重症心不全細胞治療用細胞シート

ガイドラインID 2010-HN-RE-006
発出年月日 2010-01-18
発出番号 平成22年1月18日付薬食機発0118第1号
WG名 再生医療(細胞シート)審査WG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2010-HN-RE-006 重症心不全細胞治療用細胞シート

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
ヒト由来細胞・組織を加工した医薬品又は医療機器(以下「細胞・組織加工医薬品等」という。)の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、平成 20 年 2月 8 日付け薬食発第 0208003 号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)及び平成 20 年 9 月
12日付け薬食発第 0912006号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)に定められているところである。
本評価指標は、ヒト由来細胞・組織加工医薬品等のうち特に重症心不全等の治療を目的として心臓に適用されるものであって細胞シート状の製品について、上述の基本的な技術要件のうち当該製品に特有の留意すべき事項を示すものである。

2.本評価指標の対象
本評価指標は、重症心不全治療を目的として適用される細胞・組織加工医薬品等のうち特に細胞シート状の製品について、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示したものである。重症心不全とは、一般に NYHA 分類でⅢ度以上のものをいうが、製品の適応疾患については、単に重症心不全とするのではなく、例えば、NYHA 分類でⅢ度以上、左室駆出率(LVEF)35%未満、心臓移植以外に治療手段がない等、既存の治療方法も考慮し、適切かつ具体的な基準を設定すること。
なお、開発する細胞シート製品が医療機器に該当するかどうか判断し難い場合は、必要に応じ、厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室に相談すること。

3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しいヒト由来細胞・組織加工医薬品等を対象とするものであることを勘案し、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示している。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容に関して拘束力を有するものではない。
製品の評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮
すべきである。

GL:本体

4.用語の定義
本評価指標における用語の定義はヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針及びヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針の定義による他、以下のとおりとする。
(1) 心不全:心臓自体の障害により心臓のポンプ機能が低下した結果生じる循環不全であって、組織・臓器が必要とする酸素や血液を十分に供給できなくなった状態をいう。心不全の重症度の評価方法としては NYHA分類等臨床症状による方法や LVEF等心機能による方法等が考えられる。
(2) 細胞シート:細胞同士、または細胞と支持体が結合してシート状の形態を呈したものをいう。
(3) 支持体:細胞をシート状に形成するための足場となるものをいい、移植・投与される細胞シート製品に含有されるか否かを問わない。なお、支持体の原料として生物由来の原材料が用いられる場合もある。

5.評価に当たって留意すべき事項
(1) 製品の品質管理
細胞シート製品の品質管理における留意点として、例えば以下に挙げた事項が考えられるが、必要かつ適切であれば別の試験項目の採用又は追加を検討すること。なお、各試験項目の設定根拠及び試験方法の妥当性については説明する必要がある。
① 形状について
必要な面積、穴・欠損の有無等の適切な項目を製品の特性に応じて設定すること。
② 構造について
細胞シート製品の厚さあるいは細胞の層数等について規格を設定すること。例えば血管網などの構造的な要素が細胞シート製品の品質、有効性及び安全性の確保に必要である場合は、それが形成されていることを免疫組織化学的検討等の手法により確認し、必要かつ可能であれば適切な定量的規格を設定すること。
③ 力学的特性について細胞シート製品としての形状維持やその有効性及び安全性のために一定の強度が必要とされる場合には、引っ張り応力等の力学的適合性及び耐久性に関する規格を設定すること。
④ 構成細胞及び細胞の分化度について
構成細胞のポピュレーション分布の定量的規格を設定し、フローサイトメトリー法等により、それを確認すること。また、細胞特異的マーカーに対する抗体等を用いてシートを構成している細胞の分化状態を確認し、可能であれば製品に必要とされる細胞の分化度についても規格を設定すること。細胞から産生される因子等が有効性に寄与する可能性が想定される場合には、産生量と臨床試験効果との相関性に関する情報を収集すること。
⑤ 細胞シート製品の運搬について
細胞シート製品を運搬する場合には、運搬容器及び運搬手順(温度管理等を含む。)等を定め、容器内の環境等が適切に管理され、製品の品質、有効性及び安全性が確保されることを示すこと。その際、特殊な機能を有する培養皿を使用する場合はその特性を考慮すること。
例えば、温度感受性培養皿のように細胞シートを製造するために細胞との接触面に特殊処理を施している場合、当該培養皿を用いて製造された細胞シート製品は、温度低下により細胞が培養皿から脱着して細胞生存率や細胞機能が低下する可能性があるため、輸送の際は温度管理が特に重要となる。

(2) 非臨床試験
動物に細胞シート製品を適用して有効性及び安全性を評価する際には、対象疾患を考慮して疾患モデル動物を作成すること。疾患モデル動物作成方法の例として、冠動脈結紮による心筋梗塞モデル又は overdriving 法による拡張型心筋症モデル等が挙げられるが、用いた動物モデルについては、その選択の根拠、試験系の妥当性及び得られた結果のヒトへの外挿性について説明する必要がある。有効性及び安全性の評価のために、細胞シート製品を適用した群、対照物質を適用した対照群、さらに必要であれば sham オペ群を用いた比較試験を実施すること。評価期間についても、その設定根拠について説明すること。移植した細胞シート製品とそれによってもたらされる効能について、細胞シートに含まれる細胞の移植部位における局在性を確認するなど経時的に評価し、その関連性について考察すること。
また、動物試験は、使用方法に関する試験の意味合いも含んでいることから、動物への適用方法は、可能な限り臨床での使用法(例えば、開胸手術、内視鏡的手術など)を反映することが望ましい。
評価項目としては、例えば以下を検討することが考えられるが、必要かつ適切であれば別の試験項目の採用又は追加を検討すること。
① 形態学的評価
細胞シート製品を適用した部位の組織学的検討を行い、適用部位及び周辺組織の状態を評価すること。例えば、適用部位におけるシート細胞の生着(生存数などを含む)、適用周辺部位の線維変性及び炎症細胞の浸潤の有無、適用部位及び周辺組織の変化(形状、厚み、細胞数、分化状態など)の検討を行うことが考えられる。また、移植された細胞シートの形状、性質及び機能を維持するために必要な構造的な要素(例えば血管網など)がある場合には、免疫組織化学的検討等の手法により確認すること。
②催不整脈性の評価
催不整脈性に関しては、普遍的に受容されたモデル動物は確立されていないため、対象疾患等を考慮して作成した疾患モデル動物(イヌまたはブタなど)を用いて評価すること。例えば、細胞シート製品の適用前後における、各群の長時間の心電図記録をホルター心電図等を用いて比較し、不整脈の有無と重症度について検討すること等が考えられる。
③血清学的評価
一般的に利用されているマーカー因子を用いて、腎機能、肝機能、急性心筋障害、慢性心筋障害等について評価すること。
④心機能、血流評価
心機能に関しては、心臓超音波検査や造影 MRI 等によって収縮能・拡張能を評価する必要がある。その他要すれば左室内腔短縮率、左室壁運動等の評価を検討すること。必要であれば、目的とする疾患、効能及び効果に応じて細胞シート製品適用後における血流を評価すること。評価法としては、例えば FDG-PET による検討、あるいは心臓超音波検査等が考えられる。
また、当該有効性が持続する期間についても検討すること。
⑤ 細胞シートの使用方法、使用量等に関する評価
梗塞・拡張等の部位・面積等に対し、適切な細胞シート移植量(例えば
移植シートの面積、細胞数、層数など)及び移植方法等を検討すること。

(3)臨床試験(治験)
治験実施計画書(安全性及び有効性の評価項目を含む。)は、対象疾患、目的とする効能及び効果、当該治療法に期待される臨床上の位置付け等を明確にした上で、それらに応じた評価項目を設定し、非臨床データ等も踏まえて適切に計画されるべきである。
特に被験者の心筋と適用した細胞シートの細胞の間での適切な電気的結合の欠如等の原因により、致死的不整脈が誘発される可能性が否定できないことから、細胞シート製品の適用前後の適切な時期に継続的に心電図等の不整脈に関する電気生理学的検査等を実施すること。検査方法としては、標準
12 誘導心電図、ホルター心電図、加算平均心電図、T波交互脈 (T wave alternans)などがある。また、必要に応じて抗不整脈薬の投与または植込み型除細動器の挿入等の緊急時の対応についても検討すること。
また、用いる細胞によっては腫瘍または石灰化の有無を確認すべき場合もあるため、必要に応じて、細胞シート製品の適用後に定期的に検査等(例えば CT検査等)を実施することを検討すること。

GL:付属資料

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

H19年度

座長
篠崎尚史 東京歯科大学 市川総合病院角膜センター センター長

委員(五十音順)
岡野栄之 慶応義塾大学 医学部 生理学教室 教授
菊池明彦 東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 准教授
永谷憲歳 国立循環器病センター研究所 先進医工学センター 再生医療部長
西田幸二 東北大学医学部付属病院眼科 教授
松山晃文 大阪大学 医学部付属病院未来医療センター 准教授

厚生労働省
俵木登美子 厚生労働省 医療機器審査管理室 室長
柳沼 宏  厚生労働省 医療機器審査管理室 専門官
有川 仁  厚生労働省 医療機器審査管理室 係長
田中俊博  厚生労働省 医療機器審査管理室 指導官
梅垣昌士  医政局研究開発振興課 ヒト幹細胞臨床研究対策専門官

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
鹿野真弓  医薬品医療機器総合機構 生物系審査第二部 部長
新見裕一  医薬品医療機器総合機構 品質管理部 部長
末岡明伯  医薬品医療機器総合機構 品質管理部基準課

国立医療品食品衛生研究所(事務局)
土屋利江 国立医薬品食品衛生研究所 療品部 部長
澤田留美 国立医薬品食品衛生研究所 療品部 主任研究官
加藤玲子 国立医薬品食品衛生研究所 療品部研究員

報告書(PDF)

H17年度報告書
2010-HN-RE-006-H17-報告書-表紙、目次、Ⅰ.委員名簿、Ⅱ.WG会議議事概要、Ⅲ.合同検討会発表用資料
2010-HN-RE-006-H17-報告書-Ⅳ.本文:1.総論
2010-HN-RE-006-H17-報告書-Ⅳ.本文:2.各論
2010-HN-RE-006-H17-報告書-Ⅳ.本文:3.調査事項、Ⅴ.参考資料

H18年度報告書
2010-HN-RE-006-H18-報告書-表紙、目次、Ⅰ.委員名簿、Ⅱ.WG会議議事概要、Ⅲ.本文 1.評価指標作成に向けて
2010-HN-RE-006-H18-報告書-Ⅲ.本文 2.調査事項 2-1~2-5
2010-HN-RE-006-H18-報告書-Ⅲ.本文 2.調査事項 2-6~2-8
2010-HN-RE-006-H18-報告書-Ⅳ.参考資料

H19年度報告書
2010-HN-RE-006-H19-報告書-表紙、目次、Ⅰ.委員名簿、Ⅱ.WG会議議事概要、Ⅲ.細胞シート評価指
2010-HN-RE-006-H19-報告書-Ⅳ.調査事項
2010-HN-RE-006-H19-報告書-Ⅴ.参考資料

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

(再生医療等製品) ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」(テルモ㈱) 日本申請日:2014年10月30日、日本承認日:2015年9月18日

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report