三次元積層造形技術を用いたコバルトクロム合金製人工関節用部材の開発ガイドライン2017

ガイドラインID 2017-E-DE-037
発出年月日
発出番号
WG名 体内埋め込み型材料 積層造形医療機器開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 医療機器
分野

体内埋め込み型材料

GL日本語版ファイル

2017-E-DE-037 三次元積層造形技術を用いたコバルトクロム合金製人工関節用部材の開発ガイドライン2017
※経済産業省のホームページに掲載無し(2021年4月5日現在)

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. 序 文
三次元積層造形技術は、製造技術の急速な進展に伴い、従来の鋳造技術に代わる新たな製造技術及び患者の骨格構造に最適な製品(カスタムメイド製品)の製造技術として期待されている。カスタムメイドインプラントに関しては、次世代評価指標「整形外科用カスタムメイド人工股関節に関する評価指標」、「整形外科用カスタムメイド人工膝関節に関する評価指標」、「三次元積層技術を活用した整形外科用インプラントに関する評価指標」、「患者の画像データを用いた三次元積層技術によるカスタムメイド整形外科用インプラント等に関する評価指標」等が策定されており、医療機器製造販売申請が可能な状況にある。また、開発の効率化・迅速化の観点からは、開発の手引きとして、高生体適合性(カスタムメイド)インプラントの開発ガイドラインが作成されている(詳細なタイトル等は、5. 関連する次世代評価指標、審査ガイドライン及び開発ガイドライン等を参照)。
本ガイドラインは、製造技術が新しく、三次元積層造形技術に関する基礎データが不足していることを考慮して、新規性の高い製品開発に参考となる力学的安全性データの取得方法等を一例として示し、コバルトクロム合金製人工関節部材等の開発・製造の迅速化・効率化に役立つことを目的として作成した。

2. 適用範囲
臨床的にカスタム化が求められるインプラントの種類を表 1 に示す。本ガイドラインは、 Co-Cr-Mo 合金粉末を用いた三次元積層造形技術により、例えば、図 1 及び図 2 に示すような人工肩関節上腕骨コンポーネント、人工肘関節上腕骨コンポーネント、人工指関節中手骨及び基節骨コンポーネント、人工足関節脛骨コンポーネント及び距骨コンポーネント、人工大腿骨頭アウターヘッド及び大腿骨ステム、人工股関節大腿骨ステム並びに人工膝関節大腿骨コンポーネント等の人工関節用部材の開発促進に有用な考え方を示すことを目的としている。
大きな荷重負荷がかかり大関節に分類される人工膝関節置換術(大腿骨コンポーネント
等)及び高齢者の骨折治療で急増している人工大腿骨頭置換術(挿入術)(Bipolar Hip
Arthroplasty: BHA, Femoral Head Prosthetic Replacement)を中心に力学的安全性評価等を例示する。上肢人工関節、人工股関節、人工膝関節及び人工足関節のカスタム化のイメージに関しては、高生体適合性(カスタムメイド)上肢人工関節開発ガイドライン 2015(手引き)、高生体適合性(カスタムメイド)人工股関節の開発ガイドライン 2012、高生体適合性(カスタムメイド)人工膝関節の開発ガイドライン 2012、高生体適合性(カスタムメイド)人工足関節開発ガイドライン2015(手引き)及び積層造形医療機器開発ガイドライン2015(総論)(手引き) が参考となる。
なお、本開発ガイドラインは、製品開発の迅速化・効率化を目的としており、本ガイドラインを基に実施予定の試験方法等について、医療機器製造販売承認申請に利用する場合には、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の対面助言等を通じて、その妥当性を確認することが推奨される。

表 1 カスタム化が求められるインプラントの種類

図 1 コバルトクロム合金製人工関節部材の例

図 2 人工膝関節大腿骨コンポーネントのカスタム化の例

GL:本体

3. 三次元積層造形プロセス
3.1 三次元積層造形プロセス
三次元積層造形技術を用いてインプラントを製造する場合のプロセスの例を図 3、図 4
及び図 5 に示す。骨形状データの撮影条件の例を参考として附属書 B に示す。

① 目的とするインプラントの三次元形状設計
・ CT、或いは MRI 等のデータから骨形状データをコンピュータ上に構築し、骨形状に最適なインプラントの三次元形状を設計
② 積層造形前の形状データの処理
・ 形状データの修正、造形時の配置・姿勢の決定、サポート生成などの造形に必要な前処理
・ 多孔体構造、三次元網目構造など積層造形で実現する形状の最適化
③ 積層造形装置にて造形
④ 表面研磨や熱処理等の仕上げ処理

図 3 三次元積層造形技術のプロセスの例

図 4 従来の鋳造技術と三次元積層造形技術の工程比較

図 5 人工膝関節大腿骨コンポーネントの三次元積層造形プロセスの例

3.2 患者データの取得から積層造形プロセスにおいて考慮すべき項目
(1) 患者の画像データを用いた三次元積層技術によるカスタムメイド整形外科用インプラント等に関する評価指標(平成 27 年 9 月 25 日付け薬食機参発 0925 第 1 号厚生労働省大臣官房参事官通知「次世代医療機器・再生医療等製品評価指標の公表について」別紙 3)、及び(2) 三次元積層技術を活用した整形外科用インプラントに関する評価指標(平成 26 年 9 月 12 日付け薬食機参発 0912 第 2 号厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当)通知「次世代医療機器・再生医療等製品評価指標の公表について」別紙 3 等を参考とした場合の、患者データの取得から積層造形プロセスまでにおいて、考慮すべき項目を表 2 に示す。

表 2 患者データの取得から積層造形までの造形プロセスにおいて考慮すべき項目

3.3 積層造形材の安全性評価のポイント
三次元積層技術を活用した整形外科用インプラントに関する評価指標(平成 26 年 9 月 12 日付け薬食機参発 0912 第 2 号 厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当) 通知「次世代医療機器・再生医療等製品評価指標の公表について」別紙 3)及び薬食機発第 0306004 号(平成 21 年 3 月 6 日)厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長「人工膝関節の審査ガイドラインについて」を参考とした場合の人工膝関節大腿骨コンポーネントに対する安全性評価のポイントを表 3 に示す。
急増する高齢者の骨折患者に使用される人工大腿骨頭置換術(BHA)に関しては、人工股関節全置換術(THA)との相違点及び人工大腿骨頭置換術で必要となる特性等を附属書 A に示す。人工肩関節上腕骨コンポーネント、人工指関節中手骨及び基節骨コンポーネント等に関しては、力学的負荷は小さくなる。

表 3 大腿骨コンポーネントの安全性評価のポイント

4. 力学的安全性等の評価の一例
製品開発等の促進のため、力学的安全性評価等に関する考え方、及び事務局が中心となり実施した実証試験結果を以下に示す。

(1) 金属粉末
Co-Cr-Mo 合金等の粉末粒子は、造形装置と造形物によって異なるが、レーザー積層造形の場合の球形の粉末粒子径では、45μm 以下が主に用いられている。金属粉末の粒度分布の表記例を表 4 に示す。また、レーザー積層造形用 Co-Cr-Mo 合金製粉末(XSP3)のイメージ及び粒度径分布の測定例を図 6 に示す。さらに、積層造形用金属粉末粒子径分布の測定方法を附属書 C に示す。Co-Cr-Mo 合金製粉末の価格は、鍛造材の 1 kg 当たりの単価以下となる傾向にあり、粉末の再使用回数も 20 回程度まで使用可能な状況になりつつある。

表 4 レーザー積層造形用金属粉末の粒子径分布の記載例

図 6 レーザー積層造形用 Co-Cr-Mo 合金製粉末のイメージ及び粒子径分布の例

(2) 化学成分
JIS T7402-1 では、コバルトクロム合金鋳造材の化学組成が示され、積層造形材でも同等の化学成分であることが期待される。
積層造形材と鋳造材の主成分元素と微量元素(質量%)の測定例を表 5(A 及び B の記号は図 7 参照) に示す。積層造形材と鋳造材での微量元素の差は、高感度の分析法を用いているため、原料等由来の元素が極くわずかに見られるが、耐食性、力学特性等に影響を及ぼす範囲に比べてかなり小さいと考えられる。

表 5 積層造形材と鋳造材の主成分元素と微量成分元素の測定例

主成分元素と微量元素の測定は、以下の方法により行った。
主成分元素の分析方法
Co、Cr、Mo、W:酸分解-誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法
C、S:燃焼-赤外線吸収法
O:不活性ガス搬送融解-赤外線吸収法
N:不活性ガス搬送融解-熱伝導度法
H:不活性ガス搬送融解-熱伝導度法

微量元素の分析方法
GD-MS(グロー放電質量分析法)

(3) ミクロ構造
積層造形技術では、転位等の欠陥密度及び内部エネルギーが高い状態となる場合が多い。縦方向に造形した造形材の横断面の光学顕微鏡組織及び透過電子顕微鏡組織を図7及び図 8に一例として示す。図中の A、B 及び C は、ISO 5832-4、ISO 5832-12、JIS T 7402-1 及び JIS T 7402-2 に規格化され、インプラント等広く用いられている化学組成に準じた粉末を用い、レーザー積層造形した結果を示している(以後、A~F の記号は同様)。C は、積層造形後、750℃で1時間保持後空冷する焼鈍熱処理を行った試料である。積層造形材 C の粉末組成は、Cr:28.23%、Mo:5.84%、Mn:0.50%、 Si:0.46%、C:0.01%以下、Fe:0.04、N: 0.06%、Ti: 0.01%以下、W: 0.01%以下、P: 0.01%以下、
Al: 0.01%以下、S: 0.01%以下、Ni:0.04%である。
積層造形材の光学顕微鏡組織は、整形外科用鋳造材(D)、鋳造材の焼鈍材(E)及び鍛造まま材(F)と異なっている。鋳造組織に比べて、積層造形材では、全体が溶融し均一にならないので方向性を持った組織が見られる。図 8 に示した積層造形材(A)及び積層造形材(B)の透過電子顕微鏡組織では、急冷凝固により微細な組織となり、その結晶粒界(粒界の 3 重点付近)には、析出物(窒化物等)が存在している。σ相(脆化相)等の析出防止の観点から、Cr 濃度 30%以下が推奨される。鋳造材では、炭化物の析出により摺動部の摩耗特性の改善効果及びσ相の生成防止のため、炭素が添加される場合がある。窒素添加は、延性の向上とσ相析出の防止を期待している。

図 7 積層造形材、鋳造材、鋳造材の焼鈍材、鍛錬材の光学顕微鏡組織の比較例

析出物を同定するため、電解液として 10%アセチルアセトン-1%塩酸-メタノール溶液及び 10%硫酸-メタノール溶液を用いて定電流電解し、介在物の抽出を試みた。抽出残渣の X 線回折結果を図 9 に示す。今回の抽出条件では、母相のγ相が抽出残渣に含まれており、図 8 に示した析出物は、今回の析出条件では、母相のγ相から十分に分離抽出されなかったと考えられる。

図 9 抽出残渣の X 線解析結果の例

(4) 耐食性
内部欠陥等を含み、金属イオンの溶出量が上昇することが懸念されるため、加速試験溶液を用いた評価が推奨される。
(a) 酸化皮膜の観察
Co-Cr-Mo 合金表面に形成された酸化皮膜の観察結果を図 10 に示す。Co-Cr-Mo 合金表面には、約 1 nm の厚さの酸化皮膜が見られる。酸化皮膜の観察では、試料最表面の酸化皮膜を保護するため、真空蒸着装置にてカーボン膜を、また FIB 加工装置にてタングステン膜をコーティングした。その後、FIB マイクロサンプリング法にて試料を切り出し、FIB 加工で薄片化し、透過電子顕微鏡において酸化皮膜の状態を直接観察した。

図 10 酸化皮膜の観察例

この酸化皮膜により、生体内での金属イオンの溶出が防止できる。酸化皮膜の特性は、溶出
(静的浸漬)試験及びアノード分極試験等により評価できる。

(b) 溶出(静的浸漬)試験
溶出(静的浸漬)試験は、JIS T 0304 等により規格化され、生体内の模擬環境下で、金属材料から溶出する金属イオンの定量的なデータを提供することを目的とした試験である。苛酷抽出の条件の一例を以下に示す。
· 試 験 溶 液 :1 mol/L 塩酸+0.9%塩化ナトリウム(pH=2.0)
· 試 料 の 数 :3 枚以上
· 環境及び期間:37±1 ℃等、7 日間±1h
· 浸漬溶液量:例えば、試験片(幅:2 cm、長さ:4 cm、厚さ:0.1 cm)1 枚当たり 50 mL
· 元 素 分 析 :化学組成が 1 質量%以上の元素の定量分析
· 溶出イオン量(μg/cm2/7d)の測定

上記の条件で測定した1週間当たりの溶出イオン量を表 6 に示す。鋳造材に比べて、積層造形材の溶出量(μg/cm2)は、少なくなっている。1週間当たりの希塩酸溶液(pH=2, 0.01% HCl)での
Co-Cr-Mo(Co:66 質量%, Cr:28%, Mo:6%)合金鋳造材の溶出量は、0.5μg/cm2 との報告(1)がある。

表 6 希塩酸及び希塩酸生理食塩水(pH=2)の溶出イオン量の比較

文献(1)Okazaki,Gotoh, Metal release from stainless steel, Co–Cr–Mo–Ni–Fe and Ni–Ti alloys in vascular implants, Corrosion Science 50 (2008) 3429–3438.

(c) 耐食性の電気化学的評価試験
生体内で使用する金属材料の耐食性を、電気化学的に評価する方法には、主に以下の 2 つの試験がある。その中では、アノード分極試験が広く行われている。
1) 動電位測定(アノード分極測定): JIS T 0302
2) 交流インピーダンス測定
樹脂包埋せずに薄板状試料を用いて測定できるアノード分極試験用セル等を図 11 に示す。図に示した試料ホルダーは、比較的高価なフラットセルに代わり今回作製したものである。この試料ホルダーの詳細は、附属書 D の末尾に示す。試料及びアクリルとガスケットの間には、ワセリンを塗布することで水分の侵入を防止できる。交流インピーダンス測定は、技術が新しいため、測定の原理等について附属書 D に示す。

図 11 アノード分極試験用セル等

(5) 機械的性質
JIS T 7402-1 に適合することが推奨される。実証試験で用いた力学試験片を図 12 に示す。積層造形方向は、縦方向とした。積層造形材、鋳造材、鋳造材の焼鈍材及び JIS T 7402-2 に準じた鍛造材の室温引張り試験結果の比較を表 7 に示す。

図 12 力学試験片の形状

JIS T 7402-1 では、0.2%耐力:450 MPa 以上、引張強さ:665 MPa 以上、破断伸び:8%以上とされている。積層造形材(3 条件)は、JIS T 7402-2 に規定されている鍛造材(熱間加工材)に近い機械的性質を示すことがわかる。
試験速度:0.2%耐力測定まで、0.5 %/min (ひずみ制御)
以降破断まで、3 mm/min (ストローク制御)

表 7 室温引張り試験結果(n=3~5)

(6) 疲労特性
内部応力の集中、内部欠陥等が含まれるため、疲労特性の把握が推奨される。大気中での疲労試験により得られた、積層造形材、鋳造材、鍛造材の S-N 曲線(縦軸に最大負荷応力(S)を等間隔目盛で、横軸に破断までの繰り返し数(N)を対数目盛で表示した曲線)の比較を図13に示す。
S-N 曲線において、疲労強度は、横軸に水平となる場合の最大負荷応力の値か、或いは 107 回の繰り返し数における最大負荷応力となる。図中の A~C はレーザー積層造形材の結果を示している。JIS T 7402 シリーズに準拠したインプラント用 Co-Cr-Mo 合金鍛造材及び Co-Cr-Mo 鋳造材(人工股関節ステム、D)の結果を△及び▲で示している。Co-Cr-Mo 合金の積層造形材は、鋳造品と比較して、107 回の疲労強度が高くなることがわかる。一方、繰り返しの急冷効果のみでは、鍛錬の効果が十分ではないため、鍛造まま材(F)よりは疲労強度が低くなる。
積層造形材は、直径 9 mm、長さ 50 mm の丸棒試料を縦方向に造形し、図 12 に示した同一形状の引張及び疲労試験片を作製した。疲労試験の条件は、JIS T 0309 に準じ、大気雰囲気中、サイン波を用いて、負荷応力(最小/最大)比=0.1、周波数 10 Hz の条件とした。比較のため、鍛造材及び鍛造後の焼鈍材の疲労特性を附属書 E に示す。

図 13 Co-Cr-Mo 合金の疲労特性(S-N 曲線)の測定結果

(7) 人工膝関節大腿骨コンポーネントの耐久性評価
人工膝関節大腿骨コンポーネントを用いた耐久性評価の治具の例を図 14 に示す。繰り返し荷重(荷重制御)による試験が一般的となる。試験冶具の検討のため、図 14(b)に示した冶具を用いた場合、大気雰囲気中、サイン波を用いて、負荷荷重(最小/最大)比=0.1、周波数 3 Hz の条件で耐久性試験が可能である。

図 14 大腿骨コンポーネントの耐久性試験治具の例

(8) 人工膝関節摺動部の摩耗特性評価
人工膝関節摺動面の摩耗特性は、ISO 14243-1, ISO 14243-2, ISO 14243-3 に準じたシミュレータ試験により評価できる。人工膝関節大腿骨コンポーネント積層造形材を用いた摩耗試験データは少なく、データの構築が待たれる。
オーストラリアレジストリー(Australian Orthopaedic Association National Joint Replacement
Registry Annual Report 2016 (AOA), https: //aoanjrr.sahmri.com) によると、最初の手術からの
10 年後の再置換率に及ぼす超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)に対するクロスリンク処理
(XLPE)の影響を考察できる。65 歳未満では、クロスリンク処理の影響が顕著にみられる(図 15 参照)。特に、再置換の第一の原因であるゆるみ/骨溶解の減少には、クロスリンク処理が効果的となる。

図 15 最初の人工膝関節手術からの経過年数における再置換率に及ぼすクロスリンク処理の影響

(9) 生物学的安全性
整形インプラント分野の生物学的安全性の評価試験の項目を表 8 に参考として示す。積層造
形材の生物学的安全性の評価試験データは少なく、データの構築が待たれる。
「医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス 第 2 部 感作性試験」(平成 24 年 3 月 1 日付け薬食機発 0301 第 20 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査室長通知「 医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」別添)において、金属材料等を構成する金属のイオンとしての感作性が、適切な感作性試験によって既に確認されている場合には、あらためて試験を実施する必要はないとされている。また、加速試験の例として、酸(希塩酸など)による苛酷条件で抽出し、中和して(水酸化ナトリウムなどによる中和)pH を中性付近にした金属イオンと金属沈殿物微粒子から成る懸濁液について、感作性の強さを評価することが示されている。
金属イオンの溶出量及び耐食性の電気化学的評価等により、既承認品に比べて、溶出量及び耐食性が同等以上で、微量元素の著しい増加がなく、化学成分の量が規格値を満足する場合には、既承認品に比べて非劣性を示すことはなく、生物学的安全性は、許容範囲内にあると考えられる。

表 8 生物学的安全性の評価項目

GL:付属資料

5. 関連する次世代評価指標、審査ガイドライン及び開発ガイドライン等
参考となる次世代評価指標、審査ガイドライン及び開発ガイドライン等を下記に示す。
(1) 整形外科用カスタムメイド人工股関節に関する評価指標(平成 23 年 12 月 7 日付け薬食機発
1207 第 1 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知)別添 2
(2) 整形外科用カスタムメイド人工膝関節に関する評価指標(平成 24 年 11 月 20 日付け薬食機発 1120 第 5 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知)別添 1
(3) 三次元積層技術を活用した整形外科用インプラントに関する評価指標(平成 26 年 9 月 12 日付け薬食機参発 0912 第 2 号厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当)通知「次世代医療機器・再生医療等製品評価指標の公表について」別紙 3
(4) 患者の画像データを用いた三次元積層技術によるカスタムメイド整形外科用インプラント等に関する評価指標(平成 27 年 9 月 25 日付け薬食機参発 0925 第 1 号厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当)通知「次世代医療機器・再生医療等製品評価指標の公表について」別紙 3
(5) 人工膝関節の審査ガイドラインについて(平成 21 年 3 月 6 日)薬食機発第 0306004 号(厚生労働省医薬食品局審査管理課 医療機器審査管理室長)
(6) 人工股関節の審査ガイドラインについて(平成 21 年 3 月 6 日)薬食機発第 0306001 号(厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長)
(7) 積層造形医療機器開発ガイドライン 2015(総論)(手引き)平成 27 年 12 月公表
(8) 高生体適合性(カスタムメイド)人工股関節の開発ガイドライン 2012 平成 24 年 8 月公表
(9) 高生体適合性(カスタムメイド)人工膝関節の開発ガイドライン 2012 平成 25 年 3 月公表
(10) 体内埋め込み型材料分野高生体適合性(カスタムメイド)人工足関節の開発ガイドライン
2015(手引き)平成 27 年 3 月公表
(11) 高生体適合性(カスタムメイド)上肢人工関節開発ガイドライン 2015(手引き)平成 27 年 12 月公表参考規格
(1) JIS T 7402-1 外科インプラント用コバルト基合金-第1部:コバルト-クロム-モリブデン合金鋳造材
(2) JIS T 7402-2 外科インプラント用コバルト基合金-第2部:コバルト-クロム-モリブデン合金展伸材
(3) JIS T 0302 金属系生体材料のアノード分極試験方法
(4) JIS T 0304 金属系生体材料の溶出試験方法
(5) JIS T 0309 金属系生体材料の疲労試験方法
(6) JIS Z 8825 粒子径解析-レーザ回折・散乱法
(7) ISO 16428 Implants for surgery -- Test solutions and environmental conditions for static and dynamic corrosion tests on implantable materials and medical devices
(8) ISO 5832-4 Implants for surgery - Metallic materials - Part 4:
Cobalt-chromium-molybdenum casting alloy
(9) ISO 5832-12 Implants for surgery -- Metallic materials -- Part 12: Wrought cobalt-chromium -molybdenum alloy
(10) ISO 7207-2 Implants for surgery -- Components for partial and total knee joint prostheses
– Part 2: Articulating surfaces made of metal, ceramic and plastics materials
(11) ISO 14243-1 Implants for surgery -- Wear of total knee-joint prostheses -- Part 1: Loading and displacement parameters for wear-testing machines with load control and corresponding environmental conditions for test
(12) ISO 14243-2 Implants for surgery -- Wear of total knee-joint prostheses -- Part 2: Methods of Measurement
(13) ISO 14243-3 Implants for surgery -- Wear of total knee-joint prostheses -- Part 3: Loading and displacement parameters for wear-testing machines with displacement control and corresponding environmental conditions for test

附属書 A

人工大腿骨頭置換術(BHA)と人工股関節全置換術(THA)の相違点及び人工大腿骨頭置換術で求められる特性

A.1 人工大腿骨頭置換術(BHA)と人工股関節全置換術(THA)との相違点
転倒等を原因とする高齢者の骨折に使用される人工大腿骨頭置換術(Bipolar Hip Arthroplasty: BHA)は、急増し、人工関節全置換術の手術件数を上回る状況にある。そのため、人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty: THA)との相違点について示す。人工大腿骨頭置換術と人工関節置全換術の相違点を図 A.1 に示す。図 A.1(a)に示したように股関節は、大腿骨と骨盤で構成され、大腿骨の骨頭が、寛骨臼(骨盤のくぼみ)に入り込む構造となっている。骨頭と関骨臼の表面は、軟骨(弾力性のある組織)で覆われ、衝撃を吸収し、関節の摩耗を減らす滑らかな動きをする。人工大腿骨頭置換術では、図 A.1(b)に示すように、骨折等により大腿骨頭の温存が困難な場合に大腿骨頭のみを切除し、人工大腿骨頭に置換するもので、寛骨臼の機能、つまり、股関節の摺動機能は維持されている。
それに対して、骨盤側の寛骨臼を切除し、股関節全体を置換するのが、人工股関節全置換術である。人工股関節全置換術では、図 A.1(c)に示すように、寛骨臼コンポーネントが骨盤側に骨ねじ或いは骨セメント等で固定されているため、股関節摺動部の摩耗特性の評価が重要となる。

図 A.1 人工大腿骨頭置換術と人工股関節置全換術の相違点

A.2 人工大腿骨頭置換術(BHA)の摺動機構
人工大腿骨頭(バイポーラ型人工骨頭等)置換術は、主に大腿骨頚部骨折、大腿骨頭壊死等の症例に用いられる。アウターヘッド(カップ)と寛骨臼間の外部ベアリング、及び UHMWPE ロッキングベアリングインサートと大腿骨ステムヘッド間の内部ベアリングの二重式ベアリング(Dual bearing)機構を有している。また、人工骨頭の脱臼を防ぐため、ステムヘッドと UHMWPE ロッキングベアリングインサートは、分離しない構造となっている。整形外科手術手技書(キャンベル整形外科手術書 1 基本手技/関節固定術/関節形成術、総監訳・編集:藤井克之 東京慈恵会医科大学教授、エルゼビアジャパン)を参考に、バイポーラ型人工大腿骨頭の関節形成術(臨床的固定の工夫)を図 A.2 に示す。大腿骨ステムヘッドの中心(内部ベアリングの中心)位置を、アウターヘッド(カップ)の中心(外部ベアリングの中心)よりも内側に設置することで、股関節に負荷がかかるとアウターヘッドに安定化が生じる。また、内部ベアリングでは、関節軟骨(寛骨臼)が温存されるため、人工股関節全置換術で生じるような摺動摩耗は生じにくい。オーストラリアのレジストリー(Australian Orthopaedic Association National Joint Replacement Registry Annual Report 2016 (AOA), https://aoanjrr.sahmri.com)によると、バイポーラ型人工大腿骨頭置換術の再置換の原因は、破損(24%)、感染(20%)、脱臼(19%)、ゆるみ/骨溶解(19%)、痛み(8%)となっている。
バイポーラ型人工大腿骨頭置換術に求められる特性を以下に示す。関節軟骨である寛骨臼と接し、二重式ベアリング機構を有しているため、(1)アウターヘッドの表面粗さ、(2)アウターヘッドの真球度、(3)大腿骨ステムの可動域(Oscillation angle)、(4)ステムヘッドの表面粗さ、(5)ステムヘッドの真球度、(6) UHMWPE インサートとステムヘッド間のクリアランス、(7)ステムヘッドとアウターヘッド内側の UHMWPE ロッキングインサートとの間の篏合(分離)強度となる。臨床使用における破損の減少には、ロッキング部の耐久性の評価が有用と考えられる。

図 A.2 バイポーラ型人工大腿骨頭置換術での関節形成術

A.3 バイポーラ型人工大腿骨頭置換術における安全性評価のポイント
三次元積層技術を活用した整形外科用インプラントに関する評価指標(平成 26 年 9 月 12 日付け薬食機参発 0912 第 2 号 厚生労働省大臣官房参事官(医療機器・再生医療等製品審査管理担当) 通知「次世代医療機器・再生医療等製品評価指標の公表について」別紙 3)及び「人工股関節の審査ガイドラインについて」(平成 21 年 3 月 6 日付け薬食機発第 0306001 号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知)を参考とした場合のバイポーラ型人工大腿骨頭置換術に対する安全性評価のポイントを表 A.1 に示す。

表 A.1 バイポーラ型人工大腿骨頭置換術における安全性評価のポイント
なお、ISO 14242-1 及び ISO 14242-2 に規定されている人工股関節摺動部の摩耗特性の評価では、バイポーラ型人工大腿骨頭置換術の二重式ベアリング構造の試験を想定しないため、バイポーラ型人工大腿骨頭の内部ベアリングの摩耗評価にISO 14242-1及びISO 14242-2を適応する場合には、臨床使用で求められる状態と異なった試験となる場合が多い。特に、関節軟骨と摺動する人工大腿骨頭アウターヘッド部と大腿骨ステム骨頭部は、分離しない構造となっている。そのため、100 万サイクル毎の摩耗量の重量測定が困難となる。内部ベアリングの摩耗評価を ISO 14242-1 及び ISO 14242-2 に準じて実施する場合には、ロッキング機構を外し、人工股関節寛骨臼カップを模擬した状態での試験となる。特に、二重式ベアリング構造の場合には、ピンオンディスク型の摩耗試験(JIS T 0303 等)による内部ベアリングの評価が有用となる。
ASTM F 1820-13 を参考に、ロッキング機構を有する人工骨頭内部ベアリングの接続(分離)強さを評価する場合の考え方を図 A.3 に示す。図 A.3(a)に示した ASTM F 1820-13 に規定されているレバーアウト試験は、半球形状である全人工関節の寛骨臼コンポーネントと UHMWPE ライナーの篏合強度を測定するための試験である。図 A.3(b)に示したようにバイポーラ型人工骨頭アウターヘッドは、半球形状を超え、球形状により近い形状となっている。また、UHMWPE ライナーは、分離しないロッキング構造となっているため、ASTM F 1820-13 が意図とするレバーアウト試験(図 A.3(a))が困難な場合が多い。そのため、股関節の脱臼防止の評価のためには、図 A.3(c) に示したステム骨頭の UHMWPE ロッキングインサート部からの引き抜き試験が有用となる。アウターヘッド内側の金属製リング或いは UHMWPE 製のロッキング機構等をレバーアウト試験で評価する場合には、引き抜き試験で得られた最大引き抜き強度まで負荷し、UHMWPE ライナーの分離の有無の評価が可能と考えられる。各種メーカーのバイポーラ型人工大腿骨頭を用いて、ステム骨頭の UHMWPE からの引き抜き試験を行った結果が参考文献に示されている。

図 A.3 ロッキング機構を有する内部ベアリングの接続(分離)強さの評価の考え方

参考文献
N. Kaku, T. Tabata, H. Tsumura: Relationship between pull-out strength and oscillation angle in bipolar cups: an in vitro study. Journal of Orthopaedic Surgery 2016;24(2):209-15.

参考規格
(1) ISO 21535 Non-active surgical implants -- Joint replacement implants -- Specific requirements for hip-joint replacement implants
(2) ISO 7206-2 Implants for surgery -- Partial and total hip joint prostheses -- Part 2: Articulating surfaces made of metallic, ceramic and plastics materials
(3) ISO 7206-4 Implants for surgery -- Partial and total hip joint prostheses -- Part 4: Determination of endurance properties and performance of stemmed femoral components
(4) ISO 7206-6 Implants for surgery -- Partial and total hip joint prostheses -- Part 6: Endurance properties testing and performance requirements of neck region of stemmed femoral components
(5) ISO 7206-8 Implants for surgery -- Partial and total hip joint prostheses -- Part 8: Endurance performance of stemmed femoral components with application of torsion
(6) ISO 14242-1 Implants for surgery -- Wear of total hip-joint prostheses -- Part 1: Loading and displacement parameters for wear-testing machines and corresponding environmental conditions for test
(7) JIS T 0303 人工関節用材料のピンオンディスク法による摩耗試験方法
(8) ASTM F 1820-13 Standard Test Method for Determining the Forces for Disassembly of Modular Acetabular Devices

附属書 B
CT 及び MRI の撮影条件の例

附属書 C
積層造形用金属粉末 粒子径分布測定方法

金属粉末の集合体の中でどのくらいの大きさの粉末粒子がどのような割合で含まれているのかという情報が、粒子径(あるいは粒度)分布である。金属粉末は、その製造方法や雰囲気によりさまざまな形状となるため、測定する基準(例えば長軸、短軸の概念) によって大きさが違ってくる(図 C.1)。

図 C.1 金属粉末粒子の形状と粒子径の例

そのため、金属粉末の粒子形状や大きさによって、その粒子径分布測定方法に種類がある。一般的に使用されている粒子径分布測定方法を表 C.1 に示す。

表 C.1 主な粒子径分布測定方法
積層造形用金属粉末では、上記表 C.1 に示したレーザー回折散乱法が、粒子径分布測定法として使用されている。これは、レーザー回折散乱式の装置が、サブミクロン領域から 1 mm 程度までの幅広い粒子径領域に適用でき、積層造形用金属粉末の粒子径に最適なスペックであること並びに高い分解能と再現性を有し、短時間で効率良く測定可能であることなどによる。
レーザー回折散乱式測定装置では、乾式と湿式のどちらも可能であるが、一般的には湿式で使用されることが多い。湿式法では、測定サンプル粉末を水や有機溶媒に分散し、その分散液を装置内で循環させ、レーザー光を照射して得られた回折散乱光の強度パターンと同じパターンを示す球形粒子に相当する粒子径の分布状態を表す。分布状態の比率は、体積分布基準、面積分布基準、個数分布基準などがあるが、主に体積分布基準が使用されている。

図 C.2 に体積分布基準のレーザー回折散乱粒子径測定データの例を示す。ある粒子径よりも小さい粒子径の存在割合の分布を示したものが累積分布量であり、一定幅の粒子径(例えば 10μm から 20μm)の全体に対する存在割合の分布を示したものが頻度分布量である。累積分布量が 50%の粒子径をメジアン径(平均粒子径)と呼び d50(又は D50)で表記される。d10、 d90 は同様に 10%、90%の粒子径である。また、モード径は、出現頻度の最も大きい粒子径を指す。

図 C.2 粒子径分布データの例

積層造形用金属粉末の粒子径分布表記は、上述の体積分布基準のレーザー回折散乱粒子径測定データを用いて行われており、主な表記を表 C.2 に示す。

表 C.2 積層造形用金属粉末の主な粒子径分布の表記
さらに、流動度や形状観察(SEM 観察)などと複合して検討するが、実際はその使用する積層造形装置において操作してみないと判断できず、各装置で操作できるように粒子径調整が実施される。

附属書 D
交流インピーダンス測定

金属材料表面の酸化皮膜(電気二重層)の構造を図 D.1 に示す。ヘルムホルツのモデルによるとメタルと酸化皮膜の界面では、電位勾配が高く、静電容量が高い状態となっている。酸化皮膜の抵抗値を計算するための、酸化皮膜の等価回路は、図 D.2 が一般的となる。等価回路を用いて、酸化皮膜の抵抗値及び静電容量を測定できる原理を図 D.3 に示す。交流インピーダンス法の基本は、一定の交流電圧あるいは交流電流を印加し、電圧と電流の比(抵抗) を複素平面上に表示(複素インピーダンスプロット、コールコールプロット)し、周波数依存性を測定する。高周波域では、電気二重層(静電容量:C)の影響が強くなり、電圧に対して測定電流が遅れて(位相差 θ)計測される。低周波域では、静電容量の影響が弱くなり、膜抵抗(RP)の影響が強くなるため、皮膜抵抗(RP)と液抵抗(RS)の直列回路となる。

図 D.3 交流インピーダンス法の測定原理

周波数を変えてインピーダンスを測定することで、酸化皮膜(電気二重層)の抵抗値が測定できる原理を以下に示す。
具体的な交流インピーダンス測定装置を図 D.4 に示す。インピーダンス測定装置(北斗電工製 HZ 5000、東陽テクニカ製など)を用いて、一定の電圧(10 mV 等)あるいは一定の電流(20 nA 程度)で、付加する交流の周波数を 0.01 Hz~100 kHz の範囲で変化させて、インピーダンス値及び位相のずれ(°)を計測し、これらの測定値からインピーダンス値の実成分(Ω)及びインピーダンス値の虚成分(Ω)を算出し、コールコールプロットを作成する。
これらの測定データを図 D.5 に示した等価回路の複素インピーダンスプロット(コールコールプロットあるいはナイキスト線図)に解析ソフトウェア(北斗電工製フィッティングソフトなど)を用いてフィッティングさせることで、酸化皮膜の抵抗、溶液の抵抗及び酸化皮膜の静電容量を決定できる。図 D.5 のコールコールプロットについて、次に示す。

数式

xは、インピーダンスの実部、yはインピーダンスの虚部であり、中心〔(RS+RP/2)、0〕、半径(RP/2)の半円となり、実測データのフィッティングにより液抵抗 RS 及び酸化皮膜抵抗RP を決定できる。また、最大値(半径)から電気二重層容量(静電容量)を算出できる。
電気二重層容量(コンデンサの静電容量)C=ε0・ε・S/d(F)となり、ここで、ε0:真空中の誘導率(8.854×10-14 F/cm)、ε:誘導率(電気的分極率)、S:表面積(cm2)、d:酸化皮膜の厚さ(nm, 10-7 cm)となる。このように静電容量は、表面積に比例し、単位はμF/cm2 となる。実際の測定では、コールコールプロットは、潰れた半円となるため、静電容量を CPE(Constance Phase Element)を用いて補正する。
CPE=1/[(jω)n・ZCPE]となり、n=1 のとき CPE=C となる。CPE の単位は、μF・sp-1/cm2 となり、厳密には時間の次元を含むが、現実的にはμF/cm2 として取り扱う場合が多い。また、薄膜では、面抵抗を用い、酸化皮膜のインピーダンスの単位は、Z=E/(A/cm2)=Ω・cm2 となる。ここで E は、印加した交流電圧、A は交流電流となる。同様に RS の単位も Ω・cm2 となる。

図 D.4 交流インピーダンスの測定装置

図 D.5 等価回路の複素インピーダンスプロット

交流インピーダンス測定の検定に用いられる回路を図 D.6 に例として示す。また、北斗電工製 HZ5000 を用い、検定用回路を使って測定したボード線図を図 D.7 に示す。測定条件を表 D.1 に示す。検定用回路(a)の測定では、Rs=22 Ω,Cp=99 kΩ,CPE=52μF, n=0.995 となり、検定用回路(b)では、Rs=21 Ω,Cp=0.99 MΩ,CPE=16 μF,n=0.995 と解析され検定回路の値とよく一致している。
0.9%NaCl 溶液中への浸漬試験後に交流インピーダンスを測定すると電流が不安定となる領域が自然浸漬電位付近に見られるため、低周波域で位相が戻りにくくなり、皮膜抵抗の計算値が実際に比べて高くなる場合がある。アノード分極試験等で予め不動態皮膜を生成させた状態で、交流インピーダンス測定を行うことで改善される。

図 D.6 交流インピーダンス測定用検定回路の例

表 D.1 交流インピーダンスの測定条件の例

図 D.7 検定回路を用いて測定したボード線図の例
(a) Rs:20Ω, CPE:50μF, Cp:100 kΩ
(b) Rs:20Ω, CPE:16.5μF, Cp:1 MΩ

参考文献 1:板垣昌幸 電気化学インピーダンス測定法 第 2 版 原理・測定・解析、丸善出版
文献 2:Okazaki,Nagata,Comparisons of immersion and electrochemical properties of highly biocompatible Ti–15Zr–4Nb–4Ta alloy and other implantable metals for orthopedic implants, Sci. Technol. Adv. Mater. 13 (2012) 064216

附属書 D 参考資料
電気化学測定用セルの試料ホルダーの一例

試料ホルダーの模式図を下図に示す。試料は、直径:15 mm, 厚さは、約 1~2 mm である。銅板は、直径:18 mm、1 mm 厚さでリード線が溶接されている。ガスケットは、厚さ、 2 mm で、外径:20 mm、内径は、試料の表面積が 1 cm2 になる直径(11.5 mm)とする。アルミ製のおさえは、外形:18 mm、内径:11 mm、厚さ:2 mm である。PMMA のおさえは、厚さ:4 mm、外ふたの厚さは、7 mm、ねじ部の厚さ:4 mm である。外ふたに入るガスケットは、外径:30 mm、厚さ、1.5 mm である。

図省略

附属書 E
Co-Cr-Mo 合金鍛造材及び焼鈍材の疲労特性

コバルトクロムモリブデン(Co-Cr-Mo)合金の鍛錬プロセスを図 E.1 に示す。鍛錬プロセスの進歩により、力学的安全性の優れた製品が製造されている。Co-Cr-Mo 合金では、鍛錬材と鋳造材が JIS T 7402 シリーズ等で規格化されている。Co-Cr-Mo 合金鍛造の焼鈍温度による機械的性質の変化を図 E.2 に示す。Co-Cr-Mo 合金鍛造材、鍛造後の焼鈍材、及び鋳造材の疲労特性(S-N 曲線)を図 E.3 に示す。Co-Cr-Mo 合金(JIS T 7402-2 準拠)では、鍛造まま材でもかなり高い疲労強度を示す。焼鈍材は、鍛造まま材と鋳造材(JIS T 7402-1 準拠)の間に位置し、焼鈍条件を変化することによっても変化する。

図 E.1 医療用 Co-Cr-Mo 合金材料の製造プロセスの例
図 E.2 鍛造後の熱処理の影響
図 E.3 Co-Cr-Mo 合金鍛造材、焼鈍材、鋳造材の S-N 曲線の比較例

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 勝呂 徹 一般社団法人 日本人工関節研究所 リウマチ治療研究所 所長
天谷 浩一 株式会社松浦機械製作所 常務取締役
石坂 春彦 帝人ナカシマメディカル株式会社 取締役
稲葉 裕 公立大学法人 横浜市立大学医学部 整形外科 准教授
上野 勝 京セラメディカル株式会社 品質保証統括部 部長
大河内 均 福田金属箔粉工業株式会社 技術本部 研究開発部 新商品開発室 室長
楫野 良知 金沢大学附属病院 医療安全管理部 特任准教授
金安 力 愛知産業株式会社 専務取締役 営業本部長
佐藤 徹 株式会社オーミック 取締役社長
高岸 憲二 医療法人社団 山崎会 サンピエール病院 名誉院長
鄭 雄一 東京大学大学院 工学系研究科 教授
中村 卓司 東邦大学 整形外科 准教授 人工関節センター長
新野 俊樹 東京大学 生産技術研究所 教授
橋本 淳 独立行政法人 国立病院機構 大阪南医療センター 免疫疾患センター 部長
藤林 俊介 京都大学大学院 医学研究科 特定教授
古川 治男 株式会社NTTデータエンジニアリングシステムズ 執行役員カスタマー&サービス事業本部 クラウドサービス事業部長
眞島 任史 国際医療福祉大学病院 教授 整形外科部長
宮﨑 美季 株式会社 JSOL(ジェイソル) エンジニアリング本部 Simpleware チーフエンジニア
村瀬 剛 大阪大学大学院 医学系研究科 整形外科 准教授
森 重雄 大阪冶金興業株式会社 粉末加工部 造形・メディカル推進室課長
山本 謙吾 東京医科大学 医学部医学科臨床医学系整形外科学分野主任教授

報告書(PDF)

2017-E-DE-037-H28-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report