位置決め技術 ナビゲーション医療機器の位置的性能の品質担保に関する 開発ガイドライン 2010

ガイドラインID 2010-E-DE-010
発出年月日
発出番号
WG名 ナビゲーション医療分野 (位置決め技術)開発WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 医療機器
分野

ナビゲーション医療

GL日本語版ファイル

2010-E-DE-010 位置決め技術ナビゲーション医療機器の位置的性能の品質担保にかんする開発ガイドライン2010

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. 序文
1.1. 目的

ナビゲーション品質に関するガイドラインナビゲーション医療機器の位置的性能の品質担保に関するガイドライン(以下、本ガイドライン)は、ナビゲーション医療分野における医療機器の「位置的なナビゲーション」のクオリティの品質担保に関する設計論開発指針を示すものである。

【解説】 本ガイドラインは万能の正解を示すものではなく、原則的な考え方とその応用のやり方、より詳しい情報の入手の仕方を示すことに重点を置いて作成した。
本ガイドラインは薬事法上の承認基準のように、基準に適合することで承認等を約束するものでない。また、開発した機器が本ガイドラインに適合することで、その機器の有効性や安全性を保証するものではない。逆にこのガイドラインに適合しないことが、ただちにその機器の有効性安全性、性能、効能効果などを否定するものでもない。

1.2. 想定する利用者

本ガイドラインは、ナビゲーション医療機器の製品化を企画する企業技術者、その基礎的研究を行う研究者および大学専門課程以上の学生、大学や医療機関において、その臨床研究を企画する研究者、臨床研究を行うための審査を行う倫理審査委員を想定する利用者とするPMDAも審査の参考にすることができる。また、ナビゲーション医療機器の操作者の教育にも利用できる。

【解説】 本ガイドラインを理解して実施するには、設計者にあっては、リスクマネジメントやデザインレビューなどに関する医療機器の設計開発の経験があれば有用であろう。基礎研究者にあっては、機器と人間(医師)の役割分担を最適化する高いバランス感覚を持つことで優れた機器の創案をリードする役割を期待する。臨床研究の倫理審査の委員にあっては、審査において技術の水準の参考として、また TRE やディペンダビリティなどの概念や機械と操作者の役割分担について、ナビゲーション医療機器の操作者の教育に本ガイドラインを活用されることを期待する。

1.3. 本ガイドラインの適用される医療機器

「2.1」に定義するナビゲーション医療機器

1.4. 本ガイドラインの適用される開発段階

企画、研究開発、試作、製品開発から薬事法上の承認申請までの開発段階で本ガイドラインを用いることができる。

【解説】 このガイドラインは主としてナビゲーション医療機器のリスクマネジメントとデザインレビューで活用されることを期待している。リスクマネジメントは一回行えば済むものでなく、継続的反復的に実施されるもの物であるから、その都度このガイドラインの内容を参考にしていただければ幸いである。

GL:本体

2. 定義

2.1. ナビゲーション医療機器 (navigational device)

ナビゲーションを行う目的で使う精密手術用機器あるいはその部分

【解説】 手術ナビゲーションシステムや画像誘導手術ロボットシステムなど。

2.2. ナビゲーション医療機器システム (navigational system)

ナビゲーション医療機器と、これを運転(操作)する人を含めた系

【解説】 本ガイドラインでは、リスクマネジメントを機器単体で行うよりも、機器とこれを運転(操作)するプロフェッショナルとしての医師 を含む系(システム)全体で行うべきとの立場に立つ。そこで、マン—マシンシステムの品質担保とその設計指針を論じる。

2.3. 精密手術用機器 (devices for precision surgery)

計測、解釈、情報提示あるいはエネルギー作用を行う処置あるいは治療用システム(あるいはその一部)で、その主要機能が位置および/または時間情報に関連付けられていることを特徴とし、主要機能を位置/時間情報に関連付けて記録可能で、精密・迅速・高品質の手術支援を行うことを目的とするもの。

【解説】 ナビゲーション医療分野 開発ガイドライン(2007)より。元は日本コンピュータ外科学会のガイドラインの定義による。

2.4. ナビゲーション品質 (quality of navigation)

ナビゲーション医療機器が、「その提供するサービスが期待通りに機能すること」の度合い。

【解説】 括弧内は、情報システムなどの分野でのディペンダビリティの定義である。参考:IFIP WG10.4 n DEPENDABLE COMPUTING AND FAULT TOLERANCE
The notion of dependability, defined as the trustworthiness of a computing system which allows reliance to be justifiably placed on the service it delivers, enables these various concerns to be subsumed within a single conceptual framework. Dependability thus includes as special cases such attributes as reliability、 availability、 safety、 security. http://www.dependability.org/wg10.4/

2.5. (ナビゲーション医療機器システムの)ディペンダビリティ (dependability of navigational system))

ナビゲーション医療機器システムが、ナビゲーション品質を維持する仕組みを持っていること。

【解説】 本ガイドラインではナビゲーション品質をシステムとして(機器だけでなく)これを操作するプロフェッショナルとしての医師を含む系全体で維持する仕組みを重視した。従って「仕組み」には機械装置やプログラムだけでなく、装置運転操作者による操作なども含む。

2.6. 標的位置誤差 (Target Registration Error、 TRE)

実際に位置合せしたい手術において位置を知るべき標的位置(target)における誤差

【解説】 計測とは既知の基準との比較である。ナビゲーション医療機器における位置計測も、既知の基準物(物差しや計測用マーカ、画像など)を検出し、これを元に患部(標的)の位置を間接的に得ている。しかし、真に知りたい位置はこれらではなく患部のそれである。標的点の位置計測の持つ不確かさは、計測用マーカ、計測用ポインタ、画像などのもつ位置計測の不確かさを累積したものとなる。
画像との位置合わせを行うナビゲーション医療機器の場合、画像の不確かさを含めて評価しなければならないが、普通は画像装置とナビゲーション装置を組み合わせてシステムとして提供することはしないため、ナビゲーション医療機器だけでは TRE を求める規定とすることができない。一般に、使用環境を規定しないと TRE を求めることはできない。しかしこれでは機器の性能を記述するのが困難になってしまうので、次の単体標的位置誤差を定義する。

2.7. 単体標的位置誤差 (stand-alone Target Registration Error)

ナビゲーション医療機器の標準状態における標的位置誤差。単体TRE

【解説】 ナビゲーション医療機器のみで TRE を求めるために、系統誤差が無視できる程度にコントロールした条件で、設計した使用手順に沿って評価して得られる TRE である。ただし臨床実態からかけ離れた条件にしては意味がない。
Fitzpatrickはn個の基準点の位置計測が持つ誤差(基準位置誤差)が等方性の正規分布を持つ場合に、標的位置誤差を数学的に推定する方法を提案しており、ナビゲーション医療機器の誤差の評価方法として現在広く用いられている (FitzpatrickのTRE)。

3. ナビゲーション医療機器システムの性能担保の基本的考え方

3.1. ディペンダブルであること

1) ナビゲーション医療機器システムの性能担保の手段としては、ディペンダブルであること(ディペンダビリティ)は非常に有効であることが強く望まれる。
2) ナビゲーション医療機器システムのディペンダビリティその条件は次の二項を満たすことである。
i) ナビゲーション品質の可視化手段を備える。
ii) ナビゲーション品質の回復手段を備える。

【解説】 ディベンダビリティとは、システムの提供するサービスを「信用して良い」と確信して使えることである。
(例)
「手術のターゲットはある動脈である。2cmほど離れた所に、よく似た別の動脈があることが解剖学的に分かっている。手術中、動脈が見えているが、今見えているのはターゲットか」
この問題を解決するためには、「間違いなく高々 1cm以下の不確かさを持つ測定値」が必要である。すなわち、不確かさはかなり大きくても構わないが、万が一にも大間違いをしていないことを外科医が信じられる、ということが必要である。

不確かさを見積もることは統計学で可能であるが、「間違いなく」おさえることは統計学で困難である。

情報システムの分野では、システムがノンストップでサービスを提供することを重視している。このため、システムの維持とその仕組みがマンレスであることが望ましいとされ、オペレータ運転者の気づきなどに依存したシステムは信頼性を欠くものと受け止められている。

一方、ナビゲーション医療機器において回避すべき最も重大な問題は、可用性の維持ではなく、「間違った情報に基づいて手術を進めた結果、挽回困難な状況に陥ること」である。手術は連続で一日を超すことは例外的であり、これを人(医師)の主導のもとに行うので、マンレスであることも連続運転可能なことは first priority ではない。この違いのため、情報システムの分野とは、ディペンダビリティとそれを支える仕組みが異なってくる。 ●ナビゲーション品質の可視化手段:「信用して良い」と確信できるためには、システムは、信じるための根拠を操作運転者に提供しなくてはならない。また、 提供されたものが根拠たりうるためには、「信用して良い」という信念が正しくなくなったときにはすぐにそれと分かるように提供されることが必要である。一方、「信用して良い」かどうかの判断は用途や状況によって異なる。同じシステムを使っていても、1mm以下の不確かさを要求する場合もあるが、1cm 以下の不確かさで十分な場合もあるからである。そこで、「信じるための根拠」を不確かさの程度が分かるように提供すれば、操作運転者は用途に応じた柔軟な判断ができる。
●ナビゲーション品質の回復手段:「信用して良い」とは言えなくなった場合には、少なくとも、ナビゲーションシステムの使用を諦めるという選択肢がある。それしか選択肢がないシステムは、いつ使用を諦める事態になるかも分からないのだから信用できるとは言えない。すなわち、信用できるためには、使用中に随時、比較的簡単な操作によって「信用して良い」と言える状態を回復する手段をシステムが備えていることが必要である。ナビゲーション医療機器では、回復手段は主に通常、キャリブレーション(較正)あるいはレジストレーション(位置合わせ)をやり直すことである。

3.2. 誤差の考え方・扱い方
3.2.1. 「精度」を性能表記で使うのは避ける

「精度」という用語を機器の性能表記で用いることは避けるべきである

【解説】 JIS Z8103「計測用語」(ISO 3534 : Statistics - Vocabulary and symbols)では、「精度」を「測定結果の正確さと精密さを含めた測定量の真の値との一致の度合い」としている。この定義は正確さと精密さの両方を区別しないまま含む概念であるため、機器の性能表記に用いると曖昧になる。
例えば、「精度1mm以上」という場合、1mmより良いことなのか悪いことなのか、意味不明である。また、1mm程度に正確なのか、データのばらつきが1mm程度の中に収まっているのか(正確さが1mm程度なのかとは別)も判らない。
このような曖昧さを回避するため、再現性や平均誤差により示す方が良い。

なお、「精度」という表現を一律に止めるように要請しているわけではない。Wikipedia では「一連の個々の測定/値/結果における許容できる程度を示す用語」と表記している。実際の「精度」という言葉の使用もこの意味で用いられていることが多い。技術用語としての定義を附録に収録する。
3.2.2. ナビゲーション医療機器の性能表記

ナビゲーション医療機器の誤差に関する性能は、単体TREの平均二乗誤差で表記することができる。

【解説】 「通常の使用状態」とは、系統誤差が無視できる程度にコントロールした状態で、設計した使用手順に沿って使用する状態を指す。これが、その機器における「標準状態」(JIS Z8103「計測用語」の用語)となる。単体 TRE は、系統誤差が無視できる程度にコントロールした条件で、設計した使用手順に沿って評価して得られる TRE である。ただし、臨床実態からかけ離れた条件にしては意味がない。

ナビゲーション医療機器の使用手順の設計に当たっては、TREが患者の体格などに左右されることをなるべく避けるように設計することを推奨する。そのように設計されていれば、その機器の性能が患者群に依存しないことを臨床評価などによらずに説明可能となる。
具体的には、レジストレーション時のマーカ位置が患者の体格等に依存しない(フレームなど一定の大きさの物にマーカが付いている、マーカを患者に貼付する際は、患部から一定の距離や配置にすること)である。
別の方法として、患者群を規定して最も厳しい条件を想定して、その場合の TRE によって性能を表記する方法がある。この場合、その条件を逸脱する患者を適用から除外しなければならないといった非現実的な運用を求めねばならず、お奨めできない。

3.2.3. 偶然誤差の担保だけではナビゲーション品質の担保とならない

性能表記が、標準状態における偶然誤差のみを考慮したものであり、実際の使用条件下では様々な系統誤差要因が存在しうること、その対策としてナビゲーション品質の可視化手段と回復手段が提供されていることを情報提供すること。

【解説】 統計的に表現できる誤差は偶然誤差までであり、これ単独では実用にならない。ナビゲーション医療機器の実用面で問題となるのはもっぱら系統誤差であり、これを TRE の概念を使って予想することはできない。一部の系統誤差は、原理的には計測器を増やすなどの手段により対策可能であるが、コストが便益以上に増加して、現実的対策といえない。
この問題をカバーするために、ナビゲーション品質の可視化手段が提供されており、それらに適切に対応することが使用者の責務であることを情報提供すること。
例1: 脳神経外科手術にて、ブレインシフトが生じた結果、機能領野などが術前の断層画像と異なる位置に移動した。
例2: レジストレーションの際にピックすべきマーカの順番を間違えた。
例3: レジストレーションに用いたマーカが手術の進行に伴って、外さざるを得なくなった。  

4. 設計指針
4.1. マンマシンシステムとしてのシステム設計

1) ナビゲーション医療機器の開発に当たっては、機器単体でなくナビゲーション医療機器システムとしてデザインレビュー、リスクマネジメントおよびデザインレビューを行うべきである。
2) ディペンダビリティは、設計段階において機器の使用方法を含んだ形での実現を含めて検討しなければならない。

【解説】 本ガイドラインではナビゲーション品質をシステムとして(機器だけでなく)これを操作するプロフェッショナルとしての医師を含む系全体で維持する仕組みを重視する。開発者は設計段階にて、
1) ナビゲーション品質を可視化あるいはその他の術中に合理的に実施可能な(判断基準を使用者自身が説明できる)方法で使用者に呈示する、あるいは検出させる手段、
2) ナビゲーション品質を回復する術中に合理的に実施可能な手段、の提供を検討しなければならない。

良くある失敗は、基本設計機能試作が終わってから後付け(retrospective)に設計にディペンダビリティの解釈を加えること、後付けでディペンダビリティを持たせようとすること、後付けで機器の使用方法にディペンダビリティのための変更を加えることは、避けるべきであるで、結局設計のやり直しなどにつながってしまう。

4.2. マンマシンシステムとしてのリスクマネジメント

リスクマネジメントでは、ナビゲーション医療機器システムとしてディペンダビリティが確保できているかどうかを評価する。具体的には、
1)ISO 14971 (JIS T14971) 6,3 節の「リスクコントロール手段の実施」において、ディペンダビリティの可視化手段と回復手段を、注意喚起ではなくリスク低減手段として適用できる。
2)そのために、ディペンダビリティの可視化手段および回復手段の成立条件と操作者の果たす役割について開示教育する。

【解説】 ナビゲーション品質の可視化手段、ナビゲーション品質の回復手段が、目的とする術式とその環境の中で合理的な手段であることを、他の既知の幾つかの手段と比較して検討する。これをリスクマネジメントプロセスに組み入れて実施する。ナビゲーション医療機器システムはマンマシンシステムであるから、リスクマネジメントもマンマシンシステム全体としてリスク評価、リスクコントロールを行うべきである。機械システムの不具合と対策と言う観点のみでリスク評価とリスクコントロールを行うと、ナビゲーション品質の可視化は操作者への注意喚起と見なされ、リスク低減効果を持たない。

現行のISO14971では、機械システムの完全化によって安全を達成しようとする傾向がある。結果として、プロフェッショナルとしての医師が常識的に備えている危険回避能力に重きを置かない傾向があり、誤って解釈すると過度な安全メカニズムをつけることによるコスト増や、残留リスクのみを見て経営トップが企画中止を決断するなどの事態に繋がりかねない。

外科医の危険回避能力の本質は、神業的高度なテクニックにあるのではなく、「高度神業的なテクニックや機器の信頼性、可用性に依存するほかに手段がない状況に陥ること」(クリティカルポイント )を事前に回避することにある。何でも外科医の危険回避能力に依存する製品は市場が受け入れないが、これを過小評価する製品も市場で生き残れない。

マンマシンシステムとしてディペンダビリティが確保されているならば、事象発生の確率が下がるはずであり、ディペンダビリティの概念を導入する積極的理由となる。

なお、本ガイドラインではこの考え方に立ったFMEAシートの例を附録している(附録3)。その FMEA シートでは、機械単体の FMEA プロセスと、ナビゲーション医療機器システムとしてのFMEAプロセスの2段階のFMEAプロセスとなっている。

GL:付属資料

5. 附録

5.1 付属1:ナビゲーション医療機器に関連して起こる可能性があるハザードおよび関連する要因の例

ナビゲーション医療機器のナビゲーション品質を損なう可能性があるハザードと関連する
要因に関してのリストを示す。ただし、すべてを網羅しているわけではない。

画像計測のハザードおよび関連する要因 画像ボケ 患者変形 画像歪み
マーカ像誤認 標的位置誤差
マーカ像認識誤差

Registrationのハザードおよび関連する要因 マーカずれ 対応誤り 患者変形

測定操作のハザードおよび関連する要因 不適正計測作業 ポインタ変形
計測結果読み取りミス

患者操作のハザードおよび関連する要因 マーカ喪失 患者変形 マーカずれ

2次マーカのハザードおよび関連する要因 マーカずれ 患者変形
外挿による誤差拡大
位置計測器のハザードおよび関連する要因 不適正設置 較正誤差 較正ミス
装置内部誤差 熱による 衝撃による

5.2 付録2:ナビゲーション品質の可視化手法、回復手法の典型例
これらは、参考のために付されたものであり、各事例にとって最適な方法であるとは限らない。

【事象】骨切りの際に、骨の別の部位に装着してあるマーカがゆるんで外れかかった
【可視化手段】
・ナビソフトウェア上で、マーカ消失を可視化
【回復手段】
・術中の2次マーカの新規配置による計測
・冗長に配置したマーカによる計測
【コメント】
マーカを予め4個以上固定してその冗長性により、回復手段をとらずに済ませる方法もあるが、骨に直接マーカを固定する場合は、マーカを増やすほど侵襲を増やしてしまうので、必ずしも良い策ではない。一方、術中にマーカを取り付け直すことは手術の円滑な進行を妨げる。
そこで、マーカのゆるみがどれ位の頻度で起こるかによって、マーカを増やして冗長度を高めるのか、ゆるみの都度マーカを取り付け直したうえ、レジストレーションするのかを選ぶべきである。

【事象】セグメンテーションを間違ってしまった
【可視化手段】
・冗長なプラン情報の可視化
【回復手段】
・術中のプラン修正
【コメント】
冗長なプラン情報作成が負担にならないよう留意すること。【事象】ナビゲーションに使用する画像撮影時と実際にナビゲーションを行う際のそれぞれの姿勢が異なってしまった骨切りの際に骨の別の部位に装着してあるマーカがゆるんで外れかかった
【可視化手段】
・レジストレーション時の矛盾を可視化
【回復手段】
・術中のプラン修正

【事象】マーカまたはメルクマークを誤認識してしまった骨切りの際に、骨の別の部位に装着してあるマーカがゆるんで外れかかった
【可視化手段】
・レジストレーション時の矛盾を可視化
【回復手段】
・術中のプラン修正

【事象】画像の解像度が不確かさを持ってしまった骨切りの際に骨の別の部位に装着してあるマーカがゆるんで外れかかった
【可視化手段】
・レジストレーションを冗長にすることで、レジストレーションの不確かさを可視化
・画像の解像度の不確かさに起因するナビゲーション品質の不確かさを可視化
【回復手段】
・術中のプラン修正

【事象】画像の歪み・歪み補正が不確かさを持ってしまった骨切りの際に骨の別の部位に装着してあるマーカがゆるんで外れかかった
【可視化手段】
・ レジストレーションを冗長にすることでレジストレーションの不確かさを可視化
・ 画像の歪み・歪み補正の不確かさに起因するナビゲーション品質の不確かさを可視化
【回復手段】
・術中のプラン修正

【事象】マーカもしくはメルクマークの位置測定が不確かさを持ってしまった骨切りの際に骨の別の部位に装着してあるマーカがゆるんで外れかかった
【可視化手段】
・レジストレーションを冗長にすることで、レジストレーションの不確かさを可視化
・位置計測の不確かさに起因するナビゲーション品質の不確かさを可視化

【回復手段】
・術中のプラン修正

【事象】マーカが取り付けられた部位と、術野との位置関係が変化してしまった骨切りの際に、骨の別の部位に装着してあるマーカがゆるんで外れかかった
【可視化手段】
・冗長に配置したマーカの情報を可視化
・2種類以上の情報の重畳表示による可視化
【回復手段】
・術中のシステム調整
 キャリブレーションを随時行う
 レジストレーションを随時行う

【事象】レファレンスユニットの患者への取り付けが緩んでしまった骨切りの際に、骨の別の部位に装着してあるマーカがゆるんで外れかかった
【可視化手段】
・冗長に配置したマーカの情報を可視化
・2種類以上の情報の重畳表示による可視化
【回復手段】
・術中のシステム調整
 キャリブレーションを随時行う
 レジストレーションを随時行う

【事象】画像上のマーカと患者上のマーカの対応付けを誤ってしまった骨切りの際に、骨の別の部位に装着してあるマーカがゆるんで外れかかった
【可視化手段】
・冗長に配置したマーカの情報を可視化
・2種類以上の情報の重畳表示による可視化
【回復手段】
・術中のシステム調整
 キャリブレーションを随時行う
 レジストレーションを随時行う【事象】リファレンスユニットを取り付けた手術フレーム等と、患者の位置関係が狂ってしまった
【可視化手段】
・冗長に配置したマーカの情報を可視化
・2種類以上の情報の重畳表示による可視化
【回復手段】
・術中のシステム調整
 キャリブレーションを随時行う
 レジストレーションを随時行う

【事象】皮膚マーカの計測が不確かさを持ってしまった
【可視化手段】
・冗長に配置したマーカの情報を可視化
・2種類以上の情報の重畳表示による可視化
【回復手段】
・術中のシステム調整
 キャリブレーションを随時行う
 レジストレーションを随時行う

【事象】術中に術野が変形してしまった
【可視化手段】
・ポインタ位置の計測から術野の変形程度を可視化
【回復手段】
・術中画像のup-date
・超音波計測などによる変形補正用補助的術中撮影
・術野へ配置したマーカでの計測

5.3 付録3:ナビゲーション医療機器システムのFMEAシート例

5.3.1 FMEAとは
FMEA(Failure Mode and Effects Analysis=故障モードとその影響解析)とは、事前に予想されるあらゆる故障モードを列挙し、その中から周囲への影響度の高い故障モードを抽出し、事前に対策を講じようとする信頼性解析の手法。


5.3.2 HFMEA(Health care FMEA)
米国の復員軍人患者安全センター(National Center for Patient Safety)で開発された。これは、工学系で用いられている FMEA に、①VA(Veterans Affair)が開発した RCA
(RootCause Analysis 共通原因分析)でのマトリクス評価法と、②FDA(米食品医薬品局)が開発した食品管理用のHACCP(Hazard Analysis Critical Control Point:危害分析・重要管理点)で使われている決定フロー(Decision tree)を取り入れたもの。

医療機器に関わる安全管理については、HFMEAの適応が望ましい。

5.3.3 リスクマネージメントの実施項目
(1) 質的・量的特性を明確にする
製品の質的特性(例えば、意図した使用、使用対象者、患者への接触の方法など)および量的特性(例えば、患者に接触する時間・頻度、患者に与えるエネルギー量、投与する物質の量など)を明確にする。
(2) ハザードおよびそこから発生する具体的な危険状態と危害を明らかにする
その製品が潜在的に持つハザードとそこから引き起こされる具体的な危害を決定する。
(3) 危害の重大さレベルを決定する
例えば、“大”、“中”および“小”の3 段階の重大さレベルの決定を行なう。
備考:ユーザのもつ知識、技術等によって回避、減少または無視できる危害に関しては、その危害の重大さレベルは、ユーザの視点で判断する。
HFMEA では、4 段階で死傷につながる、または損害が 25 万ドル以上の「破滅的」、不満足の程度の高い、または 10 万ドル以上の損失となる「大きい」、プロセスの修正で改善されるか、損失が1 万ドルから10 万ドル程度で「中程度」、患者さんが気が付かない程度の「小さい」で分類することが提案されている。

危害の重大さのレベル分類(例)
危害の程度 重大さのレベル
死亡または重い危害を起こす可能性がある 大
上記内容と下記の内容の中間 中
軽微で受容できる(無視できる) 小

(4) ハザードを明らかにする
危害を引き起こす具体的なハザードを明らかにする。
(5) 危害の発生頻度を決定する
発生頻度は、1 年間に何度か起こるもの(頻繁にまたはときどき発生する)、1 ~ 2 年に数回起こるもの(まれに発生する)、2 ~ 5 年にときどき起こるもの(ごくわずかに発生するかもしれない)、5 ~ 30年にときどき起こるもの(考えられないほど小さい)、の4 段階で評価することが推奨されている。

発生頻度の分類(例)
発生頻度 レベル
頻繁にまたはときどき発生する 3
まれに発生する 2
極わずかに発生するかも知れない 1
考えられないほど小さい <1

(6) リスクの大きさを推定する
前記(3)で決定した危害の“重大さレベル”および(5)で決定した発生頻度の“レベル” をマトリックスにした“表4 リスクの大きさ”によって、リスクの大きさを推定する。

リスクの大きさ分類(例)

発生頻度 3 B A A
2 C B A
1 D C B
<1 D D C
小 中 大
重大さのレベル

リスクの大きさ“A”は、設計上の対策によって、受容できるレベルまでリスクを低減する。“B”は、少なくとも警報手段、製造工程での対応などによって対策をする。“C”は、少なくとも取扱説明書、製品上の警告、注意等を表示することによって安全対策を講じる。
“D”は、何の対策も講じることなくとも受容できるリスクである。なお、A、B およびC 共に上記の対策を講じてリスクをD のレベルまで低減させる。

各リスクの大きさで要求した安全対策レベル(例)
リスクの大きさ 要求される最小限の安全対策レベル
A 設計上の対策
B 警報手段(音、光)、製造工程などによる対策
C 取扱説明書での注意の記載による対策注意銘板での表示による対策
D 対策不要

※(7) 対策案の立案、実施およびその結果を評価する
※(8) 対策によって新たなハザードが発生しないかを判断する
※(9) すべてのハザードが評価されているかを確認する
※(10) 残留リスクの全体的評価をする
※(11) リスクマネジメント報告書を作成する
※(12) 製造後に発生した重要な問題点を再評価する

※印:リスクマネジメントにおける作業のフローであるので説明を省略する。

5.3.4 FMEA(HFMEA)シートの例
上記の各実施項目で明確にした内容を踏まえ、リスク判断を実施する。

5.1. 附録4: 【精度】の辞書的定義

5.1.1. 広辞苑
精密さの度合・加工・測定・計算などの場合にいい、粗さ、ばらつきの幅、誤差などで表す。「―を高める」(広辞苑第五版、岩波書店、1998)

5.1.2. 機械工学便覧
測定結果の質は、精度(accuracy)あるいは確からしさで評価される。精度には系統誤差の小ささを表す正確さ(正確度、correctness)と、偶然誤差によるばらつきが小さいことを意味する精密さ(精密度、precision)の両方が含まれる。
また、測定精度には、同一条件での結果の繰返し性を評価する繰返し精度と、条件を変えての測定で得た同じ目的量の測定結果の再現性を評価する再現精度があり、区別して用いられる。
ここでの同一測定条件とは、測定環境、測定器(測定システム)、測定者、測定手順を同一にすることを意味する。測定者が測定結果に直接関与することの少ない現在の自動的な測定では、測定者の違いが測定条件の違いにならない場合もある。ただし、そのような場合でも、試料の準備や設置の段階で個人差が出ることも考慮しなければならない。
繰返しの計測による結果の違いが繰返し誤差と呼ばれる。人間の細心の注意をくぐり抜ける微妙な条件の違い、制御しきれない微小な環境の変動、センサのノイズレベルで左右される偶然誤差などが要因となって生じる比較的短い時間内でのシステムの不安定性、測定量の不安定性を評価する。
これに対して再現性は、異なる測定条件で同じ量を測定した複数の結果の一致する度合いを評価する。この複数の測定結果の違いを再現誤差と呼ぶ。ここで、条件として考えられるものには、測定原理、測定方法、測定器、測定者、測定手順、測定場所、測定環境がある。そのほか、十分な時間間隔をあけての同一システムでの測定結果の違いも再現性として評価することがある。いつ、誰が、どこで、どのような原理方法で測っても、同じ結果が出るということは、測定結果に対する信頼性を高める大切な要件である。再現牲は系統誤差の程度を評価し、過誤の存在を検知するうえで有効である。
一般に、原理や方法が異なる場合のように条件の違いが顕著であるほど、その結果に再現性があれば高く評価できる。測定原理が同じでも、測定器の製作者が異なれば結果の再現性に限界が生じる場合もあり、同じ製作者の測定システムを用いてもその設置環境が異なれば、やはり再現性に限界が生じることがある。
ナノメートル領域の表面微細形状などでは、原理が違うと結果も違う可能性が高くなる。原理が異なると、異なった物理量に依存する表面状態を介して形状を検出するためである。
このような場合、得た結果を用いる際の目的にかなった測定原理の採用が大切になる。 なお、再現性の一種であるが、測定対象、測定器、測定条件などを一度変更した後に、最初の状態に再び設定して改めて別の時期に測定を繰返した場合において、測定値が一致する度合いを反復性と呼んで区別することもある。(機械工学便覧 デザイン編 β5 計測工学、日本機械学会、2007.12)

5.1.3. 工業大事典
精度の英文はprecision、ただしaccuracyは本来「かたより」であるが、これを精度と誤用しているものが多い。1つの母集団から同じサンプリング法でくり返しサンプリングしたとき、あるいは同一のまたは均一な試料を同じ測定法でくり返し測定したときのデータの分布の「ばらつき」である。母集団の平均値を推定するときには試料の平均値のばらつき方である。一般に完全なランダムサンプリングが行われているときのばらつきがサンプリングの精度で、同一のまたは均一な試料をくり返し測定するときのばらつきが測定の精度である。普通にいわれている誤差とはかたより(正確さ)、精度、信頼性を含めたもので、これらは区別されるべきものである。
精度をあらわす方法には、次のようなものがある。(1)標準偏差、(2)分散、(3)変動係数、(4)範囲または平均範囲、(5)最大範囲、(6)信頼区間の幅。
これらのうちいずれを用いるかは目的、経済的・技術的見地によって異なるが、いずれであるかははっきり示しておかないと混同する恐れがある。とくに平均値や総計などの精度を示すときには信頼度を決めて信頼区間の幅、標準偏差、あるいは分散がよく用いられる。
母平均µ、母分散σ2なる母集団からランダムにサンプリングされたn個の試料の平均値
x の標準偏差はσであるから、 x を用いたときの母平均の推定の標準偏差はσである。
nn
たとえば母分散σ2 =1であるとき、大きさn =4なる試料の平均値で母平均を推定するとき
σ 1
の推定の精度(標準偏差)は、 = である。推定の標準偏差の大きさによってその推定 n 2
量の効率を比較することができる。
サンプリングで平均値や総計を問題にするとき、たとえば入荷したボトルの不良品の総計、石炭の灰分や薬品などの不純分の平均値などを信頼度99%で±1%の精度で知りたいというように用いられる。これは測定値から求められた総計、平均値の推定値±1%内に真の総計、あるいは平均値があるといえばあたる確率が99%ということである。
精度をよくするかあるいは信頼度を大きくすれば試料の大きさが大きくなるのが普通であるが、層別サンプリングでは推定の精度は層内のばらつきのみにより決まり、層間のばらつきには関係しないから、層間のばらつきをできるだけ大きくするような層別をするとよい。また、集落サンプリングでは推定の精度は層間のばらつきのみにより決まり、層内のばらつきには関係しないから層内のばらつきをできるだけ大きくするように集落を作るなど、推定の精度をよくするいろいろな工夫が行われている。また、副次サンプリングの場合にはサンプリング、推定およびデータ整理の費用を一定にしておいて精度を最もよくするサンプリング法、あるいは精度を所要精度にしておいて費用を最も小さくするサンプリング法が考えられる。(工業大事典 10、平凡社、1961)

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 伊関 洋 東京女子医科大学大学院 先端工学外科学分野 教授
佐藤 嘉伸 大阪大学大学院 医学系研究科 准教授
光石 衛 東京大学大学院 工学系研究科 教授
浅野 武夫 オリンパス株式会社 研究開発センター研究開発企画部 企画グループ グループリーダー
南部 恭二郎 東芝メディカルシステムズ株式会社
研究開発センター戦略開発部 戦略企画担当主査
山梨 渉 日本メディカルマテリアル株式会社
メディカル事業本部 設計開発部システム開発課 責任者

報告書(PDF)

2010-E-DE-010-H21-報告書
2010-E-DE-010-H20-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

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