4 .評価に当たって留意すべき事項
原則として、滅菌済み最終製品で試験を行うこと。
原則として、ステントをデリバリーシステムにマウントした状態又はデリバリーシステムにて拡張されたステントに対して試験を行うこと。
( 1 )物理的化学的性質並びに規格及び試験方法等に関する資料
1)原材料について
原材料の組成、性状に関し、以下の項目について明らかにすること。
①ポリマー系生体吸収性材料においては、組成、分子量及び分子量分布、残存触媒等の不純物の限度等
②金属系生体吸収性材料においては、組成、不純物の限度、耐食性等
2)ステント自体について
①溶出物について、材料の特性に応じた方法で評価すること。例えば、金属系生体吸収性材料では、生理食塩水等を使用すると叩Hが生理的範囲を超えて上昇し、生体内環境とは異なる分解挙動を示すため、例えば、JIS T 0304記載方法のうち、
5% C0₂下細胞培養液による試験を実施することが考えられる。試料表面積に対す・る使用溶液量は、実際のステント使用状況を鑑み、10-100 mL/cm² (又はそれ以上) とし、撹拌等の実施を奨する。
②ポリマー系生体吸収性材料等、吸水により影響を受ける場合は、充分に吸水させた条件下び、臨床で想定される留置時の吸水状態を模擬した条件下で、ステントの評価を行うこと。
③過拡張による破断及び骨格の亀裂を生じない等、有効性及び安全性に影響を与えない最大拡張径について評価すること。
④後拡張等、最適な拡張方法について検討を行うことが望ましい。
⑤テーパ血管や石化病変等のため、不均等に拡張された場合の破損リスクについて評価することが望ましい。
⑥ステント留置後の側枝の拡張性について評価することが望ましい。
⑦重複留置をした場合の、ステントストラットの厚みによる影響や、吸収特性への影響等について評価を行うことが望ましい。なお、申請品どうしの重複留置のほか、他の生体吸収性血管ステントとの重複留置、非吸収性血管ステントとの重複留置の可能性についても考慮すること。例えば、金属系生体吸収性ステン.トと非吸収性金属製ステントを重複留置した場合、金属系生体吸収性ステントの分解が加速する可能性があることに留意すること。
⑧エックス線による視認性について評価すること。
3 )ステントの分解特性について
①ポリマー系生体吸収性材料の分解特性は、配向性や結晶化度等の影響を受けるため、製品と同等の試料を用いて試験を行うこと。
②金属系生体吸収性材料の分解特性は、不純物や内部組織・表面処理等の影響を受けるため、製品と同等の試料を用いて試験を行うこと。
③材料の分解機構に応じて、使用環境を模擬した適切な試験環境を設定.し、製品の分解特性について試験を行うこと。温度、pH、イオン構成・強度、酸素濃度、タ ンパク質の有無等の影響を受ける可能性があるので、試験中は適切な範囲に保つこと。金属系生体吸収性材料では、例えばJIS T0304記載方法のうち、5% C0₂ 下羂胞培養液による試験を実施することが考えられる。
④生体吸収性材料の分解特性は、応力状態の影響を受けるため、製品の使用環境を考慮した応力条件下で評価することが望ましい。応力条件下で評価しない場合は、その妥当性について示すこと。
⑤生体吸収性材料の分解特性は、溶液の流れの影響を受けるため、製品の使用環境を考慮した流れの中で評価することが望ましい。製品の使用環境を考慮した流れの中で評価しない場合は、その妥当性について示すこと。
⑥生体吸収性材料の分解特性に対する加速試験は十分に確立されていないため、分解特性の評価は、原則として実時間で行うこと。加速試験を用いる場合は、その妥当性について示すこと。
⑦製品の特性や開発のコンセプトに応じて適切な間隔で評価を行うこと。
⑧分解特性の評価は、少なくとも製品の構造一体性が維持される期間行うこと。
⑨分解特性の評価には、金属系生体吸収性材料の場合は、少なくとも、重量、ラディアルフォース、ポリマー系生体吸収性材料の場合は上記に加え分子量の評価を含めること。
⑩分解の機構、副成分を含む分解生成物及び微粒子を含む分解残存物について評価すること。
⑪製品留置部位の再治療において、内膜化される時期を考慮の上、一定の分解後のステントに対し、再治療する場合のステント破断などのリスク評価を行うこと。
( 2 )安定性に関する資料
実際に貯蔵される状態及び苛酷案件での保存における経時変化等安定性に関する評価を行い、その結果に基づき適切な貯蔵方法及び有効期問を設定すること。
( 3 )生物学的安全性に関する資料
平成2 4年3月1日付薬食機発0301第20号 厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」に準じて生物学的安全性に問題が認められないこと。
生物学的安全性の評価にあたっては、ISO .10993シリーズ、ISO/TS 17137、ISO/TR 37137等も参考にすること。生体吸収性材料に特有の理由により、試験条件に変更を加えた場合は、その妥当性を示すこと。例えば、生体内における灌流や炭酸平衡がin ⅵtro 試験では再現されないため、分解生成物、分解残存物、副成分等により生じるpHや浸透圧の変化を、中和や希釈により調整すること等が考えられる。
また、使用環境及び分解メカニズムを考慮した適切な抽出溶媒及び溶液量′表面積比を用いること。例えば、金属系生体吸収性材料では、5% C0₂下細胞培養液(動物に投与する場合は人工血漿)を用い、10-100mL/cm² (又はそれ以上)とする等が考えられる。
( 4)性能に関する資料
1 )動物を用いた試験
①動物を用いた試験により、デリバリー及び留置の評価、分解挙動の評価、生体反応の評価等を行うこと。
②動物種の選択にあたっては、人の外挿性の観点を考慮すること。プタは適切な動物の一種として推奨される。また、評価の内容によっては、ウサギによる代用 も一部可能である。
③有効性、安全性を検証する上で、術前、術後及び経過観察時の血管状態を詳細に確認し、内皮形成、内膜肥厚、血管径の変化や血管壁の損傷、埋め込み部位から遠位の寒栓の状況等についても明確に説明すること。
④臨床を想定した抗凝固療法を実施し、その詳細を記録すること。
⑤従来の透視法で観察できない場合は、適切な方法で設置位置、不完全拡張の有無等を確認すること。
⑥製品の分解特性や使用する動物種の特性に応じて、生体反応性や分解挙動を評価するため必要な観察期間及び観察間隔を適切に設定すること。完全な消失まで評価することが望ましい。
⑦動物実験では吸収過程と生体反応のタイミングがヒトの生体内を反映していない可能性があることに留意すること。
⑧観察項目として、少なくとも以下を含めること。
ア)血管の内径(留置前、留置後、フォローアップ時〉
イ)ステントの形状の実測値(長さ、拡張後直径、拡張圧等)
ウ)留置後の血流、塞栓の有無、血圧や心電図の変化
エ)組織病理学的所見
オ)走査性電子顕微鏡や組織切片を用いた被覆化の評価
⑨フォローアップ時の血管径は、非吸収性金属ステントと異なり、採取後に内腔面積が縮小する可能性があるため、動物の安楽死前に血管内イメージング等で生体内でのステント径および血管径を評価することが望ましい。
⑩金属系生体吸収性血管ステントについては、病理組織切片作製時の処理により分解が進むため、処理溶液の種類や処理時間を一定にする等、留意すること。
@重複留置をした場谷の、ステントストラットの厚みによる影響や、吸収特性の影響について評価を行うことが望ましい。なお、申請品どうしの重複留置のほか、 他の生体吸収性血管ステントとの重複留置や、'非吸収性血管ステントとの重複留置の可能性についても考慮すること。例えば、金属系生体吸収性ステントと非吸収性金属製ステントを重複留置した場合、金属系生体吸収性ステントの分解が加速する可能性があることに留意すること。
2)体内における分解物の挙動について
既に安全性が充分確認されているもの及び既知の情報により評価できるもの以外のものにあっては、動物への長期埋入等により体内における分解物の挙動について検討する
3)ステント自体の耐久性
①最悪の生理的負荷を受けたときの最大ストレスを同定する有限要素解析又はその他のストレス解析を行うこと。
②材料の分解機構に応じて、使用環境を擬した適切な試験環境を設定し、製品の耐久性について試験を行うこと。
③製品の特性を考慮し、少なくとも、構造一体性の維持が必要と考えられる期間の耐久性試験を行うこと。
④分解特性の加速と、応力負荷の加速を一致させることが困難であるため、耐久性試験は、原則として実時間で行うこと。加速試験を行う場合は、妥当性について示すこと。
⑤ステント自体の耐久性は、留置部位の特性に応じた負荷に対して評価すること。冠動脈ステントの場合は、脈動に加え屈曲負荷を加えることが望ましい。末梢動脈ステントの場合は、脈動に加え適用部位に応じた負荷等を加えること。
( 5 )臨床試験の試験成績に関する資料
①新規性の高い生体吸収性材料の場合、探索的治験により、以下のような評価を行い、これらの情報をもとに検証的治験のデザインを検討することが望ましい。なお、血管内腔の観察を行う際には、一定分解後のステントは破断などが懸念されるため、観察時期、手技においては留意すること。
ア)有効性: 血管造影による遠隔期血管内腔損失径
イ)安全性: 光千渉断層法(OCT)、血管内超音波検査(IVUS)等によるステント圧着不良、ステント新生内膜被覆、ステント破損等の観察
ウ)その他: 病変の送達、留置精度、周術期安全性を含む手技成功率、必要に応じ重複留置を行う場合の安全性、金属ステントによるべイルアウト手技の安全性、本品特有の有害事象の有無、重大心臓有害事象 (MACE)、標的病変不全(TLF)等その他の臨床的評価項目等
②生体吸収性血管ステントの治験を実施する際には、原則として既承認品との臨床的・予後に関するエンドポイントを設定した無作為化比較試験を実施すること。
③製品特徴に応じた有害事象について確認できるプロトコルが望ましい。例えば、留置時に、透視法、又は従来の透視法で観察できない場合は適切な方法で、設置位置や圧着不良の有無等を確認することが考えられる。
④摘出物があり、病理切片を作製する場合は、切片作製処理により生体吸収性血管ステントの分解が進む可能性があることに留意すること。
⑤末梢動脈ステントの場合は、血管造影等による有効性評価の他、超音波検査(エコー)、足関節上腕血圧比(ABI)、CT等から適切な方法を選択し、評価を行うこと。
⑥製品の分解特性に応じて、観察期間を適切に設定すること。
⑦ステント留置後に再治療が必要となった際の安全性ば、再治療の時期、ステントの分解挙動、ステントが内膜化される時期等によって異なると考えられるため、それぞれを踏まえ、必要な考察を行うこと。また、再治療時にはステント破断等のメカニズム考察できるよう、画像評価等の併用を検討すること。なお、一定の分解後のステントに対し、画像評価等を行う場合はステント破断などが懸念されるため、手技においては留意すること。
⑧生体吸収性血管ステントは、血管を開存維持することにより臨床的予後の改善を目的とする医療機器であり、遠隔期の血管開存性を確認する必要がある。サブグループなどを設定し、血管開存率、血管の保持性、ステント圧着率等を、血管造影、或いは従来の透視法で観察できない場合は適切な方法で、確認することが望ましい。
⑨すべての有害事象(特に血栓・塞栓症)を収集し、治験機器との関連、原因について考察すること。
なお、生体吸収性血管ステントについては、現時点で既存の金属ステントほど確立されたエビデンスがなく、ステント血栓症の報告も多くなされていることから、市販後の適応対象、治験の選択・除外基準に関しては、リスク・ベネフィットのバランスを考え、慎重に判断すること。側枝拡張、重複留置など実臨床例における応用は段階的 に実証しながら進めてくことが望ましい。
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