可動性及び安定性を維持する脊椎インプラント

ガイドラインID 2014-HN-DE-021
発出年月日 2014-09-12
発出番号 平成26年9月12日付薬食機参発0912第2号
WG名 脊椎インプラント分野審査WG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 医療機器
分野

体内埋め込み型材料

GL日本語版ファイル

2014-HN-DE-021 可動性及び安定性を維持する脊椎インプラント

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
本邦の脊椎脊髄外科は過去約 50 年において、先人の努力により独創性と有効性の高い手術手技や治療法が数多く開発され、進歩してきた。特に過去 20 年においては、耐久性や生体親和性の高い脊椎インプラントが開発され、不安定性脊椎疾患に対する脊椎前方及び後方固定術との併用により強固な固定が得られ、早期離床や良好な骨癒合の獲得を可能にした。これらの手術手技は国内外の優れたインプラントの開発及び基礎・臨床研究の功績とともに更なる進歩を遂げ、本邦の医療及び国民の生活の質の向上に貢献してきた。
一方、脊椎前方及び後方固定術は生体の持つ脊椎可動性等の生理機能を破綻させるため、術後の体幹可動域制限、疼痛、隣接椎間病変等の問題も数多く指摘されてきた。1990 年代からはこれらの問題の解消を目的に、脊椎に可動性を持たせる新たなインプラントが欧米中心に開発された。その代表的インプラントが人工椎間板であり、頚椎人工椎間板は現在多くの諸外国で臨床応用され、良好な治療成績が報告されている。その一方で、腰椎人工椎間板は欧州で開発され 2004 年に米国 FDA の承認を得て臨床応用されたが、術後のインプラント脱転や破損、血管損傷、再手術等の報告が相次ぎ、今日ではほとんど実用されなくなった。これらの経緯を踏まえ、その後、欧米では変性した椎間板の広範囲な切除を実施せずに腰椎制動が獲得できる新たな後方制動インプラントが数多く開発され、現在臨床試験が実施されている。これらの可動性及び安定性を維持する脊椎インプラントは臨床試験中であるものが多いが、慎重かつ適切な適応選択により、良好な治療成績が期待され、患者、医療の発展、医療費削減において有益である可能性がある。
本評価指標においては、次世代脊椎インプラントの中で可動性及び安定性を維持する脊椎インプラントのうち、特に、①頚椎人工椎間板、②腰椎後方制動システム、③腰椎人工椎間関節における品質、有効性及び安全性に関する必要事項及び製造販売承認申請に際し留意すべき事項を定めた。

2.本評価指標の対象
本評価指標は、脊椎に使用され、椎間に加わる荷重の支持と椎間の可動性の維持を目的とするインプラントのうち、頸椎人工椎間板、腰椎後方制動システム及び腰椎人工椎間関節を対象とする。本評価指標において、頸椎人工椎間板とは、椎間板を置換し、椎間に加わる荷重の支持と椎間の可動性の維持を目的とするインプラントであって、頸椎に対して使用するものとする。腰椎後方制動システムとは、後方より腰椎を安定化するインプラントであって、椎間に加わる荷重を支持と椎間の可動性の維持を目的とするものとする。腰椎人工椎間関節とは、椎間関節を置換し、椎間に加わる荷重を支持と椎間の可動性の維持を目的とするインプラントであって、腰椎に対して使用するものとする。
可動性を維持する機構としては、摺動によるものや、材料のコンプライアンスを利用したもの等がある。開発する医療機器が本評価指標の対象に該当するか判断が難しい場合には、必要に応じ、厚生労働省医薬食品局医療機器・再生等医療製品審査管理室に相談すること。

3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しい脊椎インプラントを対象とするものであることを勘案し、問題点、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示したものである。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容等に関して拘束力を有するものではない。
本評価指標が対象とする可動性及び安定性を維持する脊椎インプラントの評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
また、本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

GL:本体

4.評価に当たって留意すべき事項
(1) 非臨床試験
①機械的安全性
椎間を固定するインプラントの場合は、インプラントに加わる負荷及びインプラントと骨の界面に加わる負荷が骨癒合の進行に従い低下すると考えられるのに対し、可動性を維持するインプラントの場合は、それらが永続的であるため、その点を十分に考慮した試験方法を検討すること。なお、参考資料として機械的安全性試験の考え方の例を添付する。
a) 静的強度、動的強度
静的強度及び動的強度を、製品の特徴、適用部位等に応じて、米国試験材料協会(ASTM)が規定するASTM F1717、ASTM F2346、ASTM F2624、ASTM F2790 等を参考に評価すること。

b) 摩耗
摺動部があるデザインの場合は、製品の特徴、可動域、適用部位等を考慮しつつ、ASTM F2423、ASTM F2624、ASTM F2694、国際標準化機構(ISO)が規定する ISO 18192 シリーズ等を参考に摩耗試験を行い、評価すること。また、 ISO 17853 等を参考に、一定期間ごとに摩耗粉を回収し、分析、評価すること。
摩耗粉に対する生物学的評価を行うこと。
c) クリープ及び応力緩和
粘弾性材料が含まれている場合は、クリープや応力緩和が生じる可能性がある。最終製品に対して連続的な圧縮荷重を加えクリープ試験を行い、耐用年数が経過するまで椎間の高さを維持できるか等を評価すること。
d) 可動域
可動域(ROM)について評価すること。
e) 骨との固定性
骨との直接結合を期待する目的で表面処理が施されている場合は、「整形外科インプラント製品の承認申請に際し添付すべき臨床試験の試験成績に関する資料の取扱いについて」(平成 20 年 10 月8日付け薬食機発第 1008001 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知)等を参考に評価すること。
f) 初期固定性
人工椎間板等、該当する場合は、脱転のリスクにつながる初期固定性について評価すること。
②動物試験
動物試験により、対象機器のコンセプトの検証、手術手技の評価、不具合メカニズムの特定、機能性の試験(可動性、椎間板高さの維持等)、摩耗粉及び材料に対する生物学的安全性の評価等を行うこと。
(2) 臨床試験
海外において臨床使用実績がある場合でも、人種差及び医療環境の差を考慮し、国内の特定の施設において少数例の治験を実施することが望ましい。なお、個々の機器の特徴等に応じて評価すべき内容は異なると考えられるため、独立行政法人医薬品医療機器総合機構へ相談することが望ましい。
参考資料
機械的安全性試験の考え方について

1.試験試料の選定
機械的安全性評価のためには、必ずしも全てのサイズバリエーションについて試験を実施する必要はなく、ワーストケースを対象にした試験により全てのサイズバリエーションについて評価することも可能である。ワーストケースの判定には、適切な理論計算あるいは有限要素解析(FEA)等の利用が考えられる。ただし、どのサイズの製品がワーストケースになるかは、評価項目及び試験毎に異なる可能性があるので注意が必要である。

2.静的強度及び動的強度の評価項目
静的強度及び動的強度の評価に当たっては、製品の特徴に応じた試験を実施することが必要である。以下に試験項目の例を示す。ただし、これらは例示であって、全ての試験項目が求められるものではない。また、製品の特徴によっては、さらに試験を追加する必要がある場合も考えられる。
静的強度 動的強度
頸椎人工椎間板 軸方向圧縮試験圧縮せん断試験
ねじり試験(回旋に関して拘束しないデザインの場合は除く) 軸方向圧縮試験圧縮せん断試験
ねじり試験(回旋に関して拘束しないデザインの場合は除く)
後方制動システム 圧縮曲げ試験引張曲げ試験屈曲試験伸展試験
ねじり試験側屈試験 圧縮曲げ試験屈曲伸展試験ねじり試験側屈試験
人工椎間関節 圧縮引張試験
前後方せん断試験側方せん断試験 圧縮引張試験
前後方せん断試験側方せん断試験
屈曲伸展試験側屈試験
ねじり試験 屈曲伸展試験側屈試験
ねじり試験
その他(該当する場合) 接続強度試験 接続強度試験

3.静的試験の検体数
静的試験では、ワーストケースを想定した 5 検体以上を供することが推奨される。

4.動的試験の検体数及び試験条件
動的試験(疲労試験)では、ワーストケースを想定した 6 検体以上を供し、荷重(トルク)-サイクル数(L-N)曲線を作成することが推奨される。なお、荷重(トルク)の代わりに変位(角度変位)を規定した試験でもよい。2 個以上の検体が規定荷重で 500 万サイクルを耐え抜くこと。なお、多くの国際規格等に従い、1000 万サイクルの試験を考慮することが望ましい。
製品にポリマー等が含まれる場合は、検体の発熱による影響が懸念されるため、周波数は 1-2 Hz が推奨される。局所温度の計測や試験結果等により妥当性が説明できる場合は、この範囲を超える周波数を用いることも可能である。

5.摩耗試験
摩耗試験の可動方向は複数の方向の動きとし、少なくとも 500 万サイクルの試験が必要と考えられる。なお、多くの国際規格等に従い、1000 万サイクルの試験を考慮することが望ましい。

GL:付属資料

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

委員(〇:座長)
稲葉忠司  三重大学大学院工学研究科機械工学専攻 生体システム工学研究室 教授
高久田和夫 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 医歯工連携実用化施設 教授
堤 定美  日本大学 特任教授
〇戸山芳昭 慶應義塾 常任理事
      慶應義塾大学 医学部 整形外科学教室 教授
根尾昌志  大阪医科大学 生体管理再建医学講座 整形外科学教室 教授
長谷川和宏 医療法人愛仁会 新潟脊椎外科センター センター長
松本守雄  慶應義塾大学 医学部 整形外科学教室 准教授
松山幸弘  浜松医科大学整形外科 教授
山崎正志  筑波大学 医学医療系 整形外科 教授

オブザーバ
石井 賢  慶應義塾大学 医学部 整形外科学教室 講師

厚生労働省
古元重和  医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室長
近藤英幸  医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室 新医療材料専門官
境啓 満  医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室 企画調整専門官
藤田倫寛  医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室 先進医療機器審査調整官
津田 亮  医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室 主査
山下雄大  医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
鈴木由香  医療機器審査第二部長
郭 怡   医療機器審査第二部 審査役代理
宮城正行  医療機器審査第二部 審査役専門員
野口裕史  医療機器審査第二部 審査役専門員
鹿野真弓  規格基準部長
井出勝久  規格基準部 医療機器基準課 主任専門員

事務局
新見伸吾  国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部長
宮島敦子  国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部 室長
迫田秀行  国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部 主任研究官

報告書(PDF)

2014-HN-DE-021-H25-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

(医療機器クラスⅢ) 人工椎間板「PRESTIGE LP CERVICAL Disc システム」(メドトロニックソファモアダネック㈱) 日本申請日:2016年5月30日、日本承認日:2017年5月12日

承認済み製品(海外)

製品開発状況

製品に関連する規格:ISO 18192-1:2011/AMD 1:2018

Horizon Scanning Report