GL:付属資料 |
附属書 A 解説
A.1 本ガイダンスの審議で議論となった事項
A.1.1 本章の目的
本章では、ワーキンググループが本ガイダンスについて議論した事項について説明する。
A.1.2 ロボット手術器具の洗浄に求められるもの
ロボット手術器具を医療施設にて洗浄するには、「洗浄方法が妥当であること(必要な洗浄性能が得られること)」「洗浄の品質マネジメントができていること(その洗浄性能が安定的に得られること)」の2点が必要である。ワーキンググループでは、ロボット手術器具の洗浄に関して製造販売業者と医療施設の間の責任分限が繰り返し議論となった。さらにロボット手術器具の洗浄に関しては各国で規制状況に若干の相違がある。グローバルに事業展開するために必要な事項として国際規格の要求事項と、国内規制上の要求事項を以下に整理する。
A.1.2.1 海外での規制要求事項
欧州の医療機器規制(MDR)では、医療機器への規制として EN 規格又はこれとハーモナイズする国際規格への適合性を要求する。ロボット手術器具の洗浄に関係する国際規格としては、IEC 60601-1、ISO 15883-5 と ISO 17664-1 が存在する。さらに、ドイツ、米国等では医療施設における洗浄プロセスを ISO 13485 に基づく品質マネジメントシステムとして運用すること、監査を受けて認証を受けることが求められている。
ロボット手術器具に関する製品規格として IEC 60601-1 とその個別規格である
IEC 80601-2-77 が適用される。同規格は細分箇条 11.6.6(ME 機器及び ME システムの清掃及び消毒)、11.6.7(ME 機器及び ME システムの滅菌)において、清掃(本ガイダンスの「洗浄」と同義)が耐久性に及ぼす影響の評価を求めているが、洗浄そのものについては要求を定めていない。
ISO 15883 シリーズは WD に関する規格群であり、このうち ISO 15883-5 は WD の洗浄性能の評価方法を規定している。同規格は厳密には医療機器の洗浄評価方法の規格ではないが、WD を用いた医療機器の洗浄方法の評価に用いられている。他に国際標準化された洗浄評価方法が存在しない。洗浄性能に関する MDR 上の規制値は規定されていないが、ドイツでは DGKH, DGSV, AKI によるガイドラインが医療施設に対する基準として設定されている[8]。この基準を達成できない医療機器はドイツの医療施設では使用できないため、医療機器にとってもこの基準は必須である。
米国では、FDA からガイダンス”Reprocessing Medical Devices in Health Care
Settings: Validation Methods and Labeling” (2015)[9]が公表されており、これに従う。この中では基本的な考え方、AAMI TIR 12 及び 30 等の参考とする文書、Human factor と取扱説明書による情報提供、再生処理方法のバリデーションを主に述べている。この中では最悪条件を模した評価試験を行うことが述べられており、本ガイダンス 6.3 章等で扱っているエネルギーデバイスによる加熱の影響、使用時の汚染源への曝露、使用後の乾燥の影響にも言及している。なお、2024 年 2 月時点で、FDA は ISO 15883 シリーズを
recognized consensus standards としておらず、ISO 17664-1 を部分的に recognized している。細分箇条 6.6.1.1(自動化された洗浄方法に関する要求)は[9]と整合しないとしている。
ISO に代表される欧州の考え方は、機械洗浄を主とし用手洗浄を従とするもの、その背景として洗浄評価のバリデーションでは Human factor を極力排除することを重視したと捉えることができる。一方、米国の考え方は、医療施設によっては機械洗浄が必ずしも可能ではないことから機械洗浄を必須とせず、製造販売業者と医療施設にとって適した洗浄方法を選ぶ余地を残したと捉えることができる。また、洗浄担当者の労働安全に関して、欧州は防護具よりも本質的な消毒を優先し、米国は現場の現況を重視した考え方と言える。
A.1.2.2 国内での規制要求事項
2022 年 1 月までに国内で認可されたロボット手術器具は 24 品目存在する。ベッセルシーラー等の一部のエネルギーデバイスを除き、医療機器クラス分類Ⅱとなっている。8品目が基づく大臣承認品目、残りは認証品目である。
ロボット手術器具の洗浄に関係する要求事項としては、
- 医療機器の基本要件 第7条(医療機器の化学的特性等)、第8条(微生物汚染等の防止)
- 「医療機器の製造販売承認申請書添付資料の作成に際し留意すべき事項について」(平成 27 年 1 月 20 日付 薬食機参発 0120 第 9 号) 使用方法の妥当性に関する評価、再滅菌を行って使用することを前提とする医療機器の耐久性に関する検討、滅菌バリデーションの実施状況
- 基本要件により引用される、JIS T 0601-1:2017 細分箇条 11.6.6 及び 11.6.7
- 医療機器の添付文書の記載要領(「医療機器の添付文書の記載要領の改正について」(平成 26 年 10 月 2 日付 薬食発 1002 第 8 号)と関連通知
が挙げられる。薬食機参発 0120 第 9 号では「使用方法が従前と異なる医療機器にあっては、使用方法の妥当性について評価する」とされている。また滅菌バリデーションの前提には、適切な洗浄が実施されていることが含まれている。JIS T 0601-1「清掃」では耐久性に及ぼす影響の評価を求めている。一方、洗浄性能に関する医療機器規制上の基準値は規定されていない。
我が国の医療施設では、医療法により定められている「医療の安全の確保のための措置」が実施されている。「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」は洗浄を含む再生処理プロセスを QMS の元で実施することを勧告している。
A.1.3 ロボット手術器具の洗浄に適用可能な WD
本ガイダンスではロボット手術器具の製造販売業者が使用可能な WD の機種を挙げて提示することとしなかった。しかし使用可能な WD を拡充していくことが期待される。
用手洗浄は医療施設の現場の負担が大きいので WD による機械洗浄が期待される。WD に関する現場の主な関心は「どの WD なら利用可能か」「現在保有している WD は利用可能か」であろう。現場はロボット手術器具の洗浄に適した WD の条件、なるべくならば機種名が明示的に示され、使用可能な WD を選ぶ際の参考になる情報を望んでいる。
一方、ロボット手術器具の製造販売業者にとっては、多数存在する WD 機種と洗浄条件(洗剤、水質等を含む)について試験評価を実施することは大きな負担となる。本ガイダンスで述べてきたように、ロボット手術器具の内部の清浄性を現場で確認する簡便な方法がないので、洗浄方法の妥当性はロボット手術器具の製造販売業者が担保しなければならない。この点は用手洗浄でも WD による洗浄でも同じである。WD の規格適合を以てロボット手術器具の洗浄性能を担保するということが(現段階では)できないが、WD のマスター製品を定めてその WD で評価するといった方法も考えられる。
これらに鑑みて、本ガイダンスでは用手洗浄と機械洗浄の両方を扱うこととし、ロボット手術器具の製造販売業者が使用可能な WD の機種を挙げて提示すべきであるか否かには言及しないこととした。
A.1.4 温度・化学的条件の洗浄への影響
本ガイダンス 6 章では「60℃以上の洗浄工程や熱水消毒工程を適用しない」とした。これは、タンパク質の熱変性により残留タンパク質の回収が困難となり、その定量結果に影響を与えるためである(参考:「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」 8.1 章)。
WD で実施する場合は途中で装置を止めて洗浄物を取り出さねばならない。WD は高温を加えることを意図する装置であるから、この洗浄評価試験はその WD 自身の洗浄能力の評価としてはある種の妥協を含んでいる。
残留タンパク質の定量には化学的な条件も強く影響する。残留タンパク質の微量定量にあたっては洗浄に用いるケミカルズの影響も含めて検討する必要がある。さらに、熱変性したタンパク質を溶解させる条件も報告されており[10]、将来的には熱水消毒工程を経た後のタンパク質定量方法の確立が期待される。規格等で設定されている残留タンパク質の定量方法と影響する因子、これらの技術動向については参考文献[11] V 項に詳述されており参考になる。
A.2 本ガイダンスにて扱わないこととした事項
A.2.1 整形外科用のロボット手術器具
国内外にて整形外科手術用のロボット支援手術機器が開発・上市されている。しかし、ワーキンググループは次の理由で本文書にてこれらを扱わないことにした。
- これまでに上市された整形外科手術用のロボット支援手術機器ではロボット手術器具がリーマといった既存の手術器具であることから、ロボット支援手術機器に特有の洗浄プロセスに関する特段の要求事項がない.
- 整形外科分野は全体的に清潔性に関して要求が厳しく、内視鏡手術用のロボット手術器具と同じ注意事項が適用できるとは限らない。
A.2.2 再製造や修理に該当する再生処理
これらはそれぞれ再製造を行う製造販売業者、修理業者による業行為であり、洗浄に対する要求も異なっている。
A.2.3 医療施設が実施するロボット手術器具の洗浄の PQ
本ガイダンスは、製造販売業者を主な利用者として想定したので、医療施設がロボット手術器具の洗浄手順について PQ を行う方法については扱わなかった。一般の手術器具を扱う洗浄プロセスの PQ については「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」にその方法が解説されている。また、da Vinci のロボット手術器具の再生処理 PQ に関する実践的な解説が公表されており参考になる[12]。
附属書 B ロボット手術器具の洗浄プロセスに関連する、「安全に関する特質の明確化」において検討すべき要因の例
JIS T 14971 の細分箇条 5.3 では、医療機器の安全に影響する定性的及び定量的特質を特定し、文書化することとされている。以下に、ロボット手術器具の洗浄プロセスの観点から考慮することが望ましい要因を TR T 24971 附属書 A.2 に沿って例示した。以下、
(A.2.x)は同附属書 A.2 の項目番号である。なお、同附属書は全ての医療機器に適用するように記載されているので、ここではロボット手術器具の洗浄プロセスに関連しない事項は省略した。
どのような物質若しくは部品が医療機器に組み込まれているか、又は医療機器とともに使われるか、若しくは接触するか (A.2.4)
洗浄プロセスがロボット手術器具及び洗浄時に必要なアクセサリ の物質の組成や物性に影響を与える可能性がある。
患者にエネルギーを与えるか (A.2.5)
エネルギーデバイスの方が機械式ツールよりも多くの残留物が検出されたとの研究発表がある。エネルギーデバイスは患者にエネルギーを与え、その結果自身も温度が上昇する。その熱作用によりロボット手術器具に生体組織が固着して洗浄性に影響を与える可能性がある。
医療機器は、ユーザーが定期的に洗浄及び消毒することを意図しているか (A.2.9)
製造販売業者におけるロボット手術器具の洗浄プロセスの設計・開発に関連する事項。例えば、
- 各洗浄工程における汚染物の減少の変化。
- どのような箇所に汚染物の付着が残留しやすいか。
- 各洗浄工程により汚染物の再付着する可能性はあるか。
安全性に影響を与えないプロセスケミカルズ及び消毒剤の選定。例えば、
- pH 値。
- 浸漬時間等の耐薬品・腐食性・錆の影響。
- すすぎ性。
- 洗浄を実施する際の水質。
洗浄時の操作性に関連する事項。例えば、
- 安全に洗浄作業を実施できるか。
- ロボット手術器具のシャフト部内部(気密シールで区画された部分)の洗浄が必要か。
- 洗浄が必要なアクセサリがロボット手術器具に与える影響。
- 洗浄が必要なアクセサリ自体の劣化。
- (該当する場合)洗浄機毎の機能及び性能がロボット手術器具の洗浄結果に与える影響。
- (該当する場合)エアーブローの実施がロボット手術器具の洗浄結果並びに機能及び性能に与える影響。
好ましくない物質を排出するか (A.2.14)
意図しない物質のロボット手術器具への残留。例えば、
- 製造工程にて使われる物質(除去するための新品処理洗浄が必要になる可能性)。
- 材料又はプロセスケミカルズ等に由来する成分(洗浄評価に用いる測定に影響を与える可能性)。
医療機器は、環境的影響を受けやすいか (A.2.15) 例えば、手術室から中央材料室への輸送時の影響。
医療機器は、環境に影響を及ぼすか (A.2.16)
例えば、中央材料室内の汚染。
医療機器は消耗品又は附属品を必要とするか (A.2.17)
例えば、アクセサリの仕様及び交換時期。
医療機器は、情報へのアクセスを許可するか (A.2.20)
例えば、ロボット手術器具内にあるメモリーに接続されている電気接点への影響。
医療機器は、どのような機械的力を受けるか (A.2.24)
考慮することが望ましい要因としては、搬送時の振動、ブラッシング又はフラッシングによる機械的な力、アクセサリによる機械的な力の及ぼす影響がある。例えば、
- 振動や操作(洗浄操作等)の影響。
- 材質の変化による劣化、伸長。
- 動作による損傷(ワイヤの損傷、等)。
何が医療機器の寿命を決定するか(A.2.25)
例えば、洗浄の繰り返しによるストレス(機械的、化学的、熱的)の影響。
医療機器の使用は、特別な訓練又は特別な技能を必要とするか (A.2.28)
例えば、洗浄担当者への特別な訓練又は特別な技能の要否。
安全に関する情報がどのように供給されるのか (A.2.29) 例えば、洗浄担当者への情報提供の要否。
医療機器の適切な使用は、ユーザーインターフェイスのユーザビリティに依存するか
(A.2.31)
- 洗浄担当者は「使用者」とみなす必要がある。
どのようにして医療機器が誤使用されるのか(故意か、どうか) (A.2.33) 考慮することが望ましい要因は、例えば、
- 医療施設において、術後の使用済みロボット手術器具を回収する際に製造販売業者が推奨した回収方法で回収されない可能性。
- また回収後の洗浄プロセスにおいて、指示する取扱説明書通りに実施せず、手順の省略又は改変する可能性。
附属書 C 機材の基礎知識
C.1 ロボット手術器具
C.1.1 概要
ロボット支援手術機器のロボット手術器具は、一般的に製造販売業者の定める使用回数まで複数回の手術に使用できる仕様とされている。複数回の手術に使用する場合には、手術完了後に医療施設にてロボット手術器具の洗浄滅菌を実施する。
ロボット手術器具の種類は、エネルギーデバイスと非エネルギーデバイスに大別することができる。エネルギーデバイスの代表例は、モノポーラ、バイポーラ、及びステープラ等の高周波能動処置具としての機能をもつものである。非エネルギーデバイスの代表例は、高周波能動処置具としての機能をもたない把持用ロボット手術器具や切離用ロボット手術器具等である。
C.1.2 国際規格
IEC 80601-2-77 (Medical electrical equipment – Part 2-77: Particular requirements
for the basic safety and essential performance of robotically assisted surgical
equipment)にロボット手術器具 (robotic surgical instrument)に関する記述があり、参考とすることが可能である。
C.1.3 形状、構造、及び原理
ロボット手術器具の一般的な形状、構造及び原理を示す。
- ハウジング部、シャフト部、先端部から構成される(図 C-1)。
- ハウジング部は、ロボット手術器具をロボットアーム先端に装着する部分であり、カートリッジ部背面にはロボットアーム先端からの動力をロボット手術器具に伝達する駆動子がある。また、カートリッジ部端面には、ロボット手術器具内部を洗浄するためのフラッシュポートがある。
- シャフト部は、内視鏡下での手術を実現する為に一定以上の長さをもち、内部にはロボット手術器具先端を駆動させるためのワイヤや、洗浄水を先端部まで流すためのルーメンがある。エネルギーデバイスの場合には、シャフト部内に電線等も配置される。 ワイヤ及び電線類がシャフト部内外を貫通する部分には、内視鏡手術における気腹圧を維持するための気密シールが存在する(図 C-1 矢印部)。
- 先端部は、用途により形状が異なり、例えば、把持、切離、電気焼灼、ステープリング等のそれぞれの目的に応じた形状がある。先端部に 2 つ以上の関節をもつものもあり、鋼製器具や内視鏡処置具に比較して複雑な構造をもつ傾向にある。
- ロボット手術器具はユーザーが分解できない構造となっている。
図 C-1:ロボット手術器具模式図例 上:フラッシュポートとシャフト内部の通水管
下:先端部の構造(ワイヤ及び電線類が気密シールを介してシャフト内外を貫いている) 図省略
C.2 ウォッシャーディスインフェクター (WD)
C.2.1 概要
WD は 1970 年代にドイツで開発された洗浄器であり、現在、国内の医療施設が採用する自動洗浄方法において、他の方法と比較して多用されている。対象とする RMD は一般的な手術器械以外に、鏡視下手術器具、マイクロ手術器具、麻酔用具、各種容器等広範囲におよぶ。
チャンバ内に取り入れた洗浄液やすすぎ水を循環ポンプで加圧し、スプレーアームやノズルを通じて汚染された RMD に噴射することで、洗浄、すすぎ、90~93℃の熱水を用いた消毒、ヒータにより加温された温風を槽内に供給することで乾燥を行う。
近年、WD はロボット手術器具のハウジングとシャフト内部への通水が可能な専用ラック、アクセサリとともに、ロボット手術器具の洗浄に応用されているが、医療現場においては WD を適用する前に、前処理(浸漬、加圧水によるフラッシング、エアガンによる水切り、等)が施されている。
ロボット手術器具は、一般的な RMD と比較して処理時間が長く、前洗浄から機械洗浄に至る過程で消費されるプロセスケミカルズの消費量も多い。これはロボット手術器具の構造や材質の特性に起因するため、より簡便に汚染を除去できる特性を備えることが今後の課題といえる。
C.2.2 ロボット手術器具に適用する WD の条件
C.2.2.1 国際規格
ISO 15883-1 は、医学、歯学、製薬及び獣医学の領域において RMD の洗浄と消毒に用いられる WD 全般に対する水平規格であり、パート 2 以降で異なる類型の WD が共通して備えるべき機械的要求事項、性能要求事項及びそれらに対する適合性を確認するための試験要求事項を規定している。また、ISO 15883-2 は、手術器具、麻酔用具等の洗浄と消毒に用いられる WD に対する個別規格であり、手術医療を実施する施設の CSSD で使用される WD の多くが、同規格に適合している(規格認証の有無は WD の製造販売業者に確認する必要がある)。
前述の規格適合性の確認とは、すなわちバリデーションであり、同規格に適合する WD とは、国際的に必要とされる各種要求事項に適合していることになる。
ロボット手術器具の製造販売業者が WD による清浄化方法の評価及び製品適格性確認を実施する際には、その WD が ISO 15883-2 に適合していることが選定基準の一つとなる。
ただし、日本国内では WD 以外の洗浄器(例:超音波洗浄器)も多数用いられていることに鑑みて、日本国内での実情に合わせた洗浄器の選定、例えばロボット手術器具の洗浄工程が検証された実績を有する洗浄器を用いて製品適格性確認を行うことも考えられる。
C.2.2.2 実行可能な工程及び設定範囲
WD は、一般的に洗浄、すすぎ、熱水消毒、乾燥の各工程を連続したプロセスで自動実行するが、設定する工程と範囲(時間、温度、圧力、プロセスケミカルズの投入量等)については、RMD の要求に適合していなければその WD を使用できない。このことはロボット手術器具に対しても同様である。製造販売業者はロボット手術器具の洗浄プロセスを開発するにあたり、臨床上、付着することが予想される汚染の種類、及び製品適格性確保等の観点から、その WD が適用可能であるかを判断する。
C.2.2.3 監視可能なプロセス変数の範囲
WD のプロセス変数としては温度、時間、プロセスケミカルズの投入量、スプレイアームの回転、洗浄圧力が挙げられる。複数の材質が組み合わされるロボット手術器具の清浄化及び製品適格性確保の観点から、必要なプロセス変数に対する監視機能を装備している必要がある。
C.2.3 ラック、アクセサリ
ロボット手術器具はハウジング、シャフト、先端部が一体化されて分解できない構造である上、ハウジングと先端部をつなぐワイヤがシャフト内に収納される複雑な構造を有する。手術で使用されたロボット手術器具は、先端部内側とシャフト内部が汚染されるため、WD 本体から供給される水流を器具内部に還流させる必要がある。また、医療現場における WD は、ロボット手術器具以外にも様々な手術で使用された RMD を洗浄しており、槽内や循環系統に取り残された不溶性の微細な異物が、灌流によってロボット手術器具の内部に入り込むことで、製品適格性が損なわれる可能性があることを考慮し、必要に応じ、それらから製品を保護する施策を取り入れなければならない。
さらに加圧水流による揺動が、ロボット手術器具を破損させる恐れがあるため、固定方法についても検討、検証する必要がある。
ロボット手術器具は一般的な RMD と異なる特性を有することから、適用するラックとアクセサリは、清浄化と製品適格性確保の両面から設計される必要がある。
C.2.4 WD 以外の設備
ロボット手術器具は複雑な構造を有することから、WD による洗浄を適用する前に予備洗浄を行う場合がある。予備洗浄にはシンクの活栓による流水、恒温槽への浸漬、超音波洗浄、ウォーターガン、エアガンが使用されるのが一般的である。また、ブラシ、スポンジを使用する場合は、ロボット手術器具の製品適格性に影響を与えないものを選定する。
C.3 洗剤
C.3.1 概要
RMD の再生処理における洗浄工程は、無菌性保証水準(SAL≦10-6)を達成するために必要不可欠な工程であり、適切な洗浄を実施することが求められる。その洗浄工程における洗剤の化学的作用は重要であり、物理的作用と組み合わせることにより、洗浄効果が飛躍的に向上する。一方、洗剤は様々な化学物質から成る混合物であり、RMD は洗浄中それら化学物質と長時間接触する場合もあることから、RMD を構成する素材に対する影響を考慮しなければならない。よって、洗剤の特性を把握することは重要である。洗剤の特性や材質適合性等の基礎的な情報については、「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」の「第 2 章 医療現場における洗浄」に詳細に記載されているため割愛し、本章ではロボット手術器具を洗浄する際に知っておくべき洗剤の選定に関する情報について記載することとする。
C.3.2 洗剤選定で考慮すべき事項
RMD は、洗浄工程において洗剤と繰り返し接触するため、洗剤を選定する際は、洗剤が RMD の製品適格性に与える影響を考慮する。RMD の製品適格性とは、「安全性」・「品質」・「性能」であり、洗浄プロセス終了後に問題がないことを確認する。洗剤は、各確認項目に対して影響を及ぼす可能性が考えられるため、検証を行い、妥当性を確認するとよ
い。RMD の製品適格性と確認項目、そしてそれに対する洗剤関連因子と検証方法について表 C-1 に示す。
なお、RMD の品質及び性能に対する影響は、洗浄プロセス後ではなく、滅菌プロセス後に発生する場合があることに留意する。これは、洗浄プロセス中に洗剤成分が RMD 材質へ浸透し、蒸気滅菌など高温高圧に曝されることによりはじめて RMD 材質に変化をもたらす可能性があるためである。
表 C-1:製品適格性と検証方法
表省略
C.3.3 効果的な洗浄について
洗浄効果に影響を与える因子は多く、それらを最適化することにより効果的な洗浄が実現可能となる。洗浄効果に影響する因子と最適化例について表 C-2 に示す。
表 C-2:洗浄効果に影響を与える因子と最適化例
表省略
C.3.4 ロボット手術器具の使用から洗浄までの時間の影響
上記を検討して実施することで洗浄効果と製品適格性を両立させることができるが、現実には手術室にてロボット手術器具を使用してから洗浄を行うまでの時間を考慮する必要がある。使用後に洗浄するまでの時間を取扱説明書で規定しても、現場がこれを厳守することは様々な事情により容易でない。長時間放置が生じうるとの前提にたち、その影響の評価と対策、情報提供も重要である。
長時間放置される一例として、CSSD 業務時間外に器具類が持ち込まれるケースが生じうる。一般的な RMD が長時間放置された際に生じうる影響とその事前対策の一例を以下に紹介する。
- 影響① 付着した汚染物が乾燥して固着して洗浄抵抗性が高くなる可能性がある。その対策としては乾燥凝固防止策の適用又は前処理の実施がある。
- 影響② 汚染物との長時間接触によりロボット手術器具の材質腐食が生じる可能性がある。その対策としては、より腐食しにくい材質の選定、乾燥凝固防止剤の散布がある。
附属書 D 洗浄評価試験プロトコルの例
D.1 本附属書について
6.2 章「開発した再生処理方法の妥当性確認として行う洗浄評価試験」にて述べた洗浄評価試験のプロトコルの一例を示す。細部が省略されているので、洗浄評価試験を実施しようとする者は、社内の品質管理規定等に従って再現性のあるプロトコルを確立する必要がある。
注釈: このプロトコルは一例であり、全てが必須とは限らない。例えばヘモグロビン定性試験は「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」に含まれていない。
D.2 洗浄評価試験の流れ
図 D-1:洗浄評価試験の流れ
図省略
D.3 洗浄評価試験プロトコル
D.3.1 試験項目と合否判定基準
リスクアセスメントの結果に基づいて試験項目と合否判定基準を決定する。
表 D-1:試験項目と合否判定基準
表省略
D.3.2 供試器械
- 機械式鉗子 x 本
- モノポーラ鉗子 y 本
- バイポーラ鉗子 z 本
D.3.3 試験検体新品処理
D.4「洗浄」と同じ手順を 2 回実施する。
D.3.4 汚染
D.3.4.1 テストソイル
1mL あたり 10 単位(IU)のヘパリンを添加したヒツジ血 10mL を用い、1mL あたり 15 単位(IU)になるように硫酸プロタミン(ヘパリン添加ヒツジ血 10mL に 1%硫酸プロタミンを
0.15mL)を加える。
ISO 15883-5:2021 附属書 A、「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」 8.5.2 テストデバイスの準備に基づく。
D.3.4.2 汚染手順
規定した汚染手順を実施する。
表 D-2:汚染手順
番号 検体の汚染手順
1 手袋を装着する。
2 疑似汚染物を調製する。
3 鉗子先端部を疑似汚染物へ浸漬し、鉗子可動部を規定回数動作させる。
4 鉗子シャフト内へ疑似汚染物を注入する。
5 室温で1時間乾燥させる。
D.4 洗浄
評価対象とする洗浄手順を実施する。
D.5 抽出
ISO 15883-1:2006 附属書 C に記載されている 1%SDS 溶液を用いた抽出方法に基づき実施する。
表 D-3: 検体の抽出手順
番号 検体の抽出手順
1 鉗子先端部を 1%SDS 溶液へ浸漬し、鉗子可動部を規定回数動作させ、溶液を回収する。
2 鉗子シャフト内へ 1%SDS 溶液を注入し、鉗子可動部を規定回数動作させ、溶液を回収する。
合否判定
D.5.1 判定項目
D.5「抽出」で得た溶液に対して次の試験を行ない、合否判定する。
D.5.2 ヘモグロビン定性試験
試験紙に規定量の溶液を染み込ませ、試験紙が呈色したか否かを目視にて確認する。
D.5.3 残留タンパク質測定
ISO 15883-1 附属書 C に基づき実施する。「医療現場における滅菌保証のガイドライン
2021」に記載の残留タンパク質の許容量を下回っていることを確認する。
注釈: 1%SDS 溶液を用いて抽出したので、CBB 法を用いることはできない。「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」8.6 蛋白質の定量測定を参照。
附属書 E 参考文献
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[3] von Landenberg, Nicolas, Alexander P. Cole, Philipp Gild and Quoc-Dien Trinh. Challenging Residual Contamination of Instruments for Robotic Surgery in Japan. Infect Control Hosp Epidemiol 38(4): 501-502, 2017.
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(日本語訳) https://www.smplabjapan.com/de-guideline2017
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Reprocessing Process
(日本語訳) https://www.smplabjapan.com/single-post/スイス ig-wig-da-vinci 機器の再生処理プロセスバリデーションに関するガイドラインの和訳掲載についてロボット支援手術機器ツール部の洗浄処理に関する開発 WG 委員
座長 高階 雅紀 大阪大学医学部附属病院 病院教授材料部部長、サプライセンター長、
MEサービス部部長、手術部副部長
安藤 岳洋 朝日サージカルロボティクス株式会社 代表取締役社長
池田 誠 エスエムピー・ラボラトリーズ・ジャパン株式会社 副社長
市橋 友子 聖路加国際大学 聖路加国際病院 中央滅菌課
小林 英津子 東京大学大学院 工学系研究科精密工学専攻 教授
篠原 一彦 東京工科大学 教授医療保健学部 臨床工学科 医療保健学部長
清水 応健 株式会社イヌイメデイックス開発研究所 所長
辻 昭弘 株式会社メディカロイド 開発部 兼 マーケティング部 係長
深柄 和彦 東京大学医学部附属病院教授手術部 手術部部長、材料管理部部長
藤田 敏 クリーンケミカル株式会社 技術部 第一開発グループ 課長
松本 慎一 村中医療器株式会社 システム営業部 部長
宮下 清照 リバーフィールド株式会社 薬事統括部 部長
(敬称略、委員所属等は WG 活動当時のものである)
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引用関連規格 |
附属書 A 解説
A.1 本ガイダンスの審議で議論となった事項
A.1.1 本章の目的
本章では、ワーキンググループが本ガイダンスについて議論した事項について説明する。
A.1.2 ロボット手術器具の洗浄に求められるもの
ロボット手術器具を医療施設にて洗浄するには、「洗浄方法が妥当であること(必要な洗浄性能が得られること)」「洗浄の品質マネジメントができていること(その洗浄性能が安定的に得られること)」の2点が必要である。ワーキンググループでは、ロボット手術器具の洗浄に関して製造販売業者と医療施設の間の責任分限が繰り返し議論となった。さらにロボット手術器具の洗浄に関しては各国で規制状況に若干の相違がある。グローバルに事業展開するために必要な事項として国際規格の要求事項と、国内規制上の要求事項を以下に整理する。
A.1.2.1 海外での規制要求事項
欧州の医療機器規制(MDR)では、医療機器への規制として EN 規格又はこれとハーモナイズする国際規格への適合性を要求する。ロボット手術器具の洗浄に関係する国際規格としては、IEC 60601-1、ISO 15883-5 と ISO 17664-1 が存在する。さらに、ドイツ、米国等では医療施設における洗浄プロセスを ISO 13485 に基づく品質マネジメントシステムとして運用すること、監査を受けて認証を受けることが求められている。
ロボット手術器具に関する製品規格として IEC 60601-1 とその個別規格である
IEC 80601-2-77 が適用される。同規格は細分箇条 11.6.6(ME 機器及び ME システムの清掃及び消毒)、11.6.7(ME 機器及び ME システムの滅菌)において、清掃(本ガイダンスの「洗浄」と同義)が耐久性に及ぼす影響の評価を求めているが、洗浄そのものについては要求を定めていない。
ISO 15883 シリーズは WD に関する規格群であり、このうち ISO 15883-5 は WD の洗浄性能の評価方法を規定している。同規格は厳密には医療機器の洗浄評価方法の規格ではないが、WD を用いた医療機器の洗浄方法の評価に用いられている。他に国際標準化された洗浄評価方法が存在しない。洗浄性能に関する MDR 上の規制値は規定されていないが、ドイツでは DGKH, DGSV, AKI によるガイドラインが医療施設に対する基準として設定されている[8]。この基準を達成できない医療機器はドイツの医療施設では使用できないため、医療機器にとってもこの基準は必須である。
米国では、FDA からガイダンス”Reprocessing Medical Devices in Health Care
Settings: Validation Methods and Labeling” (2015)[9]が公表されており、これに従う。この中では基本的な考え方、AAMI TIR 12 及び 30 等の参考とする文書、Human factor と取扱説明書による情報提供、再生処理方法のバリデーションを主に述べている。この中では最悪条件を模した評価試験を行うことが述べられており、本ガイダンス 6.3 章等で扱っているエネルギーデバイスによる加熱の影響、使用時の汚染源への曝露、使用後の乾燥の影響にも言及している。なお、2024 年 2 月時点で、FDA は ISO 15883 シリーズを
recognized consensus standards としておらず、ISO 17664-1 を部分的に recognized している。細分箇条 6.6.1.1(自動化された洗浄方法に関する要求)は[9]と整合しないとしている。
ISO に代表される欧州の考え方は、機械洗浄を主とし用手洗浄を従とするもの、その背景として洗浄評価のバリデーションでは Human factor を極力排除することを重視したと捉えることができる。一方、米国の考え方は、医療施設によっては機械洗浄が必ずしも可能ではないことから機械洗浄を必須とせず、製造販売業者と医療施設にとって適した洗浄方法を選ぶ余地を残したと捉えることができる。また、洗浄担当者の労働安全に関して、欧州は防護具よりも本質的な消毒を優先し、米国は現場の現況を重視した考え方と言える。
A.1.2.2 国内での規制要求事項
2022 年 1 月までに国内で認可されたロボット手術器具は 24 品目存在する。ベッセルシーラー等の一部のエネルギーデバイスを除き、医療機器クラス分類Ⅱとなっている。8品目が基づく大臣承認品目、残りは認証品目である。
ロボット手術器具の洗浄に関係する要求事項としては、
- 医療機器の基本要件 第7条(医療機器の化学的特性等)、第8条(微生物汚染等の防止)
- 「医療機器の製造販売承認申請書添付資料の作成に際し留意すべき事項について」(平成 27 年 1 月 20 日付 薬食機参発 0120 第 9 号) 使用方法の妥当性に関する評価、再滅菌を行って使用することを前提とする医療機器の耐久性に関する検討、滅菌バリデーションの実施状況
- 基本要件により引用される、JIS T 0601-1:2017 細分箇条 11.6.6 及び 11.6.7
- 医療機器の添付文書の記載要領(「医療機器の添付文書の記載要領の改正について」(平成 26 年 10 月 2 日付 薬食発 1002 第 8 号)と関連通知
が挙げられる。薬食機参発 0120 第 9 号では「使用方法が従前と異なる医療機器にあっては、使用方法の妥当性について評価する」とされている。また滅菌バリデーションの前提には、適切な洗浄が実施されていることが含まれている。JIS T 0601-1「清掃」では耐久性に及ぼす影響の評価を求めている。一方、洗浄性能に関する医療機器規制上の基準値は規定されていない。
我が国の医療施設では、医療法により定められている「医療の安全の確保のための措置」が実施されている。「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」は洗浄を含む再生処理プロセスを QMS の元で実施することを勧告している。
A.1.3 ロボット手術器具の洗浄に適用可能な WD
本ガイダンスではロボット手術器具の製造販売業者が使用可能な WD の機種を挙げて提示することとしなかった。しかし使用可能な WD を拡充していくことが期待される。
用手洗浄は医療施設の現場の負担が大きいので WD による機械洗浄が期待される。WD に関する現場の主な関心は「どの WD なら利用可能か」「現在保有している WD は利用可能か」であろう。現場はロボット手術器具の洗浄に適した WD の条件、なるべくならば機種名が明示的に示され、使用可能な WD を選ぶ際の参考になる情報を望んでいる。
一方、ロボット手術器具の製造販売業者にとっては、多数存在する WD 機種と洗浄条件(洗剤、水質等を含む)について試験評価を実施することは大きな負担となる。本ガイダンスで述べてきたように、ロボット手術器具の内部の清浄性を現場で確認する簡便な方法がないので、洗浄方法の妥当性はロボット手術器具の製造販売業者が担保しなければならない。この点は用手洗浄でも WD による洗浄でも同じである。WD の規格適合を以てロボット手術器具の洗浄性能を担保するということが(現段階では)できないが、WD のマスター製品を定めてその WD で評価するといった方法も考えられる。
これらに鑑みて、本ガイダンスでは用手洗浄と機械洗浄の両方を扱うこととし、ロボット手術器具の製造販売業者が使用可能な WD の機種を挙げて提示すべきであるか否かには言及しないこととした。
A.1.4 温度・化学的条件の洗浄への影響
本ガイダンス 6 章では「60℃以上の洗浄工程や熱水消毒工程を適用しない」とした。これは、タンパク質の熱変性により残留タンパク質の回収が困難となり、その定量結果に影響を与えるためである(参考:「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」 8.1 章)。
WD で実施する場合は途中で装置を止めて洗浄物を取り出さねばならない。WD は高温を加えることを意図する装置であるから、この洗浄評価試験はその WD 自身の洗浄能力の評価としてはある種の妥協を含んでいる。
残留タンパク質の定量には化学的な条件も強く影響する。残留タンパク質の微量定量にあたっては洗浄に用いるケミカルズの影響も含めて検討する必要がある。さらに、熱変性したタンパク質を溶解させる条件も報告されており[10]、将来的には熱水消毒工程を経た後のタンパク質定量方法の確立が期待される。規格等で設定されている残留タンパク質の定量方法と影響する因子、これらの技術動向については参考文献[11] V 項に詳述されており参考になる。
A.2 本ガイダンスにて扱わないこととした事項
A.2.1 整形外科用のロボット手術器具
国内外にて整形外科手術用のロボット支援手術機器が開発・上市されている。しかし、ワーキンググループは次の理由で本文書にてこれらを扱わないことにした。
- これまでに上市された整形外科手術用のロボット支援手術機器ではロボット手術器具がリーマといった既存の手術器具であることから、ロボット支援手術機器に特有の洗浄プロセスに関する特段の要求事項がない.
- 整形外科分野は全体的に清潔性に関して要求が厳しく、内視鏡手術用のロボット手術器具と同じ注意事項が適用できるとは限らない。
A.2.2 再製造や修理に該当する再生処理
これらはそれぞれ再製造を行う製造販売業者、修理業者による業行為であり、洗浄に対する要求も異なっている。
A.2.3 医療施設が実施するロボット手術器具の洗浄の PQ
本ガイダンスは、製造販売業者を主な利用者として想定したので、医療施設がロボット手術器具の洗浄手順について PQ を行う方法については扱わなかった。一般の手術器具を扱う洗浄プロセスの PQ については「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」にその方法が解説されている。また、da Vinci のロボット手術器具の再生処理 PQ に関する実践的な解説が公表されており参考になる[12]。
附属書 B ロボット手術器具の洗浄プロセスに関連する、「安全に関する特質の明確化」において検討すべき要因の例
JIS T 14971 の細分箇条 5.3 では、医療機器の安全に影響する定性的及び定量的特質を特定し、文書化することとされている。以下に、ロボット手術器具の洗浄プロセスの観点から考慮することが望ましい要因を TR T 24971 附属書 A.2 に沿って例示した。以下、
(A.2.x)は同附属書 A.2 の項目番号である。なお、同附属書は全ての医療機器に適用するように記載されているので、ここではロボット手術器具の洗浄プロセスに関連しない事項は省略した。
どのような物質若しくは部品が医療機器に組み込まれているか、又は医療機器とともに使われるか、若しくは接触するか (A.2.4)
洗浄プロセスがロボット手術器具及び洗浄時に必要なアクセサリ の物質の組成や物性に影響を与える可能性がある。
患者にエネルギーを与えるか (A.2.5)
エネルギーデバイスの方が機械式ツールよりも多くの残留物が検出されたとの研究発表がある。エネルギーデバイスは患者にエネルギーを与え、その結果自身も温度が上昇する。その熱作用によりロボット手術器具に生体組織が固着して洗浄性に影響を与える可能性がある。
医療機器は、ユーザーが定期的に洗浄及び消毒することを意図しているか (A.2.9)
製造販売業者におけるロボット手術器具の洗浄プロセスの設計・開発に関連する事項。例えば、
- 各洗浄工程における汚染物の減少の変化。
- どのような箇所に汚染物の付着が残留しやすいか。
- 各洗浄工程により汚染物の再付着する可能性はあるか。
安全性に影響を与えないプロセスケミカルズ及び消毒剤の選定。例えば、
- pH 値。
- 浸漬時間等の耐薬品・腐食性・錆の影響。
- すすぎ性。
- 洗浄を実施する際の水質。
洗浄時の操作性に関連する事項。例えば、
- 安全に洗浄作業を実施できるか。
- ロボット手術器具のシャフト部内部(気密シールで区画された部分)の洗浄が必要か。
- 洗浄が必要なアクセサリがロボット手術器具に与える影響。
- 洗浄が必要なアクセサリ自体の劣化。
- (該当する場合)洗浄機毎の機能及び性能がロボット手術器具の洗浄結果に与える影響。
- (該当する場合)エアーブローの実施がロボット手術器具の洗浄結果並びに機能及び性能に与える影響。
好ましくない物質を排出するか (A.2.14)
意図しない物質のロボット手術器具への残留。例えば、
- 製造工程にて使われる物質(除去するための新品処理洗浄が必要になる可能性)。
- 材料又はプロセスケミカルズ等に由来する成分(洗浄評価に用いる測定に影響を与える可能性)。
医療機器は、環境的影響を受けやすいか (A.2.15) 例えば、手術室から中央材料室への輸送時の影響。
医療機器は、環境に影響を及ぼすか (A.2.16)
例えば、中央材料室内の汚染。
医療機器は消耗品又は附属品を必要とするか (A.2.17)
例えば、アクセサリの仕様及び交換時期。
医療機器は、情報へのアクセスを許可するか (A.2.20)
例えば、ロボット手術器具内にあるメモリーに接続されている電気接点への影響。
医療機器は、どのような機械的力を受けるか (A.2.24)
考慮することが望ましい要因としては、搬送時の振動、ブラッシング又はフラッシングによる機械的な力、アクセサリによる機械的な力の及ぼす影響がある。例えば、
- 振動や操作(洗浄操作等)の影響。
- 材質の変化による劣化、伸長。
- 動作による損傷(ワイヤの損傷、等)。
何が医療機器の寿命を決定するか(A.2.25)
例えば、洗浄の繰り返しによるストレス(機械的、化学的、熱的)の影響。
医療機器の使用は、特別な訓練又は特別な技能を必要とするか (A.2.28)
例えば、洗浄担当者への特別な訓練又は特別な技能の要否。
安全に関する情報がどのように供給されるのか (A.2.29) 例えば、洗浄担当者への情報提供の要否。
医療機器の適切な使用は、ユーザーインターフェイスのユーザビリティに依存するか
(A.2.31)
- 洗浄担当者は「使用者」とみなす必要がある。
どのようにして医療機器が誤使用されるのか(故意か、どうか) (A.2.33) 考慮することが望ましい要因は、例えば、
- 医療施設において、術後の使用済みロボット手術器具を回収する際に製造販売業者が推奨した回収方法で回収されない可能性。
- また回収後の洗浄プロセスにおいて、指示する取扱説明書通りに実施せず、手順の省略又は改変する可能性。
附属書 C 機材の基礎知識
C.1 ロボット手術器具
C.1.1 概要
ロボット支援手術機器のロボット手術器具は、一般的に製造販売業者の定める使用回数まで複数回の手術に使用できる仕様とされている。複数回の手術に使用する場合には、手術完了後に医療施設にてロボット手術器具の洗浄滅菌を実施する。
ロボット手術器具の種類は、エネルギーデバイスと非エネルギーデバイスに大別することができる。エネルギーデバイスの代表例は、モノポーラ、バイポーラ、及びステープラ等の高周波能動処置具としての機能をもつものである。非エネルギーデバイスの代表例は、高周波能動処置具としての機能をもたない把持用ロボット手術器具や切離用ロボット手術器具等である。
C.1.2 国際規格
IEC 80601-2-77 (Medical electrical equipment – Part 2-77: Particular requirements
for the basic safety and essential performance of robotically assisted surgical
equipment)にロボット手術器具 (robotic surgical instrument)に関する記述があり、参考とすることが可能である。
C.1.3 形状、構造、及び原理
ロボット手術器具の一般的な形状、構造及び原理を示す。
- ハウジング部、シャフト部、先端部から構成される(図 C-1)。
- ハウジング部は、ロボット手術器具をロボットアーム先端に装着する部分であり、カートリッジ部背面にはロボットアーム先端からの動力をロボット手術器具に伝達する駆動子がある。また、カートリッジ部端面には、ロボット手術器具内部を洗浄するためのフラッシュポートがある。
- シャフト部は、内視鏡下での手術を実現する為に一定以上の長さをもち、内部にはロボット手術器具先端を駆動させるためのワイヤや、洗浄水を先端部まで流すためのルーメンがある。エネルギーデバイスの場合には、シャフト部内に電線等も配置される。 ワイヤ及び電線類がシャフト部内外を貫通する部分には、内視鏡手術における気腹圧を維持するための気密シールが存在する(図 C-1 矢印部)。
- 先端部は、用途により形状が異なり、例えば、把持、切離、電気焼灼、ステープリング等のそれぞれの目的に応じた形状がある。先端部に 2 つ以上の関節をもつものもあり、鋼製器具や内視鏡処置具に比較して複雑な構造をもつ傾向にある。
- ロボット手術器具はユーザーが分解できない構造となっている。
図 C-1:ロボット手術器具模式図例 上:フラッシュポートとシャフト内部の通水管
下:先端部の構造(ワイヤ及び電線類が気密シールを介してシャフト内外を貫いている) 図省略
C.2 ウォッシャーディスインフェクター (WD)
C.2.1 概要
WD は 1970 年代にドイツで開発された洗浄器であり、現在、国内の医療施設が採用する自動洗浄方法において、他の方法と比較して多用されている。対象とする RMD は一般的な手術器械以外に、鏡視下手術器具、マイクロ手術器具、麻酔用具、各種容器等広範囲におよぶ。
チャンバ内に取り入れた洗浄液やすすぎ水を循環ポンプで加圧し、スプレーアームやノズルを通じて汚染された RMD に噴射することで、洗浄、すすぎ、90~93℃の熱水を用いた消毒、ヒータにより加温された温風を槽内に供給することで乾燥を行う。
近年、WD はロボット手術器具のハウジングとシャフト内部への通水が可能な専用ラック、アクセサリとともに、ロボット手術器具の洗浄に応用されているが、医療現場においては WD を適用する前に、前処理(浸漬、加圧水によるフラッシング、エアガンによる水切り、等)が施されている。
ロボット手術器具は、一般的な RMD と比較して処理時間が長く、前洗浄から機械洗浄に至る過程で消費されるプロセスケミカルズの消費量も多い。これはロボット手術器具の構造や材質の特性に起因するため、より簡便に汚染を除去できる特性を備えることが今後の課題といえる。
C.2.2 ロボット手術器具に適用する WD の条件
C.2.2.1 国際規格
ISO 15883-1 は、医学、歯学、製薬及び獣医学の領域において RMD の洗浄と消毒に用いられる WD 全般に対する水平規格であり、パート 2 以降で異なる類型の WD が共通して備えるべき機械的要求事項、性能要求事項及びそれらに対する適合性を確認するための試験要求事項を規定している。また、ISO 15883-2 は、手術器具、麻酔用具等の洗浄と消毒に用いられる WD に対する個別規格であり、手術医療を実施する施設の CSSD で使用される WD の多くが、同規格に適合している(規格認証の有無は WD の製造販売業者に確認する必要がある)。
前述の規格適合性の確認とは、すなわちバリデーションであり、同規格に適合する WD とは、国際的に必要とされる各種要求事項に適合していることになる。
ロボット手術器具の製造販売業者が WD による清浄化方法の評価及び製品適格性確認を実施する際には、その WD が ISO 15883-2 に適合していることが選定基準の一つとなる。
ただし、日本国内では WD 以外の洗浄器(例:超音波洗浄器)も多数用いられていることに鑑みて、日本国内での実情に合わせた洗浄器の選定、例えばロボット手術器具の洗浄工程が検証された実績を有する洗浄器を用いて製品適格性確認を行うことも考えられる。
C.2.2.2 実行可能な工程及び設定範囲
WD は、一般的に洗浄、すすぎ、熱水消毒、乾燥の各工程を連続したプロセスで自動実行するが、設定する工程と範囲(時間、温度、圧力、プロセスケミカルズの投入量等)については、RMD の要求に適合していなければその WD を使用できない。このことはロボット手術器具に対しても同様である。製造販売業者はロボット手術器具の洗浄プロセスを開発するにあたり、臨床上、付着することが予想される汚染の種類、及び製品適格性確保等の観点から、その WD が適用可能であるかを判断する。
C.2.2.3 監視可能なプロセス変数の範囲
WD のプロセス変数としては温度、時間、プロセスケミカルズの投入量、スプレイアームの回転、洗浄圧力が挙げられる。複数の材質が組み合わされるロボット手術器具の清浄化及び製品適格性確保の観点から、必要なプロセス変数に対する監視機能を装備している必要がある。
C.2.3 ラック、アクセサリ
ロボット手術器具はハウジング、シャフト、先端部が一体化されて分解できない構造である上、ハウジングと先端部をつなぐワイヤがシャフト内に収納される複雑な構造を有する。手術で使用されたロボット手術器具は、先端部内側とシャフト内部が汚染されるため、WD 本体から供給される水流を器具内部に還流させる必要がある。また、医療現場における WD は、ロボット手術器具以外にも様々な手術で使用された RMD を洗浄しており、槽内や循環系統に取り残された不溶性の微細な異物が、灌流によってロボット手術器具の内部に入り込むことで、製品適格性が損なわれる可能性があることを考慮し、必要に応じ、それらから製品を保護する施策を取り入れなければならない。
さらに加圧水流による揺動が、ロボット手術器具を破損させる恐れがあるため、固定方法についても検討、検証する必要がある。
ロボット手術器具は一般的な RMD と異なる特性を有することから、適用するラックとアクセサリは、清浄化と製品適格性確保の両面から設計される必要がある。
C.2.4 WD 以外の設備
ロボット手術器具は複雑な構造を有することから、WD による洗浄を適用する前に予備洗浄を行う場合がある。予備洗浄にはシンクの活栓による流水、恒温槽への浸漬、超音波洗浄、ウォーターガン、エアガンが使用されるのが一般的である。また、ブラシ、スポンジを使用する場合は、ロボット手術器具の製品適格性に影響を与えないものを選定する。
C.3 洗剤
C.3.1 概要
RMD の再生処理における洗浄工程は、無菌性保証水準(SAL≦10-6)を達成するために必要不可欠な工程であり、適切な洗浄を実施することが求められる。その洗浄工程における洗剤の化学的作用は重要であり、物理的作用と組み合わせることにより、洗浄効果が飛躍的に向上する。一方、洗剤は様々な化学物質から成る混合物であり、RMD は洗浄中それら化学物質と長時間接触する場合もあることから、RMD を構成する素材に対する影響を考慮しなければならない。よって、洗剤の特性を把握することは重要である。洗剤の特性や材質適合性等の基礎的な情報については、「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」の「第 2 章 医療現場における洗浄」に詳細に記載されているため割愛し、本章ではロボット手術器具を洗浄する際に知っておくべき洗剤の選定に関する情報について記載することとする。
C.3.2 洗剤選定で考慮すべき事項
RMD は、洗浄工程において洗剤と繰り返し接触するため、洗剤を選定する際は、洗剤が RMD の製品適格性に与える影響を考慮する。RMD の製品適格性とは、「安全性」・「品質」・「性能」であり、洗浄プロセス終了後に問題がないことを確認する。洗剤は、各確認項目に対して影響を及ぼす可能性が考えられるため、検証を行い、妥当性を確認するとよ
い。RMD の製品適格性と確認項目、そしてそれに対する洗剤関連因子と検証方法について表 C-1 に示す。
なお、RMD の品質及び性能に対する影響は、洗浄プロセス後ではなく、滅菌プロセス後に発生する場合があることに留意する。これは、洗浄プロセス中に洗剤成分が RMD 材質へ浸透し、蒸気滅菌など高温高圧に曝されることによりはじめて RMD 材質に変化をもたらす可能性があるためである。
表 C-1:製品適格性と検証方法
表省略
C.3.3 効果的な洗浄について
洗浄効果に影響を与える因子は多く、それらを最適化することにより効果的な洗浄が実現可能となる。洗浄効果に影響する因子と最適化例について表 C-2 に示す。
表 C-2:洗浄効果に影響を与える因子と最適化例
表省略
C.3.4 ロボット手術器具の使用から洗浄までの時間の影響
上記を検討して実施することで洗浄効果と製品適格性を両立させることができるが、現実には手術室にてロボット手術器具を使用してから洗浄を行うまでの時間を考慮する必要がある。使用後に洗浄するまでの時間を取扱説明書で規定しても、現場がこれを厳守することは様々な事情により容易でない。長時間放置が生じうるとの前提にたち、その影響の評価と対策、情報提供も重要である。
長時間放置される一例として、CSSD 業務時間外に器具類が持ち込まれるケースが生じうる。一般的な RMD が長時間放置された際に生じうる影響とその事前対策の一例を以下に紹介する。
- 影響① 付着した汚染物が乾燥して固着して洗浄抵抗性が高くなる可能性がある。その対策としては乾燥凝固防止策の適用又は前処理の実施がある。
- 影響② 汚染物との長時間接触によりロボット手術器具の材質腐食が生じる可能性がある。その対策としては、より腐食しにくい材質の選定、乾燥凝固防止剤の散布がある。
附属書 D 洗浄評価試験プロトコルの例
D.1 本附属書について
6.2 章「開発した再生処理方法の妥当性確認として行う洗浄評価試験」にて述べた洗浄評価試験のプロトコルの一例を示す。細部が省略されているので、洗浄評価試験を実施しようとする者は、社内の品質管理規定等に従って再現性のあるプロトコルを確立する必要がある。
注釈: このプロトコルは一例であり、全てが必須とは限らない。例えばヘモグロビン定性試験は「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」に含まれていない。
D.2 洗浄評価試験の流れ
図 D-1:洗浄評価試験の流れ
図省略
D.3 洗浄評価試験プロトコル
D.3.1 試験項目と合否判定基準
リスクアセスメントの結果に基づいて試験項目と合否判定基準を決定する。
表 D-1:試験項目と合否判定基準
表省略
D.3.2 供試器械
- 機械式鉗子 x 本
- モノポーラ鉗子 y 本
- バイポーラ鉗子 z 本
D.3.3 試験検体新品処理
D.4「洗浄」と同じ手順を 2 回実施する。
D.3.4 汚染
D.3.4.1 テストソイル
1mL あたり 10 単位(IU)のヘパリンを添加したヒツジ血 10mL を用い、1mL あたり 15 単位(IU)になるように硫酸プロタミン(ヘパリン添加ヒツジ血 10mL に 1%硫酸プロタミンを
0.15mL)を加える。
ISO 15883-5:2021 附属書 A、「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」 8.5.2 テストデバイスの準備に基づく。
D.3.4.2 汚染手順
規定した汚染手順を実施する。
表 D-2:汚染手順
番号 検体の汚染手順
1 手袋を装着する。
2 疑似汚染物を調製する。
3 鉗子先端部を疑似汚染物へ浸漬し、鉗子可動部を規定回数動作させる。
4 鉗子シャフト内へ疑似汚染物を注入する。
5 室温で1時間乾燥させる。
D.4 洗浄
評価対象とする洗浄手順を実施する。
D.5 抽出
ISO 15883-1:2006 附属書 C に記載されている 1%SDS 溶液を用いた抽出方法に基づき実施する。
表 D-3: 検体の抽出手順
番号 検体の抽出手順
1 鉗子先端部を 1%SDS 溶液へ浸漬し、鉗子可動部を規定回数動作させ、溶液を回収する。
2 鉗子シャフト内へ 1%SDS 溶液を注入し、鉗子可動部を規定回数動作させ、溶液を回収する。
合否判定
D.5.1 判定項目
D.5「抽出」で得た溶液に対して次の試験を行ない、合否判定する。
D.5.2 ヘモグロビン定性試験
試験紙に規定量の溶液を染み込ませ、試験紙が呈色したか否かを目視にて確認する。
D.5.3 残留タンパク質測定
ISO 15883-1 附属書 C に基づき実施する。「医療現場における滅菌保証のガイドライン
2021」に記載の残留タンパク質の許容量を下回っていることを確認する。
注釈: 1%SDS 溶液を用いて抽出したので、CBB 法を用いることはできない。「医療現場における滅菌保証のガイドライン 2021」8.6 蛋白質の定量測定を参照。
附属書 E 参考文献
[1] Wallace B, Wille F, Roth K, Hubert H: Results of Performance Qualification Testing on Clinically-Used da Vinci EndoWrist Instruments at Hospitals in Germany. Central Service 3:182-187, 2015.
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[3] von Landenberg, Nicolas, Alexander P. Cole, Philipp Gild and Quoc-Dien Trinh. Challenging Residual Contamination of Instruments for Robotic Surgery in Japan. Infect Control Hosp Epidemiol 38(4): 501-502, 2017.
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2022.
[11] 厚生労働省再製造 SUD 基準策定等事業, 令和 3 年度再製造 SUD 推進検討委員会報告書, 2022. https://dmd.nihs.go.jp/rsud_public/
[12] IG WiG Working Group 編, Recommendation, Validation of da Vinci Instrument
Reprocessing Process
(日本語訳) https://www.smplabjapan.com/single-post/スイス ig-wig-da-vinci 機器の再生処理プロセスバリデーションに関するガイドラインの和訳掲載についてロボット支援手術機器ツール部の洗浄処理に関する開発 WG 委員
座長 高階 雅紀 大阪大学医学部附属病院 病院教授材料部部長、サプライセンター長、
MEサービス部部長、手術部副部長
安藤 岳洋 朝日サージカルロボティクス株式会社 代表取締役社長
池田 誠 エスエムピー・ラボラトリーズ・ジャパン株式会社 副社長
市橋 友子 聖路加国際大学 聖路加国際病院 中央滅菌課
小林 英津子 東京大学大学院 工学系研究科精密工学専攻 教授
篠原 一彦 東京工科大学 教授医療保健学部 臨床工学科 医療保健学部長
清水 応健 株式会社イヌイメデイックス開発研究所 所長
辻 昭弘 株式会社メディカロイド 開発部 兼 マーケティング部 係長
深柄 和彦 東京大学医学部附属病院教授手術部 手術部部長、材料管理部部長
藤田 敏 クリーンケミカル株式会社 技術部 第一開発グループ 課長
松本 慎一 村中医療器株式会社 システム営業部 部長
宮下 清照 リバーフィールド株式会社 薬事統括部 部長
(敬称略、委員所属等は WG 活動当時のものである)
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