人工心臓開発ガイダンス2024

ガイドラインID 2024-E-DE-062
発出年月日
発出番号
WG名 高機能人工心臓システム開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 医療機器
分野

人工心臓

GL日本語版ファイル

2024-E-DE-062 人工心臓開発ガイダンス2024

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. 序文
1.1. 背景
人工心臓の歴史は 19 世紀初めに Le Gallois により心臓の代わりに全身組織に送血する機構が提案されたことから始まった。その後、1920 年代に Charles Lindbergh が外科医 Alexis Carrel と種々の人工心臓を考案、1937 年に Vladimir Demikhov が外部モータと皮膚貫通シャフトを用いた2室式人工心臓で犬を 5.5 時間生存させた。本格的な人工心臓の研究開発は、1958 年に阿久津哲造と Willem J Kolff が拍動流型の完全置換型人工心臓(TAH)を植えた犬を 90 分間生存させたところから始まる。その後、改良が重ねられ、1969 年に Domingo Liotta が初めて拍動流 TAH を心臓移植の Bridge Use として人に植込んだ。一方、補助人工心臓(VAD)に関しては心臓移植の進歩と相まって、1963 年に Liotta により、空気圧駆動型の拍動流 VAD が臨床応用されている。その後、空気圧駆動ポンプから電気駆動ポンプに研究開発は進み、1994 年に拍動流ポンプである HeartMate I の電気駆動改良型が米国 FDA に認可されて、ポータブル電源と共に病院外に出ることができる植込み型 VAD の臨床応用が始まった。20 世紀末から、ターボポンプを用いた連続流ポンプの VAD への適用が広がり、拍動流ポンプと比較して、小型なサイズ、良好な抗血栓性、耐久性により、現在では VAD のほとんどが連続流ポンプである。
そして 2007 年に「体内埋め込み型能動型機器分野(高機能人工心臓システム)開発ガイドライン 2007」(以下、「人工心臓開発ガイドライン 2007」[1])が、2008 年に「次世代型高機能人工心臓の臨床評価のための評価指標」が公表された。これらを活用しつつ、産学の糾合により国産の人工心臓、正確には左室補助人工心臓(LVAD)の2品目が製造販売承認を得て上市された。
人工心臓開発ガイドライン 2007 が公表されて 15 年が経過し、海外で開発された HeartMate3 が日本国内でも 2019 年に上市され、2021 年 4 月には Destination Therapy (DT)が保健収載された。このほか、海外では欧米だけでなくアジア諸国でも開発と事業化の動きは連綿と続いている。一方、国内勢は1社が撤退、1社が開発を継続するものの DT を承認に含む国産製品は 2023 年時点、未だ登場していない。さらに、実用化が切望されている小児用 VAD や小柄なアジア人の体格に適した小型の人工心臓、TAH に関しても実用レベルには達していない。
この 15 年間の人工心臓の開発と評価に関する技術動向としては、in vitro 実験技術、数値計算技術の進歩があった。これらを開発・評価プロセスに活用することが期待されている。これらを受けて、2023 年時点の技術水準に照らして、人工心臓開発ガイドライン 2007 を改訂することとなった。改訂履歴は附属書 F にまとめられている。
1.2. 本ガイダンスの目的
本ガイダンスは、人工心臓の製品実現において特に技術的な課題となる血液ポンプとその駆動装置を中心に、その開発と非臨床評価の際に参考となる技術事項を解説する。これにより、人工心臓の開発、特に新規開発に取り組む企業及び研究者の手引きとすることを目的とする。
本ガイダンスは人工心臓開発ガイドライン 2007 を完全に置き換える。また、本ガイダンスは同時に改訂される「植込型補助人工心臓に関する評価指標」(以下、「評価指標 2023」 [2 ])と併せて用いることを想定し、評価指標の改訂版の内容を補完することも目的とする。また、本ガイダンス、評価指標及び関連する規格に沿って実行すれば良い事項、開発者が独自に検討して決定すべき事項を明確化する。さらに、本ガイドラインでは欧米での認可取得を視野に、その重要な要件となる国際規格への整合性についても解説する。
一方、本ガイダンスは対象の医療機器の製品実現において要求される事項を漏れなく指摘することを意図していない。本ガイダンスは医薬品医療機器等法上の要求事項を規定するものではなく、本ガイダンスに準拠することが製造販売承認を保証するものではない。人工心臓に対しては、「国内市場が極めて小さく、人工心臓を新規で開発する大手企業やベンチャー企業等が登場する可能性が低い」といった悲観的な意見も存在する。一方、前記の通り人工心臓には医療上のアンメットニーズ、特に体格の小さなアジア人用や小児用のポンプといった重要分野が存在する。そこで、人工心臓開発ガイドライン 2007 を改訂することで、我が国は人工心臓、ひいては難度の高い治療機器の開発を放棄しないとのメッセージとし、国による次の開発支援策と、医療と人を思う志ある企業の参入とこれを支える心ある資本家の参入を促していく。
2. 適用範囲、文書の構成
2.1. 適用範囲
本ガイダンスは、人工心臓(主に植込型 VAD)の設計、開発、in vitro 評価までを対象とする。
また、本ガイダンスは人工心臓以外の血液ポンプその他の機械的送血機構、例えば膜型人工肺による体外循環(ECMO; Extracorporeal Membrane Oxygenation)で用いる血液ポンプ、人工心肺用の血液ポンプの設計から in vitro 評価までに参考にすることができる。
植込型補助人工心臓の in vivo 評価及び臨床試験は評価指標 2023 に詳しく述べられている。
ポンプの駆動方式、軸受構造、対象とする患者群等は限定しない。
2.2. 想定する利用者
本ガイダンスは、人工心臓及びその他の血液ポンプを研究・開発する企業・研究機関の研究者、技術者を想定する読者としている。
2.3. 本ガイダンスの構成
本ガイダンスの構成は、「医療機器開発ガイダンスの作成及び運用のための手引き」に準拠している。評価指標 23 と重複する事項は原則的に記載を省略又は簡略化した。
2.4. 本ガイダンスの必須文書
本ガイダンスの適用にあたっては、人工心臓の場合は以下の文書を必須文書とする。
- ISO 14708-5:2020 Implants for surgery — Active implantable medical devices —
Part 5: Circulatory support devices [3]
VAD の場合はさらに以下を必須とする。
- 植込型補助人工心臓に関する評価指標(評価指標 2023)[2]
- 2021 年改訂版 重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン(以下、
「治療ガイドライン」[4])
その他の体外循環用の血液ポンプの場合、これらは必須文書ではないが、これらを参考にすることができる。この他にも、製品開発において準拠すべき国際規格、JIS 規格が存在する(例えば、体外循環用の遠心ポンプの場合は[5])。それらは参考文献に示した。
2.5. 本ガイダンスの見直しについて
本ガイダンスは、「医療機器開発ガイダンスの作成及び運用のための手引き」に従い、定期的に見直しを行う。

GL:本体

3. 用語及び定義
本ガイダンスで用いる用語は、以下を除き ISO 14708-5、ISO 14971 [6] (JIS T 14971 [7]) 及び治療ガイドラインによる。
3.1
人工心臓 Artificial heart
VAD 及び TAH を総称した医療機器
注釈 1:人工心臓を構成する典型的な要素としては
- 血液ポンプ
- 導管(コンデュイット)
- 経皮ポート
- ドライブライン
- 電源(商用電源、電池、非常用電池等)
- 制御部がある。
3.2
補助人工心臓 ventricular assist device, VAD
患者の自己心臓の片側又は両側心室の機能を補う循環補助システムで、血液を片側又は両側の心房又は心室から取り込み、肺循環及び/又は全身循環に送り出すもの
注釈 1: VAD の拍出方式には拍動流型や連続流型がある。装着の形態には植込型や体外設置型がある。駆動方式にはダイアフラムを駆動する方式や回転するインペラによる方式がある。
注釈 2: 治療ガイドラインでは「植込型補助人工心臓」として植込型 LVAD について述べられているが、本ガイドラインは右室補助人工心臓(RVAD)や両心補助人工心臓(BiVAD)についても適用できる。
[出典: ISO 14708-5:2020 の ventricular assist device を翻訳]
3.3
完全置換型人工心臓 total artificial heart, TAH
患者の自己心臓のポンプ機能を置き換える循環補助システム
[出典: ISO 14708-5:2020 の total artificial heart を翻訳]
3.4
両心補助人工心臓 biventricular assist device, BiVAD 補助人工心臓のうち、両心室の機能を補うもの
注釈 1:患者の心室を完全に摘出する必要がある TAH とは異なり、BiVAD による循環補助では心室を残したまま循環補助を行う。
[出典: [8]の記述を翻訳]
3.5
補助循環用ポンプカテーテル percutaneous ventricular assist device
経血管的な方法で導入される、カテーテル一体型の小型のポンプであって、左室或いは左房から脱血し大動脈から全身に送血する、又は右室或いは右房から脱血し肺動脈に送血する流量補助装置
[出典: IMPELLA 適正使用指針[9]の記載をもとに、右室等への留置について追記]
3.6
小児用補助人工心臓 pediatric ventricular assist device
補助人工心臓のうち、小児の重症心不全患者であって当該治療が当該患者にとって 善であると判断された患者を適用対象とするもの
注釈1: 2023 年時点では国内においては、心移植に達するまで又は心機能が回復するまでの循環改善を使用目的としている一方、海外では DT にも適用されている。
[出典: 小児用補助人工心臓適正使用基準[10]の記載を整備]
4. 一般的検討事項
人工心臓及び血液ポンプの設計、開発にあたっては ISO 14971 (JIS T 14971)の定めるリスクマネジメントプロセスを基に 2.4 で示した必須文書及びその中で引用されるその他の必須規格に準拠して実施する。海外(特に欧州)での上市には、これらの規格への適合性が必須となる。
5. 設計・開発・評価において検討すべき事項
5.1. 基本的事項
5.1.1. リスクマネジメントプロセス
ISO 14971 (JIS T 14971)に定めるリスクマネジメントプロセスを運用する。
人工心臓では、J-MACS, INTERMACS といったレジストリに見られる事象を分析することで、予見可能なハザード、危険状態、合理的に予見可能な誤使用といった安全に関する情報を集めることができる。
人工心臓の場合に検討が望まれる事項の例としては、
- 放射線 CT の施行の影響: 植込み患者への放射線 CT の施行を許容するか検討する。
- 体外式除細動器の施行の影響: 植込み患者への体外式除細動器の施行を許容するか検討する。許容する場合は、ISO 14708-1:2014 [11] 箇条 20 を実施する。
- 併用するペースメーカー等との相互作用: ペースメーカー、除細動器(ICD)等との併用を許容するか検討する。併用を許容する場合、ペースメーカー等の機能への影響(プログラマへの電磁両立性(EMC)等)、リード線植込み又は抜去に与える影響等について検討する。
- 経皮的電力伝送(TET; Transcutaneous Energy Transmission)の影響: TET を利用する場合は、「補助人工心臓用の経皮的エネルギー伝送システム開発ガイドライン(手引き)2023」[12]を参照する。
- 通常のヒトの体位や体動の影響: 血行動態、体内機器及び経皮ポート部における不具合のリスクについて検討する。
- 体内機器及びドライブライン等のヒトの体型への不一致の影響: 組織、臓器、器官の圧迫、壊死のリスクについて検討する。
- 導管、ポンプ等の接続部の流路間隙や段差の影響: 血栓形成のリスクについて検討する。5.2.5 in vitro 血液適合性評価試験を参照する。
人工心臓の場合は、医療施設の外で患者が人工心臓を装着して生活することを前提に、これに起因する危険状態を想定してリスクアセスメントを行い必要に応じて対策を講じる。 IEC 60601-1-11 [13 ]はホームヘルスケア環境で使用する医用電気機器・システムに対する要求事項を扱う国際規格である。ISO 14708-5 は IEC 60601-1-11 を必須規格の一つとしていることから、欧米で認可を得るためには同規格に適合する必要がある。国内では 2023 年の時点では同規格は法的要求ではないものの、同規格に準拠することが強く勧められる。
医療施設の外での使用に関連して検討が望まれる事項の例としては、
- 自動車等の乗り物の振動、衝撃の影響: IEC 60601-1-11:2020 の細分箇条 10.1.3
では「正常な使用」における機械的負荷に対して十分な強度を有することを求めている。
- 航空機等の気圧の変化、高地での使用: ISO 14708-5:2020 及び IEC 60601-1-
11:2020 では大気圧 700 hPa でも連続運転可能であることを求めている。
- 環境の温湿度変化: ISO 14708-5:2020 の細分箇条 26.2 では輸送及び保管時の温度範囲、体外設置部の稼働時の温度範囲は製造販売業者が指定することとなっており、その指定が無い(デフォルトの)場合は前者については-13 ℃〜57 ℃を指定、後者は IEC 60601-1 [14]に準拠することとしている。但し IEC 60601-1 Ed.3.2 ではデフォルトの基準を撤廃した。また IEC 60601-1-11:2020 の細分箇条 4.2 ではこれらより詳細な基準を示している。
5.1.2. ユーザビリティエンジニアリング
ISO 14708-5:2020 の細分箇条 6.5 Human factors の要求では、IEC 62366-1:2015 [15]
と IEC 60601-1-6:2010 [16]に準拠することとしている 。
人工心臓の場合、ユーザビリティエンジニアリングにおいて検討が望まれる事項の例としては、
- バッテリー交換の操作や、バックアップ電池は簡便に外せない構造とする、等、
- ドライブライン等がある場合には、その接続操作、
- 医療従事者だけでなく、患者及びケアギバーが装置の操作を行う可能性、又は行うべきことをしない可能性、
- アラームによって患者及びケアギバーがパニックになる状況、
がある。ユーザビリティエンジニアリング及びホームヘルスケア環境での検討事項については、附属書 B にて補足している。
5.2. in vitro 評価
5.2.1. 総論
in vitro 評価で示すべき事項には、型式試験として規格に沿ったプロトコルで実施する事項、リスク解析をもとにワーストケースシナリオを設定し、そのシナリオに沿って試験方法、製造販売業者が試験条件及び許容値を設定すべき事項が存在する。
評価指標 2023 が示す in vitro 評価項目のうち、(ア)生物学的安全性、(イ)安定性、(ウ)無菌性、(エ)エンドトキシン試験、(オ)電気的安全性、(カ)電磁両立性については規格に沿ったプロトコルで実施して規格適合性を示す。但し製品が電気回路を含まない場合(例えば、駆動回路等を内蔵しない血液ポンプ)は、(オ)及び(カ)を省略することができる。リスク解析の結果、規格の設定するプロトコル及び条件がワーストケースシナリオから乖離する場合は別途その条件での安全性を吟味する必要がある。
その他の項目については製造販売業者が試験方法、試験条件及び許容値を設定して実施する必要がある。
5.2.2. 導管・人工血管・人工心臓弁・カフ
導管・人工血管・人工心臓弁・カフ(心房カフ、心室カフ等の、組織と人工物の接合部)の設計、開発にあたっては以下を含めて検討することが望ましい。
- 血液適合性の評価には、ISO 10993-4:2017 Biological evaluation of medical devices — Part 4: Selection of tests for interactions with blood [17]を用いる。
ーーーーーーーーーーーーー
₁ IEC 60601-1-6 の 2020 年版は IEC 62366-1 をそのまま引用するため、実質的には後者(又はその翻訳規格である
JIS T 62366-1)への準拠が求められる。

- 導管の評価には、ISO 7198 Cardiovascular implants and extracorporeal systems

— Vascular prostheses — Tubular vascular grafts and vascular patches [18]を用いることができる。
- 人工血管などが用いられる導管、カフにおいて、吸引に伴う陰圧によって流路に有意な狭窄または閉塞が生じたり空気を吸い込んだりする事象について検討する。
- 導管本体及び導管と血液ポンプとの接合部における、引張力、ねじれ、振動、折れ曲がり、シールの維持等の特性について評価する。
- 装置内の人工弁は、本ガイダンスの耐久性・信頼性に関する試験の一部として試験され、 終形態の装置を用いて評価すべきである。ただし人工弁を 終形態の装置で評価できなければ、その弁をシステムとは独立した状態で、ISO 5840-1 Cardiovascular implants — Cardiac valve prostheses — Part 1: General requirements [19]に従って評価し、その妥当性を示すこともできる。
5.2.3. ポンプ性能
ポンプ性能の評価は、以下の規格に準じて行う。
- 連続流ポンプ性能の評価については、ISO 5198 Centrifugal, mixed flow and axial flow pumps — Code for hydraulic performance tests — Precision grade [20]を用いる。
- 拍動流ポンプ性能の評価については、ISO 4409 Hydraulic fluid power — Positive displacement pumps, motors and integral transmissions — Determination of steady-state performance [21]を用いる。
この他に、ポンプの設計の一環としてキャビテーション、乱流の評価等を目的として、数値流体解析または流れ可視化実験を用いて流路内の速度分布、圧力分布等の検討を行うことができる。数値流体解析については、附属書 B を参照のこと。
5.2.4. 発熱特性
植込型人工心臓の体内部分について、ISO 14708-1:2014 細分箇条 17.1 の要求を超える温度上昇が認められる場合、以下を in vivo 評価を交えて示すこと。
- 人工心臓が植込まれた状態において、発熱が周囲組織に受容できない障害を及ぼさないこと。
- 植込まれた部位における隣接組織への影響を考慮し、機器表面でのホットスポットによる受容できない組織傷害が発生しないこと。
附属書 A.5.1 も参照のこと。
5.2.5. in vitro 血液適合性評価試験
in vivo 試験を実施する前に、in vitro 試験により溶血及び血栓形成について評価することを推奨する。
1) 溶血評価
溶血評価には、ISO 14708-5:2020 の細分箇条 6.10 が推奨する ASTM F1841 Standard
Practice for Assessment of Hemolysis in Continuous Flow Blood Pumps [22]に記載された試験方法を用いて、予想される動作範囲における in vitro 溶血試験を実施する。
- 動物血の準備については、ASTM F1830-19 Standard Practice for Collection and Preparation of Blood for Dynamic in vitro Evaluation of Hemolysis in Blood Pumps
[23] に準拠し実施することを推奨する。
- この評価に適した対照となるポンプは、試験時間以上の使用期間を有する既承認の品目を使用する。
- 一対の比較溶血試験では、被験ポンプと対照ポンプについて、同一個体から採取し同一の処理を行なった血液、同一の試験回路、同一の試験条件下で同時に実施することが必要である。
- 溶血指数(NIH: Normalized Index of Hemolysis)により比較する。
具体例として、附属書 C.2 を参考にすることができる。
2) 血栓形成評価
血栓形成の評価に関しては、JIS T 0403:2018[24 ]に記載されているように、評価部位に適した使用条件を模擬した回路を作製して血液を循環させる。
- 試験に必要な血液量を得るために、ウシ、ブタなど大型動物の血液を使用することが望ましい。試験試料及び対照試料の試験回路に必要な血液量を同一個体から採取する。採血開始から試験に使用するまで空気接触を 小限とし、採血開始から 4 時間以内に試験を開始することが望ましいが、4 時間を超えた場合は試験に与える影響を説明する必要がある。
- JIS T 0403 では、血液には臨床で使用される範囲内の抗凝固薬を添加し、活性化凝固時間(ACT; Activated Clotting Time)を測定して、臨床使用時と同程度の ACT 条件で実施するとされている。血液の調整については附属書 A.5.1 でも解説している。
- 血流量は予定される平均的な条件を設定するほか、必要に応じてワーストケースシナリオに相当する条件(例えば、 低流量)についても検討することが望ましい。
- 医療機器内又は回路における血栓の有無については、循環後の医療機器の肉眼観察等によって評価する。
- 試験前後の血液の血小板数等の血液性状のデータを計測することが望ましい。
具体例として、附属書 C.3 を参考にすることができる。
5.2.6. 数値流体解析
数値流体解析によって流路内の速度分布、圧力分布を可視化し、ポンプ内の流速分布、剪断応力の分布を知ることができる。数値流体解析と in vitro 試験、in vivo 試験を組み合わせることで、溶血の原因となるキャビテーションや高剪断応力の有無、血栓形成の好発部位となる澱みの有無を同定し、さらには設計の 適化、in vivo 試験数の減少も可能である。数値流体解析は設計妥当性を示す資料の一つとして要求される場合もあることに留意する。附属書 D、ISO 14708-5:2020 Annex C も参考にする。
5.2.7. 信頼性(耐久性)試験
リスク解析に基づいて、日常の使用において信頼性に関わると思われる箇所を含めて、システムに問題ないことを実証することを、耐久性試験の目的とする。いかなる患者を対象にするかは、開発者が使用目的に述べた条件による。
システムの信頼性は、申請者が決めた仕様(期間、環境)において、目的とするシステムとしての機能を検証するために必要な試験台数と故障台数で表す。即ち、Reliability と
Confidence Level を達成するために必要な試験台数を設定する。
なお、体外の駆動回路等については本ガイダンスが示す試験方法とは異なる方法で加速試験等が可能である。
耐久性試験に関しては、評価指標 2023 の参考 1 に従って行う。実施例を附属書 E に示す。
耐久性試験は長期にわたって実施することから、長期実施に対応する実施手順書(SOP,
Standard Operation Procedure)を整備することが望ましい。以下を含めて検討する。
- 記録すべき事象。被験装置に生じた事象はもちろん、試験装置そのものに生じた事象、例えば計測装置の故障、交換、停電、漏水等の事象についても記録する。
- 実験停止・継続の判断基準。実験中に生じうる軽微な不具合に対する対応、例えばポンプと導管の接続部に漏水が生じた場合の対応も含めて検討する。
- 被験装置以外の計測装置の故障等の事象への対応。例えば、停電、リザーバからの
漏水、計測器の故障の際の交換手順、記録、実験停止期間の扱いも含めて検討する。
- 除外事例の扱い、例えば故障等が生じた際に実験から除外する条件を予め定めておく、等。
を含むことが望ましい。

GL:付属資料

附属書 A 解説
A.1 背景
日本国内では、大学、研究機関及び企業にて国産人工心臓の開発の努力が進められてきた。1980 年には完全置換型人工心臓をヤギに植込み、当時の世界 長記録となる 288 日生存の記録となった。そして 1990 年には体外設置型 VAD である「東洋紡 補助人工心臓セット」と「ゼオン拍動型血液ポンプ A」が、製造販売承認を受けた。しかしこれらに続く国産製品が長く登場しなかった。その要因の一つとして、製造販売承認申請を含む規制対応の困難や、開発上、審査上の隘路の不明による経営判断の困難が指摘されてきた。
そこで、2005 年度から経済産業省、厚生労働省が連携して医療機器開発ガイドライン・次世代医療機器評価指標策定事業を開始した。開発ガイドラインでは、開発の際に考慮すべき工学的評価基準等を作成し、評価指標では、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が審査時に用いる評価の指標を作成する。人工心臓は両事業の 初のテーマの一つとして選定された。
そして 2007 年に「体内埋め込み型能動型機器分野(高機能人工心臓システム)開発ガイドライン 2007」(以下、「人工心臓開発ガイドライン 2007」)が、2008 年に「次世代型高機能人工心臓の臨床評価のための評価指標」が公表された。その後、産学の糾合により国産の人工心臓、正確には LVAD が2品目製造販売承認を得て上市された。
人工心臓開発ガイドライン 2007 と旧版の評価指標には関係者の尽力により in vivo 試験例数、臨床試験例数の目安を含めて開発と審査上の要件が詳細に記載されたことは特筆に値する。
一方、国内では新規製品の開発が停滞した。人工心臓に代表される、開発に長期間を要するハイリスクデバイスについては大手企業、スタートアップ企業ともに挑戦が難しいことや、ベンチャーキャピタルに代表される投資家が扱いにくいとの悲観的な意見が散見される。しかし世界では人工心臓のスタートアップ企業が登場し、市場規模も拡大を予想している[25 ]。また医学的にも、費用対効果に優れる治療法が模索されているところであり、機械的循環補助に対する医学的なニーズは減少していない。
A.2 適用範囲
A.2.1 植込型補助人工心臓以外の循環補助デバイス
本ガイダンスは植込型補助人工心臓以外の循環補助デバイス(TAH、ECMO、小児用 VAD 等)の開発においても参考にできる。各デバイスの設計段階や開発段階で必要な個別の追加事項や必要となる試験範囲などのパラメータに関しては、開発企業が主体となり PMDA と相談して決定する必要があるが、基本的な開発項目・試験項目は、ほぼ同一である。また、開発機器を臨床応用するためには、臨床医学的検討も必須である。
なお、中長期 ECMO システム及び体外設置型連続流 VAD に関しては、令和 3 年 3 月 26 日付 薬生機審発 0326 第 1 号における「中長期間呼吸/循環補助(ECMO/PCPS)システムの評価ガイドライン」及び「体外設置型連続流補助人工心臓システムの評価ガイドライン」が公表されている。
A.2.2 TAH
VAD と TAH では達成すべき信頼性、耐久性等に関して異なる点もあるが、本ガイダンスでは開発プロセスにおいて検討すべき共通する一般原則について示した。ただし、個々の機器の特徴に合わせた評価は、別途行わなければならない。
本文に特記していないが、開発に影響する VAD と TAH の差異としては、以下のような項目がある。
- 構成要素が異なる。心房カフは TAH 特有の構成部品である。送脱血導管、心尖カフ、脱血管チップは VAD 特有の構成部品といえる。
- VADは心臓移植へのブリッジ(BTT: Bridge to transplantation)、心機能回復までのブ. リッジ(BTR: Bridge to recovery)、長期在宅補助人工心臓治療(DT: Destination therapy)全てへの使用機会があるが、TAH には BTR への使用可能性はない。
- TAH 及び BiVAD では左右流量バランスが重要であり、それぞれの機器の特徴、使用条件、適用対象等を十分に考慮した駆動制御が行える必要がある。
- 解剖学的適合性は、VAD 及び TAH ともに必要であるが、TAH ではより厳しく問われる可能性がある。これについては、「意図する使用目的」に含めて記述しても良い。
- 機器停止に対する対策は、VAD 及び TAH ともに必要であるが、TAH ではより厳しく問われる可能性がある。「意図する使用目的」に含めて記述しても良い。
A.2.3 人工心臓開発ガイドライン 2007 との関係
本ガイダンスは、人工心臓開発ガイドライン 2007 から構成が大幅に更新されており、完全に置き換えるものである。評価指標の記載と重複する部分は削除した。
A.3 用語及び定義
人工心臓: 「TAH(完全置換型人工心臓)」と「人工心臓」の関係については委員の間で認識が分かれた。本ガイダンスでは「人工心臓」をTAHとVADを包含する用語として用いた。これは、非専門家が一般に認識する語義にも近いと考えられる。英語で artificial heart には VAD は含まないとの意見もあったが、専門書でもその区別をしていないとの意見も出された。
左室補助人工心臓: LVAD の日本語訳として、左室補助人工心臓を採用した。この用語は日本循環器学会が用いている用語である。一方、JIS T 0403 [24]、厚労省通知[30]では左心補助人工心臓の用語を用いている。本ガイダンスでは Ventricular(心室)の省略を行うならば「室」とすることがより正確と考えた。ただし、BiVAD については両心補助人工心臓とする慣例が定着していることから、そのままとした。
A.4 一般的検討事項
ISO 14708-5、ISO 18242 といった個別製品規格の要求事項は、その製品が具備すべき性能、安全に関する型式試験項目と考えられる。特に欧州では規格適合が重視されるので、規格の要求と異なる条件で試験をする場合、その根拠を説明できないと非適合とされる可能性がある。
一方、ISO 14708 シリーズにおいてもリスクマネジメントの実施が必須となっている。リスクアセスメントの結果、不要と判断できる要求項目や試験項目が存在する場合がある。また、規格と異なる試験条件が臨床におけるワーストケースシナリオをより的確に再現していると判断される場合は、その条件で評価すべきである。規格の試験条件とその試験条件を両方実施すべきであるかは、個別の案件により判断する。
A.5 設計・開発・評価において検討すべき事項
A.5.1 発熱特性
5.2.4 発熱特性の記載は人工心臓開発ガイドライン 2007 の関連項目と実質的に同等である。ISO 14708-1:2014 細分箇条 17.1 は次の通りとなっている(和訳は独自訳)。
外的な影響がない状態で、能動埋込医療機器の体内部分の表面で熱を患者に供給することを意図しない部分は、その通常運転及び単一の部品の故障状態において平熱の体温 37 ℃から 2 ℃以内の温度上昇でなければならない。
この制限は、埋込型人工心臓、特に血流による冷却が見込めない電子部品、小型な機械部品にとっては厳しい制限となることが予想される。「補助人工心臓用の経皮的エネルギー伝送システム開発ガイドライン(手引き)2023」[12]において実験を含む検討を行った結果、
- Davies [26]の示す単位面積あたりの仕事率 0.04 W/cm2を指標とする考え方は、発熱体の形状及び寸法の影響が考慮されておらず、十分な指標とならない。
- 一方、体内のアクチュエータの表面温度が 41 ℃程度でも壊死には至らないとする報告(岡本[27], Endo [28])もあることから、ISO 14708-1:2014 細分箇条 17.1 の要求は相当に安全係数をとっている可能性がある。
これらに鑑みて、本ガイダンスでは ISO 14708-1:2014 の要求を超える温度上昇を製造販売業者によるリスクマネジメントによって受容できるとした。
A.5.1 in vitro 血栓形成評価試験に用いる血液の調整
JIS T 0403 では、血液には臨床で使用される範囲内の抗凝固薬を添加し、活性化凝固時間(ACT)を測定して、臨床使用時と同程度の ACT 条件で実施するとされている。この条件を満たす抗凝固薬は実際的には未分画ヘパリンにほぼ限定されるが、他の抗血栓療法を行う in vitro 血栓形成評価試験も、実験目的、実験条件次第で利用可能と考えられる。ヘパリン以外の抗凝固薬を使用した場合は、その抗血栓療法を使用した根拠等を明確にすることが求められる。  

附属書 B ユーザビリティエンジニアリングに関する一般的事項
B.1 本附属書について
ユーザビリティエンジニアリングに関しては、JIS T 62366-1 が人工心臓を含むすべての医療機器を対象に制定されている。この規格は海外では既に強制規格となっている。我が国においても今後強制規格となる(令和 4 年 9 月 30 日付 薬生機審発 0930 第 1 号 薬生監麻発 0930 第 1 号, 医療機器のユーザビリティエンジニアリングに係る要求事項に関する日本産業規格の改正の取扱いについて [29 ])。しかし、JIS T 62366-1 が制定されてまだ日が浅く、またその導入にあたっては独特の難解さがある。ここでは、JIS T 62366-1 及び関連する規格の関係について解説する。
B.2 ユーザビリティエンジニアリングは使いやすさの追求ではない
JIS T 62366-1 の目的は、「使用エラーを特定して 小限にすることによって、使用に関連するリスクを低減すること」(JIS T 62366-1:2022 序文)にあり、単純な使いやすさの追求ではないことに留意する。場合によっては故意に操作し難くすることが必要なことがある(例:バックアップ電池は簡便に外せない構造とする。具体的には、工具を使わないと外せない構造とする)。
B.3 関連する用語の間の関係
JIS T 62366-1 では「異常使用」、「通常使用」、「正しい使用」、「使用エラー」の用語が、また JIS T 14971 では「合理的に予見可能な誤使用」の用語が用いられる。それぞれの関係を図 B.1 に示す。
JIS T 14971 及び JIS T 0601-1 は、「意図する使用」及び「合理的に予見可能な誤使用」への対応を求め、JIS T 62366-1 は「通常使用」への対応を求めている。裏返すと、合理的に予見できない「誤使用」や「異常使用」への対応は求められておらず、本来、製造販売業者はこれらに対する責任を負わないはずである。しかし同じ異常使用が繰り返される場合、その理由があるとも考えられる。その理由の背景やその解決を製造販売業者のみが負うものではないが、この状態を放置することは適切で無い可能性がある。

図 B.1 - 「使用」に関係する用語
図省略

B.4 非専門家の特性
植込型補助人工心臓の場合は、医療従事者だけでなく、患者及びケアギバーが装置の操作を行う(又は行うべきことをしない)こととなる。その場合は、患者とその周囲の人々(ケアギバーだけでなく、その役を負わない子供や家族が含まれる)の行動特性を評価する。「非専門家 (lay person)」の特性については、IEC 60601-1-11 が詳しく解説している。

附属書 C in vitro 血液適合性評価試験
C.1 血液適合性評価試験について
長期使用のための植込型補助人工心臓の開発では、優れた血液適合性を確保することが重要である。血液適合性を評価する実験動物を用いた in vivo 試験は、動物愛護の観点から出来るだけ実施数を減らすことが求められる。また、in vivo 試験では僅かな溶血や人工物から剥離した微小な血栓を生体中から発見することは困難である。そのため、in vivo 試験を実施する前に、in vitro 試験により溶血、血栓形成について検討することを推奨する。 in vitro 試験による、成人用 LVAD 用血液ポンプの溶血評価、血栓形成評価に関する試験の実施の一例を示す。実験条件は開発する血液ポンプの使用目的等に合わせて適切に設定する必要がある。
C.2 in vitro 溶血評価試験の実施例
本実施例は、ASTM F1841-19に準拠している。試験方法の詳細は同規格を参照されたい。目的: 血液ポンプ試作品の溶血の発生が臨床で使用されている血液ポンプと同等程度であることを示す。
試験方法:
a) 試験条件
血液のヘマトクリット値 を調整し、500 ml 使用する。被験ポンプは揚程 100 mmHg かつ血流量 5 L/min の循環条件で駆動させる。血液の温度が 37 ± 2 ℃になるようにリザーバを恒温槽に浸し試験を開始する。試験時間は 6 時間、試験回数は 5 回とする。試験は被験ポンプと対照とするポンプ で同一個体の血液を用い同時に実施する。
b) 使用する血液
動物血(ウシ、ブタ等)を試験血液として使用する。血液を採取した直後に抗血栓処理を実施し、採取した血液を搬送後、試験を実施する。
c) 試験装置
試験回路は、被験ポンプ、リザーバ、採血ポートより構成され、各部材は塩化ビニル製のチューブで接続する。血液ポンプの揚程を計測するための圧力計と、血液ポンプが駆出する

血流量を計測するための流量計を使用する。循環条件を設定するための回路抵抗器を血液ポンプ出口下流に取り付ける(図 C.1、図 C.2)。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
₂ ASTM F1841-19 ではヘマトクリット値として 35 %としている。一方、過去の論文では 30 %としているものもあり、また動物種によっては高いヘマトクリット値が得られない場合もある。ASTM F1841-19では遠心分離によって濃縮する方法も示されているが、実験に与える影響を否定できない。よって、同規格と異なる条件で実験を行った場合は、選択した動物種、ヘマトクリット値の調整方法について明確にすることが求められる。
₃ ASTM F1841-19 においては、「既承認の血液ポンプ(legally marketed blood pump)」とされている。

図 C.1 - in vitro 溶血試験の試験回路の構成例
図省略

図 C.2 - in vitro 溶血試験の試験回路の例
図省略

評価方法:
試験中の血漿遊離ヘモグロビン濃度量は、試験中に採血した血液を遠心分離することで得た血漿をもとに、TMB(tetramethylbenzidine)法等により定量する。そして、溶血発生の程度を示す溶血指数 NIH(Normalized Index of Hemolysis)を下記の式から求める。

式省略

ここで、ΔPfHは血漿遊離ヘモグロビン濃度の時間変化量(mg/dL)、Vは血液量(mL)、Qは血流量(L/min)、Hct はヘマトクリット値(%)、ΔT は時間間隔(min)である。被験ポンプの溶血発生の程度は、その NIH 及び比較対象となる既承認品の NIH を統計学的に比較することで評価する。NIH に統計学的な有意差がなければ、被験ポンプにおける溶血発生の程度は試験条件において問題ないことを示すことができる。
C.3 in vitro 血栓形成評価試験の実施例
C.3.1 in vitro 血栓形成評価試験の実施例 1
本実施例は、革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品実用化促進事業により策定・公表された試験方法の基盤となったものである[30 , 31 ]。実際の実施例については、文献[32 -
34]を参照のこと。
血栓形成には血流・血圧が大きな影響を及ぼすため、評価する目的に合わせて可能な限り血流・血圧環境を実使用環境に合わせた試験回路を用いることが重要である。in vitro 試験では、血液の個体差の影響を 小限に抑えるため同一個体から採取した血液を用いる。
これにより対象群を置いて比較評価することができる。血液循環装置の血液接触面の抗血栓性を高め、評価対象のデバイス以外における循環血液の凝固活性、血小板活性、血液成分の損傷、補体活性を抑制することが重要である。
目的: 使用環境を模擬した血液循環回路を用いて、血液との接触初期の補助人工心臓の抗血栓性や血栓ができた場合に剥離する量を評価する。
試験方法: a) 試験条件
被験ポンプを含む試験回路を恒温槽 (37 ± 2 ℃) に設置する。試験回路内に気泡が混入しないよう注意し、試験回路内を血液で充填する。模擬左心室および被験ポンプを稼働させ、目標とする流量、圧力に調整して血液循環を開始する。例えば、4 時間の血液循環を行う。
b) 使用する血液
試験回の容量以上の血液を準備する必要がある。比較対照試験を実施する場合、試験群と対照群の評価試験回路に必要な血液量を同一個体から採取する。試験に必要な血液を得るために、ブタやウシなど大型動物の血液を使用する。採取する血液に未分画ヘパリン等を添加して試験目的に適するように活性化凝固時間(ACT)を調整する。なお、ACT は測定法によって大きく左右されるので留意する。例えば、[24]は左室補助人工心臓の脱血管への血栓形成を in vitro で評価する試験においては、250~270 秒に調整することができるとしている。
採血開始から試験に使用するまで可能な限り空気接触を避け、採血開始から 4 時間以内に試験に開始することが望ましい。
c) 試験装置
試験回路は、被試験ポンプ、模擬左心室、試験回路内の圧力を調整するための弾性管(弾性シリコーンやセグメント化ポリウレタンチューブなど)などによって構成される。各部材は内腔を確認できる透明なチューブで接続する。被験ポンプを除く試験回路での血栓形成を抑制するよう、血液接触面を抗血栓性の優れた材料でコーティング処理をしておく。模擬左心室に拍動を与えるための駆動装置、圧力計、流量計を試験回路に設置する。血液循環時に圧力を調整するための回路抵抗器をポンプ出口下流に取り付ける(図 C.3、図 C.4)。
評価方法:
血液循環の終了後、付着血栓を剝がさないように注意しながら被験ポンプを取り出し、血栓の付着状態を観察する。形成された血栓が剥離するリスクを評価する場合には、さらに、回路内の血液を生理食塩水で置換して、同一の流量・圧力環境下で 3 時間循環させ、フィルター(例えば:ポアサイズ 100 μm のもの)を用いて剥離血栓を回収して定量評価する。付着又は剥離血栓をドデシル硫酸ナトリウム水溶液で溶解してタンパク質総量として BCA 法や Micro BCA 法で定量することができる。

図 C.3 - in vitro 血栓形成評価試験の試験回路の構成例
図省略

図 C.4 - in vitro 血栓形成評価試験の試験回路の例
図省略

C.3.2 in vitro 血栓形成評価試験の実施例 2
本実施例は試験ポンプの血栓好発部位の一次的スクリーニングを目的とする in vitro 血栓形成評価試験の一例である。実際の実施例については文献[35]を参照のこと。
目的: 血液ポンプの設計 適化の一環として、in vivo 試験を実施する前に対象となる血液ポンプの血栓形成を事前評価する。
試験方法:
a) 試験条件
血液は 500 ml 使用し、使用前に濾過して微小血栓や凝集した血小板を除去する。被験ポンプは揚程 100 mmHg かつ血流量 1.0 – 2.0 L/min の循環条件で駆動する。血液の温度が 37 ± 2 ℃になるように、リザーバを恒温槽に浸す。試験時間は 2 時間とする。in vivo 試験の初期に形成される血栓を模擬するため、試験開始後、試験ポンプを駆動させながら活性化凝固時間(ACT)を 200 秒を目標に調整する。
b) 血液の前処理
動物血(ウシ、ブタ等)を試験血液として使用し、血液を採取した直後に抗血栓処理を実施する。採取した血液を搬送後、試験を実施する。
c) 試験装置
試験回路は、被験ポンプ、リザーバ、3か所の採血ポートより構成され、各部材は塩化ビニル製のチューブで接続する。被験ポンプを除いて、血液接触面はヘパリンでコーティングする。ポンプの揚程を計測するための血圧計と、ポンプが駆出する血流量を計測するための血流量計を使用する。そして、循環条件を設定するための回路抵抗器をポンプ出口下流に取り付ける(図 C.5、図 C.6)。
評価方法:
血液循環の終了後、試験ポンプを分解し、目視で内部の血栓形成状況を観察することで、試験ポンプの血栓好発部位の一次的スクリーニングを実施することができる。

図 C.5 - in vitro 血栓形成評価試験の試験回路の構成例
図省略

図 C.6 - in vitro 血栓形成評価試験の試験回路の例
図省略

附属書 D 数値流体解析
数値流体解析によって流路内の速度分布、圧力分布を可視化し、ポンプ内の流速分布、剪断応力の分布を知ることができるが、本ガイダンスの執筆時点では数値流体解析のみではこれらの絶対値を高い信憑性で得ること、許容値を設定することはできない。従って、
数値流体解析はin vivo試験によって妥当性検証(verification)及び妥当性評価(validation)、いわゆる V&V を行う必要がある。
数値流体解析を含む in silico 評価における V&V に関しては、in silico 評価開発ガイドライン(手引き)、PMDA 科学委員会コンピューターシミュレーション専門部会報告書が参考にな る 。 これ ら は いず れ も 、 ASTM V&V40 Assessing Credibility of Computational
Modeling through Verification and Validation: Application to Medical Devices [36] (以下、「V&V 40」)及び米国 FDA CDRH のガイダンス文書”Reporting of Computational
Modeling Studies in Medical Device Submissions” [37]を基本としている。
V&V 40 では、数値シミュレーションを現象解析だけでなく、合理的意思決定を助けるツールと位置付けている。そのために数値計算の credibility(信憑性)を定量化し、社会的に受容されるシミュレーションとすることを目的としている。信憑性の尺度として定量化した不確定性(UQ: Uncertainty Quantification)を導入している。UQ が計算値に対する一種のエラーバーとして加算され、その結果が評価実験と比較して受容可能であるかを吟味する。受容可能でない場合は、数値モデルや使用した係数の修正等の対応が必要となる。

附属書 D 数値流体解析
数値流体解析によって流路内の速度分布、圧力分布を可視化し、ポンプ内の流速分布、剪断応力の分布を知ることができるが、本ガイダンスの執筆時点では数値流体解析のみではこれらの絶対値を高い信憑性で得ること、許容値を設定することはできない。従って、
数値流体解析はin vivo試験によって妥当性検証(verification)及び妥当性評価(validation)、いわゆる V&V を行う必要がある。
数値流体解析を含む in silico 評価における V&V に関しては、in silico 評価開発ガイドライン(手引き)、PMDA 科学委員会コンピューターシミュレーション専門部会報告書が参考にな る 。 これ ら は いず れ も 、 ASTM V&V40 Assessing Credibility of Computational
Modeling through Verification and Validation: Application to Medical Devices [36] (以下、「V&V 40」)及び米国 FDA CDRH のガイダンス文書”Reporting of Computational
Modeling Studies in Medical Device Submissions” [37]を基本としている。
V&V 40 では、数値シミュレーションを現象解析だけでなく、合理的意思決定を助けるツールと位置付けている。そのために数値計算の credibility(信憑性)を定量化し、社会的に受容されるシミュレーションとすることを目的としている。信憑性の尺度として定量化した不確定性(UQ: Uncertainty Quantification)を導入している。UQ が計算値に対する一種のエラーバーとして加算され、その結果が評価実験と比較して受容可能であるかを吟味する。受容可能でない場合は、数値モデルや使用した係数の修正等の対応が必要となる。

附属書 E 耐久性試験
E.1 耐久性試験について
心臓移植への橋渡し(Bridge to transplantation: BTT)を目的とした植込型補助人工心臓に関しては 6 カ月、さらに長期生命維持を目的とした Destination therapy(DT)を目的とした植込型補助人工心臓では 2 年間の耐久性を示すことが推奨されている。
目標とする信頼性を達成するために必要十分な試験検体数を設定する。システムの信頼性とは、予め定めた試験環境・条件の下で、システムが一定期間その機能を果たす確率で表される。達成すべき信頼性を示すために、Reliability と Confidence level を設定し、試験するシステムの数と許容可能な故障数を決定して試験を計画する等、統計的手法を用いて信頼性を示すことが推奨される。試験検体数の目安は評価指標 2023 の参考1にも示されている。
附属書 E では2つの実施例を紹介する。実験条件は開発するシステムの使用目的等に合わせて適切に設定する必要がある。
E.2 耐久性試験の実施例 1
本実施例は、評価指標 2023 の参考1に概ね準拠しているほか、関連の研究と整合している[38, 39]。また、実際の実施例については、文献[40]を参照のこと。
目的: DT を目的とする補助人工心臓システムを生理的な拍動流および圧力条件、温度環境下で駆動させ、機械的耐久性及びポンプ特性の経年変化を評価する。
試験方法: a) 試験条件
試験検体数は Reliability 80 %、Confidence level 80 %で 1 台の故障も許容しない条件で 8 台とし、試験期間は 2 年間とする。被験人工心臓を定常運転で流量 5 L/min、揚程 100 mmHg を発生する羽根回転数に設定する。ダイヤフラムポンプを駆動し、ストロークと抵抗を調整することにより、成人の平均拍動数である拍動数 72 bpm において拡張期 0 ± 1 L/min、収縮期 9.5 ± 1 L/min、平均流量 5 ± 1 L/min の拍動流を与える。この条件は通常の臨床条件よりも過酷な条件となっている。
b) 作動流体
液温 37 ± 2 ℃で血液と等粘度の作動流体(グリセリン濃度 44 %、塩化ナトリウム濃度
0.9 %)を試験回路内に満たす。
c) 試験装置
試験回路は、リザーバ、一方向弁、ダイヤフラムポンプ、コンプライアンスタンク、抵抗から成り、チューブによって接続する(図 E.1)。被験人工心臓は 37 ± 2 ℃の生理食塩水の没水槽に没水させる。
d) 計測項目
被験人工心臓の羽根回転数、電力、流量および圧力、拍動流モック回路の拍動数、液温および液密度を試験期間中連続的に計測する。また、拍動流モック回路内および没水槽内溶液の塩分量を定期的に計測する。
評価方法:
計測結果から総合的にシステムの動作を判断する。さらに、耐久性試験前後における被験人工心臓の揚程流量特性を比較する。例えば、以下を評価する。
- 一定の羽根回転数で 2 年間駆動し続けた台数。
- 被験人工心臓の拡張期流量、収縮期流量および平均流量。作動流体の蒸発を起因とする液密度の変化や自己心を模擬する拍動流ポンプの定期交換前後における拍動流量波形の変化にも留意する。
- 耐久性試験前後における被験人工心臓の揚程流量特性の変化。

図 E.1 - 耐久性試験用の拍動流モック回路
図省略

E.3 耐久性試験の実施例 2
本実施例は、承認品目による試験の例である。実際の実施例については、文献[39, 41 ]を参照のこと。
目的: 左室補助人工心臓を、生理的な拍動流および圧力条件、温度環境下で駆動させ、目的とする期間の耐久性を評価する。
試験方法:
a) 試験条件
後述の拍動負荷試験装置を用いて、左室補助人工心臓の耐久試験を行う。大動脈圧、流量、作動流体の温度などの試験条件は、心不全患者の循環動態を模擬するよう設定する。
さらに、心拍数を生理的な日内リズムに合わせて変化させることで、臨床使用状況を模した拍動負荷を補助人工心臓に与えることができる。各条件は以下の手順で設定する。
1) バイパスループをクランプし、左心室モデルの往復運動モータを駆動する。心拍数
70 bpm、収縮期割合 35 %とし、一回拍出量と後負荷バルブは、流量 6.5 L/min、平均大動脈圧 85 mmHg を達成するように調節する。
2) 一回拍出量を 1) の 50 %に下げ、バイパスループのクランプを開放する。被験人工心臓を起動し、流量 6.5 L/minになるまで回転数を上げる。心拍数、収縮期割合、後負荷バルブの設定は 1) と同じとする。この状態を「Awake mode」と定義する。
3) Awake mode の心拍数を 50 bpm へ変更した状態を「Sleep mode」、120 bpm へ変更した状態を「Exercise mode」と定義する。1 日の中で、Awake mode が 15 時間、Sleep mode が 8 時間、Exercise mode が 1 時間となるように往復運動モータを設定する。
b) 作動流体作動流体は、グリセリン水溶液を使用することができる。
c) 試験装置
左心室モデルに被験人工心臓を並列に接続した拍動循環装置(左心室モデルと大動脈モデルを含むメインループ、被験人工心臓を含むバイパスループから成る)を使用する(図 E.2)。メインループは、左心室モデル、大動脈モデル、左心房を模擬した左室前負荷チャンバーで構成される。左心室モデルには往復運動モータ、流入弁、流出弁が設置され、大動脈モデルへ向けて拍動流が送出される。大動脈モデルは 3 本のシリコンチューブで作製され、大動脈の脈圧を模擬することができる。左室前負荷は左室前負荷チャンバーの水頭圧、後負荷はメインループの高さによる水頭圧とバルブによる管路抵抗によって与えられる。左室前負荷チャンバーには熱交換器が設置され、作動流体の温度を調整・維持することができる。バイパスループでは、人工血管を模擬した管路によって、左心室モデル、補助人工心臓、大動脈モデルが接続される。補助人工心臓は 37 ℃に維持された生理食塩水に常時浸漬させる。被験人工心臓はドライブラインを介してコントローラーに接続される。

図 E.2 - 左室補助人工心臓の耐久性試験システム
図省略

d) 計測項目
試験中は、左心室圧、大動脈圧、メインループの流量、被験人工心臓の流量を定期的に測定する。被験人工心臓の回転数、電流値( 大値、 小値、平均値)を 10 分毎に記録する。
試験実施中に異常が見られた場合やメンテナンスを実施した場合は適宜記録する。
評価方法
目的とする期間の試験を実施した後、被験人工心臓の流量性能、その他事前に設定した項目を評価し、試験前と比較する。試験期間中に故障が発生した場合は、故障の程度を以下に準じて評価し、原因を解析する。
<故障の定義>
発生した故障は、故障の程度によって以下の区分に分けることができる。
1) 壊滅的: 補助循環機能を完全に失うもの。復帰不可能なポンプ停止など。
2) 重大: 一部の機能を失い、安全性が維持できないもの。回転数の継続的な低下など。 3) 許容範囲: バックアップシステムが故障するもの。電源切り替えの不調など。
4) 影響なし: ポンプ駆動に影響を与えないもの。外観上の異常など。

附属書 F 改訂履歴
本ガイダンスの改訂履歴,主な改訂事項は以下の通りである。
第1版: 体内埋め込み型能動型機器分野(高機能人工心臓システム)開発ガイドライン
2007(人工心臓開発ガイドライン 2007)[1]
- 2007(平成 19)年 5 月公開
- 対象:体内埋込み型の拍動流型あるいは連続流型の人工心臓で,心臓移植ないし回復までのブリッジ使用、あるいは半永久的使用が考慮される数年以上の長期使用に耐えるもの
- 設計上の要件・耐久試験・動物試験数の目安などを記載した。
第2版: 本ガイダンス(この版)
- 2024(令和 6)年 12 月公開
- 改訂の背景: 評価指標が改訂されたこと、補助循環システムのバリエーションが増えたこと、数値実験・in vitro 実験技術が進歩したこと、国内臨床使用経験の蓄積、臨床上のニーズは引き続き高く海外では新製品・起業が続いていること、国際規格等の更新により陳腐化した事項が増えたこと、など。
- 主な改訂点:
- 「医療機器開発ガイダンスの作成及び運用のための手引き」に準拠して章構成を変更した。評価指標 23 と重複する事項は原則的に記載を省略又は簡略化した。
- 適用する医療機器を「人工心臓(主に植込型 VAD)」とした。また、それ以外の機械的送血機構の開発の参考にすることができるとした(2.1)。
- 関連する用語の定義を既存文書から引用整理、一部独自和訳した(3)。
- 旧版の「(2) 想定する使用環境及び人的要因」に列記した要求事項を、リスクマネジメント(5.1.1)、ユーザビリティエンジニリングに関連する事項に整理した(5.1.2)。
ISO 14708-1:2014 等の関連規格を出典として要求の根拠を示した。
- 旧版で「(3) ポンプ流体性能」から「(12) 信頼性(耐久性試験)」まで記載した事項を形式試験として実施すべき事項、リスクマネジメントによって試験条件と許容値を設定すべき事項に整理した(5.2.1)。
- in vitro 血液適合性評価試験の記載を加筆し、実施例を附録した(5.2.5, 附属書 C)。
- 数値流体解析の記載を追加した(5.2.6, 附属書 D)。
- 旧版の「(11) 動物実験」「(13) 臨床評価」を削除した。

附属書 G 参考文献

[1] 経済産業省, 体内埋め込み型能動型機器分野(高機能人工心臓システム)開発ガイドライン 2007, 平成 19 年 5 月, 2007
[2] 厚生労働省, 植込型補助人工心臓評価指標, 令和 5 年 3 月 31 日付薬生機審発
0331 第 5 号別紙 1, 2023
[3] ISO 14708-5:2020 Implants for surgery — Active implantable medical devices — Part 5: Circulatory support devices
[4] 日本循環器学会, 日本心臓血管外科学会, 日本胸部外科学会, 日本血管外科学会,
2021年改訂版 重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン, 2021年
10 月 12 日更新, 2021
[5] ISO 18242:2016 Cardiovascular implants and extracorporeal systems — Centrifugal blood pumps
[6] ISO 14971:2019 Medical devices — Application of risk management to medical devices
[7] JIS T 14971:2020 医療機器―リスクマネジメントの医療機器への適用
[8] Gregory, S., Stevens, M. & Fraser, J. F., Mechanical Circulatory and Respiratory Support, Academic Press, Cambridge, 2018
[9] 補助人工心臓治療関連学会協議会, IMPELLA 適正使用指針, 2019 年 3 月 1 日改訂 (第 3 版), 2019
[10] 日本臨床補助人工心臓研究会, 小児用補助人工心臓適正使用基準, 平成 27 年 7 月 10 日, 2015
[11] ISO 14708-1:2014 Implants for surgery — Active implantable medical devices — Part 1: General requirements for safety, marking and for information to be provided by the manufacturer
[12] 経済産業省, 補助人工心臓用の経皮的エネルギー伝送システム開発ガイドライン
2023(手引き), 令和 5 年 1 月, 2023
[13] IEC 60601-1-11 Ed. 2.1:2020 Medical electrical equipment - Part 1-11: General requirements for basic safety and essential performance - Collateral Standard: Requirements for medical electrical equipment and medical electrical systems used in the home healthcare environment

[14] IEC 60601-1 Ed. 3.2:2020 Medical electrical equipment - Part 1: General requirements for basic safety and essential performance
[15] IEC 62366-1 Ed. 1.1:2020 Medical devices - Part 1: Application of usability engineering to medical devices
[16] IEC 60601-1-6 Ed. 3.2:2020 Medical electrical equipment - Part 1-6: General requirements for basic safety and essential performance - Collateral standard: Usability
[17] ISO 10993-4:2017 Biological evaluation of medical devices — Part 4: Selection of tests for interactions with blood
[18] ISO 7198 Cardiovascular implants and extracorporeal systems — Vascular prostheses — Tubular vascular grafts and vascular patches
[19] ISO 5840-1 Cardiovascular implants — Cardiac valve prostheses — Part 1: General requirements
[20] ISO 5198 Centrifugal, mixed flow and axial flow pumps — Code for hydraulic performance tests — Precision grade
[21] ISO 4409 Hydraulic fluid power — Positive displacement pumps, motors and integral transmissions — Determination of steady-state performance
[22] ASTM F1841 Standard Practice for Assessment of Hemolysis in Continuous Flow Blood Pumps
[23] ASTM F1830-19 Standard Practice for Collection and Preparation of Blood for Dynamic in vitro Evaluation of Hemolysis in Blood Pumps
[24] JIS T 0403: 2018 左心補助人工心臓用脱血管のインビトロ(in vitro)血栓性試験方法
[25] Ventricular Assist Device Global Market Report 2023, The Business Research company
[26] Davies, C. R.; Fukumura, F.; Fukamachi, K.; Muramoto, K.; Himley, S. C.; Massiello, A.; Chen, J-F.; Harasaki, H. Adaptation of tissue to a chronic heat load. ASAIO J. 1994, 40(3), M514-M517. DOI: 10.1097/00002480-199407000-00053
[27] 岡本英治, 友田恭嗣, 山本克之, 朝田政克, 安田慶秀, 三田村好矩, 三上智久. 体内埋込み型補助人工心臓の温度上昇に関する検討. 人工臓器 1994, 23, 1077-
1082

[28] Endo, S.; Masuzawa, T.; Tatsumi, E.; Taenaka, Y.; Nakatani, T.; Ohno, T.; Wakisaka, Y.; Nishimura, T.; Takewa, Y.; Nakamura, M.; Takiura, K.; Sohn, Y-S.; Takano, H. In vitro and in vivo heat dissipation of electrohydraulic totally implantable artificial heat. ASAIO J. 1997, 43(5), M592-M597.
[29] 令和 4 年 9 月 30 日付 薬生機審発 0930 第 1 号/薬生監麻発 0930 第 1 号, 医療機器のユーザビリティエンジニアリングに係る要求事項に関する日本産業規格の改正の取扱いについて
[30] 平成 28 年 8 月 31 日付 薬生機審発 0831 第 1 号, 別添 3 左心補助人工心臓用脱血管の in vitro 血栓性試験法
[31] 平成 28 年 11 月 22 日付薬生機審発 1122 第 1 号, 持続的血液濾過器の in vitro 血栓性試験法
[32] 岩﨑清隆, 梅津光生, 医療機器・材料の血液適合性評価と,生体外(in vitro)で可能な評価手法の展望, 生体適合性制御と要求特性掌握から実践する高分子バイオマテリアルの設計・開発戦略, サイエンス&テクノロジー, 247-258, 2014 年 5 月
[33] 岩﨑清隆,高橋東,松橋祐輝,平田麻由紀,永井美玲,山崎健二,梅津光生,新規 in vitro 血栓評価法による補助人工心臓の平滑及びメッシュ脱血管周囲に形成される血栓の飛散リスク比較評価,第26回バイオエンジニアリング講演会論文集, 349-
350,仙台,2014 年 1 月 11 日
[34] Matsuhashi, Y.; Sameshima, K.; Yamamoto, Y.; Umezu, M.; Iwasaki, K. Investigation of the fluid dynamics influence on a thrombus-growth at the interface between a connector and a tube. J. Artif. Organs 2017, 20(4), 293-302, DOI: 10.1007/s10047-017-0973-6.
[35] Maruyama, O.; Tomari, Y.; Sugiyama, D.; Nishida, M.; Tsutsui, T.; Yamane, T. Simple in vitro testing method for antithrombogenic evaluation of centrifugal blood pumps. ASAIO J. 2009, 55(4), 314-322. DOI:
10.1097/MAT.0b013e3181a7b540.
[36] ASTM V&V40 Assessing Credibility of Computational Modeling through
Verification and Validation: Application to Medical Devices
[37] Reporting of Computational Modeling Studies in Medical Device Submissions
[38] Pantalos, G. M.; Altieri, F.; Berson, A.; Borovetz, H.; Bulter, K.; Byrd, G.; Ciarkowski, A. A.; Dunn, R.; Frazier, O. H.; Griffith, B.; Hoeppner, D. W.;
Jassawalla, J. S.; Kormos, R. H.; Kung, R. T.; Lemperle, B.; Lewis, J. P.; Pennington, D. G.; Poirier, V. L.; Portner, P. M.; Rosenberg, G.; Shanker, R.; Watson, J. T. Long-term mechanical circulatory support system reliability recommendation: American Society for Artificial Internal Organs and The Society of Thoracic Surgeons: Long-term mechanical circulatory support system reliability recommendation. Ann. Thorac. Surg. 1998, 66(5), 1852-1859.
[39] 北野智哉、宮越貴之、小林信治、得能敏正、山崎健二、岩崎清隆、梅津光生、植込み型補助人工心臓システム EVAHEART の耐久性評価、生体医工学 2011, 49,
918-924.
[40] Nishida, M.; Kosaka, R.; Maruyama, O.; Yamane, T.; Shirasu, A.; Tatsumi, E.; Taenaka, Y. Long-term durability test of axial-flow ventricular assist device under pulsatile flow. J. Artif. Organs 2017, 20(1), 26-33. DOI: 10.1007/s10047-0160933-6.
[41] Kitano, T.; Iwasaki, K. Long-term durability test for the left ventricular assist system EVAHEART under the physiologic pulsatile load. ASAIO J. 2018, 64(2), 168-174. DOI: 10.1097/MAT0000000000000651.

高機能人工心臓システム開発 WG 委員

座長 増澤 徹   茨城大学 副学長 大学院 理工学研究科 機械システム工学領域 教授
岩崎 清隆 早稲田大学 理工学術院 教授
小野 稔   東京大学大学院 医学系研究科 教授
柏原 進   泉工医科工業株式会社 開発本部 第一開発部 執行役員・部長
岸上 兆一 ニプロ株式会社 SD事業部 CVS営業部 部長
小林 信治 株式会社サンメディカル技術研究所 取締役社長
白石 泰之 東北大学加齢医学研究所 心臓病電子医学分野 准教授
西中 知博 国立循環器病研究センター 人工臓器部 部長
福長 一義 杏林大学 保健学部臨床工学科 教授
百瀬 直樹 自治医科大学附属さいたま医療センター 臨床工学部 技師長
(敬称略、委員所属等は WG 活動当時のものである)

引用関連規格

附属書 A 解説
A.1 背景
日本国内では、大学、研究機関及び企業にて国産人工心臓の開発の努力が進められてきた。1980 年には完全置換型人工心臓をヤギに植込み、当時の世界 長記録となる 288 日生存の記録となった。そして 1990 年には体外設置型 VAD である「東洋紡 補助人工心臓セット」と「ゼオン拍動型血液ポンプ A」が、製造販売承認を受けた。しかしこれらに続く国産製品が長く登場しなかった。その要因の一つとして、製造販売承認申請を含む規制対応の困難や、開発上、審査上の隘路の不明による経営判断の困難が指摘されてきた。
そこで、2005 年度から経済産業省、厚生労働省が連携して医療機器開発ガイドライン・次世代医療機器評価指標策定事業を開始した。開発ガイドラインでは、開発の際に考慮すべき工学的評価基準等を作成し、評価指標では、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が審査時に用いる評価の指標を作成する。人工心臓は両事業の 初のテーマの一つとして選定された。
そして 2007 年に「体内埋め込み型能動型機器分野(高機能人工心臓システム)開発ガイドライン 2007」(以下、「人工心臓開発ガイドライン 2007」)が、2008 年に「次世代型高機能人工心臓の臨床評価のための評価指標」が公表された。その後、産学の糾合により国産の人工心臓、正確には LVAD が2品目製造販売承認を得て上市された。
人工心臓開発ガイドライン 2007 と旧版の評価指標には関係者の尽力により in vivo 試験例数、臨床試験例数の目安を含めて開発と審査上の要件が詳細に記載されたことは特筆に値する。
一方、国内では新規製品の開発が停滞した。人工心臓に代表される、開発に長期間を要するハイリスクデバイスについては大手企業、スタートアップ企業ともに挑戦が難しいことや、ベンチャーキャピタルに代表される投資家が扱いにくいとの悲観的な意見が散見される。しかし世界では人工心臓のスタートアップ企業が登場し、市場規模も拡大を予想している[25 ]。また医学的にも、費用対効果に優れる治療法が模索されているところであり、機械的循環補助に対する医学的なニーズは減少していない。
A.2 適用範囲
A.2.1 植込型補助人工心臓以外の循環補助デバイス
本ガイダンスは植込型補助人工心臓以外の循環補助デバイス(TAH、ECMO、小児用 VAD 等)の開発においても参考にできる。各デバイスの設計段階や開発段階で必要な個別の追加事項や必要となる試験範囲などのパラメータに関しては、開発企業が主体となり PMDA と相談して決定する必要があるが、基本的な開発項目・試験項目は、ほぼ同一である。また、開発機器を臨床応用するためには、臨床医学的検討も必須である。
なお、中長期 ECMO システム及び体外設置型連続流 VAD に関しては、令和 3 年 3 月 26 日付 薬生機審発 0326 第 1 号における「中長期間呼吸/循環補助(ECMO/PCPS)システムの評価ガイドライン」及び「体外設置型連続流補助人工心臓システムの評価ガイドライン」が公表されている。
A.2.2 TAH
VAD と TAH では達成すべき信頼性、耐久性等に関して異なる点もあるが、本ガイダンスでは開発プロセスにおいて検討すべき共通する一般原則について示した。ただし、個々の機器の特徴に合わせた評価は、別途行わなければならない。
本文に特記していないが、開発に影響する VAD と TAH の差異としては、以下のような項目がある。
- 構成要素が異なる。心房カフは TAH 特有の構成部品である。送脱血導管、心尖カフ、脱血管チップは VAD 特有の構成部品といえる。
- VADは心臓移植へのブリッジ(BTT: Bridge to transplantation)、心機能回復までのブ. リッジ(BTR: Bridge to recovery)、長期在宅補助人工心臓治療(DT: Destination therapy)全てへの使用機会があるが、TAH には BTR への使用可能性はない。
- TAH 及び BiVAD では左右流量バランスが重要であり、それぞれの機器の特徴、使用条件、適用対象等を十分に考慮した駆動制御が行える必要がある。
- 解剖学的適合性は、VAD 及び TAH ともに必要であるが、TAH ではより厳しく問われる可能性がある。これについては、「意図する使用目的」に含めて記述しても良い。
- 機器停止に対する対策は、VAD 及び TAH ともに必要であるが、TAH ではより厳しく問われる可能性がある。「意図する使用目的」に含めて記述しても良い。
A.2.3 人工心臓開発ガイドライン 2007 との関係
本ガイダンスは、人工心臓開発ガイドライン 2007 から構成が大幅に更新されており、完全に置き換えるものである。評価指標の記載と重複する部分は削除した。
A.3 用語及び定義
人工心臓: 「TAH(完全置換型人工心臓)」と「人工心臓」の関係については委員の間で認識が分かれた。本ガイダンスでは「人工心臓」をTAHとVADを包含する用語として用いた。これは、非専門家が一般に認識する語義にも近いと考えられる。英語で artificial heart には VAD は含まないとの意見もあったが、専門書でもその区別をしていないとの意見も出された。
左室補助人工心臓: LVAD の日本語訳として、左室補助人工心臓を採用した。この用語は日本循環器学会が用いている用語である。一方、JIS T 0403 [24]、厚労省通知[30]では左心補助人工心臓の用語を用いている。本ガイダンスでは Ventricular(心室)の省略を行うならば「室」とすることがより正確と考えた。ただし、BiVAD については両心補助人工心臓とする慣例が定着していることから、そのままとした。
A.4 一般的検討事項
ISO 14708-5、ISO 18242 といった個別製品規格の要求事項は、その製品が具備すべき性能、安全に関する型式試験項目と考えられる。特に欧州では規格適合が重視されるので、規格の要求と異なる条件で試験をする場合、その根拠を説明できないと非適合とされる可能性がある。
一方、ISO 14708 シリーズにおいてもリスクマネジメントの実施が必須となっている。リスクアセスメントの結果、不要と判断できる要求項目や試験項目が存在する場合がある。また、規格と異なる試験条件が臨床におけるワーストケースシナリオをより的確に再現していると判断される場合は、その条件で評価すべきである。規格の試験条件とその試験条件を両方実施すべきであるかは、個別の案件により判断する。
A.5 設計・開発・評価において検討すべき事項
A.5.1 発熱特性
5.2.4 発熱特性の記載は人工心臓開発ガイドライン 2007 の関連項目と実質的に同等である。ISO 14708-1:2014 細分箇条 17.1 は次の通りとなっている(和訳は独自訳)。
外的な影響がない状態で、能動埋込医療機器の体内部分の表面で熱を患者に供給することを意図しない部分は、その通常運転及び単一の部品の故障状態において平熱の体温 37 ℃から 2 ℃以内の温度上昇でなければならない。
この制限は、埋込型人工心臓、特に血流による冷却が見込めない電子部品、小型な機械部品にとっては厳しい制限となることが予想される。「補助人工心臓用の経皮的エネルギー伝送システム開発ガイドライン(手引き)2023」[12]において実験を含む検討を行った結果、
- Davies [26]の示す単位面積あたりの仕事率 0.04 W/cm2を指標とする考え方は、発熱体の形状及び寸法の影響が考慮されておらず、十分な指標とならない。
- 一方、体内のアクチュエータの表面温度が 41 ℃程度でも壊死には至らないとする報告(岡本[27], Endo [28])もあることから、ISO 14708-1:2014 細分箇条 17.1 の要求は相当に安全係数をとっている可能性がある。
これらに鑑みて、本ガイダンスでは ISO 14708-1:2014 の要求を超える温度上昇を製造販売業者によるリスクマネジメントによって受容できるとした。
A.5.1 in vitro 血栓形成評価試験に用いる血液の調整
JIS T 0403 では、血液には臨床で使用される範囲内の抗凝固薬を添加し、活性化凝固時間(ACT)を測定して、臨床使用時と同程度の ACT 条件で実施するとされている。この条件を満たす抗凝固薬は実際的には未分画ヘパリンにほぼ限定されるが、他の抗血栓療法を行う in vitro 血栓形成評価試験も、実験目的、実験条件次第で利用可能と考えられる。ヘパリン以外の抗凝固薬を使用した場合は、その抗血栓療法を使用した根拠等を明確にすることが求められる。  

附属書 B ユーザビリティエンジニアリングに関する一般的事項
B.1 本附属書について
ユーザビリティエンジニアリングに関しては、JIS T 62366-1 が人工心臓を含むすべての医療機器を対象に制定されている。この規格は海外では既に強制規格となっている。我が国においても今後強制規格となる(令和 4 年 9 月 30 日付 薬生機審発 0930 第 1 号 薬生監麻発 0930 第 1 号, 医療機器のユーザビリティエンジニアリングに係る要求事項に関する日本産業規格の改正の取扱いについて [29 ])。しかし、JIS T 62366-1 が制定されてまだ日が浅く、またその導入にあたっては独特の難解さがある。ここでは、JIS T 62366-1 及び関連する規格の関係について解説する。
B.2 ユーザビリティエンジニアリングは使いやすさの追求ではない
JIS T 62366-1 の目的は、「使用エラーを特定して 小限にすることによって、使用に関連するリスクを低減すること」(JIS T 62366-1:2022 序文)にあり、単純な使いやすさの追求ではないことに留意する。場合によっては故意に操作し難くすることが必要なことがある(例:バックアップ電池は簡便に外せない構造とする。具体的には、工具を使わないと外せない構造とする)。
B.3 関連する用語の間の関係
JIS T 62366-1 では「異常使用」、「通常使用」、「正しい使用」、「使用エラー」の用語が、また JIS T 14971 では「合理的に予見可能な誤使用」の用語が用いられる。それぞれの関係を図 B.1 に示す。
JIS T 14971 及び JIS T 0601-1 は、「意図する使用」及び「合理的に予見可能な誤使用」への対応を求め、JIS T 62366-1 は「通常使用」への対応を求めている。裏返すと、合理的に予見できない「誤使用」や「異常使用」への対応は求められておらず、本来、製造販売業者はこれらに対する責任を負わないはずである。しかし同じ異常使用が繰り返される場合、その理由があるとも考えられる。その理由の背景やその解決を製造販売業者のみが負うものではないが、この状態を放置することは適切で無い可能性がある。

図 B.1 - 「使用」に関係する用語
図省略

B.4 非専門家の特性
植込型補助人工心臓の場合は、医療従事者だけでなく、患者及びケアギバーが装置の操作を行う(又は行うべきことをしない)こととなる。その場合は、患者とその周囲の人々(ケアギバーだけでなく、その役を負わない子供や家族が含まれる)の行動特性を評価する。「非専門家 (lay person)」の特性については、IEC 60601-1-11 が詳しく解説している。

附属書 C in vitro 血液適合性評価試験
C.1 血液適合性評価試験について
長期使用のための植込型補助人工心臓の開発では、優れた血液適合性を確保することが重要である。血液適合性を評価する実験動物を用いた in vivo 試験は、動物愛護の観点から出来るだけ実施数を減らすことが求められる。また、in vivo 試験では僅かな溶血や人工物から剥離した微小な血栓を生体中から発見することは困難である。そのため、in vivo 試験を実施する前に、in vitro 試験により溶血、血栓形成について検討することを推奨する。 in vitro 試験による、成人用 LVAD 用血液ポンプの溶血評価、血栓形成評価に関する試験の実施の一例を示す。実験条件は開発する血液ポンプの使用目的等に合わせて適切に設定する必要がある。
C.2 in vitro 溶血評価試験の実施例
本実施例は、ASTM F1841-19に準拠している。試験方法の詳細は同規格を参照されたい。目的: 血液ポンプ試作品の溶血の発生が臨床で使用されている血液ポンプと同等程度であることを示す。
試験方法:
a) 試験条件
血液のヘマトクリット値 を調整し、500 ml 使用する。被験ポンプは揚程 100 mmHg かつ血流量 5 L/min の循環条件で駆動させる。血液の温度が 37 ± 2 ℃になるようにリザーバを恒温槽に浸し試験を開始する。試験時間は 6 時間、試験回数は 5 回とする。試験は被験ポンプと対照とするポンプ で同一個体の血液を用い同時に実施する。
b) 使用する血液
動物血(ウシ、ブタ等)を試験血液として使用する。血液を採取した直後に抗血栓処理を実施し、採取した血液を搬送後、試験を実施する。
c) 試験装置
試験回路は、被験ポンプ、リザーバ、採血ポートより構成され、各部材は塩化ビニル製のチューブで接続する。血液ポンプの揚程を計測するための圧力計と、血液ポンプが駆出する

血流量を計測するための流量計を使用する。循環条件を設定するための回路抵抗器を血液ポンプ出口下流に取り付ける(図 C.1、図 C.2)。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
₂ ASTM F1841-19 ではヘマトクリット値として 35 %としている。一方、過去の論文では 30 %としているものもあり、また動物種によっては高いヘマトクリット値が得られない場合もある。ASTM F1841-19では遠心分離によって濃縮する方法も示されているが、実験に与える影響を否定できない。よって、同規格と異なる条件で実験を行った場合は、選択した動物種、ヘマトクリット値の調整方法について明確にすることが求められる。
₃ ASTM F1841-19 においては、「既承認の血液ポンプ(legally marketed blood pump)」とされている。

図 C.1 - in vitro 溶血試験の試験回路の構成例
図省略

図 C.2 - in vitro 溶血試験の試験回路の例
図省略

評価方法:
試験中の血漿遊離ヘモグロビン濃度量は、試験中に採血した血液を遠心分離することで得た血漿をもとに、TMB(tetramethylbenzidine)法等により定量する。そして、溶血発生の程度を示す溶血指数 NIH(Normalized Index of Hemolysis)を下記の式から求める。

式省略

ここで、ΔPfHは血漿遊離ヘモグロビン濃度の時間変化量(mg/dL)、Vは血液量(mL)、Qは血流量(L/min)、Hct はヘマトクリット値(%)、ΔT は時間間隔(min)である。被験ポンプの溶血発生の程度は、その NIH 及び比較対象となる既承認品の NIH を統計学的に比較することで評価する。NIH に統計学的な有意差がなければ、被験ポンプにおける溶血発生の程度は試験条件において問題ないことを示すことができる。
C.3 in vitro 血栓形成評価試験の実施例
C.3.1 in vitro 血栓形成評価試験の実施例 1
本実施例は、革新的医薬品・医療機器・再生医療等製品実用化促進事業により策定・公表された試験方法の基盤となったものである[30 , 31 ]。実際の実施例については、文献[32 -
34]を参照のこと。
血栓形成には血流・血圧が大きな影響を及ぼすため、評価する目的に合わせて可能な限り血流・血圧環境を実使用環境に合わせた試験回路を用いることが重要である。in vitro 試験では、血液の個体差の影響を 小限に抑えるため同一個体から採取した血液を用いる。
これにより対象群を置いて比較評価することができる。血液循環装置の血液接触面の抗血栓性を高め、評価対象のデバイス以外における循環血液の凝固活性、血小板活性、血液成分の損傷、補体活性を抑制することが重要である。
目的: 使用環境を模擬した血液循環回路を用いて、血液との接触初期の補助人工心臓の抗血栓性や血栓ができた場合に剥離する量を評価する。
試験方法: a) 試験条件
被験ポンプを含む試験回路を恒温槽 (37 ± 2 ℃) に設置する。試験回路内に気泡が混入しないよう注意し、試験回路内を血液で充填する。模擬左心室および被験ポンプを稼働させ、目標とする流量、圧力に調整して血液循環を開始する。例えば、4 時間の血液循環を行う。
b) 使用する血液
試験回の容量以上の血液を準備する必要がある。比較対照試験を実施する場合、試験群と対照群の評価試験回路に必要な血液量を同一個体から採取する。試験に必要な血液を得るために、ブタやウシなど大型動物の血液を使用する。採取する血液に未分画ヘパリン等を添加して試験目的に適するように活性化凝固時間(ACT)を調整する。なお、ACT は測定法によって大きく左右されるので留意する。例えば、[24]は左室補助人工心臓の脱血管への血栓形成を in vitro で評価する試験においては、250~270 秒に調整することができるとしている。
採血開始から試験に使用するまで可能な限り空気接触を避け、採血開始から 4 時間以内に試験に開始することが望ましい。
c) 試験装置
試験回路は、被試験ポンプ、模擬左心室、試験回路内の圧力を調整するための弾性管(弾性シリコーンやセグメント化ポリウレタンチューブなど)などによって構成される。各部材は内腔を確認できる透明なチューブで接続する。被験ポンプを除く試験回路での血栓形成を抑制するよう、血液接触面を抗血栓性の優れた材料でコーティング処理をしておく。模擬左心室に拍動を与えるための駆動装置、圧力計、流量計を試験回路に設置する。血液循環時に圧力を調整するための回路抵抗器をポンプ出口下流に取り付ける(図 C.3、図 C.4)。
評価方法:
血液循環の終了後、付着血栓を剝がさないように注意しながら被験ポンプを取り出し、血栓の付着状態を観察する。形成された血栓が剥離するリスクを評価する場合には、さらに、回路内の血液を生理食塩水で置換して、同一の流量・圧力環境下で 3 時間循環させ、フィルター(例えば:ポアサイズ 100 μm のもの)を用いて剥離血栓を回収して定量評価する。付着又は剥離血栓をドデシル硫酸ナトリウム水溶液で溶解してタンパク質総量として BCA 法や Micro BCA 法で定量することができる。

図 C.3 - in vitro 血栓形成評価試験の試験回路の構成例
図省略

図 C.4 - in vitro 血栓形成評価試験の試験回路の例
図省略

C.3.2 in vitro 血栓形成評価試験の実施例 2
本実施例は試験ポンプの血栓好発部位の一次的スクリーニングを目的とする in vitro 血栓形成評価試験の一例である。実際の実施例については文献[35]を参照のこと。
目的: 血液ポンプの設計 適化の一環として、in vivo 試験を実施する前に対象となる血液ポンプの血栓形成を事前評価する。
試験方法:
a) 試験条件
血液は 500 ml 使用し、使用前に濾過して微小血栓や凝集した血小板を除去する。被験ポンプは揚程 100 mmHg かつ血流量 1.0 – 2.0 L/min の循環条件で駆動する。血液の温度が 37 ± 2 ℃になるように、リザーバを恒温槽に浸す。試験時間は 2 時間とする。in vivo 試験の初期に形成される血栓を模擬するため、試験開始後、試験ポンプを駆動させながら活性化凝固時間(ACT)を 200 秒を目標に調整する。
b) 血液の前処理
動物血(ウシ、ブタ等)を試験血液として使用し、血液を採取した直後に抗血栓処理を実施する。採取した血液を搬送後、試験を実施する。
c) 試験装置
試験回路は、被験ポンプ、リザーバ、3か所の採血ポートより構成され、各部材は塩化ビニル製のチューブで接続する。被験ポンプを除いて、血液接触面はヘパリンでコーティングする。ポンプの揚程を計測するための血圧計と、ポンプが駆出する血流量を計測するための血流量計を使用する。そして、循環条件を設定するための回路抵抗器をポンプ出口下流に取り付ける(図 C.5、図 C.6)。
評価方法:
血液循環の終了後、試験ポンプを分解し、目視で内部の血栓形成状況を観察することで、試験ポンプの血栓好発部位の一次的スクリーニングを実施することができる。

図 C.5 - in vitro 血栓形成評価試験の試験回路の構成例
図省略

図 C.6 - in vitro 血栓形成評価試験の試験回路の例
図省略

附属書 D 数値流体解析
数値流体解析によって流路内の速度分布、圧力分布を可視化し、ポンプ内の流速分布、剪断応力の分布を知ることができるが、本ガイダンスの執筆時点では数値流体解析のみではこれらの絶対値を高い信憑性で得ること、許容値を設定することはできない。従って、
数値流体解析はin vivo試験によって妥当性検証(verification)及び妥当性評価(validation)、いわゆる V&V を行う必要がある。
数値流体解析を含む in silico 評価における V&V に関しては、in silico 評価開発ガイドライン(手引き)、PMDA 科学委員会コンピューターシミュレーション専門部会報告書が参考にな る 。 これ ら は いず れ も 、 ASTM V&V40 Assessing Credibility of Computational
Modeling through Verification and Validation: Application to Medical Devices [36] (以下、「V&V 40」)及び米国 FDA CDRH のガイダンス文書”Reporting of Computational
Modeling Studies in Medical Device Submissions” [37]を基本としている。
V&V 40 では、数値シミュレーションを現象解析だけでなく、合理的意思決定を助けるツールと位置付けている。そのために数値計算の credibility(信憑性)を定量化し、社会的に受容されるシミュレーションとすることを目的としている。信憑性の尺度として定量化した不確定性(UQ: Uncertainty Quantification)を導入している。UQ が計算値に対する一種のエラーバーとして加算され、その結果が評価実験と比較して受容可能であるかを吟味する。受容可能でない場合は、数値モデルや使用した係数の修正等の対応が必要となる。

附属書 D 数値流体解析
数値流体解析によって流路内の速度分布、圧力分布を可視化し、ポンプ内の流速分布、剪断応力の分布を知ることができるが、本ガイダンスの執筆時点では数値流体解析のみではこれらの絶対値を高い信憑性で得ること、許容値を設定することはできない。従って、
数値流体解析はin vivo試験によって妥当性検証(verification)及び妥当性評価(validation)、いわゆる V&V を行う必要がある。
数値流体解析を含む in silico 評価における V&V に関しては、in silico 評価開発ガイドライン(手引き)、PMDA 科学委員会コンピューターシミュレーション専門部会報告書が参考にな る 。 これ ら は いず れ も 、 ASTM V&V40 Assessing Credibility of Computational
Modeling through Verification and Validation: Application to Medical Devices [36] (以下、「V&V 40」)及び米国 FDA CDRH のガイダンス文書”Reporting of Computational
Modeling Studies in Medical Device Submissions” [37]を基本としている。
V&V 40 では、数値シミュレーションを現象解析だけでなく、合理的意思決定を助けるツールと位置付けている。そのために数値計算の credibility(信憑性)を定量化し、社会的に受容されるシミュレーションとすることを目的としている。信憑性の尺度として定量化した不確定性(UQ: Uncertainty Quantification)を導入している。UQ が計算値に対する一種のエラーバーとして加算され、その結果が評価実験と比較して受容可能であるかを吟味する。受容可能でない場合は、数値モデルや使用した係数の修正等の対応が必要となる。

附属書 E 耐久性試験
E.1 耐久性試験について
心臓移植への橋渡し(Bridge to transplantation: BTT)を目的とした植込型補助人工心臓に関しては 6 カ月、さらに長期生命維持を目的とした Destination therapy(DT)を目的とした植込型補助人工心臓では 2 年間の耐久性を示すことが推奨されている。
目標とする信頼性を達成するために必要十分な試験検体数を設定する。システムの信頼性とは、予め定めた試験環境・条件の下で、システムが一定期間その機能を果たす確率で表される。達成すべき信頼性を示すために、Reliability と Confidence level を設定し、試験するシステムの数と許容可能な故障数を決定して試験を計画する等、統計的手法を用いて信頼性を示すことが推奨される。試験検体数の目安は評価指標 2023 の参考1にも示されている。
附属書 E では2つの実施例を紹介する。実験条件は開発するシステムの使用目的等に合わせて適切に設定する必要がある。
E.2 耐久性試験の実施例 1
本実施例は、評価指標 2023 の参考1に概ね準拠しているほか、関連の研究と整合している[38, 39]。また、実際の実施例については、文献[40]を参照のこと。
目的: DT を目的とする補助人工心臓システムを生理的な拍動流および圧力条件、温度環境下で駆動させ、機械的耐久性及びポンプ特性の経年変化を評価する。
試験方法: a) 試験条件
試験検体数は Reliability 80 %、Confidence level 80 %で 1 台の故障も許容しない条件で 8 台とし、試験期間は 2 年間とする。被験人工心臓を定常運転で流量 5 L/min、揚程 100 mmHg を発生する羽根回転数に設定する。ダイヤフラムポンプを駆動し、ストロークと抵抗を調整することにより、成人の平均拍動数である拍動数 72 bpm において拡張期 0 ± 1 L/min、収縮期 9.5 ± 1 L/min、平均流量 5 ± 1 L/min の拍動流を与える。この条件は通常の臨床条件よりも過酷な条件となっている。
b) 作動流体
液温 37 ± 2 ℃で血液と等粘度の作動流体(グリセリン濃度 44 %、塩化ナトリウム濃度
0.9 %)を試験回路内に満たす。
c) 試験装置
試験回路は、リザーバ、一方向弁、ダイヤフラムポンプ、コンプライアンスタンク、抵抗から成り、チューブによって接続する(図 E.1)。被験人工心臓は 37 ± 2 ℃の生理食塩水の没水槽に没水させる。
d) 計測項目
被験人工心臓の羽根回転数、電力、流量および圧力、拍動流モック回路の拍動数、液温および液密度を試験期間中連続的に計測する。また、拍動流モック回路内および没水槽内溶液の塩分量を定期的に計測する。
評価方法:
計測結果から総合的にシステムの動作を判断する。さらに、耐久性試験前後における被験人工心臓の揚程流量特性を比較する。例えば、以下を評価する。
- 一定の羽根回転数で 2 年間駆動し続けた台数。
- 被験人工心臓の拡張期流量、収縮期流量および平均流量。作動流体の蒸発を起因とする液密度の変化や自己心を模擬する拍動流ポンプの定期交換前後における拍動流量波形の変化にも留意する。
- 耐久性試験前後における被験人工心臓の揚程流量特性の変化。

図 E.1 - 耐久性試験用の拍動流モック回路
図省略

E.3 耐久性試験の実施例 2
本実施例は、承認品目による試験の例である。実際の実施例については、文献[39, 41 ]を参照のこと。
目的: 左室補助人工心臓を、生理的な拍動流および圧力条件、温度環境下で駆動させ、目的とする期間の耐久性を評価する。
試験方法:
a) 試験条件
後述の拍動負荷試験装置を用いて、左室補助人工心臓の耐久試験を行う。大動脈圧、流量、作動流体の温度などの試験条件は、心不全患者の循環動態を模擬するよう設定する。
さらに、心拍数を生理的な日内リズムに合わせて変化させることで、臨床使用状況を模した拍動負荷を補助人工心臓に与えることができる。各条件は以下の手順で設定する。
1) バイパスループをクランプし、左心室モデルの往復運動モータを駆動する。心拍数
70 bpm、収縮期割合 35 %とし、一回拍出量と後負荷バルブは、流量 6.5 L/min、平均大動脈圧 85 mmHg を達成するように調節する。
2) 一回拍出量を 1) の 50 %に下げ、バイパスループのクランプを開放する。被験人工心臓を起動し、流量 6.5 L/minになるまで回転数を上げる。心拍数、収縮期割合、後負荷バルブの設定は 1) と同じとする。この状態を「Awake mode」と定義する。
3) Awake mode の心拍数を 50 bpm へ変更した状態を「Sleep mode」、120 bpm へ変更した状態を「Exercise mode」と定義する。1 日の中で、Awake mode が 15 時間、Sleep mode が 8 時間、Exercise mode が 1 時間となるように往復運動モータを設定する。
b) 作動流体作動流体は、グリセリン水溶液を使用することができる。
c) 試験装置
左心室モデルに被験人工心臓を並列に接続した拍動循環装置(左心室モデルと大動脈モデルを含むメインループ、被験人工心臓を含むバイパスループから成る)を使用する(図 E.2)。メインループは、左心室モデル、大動脈モデル、左心房を模擬した左室前負荷チャンバーで構成される。左心室モデルには往復運動モータ、流入弁、流出弁が設置され、大動脈モデルへ向けて拍動流が送出される。大動脈モデルは 3 本のシリコンチューブで作製され、大動脈の脈圧を模擬することができる。左室前負荷は左室前負荷チャンバーの水頭圧、後負荷はメインループの高さによる水頭圧とバルブによる管路抵抗によって与えられる。左室前負荷チャンバーには熱交換器が設置され、作動流体の温度を調整・維持することができる。バイパスループでは、人工血管を模擬した管路によって、左心室モデル、補助人工心臓、大動脈モデルが接続される。補助人工心臓は 37 ℃に維持された生理食塩水に常時浸漬させる。被験人工心臓はドライブラインを介してコントローラーに接続される。

図 E.2 - 左室補助人工心臓の耐久性試験システム
図省略

d) 計測項目
試験中は、左心室圧、大動脈圧、メインループの流量、被験人工心臓の流量を定期的に測定する。被験人工心臓の回転数、電流値( 大値、 小値、平均値)を 10 分毎に記録する。
試験実施中に異常が見られた場合やメンテナンスを実施した場合は適宜記録する。
評価方法
目的とする期間の試験を実施した後、被験人工心臓の流量性能、その他事前に設定した項目を評価し、試験前と比較する。試験期間中に故障が発生した場合は、故障の程度を以下に準じて評価し、原因を解析する。
<故障の定義>
発生した故障は、故障の程度によって以下の区分に分けることができる。
1) 壊滅的: 補助循環機能を完全に失うもの。復帰不可能なポンプ停止など。
2) 重大: 一部の機能を失い、安全性が維持できないもの。回転数の継続的な低下など。 3) 許容範囲: バックアップシステムが故障するもの。電源切り替えの不調など。
4) 影響なし: ポンプ駆動に影響を与えないもの。外観上の異常など。

附属書 F 改訂履歴
本ガイダンスの改訂履歴,主な改訂事項は以下の通りである。
第1版: 体内埋め込み型能動型機器分野(高機能人工心臓システム)開発ガイドライン
2007(人工心臓開発ガイドライン 2007)[1]
- 2007(平成 19)年 5 月公開
- 対象:体内埋込み型の拍動流型あるいは連続流型の人工心臓で,心臓移植ないし回復までのブリッジ使用、あるいは半永久的使用が考慮される数年以上の長期使用に耐えるもの
- 設計上の要件・耐久試験・動物試験数の目安などを記載した。
第2版: 本ガイダンス(この版)
- 2024(令和 6)年 12 月公開
- 改訂の背景: 評価指標が改訂されたこと、補助循環システムのバリエーションが増えたこと、数値実験・in vitro 実験技術が進歩したこと、国内臨床使用経験の蓄積、臨床上のニーズは引き続き高く海外では新製品・起業が続いていること、国際規格等の更新により陳腐化した事項が増えたこと、など。
- 主な改訂点:
- 「医療機器開発ガイダンスの作成及び運用のための手引き」に準拠して章構成を変更した。評価指標 23 と重複する事項は原則的に記載を省略又は簡略化した。
- 適用する医療機器を「人工心臓(主に植込型 VAD)」とした。また、それ以外の機械的送血機構の開発の参考にすることができるとした(2.1)。
- 関連する用語の定義を既存文書から引用整理、一部独自和訳した(3)。
- 旧版の「(2) 想定する使用環境及び人的要因」に列記した要求事項を、リスクマネジメント(5.1.1)、ユーザビリティエンジニリングに関連する事項に整理した(5.1.2)。
ISO 14708-1:2014 等の関連規格を出典として要求の根拠を示した。
- 旧版で「(3) ポンプ流体性能」から「(12) 信頼性(耐久性試験)」まで記載した事項を形式試験として実施すべき事項、リスクマネジメントによって試験条件と許容値を設定すべき事項に整理した(5.2.1)。
- in vitro 血液適合性評価試験の記載を加筆し、実施例を附録した(5.2.5, 附属書 C)。
- 数値流体解析の記載を追加した(5.2.6, 附属書 D)。
- 旧版の「(11) 動物実験」「(13) 臨床評価」を削除した。

附属書 G 参考文献

[1] 経済産業省, 体内埋め込み型能動型機器分野(高機能人工心臓システム)開発ガイドライン 2007, 平成 19 年 5 月, 2007
[2] 厚生労働省, 植込型補助人工心臓評価指標, 令和 5 年 3 月 31 日付薬生機審発
0331 第 5 号別紙 1, 2023
[3] ISO 14708-5:2020 Implants for surgery — Active implantable medical devices — Part 5: Circulatory support devices
[4] 日本循環器学会, 日本心臓血管外科学会, 日本胸部外科学会, 日本血管外科学会,
2021年改訂版 重症心不全に対する植込型補助人工心臓治療ガイドライン, 2021年
10 月 12 日更新, 2021
[5] ISO 18242:2016 Cardiovascular implants and extracorporeal systems — Centrifugal blood pumps
[6] ISO 14971:2019 Medical devices — Application of risk management to medical devices
[7] JIS T 14971:2020 医療機器―リスクマネジメントの医療機器への適用
[8] Gregory, S., Stevens, M. & Fraser, J. F., Mechanical Circulatory and Respiratory Support, Academic Press, Cambridge, 2018
[9] 補助人工心臓治療関連学会協議会, IMPELLA 適正使用指針, 2019 年 3 月 1 日改訂 (第 3 版), 2019
[10] 日本臨床補助人工心臓研究会, 小児用補助人工心臓適正使用基準, 平成 27 年 7 月 10 日, 2015
[11] ISO 14708-1:2014 Implants for surgery — Active implantable medical devices — Part 1: General requirements for safety, marking and for information to be provided by the manufacturer
[12] 経済産業省, 補助人工心臓用の経皮的エネルギー伝送システム開発ガイドライン
2023(手引き), 令和 5 年 1 月, 2023
[13] IEC 60601-1-11 Ed. 2.1:2020 Medical electrical equipment - Part 1-11: General requirements for basic safety and essential performance - Collateral Standard: Requirements for medical electrical equipment and medical electrical systems used in the home healthcare environment

[14] IEC 60601-1 Ed. 3.2:2020 Medical electrical equipment - Part 1: General requirements for basic safety and essential performance
[15] IEC 62366-1 Ed. 1.1:2020 Medical devices - Part 1: Application of usability engineering to medical devices
[16] IEC 60601-1-6 Ed. 3.2:2020 Medical electrical equipment - Part 1-6: General requirements for basic safety and essential performance - Collateral standard: Usability
[17] ISO 10993-4:2017 Biological evaluation of medical devices — Part 4: Selection of tests for interactions with blood
[18] ISO 7198 Cardiovascular implants and extracorporeal systems — Vascular prostheses — Tubular vascular grafts and vascular patches
[19] ISO 5840-1 Cardiovascular implants — Cardiac valve prostheses — Part 1: General requirements
[20] ISO 5198 Centrifugal, mixed flow and axial flow pumps — Code for hydraulic performance tests — Precision grade
[21] ISO 4409 Hydraulic fluid power — Positive displacement pumps, motors and integral transmissions — Determination of steady-state performance
[22] ASTM F1841 Standard Practice for Assessment of Hemolysis in Continuous Flow Blood Pumps
[23] ASTM F1830-19 Standard Practice for Collection and Preparation of Blood for Dynamic in vitro Evaluation of Hemolysis in Blood Pumps
[24] JIS T 0403: 2018 左心補助人工心臓用脱血管のインビトロ(in vitro)血栓性試験方法
[25] Ventricular Assist Device Global Market Report 2023, The Business Research company
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[27] 岡本英治, 友田恭嗣, 山本克之, 朝田政克, 安田慶秀, 三田村好矩, 三上智久. 体内埋込み型補助人工心臓の温度上昇に関する検討. 人工臓器 1994, 23, 1077-
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[29] 令和 4 年 9 月 30 日付 薬生機審発 0930 第 1 号/薬生監麻発 0930 第 1 号, 医療機器のユーザビリティエンジニアリングに係る要求事項に関する日本産業規格の改正の取扱いについて
[30] 平成 28 年 8 月 31 日付 薬生機審発 0831 第 1 号, 別添 3 左心補助人工心臓用脱血管の in vitro 血栓性試験法
[31] 平成 28 年 11 月 22 日付薬生機審発 1122 第 1 号, 持続的血液濾過器の in vitro 血栓性試験法
[32] 岩﨑清隆, 梅津光生, 医療機器・材料の血液適合性評価と,生体外(in vitro)で可能な評価手法の展望, 生体適合性制御と要求特性掌握から実践する高分子バイオマテリアルの設計・開発戦略, サイエンス&テクノロジー, 247-258, 2014 年 5 月
[33] 岩﨑清隆,高橋東,松橋祐輝,平田麻由紀,永井美玲,山崎健二,梅津光生,新規 in vitro 血栓評価法による補助人工心臓の平滑及びメッシュ脱血管周囲に形成される血栓の飛散リスク比較評価,第26回バイオエンジニアリング講演会論文集, 349-
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高機能人工心臓システム開発 WG 委員

座長 増澤 徹   茨城大学 副学長 大学院 理工学研究科 機械システム工学領域 教授
岩崎 清隆 早稲田大学 理工学術院 教授
小野 稔   東京大学大学院 医学系研究科 教授
柏原 進   泉工医科工業株式会社 開発本部 第一開発部 執行役員・部長
岸上 兆一 ニプロ株式会社 SD事業部 CVS営業部 部長
小林 信治 株式会社サンメディカル技術研究所 取締役社長
白石 泰之 東北大学加齢医学研究所 心臓病電子医学分野 准教授
西中 知博 国立循環器病研究センター 人工臓器部 部長
福長 一義 杏林大学 保健学部臨床工学科 教授
百瀬 直樹 自治医科大学附属さいたま医療センター 臨床工学部 技師長
(敬称略、委員所属等は WG 活動当時のものである)

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 増澤 徹   茨城大学 副学長 大学院 理工学研究科 機械システム工学領域 教授
岩崎 清隆 早稲田大学 理工学術院 教授
小野 稔   東京大学大学院 医学系研究科 教授
柏原 進   泉工医科工業株式会社 開発本部 第一開発部 執行役員・部長
岸上 兆一 ニプロ株式会社 SD事業部 CVS営業部 部長
小林 信治 株式会社サンメディカル技術研究所 取締役社長
白石 泰之 東北大学加齢医学研究所 心臓病電子医学分野 准教授
西中 知博 国立循環器病研究センター 人工臓器部 部長
福長 一義 杏林大学 保健学部臨床工学科 教授
百瀬 直樹 自治医科大学附属さいたま医療センター 臨床工学部 技師長
(敬称略、委員所属等は WG 活動当時のものである)

報告書(PDF)

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report