4.用語の定義
本評価指標における用語の定義は、ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の指針、ヒト(同種)由来細胞・組織加工医薬品等の指針、ヒト(自己)体性幹絋胞加工医薬品等の指針及びヒト(同種)体性幹細胞加工医薬品等の指針の定義による他、以下のとおりとする。
( 1 )軟骨細胞:軟骨の細胞外基質中に存在し、主にコラーゲン(タイプIl、Ⅸ、'刈等)とプロテオグリカン(アグリカンを主とする)を分泌し軟骨基質を形成することを特徴とする細胞を一般的には指すが、本評価指標で原材料とする細胞はその前駆細胞(軟骨芽細胞)、軟骨細胞又は軟骨芽細胞を豊富に含む細胞集団及び体外でこれらの細胞を培養して得られた細胞を含む。
( 2 )体性幹細胞=生体組織中に存在し、多分化能を有しかつ自己複能力を維持しているもの又はそれに類することが推定されるもの及びこれを豊富に含む細胞集団をいうが、本評価指標では骨髄間質細胞も含む。また、体外でこれらの細胞を培養して得られた細胞を含む。
( 3 )粘弾性:粘性と弾性とを併せ持っ性質。軟骨組織の力学的特性において重要なファクターである。特に粘性は、歩行や運動といった時問的に変化する荷重に対して関節軟骨が応答する際に、重要な働きをする。
( 4 )中間製品:製造の中間工程で造られたものであって、以後の製造工程を経ることによって製品となるもの。
5 .最終製品に軟骨細胞を含む場合の品質管理
損傷関節軟骨等の治療を目的とした再生医療等製品には、原材料と適用との関係性から、 1)原材料として採取されるドナーの細胞。組織が患者の適用部位の細胞・組織と同様の基本機能をもっ場合(相同使用Homologous Use)と、2)そうでない場合(非相同使用 Non・homologous Use)とに分けられる。本評価指標においては昨今の国内外の研究開発状況を鑑み、前者の場合には主にヒト軟骨細胞加工製品を、後者の場合には主に軟骨以外の組織に由来するヒト体性幹細胞を原材料とする再生医療等製品を対象とする。両者の安全性・有効性上の大きな差異として考えられるのは、前者の場合には適用部位における細胞・組織の既知の生理学的機能からその有効性の機序を理解することが比較的容易と想定される可能性があるのに対し、後者の場合には移植段階で軟骨細胞様の表現型を呈さないこと及び有効性を裏付ける機序が複数である可能性があることに加えて、それらの確認が困難である可能性が考えられる。従って、軟骨細胞の相同使用による軟骨細胞加工製品と非相同性使用による体性幹細加工製品とでは、有効性の評価、その機序の理解及び製品中の細胞の適用部位における機能に基づくリスクの評価について留意点が異なる可能性があることに注意が必要である。
製品評価については、以下に挙げた試験項目が考えられる。しかしながら、製品によっては例示した試験項目又はマーカーが必要十分とは限らず、逆に不必要な場合もある。さらに必要かっ適切であれば、別の試験項目又はマーカーを採用又は追加して設定を検討し、使用する妥当性を説明すること。
本評価指標においては、相同使用と非相同使用について、最終製品に軟骨細胞を含む場合と最終製品に軟骨細胞を含まない場合とに分けてそれそれ本章及び次章において例示する。最終製品に軟骨細胞を含む場合としては、原材料としてヒト軟骨細胞を用いて適用する場合及び原材料としてヒト体性幹細胞を軟骨細胞に分化誘導して適用する場合が含まれる。
( 1 )胞数及び生存率
出発原料となる軟骨細胞又は体性幹細胞は採取組織に由来する量的な制約がある。軟骨細胞は体外培養すると脱分化する傾向を持つ。軟骨細胞は、ドナーの年齢又は長期の培養等の条件により増殖速度が低下する場合もあるため、体外での増殖にも限度があり、最終製品に使用可能な細胞数は、出発原料として得られた細胞の数に応じて量的な制約を持つ。したがって、意図する治療部位のサイズに見合ったの最終製品を製造するために十分な量の細胞を確保するためには、出発原料又は中問製品中に存在する細胞の数及ひ生存率について判定基準を設定しておく必要がある。また、最終製品における細胞の数及び生存率についても基準を設定する必要がある。細胞数を測定する方法としては、最終製品の一部を酵素処理して細胞懸濁液とし、血球計算板やセルカウンターで測定する方法がある。細胞生存率を測定する方法として、トリバンプルー用いた色素排除法があり、生細胞及び死細胞を計数することができる。足場材料等に出発原料又は中間製品である細胞を播種し、三次元培養した品では、使用している足場材料等をタンパク 質分解酵素等で消化して細胞懸濁液を得て、それを細胞数及び細胞生存率の測定に用いることが考えられる。足場材料等から細胞を分離して細胞を計数することが困難な場合には、細胞のDNA量を測定する方法や、MTTアッセイによりミトコンドリアの酵素活性を指標に生細胞数を算出する方法がある。
( 2 )確認試験
目的とする体内での有効性(軟骨形成能、軟骨機能等)を達成し、かっ安全性上の問題(意図しない分化、異常増殖等)を可能な限り回避するとともに、一定の品質及び安定性を保持するために必要な最終製品中の細胞の重要細胞特性指標を定め、これらを用いて最終製品中の細胞が目的の細胞であることを確認すること。確認試験には目的細胞に対する特異性が求められるため、試験に用いる細胞特性指標は、混入する可能性のある他の細胞では発現していない分子であることが望ましい。組織工学的手法により製造された製品については、足場材料等に播種して製造された最終製品中に含まれる細胞の生存率、密度、形態学的特徴等を確認すること。
軟骨細胞又は分化誘導した軟骨細胞の確認試験のための具体的な評価指標の例を、形態学的特徴、生化学的指標、遺伝子発現に分けて以下に記す。
①形態学的特徴・
軟骨細胞は球形又は楕円形の形態をどるが、平面培養によって紡錘状の線維芽細胞様となる。細胞外マトリックスの存在等、培養環境により細胞形状が変わる。球形状の細胞形状の方が、紡錘型の細胞に比してタイプⅡコラーゲン等、軟骨基質産生を維持していることが知られている。細胞を足場材料等に播種した場合の細胞形態の観察は困難であることが多い。
②生化学的指標
生化学的指標としては、軟骨細胞が産生するグリコサミノグリカン(GAG)、タイプⅡ コラーゲン、アグリカン等が考えられる。また、軟骨細胞特異的な産生物質及び線維芽細胞や脱分化軟骨細胞が産生する物質の比率を指標として、例えばタイプⅡコラーゲン/タイプIコラーゲン比、コンドロイチン6硫酸/コンドロイチン4硫酸の比を指標とする方法がある。足場材料等に細胞を播種し、三次元培養した製品では、使用している足場材料等をタンパク質分解酵素等で消化し、その消化液中に存在する産生物質を定量することも考えられる。GAGは硫酸化GAGの硫酸基に色素を結合させ、吸光度で測定する方法が知られている(色素結合法)。その他の産生物質はELISAや HPLC等によって定量することができる。
③遺伝子発現
生化学的指標のマーカーとなるタンパク質については、・sox9や圧LNI (ヒアルロン酸とプロテオグリカン連結タンパク質)の遺伝子発現を軟骨細胞のマーカーとして検出する方法が報告されている。タンパク質発現についてmRNAを各種PCRにより定性的又は定量的に確認することでも代替可能である。
注:なお、・最終製品の確認試験ではないが、最終製品の規格を最も良く実現するために必要な、出発原料及び中間製品の重要細胞特性指標を設定することも必要である。量的制約や複雑な品質特性のために、最終製品において細胞の特性を必要十分に評価できない場合は、中間製品(又は出発原料)で評価することが選択肢となる場合もある。そのためには、中間製品(又は出発原料)の特性が最終製品の品質に関する適正な道標となるという合理性を示すことが必要である。
( 3 )細胞の純度試験
細胞の純度は品質管理における重要な要素であり、他の品質試験と同様、工程の性能、非臨床及び臨床試験結果等に基づき、規格を設定すべきものである。原材料、中間製品、最終製品の各段階における目的細胞については、確認試験で定めた重要細胞特性指標に基づいて定義すること。混入細胞(例えば骨芽細胞、血管内皮細胞、線維芽細胞、その他の採取時に混入する可能性のある )又は原材料・製造工程における幹細胞の意図しない分化により生じた体細胞(様)細胞、未分化細胞又は脱分化細胞、異常増殖細胞、形質転換細胞といった目.的細胞以外の細胞の検出及びその混入率の定量法、並びにその安全性を確認する試験方法及び判断基準を設定すること。特に移植後に重篤な有害事象をひきおこす可能性のある造腫瘍性細胞については、その混入量を検討すること。
( 4 )力学的適合試験
最終製品の段階で軟骨組織と類似した力学特性を持っ等、最終製品によっては最終製品自体に耐荷重性、摺動特性、粘弾性等における適合性が要求される。各製品の適用方法を考慮した上で必要に応じて力学的適合性を確認するための規格を設定すること。カ学的適合性試験は無菌性又は非破壊性を保った状態で行うことが困難でなじまない場合には、並行して製造した試験用検体を用いて実施することでも構わない。
( 5 )効能を裏付ける品質試験
軟骨再生を目的とした再生医療等製品の有効性を担保するためには、・最終製品に対する適切な効能試験を設定することが望ましい。
組織工学的手法によらず軟骨組織とは類似しない力学特性を持っ製品については、体内における有効性の代替指標(Surrogate M k印・)を同定し、効能試験に応用することが考えられる。例えば、タイプⅡコラーゲン/タイプ1コラーゲンの遺伝子発現比は軟骨細胞の分化の指標とされることがある。ただし、代替指標の使用に際しては、患者における有効性と代替指標との相関性を予め明らかにすること。適用後に体内での増殖、分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発抓することを明らかにすること。
( 6 )細胞の培養期間の妥当性
培養期間の妥当性及び細胞の安定性を評価するために、予定の培養期間を超えて培養した細胞において脱分化、増殖速度の異常変動等の目的外の変化がないことを適切な細胞指標を用いて示すこと。適用後に体内での増殖:分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明らかにするこ
( 7 )製品の安定性試験
ヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品の最終製品又は重要なそれらの中間製品につ・いて、保存・流通期間及び保存形態を十分考慮して、細胞の生存率及び効能を裏付ける代替指標等を指標に実保存条件での安定性試験を実施し、貯法及び有効期限を設定し、その妥当性を明らかにすること。特に凍結保管及び解凍を行う場合には、凍結及び解凍操作が製品の解凍後の培鬟可能期間や品質与える影響を確認すること。また、必要に 応じて標準的な造期間を超える場合や標準的な保存期間を超える長期保存についても検討し、安定性の限界を可能な範囲で確認すること。ただし、製造終了後直ちに使用するような場合はこの限りではない。
また、出発原料、中間製品及び最終製品を運搬する場合には、それぞれの条件と手順 (容器、輸送液、 ・温度管理等を含む)等を定め、その妥当性について明らかにすること
ー
細胞を凍結状態で輸送する場合には、凍結時に使用する培地又は凍結保存液、凍結保剤等について、製造工程で使用する材料と同様に適切に選択すること。また、非凍結状態で輸送する場合の輸送液等も同様である。製品形態又は細胞種によって、製品安定性を保っための適切な保存形態、温度条件、輸送液等が異なる可能性があるため、製品毎に適切な組み合わせを検討し、安定性を担保する必要がある。
( 8 )非細胞材料及び最終製品の生体適合性
製品に関係する非細胞材料については、製造工程中で細胞と接触する材料だけでなく、細胞とともに最終製品の一部を構成する副成分となるものや、副構成体等として適用時に併用されるもの(局所封入用の膜、フィブリン糊等)に関しても、材料自体の品質・安全性に関する知見について明らかにするとともに、生体適合性等、患者及ひ製品中の細胞との相互作用に関する知見について明らかにすること。また、最終製品総体についても患者の細胞・組織、特に適用部位周辺組織との相互作用について評価すること。また、最終製品の副成分となる非細胞材料の、製造工程中(培地中)及び体内での分解特性、体内での再吸収特性、分解物の安全性に関して適切な情報を収集すること。特に 生体吸収性材料を用いる場合には、分解生成物に関して必要な試験を実施すること。非細胞材料の生体適合性については、IS010993-1、JIS T 0993又はT F74&04、医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について (平成24年3月1日付け薬食機発0301第20号)等を参考にすること。
( 9 )細胞の造腫瘍性・過形成
製品中の細胞に由来する腫瘍形成及び過形成は適用部位における物理的障害となる恐れがあること、患者の正常な生理機能に対し悪影響を及ぼす可能性があること等から、悪性腫瘍のみならず良性腫瘍を含む腫瘍形成及び過形成の可能性を検討すること。試験により造腫瘍性を評価する方法としては、核型分析、軟寒天コロニー形成試験、免疫
不全動物における腫瘍形成態試験等が挙げられる。また、既定の培養期藺を超えて培養した細胞について、目的外の形質転換や増殖速度の異常亢進がないことを明らかにすることも重要である。なお、免疫不全動物における腫瘍形成能試験においては、移植した細胞が体内で軟骨を形成した場合も腫瘍のように見えることがあるので、形態的特徴だ けでなく組織病理学的特徴による評価も検討すること。
体性幹細胞等、軟骨細胞と分化しうる 又は分化した軟骨細胞を含んだ再生医療等製品の造腫瘍性については、複数の試験法による評価の必要性を検討すること。核型分析、免疫不全動物における腫瘍形成能試験については、それぞれAn International System for Human Cytogenic Nomenclature (ISCN2005 )、WHO technical report series, No 978 Annex 3 (2013)等を参考にすることが考えられるが、試験法の妥当性については、製品の特性やその時点での技術レベル等に応じて検討を行うこと。なお、核型分析において細胞・組織を採取したドナーの年齢や原疾患によっては、ある頻度で染色体異常が生じている場合があるので、染色体異常が認められた場合にそれがドナー背景に起因するのか、又は培養に起因するのかを明らかにそきるような試験計画の立案を検討すること。なお、造腫瘍性が疑われた場合の他、使用する材料や製造方法によっては、がん原性の検討が必要な場合もあるかもしれない。
6 .最終製品に軟骨細胞を含まない場合の品質管理
軟骨細胞を含まない最終製品としては、原材料としてヒト体性幹細胞を用い、軟骨細胞 分化誘導せず適用する場合が含まれ、軟骨細胞としての特性(基質産生能等)を製品性能の指標とすることができないため、非臨床試験において効力又は性能を裏付けるデータを示す必要がある。
( 1 )細胞数及び生存率
出発原料となる体性幹細胞は採取組織に由来する量的な制約がある。体性幹細胞は体外培養によりその表現型を変化させる傾向を持つ。そして、ドナーの年齢又は長期の培養等の条件により増殖速度が低下する場合もあるため、外での増殖にも限度があり、最終製品に使用可能な細胞数は、出発原料として得られた細胞の数に応じて量的な制約を持つ。したがって、意図する治療部位のサイズに見合ったの最終製品を製造するために十分な量の細胞を確保するためには、出発原料又は中間製品中に存在する細胞の数及び生存率について判定基準を設定しておく必要がある。また、最終製品における細胞の生存率についても基準を設定する必要がある。細胞数を測定する方法としては、最終製品の一部を酵素処理して細胞懸濁液とし、血球計算板やセルカウンターで測定する方法がある。細胞生存率を測定する方法として、トリバンプルーを用いた色素排除法があり、生細胞及び死細胞を計数することができる。足場材料等に出発原料又は中間製品である細胞を播種し、三次元培養した製品では、使用している足場材料等をタンパク質分解酵素等で消化して細胞懸濁液を得て、それを細胞数及び細胞生存率の測定に用いることが考えられる。足場材料等から細胞を分離して細胞を計数することが困難な場合には、細胞のDNA量を測定する方法や、TTアッセイによりミトコンドリアの酵素活性を指標に生細胞数を算出する方法がある。
( 2 )確認試験
目的とする体内での有効性(軟骨形成能、軟骨機能等)を達成し、かっ安全性上の問題(意図しない分化、異常増殖等)を可能な限り回避するとともに、一定の品質及び安定性を保持するために必要な最終製品中の細胞の重要細胞特性指標を定め、これらを用いて最終製品中の細胞が目的の細胞であることを確認すること。確認試験には目的細胞に対する特異性が求められるため、試験に用いる細胞特性指標は、混入する可能性のある他の細胞では発現していない分子であることが望ましい。組織工学的手法により製造された製品については、足場材料等に播種して製造された最終製品中に含まれる細胞の生存率、密度、形態学的特徴等を確認すること。
細胞の確認試験のための具体的な評価指標の例を、形態学的特徴、免疫学的指標に分けて以下に記す。
①形態学的特徴
体性幹細胞の中でも間葉系幹細胞は骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞等、間葉系に属する細胞の分化能をもっ細胞である。一般的な培養条件下で培養皿に接着する性質を利用して血球系細胞と分離でき、細胞形態を観察することができる。顕微鏡観察において線維芽細胞に似た形態をとり、一般には紡錘形である。しかし、実に培養された細胞の形態は多様で、典型的な紡錘形のもの、神経細胞様に突起を伸ばしたもの、細胞が広がり扁平になったもの等様々である。
②免疫学的指標
細胞表面マーカーにより幹細胞を定義づける報告は多数あるが、例えば間葉系幹細胞のように骨髄由来又は脂肪由来など、組織によって指標に用いられる表面抗原が異なる場合もあるので、製品の特性を示すのに適切な表面抗原を選択することが重要である。また、原材料となる細胞、中問製品、最終製品等、製造工程を通じて管理するのに適切な表面抗原を選択することが望ましい。
注:なお、・ 最終製品の確認試験ではないが、最終製品の規格を最も良く実現するために必要な、出発原料及び中間製品の重要細胞特性指標を設定することも必要である。量的制約や複雑な品質特性のために、最終製品において細胞の特性を必要十分に評価で きない場合は、中間製品(又は出発原料)で評価することが選択肢となる場合もある。そのためには、中間製品(又は出発原料)の特性が最終製品の品質に関する適正な道標となるという合理性を示すことが必要である。
( 3 )細胞の純度試験
細胞の純度は品質管理における重要な要素であり、他の品質試験と同様、工程の性能、非臨床及び臨床試験結果等に基づき、規格を設定すべきものである。原材料、中間製品、最終製品の各段階における目的細胞については、確認試験で定めた重要細胞特性指標に基づいて定義するこど。混入細胞(例えば骨芽 、血管内皮細胞、線維芽細胞、その他の採取時に混入する可能性のある細胞)又は原材料若しくは製造工程における .幹細胞の意図しない分化により生じた体細胞(様)細胞、未分化細胞、異常増殖細胞、形質転換細胞といった目的細胞以外の細胞の検出及びその混入率の定量法、並びにその安全性を確認する試験方法及び判断基準を設定すること。
( 4 )効能を裏付ける品質試験
軟骨再生を目的とした再生医療等製品の有効性を担保するためには、最終製品に対する適切な効能試験を設定をすることが望ましい。適用後に体内での増殖、分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明らかにすること。
( 5 )細胞の培養期問の妥当性
培養期間の妥当性及び細胞の安定性を評価するために、予定の培養期間を超えて培養した細胞において多分化能の減弱、増殖速度の異常変動等の目的外の変化がないことを適切な細胞指標を用いて示すこと。適用後に体内での増殖及び分化等を期待する場合には、設定された基準による継代数又は分裂回数で期待された機能を発揮することを明ら
かにすること。
( 6 )製品の安定性試験
ヒト体性幹細胞加工製品又は重要なそれらの中間製品について、保存・流通期問及び保存形態を十分考慮して、細胞の生存率及び効能を裏付ける代替指標等を指標に実保存条件での安定性試験を実施し、貯法及び有効期限を設定し、その妥当性を明らかにすること。特に凍結保管及び解を行う場合には、凍結及び解凍操作が製品の解凍後の培養可能期間や品質へ与える影響を確認すること。また、必要に応じて標準的な製造期間を超える場合や標準的な保存期間を超える長期保存についても検討し、安定性の限界を可能な範囲で確認すること。ただし、製造終了後直ちに使用するような場合はこの限りではない。
また、出発原料、中間製品及び最終品を運搬する場合には、それぞれの条件と手順 (容器、輸送液、温度管理等を含む)等を定め、その妥当性について明らかにすること。細胞を凍結状態で輸送する場合には、凍結時に使用する培地又は凍結保存液、凍結保護剤等について、製造工程で使用する材料と同様に適切に選択すること。また、非凍結状態で輸送する場合の輸送液等も同様である。製品形態又は細胞種によって、製品安定性を保っための適切な保存形態、温度条件、輸送液等が異なる可能性があるため、製品毎に適切な組み合わせを検討し、安定性を担保する必要がある。
( 7 )非細胞材料及び最終製品の生体適合性
製品に関係する非細胞材料については、製造工程中で細胞と接触する材料だけでなく、細胞とともに最終製品の一部を構成する副成分となるものや、副構成体等として適用時に併用されるもの(局所封入用の膜、フィブリン糊等)に関しても、材料自体の品質・安全性に関する知見について明らかにするとともに、生体適合性等、患者及び製品中の細胞との相互作用に関する知見について明らかにすること。また、最終製品総体についても患者の細胞・組織、特に適用部位周辺組織との相互作用について評価すること。また、最終製品の副成分となる非細胞材料の、製造工程中(培地中)及び体内での分解特性、体内での再吸収特性、分解物の安全性に関して適切な情報を収集すること。特に、生体吸収性材料を用いる場合には、分解生成物に関して必要な試験を実施すること。非細胞材料の生体適合性については、IS010993-1、JIS T 0993・1又はASTM F748-04、 医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について (平成24年3月1日付け薬食機発0301第20号)等を参考にすること。
( 8 )細胞の造腫瘍性・過形成
製品中の細胞に由来する腫瘍形成及び過形成は適用部位における、物理的障害となる恐れがあること、患者の正常な生理機能に対し悪影響を及ぼす可能性があること等から、悪性腫瘍のみならず、良性腫瘍を含む腫瘍形成及び過形成の可能性を検討すること。試験により造腫瘍性を評価する方法としては、核型分析、軟寒天コロニー形成試験、免疫不全動物における腫瘍形成能試験等が挙げられる。また、既定の培養期間を超えて培養・した細胞について、目的外の形質転換や増殖速度の異常亢進がないことを明らかにすることも重要である。なお、免疫不全動物における腫瘍形成能試験においては、移植した細胞が体内で軟骨を形成した場合も腫瘍のように見えることがあるので、形態的特徴だけでなく組織病理学的特徴による評価も検討すること。
体性幹細胞等、軟骨細胞と分化しうる細胞を含んだ再生医療等製品の造腫瘍性については、複数の試験法による評価の必要性を検討すること。核型分析、免疫不全動物における腫瘍形成能試験については、それぞれInternational System for Human Cytogenic Nomenclature ()S CN2005)、WHO technicalでort series' NO 978 Annex 3 (2013)等を参考にすることが考えられるが、試験法の妥当性については、製品の特性やその時点での技術レベル等に応じて検討を行うこと。なお、核型分析において細胞・組織を採取したドナーの年齢や原疾患によっては、ある頻度で染色体異常が生 ・じている場合があるので、染色体異常が認められた場合にそれがドナー背景に起因するのか、又は培養に起因するのかを明らかにできるような試験計画の立案を検討すること。なお、造腫瘍性が疑われた場合の他、使用する材料や製造方法によっては、がん原性の検討が必要な場合もあるかもしれない。
7 .効力又は性能を裏付ける試について
効力又は性能を裏付ける試験として、ヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品の機能発現、作用持続性及び再生医療等製品として期待される臨床効果の実現可能性(Proof-of-concept) を示すこと。また、適当な動物由来細胞。組織製品モデル又は関節疾患モデルがある場合には、それを用いて治療効果を検討すること。モデル動物としては、・ラット、ウサギ、 ニプタの関節軟骨に欠損を作製したもの等が挙げられる。ヒト由来細胞・組織製品をモデル動物に移植する場合は異種移植となり、免疫抑制剤を投与する必要があるが、免疫抑制の効果期間は限られており、短期間の観察に限られることに留意すること。治療効果の評、価方法にはICRSスコア、0,D1、iscollスコア、Wakitaⅲスコア等を利用することが考えられるが、妥当性については検討を行うこと。
8 .体内動について
いかなる再生医療等製品においても製品に由来する細胞が意図しない生体内分布を示すかどうかは安全上の懸念となる。したがって、ヒト軟骨細胞又は体性幹細胞加工製品を構成する細胞・組織についても、技術的に可能で科学的合理性のある範囲で、実験動物での分布、吸収、・遊走、生着等の体内動態に関する試験を実施すること。試験を実施しない場合には、その妥当性を示すこと。
9 .臨床試験(治験)
臨床データバッケージ及び治験実施計画書は、対象疾患、目的とする効能、効果又は性能、当該治療法に期待される臨床上の位置づけ等に応じて、非臨床データ等も踏まえて適切に計画されるべきである。
( 1 )臨床試験における評価技術に関する基本的考え方
臨床試験ほ試験に伴うリスクを最小限とし治療による利益を最大限に得られるように計画されるべきである。特に目的とする細胞・組織の由来、対象疾患及び適用方法等 を踏まえて適切な試験デザイン及びェンドボイントを設定して実施することが推奨される。
平価項目に関しては、その最終目的に応じて主要評価項目(Primary endpoint)、副次的評価項目(Secondaryendpoint)を設定する必要がある。有効性評価項目としては自覚的臨床評価スコア、活動性評価スコア、疼痛のⅥ al・an。e scale (Ⅵ )等が、また、修復組織の構造的改善の評価としてMRIや関節鏡、バイオプシー等から得られる情報が含まれる。
( 2 )対象疾患
関節軟骨損傷を適応とするが、その際考慮するべき事項として、年齢、、関節機
能、疼痛、変形性関節症(程度、定義)、病変の受傷時期、部位、大きさ、深さ、数、先行治療、共存する関節内病変(半月板損傷、前十字靭帯損傷等)及び関節外病変(変形、アライメント異常等)が挙げられる。
( 3 )床有効性評価
臨床評価においては、関節の状態、疼痛と機能までの評価を含んだ評価方法を用いることが推奨されるが、修復組織の構造的改善の評価などの副次的評価項目とあわせて評価すべきであろう。
臨床評価法として、Knee y and Osteoarthritis Outcome score (KOOS)は関節 の状態、痛み、機能、QOLを総合的に評価できるもので、また臨床評価スコアとして国際的に評価の高いWestern 0Ⅱt io and McMaster Universities Index (WOMAC)をそのまま一部として含んでいるこどから、軟骨細胞治療の評価法として国際的に最も広く用いられている。また、International Knee Documentation Committee CKDC) Subjective Knee Evaluation F。・2000も膝関節軟骨治療の臨床評価として国際的に 使用されている。KOOS、IKDCとも日本語版が作成され使用されている。
( 4 )・ 構造学的評価
①画像診断評価
(単純X線)
単純x線では再生軟骨の直接的な評価はできないが、再生軟骨周囲の骨組織の評価法として簡便かっ有用であり、経時的な評価に使用することが望ましい。
(、凪I)
は再生軟骨の臨床的画像診断法として、現在最も有用な評価法であり、再生軟骨や周囲組織の構造的評価を主眼とした包括的、凪I評価法と、修復軟骨の質的MRI 評価法に分けられる。
包括的WIRI評価法では、MOCART(magnetic resonance observation of c砒a r叩亟e)等の客観的な評価基準を用いて、多施設間で統一した評価を行うことが望ましい。撮像法としては、fastspin-echo法を用いたプロトン密度調像、脂肪抑制プロトン密度強調像、及び三次元等方性ボクセル撮像等を基本として、再生軟骨の位置に合わせた撮像断面で評価を行う。
,再生軟骨の質的評価法としては、プロテオグリカン濃度の評価に有用な delayed gadolinium-enhanced MRI Of cartilage (dGEMRlC)、水分含有量やコラーゲン配列の評価に有用なT2 mapping、及びプロテオグリカン濃度や水分含有量の評価に
有用なTIP map ⅲgなどが挙げられる。しかし、これらの質的NfRl評価法の再生軟骨における有用性に関しては未だコンセンサスが得られておらず結果の解釈には注意を要する。
したがってルIRI評価にあたっては、包括的ⅧI評価を第一選択として行い、質的 I評価はその補助的な評価として用いられるべきである。
②関節鏡評価
関節鏡は肉眼的評価に加え、硬さなど力学的特性の評価が可能であり、再生軟骨の有用な評価法の一つである。
関節鏡評価法として、International Cartilage Repair society (ICRS) cartilage r血, assessmeⅡtが広く用いられている。また肉眼的評価に加え、プロービングによる硬さの評価を行うOswestry macroscopic cartilage evaluation scoreも、ICRS cartilage repair assessmentとともに有用な評価法として国際的に使用されている。
③バイオプシー
関節軟骨の再生評価どして、術後一定期問後に製品移植部位からバイオプシーを施行して評価することは、有効性の評価として有用である。バイオプシーには骨生検針を用いることから、深さ方向は十分なものが得られるため、軟骨下骨の評価も可能で
バイオプシーは、通常関節鏡視下に修復・再生された軟骨部分を確認しながら、骨生検針を用いて施行される。骨生検針の径については、修復・再生の評価が可能かっできるだけ侵襲性が低くなるよう考慮し選択すること。施行の際は、、関節鏡視下でモニターしながら実施し、サンプリングパイアスが含まれないように留意する。ヒトでの結果として既に報告のあるOsScore、ICRS組織評価(Histological assessment of cartilage repair: a report by the stolo endpoint committee of ICRS)及びⅡ (ICRS Ⅱ stolo師, score for the assessment of the q双a五of h皿a cartilage rep air)等も、 評価法として考慮すべきである。各種評価法による特徴を把握し、評価の定量化は軟骨組織の状態の比較に有用である。サンプルの組織染色としては、通常サフラニン0 染色やトルイジンプルー染色等が軟骨のマトリックス評価に重要であり、タイプ1コラーゲンやタイプⅡコラーゲン等の免疫組織染色も硝子軟骨と線維性軟骨の鑑別に重要である。組織学的評価により軟骨マトリックスの構造上の修復・再生の状況が明らかになる。 |