参考規格
(1) ASTM F2792-12a Standard Terminology for Additive Manufacturing Technologies
(2) ASTM B348-13 Standard Specification for Titanium and Titanium Alloy Bars and Billets
(3) ISO 16428 Implants for surgery - Test solutions and environmental conditions for static and dynamic corrosion tests on implantable materials and medical devices
(4) JIS T 0304 金属系生体材料の溶出試験方法
(5) JIS T 0309 金属系生体材料の疲労試験方法
附属書 A
積層造形技術の学術的な位置づけ
A.1 ASTM での位置づけ
ASTM F2792 によると積層造形技術は、三次元データから高付加価値な複雑形状を製造する付加製造技術(Additive Manufacturing)に位置づけられる。具体的には、付加製造技術は、“a process of joining materials to make objects from 3D model data, usually layer upon layer, as opposed to subtractive manufacturing methodologies. Synonyms; additive fabrication, additive processes, additive techniques, additive layer manufacturing, layer manufacturing, and freeform fabrication”と定義され、以下に示した 7 つの製造方法に分類
できる。金属等の粉末を用いた積層造形技術は、実製品を製造できる技術に分類され、粉末床溶融結合に該当する技術である。
1. 粉末床溶融結合(Powder bed fusion): 熱エネルギーによって粉末床の特定領域を選択的に溶融結合
2. 指向エネルギー堆積(Directed energy deposition): 粉末材料を供給しつつ、熱エネルギーを集中することによって溶融結合
3. シート積層(Sheet lamination): 材料シートを接合して造形
4. 材料押出(Material extrusion): 材料をノズルなどの開口部から選択的に押出し堆積
5. 材料噴射(Material jetting): 材料を液滴に噴射し選択的に堆積
6. 結合剤噴射(Binder jetting): 液状の結合剤を選択的に噴射して粉末材料を結合
7. 液槽光重合(Vat Photopolymerization): 槽内の液状光硬性樹脂を選択的に噴射して粉末材料を結合
図 A.1 7 分類の製造方法のイメージ
7 つの製造技術の分類に基づく、付加製造技術の機能分類を図 A.2 に示す。金属等の粉末を用いた積層造形技術は、高価となるが、実製品を製造できる技術に分類され、粉末床溶融結合に該当する技術である。
図 A.2 付加製造(AM)技術の機能分類
附属書 B
インプラント分野の技術革新と社会的ニーズの変化
B.1 インプラント分野の技術革新と社会的ニーズの変化
インプラント分野の技術革新と社会的ニーズの変化を図 B.1 に示す。インプラントは、輸入依存度が高く、素材の改善と欧米製品の形状に合うように患者の生体骨を削り調整することで治療技術が進歩してきた面がある。積層造形技術および 5 軸加工技術等の進歩により、CT 等の画像データから骨形状データの抽出、三次元化および製品製造までの連続化が可能となった。
図 B.1 インプラント分野の技術革新と社会的ニーズの変化
附属書 C
末製造技術の原理と特徴
C.1 積層造形用粉末製造技術
金属粉末は、不純物の混入を抑制するために不活性ガス雰囲気中で溶解し、溶融状態の表面張力により球状化して製造される。代表的な例を図 C.1 に示す。
図 C.1 金属粉末の代表的な製造方法例
C.2 積層造形可能な粉末選択の考え方
金属粉末の特性と選択の考え方を、参考として以下に示す。
C.3 不純物の混入
粉末の製造過程で不純物の混入としては、ノズル、チャンバー内の構成部品等からが考えられる。ノズル、チャンバーなどからは、Fe、Cr、Ni の混入が、冷却チューブなどからは、Cu の混入が、Ti スポンジからは、Mg、Cl の混入が考えられ、幅広く考慮するとその他、Al、V、Mo、Zr、Sn、Nbがある。
附属書 D
レーザーおよび電子ビーム積層造形技術の原理と特徴
D.1 レーザー積層造形技術の原理と特徴
レーザー積層造形技術の原理を図 D.1 に示す。レーザー積層造形技術は、EOS 社製 M280(ドイツ)、Concept Laser 社製 M2(ドイツ)、SLM Solution 社製 SLM500HL
(ドイツ)、Renishaw 社製(英国)、3D Systems 社製(米国)、松浦機械製作所製(日本)など造形機の種類が豊富である。
電子ビーム積層造形技術に比べて、集中エネルギーが低くなるため、溶融する粉末粒子径を小さくする傾向がある。使用する粉末の粒子径が小さいほど、造形品の表面粗さが小さくなり、表面性状が良好となる傾向がある。このため、融点がより低い Co-Cr-Mo 合金では、歯科分野を中心にレーザー積層造形品の開発例が多い。
図 D.1 レーザー積層造形技術の原理
D.2 電子ビーム積層造形技術の原理と特徴
電子ビーム積層造形技術の原理を図 D.2 に示す。電子銃が高エネルギービームを発生し、金属粉末を一層ずつ溶融し造形する。真空中での造形となるため酸化を防止でき、高温のプロセスが使用できる等の利点がある。レーザー積層造形技術に比べて集中エネルギーが高いため、大きな粉末粒子を使用できる利点がある。Co-Cr-Mo 合金に比べて、融点が高いチタン材料等に適している。このため、人工股関節寛骨臼コンポーネントなどチタン材料への応用が検討されている。
図 D.2 電子ビーム積層造形技術の原理
附属書 E
鍛錬技術の特徴
E.1 鍛錬プロセス
チタン(Ti)材料やコバルトクロムモリブデン(Co-Cr-Mo)合金の鍛錬プロセスを図 E.1
に示す。鍛錬プロセスの進歩により、力学的安全性の優れた製品が製造されている。Ti 材料では、鍛錬材のみが規格化され、Co-Cr-Mo 合金では、鍛錬材と鋳造材が規格化されている。
図 E.1 鍛錬プロセスの例
E.2 鍛錬材の不純物
Ti 材料(鍛錬材)での不純物の許容量が ASTM B348 に示されている。各元素の最大値が 0.1 mass%以下で、不純物元素の合計が、0.4 mass%以下が Ti 材料の許容量の目安となっている。
附属書 F
カスタム化の臨床的必要性
F.1 カスタム化が求められる整形インプラント
臨床的にカスタム化が求められるインプラントを図 F.1 に示す。
図 F.1 カスタム化が必要とされるインプラント
F.2 カスタム化の臨床的な必要性のアンケート調査結果
日本整形外科学会、日本人工関節学会、日本関節病学会、日本脊椎脊髄病学会、日本肩関節学会、日本肘関節学会、日本脊椎インストゥルメンテーション学会、日本側彎症学会、日本足の外科学会、日本臨床バイオメカニクス学会、日本整形外科バイオマテリアル研究会等の協力を得て、整形インプラントのカスタム化の臨床的必要性を把握するためにアンケート調査を行った。図 F.2 にアンケートの集計結果を示す。カスタム化の要望がかなり多く、患者のサイズに合ったサイズバリエーションへの要望が高いことがわかる。
図 F.2 カスタム化の臨床的必要性のアンケート調査集計結果
F.3 積層造形技術を用いた開発製品のイメージ
製品開発が期待されるイメージを以下に示す。
図 F3. 開発品のイメージ ]
参考資料 G
積層造形技術を用いた歯科補綴装置開発の考え方
G.1 序 文
患者個々に最適な形状の歯科補綴装置が、歯科技工士法に基づき、歯科医師の指示書に従って歯科技工所で作製されている。近年、積層造形技術を用いて製作された歯科補綴装置が国内外でも普及しつつあり、歯科補綴装置の開発・製造に役立つことを期待しており、参考として開発の考え方の一方法を以下に示す。
G.2 積層造形技術の適応範囲
歯科医師の指示に従い、歯科技工所等において、積層造形技術を活用し、歯科用 Co-Cr 合金等を用いて、歯科補綴装置(クラウン・ブリッジ、金属床など)の製作に有用となる考え方を示すことを目的としている。
G.3 歯科補綴装置の参考規格
(1) JIS T 6115 歯科鋳造用コバルトクロム合金
(2) JIS T 6121 歯科メタルセラミックス修復用非貴金属材料
G.4 積層造形材の特性
G.4.1 金属粉末粒子
最適な Co-Cr 合金等の粉末粒子は、造形装置と造形物によって異なる。粉末の粒子形状は、球形で粉末粒子径は、45 μm 以下が歯科用途に主に用いられている。
G.4.2 造形プロセス
積層造形技術プロセスの例を図 G.1 に示す。積層造形品の寸法精度および表面性状は、歯科医師の技工指示書による。CT、口腔内カメラなどでの撮影条件は、歯科医師の責任で最適な条件下で行う。
図 G.1. 歯科分野での積層造形プロセスのイメージ
G.4.3 化学成分
JIS T 6115、JIS T 6121 に適合することが望ましい。JIS T 6115 では、Co を主成分とし、 Cr 25%以上、Mo 4%以上、および Co、Ni および Cr の合計が 85%以上とされている。セラミックスとの焼付性を向上させるためのタングステン(W)の添加は、この規定範囲に含まれる。
G.4.4 機械的性質
JIS T 6115、JIS T 6121 に適合することが推奨される。JIS T 6115 では、0.2%耐力は 500
MPa 以上、破断伸びは 2%以上、ヤング率は 150 GPa 以上とされている。
G.4.5 耐食性
JIS T 6115、JIS T 6121 に適合することが推奨される。
G.4.6 疲労特性
Co-Cr-Mo 合金の積層造形材は、鋳造品と比較した場合には同等以上の特性を有することを確認(図 G.2)している。図中の○と□は、レーザー積層造形材(JIS T 6115 に準拠した W 添加材)、△は、人工関節用鋳造材での結果、●は、文献値での報告値(1)、■は、鋳造欠陥が存在する試験片での結果を示している。積層造形材は、直径 9 mm、長さ 50 mm の丸棒試料を縦方向に造形し、図 G.3 に示した同一形状の引張及び疲労試験片を作製した。疲労試験の条件は、JIS T 0309 に準じ、大気雰囲気中、応力(最小/最大)比=0.1、周波数 10 Hz の条件とした。
図 G.2 Co-Cr-Mo 合金の労特性の測定例
図 G.3 試験片の形状
G.4.7 適合精度
全面が粘膜に接するコンプリートデンチャーで 300μm 程度が許容されるが、クラウン・ブリッジでは、100 μm 以下の適合精度が求められる。レーザー積層造形技術で製作されたクラウン・ブリッジ支台装置の適合精度は、歯科鋳造法と比較しても同等の適合精度を示すとされている (詳細は、参考文献参照(2)-(5)) 。
G.4.8 その他の試験必要に応じて JIS T 6115 、JIS T 6121 に準じることが推奨される。
参考文献
(1) 土居寿,中野毅,小林郁夫ほか, 歯科用コバルト・クロム合金とチタン鋳造体の疲労特性の比較,歯科材料・器械 Vol.14 No.1 1995: 101-108
(2) 島本 聡, 石山泰士, 小司利昭ほか, 各種レジン床の模型面への適合性,歯学 80 巻 5 号 1993.02: 1141-1148.
(3) 吉田恵夫,井上昌幸,国島康夫,全部鋳造冠及び 3/4 冠の適合状態について,日補綴歯会誌
3 1959: 259-264,
(4) Kim, K. B., et al. Evaluation of the marginal and internal gap of metal-ceramic crown fabricated with a selective laser sintering technology: two- and three-dimensional replica techniques. The journal of advanced prosthodontics. 2013: 5(2): 179-186.
(5) Örtorp, A., et al. The fit of cobalt‒chromium three-unit fixed dental prostheses fabricated with four different techniques: A comparative in vitro study. Dental Materials. 2011: 27(4):
356-363. |