すこと。必要に応じて反応を妨害する物質(血清中のトリグリセリド、ヘモグロビン、ビリルビン、脂質などや投薬された薬物、検体採取に用いた抗凝固剤等)について予め評価しておくこと。遺伝子関連検査検体管理マニュアル(日本臨床検査標準協議会JCCLS)を参照のこと。
6) 測定装置
基本的に、DNA チップ等と測定装置は一体として評価される。専用の測定装置を使用する場合には、その測定装置が一般的な医療機器として満たすべき基本要件に適合し、医療機器としての承認若しくは認証を取得し、又は届出する必要がある。汎用性のある測定機器を用いる場合で、その装置が医療機器としての承認等を得ていない場合には、使用できる機器の特定と性能を担保する方法に関して、説明すること。
7) 判定アルゴリズム
判定アルゴリズムを導くために用いた全ての試験データを提出すること。アルゴリズムの妥当性は、適切に計画された臨床性能試験の成績をもとに評価すること。アルゴリズムは、臨床性能試験開始前に詳細を確定するものとし、変更を加えることは認められない。
(4) 臨床性能に関する事項
診断装置を使用して得られる情報の臨床的有用性を示す臨床性能試験の成績をデータと共に明確に記載すること。被験者に関する情報(年齢、性別、人種など)と被験者の疾患に関する情報(重篤度、発症率、治療法など)、検体に関する情報を詳細に記載すること。装置が導き出す医療情報(疾患の予後、治療への応答性など)を具体的に記載し、その情報と臨床病理所見や患者の追跡情報の相関を明確に記載すること。
類似の医療情報を提供する承認済み診断装置がある場合には、それとの同等性、相関性を示すデータを添付すること。記載にあたっては、特に以下の事項に留意すること。
1) 被験者集団の妥当性
臨床性能試験で対象とした患者集団の臨床病理情報は、解析の対象とする疾患に関わる情報を除けば、一般的な患者集団の臨床病理情報と同等(偏りがない)であることを検証すること。偏りのある患者集団を用いた場合は、臨床性能試験の評価に与える影響を説明すること。アルゴリズム作成に用いた患者集団と臨床性能試験に用いた集団の同等性、独立性に関して明記すること。また、解析対象として添付文書に規定された集団であることを明記すること。
2) 検体
原則として2 施設以上で150 以上の検体(正常範囲の検体も含む)を用いた臨床試験成績を提示すること。ただし、検体数の確保が難しい希少疾患を対象とする場合や予後予測などで臨床試験の最終結果を得るのに長時間を要する場合等において、統計学的に有意性を示すことができれば、150 以上の検体数でなくとも許容できる場合がある。予備試験の成績などを用いて、診断装置が導き出す医療情報において区分される集団間の有意差を生物統計学的に示すことができる検体数をあらかじめ求めることができる場合は、臨床性能試験を開始する前に統計学的解析手法を確定し、その妥当性について独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下「総合機構」という。)の対面助言を利用することが望ましい。過去に集めた検体、バンクに保存されていた検体、市販の検体を用いた後向きの臨床性能試験であっても、診断装置が導き出す情報を現在又は将来に適用できる場合には、評価資料として使用できること。前向きに集めた後向き試験も同様に扱われる。ただし、それらの検体の臨床病理評価が、現行の医療における評価と同等であることを示すこと。検体は複数の医療機関からの収集を原則とするが、一機関のみで測定を行う場合には、その理由と妥当性を説明すること。一人の被験者から複数回にわたって採取した検体を解析する場合は、信頼性、再現性を確保するのに必要な検体の採取回数、間隔などを明記すること。
3) 海外で行われた臨床性能試験成績の扱い
適切に計画された海外での臨床性能試験の成績を評価に活用してもよい。ただし、日本人でのデータと差が無いことを示すことが必要である。
4) 医療情報の提示
診断装置が導き出す医療情報(発症予測・リスク診断におけるリスク率やオッズ比、存在診断における疾患診断の的中率、病態分類における再発リスクや治療応答性など)は具体的に提示すること。例えば、疾患のスクリーニング(癌細胞の検出など)の場合は病変の存在確率(%)を、予後や治療効果を予測する場合は2 年以内の再発確率(%)や5 年生存率(%)などを示すこと。治療介入評価における種々のモニタリングや治療応答性の判定では、既存の重症度との対応又は新たな重症度分類の導入などが必要である。判定に用いた個々の遺伝子の発現情報は、必要があれば提供できることが望ましい。
5) 倫理面の配慮
各施設の治験審査委員会で承認されていることを示し、インフォームドコンセントについて記載すること。同一又は一部の試料を用いた研究が論文として発表されていれば、参考資料として添付すること。
(5) リスク分析に関する事項
操作過程において、人為的及び機械的ミス、非特異反応等が発生する要因を分析し、必要に応じて添付文書にて注意喚起を行うなどの対策を講じること。誤った医療情報が得られた場合に起こりうる診断と治療におけるリスクについて、文献等を用いて評価すること。判定結果を別の手法を用いて個別に確認するための方法について、積極的に提示すること。診断結果は直接ゲノム情報を含むものではないが、それに準ずる情報を含むと考えられるため、個人情報としての取り扱いに留意し、倫理面で配慮すること。
(6) データの保存と医療情報の表示方法に関する事項
得られた医療情報に加え、測定した各RNA の補正、標準化前後のシグナル値を保存し、検証を可能とすることが望ましい。医療情報の開示方法については、あらかじめ添付文書等でその形式と臨床的意義に関する説明を明記することが望ましい。また、全工程が良好に進んだかどうかの判定項目を示すとともに、医療情報の根拠となるデータ(指標としたRNA の発現レベル等)を可能な限り開示すること。
5. その他の事項
(1) アルゴリズムの変更
承認後にアルゴリズムを変更する場合は、新たな臨床性能試験を追加して、独立したデータセットにより、その妥当性を再評価する必要がある。ただし、カットオフ値の修正など、医療情報の精度を向上させる変更については、この限りではない場合も想定されるため、必要に応じ、総合機構に相談すること。
(2) 適応範囲の変更
市販後蓄積されたデータを基に、被験者の範囲、対象疾患、判定内容等の適応範囲を修正する場合には、必要に応じ、総合機構に相談すること。なお、承認事項に変更がある場合は、必要とされるデータを添付して変更を申請すること。 |