マイクロ流体チップを利用した診断装置

ガイドラインID 2019-HN-DE-031
発出年月日 2019-05-23
発出番号 令和元年5月23日付薬生機審発0523第2号  
WG名 微量診断装置審査 WG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 医療機器
分野

GL日本語版ファイル

2019-HN-DE-031 マイクロ流体チップを利用した診断装置

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. はじめに
近年、体液中の微量成分(細胞、タンパク質、核酸等)を対象とした微量診断装置のほか、質量分析器を利用した診断法や非侵襲下に血糖値を測定する装置等、様々な機器・技術の開発が活発に進められている。中でも、マイクロ流体チップは技術革新が著しく、様々なバイオマーカの測定への応用が期待されている。マイクロ流体チップは、最新技術の結集であり、ガラス又はプラスチック等のチップ上に作製した数 µm~数百 µm幅程度の流路中でクロマトグラフィや電気泳動等の原理に基づいて、微量検体の分析を行なうものである。また、マイクロ流体チップに検体の前処理、分離、検知等の要素を機能的に配置することにより、小型且つ簡便に病態を診断するシステムの構築が可能となる。
マイクロ流体チップを利用した診断装置は、分析所要時間の短縮、感度・検出限界の向上、検体量が微量であることによる測定時の患者の負担の軽減、Point Of Care Testing (POCT) への利用等の利点があり、がんをはじめとした重篤疾患の早期発見等に繋がることが期待される。このような背景を踏まえて、当該装置について、科学的根拠を基盤にした品質、有効性及び安全性の評価を適正かつ迅速に進めることを目的として、本評価指標を作成した。

2. 本評価指標の対象
本評価指標は、マイクロリットルあるいはミリグラム程度以下の微量検体(血液、尿、唾液、涙液、呼気等)中に存在する特定のタンパク質やマイクロRNA等の診断マーカを測定するために、高機能なマイクロ流体操作を用いる診断装置を対象とする。
本評価指標は、「DNAチップを用いた遺伝子型判定用診断薬に関する評価指標(平成20年 4月4日付け薬食機発第0404002号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知別添 2)」及び「RNAプロファイリングに基づく診断装置の評価指標(平成 24 年 11月 20 日付け薬食機発第1120第5号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知別添2)」を参考に、特に、マイクロ流体チップを用いることによる固有の事項を主眼とした。 対象となる診断装置は、原則としてマイクロ流体チップと分析装置を組み合わせたもの、若しくは両者一体型のものとなる。なお、診断装置から得られる情報の臨床的意義については、個別の事例毎に臨床データをもとに検証することになる。

3. 評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発が著しい機器を対象とするものであることを勘案し、現時点で重要と考えられる事項を示したものである。今後の技術革新や知見の集積等を踏まえて改訂されるものであり、承認申請内容に対して拘束力を持つものではない。本評価指標が対象とする製品の評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性を背景にして、柔軟に対応する必要がある。なお、本評価指標のほか、国内外の関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

GL:本体

4. 評価にあたって留意すべき事項

(1) 品目の概要に関する事項
1) 臨床的意義
分析対象とするバイオマーカの定量分析から得られる医療情報の有用性が既に論文・学会の診断基準等により科学的に実証されている場合は、それらを引用し評価すること。新規マーカについては、診断における寄与度や臨床的意義等について個別に説明すること。また、海外での臨床性能試験を用いて有用性を説明する場合は、日本人への外挿性や本邦の医療環境等を踏まえて、日本人集団でも同一の有用性があることを考察すること。
当該品目による早期発見、患者層別化等による、予後やQOLの改善等の患者の利益があれば記載すること。

2) 対象とする被検者の範囲
対象とする被検者を明確に規定すること。バイオマーカの定量分析によって得られる医療情報の意義と治療への利用法について、添付資料の中で具体的に記載・説明すること。

3) 使用環境
① 使用目的・状況の明記(病院検査部における患者検体検査、ベッドサイドにおける患者検体検査、医師の指導下における一般使用者の使用等)
② 使用者の条件の明記(医師、看護師、臨床検査技師等、医療技術資格の必要性)

4) 測定装置及び測定原理
定量する手法の原理を詳細に示すこと。測定に用いる専用装置がある場合は、その測定原理を示すとともに測定原理が記載された論文、特許等の文献があれば引用し、必要な実測データの他、分析装置とマイクロ流体チップの仕様に関する資料を添付すること。既存の測定機器を用いる場合には、使用可能な機種を特定するとともに、その資料を添付すること。いずれの場合も、測定装置の分析学的な性能(正確性、感度、特異度、再現性等)を示すデータを提出すること。

5) 検体の種類
検体としては、血液(全血、血漿、血清)、尿、唾液、涙液、髄液、穿刺液、呼気等が挙
げられるが、使用する検体が測定対象物質の測定に妥当である科学的根拠を示すこと。

6) 検体の採取量・方法・部位
検体の採取量は、機器の仕様を基に適切な量を設定すること。また、患者への負担を考慮し、可能な限り痛みや苦痛を軽減できる採取方法及び部位を選択することが望ましい。検体が血液の場合、微量採血をする身体の部位による測定値の違いを考慮する必要があるため、定量可能範囲(特に定量下限値)に留意して採取部位依存性評価を行うこと。また、溶血による測定値への影響についても評価を行うこと。

7) 検体の保存方法
検体採取、前処理後、全ての段階のサンプルにおいて、保管法及び輸送法を検討し、適切な保存条件を設定すること。

8) 前処理
検体の希釈条件に関する検討を行い、検体種類に応じた測定への影響が最も少ない妥当な希釈方法を設定すること。また、検出感度及び濃度域を考慮して、検体の適切な希釈倍率を設定すること。希釈以外の前処理を必要とする場合、例えば検体に血漿、血清を用いる場合には、その前処理が測定結果に及ぼす影響を検討し、必要な対策を講じること。また、ヘパリン等の抗凝固剤による前処理等、その他の前処理が測定に及ぼす影響に関しても検討すること。

9) アッセイ条件
反応条件(温度、時間、緩衝液の組成等)の概略(アッセイのプロトコル及び標準手順を含む。)を記載し、非特異反応が生じる可能性も説明すること。

10) 医療機器プログラム
装置に搭載されるプログラム構成(ユーザー操作部分、機器制御部分、解析部分、データ管理等)及びその機構について示すこと。ユーザーの操作ミスや機器に異常が発生した場合の対応策についても必要であれば示すこと。なお、プログラムの設計、管理等は、JIS T 2304 への適合について考慮されていること。
分析結果を得るためのアルゴリズムとその構築方法の詳細について、用いたデータセットを含めて説明すること。

(2) 仕様及び安定性に関する事項

1) 仕様
品目の仕様、設置環境等を明確に示すこと。

2) 品質管理の方法
装置の構造に即した反応原理を明確にした上で、測定対象物質を特異的に測定できることを標準物質測定及び実検体を用いた添加回収試験等にて説明すること。また、標準物質の
表示値の分析化学的根拠と精度管理の方法について明確に説明すること。

3) 分析的妥当性
標準物質を段階的に希釈し、定量的に測定できる範囲を明確にするとともに、低濃度域については検出限界を示すこと。また、その定量範囲における低濃度域、中濃度域、高濃度域の少なくとも3濃度の試料を用いた同時再現性を示し、誤差の程度を規定すること。測定値に影響を及ぼす干渉物質とその濃度について、測定反応及び検出原理に及ぼす影響をそれぞれ定量的に説明すること。すでに対象物質が測定可能な装置が存在する場合は、その装置によって得られた測定結果との相関性について説明するとともに、回帰式の傾きが大きく異なる場合、あるいは切片を生じる場合はその原因と考えられる可能性について示すこと。

4) 測定装置の較正
検量線作成が必要な場合は、検量線が直線である場合は0濃度(陰性)較正試料と値付けされた較正試料によって2点較正する方法を、検量線が曲線の場合は、0濃度(陰性)較正試料を含む様々な濃度の複数較正試料により、曲線に近似可能な検量線を作成する方法を説明すること。また、マイクロ流体チップのロット毎に較正内容が装置に組み込まれる場合は、その内容と根拠について説明すること。また、対照検体によって較正の妥当性を検証する方法を示すこと。

5) データの標準化
マイクロ流体チップのロット毎に較正が必要な場合は、使用者に通知する等確実にロット毎に較正が行われるようにすること。また、測定毎にマイクロ流体チップのロットが異なる場合、ロット毎の較正結果を記録する等、ロット混在時の管理ができるようにすること。対照試料の供給等、精度管理に必要な仕組みについて示すこと。また、標準物質や標準測定法を使用した真値に対するトレーサビリティ体系の構築について説明するとともに、評価部門を設けて特定の評価基準によるロット管理で標準化を可能とすること。測定対象が既存の検査項目として確立されている場合は、トレーサビリティ体系が構築されている既存測定系で得られたデータとの相関を明示すること。

6) 安定性
マイクロ流体チップの有効期限及び保存条件を設定し、その妥当性を説明すること。製造販売時にはマイクロ流体チップのロットを必ず表示すること。

7) 試薬
マイクロ流体チップ以外に、検体の前処理を含めて別途試薬を使用する場合は、その規格を明示すること。

(3) 性能に関する事項

分析にあたっては、採取した微量検体を数 m~数百 m幅程度の流路で構成されるマイクロ流体チップに導入して、チップの中で前処理等、様々な分析操作を行う。従って、性能評価においては、従来の分析法における一般的な分析性能評価項目に加えて、チップの構造等に由来する微量検体特有の性能評価項目が生じる。特に、マイクロ流体チップは加工、流体制御、検出、温度制御等、様々な技術が用いられるため、これらの技術要素に応じて評価項目を整理する必要がある。

1)微量検体特有の性能評価項目 マイクロ流体チップを利用した微量診断装置は、分析学的妥当性評価において確認される測定誤差を臨床上許容できる範囲に収める必要がある。
以下の事項を参考として、期待する性能について評価すること。

(ア)チップ加工部
a) 加工精度
マイクロスケールの微細加工ではサイズ誤差が生じやすい。マイクロ加工したチップのマイクロ流路やチャンバー等、サイズの許容誤差範囲を示し、作製したチップが許容誤差範囲内であることを確認すること。基板を接合する場合は、基板接合後の寸法について検討すること。

b) 表面処理
微小流路や反応容器といった微小空間では比表面積が非常に大きく、非特異吸着防止や表面を利用した分子捕捉等のために表面処理が必要な場合が多い。このため、表面処理の目的、均一性や安定性を示す指標(評価方法を含む)とその許容誤差範囲について説明するとともに、実際のチップで測定を行った結果が許容誤差範囲内に収まっていることを示すこと。

c) 機能性分子の活性
バイオマーカの分析には分子認識能を持った DNA やタンパク質等の機能性分子(試薬)をチップ内に事前に固定して用いることが多い。しかし、固定された機能性分子は活性変化を受けやすいため、その活性の安定性を示す指標(評価方法を含む)とその許容誤差範囲について説明するとともに、許容誤差範囲内に収まっていることを示すこと。

(イ)流体制御部
a) 流量・圧力制御
微小空間では超微小流量となり、流量や圧力等の誤差が生じ易いため、チップ内における流量・圧力等の許容誤差範囲を示すとともに、許容誤差範囲内に収まっていることを示すこと。

b) 検体注入量外部空間からチップに一定量の微量検体を導入する場合、体積が微量であるために誤差が生じ易いことから、検体注入方法、注入可能な容量範囲及び至適容量を示すこと。また、容量の許容誤差範囲を示すとともに、許容誤差範囲内に収まっていることを示すこと。特
に呼気等の気体を扱う場合は、圧力、湿度等による体積変動も考慮すること。

c) キャリーオーバー
微小空間では外部空間とチップの接続部等にデッドボリュームが生じ易い。また、非特異吸着も大きく、従来の測定法と比較してキャリーオーバーの影響が大きくなるため、キャリーオーバーの許容範囲を示すとともに、許容範囲内に収まっていることを示すこと。

(ウ)検出部
a)位置合わせ
検出に際しては微小空間の中でそのまま検出できることが望ましいが、微小空間ゆえに検出位置がずれ、測定誤差を生じ易いため、検出位置の位置合わせ方法とその許容誤差範
囲を示すこと。また、許容誤差範囲内に収まっていることを示すこと。

b)基板材料の影響
チップを構成する基板には様々な材料(ガラス、樹脂等)が用いられる。マイクロ流体チップでは流路サイズよりも基板の厚みの方が桁違いに大きく、基板の構成材料や不均一性、表面粗さ等が検出精度に影響を与える場合があるため、基板材料の検出精度に対する影響を評価するとともに、これらの許容範囲を示すこと。また、許容範囲内に収まっていることを示すこと。

(エ)温度制御部
測定時に必要な温度が設定可能な制御域を有し、その温度をマイクロ流路内において許容可能な誤差内で安定して保持できることを示すこと。あるいは、外部温度による影響を内部補正可能な機構を備えていることを示すこと。

2)一般的な分析性能評価項目
(ア) 再現性・頑健性
適切な濃度の複数のサンプルを使用した繰り返し測定を行うとともに、各種測定条件を適切な範囲内で変動させて測定を行い、微量検体測定での再現性及び頑健性について検証すること。その際、繰り返し回数、使用検体、条件範囲等に関する妥当性を示すこと。

(イ) 正確性
国際標準品等を使用した試験を行い、臨床的に意義のある範囲内で得られた測定値の妥当性(正確性)を示し、臨床上許容可能であることを説明すること。
(ウ)添加回収試験
標準検体に濃度既知のマーカを添加して、添加量が測定値に正しく反映されていることを確認すること。また、標準検体の標準としての妥当性も示すこと。

(エ) 検出性能(LOD/LOQ)
測定対象とするバイオマーカの臨床的意義のある濃度域を設定すること。また、その濃度域において、十分な検出性能を有することを確認するため、その検出限界濃度及び定量限界濃度を判定すること。

(オ) 希釈直線性 試料を段階的に希釈し、試料の希釈倍率と測定値が比例関係にあることを確認すること。

(カ) ダイナミックレンジ
対象とするバイオマーカの測定において、様々な濃度について試験を行い、定量可能な濃度範囲を示すこと。

(キ) 共存物質の影響
対象とする物質の測定時に抗原抗体反応や基質の酵素反応等を妨害する可能性のある物質(血液中のヘモグロビン、ビリルビン、脂質等や患者が服用している薬等)の影響について、予め評価し、必要に応じて注意喚起すること。

(ク) 相関性
同一検体を用いて、従来法による測定値とマイクロ流体チップによる測定値の比較を行い、その相関性を確認すること。

3)マイクロRNAを分析する際に特に要求される項目
(ア) 相同マイクロRNAの選択的検出
マイクロRNAには、一塩基のみ異なる配列を持つような、高い相同性を有するRNAが存在するため、類似のマイクロRNAの中から標的マイクロRNAを選択的に検出できるか確認すること。

(イ) 定量性
マイクロRNAは非常に微量かつ不安定であり、生体試料からの抽出・精製工程におけるばらつきの影響を受け易いため、マイクロ RNA の抽出・精製工程の精度を確認すること。抽出・精製・検出を同一チップ上で行う一体型マイクロ流体チップの場合は特に留意すること。
(ウ) 前駆体及び成熟型マイクロRNAの区別
マイクロRNAは細胞内で前駆体と成熟型が存在するが、成熟型のみが生物学的活性を有する。両者を区別して扱う場合が多いことから、前駆体マイクロRNAと成熟型マイクロRNA を選択的に測定できるか確認すること。

*配列解析をマイクロアレイで行う場合には、マイクロアレイチップの性能評価方法(「DNA チップを用いた遺伝子型判定用診断薬に関する評価指標」及び「RNA プロファイリングに基づく診断装置の評価指標」)に準ずる。

4)細胞診断装置特有の性能評価項目
細胞は周知のとおり、多くの種類が存在し、それぞれの細胞が有する性質(大きさ、形態、接着性等)や機能(発現タンパク質、産生タンパク質等)も非常に多様性に富んでいる。そのため、細胞を対象にした分析・診断においては、体液(血液、尿等)や核酸(DNA、RNA等)等の試料に対して考慮した評価項目に加え、細胞特有の性能評価を考慮した最適な条件や分析方法を備えていることが要求される。

(ア)細胞(検体)に対する要求項目
a)細胞サイズ(大きさ)
多くの種類の細胞が存在し、それぞれの細胞が有するサイズは多様性に富んでいる。更に、同一の細胞種においても、個々の細胞サイズは均一ではなく、一定の分布を有していることから、測定可能な細胞サイズ範囲を確認して示すこと。

b) 接着性細胞と非接着性細胞の違い
細胞は接着性細胞と非接着性細胞に分類され、接着性の違いによりマイクロ流路やチャンバー内での挙動が大きく変化することが予想される。特に生細胞を測定対象にする場合には、接着性の違いが測定に及ぼす影響を評価すること。

c) 臨床検体由来細胞による影響評価
患者由来の細胞は、疾患や投与された抗がん剤等の薬剤等によって、健常人の細胞とは大きく異なる性質を有する場合が多いことから、患者由来の細胞を用いて評価し、その臨床的な有効性、有用性を実証すること。

d) 前処理
マイクロ流体チップに細胞を導入する前に前処理が必要な場合は、前処理による測定に対する影響を正確に評価すること。また、影響がある場合は、その影響を排除可能な機構やアルゴリズムを備えていること。
e) 後処理
マイクロ流体チップに細胞を導入した後に後処理(蛍光染色等)が必要な場合は、後処理による測定に対する影響を評価すること。また、影響がある場合は、その影響を排除可能な機構やアルゴリズムを備えていること。

(イ)測定精度に対する要求項目
a) 送液に用いる溶媒による影響
マイクロ流体チップに細胞を導入するには送液を要する。しかし、送液に用いる溶媒の種類によって細胞がマイクロ流体チップやチャンバー内にて示す挙動に変化が生じ、測定値に影響を及ぼすことが想定されることから、それらの種類の違いによる影響を確認し、測定に利用できる溶媒を明示すること。

b) 検出法と必要な検体量(細胞数)
測定結果に定量性を含む場合、一定量の血液を検体とする場合等、測定される細胞数の違いにより、測定結果に違いが生じる可能性があることから、測定に必要な細胞数を確認すると同時に、設定根拠を明示すること。
血中循環がん細胞等の希少細胞を高感度に検出、測定する場合には、検出可能な最低細胞数を検証し、明記すること。

c) 臨床検体による影響評価
患者由来の体液中に含まれる細胞を測定対象とする場合、体液(血清、尿等)を検体としてマイクロ流体チップ内に導入することが想定される。その際、患者由来の体液に含ま
れ得る特有の分子や物質(投与薬剤、ウィルス、細菌等)の影響を評価すること。

d) 測定環境
生きた細胞を継時的に評価する場合やマイクロ流体チップ・チャンバー内において細胞培養工程を含むような場合においては、測定環境(培養液、CO2濃度、振動等)が測定結果に大きく影響を及ぼすことが想定されることから、測定環境を明示すること。

(4) 臨床性能に関する事項
診断装置を使用して得られる情報の臨床的有用性を示す臨床性能試験の成績をデータとともに明確に説明すること。
被験者に関する情報(年齢、性別、人種等)と被験者の疾患に関する情報(重篤度、発症率、治療法等)、検体に関する情報を詳細に記載すること。
類似の承認済み診断装置がある場合には、それとの同等性、相関性及び相違点を示すデータを添付すること。記載にあたっては、特に以下の事項に留意すること。

1) 被験者集団の妥当性
臨床性能試験で対象とした患者集団の妥当性を検証すること。偏りのある患者集団を用いた場合は、臨床性能試験の評価に与える影響を説明すること。

2) 検体
原則として 2 施設以上で 150 以上の検体(正常範囲の検体も含む)を用いた臨床試験成績を提示すること(「体外診断用医薬品の製造販売承認申請に際し留意すべき事項について」平成26年11月21日付薬食機参発1121第16号厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品担当)通知)。
ただし、検体数の確保が難しい希少疾患を対象とする場合や予後予測等を目的とする検査であって、予後(臨床試験の最終結果)を得るのに長時間を要する場合等において、統計学的有意性を示すことができれば、150以上の検体数でなくとも許容できる場合がある。予備試験の成績等を用いて、診断装置が導き出す医療情報において区分される集団間の有意差を生物統計学的に示すことができる検体数を予め求めることができる場合は、臨床性能試験を開始する前に統計学的解析手法を確定させるため、その妥当性について総合機構の対面助言を利用することが望ましい。
なお、過去に集めた検体、バンクに保存されていた検体、市販の検体を用いた後向きの臨床性能試験であっても、診断装置が導き出す情報を現在又は将来に適用できる場合には、評価資料として使用できる。ただし、試料及び試料中の測定対象物質の安定性に関する情報を示すこと。特に、保存検体を使用する場合には、当該検体の保存期間と保存条件における安定性を示す必要がある。さらに、それらの検体の過去における臨床病理評価を用いる場合は、それが現行の医療における評価と同等であることを示すこと。検体は複数の医療機関からの収集を原則とするが、一機関のみで測定を行う場合には、偏り等が懸念されるため、その理由と妥当性を説明すること。

3) 海外で行われた臨床性能試験成績の扱い
適切に計画された海外での臨床性能試験の成績を評価に活用しても良い。ただし、日本人でのデータと差が無いことを示すことが必要である。

4) 医療情報の提示
装置が導き出す医療情報(早期発見、予後予測、治療効果予測、再発転移予測等) を具体
的に記載し、その情報と臨床病理所見や患者の追跡情報の相関を明確に記載すること。

5) 倫理面の配慮
各施設の治験審査委員会で承認されていることを示し、インフォームドコンセントについて記載すること。同一又は一部の試料を用いた研究が論文として発表されていれば、参考資料として添付すること。

(5) リスクに関する事項
操作過程において、人為的及び機械的ミス、非特異反応等が発生する要因に関して分析し、必要に応じて添付文書にて注意喚起を行う等の対策を講じること。誤った判定結果が得られた場合に起こり得る診断、治療上のリスクについて、文献等を使って評価すること。判定結果を別の手法を用いて個別に確認するための方法について、積極的に提示すること。
不具合が発生すると、ばらつきの原因となり、重大な装置トラブルに発展する可能性がある構成要素に関しては、予めリスク分析を行うとともに、不具合発生を検出・防止するための適切な機能を備える等、適切な対策を施していることを示すこと。具体的な構成要素の例としては以下のものが挙げられる。

・送液部
・導入部(オートサンプラー等)
・反応部(カラム、微小流路、恒温装置等)
・検出部
・装置部(プログラムを含む)

また、装置及び試薬等の管理に関し、以下のことを使用者に通知する旨添付文書等に記載すること。

1)装置較正
一定期間毎に標準物質による装置の性能評価を実施し、適切な測定結果が得られない場合は、メーカーによる点検を実施し、装置の調整を行うこと。

2) 日常管理・保守点検
洗浄機構の詰まりや汚れ、液漏れを防ぐために十分かつ妥当な洗浄・保守方法及び対象部位を示すこと。または、そのための機能を装置に装備しておくこと。消耗部品に関しては、適切な耐用期間を設定すると同時に、定期交換を行うこと。交換後にはバリデーションを行い、通常時に期待される性能との同等性を確認すること。また、必要に応じて、外部精度管理の方法に関する情報を提供すること。

3) 分析法バリデーション
一定期間毎に陰性対照及び陽性対照となる標準物質あるいは管理物質を用いてバリデーションを行い、測定結果の信頼性を担保すること。検出部、測定条件等を変更した場合にも、適切なバリデーションを実施すること。バリデーションにおいては、適切な理論(統計学的手法、FUMI 理論等)を基に許容可能な標準物資の測定誤差範囲を設定し、その範囲を逸脱した場合は洗浄や部品交換等、トラブルシューティングも参照して必要な措置を行うこと。

4) トラブルシューティング
不具合が発生するとバラツキの原因となり、放置すると重大な装置トラブルに発展する可能性がある機構を以下に示す。

・反応部(チップ)
・試薬/検体を正確・精密に分注する分注機構
・検体と試薬を均一にする撹拌機能
・検出機構

機構毎にトラブルの発生する要因を整理してトラブルシューティングとして取りまとめ、トラブル発生時の解決手段を文書化しておくこと。

(6) データの保存と医療情報の表示方法に関する事項
得られた医療情報に加え、検体採取や前処理を含めた分析プロトコル及び測定結果の生データを保存し、検証を可能とすること。早期発見、予後予測、治療効果予測、再発転移予測等、装置が導き出す医療情報の開示方法については、予め添付文書等でその形式と臨床的意義に関する説明を明記すること。また、測定の全工程が良好に進んだかどうかの判定項目を示すとともに、医療情報の根拠となるデータ(対象バイオマーカの定量値等)を可能な限り開示すること。

GL:付属資料

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

H27年度

座長:前田瑞夫  理化学研究所前田バイオ工学研究室 主任研究員

副座長:落谷孝広 国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野 主任分野長

委 員(五十音順):
一木隆範    東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻 准教授
今井 靖    自治医科大学医学部臨床医学部門内科学循環器内科部門 准教授
黒田雅彦    東京医科大学分子病理学分野 主任教授
前川真人    浜松医科大学医学部臨床検査医学講座 教授
馬渡和真    東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 准教授
村上善基    大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学 准教授
湯川 博    名古屋大学先端ナノバイオデバイス研究センター 特任講師

学会推薦専門家(五十音順):
菊池春人    慶應義塾大学医学部臨床検査医学 専任講師(日本臨床検査医学会)
戸塚 実    東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科先端分析検査学 教授
        (日本臨床化学会)
丹羽 修    埼玉工業大学先端科学研究所マイクロ・ナノ化学研究室 教授
        (日本分析化学会)
厚生労働省:
磯部総一郎   大臣官房 参事官(医療機器・再生医療等製品担当)
近藤英幸    医薬・生活衛生局 医療機器・再生医療等製品担当参事官室 医療機器規制国際調整官
片平尚貴    医薬・生活衛生局 医療機器・再生医療等製品担当参事官室 医療機器審査調整官
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:
高江慎一    医療機器審査第一部 部長
牧野 勤    医療機器審査第一部 審査役
宮本大誠    体外診断薬審査室 室長
宮崎生子    規格基準部 部長
藤井道子    規格基準部医療機器基準課 テクニカルエキスパート
審査 WG 事務局:
新見伸吾    国立医薬品食品衛生研究所医療機器部 部長
蓜島由二    国立医薬品食品衛生研究所医療機器部 第一室長
植松美幸    国立医薬品食品衛生研究所医療機器部 埋植医療機器評価室主任研究官
野村祐介    国立医薬品食品衛生研究所医療機器部 第一室研究員
福井千恵    国立医薬品食品衛生研究所医療機器部 第一室非常勤職員

オブザーバ:
北森武彦    東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 教授
細川和生    理化学研究所前田バイオ工学研究室 専任研究員
木山亮一    産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門
        先進バイオ計測研究グループ 上級主任研究員

H28年度

座長:前田瑞夫   理化学研究所前田バイオ工学研究室 主任研究員

副座長:落谷孝広   国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野 主任分野長

委 員(五十音順):
一木隆範    東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻 教授
今井 靖    自治医科大学医学部臨床医学部門内科学循環器内科部門 准教授
北森武彦    東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 教授
黒田雅彦    東京医科大学分子病理学分野 主任教授
前川真人    浜松医科大学医学部臨床検査医学講座 教授
村上善基    大阪市立大学大学院医学研究科肝胆膵病態内科学 准教授
湯川 博    名古屋大学先端ナノバイオデバイス研究センター 特任講師

学会推薦専門家(五十音順):
菊池春人    慶應義塾大学医学部臨床検査医学 専任講師(日本臨床検査医学会)
戸塚 実    東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科先端分析検査学 教授
        (日本臨床化学会)
丹羽 修    埼玉工業大学先端科学研究所マイクロ・ナノ化学研究室 教授
        (日本分析化学会)

厚生労働省:
磯部総一郎   医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 課長
柳沼 宏    医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 再生医療等製品審査管理室長
小池紘一郎   医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 課長補佐
川嶋 実    医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 医療機器審査調整官
賀登浩章    医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 企画調整専門官
藤本尚弘    医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 医療機器係長
石川 由    医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 主査

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:
高江慎一    医療機器審査第一部 部長
牧野 勤    医療機器審査第一部 審査役
矢花直幸    体外診断薬審査室 室長
渕脇雄介    体外診断薬審査室 審査専門員
宮崎生子    規格基準部 部長
藤井道子    規格基準部医療機器基準課 テクニカルエキスパート

国立医薬品食品衛生研究所(審査 WG 事務局):
蓜島由二    医療機器部 部長
植松美幸    医療機器部 埋植医療機器評価室 主任研究官
野村祐介    医療機器部 第一室 研究員
福井千恵    医療機器部 第一室 非常勤職員

オブザーバ:
馬渡和真    東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 准教授
細川和生    理化学研究所前田バイオ工学研究室 専任研究員
木山亮一    産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門
        先進バイオ計測研究グループ 上級主任研究員
森下裕貴    国立医薬品食品衛生研究所医療機器部第一室 研究員

報告書(PDF)

H27年度
2019-HN-DE-031-H27-報告書

H28年度
2019-HN-DE-031-H28-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report