附属書 A
(参考)
カスタムメイドの考え方
A.1 カスタムメイドの範囲
基本性能を維持しつつ、患者個々の症状に応じて不適合な部分が存在する場合に最小限の改善を加える場合の製品開発の考え方(イメージ)を図 A.1 に示す。カスタムメイドには、患者個々に完全に適合させたフルカスタムメイドとミニマリーカスタムメイドが考えられるが、患者個々の症状に応じて不適合な部分が存在する場合に最小限の改善(ミニマリーモディファイド)を加えることで、最良の適合性および固定性を示す製品(ミニマリーカスタムメイド)を中心とする。また、図 A.1に示した平均的な方向は、次形状の製品の基本性能をイメージしており、変更の範囲としては、20%程度が目安の一つと考えられる。
図A.1 カスタムメイドの考え方
B.1 必要とする症例
下記に示す要因などにより、骨形態および骨質が正常と異なる症例において、カスタムメイド骨接合材料が必要となる。
Ⅰ.先天異常
①骨・関節の先天異常
②骨・関節の発育異常
③先天性骨系統疾患
④代謝性骨疾患等
Ⅱ.外傷
①骨折(変形治癒等)
②関節内骨折
Ⅲ.疾病
骨・関節疾患
①感染症(重度骨欠損等)
②関節リウマチ(ムチランス型等)
③変形性関節症
④骨粗しょう症
⑤骨腫瘍
⑥その他
Ⅳ.その他の手術
①先行する骨切り手術および人工関節置換術
臨床使用に際しては、患者に対して十分説明した上で理解を得ること、万一の不具合が発生した場合の取り決め等を事前に行っておくことが重要となる。
附属書 B
(参考)
B ) カスタムメイド製品を必要とする症例
下記に示す要因などにより、骨形態および骨質が正常と異なる症例において、カスタムメイド骨接合材料が必要となる。
Ⅰ.先天異常
①骨・関節の先天異常
②骨・関節の発育異常
③先天性骨系統疾患
④代謝性骨疾患等
Ⅱ.外傷
①骨折(変形治癒等)
②関節内骨折
Ⅲ.疾病
骨・関節疾患
①感染症(重度骨欠損等)
②関節リウマチ(ムチランス型等)
③変形性関節症
④骨粗しょう症
⑤骨腫瘍
⑥その他
Ⅳ.その他の手術
①先行する骨切り手術および人工関節置換術
臨床使用に際しては、患者に対して十分説明した上で理解を得ること、万一の不具合が発生した場合の取り決め等を事前に行っておくことが重要となる。
附属書 C
(参考)
金属材料素材と素材の疲労特性の関係
C.1 生体適合性と素材の疲労特性
金属材料の素材と疲労特性の関係を図C.1に示す。生体内で許容できる生体適合性は、ステンレス鋼以上の生体適合性で、ステンレス鋼においては、クロム(Cr)やモリブデン(Mo)などの元素の量を増加することで、耐食性と生体適合性が向上する。また、溶体化(固溶化)処理に比べ、窒素(N)の添加および20%冷間加工を加えるとチタン(Ti)合金と同レベルの疲労強度を達成できる。
ステンレス鋼に比べて生体適合性が優れる工業用チタン材料では、酸素(O)や鉄(Fe)などの微量元素の増加に伴い、疲労強度は増加し、4種純Tiでは、20%冷間加工を加えることで、Ti 合金の疲労強度に近づく。Ti 合金では、モリブデン(Mo),ジルコニウム(Zr),ニオブ(Nb),タンタル(Ta)などを添加することで、工業用純 Ti に比べ、耐食性と生体適合性が高くなる。さらに、新しい熱処理(過時効処理など)や熱間鍛造プロセスを導入することで、製品の耐久性は、かなり増加する。
図C.1 素材と疲労特性の関係
附属書D
(参考)
酸化皮膜の解析方法
D.1 酸化皮膜の解析方法
生体内では、塩化物(Cl)イオンの存在により腐食が進行する。図D.1に示す材料表面に生成する酸化皮膜(厚さ数ナノメートル)が緻密で強固であるほど、皮膜が溶解しにくく、また、皮膜を通過して溶出する金属イオンの量が少なくなるため、生体適合性が向上する。
この酸化皮膜は、電子顕微鏡観察技術の急速な進歩〔集束イオンビーム(FIB)加工で調製後の電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)など〕により直接観察できる。また、酸化皮膜の状態(組成など)は、JIS T 0306 に準じたX線光電子分光法(XPS)による状態分析により測定できる。最近では、アルゴン(Ar)スパッタの影響が少ない角度分解XPSによる測定(D.2 角度分解XPS測定参照)が簡便で推奨される。
酸化皮膜の安定性は、一般的にはJIS T 0302に準じたアノード分極曲試験によって評価ができる。アノード分極試験では、自然浸漬電位からアノード(+)側に電位を付加することで、酸化皮膜を通過する電子の量を把握するため、アノード分極曲線の電流値が低いほど酸化皮膜が強固で安定となる。アノード分極試験において得られるアノード分極曲線で、0 mVを示す電流密度および10 μA/cm2を示す電位などを比較することで材料間の比較が可能となる。
Ti合金(JIS T 7401-2:Ti-6Al-4VおよびJIS T 7401-4:Ti-15Zr-4Nb-4Ta合金),316Lステンレス鋼を用い、アノード分極曲線において10 μA/cm2を示す電位のpHによる変化を図D.2に示す。ISO 16428 および ISO 16429 に規定された溶液を含め、0.9%NaCl(pH=5.6),リンゲル液(pH=5.5),細胞培養液(イーグルMEM,pH=7.5),PBS(-)(pH=7.5),1.8%NaCl,2.7%NaCl,3.6%NaCl, 4.5%NaCl,0.9%NaCl溶液にHClを加えpHを1,2,3,4,5および6に調製した水溶液,0.01%乳酸(pH=3.5),0.05%乳酸(pH=3),1%乳酸水溶液(pH=2),0.01%HCl(pH=2),子牛血清(pH=7.4)および人工唾液(pH=6.4)の各種溶液中で測定したアノード分極曲線から、10 μA/cm2を示す電位を測定した。Ti合金の10 μA/cm2を示す電位は、ステンレス鋼に比べ高く、不動態皮膜が強固となる。
さらに、酸化皮膜の強さは、インピーダンス試験により抵抗値としても評価できる。
図D.1‐材料表面に生成する酸化皮膜
図D.2‐酸化皮膜の安定性に及ぼすpHの影響
D.2角度分解XPS測定
角度分解XPSの原理を図D.3に示す。入射軟X線に対して、試料を回転させ光電子の検出角度(θ)を変化させることで、分析深さdを変化させて測定する。次式の関係(1)により、得られる深さ情報が変化する。
d=3λsinθ
非弾性平均自由工程(IMFP)λ(例えば、TiO2 のλ:2 nm)を文献(2)(3)などにより算出することで、酸化皮膜の厚さdが算出できる。λの計算に際しては、例えば、TiO2の密度:4.23 g/cm3, TiO2の価電子数:16,バンドギャップに関しては、アナターゼで3 eV、ルチルで3.2 eVであり、約3 eVで計算できる。
図 D.3 角度分解 XPS の原理
D.3インピーダンス試験方法
インピーダンス測定装置を用い、インピーダンス試験用セルなどは、JIS T 0302によるアノード分極試験に準じることで測定できる。測定周波数は、Ti 合金では、0.01 Hz~100 kHz、ステンレス鋼では、1 Hz~1 kHzが推奨できる。皮膜の抵抗値を計算するための、皮膜の等価回路は、図D.4が基本(4)となる。
図D.4‐酸化皮膜(電気二重層)の等価回路
周波数を変えてインピーダンスを測定することで、酸化皮膜(電気二重層)の抵抗値が測定できる原理を以下に示す。
酸化皮膜内のキャパシタのインピーダンス XOF(容量リアクタンス)は、次式となり、
XOF = jω1C
酸化皮膜の全インピーダンス XOFは、ω= 2πf ( f :交流信号の周波数)とすると、次式となる。
※式省略
具体的には、インピーダンス測定装置(北斗電工製HZ 5000およびPrinston Applied Research
社製PARSTAT2273など)を用いて、一定の電流(20 nA程度)或いは一定の電圧(10 mV程度)で、付加する交流の周波数を 0.01 Hz~100 kHz の範囲で変化させて、インピーダンス値および位相のずれ(°)を計測し、これらの測定値からインピーダンス値の実成分(Ω)およびインピーダンス値の虚成分(Ω)を算出し、ナイキスト(Nyquist)線図などを作成する。これらの測定データを図5.Dに示した等価回路のナイキスト線図に解析ソフトウェア(北斗電工製フィッテングソフトおよびEchem Soft Ware社製ZsimpWinなど)を用いてフィッテングさせることで、酸化皮膜の抵抗、溶液の抵抗および酸化皮膜の静電容量を決定する。図4.Dの等価回路でのナイキスト線図(コールコールプロット)について、次に示す(5)(6)。
※式省略
図D.5‐等価回路のナイキスト線図
20 nAの一定電流を負荷し、0.01 Hz~100 kHzの周波数範囲で、インピーダンス測定を行い、ナイキスト線図へのフィッテングにより、溶液の抵抗、酸化皮膜の抵抗および酸化皮膜の静電容量を算出した。イーグル培地(培養液)中で、自然浸漬電位からO mVまでアノード分極させた場合にチタン合金(Ti-15Zr-4Nb-4Ta 合金,表面積:1 cm2)表面に生成した酸化皮膜の抵抗値は、イーグル培溶液中で一週間の溶出試験において生成した酸化皮膜の抵抗値と近い値を示した。イーグル培養液の抵抗値としては、約250~400 Ω、酸化皮膜の抵抗値:約1.2~2.0 MΩ/cm2、酸化皮膜の静電容量:10~25 μFであった。さらに、自然浸漬電位からアノード側に分極さる電位の増加に伴い、酸化皮膜の抵抗値は直線的に増加するが、静電容量は逆に直線的に減少する傾向がみられた。
【参考文献】
(1) 表面分析 上巻 -基礎と応用-D.ブリッグス他編 アグネ社,p.136.
(2) X線光電子分光法,日本表面科学会編,丸善株式会社,p.13.
(3) S. Tamura, C.J. Powell, D.R. Penn, Surf. Interface Anal., 21 165 (1994).
(4) N.T.C. Oliveira, A.C. Guastaldi, Electrochemical stability and corrosion resistance of Ti-Mo alloys for biomedical applications, Acta Biomaterialia, 2009 5(1) 399-405.
(5) 斉藤制海,除粒共著,制御工学,森北出版株式会社,p.99.
(6) (続)電気化学測定方法,電気化学学会編,p.53.
附属書E
(参考)
4点曲げ試験の力学解析
E.1 概要
JIS T 0312 などを参考にワーストケースでの基本製品を用いて耐久性試験などを予め実施し、縦軸に最大負荷荷重、横軸に破断までの繰り返し数を示したL-N曲線等により、106回の耐久限を測定する。耐久限の目安としては、使用体重の半分以上が推奨される。
負荷加重が小さい場合には、耐久性試験ではなく骨の固定に必要な強度と剛性を評価する。非荷重部に使用される場合には、素材がインプラント用規格を満足することで製造されていることを確認する。
E.2 4点曲げ試験による応力解析
耐久性試験では、曲げモーメントと材料表面に発生する応力との間には、材料力学的に(E-1)式の関係が成り立つ(1)(2)。
図 E.1‐4点曲げ試験
図E.2‐曲げモーメントと骨プレート表面に発生する応力の関係耐久性の場合には、(E-1)式の表面応力σAB などの関係式を用いることで素材の疲労強度と比較できる。具体的には、骨プレートの穴形状から計算される応力集中係数Kと同程度の応力集中係数を有する切欠き(ノッチ)疲労試験片を用いて、JIS T 0310に準じて測定した106回の疲労強度を、骨プレートの耐久限から(E-1)式を用い算出した最大応力σABの値と比較する。4点曲げ試験による耐久性試験から算出したσABの例を図E.3に示す。図E.4に示した応力集中係数K=3 の切欠き疲労試験結果から得られる切欠き材の疲労強度に近い値となる。Ti-6Al-4V 合金および工業用純Ti4種冷間加工材でもTi-15Zr-4Nb-4Ta合金と同様な傾向となる。
図E.3‐4点曲げ試験による耐久性試験から算出したσABの例
図E.5‐楕円形状と応力集中係数の関係(3) 図E.6‐円形状と応力集中係数の関係(4)
E.3熱弾性応力測定
熱弾性応力測定(赤外線応力測定)により、4 点曲げ試験により耐久性試験中に骨プレート表面に発生するσAB、σmaxおよび応力集中係数(σmax/σAB)を実測値は、(E-1)式および(E-2)式から算出されたσABおよびσmax、並びに図 E-3 の形状から計算した応力集中係数の値に、ほぼ等しかった(図E.7および図E.8参照)。特に、図E.8に示したように荷重Pの増加に応じて、σAB およびσmaxの実測値(熱弾性応力測定値)と材料力学的計算値のいずれも直線的に増加している。
熱弾性応力測定(赤外線サーモグラフィ)の原理を次に示す。弾性変形による熱弾性効果においては、Kelvenの法則⊿σ=-⊿T/(k・T)が成り立ち、k=α/(ρ・Cp)となる(5)(6)。
ここで、⊿σ:主応力和の変動(Pa)、⊿T:温度変動(K)、k:熱弾性係数(1/Pa)、T:物体の温度 (K)、α:線膨張係数(1/K)、ρ:密度(kg/m3)、Cp:定圧比熱(J/(kg・K))となる。繰り返し荷重を負荷した状態で赤外線サーモグラフィにより、温度変動⊿Tを計測し、主応力の和⊿σ〔⊿ (σ1+σ2)〕を算出する。その際の熱弾性係数に関しては、引張り試験片を用いて、応力を変化させて実測したキャリブレーションカーブから評価することが望ましい。熱弾性係数の目安としては、工業用純チタン Ti:3.58×10-12、Ti-6Al-4V 合金:3.83×10-12 Pa が参考となる。線膨張係数としては、工業用純チタンTi: 8.4×10-6、Ti-6Al-4V合金:8.8×10-6(1/K)、密度としては、工業用純チタンTi:4.51×103、Ti-6Al-4V合金:4.42×103 kg/m3、比熱としては、工業用純チタンTiおよびTi-6Al-4V合金のいずれも0.52×103 J/(kg・K)が参考となる。
図E.7‐4点曲げ試験により骨プレート表面に発生する応力集中の実測例
図E.8‐σABおよびσmaxの熱弾性応力測定結果と材料力学計算結果の比較
参考文献
(1) 機械工学便覧 A4 材料力学,日本機械学会編,p. 27. (2) 西田正孝著:応力集中(増補版),森北出版,p. 205.
(3) 西田正孝著:応力集中(増補版),森北出版,p. 362.
(4) JIS T 0310の解説
(5) NDIS 3425 熱弾性応力測定法,日本非破壊検査協会,2008
(6) JIS Z 2300 非破壊試験用語,2009,p. 84~p. 87.
附属書F
(参考)
圧縮曲げ試験の力学解析
F.1 概要
JIS T 0313 などを参考にワーストケースでの基本製品を用いて耐久性試験などを予め実施し、縦軸に最大負荷荷重、横軸に破断までの繰り返し数を示したL-N曲線により、106回での耐久限を測定する。耐久限の目安としては、使用体重の半分以上が推奨される。
F.2 圧縮曲げ試験での応力解析
圧縮曲げ試験での応力分布は、図F.1となる。図F.2に示した穴形状と図E.3の関係図などから応力集中係数Kを算出する。近似的には、K=(1+2b/a)となる。耐久性に関して、応力集中係数Kおよびインプラント表面に作用する最大応力との間には、(F-2)式が成り立つ。(F-1)式の最大応力σAなどの関係式を用いることで素材の疲労強度と比較できる。具体的には、プレートの穴形状から計算される応力集中係数Kと同程度の応力集中係数の切欠き(ノッチ)疲労試験片を用いて、JIS T 0310に準じて測定した106回の疲労強度を、骨プレートの耐久限から(F-1)式を用い算出した最大応力σAの値と比較する。(F-1)式の断面係数Zは、(F-3)式より幾何学的に算出できる。
基本製品で関係式を求め、その関係式を用いて変更による影響の有無を確認する。
図F.1‐圧縮曲げ試験での応力分布
図F.2‐曲げモーメントとインプラント表面に発生する応力の関係
附属書G
(参考)
4点曲げ試験による髄内釘の力学解析
G.1 曲率の影響の評価
インプラントに作用する曲げモーメントと材料表面に生成する応力の関係は、図G.1に示すように附属書Eと同じになるが、断面形状により断面係数Zの値が異なる。曲率の影響は、図G.2 に示した応力集中係数と曲率の関係図を用いることで評価できる。曲率が、1~2 mであるためr/d が大きくなり、応力集中係数は1となり、曲率の変化による影響は小さい。
図G.1‐4点曲げ解析
図G.2‐曲率と応力集中係数の関係(1)
【参考文献】 (1) R. E. Peterson: Stress Concentration Design Factors, John Wiley & Sons,
INC., New York, p.36.
附属書H
(参考)
有限要素解析による力学シミュレーション
H.1 有限要素解析による力学シミュレーション
骨格情報から作製した骨モデルにインプラントを装着した状態での有限要素解析が有用となる。
計算に必要な力学パラーメータは、文献値などを参考(1)に行う。以下に参考となるデータを示す。
H.2 材料特性
計算に必要な材料特性を参考として表H-1に示す。
表H.1‐材料特性の例
H.3 解析条件
荷重条件は、生理的方向(例えば、大腿骨骨軸に対し13°内側方向へ傾斜など)に、使用体重
を考慮して負荷(例えば、使用体重約2倍程度)。拘束条件は、大腿骨遠位部を完全拘束とする。
【参考文献】
(1) 岡崎 義光,後藤 恵美子,土居 憲司,野山 義裕 臨床バイオメカニクス,Vol.30,2009- p.229-232. |