角膜内皮細胞シート

ガイドラインID 2010-HN-RE-008
発出年月日 2010-05-28
発出番号 平成22年5月28日付薬食機発0528第1号
WG名 再生医療(細胞シート)審査WG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2010-HN-RE-008 角膜内皮細胞シート

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
ヒト由来細胞・組織を加工した医薬品又は医療機器(以下「細胞・組織加工医薬品等」という。)の品質及び安全性を確保するための基本的な技術要件は、平成 20 年 2 月 8 日付け薬食発第 0208003 号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)及び平成 20 年 9 月 12 日付け薬食発第 0912006 号厚生労働省医薬食品局長通知(以下「ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針」という。)に定められているところである。
本評価指標は、ヒト由来細胞・組織加工医薬品等のうち特に角膜内皮障害等の治療を目的として適用されるものであって細胞シート状の製品について、上述の基本的な
技術要件に加えて当該製品特有の留意すべき事項を示すものである。

2. 本評価指標の対象
本評価指標は、角膜内皮障害等の治療を目的として適用される細胞・組織加工医薬品等のうち特に細胞シート状の製品について、基本的な技術要件に加えて品質、有効性及び安全性の評価にあたって留意すべき事項を示すものである。
なお、開発する細胞シート製品が医療機器に該当するか判断し難い場合は、必要に
応じ、厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室に相談すること。

3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しいヒト由来細胞・組織加工医薬品等を対象とするものであることを勘案し、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示している。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容に関して拘束力を有するものではない。
製品の評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

GL:本体

4. 用語の定義
本評価指標における用語の定義はヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針及びヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針の定義による他、以下のとおりとする。
(1) 角膜内皮:角膜は表面から、角膜上皮層、角膜実質層、角膜内皮層の 3 層構造をしている。角膜内皮層は角膜の内側にある 1 層の角膜内皮細胞から構成されている組織である。
(2) 角膜内皮障害:角膜内皮細胞が、外傷や疾患等によって障害され減少したために、角膜が混濁した状態(水疱性角膜症)をいう。
(3) 細胞シート:細胞同士、または細胞と支持体が結合してシート状の形態を呈したものをいう。
(4) 支持体:細胞をシート状に形成するための足場となるものをいい、移植・投与される細胞シート製品に含有されるか否かを問わない。なお、支持体の原料として生物由来の原材料が用いられる場合もある。
(5) ポンプ機能:角膜内皮細胞は角膜実質内のイオンを前房内へ能動輸送することによって浸透圧勾配を生じて、水の移動を生じる。この機能をポンプ機能という。
(6) バリア機能:角膜内皮細胞では細胞間が接着構造で結合しており、物質が自由に移動できない構造となっている。この機能をバリア機能という。
(7) 細隙灯顕微鏡(スリットランプ)検査:角膜を含めた眼の表面を拡大して観察する眼科臨床検査のひとつをいう。

5.評価に当たって留意すべき事項
(1)製品の品質管理
細胞シート製品の品質管理における留意点として、例えば以下に挙げた事項を含めて検討し、製品の特性に応じて適切に品質管理項目に反映することが必要と考えられる。しかしながら、以下の試験項目及び Appendi x 等における例示は必要十分とは限らず、製品の特性に応じ、必要かつ適切であれば、別の試験項目や試験方法、マーカー等の採用又は追加設定について検討すること。また、各項目について試験項目及び試験方法の妥当性を説明する必要がある。
なお、移植に供する細胞シート製品そのものの評価が困難な場合は、スペアシート(移植枚数に品質管理用のシートも加えた枚数を製造し、無作為に抜き取ったシート)等による評価も考えられる。
① 形状について
・位相差顕微鏡観察等により、角膜内皮細胞特有の細胞形態(六角形を主体とする多角形細胞形態)が観察されることの確認。
・培養皿等の培養器における細胞層の確認。
・組織切片の作製等により、細胞がシートを形成していることの確認。
② 構成細胞、細胞の特性等について 以下のような評価が考えられる。
・シートを構成している細胞の分化状態、増殖性等の確認(六角形を主体とする多角形細胞の比率、透明度や細胞密度などを用いた試験等。)。
・構成細胞のポピュレーション及びその分布、細胞シート内の細胞均一性(細胞の純度)等についての確認(角膜内皮細胞に発現していることが知られるマーカー(Appendi x 参照)に対する抗体等を用いた試験等。)。
・角膜内皮細胞の1細胞当たりの面積および移植片における細胞密度の確認。
③ バリア機能について
例えば、バリア機能との相関が報告されている適切なマーカー(Appendix 2 参照)の発現解析、ポンプ機能との相関が報告されている適切なマーカー(Appendi x 3 参照)の発現・密度の解析、ポンプ機能の測定(例えばウッシングチャンバーを用いた short
circuit current の測定等)等により、細胞シートに要求される機能を評価する。
④ 細胞シート製品の運搬について
細胞シート製品を運搬する場合には、運搬容器及び運搬手順(温度管理等を含む。)等を定め、容器内の環境等が適切に管理され、製品の品質、有効性及び安全性が確保されることを示すこと。その際、特殊な機能を有する培養皿を使用する場合はその特性を考慮すること。
例えば、温度感受性培養皿のように細胞シートを製造するために細胞との接触面に特殊処理を施している場合、当該培養皿を用いて製造された細胞シート製品は、温度低下により細胞が培養皿から脱着して細胞生存率や細胞機能が低下する可能性があるため、輸送の際は温度管理が特に重要となる。
⑤ 支持体について
羊膜やフィブリンゲル等の支持体を用いる場合、必要に応じて規格を設定し、支持体が目的とする機能を有することを評価する必要がある。また、安全性(例えば、感染症や異物反応等)について説明する必要がある。

(2)非臨床試験
妥当な疾患動物モデルと、そのモデル動物に由来する原材料を用いた同等品作製および品質保証技術が確立されている場合には、可能な限り、モデル動物を用いた非臨床試験を行うことが望ましい。疾患モデル動物としては、例えば、中大型動物を用いた角膜内皮機能不全モデル等が考えられる。用いた動物モデルの作製方法、試験デザイン、評価期間、評価方法等の妥当性を説明した上で、製品の安全性や効力または性能を説明する必要がある。有効性の検討には、適切な対照群を設定し、統計的手法を用いて評価することが望ましい。なお、有効性に加えて安全性の評価を実施する場合には、製品の特性に応じた安全性に関する試験項目を設定し評価すること。
試験項目としては、例えば以下を検討することが考えられるが、必要かつ適切であれば、試験項目の追加及び新たな試験方法の設定について検討すること。なお、各試験項目及び試験方法の妥当性を説明する必要がある。
① 細隙灯顕微鏡検査による角膜の評価
細隙灯顕微鏡検査により、角膜の透明性を段階的にスコア化して評価を行うことが考えられる。この場合、スコア化については混濁の程度や瞳孔の透見性による指標等が考えられるが、その妥当性について合理的な説明が必要である。
② 角膜厚の評価超音波パキメーター等を使用した移植後の角膜厚の測定、移植された細胞の角膜内皮細胞層としてのポンプ機能とバリア機能を有していることの確認等が考えられる。
③ スペキュラーマイクロスコープによる角膜内皮細胞の密度・形態の評価
スペキュラーマイクロスコープにより、移植前後の角膜内皮細胞の密度、形態(例えば六角形を主体とする多角形細胞の割合、細胞の大きさ、均一性等)を生体内で評価することが考えられる。
④ 形態学的評価
移植後の角膜組織を採取し、アリザリン染色、免疫染色法等により角膜内皮の状態を評価することが考えられる。アリザリン染色では、角膜内皮の形態及び脱落の有無の確認や移植した角膜内皮細胞の密度を測定することができる。また、角膜内皮細胞に発現していることが知られるマーカー(Appendi x 1 参照)等を用いた免疫染色により、角膜内皮面に角膜内皮細胞が生着していることを確認することが考えられる。
⑤ 安全性の評価
前房内の炎症反応、眼圧測定、感染症発生の有無など眼球の生理機能への影響やその他の合併症の有無等を含めて安全性を評価する。

(3) 臨床試験(治験)
治験実施計画書(安全性及び有効性の評価項目を含む)は、対象疾患、目的とする効能および効果、当該治療法に期待される臨床上の位置づけ等に応じて、非臨床データ等も踏まえて適切に計画されるべきである。

6. 参考情報
Appendi x
下記の角膜内皮細胞に関するマーカーは例示であり、必要十分とは限らず、製品の特性や試験の目的に応じてマーカーの追加もしくは他のマーカーを用いること等について検討する必要がある。
1. 角膜内皮細胞に発現していることが知られるマーカーとしては、Na+-K+ ATPase、
ZO-1、N-cadheri n、occludin 等が報告されている。
2. 角膜内皮細胞のバリア機能と関係しているマーカーとして、ZO-1、occludin 等が報告されている。
3. 角膜内皮細胞のポンプ機能と関係しているマーカーとして、Na+-K+ ATPase 等が報告されている。

GL:付属資料

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

H20年度報告書

座長
西田幸二 東北大学大学院医科学系研究科 神経・感覚器病態学講座 教授

委員
篠崎尚史 東京歯科大学 市川総合病院角膜センター センター長
岡野栄之 慶応義塾大学 医学部 生理学教室 教授
菊池明彦 東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 准教授
天野史郎 東京大学 医学部付属病院 角膜移植部 准教授
稲富 勉 京都府立医科大学 眼科学教室 講師
松山晃文 大阪大学 医学部付属病院未来医療センター 准教授(肝臓再生TF長)
大橋一夫 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 准教授(肝臓再生TF)
寺井崇二 山口大学 大学院医学系研究科消化器病態内科学 講師(肝臓再生TF)

厚生労働省
俵木登美子 厚生労働省 医療機器審査管理室 室長
柳沼 宏  厚生労働省 医療機器審査管理室 専門官
秋元朝行  厚生労働省 医療機器審査管理室
梅垣昌士  医政局研究開発振興課 ヒト幹細胞臨床研究対策専門官

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
鹿野真弓  医薬品医療機器総合機構 生物系審査第二部 部長
新見裕一  医薬品医療機器総合機構 品質管理部 部長

オブザーバー
梅澤明弘  国立成育医療センター研究所 生殖医療研究部 部長
大河内仁志 国立国際医療センター研究所 細胞組織再生医学研究部 部長
本間一弘  産業技術総合研究所 人間福祉医工学部門 副部門長
田口隆久  産業技術総合研究所 セルエンジニアリング研究部門 副部門長

国立医療品食品衛生研究所(事務局)
土屋利江 国立医薬品食品衛生研究所 療品部 部長
澤田留美 国立医薬品食品衛生研究所 療品部 主任研究官
加藤玲子 国立医薬品食品衛生研究所 療品部 主任研究官

報告書(PDF)

2010-HN-RE-008-H20-報告書-表紙、目次、Ⅰ.委員名簿、Ⅱ.WG会議議事概要、Ⅲ.細胞シート評価指標
010-HN-RE-008-H20-報告書-Ⅳ.調査事項
010-HN-RE-008-H20-報告書-Ⅴ.参考資料

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発(阪大)

Horizon Scanning Report