整形外科用カスタムメイド人工股関節

ガイドラインID 2011-HN-DE-013
発出年月日 2011-12-07
発出番号 平成23年12月7日付薬食機発1207第1号
WG名 カスタムメイド分野 審査WG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 医療機器
分野

体内埋め込み型材料

GL日本語版ファイル

2011-HN-DE-013 整形外科用カスタムメイド人工股関節

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
整形外科領域において、体内埋め込み型のインプラント(薬事法上の医療機器)は、力学的安全性、生物学的安全性及び有用性が確認された既製品として広く臨床応用され、我が国の医療及び国民の生活の質の向上に貢献している。しかし、臨床的に患者の骨格及び骨形状には個体差があり、既製品インプラントでは対応できない場合が報告されている。個体への優れた適合性を有するインプラント、いわゆるカスタムメイドインプラントは、生体との不適合の問題を解決する手段として必要とされている。
カスタムメイドインプラントは、患者個人に適合可能なことから骨温存治療の実現、適合性と固定性の獲得、低侵襲手術の実現、優れた機能再建、耐用年数の向上、早期リハビリテーションと早期社会復帰及び再手術の減少などの優れた利点が期待される。すなわち、症例に応じて個別の要求を満足するカスタムメイドインプラントの臨床応用を通じて、患者、医療関係者の必要性を満たし優れた臨床成績を獲得することは、患者及び医療関係者のみならず医療経済上においても有益と考えられる。これらの臨床的ニーズに対応し、カスタムメイドインプラントを製造可能とする革新的技術の著しい進歩が見られ、より安全かつ優れた生体親和性インプラントの製造が可能となってきている。
カスタムメイドインプラントの対象としては、人工関節、骨接合材料等が考えられるが、その中でも人工股関節、人工膝関節、人工肩関節、人工肘関節等の人工関節については、臨床上、様々な関節の骨形状に適応し、重大な骨欠損、変形骨等に対して最適に成形されたカスタムメイドインプラントが必要とされる代表例である。本評価指標においては、臨床的必要性が高い人工股関節について、カスタムメイド人工股関節の必要事項を定めた。

2.本評価指標の対象
本評価指標は、整形外科用インプラントのうち、人工股関節(人工骨頭を含む。)を対象とする。本評価指標におけるカスタムメイド人工股関節(custom-made artificial hip joint prosthesis)の定義は、既製品を基礎として患者個々の骨形状に応じて不適合な部分が存在する場合に必要最小限の形状付与(ミニマリーモディファイド)することによって生体適合性、固定性などを向上させた人工股関節とする。

3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しい整形外科用人工股関節(人工骨頭を含む。)を対象とするものであることを勘案し、問題点、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示したものである。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改定されるものであり、申請内容等に関して拘束力を有するものではない。
カスタムメイド人工股関節の評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
また、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

GL:本体

4.カスタムメイド人工股関節の承認申請書の記載事項

(1)形状、構造及び原理
「形状、構造及び原理」に、カスタムメイド人工股関節を作製し得る範囲を基礎となる既製品と区別し、明確に記載すること。
(2)使用目的、効能又は効果
カスタムメイド人工股関節は、次の場合に使用することとする旨を「使用目的、効能又は効果」に記載しておくこと。
①医師が、既製品では十分な治療効果が得られないと判断した場合
②医師が、既製品を使用した場合に比べ、大きな治療効果が得られると判断した場合
(3)品目仕様
製品の製造と構造に関して、基礎となる既製品と同等以上の性能を有することを示す製造技術基準を記載する。
(4)その他
①カスタムメイド人工股関節の基礎となる既製品のデータを記載すること。
②医師が作成する仕様書の様式(案)を添付すること。

5.カスタムメイド人工股関節の評価
(1)製造技術の評価
基礎となる既製品と同一又は自社が既に承認を得ている既製品との比較において同等以上の製造技術であることを示すこと。
(2)安全性の評価
カスタムメイド人工股関節に必要な素材の基礎的な安全性(生物学的安全性等)は、既製品と同等以上であることを示すこと。なお、既製品のデータ及び科学的根拠を示すことで省略することも可能である。また、臨床的に高機能性や耐久性などが必要とされると判断される場合には、人工股関節製品で承認されている同種の生体材料のデータ及び科学的根拠を示すこと。
(3)力学的安全性の評価
カスタムメイド人工股関節の寸法が基礎となる既製品の範囲内、又は力学的安全性が劣らない旨を示すことにより、力学的安全性に関する資料は省略できる。
既製品に比べ力学的安全性が劣らないことを示す方法は以下の通り。
①カスタムメイド人工股関節が、基礎となる既製品より力学的に安全な方向への変更である場合は、その旨を別表に示したカスタム化の項目を参考に記載することにより、力学的安全性に関する試験は省略できる(既に承認を取得した自社製品の試験データを用いることも可能。)。
②カスタムメイド人工股関節で構造学的に負荷がかかる部位の改良が必要とされる場合は、ガイドライン等に従い、力学的安全性を担保可能なことを力学的試験にて示すこと(既に承認を取得した自社製品の試験データを用いることも可能。)。

6.製造販売業者による準備と対応
製造販売業者は、医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号、QMS省令)、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第136号、GQP省令)、医薬品、
医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令(平成16年厚生
労働省令第135号、GVP省令)又は医療機器の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関
する省令(平成17年厚生労働省令第38号、GPSP省令)に基づく文書に、下の事項を適切に記載し、これを遵守すること。
(1)カスタムメイド人工股関節の設計
製造販売業者は、医師が作成した仕様書に基づいて承認の範囲内でカスタムメイド人工股関節の設計を行うこと。
(2)製造販売業者が保管すべき資料
製造販売業者は、カスタムメイド人工股関節を製造し、仕様を作成した医師に販売・授与するに当たり以下の資料を保管しておくこと。
①仕様を作成した医師名
②医師が作成した仕様書(患者の骨形状のデータを含む。)
③骨形状のデータに適合した設計になっていることを確認できる資料
④設計段階又は最終製品において、製品の形状が仕様書を満たすことを医師が確認したことを示す資料
(3)有効性の評価
製造販売業者は、医師が作成した仕様書に基づきカスタムメイド人工股関節を臨床応用するにあたり、使用の前後において、医師の協力を得て設計したカスタムメイド人工股関節と患者の骨形状を比較検討し、臨床的有効性について評価すること。
(4)市販後調査
製造販売業者は、医師の協力を得てカスタムメイド人工股関節の臨床使用後、その評価及び不具合情報等を収集し、必要に応じて承認事項一部変更承認申請や安全対策措置等を行うこと。

7.使用上の注意
製造販売業者は、使用上の注意等に以下のことを記載すること。
①カスタムメイド人工股関節は、既製品では十分な治療効果が得られない又は既製品を使用した場合に比べ、大きな治療効果が得られると医師が判断した場合のみに使用できること。
②カスタムメイド人工股関節の必要性と臨床効果につき患者に説明し同意を得ること。
③カスタムメイド人工股関節を使用する際にはあらかじめ担当医が仕様書を作成すること。
④医師は、カスタム化が必要とされる項目を明確化した仕様書を製造販売業者に提供すること。
⑤医師は、カスタムメイド人工股関節を使用する前に、設計段階及び最終段階において、当該カスタムメイド人工股関節が仕様書の内容を満たしていることを確認すること。
⑥医師は、製品の不具合や術中の臨床上の問題等により、カスタムメイド人工股関節が使用できない事態に備え、既製品での対応を考慮した手術計画を準備する等あらかじめ対策を施すこと。
⑦医師は、臨床的有効性について評価し、不具合情報等を収集し、製造販売業者に速やかに報告すること。
⑧カスタムメイド人工股関節は、患者個々に適合するよう設計されているため、使用しなかった場合でも他の患者に流用しないこと。
⑨医師は、仕様書を診療録等の患者記録とともに適切に保管すること。

別表カスタム化の項目
1.寛骨臼コンポーネント
(1)<寛骨臼シェル(ソケット)>
•形状付与(骨形状との適合を目的とした部分的な体積の増加、辺縁の支持性の改善、厚さの増加、直径の最適化、骨接触面の曲率の最適化および表面処理領域の最適化)
•ねじ穴位置、穴数および穴形状の最適化
•スパイク、ペグおよびフィンの位置と数の最適化
(2)<セメントレスポリエチレンライナー>
•ポリエチレンの形状付与(辺縁部形状、ポリエチレン形状の最適化)
(3)<セメントポリエチレンソケット>
•ポリエチレンの形状付与(辺縁部などの形状の最適化)
2.大腿骨ステム
(1)<近位部>
セメントレスステム
•形状付与(骨形状との適合を目的とした近位外側、内側および前後における部分的な形状とカラー形状の最適化)
•骨形状への適合に伴う表面処理領域の最適化
•ネック長、頚体角および前捻角の最適化
セメントステム
•形状付与(骨形状との適合を目的とした近位外側、内側および前後における部分的な形状の最適化カラー形状の最適化)
•表面処理の付与(セメント固定に必要とされる範囲の最適化)
•ネック長、頚体角および前捻角の最適化
•ステムの横止めスクリュー穴及び大転子固定用穴の最適化
(2)<遠位部>
セメントレスステム
•形状付与(骨形状との適合を目的とした遠位の長さ、太さおよび弯曲の最適化)
•表面処理の付与(骨誘導・骨伝導に必要とされる範囲の最適化)
•ステムの横止めスクリュー穴及び大転子固定用穴の最適化
セメントステム
•形状付与(骨形状との適合を目的とした遠位の長さ、太さ及び弯曲の最適化)
(3)構造学的に負荷のかかる部位の必要とされる高生体適合性、高耐久性の最適化
•力学的安全性が担保されること(既製品で承認されている範囲の安全性を担保すること)

GL:付属資料

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

委員(〇:座長)
飯田寛和   関西医科大学 整形外科学講座 教授
岡崎義光   (独)産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門 主任研究員
齋藤知行   横浜市立大学大学院医学研究科 運動器病態学 教授
〇勝呂 徹  東邦大学医学部 整形外科学教室 教授
高久田和夫  東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 バイオデザイン分野 教授
高取吉雄   東京大学大学院医学系研究科 関節機能再建学 特任教授
堤 定美   日本大学 特任教授
松下 隆   帝京大学医学部 整形外科学教室 主任教授

厚生労働省
関野秀人   医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室長
東 健太郎  医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室 新医療材料専門官
牧村知美   医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室 認証係長
吉成知也   医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
田村敦史   医療機器審査第一部長
鈴木由香   医療機器審査第二部長
北原 淳   医療機器審査第二部 審査役
谷城博幸   医療機器審査第二部 審査役代理
橋本李子   医療機器審査第二部 審査専門員
郭 怡    医療機器審査第二部 審査専門員
磯部総一郎  審査マネジメント部長
藤井道子   審査マネジメント部 医療機器基準課

事務局
松岡厚子   国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部長
迫田秀行   国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部 主任研究官
石川 格   国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部 研究員
片倉健男   国立医薬品食品衛生研究所 スーパー特区対応部門 特任研究員

報告書(PDF)

2011-HN-DE-013-H22-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report