ヒト(同種)iPS細胞由来角膜上皮細胞シート

ガイドラインID 2025-HN-RE-052
発出年月日 2025-04-01
発出番号 令和7年4月1日付医薬機審発0401第3号
WG名 再生医療審査 WG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2025-HN-RE-52-ヒト(同種)iPS細胞由来角膜上皮細胞シート

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
ヒト由来の人工多能性幹細胞(iPS 細胞)のうち、同種由来 iPS 細胞を加工した製品(以下「ヒト(同種)iPS 細胞加工製品」という。)の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、「「ヒト(同種)iPS(様)細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」の一部改正について」(令和7年1月17日付け医薬発0117第11号厚生労働省医薬局長通知)に定められているところである。
本評価指標は、ヒト(同種)iPS 細胞加工製品のうち特に角膜上皮障害等の治療を目的として適用される再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律((和和35年法律第145号)第2条第9項に規定する「(再生医療等製品」をいう。以下同じ。)について、上述の基本的な技術要件に加えて当該製品特有の留意すべき事項を示すものである。

2. 本評価指標の対象
本評価指標は、ヒト(同種)iPS 細胞加工製品のうち特に角膜上皮障害等の治療を目的として適用される再生医療等製品について、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示すものである。

3.本評価指標の位置付け
本評価指標は、技術開発の著しいヒト(同種)iPS 細胞加工製品を対象とするものであることを勘案し、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示している。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容に関して拘束力を有するものではない。製品の評価に当たっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。なお、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。
また、個別の製品において必要となる評価については、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に相談することが強く勧められる。

GL:本体

4.用語の定義
(1) 細胞シート:細胞同士又は細胞と支持体が結合してシート状の形態を呈したものをいう。
(2) 角膜上皮:角膜は、強膜とともに眼球の外壁を構成する直径11~12 mm 程度の透明な組織で、外界からの光を屈折させるレンズの役割を果たす。表面から角膜上皮、
角膜実質、角膜内皮の3層で構成される。そのうち、角膜上皮は4~5層の角膜上皮細胞から成る組織である。
(3) 角膜上皮障害:角膜上皮幹細胞疲弊症をはじめとする種々の要因から、角膜上皮の機能が障害された病態全般を指す。
(4) 角膜上皮幹細胞疲弊症:角膜上皮障害の中でも特に重症のケースで、角膜輪部に存在する角膜上皮幹細胞が外傷や疾病によって消失した状態を指す。
(5) セル・バンク:均一な組成の内容物をそれぞれに含む相当数の容器を集めた状態で、一定の条件下で保存しているものである。個々の容器には、単一の細胞プールから分注された細胞が含まれている。(ICH Q5D「生物薬品 バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品 製造用細胞基剤の由来、調製及び特性解析について」(平成12年7月14日付け医薬審第873号厚生省医薬安全局審査管理課長通知)の定義と同じ)
(6) クロスコンタミネーション:サンプル間の混入のこと。交叉汚染とも呼ばれる。製造に用いられる原料の間、中間体の間等での混入を意味する。例えば、あるセル・バンクに由来する細胞に別のセル・バンクに由来する細胞が混入する場合、ウイルス不活化後の原料に不活化前の原料が混入する場合等が挙げられる。
(7) 代替指標:目的とする対象指標が測定困難な場合に、事前に相関付けられた代替可能な指標。
(8) 支持体:細胞をシート状に形成する際に足場として非細胞材料を用いる場合があり、ここではそれを支持体と称する。移植・投与される細胞シート製品に含有されるか否かを問わない。
(9) 角膜上皮バリア機能:角膜上皮層のような重層化している上皮細胞層では、表層細胞の細胞間がタイトジャンクションという接着構造で強固に結合して、異物や水などを自由に通さない構造となっている。この機能をバリア機能という。
(10) 瞼球癒着:眼瞼の結膜と眼球の結膜が部分的または完全に癒着した状態を指す。
(11) 細隙灯顕微鏡検査:細隙光と呼ばれる帯状の光線を眼球に照射し、生体顕微鏡で観察する検査。角膜、前房、虹彩、水晶体など主に前眼部を観察する。専用のレンズを用いることで後眼部の観察も可能である。

5.評価に当たって留意すべき事項
本評価指標は、当面、既に再生医療等製品の原材料として株化されているヒト(同種) iPS 細胞(細胞株)を主たる原材料として製造所に受け入れ、これを製造所において加工して製造された、ヒト(同種)iPS 細胞加工製品としての角膜上皮細胞を含むシート(以下、角膜上皮細胞シート)の評価に適用することを想定している。再生医療等製品の製造所内でヒト(同種)iPS 細胞を体細胞から新たに樹立し、これを原材料とした再生医療等製品の製造を意図するような場合には、本評価指標を参照しつつ、「ヒト(同種)iPS(( 様)細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」((平成24年9月7日付け薬食発0907第5号厚生労働省医薬食品局長通知)等を参考とすること。

(1) 原料等
原料等となる iPS 細胞は、再生医療等製品の原材料として株化されたヒト(同種)iPS 細胞であって、一定の製造工程を経ることにより角膜上皮細胞へ分化することが確認されている、又は合理的に予測されるものである必要がある。ヒト体細胞への初期化遺伝子導入による遺伝子リプログラミングによりヒト iPS 細胞が樹立されている場合は、導入された遺伝子の残存が否定されていることが望ましい。残存が否定できない場合には、導入遺伝子が最終製品である角膜上皮細胞シートの品質及び安全性に悪影響を与えないことを確認する必要がある。

(2) 製造工程において特に注意が必要な事項
角膜上皮細胞シート((最終製品)の製造にあたっては、製造方法を明確にし、可能な範囲でその妥当性を以下の項目で検証し、一定の品質を保持すること。
①ロット構成の有無とロットの規定
最終製品及び中間製品がロットを構成するか否かを明らかにすること。ロットを構成する場合には、ロットの内容について規定しておくこと。
②製造方法
原材料となるヒト iPS 細胞株の履歴、及び製造所への受入れから、セル・バンクを構築する場合にはその工程を含め、分化段階の進んだ細胞を経て最終製品に至る製造方法の概要を示すとともに、具体的な処理内容及び必要な工程管理、品質管理の内容を明らかにすること。
a) 受入検査
原材料となるヒト iPS 細胞株について、製造所への受入れのための試験(検査)項目(例えば、目視検査、顕微鏡検査、生存率、細胞の特性解析、細菌、真菌、ウイルス等の混入の否定等)と各項目の判定基準を設定すること。表現型、遺伝形質、特有の機能等の特性、細胞生存率及び品質に影響を及ぼさない範囲で、必要かつ可能な場合は、細菌、真菌、ウイルス等の検査を行うこと。結果が陽性の場合には、ヒト iPS 細胞株のストック及びその輸送における汚染の有無を確認した上で、改めてヒト iPS 細胞株を入手する。
なお、技術的な理由により、工程を一部進めた上で検査を行うことが適切な場合にあっては、受入れ後の適切な時点で検査を実施すること。例えば、凍結ヒト iPS 細胞株を原材料製造時の試験(検査)結果(Certificate of Analysis)を基に受入れた後、解凍して拡大培養を実施する際に追加の検査を行うことが挙げられる。治験を開始する前段階の場合は、それまでに得られた試験検体での実測値を提示し、これらを踏まえた暫定値を示すこと。
b) 細胞のバンク化
角膜上皮細胞シートの製造にあたっては、製造所に受け入れたヒト iPS 細胞株から、最終製品の製造までのいずれかの過程において、セル・バンクを構築する場合と、セル・バンクを構築しない場合の両者が想定される。セル・バンクを構築する場合には、その作製方法、特性解析、保存・維持・管理・更新方法、その他の各作業工程及び試験に関する手順等について詳細を明らかにし、ICH Q5D 等を参考として、その妥当性を示すこと。ただし、より上流の過程で評価されていることに起因する正当な理由により検討事項の一部を省略することは差し支えない。
c) 最終製品の構成要素となる細胞の作製
製造所に受け入れたヒト iPS 細胞株、又はそのセル・バンクから、最終製品の構成要素となる細胞を作製する方法(例えば、分化誘導方法、目的とする細胞の分離・培養の方法、培養の各段階での培地、培養条件、培養期間、収率等)を明確にし、可能な範囲でその妥当性を明らかにすること。
d) 製造工程中の取り違え及びクロスコンタミネーション防止対策
角膜上皮細胞シート(最終製品)の製造にあたっては、製造工程中の取違え及びクロスコンタミネーションの防止が重要であり、工程管理における防止対策を明らかにすること。
e) 複数の細胞培養加工施設での製造及び病院内での細胞加工を行う際の工程の条件の設定
複数の細胞培養加工施設で製造を完結する場合は、施設間での中間製品の輸送に関する条件をあらかじめ確定し、中間製品の出荷及び受入れ、輸送などの条件が満たされているかのモニタリングを行うこと。

(3) 製品の品質管理
角膜上皮細胞シート(最終製品)の品質管理における留意点として、例えば以下に挙げた事項が考えられる(参考資料1から3まで)が、必要かつ適切であれば別の試験項目の採用又は追加を検討すること。その際には、各試験項目の設定根拠及び試験方法の妥当性について説明する必要がある。工程内管理の管理値及び品質規格の規格値の設定について、治験を開始する前段階の場合にあっては、それまでに得られた試験検体での実測値を提示し、これらを踏まえた暫定値を示すこと。また、出荷製品そのもの又はその一部に対して試験の実施が技術的に困難である場合にあっては、妥当性を示した上で、並行して製造した製品等、代替とする検体を用いて試験を実施すること。なお、角膜上皮細胞シート(最終製品)の品質管理の設定にあたっては、その移植方法を明らかにすること。移植方法には、例えば、角膜上皮細胞シート(最終製品)が容器等に格納された状態から、必要数(1治療あたり1枚等)を回収し、適切な適用部位(瘢痕部位除去後の疾患眼表面等)に貼り付けて移植すること等が考えられる。a)形状の確認、b)細胞シートとして回収可能であることの確認、c)細胞数及び生存率、d)角膜上皮細胞としての特異性の確認、e)主構成細胞の確認、f)機能評価、g)未分化細胞が混在していないことの確認、については検討する必要がある。方法については以下に示す。

a) 形状の確認
最終製品の形状に関して、目視、位相差顕微鏡観察等により、全体の形状(例えば、透明な膜状組織であること)や、上皮細胞特有の細胞形態を確認すること((例えば、敷石状細胞形態等)等が考えられる。
b) 細胞シートとして回収可能であることの確認
最終製品の力学的適合性に関して、例えば、移植時と同様の手法で培養容器等から剥離、回収するまでの操作を行い、細胞シートとしての破損がないことを確認すること等が考えられる。
c) 細胞数及び生存率
最終製品における細胞の数及び生存率について基準を設定する必要がある。細胞数を測定する方法としては、最終製品や中間製品の一部を抜き出して細胞懸濁液とし、バリデーション可能な測定方法(血球計算盤やセルカウンターで測定する方法等)にて測定すること等が考えられる。細胞生存率を測定する方法として、バリデーション可能な方法(トリパンブルーを用いた色素排除法や蛍光色素を用いた方法等)にて、生細胞及び死細胞を計数すること等が考えられる。
d) 角膜上皮細胞としての特異性の確認
最終製品を構成する細胞について、角膜上皮関連遺伝子(例えば、Keratin3、Keratin12 等)((参考資料4及び5)が発現していることを免疫染色で確認すること等が考えられる。
e) 主構成細胞の確認
最終製品を主として構成する細胞の性質と割合について、確認する必要がある。この確認にあたっては、上皮系細胞マーカー((例えば、Keratin14、pancytokeratin 等)の発現率を測定することで、主構成細胞が上皮系細胞であることと、その割合が確認できる(参考資料1及び3)。測定方法については、例えば、最終製品を細胞懸濁液として免疫染色を行い、フローサイトメトリーによって計測する等が考えられる。
f) 機能評価最終製品について、治療用途に整合性のある機能特性を有することを確認する。角膜上皮細胞シートとしての特性を解析する場合は、以下が挙げられる。
・幹細胞、前駆細胞性
角膜上皮細胞シート(最終製品)は、製品内に含まれる上皮幹細胞、前駆細胞が新たな上皮細胞を供給し続けることによって、一定周期で細胞のターンオーバーが繰り返される((参考資料1)。それにより上皮組織が維持されることで、移植後も長期間に渡り機能を維持する。幹細胞、前駆細胞性の確認として、これらの性質を示すことが報告されているマーカー(例えば、p63 等)(( 参考資料6)の発現を免疫染色で確認すること等が考えられる。
・角膜上皮バリア機能
角膜上皮細胞シート(最終製品)のバリア機能を確認する場合には、同機能との相関が報告されているマーカー(例えば、ZO-1 等)(( 参考資料7)の発現を免疫染色で確認すること等が考えられる。
g)未分化細胞が混在していないことの確認
最終製品への未分化細胞の混在については、定量 RT-PCR によるマーカー遺伝子発現量による評価等が考えられる。マーカー遺伝子としては、特に LIN28 の遺伝子定量解析が未分化細胞に対する特異性が高くかつ高感度であり、評価方法として用いることができる。なお、造腫瘍性評価のための試験に関しては非臨床試験の項目も参照すること。

(4) 製品の安定性試験
最終製品を細胞シートとし、細胞シートの状態で輸送する場合には、保存安定性に加え、輸送安定性(温度、振動、気圧変化等の影響)を評価した上で保存条件及び使用期限を設定し、適切な容器、保存液及び運搬形態を選択すること。製品形態又は細胞種によって、製品安定性を保つための適切な保存形態、温度条件、輸送液等が異なる可能性があ
るため、製品毎に適切な組み合わせを検討し、安定性を担保する必要がある。

(5) 非細胞材料の品質・安全性
最終製品に関係する非細胞材料として、製造工程中で最終製品と接触するもの((例えば、細胞シート培養工程に用いる培養容器等)のほか、支持体(例えば、羊膜、フィブリンゲル等)を用いる場合も考えられる。支持体不使用でも最終製品の細胞シートを形成することが可能であるが、支持体等を用いる場合は、それも含めて材料自体の品質・安全性に関する知見について明らかにすること。

(6) 非臨床試験
ヒト(同種)iPS 細胞を加工して製造される再生医療等製品の造腫瘍性を評価する上では、「原料となる iPS 細胞の造腫瘍性と最終製品の造腫瘍性との相関・因果関係は未解明である」という点に注意が必要である。すなわち、臨床適用に際しては、原料となるヒト(同種)iPS 細胞ではなく、あくまで最終製品としてのヒト(同種)iPS 細胞加工製品の造腫瘍性評価が最も重要であることを常に留意しなければならない。したがって、造腫瘍性試験については最終製品を用い、検出限界が既知の試験系を用いて造腫瘍性の評価を行うことが有用である。最終製品の造腫瘍性の評価には目的別に大きく2種類ある。「品質管理」のための造腫瘍性試験(造腫瘍性細胞の存在量の確認)及び「非臨床安全性評価」のための造腫瘍性試験(最終製品の細胞がヒトでの投与部位に相当する微小環境で造腫瘍性を示すかどうかの確認)であり、これらは区別して評価することが重要である。なお、造腫瘍性の評価にあたっては、「ヒト細胞加工製品の未分化多能性幹細胞・形質転換細胞検出試験、造腫瘍性試験及び遺伝的安定性評価に関するガイドラインについて」((令和元年6月27日付け薬生機審発0627第1号厚生労働省医薬・生活衛生局医療機器審査管理課長通知)等も参考にすること。

① 最終製品の品質管理のための造腫瘍性試験
品質管理のための造腫瘍性試験としては、高感度な特性を有する in vivo 評価法として、重度免疫不全動物(例えば、NOD/SCID/γCnull (NOG)マウス、NOD/SCID/IL2rγKO (NSG) マウス、Rag2-γC double-knockout (DKO) マウス)への皮下投与試験等が挙げられる。最
終製品の造腫瘍性の要因となり得る未分化細胞や形質転換細胞を検出する試験としては、 in vitro 評価法の適用が考えられる。未分化細胞の検出のための評価法としては、例えば、未分化細胞マーカー(LIN28、TRA-1-60 等)を指標にしたフローサイトメトリーや定量 RT-PCR、最終製品を原料等の iPS 細胞の培養条件に戻して一定期間培養する評価法等が挙げられる。形質転換細胞の検出のための評価法としては、例えば、細胞増殖特性解析(参考資料1)やデジタル軟寒天コロニー形成試験等が挙げられる。最終製品に適した
評価法を用い、造腫瘍性リスクを総合的に評価することが重要である。

② 最終製品の非臨床安全性及び有効性を評価する試験
最終製品の非臨床試験の目的は、ヒトでの投与部位と同一の局所環境で最終製品が示す安全性と有効性を評価することにある。最終製品である角膜上皮細胞シートを、ウサギを用いて作製した疾患モデル動物に移植して評価した報告は有るものの、異種移植のため免疫抑制剤の投与が必要となることや、それでもなお拒絶を抑制できず短期で移植物が脱落すること等から、ヒトと同一の局所環境での有意な評価とは言い難い。また、免疫不全小動物(マウス、ラット等)での角膜上皮細胞シート移植は技術的に困難であり、これまでに報告もされていない。このようにモデル動物を用いた適切な評価が困難な現状に鑑み、ヒト臨床での移植症例があれば、たとえ少数例であったとしても非臨床試験に優先して参照することも有意であると考えられる。
また、最終製品の投与部位の角膜は無血管組織であり、もとより腫瘍形成等の病変は極めて稀である。それに対し、品質管理のための造腫瘍性試験として挙げられる重度免疫不全動物(マウス等)への皮下投与試験は、角膜と異なり血管を豊富に有する皮下組織への投与であり、より腫瘍形成を促し易い微小環境であると考えられる。したがって、造腫瘍性評価を主とした最終製品の非臨床安全性評価に関しては、品質管理のための造腫瘍性評価としての in vivo 試験をもって、ある程度の評価の推定が可能と考えられる。
いずれにしろ、最終製品である角膜上皮細胞シートの非臨床安全性及び有効性の評価にあたっては、現在取得できる科学的に有意な情報から総合的に判断することが重要である。

(7)臨床試験(治験)
①適応
角膜上皮障害を適応対象とする。特に角膜上皮幹細胞疲弊症が多く含まれる。
臨床試験においては、有効性及び安全性評価に適した集団を選択するために、国際的に普及した診断基準、重症度分類等を用いて、当該治療法に期待される臨床上の位置付け等を明確にした上で、選択・除外基準や評価基準を設定する必要がある。

②症例数の設定
症例数は、科学的合理性に基づき、試験目的、検証すべき仮説、試験の達成基準及び試験デザインに応じて設定する。

③有効性評価
一般的に主要な有効性評価は、信頼性及び妥当性が検討され国際的に普及した評価項目を用いることが必要であり、評価時における評価項目のベースラインからの変化や改善症例の割合等を評価に用いる。副次的な有効性評価は、主要評価項目で得られた結果の妥当性を検討するだけでなく、得られた結果の臨床的意義を幅広く検討するために有用である。主観が影響する検査項目や、測定機器の使用方法によってバラツキが想定される検査項目では、評価者間で統一した評価を行い、評価者間のばらつきを最小限とすることができるよう、評価者に対する教育訓練等の方策を十分に検討する必要がある。
眼科領域では、ETDRS 視力表や小数視力表などを用いた矯正視力の測定が国際的に広く普及しており、有効性評価項目として考え得る。しかしながら角膜上皮幹細胞疲弊症を含む角膜上皮障害患者においては、シート移植による治療の対象となる角膜上皮以外の部位の眼疾患(角膜実質混濁、白内障、網膜疾患、緑内障、視神経疾患など)を合併している場合があり、合併している場合にはシート移植が奏功して角膜上皮の透明性が回復しても、他の眼疾患が原因で視力回復には必ずしもつながらないことも想定される。よって、臨床試験において矯正視力を有効性効果判定項目と設定する場合は上記を考慮する必要がある。
これらの状況を考慮し、以下のような項目等の術後の術前に対する改善度が有効性評価の項目として挙げられる。
1) 角膜上皮障害(角膜上皮幹細胞疲弊症)の重症度等
2) 角膜混濁
3) 矯正視力
4) 角膜血管新生
5) 瞼球癒着
6) 自覚症状(眼痛、異物感、流涙、羞明等)

④安全性評価
有害事象とは、医薬品等(再生医療等製品を含む。以下この項において同じ。)を投与された患者又は被験者に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごとであり、当該製品の投与との因果関係の有無は問わない。つまり、医薬品等が投与された際に起こる、あらゆる好ましくない、又は意図しない徴候(臨床検査値の異常を含む)、症状又は病気のことである。有害事象が認められた場合は、症例報告書に事象名、重症度、転帰、発現及び転帰が確認された時期、治験薬等(治験製品を含む、以下この項において同じ。)の服薬状況並びに処置の有無及びその内容等を記録するとともに、重篤な有害事象か否か、及び治験薬等との因果関係を判定する。
臨床試験では、iPS 細胞由来角膜上皮細胞シート移植後に留意して観察すべき有害事象として、腫瘍形成や拒絶反応が挙げられる。眼科診療で用いられる細隙灯顕微鏡検査によって移植部位を直接観察できることから、腫瘍形成や拒絶反応の発生について鋭敏に観察することができる。
なお、角膜上皮は免疫原性が低いと報告されており(参考資料8)、移植にあたって免疫抑制剤を使用する場合と使用しない場合のどちらのケースも考えられる。免疫抑制剤を使用する場合は、投与による有害事象にも注目が必要である。

GL:付属資料

6.参考資料
1. Hayashi R, Ishikawa Y, Sasamoto Y, Katori R, Nomura N, Ichikawa T, Araki S, Soma T, Kawasaki S, Sekiguchi K, Quantock AJ, Tsujikawa M, Nishida K. Co-ordinated ocular development from human iPS cells and recovery of corneal function. Nature. 2016 Mar 17;531(7594):376-80. doi: 10.1038/nature17000.
2. Hayashi R, Ishikawa Y, Katori R, Sasamoto Y, Taniwaki Y, Takayanagi H, Tsujikawa M, Sekiguchi K, Quantock AJ, Nishida K. Coordinated generation of multiple ocular-like cell lineages and fabrication of functional corneal epithelial cell sheets from human iPS cells. Nat Protoc. 2017 Apr;12(4):683-696. doi: 10.1038/nprot.2017.007.
3. Hayashi R, Ishikawa Y, Katayama T, Quantock AJ, Nishida K. CD200 facilitates the isolation of corneal epithelial cells derived from human pluripotent stem cells. Sci Rep. 2018 Nov 8;8(1):16550. doi: 10.1038/s41598-018-34845-2.
4. Moll R, Franke WW, Schiller DL, Geiger B, Krepler R. The catalog of human cytokeratins:
patterns of expression in normal epithelia, tumors and cultured cells. Cell. 1982 Nov;31(1):11-
24. doi: 10.1016/0092-8674(82)90400-7.
5. Schermer A, Galvin S, Sun TT. Differentiation-related expression of a major 64K corneal keratin in vivo and in culture suggests limbal location of corneal epithelial stem cells. J Cell Biol. 1986 Jul;103(1):49-62. doi: 10.1083/jcb.103.1.49.
6. Pellegrini G, Dellambra E, Golisano O, Martinelli E, Fantozzi I, Bondanza S, Ponzin D, McKeon F, De Luca M. p63 identifies keratinocyte stem cells. Proc Natl Acad Sci USA. 2001 Mar 13;98(6):3156-61. doi: 10.1073/pnas.061032098.
7. Ko JA, Yanai R, Nishida T. Up-regulation of ZO-1 expression and barrier function in cultured human corneal epithelial cells by substance P. FEBS Lett. 2009 Jun 18;583(12):2148-53. doi:
10.1016/j.febslet.2009.05.010.
8. Yoshinaga Y, Soma T, Azuma S, Maruyama K, Hashikawa Y, Katayama T, Sasamoto Y, Takayanagi H, Hosen N, Shiina T, Ogasawara K, Hayashi R, Nishida K. Long-term survival in non-human primates of stem cell-derived, MHC-unmatched corneal epithelial cell sheets. Stem
Cell Reports. 2022 Jul 12;17(7):1714-1729. doi: 10.1016/j.stemcr.2022.05.018.

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

2023-11-01

WG終了年月

2025-01-01

WGメンバー

◆再生医療審査 WG 令和 5 年度委員名簿

座長
井上 幸次   日野病院組合 日野病院 名誉病院長

ワーキンググループ委員(五十音順)
稲富 勉    国立長寿医療研究センター 感覚器センター センター長
梅澤 明弘   国立成育医療研究センター研究所 所長
堀 裕一    東邦大学医学部 眼科学講座 教授
万代 道子   神戸アイセンター病院 研究センター センター長

タスクフォース委員(五十音順)
大家 義則   大阪大学大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学 講師
金村 米博   大阪医療センター 臨床研究センター センター長
齋藤 潤    京都大学 iPS 細胞研究所 臨床応用研究部門 教授
相馬 剛至   大阪大学大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学 講師
高柳 泰    大阪大学大学院医学系研究科 幹細胞応用医学研究室 助教
西田 幸二   大阪大学大学院医学系研究科 脳神経感覚器外科学 教授 (TF 委員長)

厚生労働省
飯野 彬    厚生労働省 医薬・生活衛生局 医療機器審査管理課 革新的製品審査調整官
田中 孝仁   厚生労働省 医薬・生活衛生局 医療機器審査管理課 医療機器係長
甲斐 晴稀   厚生労働省 医薬・生活衛生局 医療機器審査管理課 係員

独立行政法人医薬品医療機器総合機構
小林 陽子   医薬品医療機器総合機構 再生医療製品等審査部 主任専門員
中川 寛之   医薬品医療機器総合機構 再生医療製品等審査部 審査専門員
小川 将仁   医薬品医療機器総合機構 医療機器調査・基準部 部長
郭 宜     医薬品医療機器総合機構 医療機器調査・基準部 医療機器基準課 課長
熊谷 康顕   医薬品医療機器総合機構 医療機器調査・基準部 医療機器基準課 調査専門員

国立医薬品食品衛生研究所(事務局)
安田 智    国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 部長
澤田 留美   国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 室長
河野 健    国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 室長
草川 森士   国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 主任研究官

オブザーバー
十河 友    経済産業省 商務・サービス G ヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室 室長補佐
泉水 優佑   経済産業省 商務・サービス G ヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室 係長
山根 史帆里  経済産業省 商務・サービス G ヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室 係長
浦 綾夏    経済産業省 商務・サービス G ヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室 係員
幸寺 玲奈   経済産業省 商務・サービス G 生物化学産業課 課長補佐
芝原 摂也   経済産業省 商務・サービス G 生物化学産業課 専門職
桜井 智也   日本医療研究開発機構 医療機器・ヘルスケア事業部 医療機器研究開発課 主幹
森内 将貴   日本医療研究開発機構 医療機器・ヘルスケア事業部 医療機器研究開発課 主査

◆再生医療審査 WG 令和 6 年度委員名簿

座長
井上 幸次   日野病院組合 日野病院 名誉病院長

ワーキンググループ委員(五十音順)
稲富 勉    国立長寿医療研究センター 感覚器センター センター長
梅澤 明弘   国立成育医療研究センター研究所 所長
堀 裕一     東邦大学医学部 眼科学講座 教授
万代 道子   神戸アイセンター病院 研究センター センター長

タスクフォース委員(五十音順)
臼井 智彦   国際医療福祉大学 医学部眼科 教授
金村 米博   大阪医療センター 臨床研究センター センター長
齋藤 潤     京都大学 iPS 細胞研究所 臨床応用研究部門 教授
榛村 重人   藤田医科大学 臨床再生医学講座 主任教授(TF 委員長)
宮井 尊史   東京大学医学部 眼科学教室 准教授

厚生労働省
飯野 彬     厚生労働省 医薬局 医療機器審査管理課 革新的製品審査調整官
渋井 雅志    厚生労働省 医薬局 医療機器審査管理課 医療機器係長
上坊 真穂   厚生労働省 医薬局 医療機器審査管理課 係員

独立行政法人医薬品医療機器総合機構
手塚 杏    医薬品医療機器総合機構 再生医療製品等審査部 審査専門員
前田憲一郎   医薬品医療機器総合機構 再生医療製品等審査部 審査専門員
郭 宜     医薬品医療機器総合機構 医療機器調査・基準部 医療機器基準課 課長

国立医薬品食品衛生研究所(事務局)
安田 智     国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 部長
澤田 留美   国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 室長
黒田 拓也    国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 室長
草川 森士   国立医薬品食品衛生研究所 再生・細胞医療製品部 主任研究官

オブザーバー
十河 友    経済産業省 商務・サービス G ヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室 室長補佐
高山 真澄    経済産業省 商務・サービス G ヘルスケア産業課医療・福祉機器産業室 室長補佐
幸寺 玲奈    経済産業省 商務・サービス G 生物化学産業課 課長補佐
芝原 摂也    経済産業省 商務・サービス G 生物化学産業課 専門職

報告書(PDF)

2025-HN-RE-52-R5-報告書
2025-HN-RE-52-R6-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report