ホウ素中性子捕捉療法用加速器型中性子照射装置システム

ガイドラインID 2019-HN-DE-035
発出年月日 2019-05-23
発出番号 令和元年5月23日付薬生機審発0523第2号    
WG名 ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)審査WG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 医療機器
分野

放射線医療

GL日本語版ファイル

2019-HN-DE-035 ホウ素中性子捕捉療法用加速器型中性子照射装置システム

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. はじめに
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron neutron capture therapy)は、がん細胞に選択的に集まるホウ素の同位体である 10B 化合物を事前に患者に投与し、病巣部に中性子線を照射することによってがん細胞内の10Bと熱中性子が10B(n,α)7Li反応を起こし、放出されるアルファ線(ヘリウム原子核)とリチウム原子核によってがん細胞を選択的に破壊する放射線治療である。放出される2つの粒子の生体内での飛程は10μm程度と短く、この距離はがん細胞径以下であることから、放出された粒子はがん細胞の細胞核を破壊して止まり、たとえ正常細胞が隣接していても到達しない。また、治療効果を与える2つの粒子は重イオンであるため、がん細胞に対して高い殺細胞効果を有している。このため原理的には、ホウ素を取り込んでいない正常細胞へのダメージを抑えつつ、がん細胞を選択的に破壊することができる。
BNCTは、悪性脳腫瘍のような境界が不明瞭な浸潤性がんや放射線治療抵抗性のがん等に対して高い治療効果が期待でき、正常組織に対する中性子線等の放射線影響も限定的であることから、通常の放射線治療を受けた後の再発がんに対しても適応可能と考えられている。
BNCTは日本が世界をリードする分野であり、2010年に世界初のBNCT用加速器が我が国で稼働して以来、それまでの原子炉を用いた治療研究から目まぐるしく変貌しつつあり、現在、大きな転換期を迎えている。加速器によるBNCTの治験は脳腫瘍及び頭頸部がんの第Ⅰ相臨床試験が終了し、第Ⅱ相試験が進められている。最先端の治療装置を患者の元へいち早く届けるためには、迅速な承認審査に資する評価の道しるべの設定が重要となる。BNCTはホウ素薬剤と中性子線を用いること等、X線治療、粒子線治療とは大きく異なる部分がある。また、中性子線を発生させる方法としては、従来の原子炉に始まり、通常のサイクロトロン又は核融合反応を用いた加速器等、種々の技術が存在する。したがって、BNCTの実用化にあたっては、従来の外部照射放射線治療法とは異なる特殊性を抽出し、技術的な課題や限界を考慮した上での評価が求められる。
このような背景を踏まえ、本ワーキンググループでは、BNCT用加速器型中性子照射装置や治療計画装置を巡る国内外の研究開発・利用動向及び関連規格等を調査すると共に、その有効性、安全性、品質を科学的根拠に基づいて適正且つ迅速に評価するための評価指標案を作成した。

2.評価指標の対象 本評価指標においては、BNCTに用いる加速器型中性子照射装置、並びに当該装置と併用する治療計画装置を対象とする。

3.評価指標の位置づけ 本評価指標は、技術開発が著しい機器を対象とするものであることを勘案し、現時点で重要と考えられる事項を示したものである。今後の技術革新や知見の集積等を踏まえて改訂されるものであり、承認申請内容に対して拘束力を持つものではない。本評価指標が対象とする製品の評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性を背景にして、柔軟に対応する必要がある。本評価指標の他、国内外のその他の関連ガイドラインを参考にすることも考慮するべきである。なお、放射線安全については関連する法律(原子力基本法、放射性同位元素等の規制に関する法律、労働安全衛生法等)に準拠する必要がある。

GL:本体

4. 評価に対して留意すべき事項
(1)基本的事項

1) 開発の経緯、開発品目の仕様、開発品目、及び類似品の国内外での使用状況、装置の設計とシステムの原理(アルゴリズムを含む)、標準的な使用方法等を明確に示す。

2) 以下の事項を参考に、システム全体の設置、運用にあたっての必要な評価項目等について規定し、評価する。

① ソフトウェア(OS: Operating system及びアルゴリズムを含む)
② 設置条件
(ア) 重量(使用場所の床に要求される耐荷重条件)
(イ) 寸法(格納時も含めて)
(ウ) 転倒防止対策
③ 標的材
(ア) 標的材の物理的及び化学的安全性と取扱い方法
(イ) 標的材の荷電粒子線照射・中性子発生による劣化(ブリスタリング等)、損傷に対する安全性(粉じん、蒸散した場合への対応等)と交換頻度
(ウ) 標的材の交換作業等の手順
④ 騒音・振動
⑤ 保守点検とその内容
⑥ 装置及び付帯設備の放射化対策
(ア) 放射化する機器のメンテナンス方法(「Hands-on」、「専用冶具を使用」等)
(イ) 放射化する部品の交換頻度と方法
(ウ) 廃棄物の安全な処理法
⑦ トレーニング計画の必要性とその内容
⑧ 使用者向け操作マニュアル等の文書化とその内容
⑨ 照射中の患者モニタリングの方法
⑩ トラブル発生時のプロトコル(患者の急変・緊急搬出、放射線トラブル、冷却水の標的真空箱への漏洩、停電対策、緊急停止の対応等)
⑪ ソフトウェアライフサイクルプロセス(参考:JIS T 2304)
⑫ リスクマネジメント(参考:ISO 14971)
装置に限らず、治療の場における事故等、ワーストケースを想定した場合の対応について検討する必要がある。本評価指標の対象に関するその他の主な留意点については、別添を参照のこと。

3) 最終製品と試験装置との同等性
試験装置を用いて非臨床及び臨床試験を実施する場合は、最終製品との同等性を評価すること。

(2)非臨床試験に関する事項 以下に示すベンチテスト、生物試験等を通して、システム全体の安全性及び有効性の評価並びに中性子照射場に関する安全性及び有効性の評価を適切に行うこと。なお、システムを構成する患者照射台、治療室内の放射線計測モニタ、治療計画装置等の性能、品質等については、必要に応じて関連するガイドライン、工業規格等に準じて評価を行う。

1) 加速器型中性子照射装置の安全性に関する評価
① 電気的安全性(参考:JIS T 0601-1)
② 電磁両立性(参考:JIS T 0601-1-2)
③ 放射線に対する安全性(参考:JIS T 0601-2-64)
④ 機械的安全性(参考:JIS T 0601-1)
(ア) アラーム
(イ) インターロック
(ウ) 緊急停止機構
(エ) 過照射防止機構
(オ) 誤動作予防機構
(カ) その他に必要な機構
⑤ 生物学的安全性(参考:JIS T 0993-1)
⑥ ビーム口外からの漏洩放射線による被ばくに対する安全性 大強度の中性子線を発生させて治療に用いることから、ビーム口外の装置、壁面からも放射線(中性子線、γ線及び残留γ線)が漏洩する可能性があるため、可能な範囲でJIS T0601-2-64等を参考とし、以下の事項等に留意すること。
(ア) 漏洩する放射線の特性(線質、線量率、γ線混入率等)を把握すること。残留γ線については10年程度の運用履歴を仮定すること。
(イ) 治療部位以外の被ばくによる患者への不利益が、治療による利益に比較して十分小さいこと。
⑦ 装置の放射化による残留放射線による医療従事者(機器のメンテナンス者を含む)の被ばくに対する安全性(参考:放射線障害防止法等) 装置を構成する各部材が放射化し、これに起因して加速器を停止して中性子線を発生させていない時にも、加速器及び中性子照射装置から残留放射線が放出される可能性があるため、以下の事項等に留意すること。
(ア) 残留放射線の特性(線量率、空間分布及び時間的変化等)を把握すること。10年程度の運用履歴を仮定すること。
(イ) 医療従事者の被ばくが法で定める線量限度に比較して十分小さいこと(適正な被ばく管理を行なうこと)。
⑧ 治療装置の保守・点検時、並びに標的材の放射化等による従事者の被ばくに対する安全性 装置の運用、維持管理にかかる放射線業務従事者の被ばくが法で定める線量限度に比較して十分小さくなるように設計されていること。

2) 加速器型中性子照射装置の性能に関する評価
① 加速器で発生・加速する荷電粒子線のエネルギー及び電流値の安定性、再現性、連続運転可能時間
② 荷電粒子線の電荷量モニタの動作安定性
③ 標的材の健全性(冷却システム、温度モニタリング等)
(ア) 標的材に照射する荷電粒子線が想定外の条件で標的材に継続的に照射されることがないように、安全対策を講じてあること。
(イ) ブリスタリングへの対策が講じてあること。
(ウ) 標的材の冷却が停止、或いは冷却水が漏洩(真空側も含む)した場合を考慮した安全対策が講じてあること。
(エ) 液体リチウム等、液体の標的材を用いる場合は標的材の漏洩を考慮した安全対策が講じてあること。
④ ビーム口から放出される中性子ビームの特性安定性、再現性
⑤ 中性子ビームに混入するγ線特性の安定性、再現性
⑥ 照射の実現性
照射予定に対して実施された実績を出力すること。
⑦ 照射中の中性子ビーム及び混入γ線の監視、制御方法に関する安全性及び再現性
(ア) 発生する中性子線及び混入γ線をリアルタイムに直接計測する場合
・計測モニタの信頼性、安定性
(イ) 発生する中性子線を荷電粒子の出力(電流値)で間接的に監視、制御する場合
・荷電粒子の電流値に対して発生する中性子線特性の均一性
・標的材の健全性を把握する方法
・入射する荷電粒子の電流値に対して発生する中性子線の特性が大きく変化し、治療直前時と比較して中性子フラックスが変化する可能性がある場合は、治療時に発生する中性子線の特性を推定する方法
⑧ 中性子ビームの照射野サイズ、治療可能な深さ及び照射時間
治療可能範囲・深さ、中性子フラックス、混入γ線量率、症例ごとによる標準的な照射時間等、装置が有する性能を示すこと。各組織の線量分布や照射時間は、装置が発生するビームの物理特性のみでは決まらず、各組織中のホウ素濃度によっても変化する。これらの性能値の提示にあたっては、算出する際に用いたホウ素濃度値、生物学的効果比(RBE: Relative biological effectiveness)値及びホウ素化合物生物学的効果比(CBE: Compound biological effectiveness)値等も併せて示すこと。
⑨ 治療中における患者及び病巣の位置変動 中性子線照射中に患者及び病巣の位置変動が生じた場合、患者に付与される線量は変動する可能性があるため、原則、患者位置を変動させないこと。
照射中の患者及び病巣の位置変動を許容する場合は、患者及び病巣の位置変動をモニタリングし、その変動による線量変化等の影響を考慮した照射制御が可能であることを示すこと。この場合、患者及び病巣の位置変動を計測するモニタの安定性と信頼性も合わせて示すこと。
⑩ 中性子ビーム及び生体内の線量効果を評価する際に用いる計算解析手法 中性子線に関連する線量評価、生体内の線量分布評価をモンテカルロ法等による計算解析を用いる場合は、その計算手法(計算コード、輸送計算に用いる核データ、線量換算係数等)を示すこと。

3) 治療計画装置の安全性及び性能評価に関する項目 従来の放射線治療と異なり、BNCTでは、混合エネルギー(白色)の中性子が用いられると共に、混入
するγ線及び中性子と生体組織との反応によって生じる2次γ線による線量を評価しなければならない。
また、吸収線量からGy-equivalent (Gy-Eq)に変換するための係数(通常、RBE値)も組織及び臓器毎に異なる。BNCTの線量評価には、基本的にモンテカルロ法が用いられると共に、腫瘍及び正常組織に対する線量分布等の表示機能が必要となる。BNCTでは、ホウ素薬剤を併用して、基本的に1回の照射で治療を終える点にも特徴がある。その他、患者の照射体位の設定、呼吸性移動の可能性、照射中の照射条件変化、並びに患者及び建屋の放射化等にも配慮する必要がある。
治療計画装置については、BNCT特有のこれらの事項を考慮の上、以下の事項に留意して評価すること。
なお、体内線量計算以外の機能を有する場合、その機能を達成する原理、性能等を明確に示すこと。

① 使用目的、原理等
(ア) 使用目的
(イ) 原理・アルゴリズム
(ウ) 機能・性能
(エ) ユーザビリティ

② 性能に関する評価
(ア) 輪郭作成機能
・CT (Computed tomography)値等の閾値処理によって材質の領域分割処理を行うことができる。
・CT画像等を用いて線量評価を行う病巣部位、臓器等の関心領域の設定機能
(イ) 幾何学的パラメータ表示機能
・患者の3次元モデルや医療画像上に放射線の照射角度、範囲等の重畳表示機能
・照射時の位置照合に用いるための表示(Beam's eye view、DRR: Digitally reconstructed radiograph 等)
(ウ) 線量分布計算機能/線量分布表示機能
・治療に用いる照射装置の照射に関する幾何学的パラメータを用いて、照射する範囲の線量分布を計算できる。計算する項目は、中性子束、光子束、中性子と10Bとの反応で生じる吸収線量、中性子と生体組織を構成する元素(水素、窒素等)との反応で生じる吸収線量、γ線吸収線量等。
(エ) 線量計算アルゴリズムの評価
・開発時に製造元で規定した試験方法に基づいて試験した際に線量計算結果が設計規格値の範囲内であること。
(オ) 線量分布解析機能
・算出した物理線量(各吸収線量)に基づいた等価線量及びその3次元分布を表示できる。
・病巣部や各関心領域に付与される線量の最大値、最小値、平均値や偏差等、一般的な統計処理を行うことができる。
・病巣部や各関心領域の線量体積ヒストグラム(DVH: Dose volume histogram)の表示を行うことができる。
・同じ医療画像スライスに対して病巣部に付与される線量分布と周囲の正常組織に付与される線量分布を比較できる。
(カ) 照射線量パラメータ計算/設定機能
・処方した線量を与えるための照射時間、あるいは中性子フルエンス、荷電粒子の発生電荷量を計算もしくは設定する。
(キ) 放射線治療パラメータ最適化機能
・設定した病巣及び周囲の臓器等を考慮し、病巣部に対して可能な限り線量を付与しつつ、周囲の重要臓器への線量を低減できる線量分布となるような幾何学的パラメータ(ビーム入射位置、角度、照射範囲等)の組合せを求める。
(ク) 再計画機能
・すでに作成済みの放射線治療計画の輪郭やパラメータを、別の医用画像上に呼び出すことにより、あらたな放射線治療計画の作成を補助する。

③ 安全性に関する評価
(ア) 距離及び長さ寸法
(イ) 放射線量
(ウ) 日付及び時刻の書式
(エ) 許可されていない者の使用防止
(オ) データの制限値
(カ) 不正な変更からの保護
(キ) データの転送の正確さ
(ク) 座標系及び目盛
(ケ) データの一時保存及びアーカイブ
(コ) 健全性
・計算された線量値が、臨床で想定される計算時間及び模擬体系において許容できる精度の範囲内であることを確認すること。
・作成された ROI(Region of interest)及び線量分布の表示が DICOM(Digital imaging and communications in medicine)画像の座標と一致していること。
・外部の計算ソフトウェア、核データライブラリとの連動性外部装置(ソフトウェア)に線量分布計算等を委託する場合、再現性を確認すること。
外部装置(ソフトウェア)に委託する計算ソフトウェア及び核データライブラリ等のバージョンを確認すること。

4) 生物学的効果
BNCTの試験としては、BNCT用ホウ素薬剤の曝露後に中性子線を照射することによる生物学的効果が発揮されることを確認すること。この試験系については、in vitroにおける殺細胞効果試験、in vivo における腫瘍増殖抑制効果試験が文献等により報告されているため、これら報告例を参考にして構築すること。なお、中性子のみの照射による生物学的効果(有害事象)も評価すること。

5) 動物試験
動物試験は、下記の事項に留意して適切な評価を行う。

① 試験動物
(ア) 動物の種類とヒトへの外挿可能性(解剖学的、生理学的特徴、放射線への感受性等)
(イ) 動物への手技と臨床における手技との比較考察及びヒトへの外挿可能性
② 試験プロトコル
(ア) 評価項目、評価基準、評価方法、評価期間、及び評価者
(イ) 計測データ(生理学的、機械的及び電気的データ、放射線強度等)
(ウ) 例数の設定
③ 評価にあたって考慮すべき点
(ア) 処置の達成状況(処置領域の肉眼病理観察や組織病理評価等)
(イ) 治療状況(治療目標の達成度)
(ウ) 生体に対する有害事象の程度及び頻度
(エ) 動物試験で確認する項目に関わる機器の不具合
(オ) 動物試験で得られる結果と、動物を模擬したファントムモデルを定義して照射実験を数値シミュレーション(モンテカルロ解析等)によって得られる評価結果との差異

(3) 臨床試験(治験)に関する事項
臨床試験における症例数設定についての考え方、得られる結果の有効性評価のエンドポイント及び有害事象評価は、基本的に各疾患や照射部位に応じて、従来の放射線治療装置に係る臨床試験を参考に実施すればよい。ただし、BNCTに特化した項目として、併用するホウ素薬剤に起因する有害事象を別途評価する必要がある。
BNCTにおいて、腫瘍細胞に対する殺細胞効果、正常組織への有害事象は、飛程が10μm以下である2 つの重荷電粒子の照射効果に由来する。ヒトへの有効性及び安全性確保の観点から、治療計画は非臨床試験結果の科学的検討に基づいて策定する必要がある。具体的には、腫瘍、正常組織のホウ素薬剤の微視的な分布が、腫瘍の縮小効果、正常組織に与える影響を評価する必要がある。 BNCTの臨床試験については、以下の事項を参考として適切な評価を行うこと。

1)臨床試験(治験)プロトコル
基本的には、従来の放射線治療もしくは薬物療法に関する治験や臨床試験のプロトコルと同様に作成すればよい。ただし、BNCT特有のコンセプト及びプロセスを考慮して、有効性及び安全性評価項目を設定すること。
治療計画装置については、体内線量計算以外の機能を有し、且つその機能の有効性を非臨床試験のみでは適切に評価できない場合、臨床試験の実施の要否について説明すること。

① 適応疾患・部位
適応疾患・部位の設定根拠として、従来の治療手段と比較して非劣性又は上回る効果が期待できる理
論的背景、並びに該当疾患・部位にBNCTを適用した過去の臨床研究の結果について説明すること。

② エンドポイントの設定 非臨床試験で検証されたホウ素薬剤の腫瘍内分布の結果を踏まえて、適応疾患・部位に応じた適切なエンドポイント(生存率、腫瘍縮小率、緩和効果等)を設定すること。また、非臨床試験で検証された正常組織におけるホウ素薬剤の微視的分布、血管内外の分布比等の結果を踏まえて、正常組織に対する有害事象の評価項目を適切に設定すること。

③ ホウ素薬剤の投与方法、照射タイミング、照射中性子フルエンスの決定根拠
非臨床試験における腫瘍及び正常組織のホウ素薬剤の微視的分布、細胞内外及び血管内外の分布比等による殺細胞効果、正常組織に対する有害事象のデータを踏まえて、ホウ素薬剤の投与方法並びに照射タイミングを決定すること。なお、それらの設定根拠についても説明すること。
患者に照射する中性子フルエンスは、ホウ素薬剤、対象疾患、照射部位によって異なることが予想されるため、非臨床試験結果(RBE値及びCBE値等)や従来の放射線治療の知見に基づき、設定根拠(ホウ素濃度値及び正常組織の耐容線量等)を科学的に説明すること。

④ 治療計画
上記の評価項目を適切に治療計画へ反映させること。

2) 中性子線の照射精度
① 患者セットアップエラーの評価
照射する中性子は、照射時の体位変化(例:首の傾き等)により、大きな影響を受けるため、治療計画時の照射体位と治療開始時の照射体位の違い(Set up error)に関する評価方法を臨床試験(治験)計画書に記載すること。また、1回の照射に30分から1時間程度を要するため、照射中の照射体位の変動(Intra-fractional error)の評価方法も記載すること。

② 照射中性子フルエンスの検証 患者に照射した中性子フルエンスの検証については、その測定方法、測定部位等を臨床試験(治験)計画書に記載することが望ましい。

3) 不具合(4.(1)2)⑫リスクマネジメント参照)
発生する不具合の内容、頻度、重篤度等を評価すること。不具合に対して講じられた安全対策等について説明すること。

別添
リスクマネジメントの考え方
− 参考情報 −


現在の技術的な限界、制限事項を踏まえて、リスクマネジメントに関する事項を以下に示す。

① 中性子線及びγ線の計測
(ア) 中性子線及びγ線を直接的に計測する場合:計測機器が示す値を定期的に校正し、測定が確実に行われることを確認することでリスクを低減する。
(イ) 中性子線及びγ線を直接的に計測評価しない場合:発生する中性子線を荷電粒子の出力(電流値)と発生する中性子フラックスとの相関性を把握しておき、間接的に監視、制御を行うことになる。この方法では、荷電粒子の出力に対する発生中性子フラックスの相関性、標的材の健全性を把握するための測定実験を照射の前後で実施する等の管理を行うことでリスクを低減する。なお、この方法は、(ア)の中性子フラックスを直接計測する手法にも適用することで、直接計測手法のリスクをさらに低減できる。
② 患者に付与される線量の計測評価患者の照射野周辺に金箔等の放射化箔及び熱ルミネセンス線量計(TLD: Thermoluminescent dosimeter)等の積算型・非電力不要型の放射線計測手法の検出器を配置して照射する等の対応を付加することでさらにリスクを低減できる可能性がある。ただし、この方法は、測定位置等の条件によって測定値が変動し大きな誤差を伴う可能性があるため、絶対的な線量制御には適用できず、あくまでも補助的な方法であることを把握して用いる。
③ 標的材の健全性治療中の標的材の状態を直接的に把握することが困難な場合には、標的材の冷却水温度、加速管の真空度等の取得可能な情報を組み合わせて、可能な限りの間接的な監視を行うとともに、異常を検知した際に即座に照射を停止できるインターロックを設定することでリスクの低減を図る。
④ ビーム口外の漏洩放射線先行する原子炉での臨床研究では、金箔、TLD等の検出器を用いた計測評価の実績がある1)。これまでの臨床実績では、漏洩放射線による重篤な影響は生じていない2-5)。
⑤ 装置の放射化による照射終了後の残留γ線による被ばく照射室内に入室する時間を制限する、ビーム口近傍から距離を取る、患者を遠隔操作でビーム口付近から離脱させる装置を組み合わせる、等の対応を行うことで被ばく量を管理、低減する。
(ア) 患者に関しては、照射中の付与線量の方が圧倒的に線量が高く、照射後の残留γ線によって付与される線量は無視できるレベルである。
(イ) 医師等医療従事者に関しては、関係法令に基づいた施設管理に従って被ばく線量を管理する。
⑥ 退出基準
関連する学会ガイドライン等を参照の上、必要に応じて患者の放射化について検討する。
⑦ 照射中の患者の位置変動基本的に固定用シェル等を用いて患者の動きを可能な限り抑制する対策を行う。照射中の患者の様子を逐次監視できるモニタを設置する。照射条件に対して患者の位置条件が大きく変化した場合は、照射を速やかに停止できる等の対策を講じる。
⑧ 照射中のホウ素の動態可能な限り的確なホウ素濃度推定手法を用い、線量制御に反映させる。照射中の(平均)ホウ素濃度および中性子フルエンスの事後評価を行い、最終的に付与された線量を把握する。

GL:付属資料

参考文献
1) Kinashi Y, et al., “Evaluation of micronucleus induction in lymphocytes of patients following Boron-Neutron-Capture-Therapy: A comparison with thyroid cancer patients treated with radioinodine”, J. Radiat. Res., 48, 197-204, 2007
2) Fukuda H, et al., “Boron neutron capture therapy (BNCT) for malignant melanoma with special reference to adsorbed doses to the normal skin and tumor”, Australas. Phys. Eng. Sci. Med., 26, 78-84, 2003
3) Kankaanranta L, et al., “Boron neutron capture therapy in the treatment of locally recurred head and neck cancer”, Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 69, 475-482, 2007
4) Suzuki M, et al., “Boron neutron capture therapy outcomes for advanced or recurrent head and neck cancer”, J. Radiat. Res., 55, 146-153, 2013
5) Yong Z, et al., “Boron neutron capture therapy for malignant melanoma: first clinical report in China”, Cbin. J. Cancer Res., 28, 634-640, 2016
6) Tanaka H, et al., “Development of a simple and rapid method of precisely identifying the position of 10B atoms in tissue: an improvement in standard alpha autoradiography”, J. Radiat. Res., 55, 373-380, 2014.
7) Hiratsuka J, et al.“RBEs of Thermal Neutron Capture Therapy and 10B(n,a)7Li Reaction on Melanoma-Bearing Hamsters”, Pigment Cell Research, 2, 352-355, 1989.
8) Ono K, et al.“Radiobiological evidence suggesting heterogeneous microdistribution of boron compounds in tumors: Its relation to quiescent cell population and tumor cure in neutron capture therapy”, Int. J. Radiation Oncology Biol. Phys., 34(5), 1081-1086, 1996.

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

H29年度
座 長:平塚純一 川崎医科大学 放射線腫瘍学教室 教授

委 員(五十音順):
井垣 浩   国立がん研究センター中央病院 放射線治療科 病棟医長
熊田博明   筑波大学医学医療系 生命医科学域 准教授
櫻井英幸   筑波大学医学医療系 放射線腫瘍学 教授
鈴木 実   京都大学原子炉実験所附属粒子線腫瘍学研究センター 粒子線腫瘍学研究分野 教授
田中浩基   京都大学原子炉実験所放射線生命医科学研究本部 放射線生命科学研究部門 
        放射線医学物理学研究分野 准教授
中村浩之   東京工業大学 科学技術創成研究院 化学生命科学研究所 教授

学会推薦専門家(五十音順):
石川正純   北海道大学大学院保健科学研究院保健科学部門 医用生体理工学分野
        国際連携研究教育局 教授(日本放射線腫瘍学会)
上坂 充   東京大学大学院工学系研究科専門職大学院原子力専攻 
        原子力国際専攻・バイオエンジニアリング専攻 教授(日本加速器学会)
上簑義朋   国立研究開発法人 理化学研究所 仁科加速器研究センター 安全業務室 室長(日本原子力学会)
川端信司   大阪医科大学附属病院 脳神経外科・脳血管内治療科 医長
       (日本中性子捕捉療法学会)
米内俊祐   国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所

        加速器工学部 照射システム開発チーム チームリーダ(日本医学物理学会)
厚生労働省:
中井清人   医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 課長
柳沼 宏   医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 再生医療等製品審査管理室長
青柳ゆみ子  医薬・生活衛生局医療機器審査管理課 医療機器規制国際調整官

独立行政法人 医薬品医療機器総合機構:
髙江慎一   医療機器審査第一部 部長
岡崎 譲   医療機器審査第一部 審査役
菅原明彦   医療機器審査第一部 審査役代理
冨岡 穣   医療機器審査第一部 審査専門員
宮崎生子   規格基準部 部長
今川邦樹   規格基準部 医療機器基準課 基準専門員

国立医薬品食品衛生研究所(審査 WG 事務局):
蓜島由二   医療機器部 部長
植松美幸   医療機器部 埋植医療機器評価室 主任研究官
野村祐介   医療機器部 第一室 研究員
福井千恵   医療機器部 第一室 非常勤職員

オブザーバ(五十音順):
浅沼直樹   日本医療研究開発機構 産学連携部 医療機器研究課 主幹
荒井保明   国立がん研究センター 中央病院放射線診療科 科長
扇谷 悟   日本医療研究開発機構 産学連携部 医療機器研究課 上席調査役
田光公康   日本医療研究開発機構 産学連携部 医療機器研究課 主幹
田中俊博   国立がん研究センター 研究支援センター 研究管理部
鎮西清行   産業技術総合研究所 健康工学研究部門 副研究部門長
中村哲志   国立がん研究センター中央病院放射線治療科 医学物理士
蜂須賀暁子  国立医薬品食品衛生研究所 生化学部 第一室 室長
三澤雅樹   産業技術総合研究所 健康工学研究部門 主任研究員
森下裕貴   国立医薬品食品衛生研究所 医療機器部 第一室 研究員

報告書(PDF)

2019-HN-DE-035-H29-報告書
2019-HN-DE-035-H30-報告書

2019-HN-DE-035-評価指標案英訳版

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report