3. マグネシウム合金の医療における応用分野
マグネシウム合金の医療における応用分野のイメージを表 1 に示す。応用分野には、縫合器具、インプラント、ステント治療等があるが、本ガイドラインでは、スーチャーアンカー及び骨接合材料等の整形インプラント分野への応用を中心としている。冠動脈等に使用されるステントには、耐久性等に優れた素材特性が求められる。スーチャーアンカー及び骨接合材料等の製品イメージを図 1 に示す。
スーチャーアンカーとは、縫合糸付きの骨内埋め込み型インプラントで、腱板断裂等の修復手術等においてアンカー効果を利用して、腱や靭帯等の軟部組織を骨に固定するために用いられる。
現在用いられているスーチャーアンカーのほとんどは、附属書 A に示した PLLA、PGA、PLLA/HA 等の吸収性材料、チタン材料やポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)等の非吸収性材料のいずれかで作られている。同様に靭帯や腱を固定するためのスクリューとして、インターフェアレンススクリュー等がある。
骨接合材料としては、負荷荷重が比較的少ない非荷重領域を中心に、上腕骨(近位及び遠位)骨折、前腕骨(尺骨及び橈骨)骨折、手根骨(舟状骨等)骨折、手指骨骨折、足指骨骨折、脳外科用及び顎顔面用ミニプレート及びスクリュー等がある。
表 1 マグネシウム合金の医療における応用分野のイメージ
図 1 a) スーチャーアンカー及び b) 骨接合材料等の使用イメージ
4. マグネシウム合金の特徴及び製造プロセス
4.1 マグネシウム合金の特徴
マグネシウム合金は、弾性率が骨に近く、金属材料であるため、PLLA 及び PEEK に比べて強度を高くできる。一方、従来の非吸収性のインプラント用金属材料に比べると、強度と延性が低くなる傾向にある。体内に存在する水分、各種酸等と反応しやすく、生体内に多量に存在する塩化物(Cl-)イオン等により粒界腐食を生じやすく、腐食生成物の生体への影響を把握することが重要となる。また、腐食により生成した脱落粒子のマクロファージによる貪食作用等の懸念も生じやすい。特に、生体内での分解過程で、次の反応により発生する水素ガスの体内での排出挙動等への影響を考慮する必要がある。
Mg+2H2O→Mg2++2OH-+H2
4.2 マグネシウム合金の製造プロセス
マグネシウム合金の製造プロセスのイメージを図 2 に示す。また、溶解から素材製造までの製造技術で、医療用材料として製造するに当たって考慮すべき点及び製造のポイントを以下に示す。
図 2 マグネシウム合金の製造プロセスのイメージ
① 原材料の純度管理
・高純度なマグネシウム材料の使用
・高純度な合金添加元素の使用
② 精錬条件の最適化
・高純度化に適した静置時間の設定
③ 鋳造・加工工程の最適化による内部構造の均質化
・結晶粒径の均質化
・不純物の混入/巻き込み防止
・機械的特性の制御
④ 成形精度と再現性
・寸法精度、外観品質
⑤ 残留物の除去
・洗浄工程の追加等による離型材、酸化皮膜の除去
4.2.1 溶解・鍛造
マグネシウム合金の溶解では、鉄製のるつぼが使用されるが、鉄の混入は素材の特性に影響を与えるため、溶解前のるつぼ内洗浄及び内壁面のコーティング等で、鉄の混入を抑制する必要がある。原料の選定に関しては、鉄、銅、ニッケル等の不純物元素の含有量を極力抑えたものを使用することが重要となる。また、溶解中の溶湯の燃焼を抑制するため、真空溶解炉を使用する必要がある。精錬・合金添加において考慮すべき点を附属書 B に示す。
4.2.2 ビレット・圧延
溶製された溶湯を加工に適した形状に凝固させた鋳塊をビレット又はスラブと呼ぶ。ビレットは、円柱状であり、押出加工等に用いられ、スラブは、板状で圧延等に使用される。骨プレート等では、圧延材が使用され、条件により微細な結晶粒組織が得られ、鋳造材と比較して高強度な材料となる。スクリュー等の旋盤加工品には、引抜加工材が用いられる。
4.2.3. 加工・熱処理
骨プレート等の薄板製品であれば、圧延材をレーザ加工で切断する場合がある。その場合には、熱影響による金属組織の変化に注意を要する。熱影響の少ない低出力パルスレーザ加工が有用となる。切削等で生じた切削粉は、非常に燃えやすく、水とも激しく反応するため水消火は不適である。
ひずみ除去や溶体化処理等の熱処理が行われるが、時効処理をする場合には、時効処理により生成した析出物の分解過程における生体への影響の評価が必要となる。
4.2.4. 表面処理
体内埋植後の強度保持期間を担保するためには、表面処理が有用となる。骨プレートでは骨折が治癒するまで、ステントでは閉塞部を一定時間拡張するまでの強度保持が必要となり、その期間が過ぎれば速やかに分解消失することが望ましい。
合金種も含め、表面処理層の分解生成物の生体内での挙動を把握する必要がある。陽極酸化皮膜であれば、比較的安定な酸化マグネシウムとなる。しかし、血管で使用する場合、ステントの分解過程で生じる酸化マグネシウム粒子が末梢血管を詰まらせる等の懸念もあり、臨床使用部位に応じた表面処理の開発が重要となる。
5. 医療で用いられるマグネシウム合金の種類
マグネシウム合金をインプラントへ臨床応用した例は、国内では少なく、今後、検討しなければならない課題も多い。海外では、冠動脈用ステント等に用いる材料として Mg-Y-RE 系合金が、骨接合用材料として Mg-Ca-Zn 系合金が注目されている。化学組成のイメージを表 2 に示す。 Mg-Y-RE 系合金の値は、カタログ値を示しており、Mg-Ca-Zn 系合金の値は、文献値(1)を示している。ステント用マグネシウム合金には、レアアース(RE:17 種類の希少金属元素)が含まれ、レアアース等の生体への影響が十分に明らかになっていないので、今後の安全性評価、知見の構築が期待される。主な合金添加元素の役割を表 3 に示す。表 3 には、非常に多くの合金添加元素が存在するが、生体毒性が懸念される合金添加元素の使用量は、極力少なくすることが望ましい。
Zrや生体内に多量に存在するCa及びZnを合金添加元素として用いることが好ましいと考えられる。
今後、生体への影響の少ない合金添加元素を用いたインプラントに適したマグネシウム合金の開発が期待される。マグネシウム合金の詳細な分類を附属書 C に示す。特に、分解速度が大きく変化するため、臨床使用される部位に適した合金種を選定することが重要となる。
表 2 Mg-Y-RE 系及び Mg-Ca-Zn 系合金の化学組成のイメージ
合金添加元素には、Y、RE、Li、Sr 等、従来、インプラント用合金として使用実績のない元素を含む場合が多く、一部細胞毒性試験が文献(2)に報告されているが、これらの元素の生体への影響に対する詳細な評価が必要となる。細胞培養液抽出において Al 粉末から溶出した Al イオンに関しては細胞毒性が強く(3)、また、眼内レンズに滅菌工程において付着した微粒子から溶出した極微量の Al イオンの影響により、眼球に炎症が発生し、日本眼科学会等の原因調査によると Al イオンが原因と判断されている(4)。マグネシウム合金の品質に影響を及ぼす Fe、Cu、Ni、H 等の微量元素の定量が必要となる。Fe に関しては、0.005 質量%未満、Cu:0.05%以下、Ni:0.005%未満が目安となる。また、生体内においても許容量を超えて多量に存在する Mg イオンは、生体毒性を示す場合がある。
表 3 合金添加元素の役割
6. マグネシウム合金の金属組織及び機械的性質のイメージ
6.1 マグネシウム合金の金属組織
マグネシウム合金の金属組織は、図 3 に示すようにマトリックスは、最密六方(hcp)構造を有し、合金元素の種類により析出物が変化する。工業用純 Ti と同様の結晶構造であるため、すべり面が少なく室温での変形能が低く、難加工材に分類される。
図 3 マグネシウム合金の金属組織のイメージ
6.2 マグネシウム合金の機械的性質
マグネシウム合金の機械的性質のイメージを使用実績のあるインプラント用材料の規格値と比較して表 4 に示す。マグネシウム合金の機械的性質は、カタログ値を示している。ステンレス鋼(SUS316 等)、Co-Cr-Mo 合金、Ti-Ni 合金(金属間化合物)及び工業用 2 種純チタンの値は、JIS T 7401-1、JIS T 7402-2、JIS T 7404、JIS T 7403-1 でインプラント用として規定されている値を示している。マグネシウム合金の強度と延性は、従来のインプラント用合金に比べて低く、一層の力学特性の向上が求められる。特に、冠動脈用ステント等、繰り返し負荷がかかる場合には、耐久性を含め、機械的性質の向上が必要となる。
表 4 マグネシウム合金の機械的性質のイメージ
7. マグネシウム合金の安全性評価
研究・開発の促進の観点から、現状、有用と考えられる評価方法の一例を以下に示す。
7.1 生物学的安全性評価
合金元素には、Y、RE、Li、Sr 等、従来のインプラント用合金として使用実績のない金属元素を含む場合が多いので、分解生成物(腐食生成物)の評価を含めたマグネシウム合金素材の生物学的安全性評価が必須となる。表面処理等により、分解速度等が大きく変化するため、最終製品と同じ表面処理を行った試料を用いることが望ましい。合金素材開発促進の観点から、生物学的安全性評価のポイントを以下に示す。
生体吸収性材料を用いた製品の性能は、臨床使用部位によって複雑に変化することが容易に予測され、また、水素の発生等の従来経験の少ない影響の評価等を含むため、医療機器製造承認申請に利用する場合には、独立行政法人医薬品医療機器総合機構との事前面談等が推奨される。
医療機器の生物学的安全性評価に関しては、ISO 10993 シリーズ「医療機器の生物学的評価」がある。ISO 10993-1「リスクマネジメントプロセスにおける評価及び試験」において、接触部位と接触期間に応じて表 5 に○で示した項目について生物学的安全性評価が必要とされている。
表 5 ISO 10993-1 に示されたインプラント材料に必要な生物学的安全性評価
一方、日本では、平成 24 年 3 月に発出された通知「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」(薬食機発 0301 第 20 号)があり、別紙の「医療機器の生物学的安全性評価の基本的考え方」に、評価に際しての基本的な注意事項と考慮すべき評価項目が示されている。ISO 10993 シリーズと異なる部分は、発熱性が評価項目として挙げられていることで、血液接触型のインプラントについては、接触期間を問わず、発熱性は、すべて考慮の対象となっている。なお、ISO 10993 シリーズでは、全身毒性の中で発熱性が、考慮すべき項目となっているので本質的な差異はない。
実際の試験を行う場合には、ISO 10993 シリーズであれば各パートに、日本の場合は上記通知の別紙「医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス」に、試験方法が示されている。また、これらの試験は、通常 GLP (Good Laboratory Practice)に基づき実施されなければならない。
上記に加えて、吸収性金属材料は体内で分解することから、分解生成物の特定、分解の機序、分解物の体内動態を把握し、生物学的安全性に及ぼす影響を確認する必要がある。生体吸収性材料の生体内での分解生成物の評価を必ずしも意図していないが、関連規格として以下の ISO がある。
ISO 10993-15 「医療機器の生物学的評価-金属及び合金からの分解生成物の同定及び定量化」
ISO 10993-16 「医療機器の生物学的評価-分解生成物及び浸出物の毒性動態の試験計画」
7.2 動物を用いた試験における分解挙動及び生体反応評価、病理組織学的解析の留意点
7.2.1 動物を用いた埋植試験
生体吸収性材料の分解挙動及び生体反応を評価する場合には、in vivo における埋植試験により得られた結果を用いることが多い。この試験は、材料そのものを体内に埋め込み、埋植局所に及ぼす影響を検索するもので、合わせて全身に及ぼす影響を検索する場合がある。
国際的試験法としては、ISO 10993-6:2016「埋込後の局所的影響の試験」があり、国内では、医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス第 4 部に埋植試験方法が紹介されている(以下、「公的試験方法」とする)。
動物を用いる試験に先立って、材料がどのような経路を経て分解するのか、また、分解時にどのような構成成分が、どの程度の量放出されるのかを経時的に確認しておくことが必要となる。材料を、擬似体液として、生理食塩液、緩衝液、人工血漿、血清添加培地、人工胃液や腸液等に浸漬し、37℃で維持し、放出される構成成分を分析することで、分解速度が把握できる。この場合、分解によって、浸漬する液の pH や浸透圧等が変化すると、体内環境を模擬することにはならないため、溶媒の選択と交換頻度には注意を要する。このデータにより、埋植試験で観察すべき時期をおおよそ見極めることができる。
7.2.2 埋植試験設計における留意点
生体吸収性材料を埋植する場合には、生体内から消失するため、埋植部位を特定できる工夫が必要である。
① 埋植時に写真を撮影する等して埋植位置を特定しておき、その位置に試験試料がない場合は吸収されたとみなす。
② 陰性対照材料や局所への影響がないことが知られている物質をマーカーとして同時に埋植してその付近を観察する。
③ X 線撮影等を経時的に行って埋植部位を特定する等の方法がある。埋植試験により、全身毒性を合わせて評価する試験では、全身毒性を評価するため、動物 1 個体当りに埋植する量がキーとなる。埋植試験は、局所反応を検索するため、総量よりも埋植する数を増やして観察部位によるばらつきを少なくすることが重要となるが、全身毒性は、体重当りの暴露量に関連するため、総埋植量が、ヒトにおける臨床使用量よりも少ない場合には、正しく評価できないことになる。このような場合は、ヒトの暴露量を下回らない範囲で、できるだけ安全係数を高くした試験系とする。また、十分な安全係数が設定できない場合、生体内の挙動を模擬して調製した液を、動物に投与することにより全身毒性を評価する。
埋植部位は、臨床使用部位に近い組織とする。公的試験方法には、筋肉内、皮下、骨内及び脳内埋植試験法について記載されている。これ以外の組織・器官に使用する場合には、臨床使用部位、又はその組織・器官の起原、構成組織、細胞種等を総合的に勘案して、上述の組織のいずれか又は複数を選択する。
局所への影響を確認する場合、動物の個体差の指標とするため、原則として対照材料と試験試料は同じ個体に埋植する。しかし、埋植と全身毒性のコンバイン試験では、対照材料と試験試料を同一の動物に埋植すると、全身毒性の評価が困難となることから、試験試料埋植群と対照群は別々に設定する。
埋植期間は、生体吸収性材料の場合には、その分解過程で、様々な物質が細粒化又は溶出する等して、埋植局所が、初期とは異なる環境となるため、①分解がまだ始まらない初期、②分解が活発な時期、③ほとんど分解された時期の 3 期間を評価ポイントとして計画する。
動物種として、12 週未満の短中期の埋植試験には、マウスやラット、ウサギ等が一般的に用いられる。長期埋植では、マウスやラット、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等が用いられる。表 6 に公的試験方法における動物種の選択を○で示した。ラットの皮下埋植では固形物による発がん(異物発がん)が知られているため、26 週を超える皮下埋植試験に用いる場合には注意を要する。
表 6 長期埋植における動物種の選択
動物数は、1 埋植期間につき 3 匹以上を用いる。性は基本的には片性のみでよい。埋植と全身毒性のコンバイン試験を行う場合は、全身毒性試験の規定に準じて、動物数を設定し、性については、原則的には両性の動物を用いる計画とする。
埋植期間中は、動物の一般状態を定期的に観察し、体重測定を行う。埋植初期は、手術の影響により体重が減少することがあるため、摂餌量や摂水量をモニターすると健康状態を的確に把握できる。特にマグネシウム合金では、分解途中での水素ガスの発生等があるため、埋植部位周囲でのそれらの影響の評価等が必要と考えられる。
7.2.3 評価における留意点
1) 肉眼的観察
埋植試験試料周囲組織及び試料を肉眼又は拡大鏡を用いて観察し、少なくとも以下の項目について記録する。
① 試験試料周囲組織における出血、被包形成、新生骨形成、変色の有無とその程度(広がり、厚さ等)
② 試験試料の変色及び変質(ひび割れ、硬さ等)の有無とその程度
③ 埋植周囲リンパ節の腫脹等の変化
なお、埋植物が残存している場合は、それを取り出し、力学的強度を解析することで、材料の経時的な特性変化を検索することができる。
2) 病理組織学的解析
埋植組織及び肉眼的に異常が見られた場合にのみ、埋植周囲リンパ節を直ちに固定液に浸す。一般的には 10%中性緩衝ホルマリン液で固定し、固定完了後、切り出し、パラフィン包埋、薄切を行う。ヘマトキシリン・エオジン染色を施して、光学顕微鏡下で観察する。必要に応じて、その他の固定法、包埋法及び染色方法を採用してもよい。
観察で最も重要な部位は、埋植試料と生体組織との界面であるため、界面をよく保存できる方法を最優先に考える。残存試料が硬い場合、薄切は、困難であるため、引き抜かざるを得ないが、生の状態では、引き抜く際に周囲組織を破壊する恐れがあるため、固定(脱灰)後に引き抜く。これらの方法が適用できない場合は、埋植部位全体を樹脂包埋し、研磨標本を作製することを検討する。
染色方法には、一般的にギムザ染色やトルイジンブルー染色が用いられる。骨内埋植の場合では、在来骨又は新生骨と試料の界面が重要な観察ポイントであるが、樹脂包埋・研磨標本では界面の保存が容易となる。また、Villanueva 染色や Villanueva-Goldner 染色を施した標本では、石灰化骨と類骨の判別が容易になる。
顕微鏡下で観察し、埋植周囲に認められた炎症性細胞の種類や出現の程度及びその他に見られた異常所見を記録する。観察ポイントを表 7 に示したが、これ以外にも重要と思われる点があれば追加する。
切片にできる場合には、埋植試料の残存率を組織形態計測により解析することで、経時変化を定量的に評価することが可能となる。
表 7 組織観察のポイント
3) 全身毒性(亜急性~慢性毒性)評価
体重変化、一般状態観察の他に、血液・尿検査、全身臓器の病理解剖検査、臓器重量測定及び全身臓器の病理組織学的検査を実施する。
加えて、材料が分解された際に放出される分解産物を特定し、それがどのように体内に分布し、代謝を受け、排泄されるかを検索する。放出される物質が生体を構成する物質である場合においても、急激に分解が進む場合は血中濃度が一時的に高値となることが考えられるため、体内での動態を解析することが必要である。
なお、技術的に埋植試験と同時に全身毒性を評価し難い場合は、抽出液を連続投与して全身状態を検索することになるが、例えば、抽出物がマグネシウム等の栄養ミネラルとなる成分であっても、静脈内投与等により血中濃度が急激に上昇すると毒性反応や死亡の原因となるため、投与量や投与経路には注意を要する。
7.3 合金素材の力学的安全性評価
マグネシウム合金素材を用いた製品の力学的安全性評価に関しては、臨床使用部位、製品の目的、使用方法等を十分に考慮する必要がある。合金素材(原材料)においては、化学組成、不純物、機械的性質、耐食性等の評価が重要となる。
7.3.1 化学組成及び不純物の測定方法
マグネシウム合金の化学組成の分析には、JIS H 0321、JIS H 0001、JIS H 1332、JIS H 1333、JIS H 1334、JIS H 1335、JIS H 1336、JIS H 1338、JIS H 1341 等が参考となる。その他、GD-MS(グロー放電質量分析法)等が有用となる。
7.3.2 機械的性質の測定方法
マグネシウム合金の機械的性質は、JIS Z 2241 に準じて評価できる。臨床使用環境下で必要とされる強度、延性、疲労強度等を定量的に把握することが重要であるが、分解過程での機械的性質を評価した例はまだ少ない。スモールサイズの力学試験片としては、図 5 が参考となる。室温引張りの試験速度としては、0.2%耐力測定までは、0.5%/min (ひずみ制御)、0.2%耐力測定以降の破断までは、3 mm/min (ストローク制御)の条件が参考となる。
溶液中での腐食疲労試験は、JIS T 0309 に準じて評価できる。文献報告(5)では、溶液中での腐食疲労強度は、大気中に比べて測定溶液の影響が大きく、溶液の選定が重要となる。また、疲労試験の条件としては、サイン波を用いて、負荷応力(最小/最大)比=0.1、周波数:10 Hz、繰り返し回数:1000 万回の条件が参考となる。
図 5 力学試験片の形状
7.3.3 耐食性の評価方法
1) 溶出(静的浸漬)試験
使用部位及び使用用途等の使用環境に応じて、力学特性等の性能を維持する期間が異なることを念頭において溶出試験期間を設定する必要がある。特に、in vitro における分解速度と in vivo での値には、隔たりが見られるため、in vitro 試験で、in vivo 環境を模擬あるいは予測できる試験方法の確立が必要となる。また、分解過程で生じる分解生成物の生体への影響の評価が必要となる。
金属材料の溶出(静的浸漬)試験は、JIS T 0304 が参考となる。分解過程の把握には、苛酷抽出液を用いた試験が有用と考えられる。ISO 16428 の Annex A に、苛酷抽出溶液が例示されている。平成 24 年 3 月 1 日付け薬食機発 0301 第 20 号通知「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」別添「医療機器の生物学的安全性試験法ガイダンス第 2 部 感作性試験」において、酸(希塩酸等)による苛酷条件で抽出し、中和して(水酸化ナトリウム等による中和)pH を中性付近にした金属イオンと金属沈殿物微粒子から成る懸濁液について、感作性の強さを評価する例がある。
2) 耐食性の電気化学的評価試験
生体内で使用する金属材料の耐食性を電気化学的に評価する方法として、以下の試験等が参考となる
① 動電位測定(アノード分極測定):JIS T 0302
② 交流インピーダンス測定
交流インピーダンス測定方法の詳細は、三次元積層造形技術を用いたコバルトクロム合金製人工関節用部材の開発ガイドライン(手引き)及び積層造形医療機器の開発ガイドライン 2015(総論) が参考となる。 |