三次元積層技術を活用した整形外科用インプラント

ガイドラインID 2014-HN-DE-022
発出年月日 2014-09-12
発出番号 平成26年9月12日付薬食機参発0912第2号
WG名 三次元積層インプラント分野審査WG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 医療機器
分野

体内埋め込み型材料

GL日本語版ファイル

2014-HN-DE-022 三次元積層技術を活用した整形外科用インプラント

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
今後の骨関節疾患治療は、高齢化社会と密接に関わっている。総務省統計局は、平成 25 年9月 15 日に我が国の高齢者動向を報告し、65 歳以上(高齢者)の人口が、3186 万人、総人口に対する割合が 25.0%を初めて超えたことが明らかとなった(総務省統計局、統計トピックス No.72)。現在、我が国は、平均寿命、高齢化率及び高齢化のスピードという三点において、世界一の超高齢社会となっている。これに伴い、整形外科の日常診療においても、運動器障害を伴う変形性関節症や骨粗鬆症が増加しており、大腿骨頸部骨折や脊椎圧迫骨折も急増している。関節障害や骨折手術・変形矯正手術の治療に用いられる人工関節・骨接合用材料等の骨・関節インプラントの高機能化を図り、治療技術を向上させることは、今後高齢化社会を迎えるに当たり重要と考えられる。
従来の人工股関節、人工膝関節等、生体内埋め込み型の整形外科用インプラントは、その有効性及び安全性が認められ、術後 10~20 年間の耐久性が示され、整形外科医療及び国民の生活の質向上に貢献してきた。しかし、現在のインプラントの問題点の一つに、平均骨格形状に基づいた設計による画一的なサイズのみの提供となっているため、形状不一致による骨格形状への不適合が存在することが挙げられている。また、骨腫瘍症例における広範切除術後に生じる骨欠損や、インプラント再置換術の際の骨欠損に対する再建術が困難な症例も存在する。これらを解決する一つの手段として、形状のカスタムメイド化が考えられている。
従来の薬事法に基づく承認を取得している整形外科用インプラントの一般的な製造方法は、製品形状のデザイン・設計、鋳造・鍛造用の金型作製、精密鋳造・鍛造、表面加工等の過程を経ている。一方、インクジェットプリンター造形、電子ビーム積層造形、レーザー積層造形、光造形等の革新的な諸技術の開発により、少量(単品)かつ短期間にカスタムメイドインプラントを作成することが可能となってきた。したがって、これら革新的な三次元積層技術により製造された整形外科用インプラントの品質、有効性及び安全性を適切かつ迅速に評価を行うことが望まれている。そこで、今後開発されることが予想される三次元積層技術による新規整形外科用インプラント(骨関節インプラント及び手術支援ガイド)の迅速な上市に資するよう、当該技術に関する新たな評価指標を作成した。

2.本評価指標の対象
本評価指標は、整形外科用インプラントを製造する際の「三次元積層技術」全般を対象とするものであるが、他の医療機器を製造する際に同じ技術を用いた場合にも、その技術に対して本評価指標を適用することを妨げるものではない。ただし、本評価指標は、既存品と類似のインプラントを三次元積層技術によって製造する場合を主な対象とする。

3.本評価指標の位置付け
本評価指標は、技術革新の著しい分野であり近年特にその医療機器製造技術への応用について着目されてきている「三次元積層技術(付加製造(AM:Additive Manufacturing)技術)」を対象とすることを踏まえ、問題点、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示したものである。よって、今後の技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂するものであり、申請内容等に関して拘束力を有するものではない。
実際に「三次元積層技術」を用いて製造された整形外科用インプラントの評価に関しては、個別の製造方法及び製品特性を十分に理解した上で、科学的な合理性を持って、柔軟に対応することが必要である。また、本評価指標以外に現存する国内外の関連ガイドライン等を参考にすることも必要である。なお、製品個別の特性が、現存するガイドライン等で評価できるか否か、十分に検討すべきであることに留意されたい。

GL:本体

4.三次元積層技術全般において評価・留意すべき点について
(1) 品質管理上の留意点
①原材料
a)原材料の種類(材質、形状等。粉体であれば、その粒径と粒度分布等) b)純度、化学成分、組成比等
特に、インプラント材料として頻繁に利用されるチタン及びチタン合金粉末については、酸素量の問題は材質に与える影響が大きく、ミルシート等で確認しておく必要がある。また、粉末を混合して合金化する場合にも、それぞれの粉末の純度、化学成分を確認することが必要である。
なお、チタン粉末の成分については、最終製品の品質が保証される粉末の化学成分や粒度等の具体的な値を製造販売承認申請書に記載する。
②原材料の再利用回数
未溶融の粉末や未反応の原材料は、再利用を繰り返すことで劣化するため、粉末品質に関してバリデーションを実施する必要がある。
③製造時に生じうる組成変動や内包欠陥
a)造形中に形成されうるポア、ピンホール等
X 線等で評価する等のバリデーションが必要となる。
b) 造形ロット毎の化学的・物理的性質変化に関するバリデーションサイズが大きく異なるものを混合して同時に製造した造形体は、その形状、サイズ、数量等により、金属粉末を溶融・凝固する熱履歴が多少変動するため、造形ロット毎に化学成分、金属組織、機械的性質を評価する等のバリデーションが必要となる。
c) 不純物の混合の有無
d) 造形後に残留する原材料
特に、粉末を原材料とする場合には、造形後、その粉末を十分に除去することが求められる。
④造形パラメータ
造形パラメータは使用する機器、製造方法、造形体の形状やサイズに応じて、装置メーカー独自のアルゴリズム(ブラックボックス)により変化するため規定することはできないが、以下の項目のうち、製品性能に影響を及ぼすと考えられる条件については、製造販売承認申請時に規定すること。
a)製造方法(機器、型番) b)出力又は電流/電圧 c)予備加熱温度域 d)スポット径
e)走査速度(造形速度) f)積層間隔 g)走査間隔
h)造形雰囲気*
* 造形時の周囲雰囲気は、製品性能に影響を及ぼす場合がある。影響を及ぼすと考えられる場合には、酸素濃度や雰囲気(真空、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス、混合ガス等)、さらに大気圧に比べて減圧又は加圧等について記載すること。
⑤製造装置の仕様(積層原理、ビームの種類及び出力、造形部のサイズ等)
使用する機器に応じて異なるため明確に規定することは困難であるが、製造販売承認申請時に仕様を示すこと。
⑥ 形状の再現性
・ 製造後の製品形状が設計段階の形状と一定の誤差範囲以内で一致す ることが求められるため、精度を証明する必要がある。
・ 基になるデータの精度、手術に求められる精度を勘案して、現実的な誤差の値を設定する。
・ 造形後、マシニング等で追加工を行うことが多いため、最終製品を評価する必要がある。
・ 特に、骨との接合部の精度は、最終製品の寿命に直結するため、高い精度が要求される。
(2) 最終製品の非臨床評価における留意点
①物理的・化学的特性
最終製品の特性を考慮した上で、以下に示した項目に関して必要な評価を行うこと。
a) 積層方向による異方性
サンプルによる強度試験を行い、強度異方性についてのデータを採取する。積層方向による強度異方性が存在することを考慮したデバイス設計や操作条件決定を行っていることを製造販売承認申請時に示す必要がある。
積層方向の異方性を特徴とするインプラントについては、臨床的に高機能性や耐久性等が必要とされる場合、基礎となる既存品より力学的に安全な方向への変更であることを説明し、審査ガイドライン(「人工股関節の審査ガイドラインについて」(平成 21 年 3 月 6 日付け薬食機発第 0306001 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知))等に従いワーストケースの力学試験を行う必要がある。
b) 表面粗さ
骨と接触する部位については、表面粗さが骨親和性に与える影響は大きいため、表面粗さについての評価を行う必要がある。その際、造形後の加熱処理、化学処理等を行う場合にはそれらの処理によって表面粗さ、モホロジー等が異なることにも注意が必要である。
c) 既存品との同等性評価(化学成分、機械的性質、疲労特性、耐食性、溶出特性)粉末の積層造形法では酸素、窒素、水素等のガス成分が変化しやすいというプロセス特有の成分変化、物性変化があることに留意し、従来のインプラントと同様の規格で評価する。公的規格又は承認前例のない純度や化学組成比の原材料を使用する場合は、従来同様、物理的特性(化学組成、金属組織、機械的性質(降伏応力、引張強さ、破断伸び、強度及び延性)、疲労特性、耐食性、溶出特性等)について評価する。また、物理的特性に影響を与える製造工程(滅菌等)を含む場合は、その工程を経た後の材料について評価する。
d) 物理的特性に影響を与える製造工程(滅菌等)を含む場合は、その工程を経た後の材料についての評価 e)形状精度
②生物学的安全性
・ 基本的には、従来の医療機器と同様に、「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(平成 24 年3月1日付け薬食機発0301第20号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知)に基づき評価を行う。
・ 既存品との製造工程の差分を踏まえた評価が必要である。(残存原材料(粉末等)、不純物や化学変化の影響を考慮する。)
③ 機械的安全性
・ 審査ガイドラインがあるインプラントについては、ガイドラインを参考に評価を行う。
・ 積層方向を考慮し、最も強度的に弱いと考えられる検体、負荷方向で試験を行う。
・ 造形後の残留応力、追加工に伴う形状及び力学的強度への影響を評価する。三次元積層技術により製造された造形物には残留応力が生じるため、留意が必要である。特に、造形後に機械加工を行う場合、造形時の残留応力が部分的に開放され、形状が変化する可能性がある。また、疲労強度への影響も想定されるため、形状及び強度評価は追加工後も行う必要がある。
・ 最終製品の力学的強度評価を行う。適切に評価できる場合にあっては、有限要素解析(FEA:Finite Element Analysis)による力学強度評価を活用することができる。ただし、特殊内部構造又は特殊表面構造を有するものに関しては、原則、FEA 評価を行う必要がある。
・ 汎用品については、既存品の力学的強度の評価指標に基づいて強度試験を行う。デバイス内部の多孔構造における変形や応力集中の評価には FEA の活用を考慮する。FEA に際しては、後述するような造形方法に応じた個別の配慮が必要となる。なお、500 ミクロン以下の微細な壁や柱等の造形を行うケースでは、造形用の STL(Standard Triangulated Language)データと実際に造形される壁や柱等のサイズが異なることがある(造形機の仕様による)。この寸法差異は設計三次元データを造形用STLデータへ変換する過程で調整されるため実用上の問題となることはない。しかし、デバイスデザインや FEA を行う際には、これらの点に配慮する必要がある。また、支柱サイズが小さくなると、表面の凹凸の影響が大きくなり、力学的強度も変化することにも留意する。以上の問題から、基本的な多孔構造についての FEA は実体の強度評価結果によるバリデーションは必要となる。
④安定性及び耐久性
最終製品の特性及び用途を考慮した上で、以下に示した項目に関して必要な評価を行うこと。
a) 安定性
製品の有効期間(製造してから使用されるまで)において、性能が維持できること。また、経年劣化しないこと及び無菌状態が保たれること。
b) 滅菌耐久性
放射線滅菌等により最終製品の物理的、化学的特性が変化しないこと。 ⑤積層技術由来の内部構造/表面構造を付与した場合の評価
・ インプラント本体に対して特殊内部/表面処理を施した場合には、本体-内部
/表面処理間の境界面の機械的安全性を評価する。
・ 特殊内部/表面処理の新規性により、既存品との内部/表面特性の同等性を示すことができない場合には、動物試験による評価を行う。
⑥動物試験
積層技術由来の特殊内部/表面処理について、既存品との内部/表面特性の同等性を示すことができない場合には、動物試験による評価を行う。評価項目としては、骨固定性能及び周囲の組織に異常が認められないことの確認、組織学的評価等が挙げられる。
(3)最終製品の臨床評価における留意点 非臨床試験(動物試験を含む)により、特殊内部/表面処理の有効性及び安全性を評価できない場合には、臨床試験が必要となる。

5.個別の三次元積層技術において評価・留意すべき点について
(1) インクジェットプリンターによる積層
形状付与の後の処理でセラミックスを焼結したものは、その焼結条件次第で、母骨との癒合・同化・置換が低下する。また、焼結時の収縮を考慮する必要がある。
(2) レーザー積層
・ 造形物中の金属酸化度を評価する必要がある。
・ 粉末の積層造形法では酸素、窒素、水素等のガス成分が変化しやすいというプロセス特有の成分変化、物性変化があるため、既存品の成分を基本に修正した規定となる。
・ 電子ビーム積層と異なり、粉末は高温度で大気にさらされる場合があるので、再利用粉末の酸素量については、十分に管理しておく必要がある。なお、粉末の管理方法についても、保管状況、再利用状況等について規定する。
(3) 電子ビーム積層
電子ビーム積層造形技術は、予備加熱(700℃~1000℃程度)を行ってから溶融するため、Z 軸方向(電子ビーム方向)に組織が異なる。そのため、造形後に組織均一化のための熱処理(材料により異なる)が必要となるため、力学的な評価等は、造形後に熱処理を施してから実施することが必要と考えられる。
(4) 樹脂積層
樹脂積層造形法には、光硬化性樹脂を用いた造形方法(光造形法、インクジェット式等)、粉末樹脂材料を用いた方法(レーザー焼結方式等)、ワイヤー状樹脂を用いた熱溶解積層法等が存在し、それぞれの特性に応じて評価する必要がある。
また、各造形方法に関する留意点としては以下の項目が挙げられる。
・ 光造形に用いられる触媒には、発がん性等の細胞毒性を有するものが多く、これらの溶出を評価するため、発がん性、遺伝毒性に関する試験が必要である。
・ 光硬化系樹脂の材料特性として耐衝撃性と耐光性が弱いことが挙げられるため、強度の担保と製品の保管方法に留意する。
・ インクジェット式等サポート材を使用する方法では、サポート材が残留する可能性がある。サポート材の除去手順を決定し、十分除去できていることを確認する。

GL:付属資料

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

H25年度

座長
吉川秀樹  大阪大学大学院 医学系研究科 器官制御外科学 教授

委員(五十音順)
京極秀樹  近畿大学工学部 ロボティクス学科 工学部長(教授)
坂井孝司  大阪大学大学院 医学系研究科 器官制御外科学 助教
千葉晶彦  東北大学金属材料研究所 加工プロセス工学研究部門 教授
土屋弘行  金沢大学大学院 医学系研究科 機能再建学 教授
鄭 雄一  東京大学大学院 工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 教授
中野貴由  大阪大学大学院 工学系研究科 マテリアル生産科学専攻 教授
松田秀一  京都大学大学院 医学系研究科 感覚運動系外科学講座整形外科 教授
村瀬 剛  大阪大学大学院 医学系研究科 器官制御外科学 講師

「人工骨開発の現状」調査タスクフォース(五十音順)
大槻主税  名古屋大学大学院 工学研究科 結晶材料工学専攻 教授
鄭 雄一  東京大学大学院  工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 教授
中島武彦  HOYA Technosurgical 株式会社 開発部長
名井 陽  大阪大学医学部付属病院未来医療開発部未来医療センター 准教授(リーダー)

厚生労働省 医薬食品局
古元重和  審査管理課 医療機器審査管理室 室長
近藤英幸  審査管理課 医療機器審査管理室 新医療材料専門官
境 啓満  審査管理課 医療機器審査管理室 企画調整専門官
藤田倫寛  審査管理課 医療機器審査管理室 先進医療機器審査調整官
津田 亮  審査管理課 医療機器審査管理室 主査
山下雄大  審査管理課 医療機器審査管理室 係員

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (PMDA)
鈴木由香  医療機器審査第二部 部長
岡本吉弘  医療機器審査第二部 審査専門員
金田悠拓  医療機器審査第二部 審査専門員
岡田 潔  医療機器審査第二部 特任職員
鹿野真弓  規格基準部 部長
井出勝久  規格基準部 医療機器基準課 主任専門員

国立医薬品食品衛生研究所(事務局)
新見伸吾  医療機器部 部長
中岡竜介  医療機器部 室長
加藤玲子  医療機器部 主任研究官

報告書(PDF)

H25年度
2014-HN-DE-022-H25-報告書-Ⅰ.委員名簿、Ⅱ.議事概要、Ⅲ.評価指標案、Ⅳ.委員報告
2014-HN-DE-022-H25-報告書-Ⅴ.調査事項、Ⅵ.参考情報

H26年度
2014-HN-DE-022-H26-報告書
2014-HN-DE-022-H26-報告書-Ⅵ.参考情報

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report