| GL:本体 | 
(2)想定する使用環境及び人的要因 
 1)	自動車などの乗り物の振動、転倒による機械的な衝撃、運動に伴う回転などによって機器に不具合を生じないこと。 
 2)	航空機などの気圧の変化、環境の温湿度変化によって機器に不具合を生じないこと。 
 3)	放射線CTの施行で、機器に不具合を生じないこと。(本件は、医学的処置に起因する変化からの能動埋込医療機器の保護として記述しても良い) 
 4)	通常のヒトの体位や体動により、機器及び体内接続部に、不具合を生じないこと。 
 5)	埋込医療機器及びドライブライン等がヒトの体型に合致していて、組織、臓器、器官の圧迫、壊死を生じないこと。 
 6)	ポンプ及び駆動装置の騒音及び振動が受忍限界内であること。 
 7)	体外携帯のコントローラが、負担無く持ち運べる大きさ及び重量であること。 
 8)	バッテリー交換の操作が簡便であること。 
 9)	ドライブライン等がある場合には、その接続に誤操作が生じない機構であること。 
 10)  アラーム(緊急時対応):人工心臓をそのままの状態で放置した場合に著しい不具合が患者に及ぶ事態となった場合に、アラームで警告する機能を備えること。アラームは不具合の種類、内容を明確に表示し、それに対する最も適切な対応方法がマニュアルに記載されていること。ただし患者がパニックにならないよう、処置できる者が到着するまでの安全性を確保すること。 
 11) その他、アラームについては IEC 60601-1-8の規定に準じる。 
  
 (3)ポンプ流体性能  
 1)	連続流ポンプ性能について  ISO 5198, Centrifugal, mixed flow and axial flow pumps — Code for hydraulic performance tests — Precision gradeに準じる。 
 2)	拍動流ポンプ性能について  ISO 4409, Hydraulic fluid power — Positive displacement pumps, motors and integral transmissions — Determination of steady-state performanceに準じる。 
 3)	付帯事項(数値流体解析と可視化実験):患者の日常使用状態ばかりでなく、動物や患者で試験できない状態に対する、血液適合性評価やキャビテーション評価などを目的として、数値流体解析または流れ可視化実験を用いて血流パターンの検討を行うことができる。 
  
 (4)発熱特性 
 ISO 14708-1では、能動埋込医療機器が体内に埋め込まれた状態において、通常運転及び1カ所の故障が発生した状態で、機器の表面温度は体温(37℃)から温度上昇 2℃以内とされているが、人工心臓においては以下の通りとする。 
 1) 人工心臓が埋め込まれた状態において、発熱が周囲組織に障害を及ぼさないこと。特に埋め込まれた部位における隣接組織への影響を考慮し、機器表面でのホットスポットによる局所的な組織傷害が発生しないこと。 
  
 (5)	電気的安全性埋め込み能動機器、及び医用電気機器の電気的安全性規格を遵守すること。下記に準じる。 
 ・ISO 14708-1, Implants for surgery — Active Implantable medical devices — Part 1: General requirements for safety, marking and for information to be provided by the manufacturer 
 ・IEC 60601-1, Medical electrical equipment — Part 1: General requirements for safety and essential performance 
  
 (6)	電磁環境両立性(EMC: emissions & immunity) 
 機器が受ける障害と与える障害、及びその試験条件に関して定める。下記に準じる。 
 ・IEC 60601-1-2, Medical electrical equipment — Part 1-2: General requirements for safety — 
 Collateral standard 
 ・IEC CISPR-11 (ed.3.1): Industrial, scientific and medical (ISM) radio-frequency equipment - 
 Electromagnetic disturbance characteristics – Limits and methods of measurement 
  
 (7)	機器制御・モニタ本項目は「リスク分析」の中に記述されていてもよい。 
 1)	それぞれの機器で想定した流量を安定に維持でき、それぞれの機器の特徴、使用条件、適用対象などを十分に考慮した駆動制御が行えること。 
 2)	機器が安全限界に至る前に、機械的ストッパないし電気的リミッタにより動作範囲を限定できる機構を有すること。 
 3)	機器モニタには、消費電力、電池残量、血流量、脈拍、体温等のうちから必要と思われる計測項目が表示されていること。 
  
 (8)	流入出コンデュイット・人工血管・人工心臓弁・心房カフ 
 1)	流入出コンデュイットは、ISO 7198 (CardioVADcular implants. Tubular VADcular prostheses)に従った評価がなされること。 
 2)	流入コンデュイット・流入側人工血管・心房カフは、吸引に伴う陰圧によって流路に有意な狭窄または閉塞が生じたり空気を吸い込んだりすることがないこと。 
 3)	血液ポンプとの接合部は、引張力、ねじれ、振動、折れ曲がり、シールの維持等の特性についての評価がなされること。 
 4)	接続面は、合併症を起こし得る血栓形成に結びつくような流路間隙や段差がないこと。 
 5)	装置内の人工弁は、本ガイドラインの耐久性・信頼性に関する試験の一部として試験され、最終形態の装置を用いて評価されること。ただし人工弁を最終形態の装置で評価できなければ、その弁をシステムとは独立した状態で、ISO 5840 (CardioVADcular implants - Cardiac valve prostheses)に従って評価し、その妥当性を示すことでもよい。 
  
 (9)素材安全性  
 医療機器の生物学的評価については ISO 10993-1(JIS T 0993)に規定されており、人工心臓は、血液接触の体内埋め込み機器と分類されている。したがって、このISOに準拠すると、下記試験項目を行うことが必要とされる。 
 1)	検討すべき主要評価試験 
 ・ 細胞毒性 
 ・ 感作性 
 ・ 刺激性又は皮内反応 
 ・ 全身(急性)毒性 
 ・ 亜急性及び亜慢性毒性 
 ・ 遺伝毒性 
 ・ 埋植 
 ・ 血液適合性 
 2)	検討すべき補足的評価試験 
 ・ 慢性毒性 
 ・ 発がん性 
 3)	既に埋め込み材料として使用実績のある材料あるいは、埋め込み材料としてのISO,JIS等の規格における生物学的安全性試験を満たしている材料については、実績のある試験項目について省略することが可能である。 
  
 (10)	生体適合性 
 ・ 生体適合性評価については、ISO 10993-1, Biological evaluation of medical devices — Part 
 1: Evaluation and testingに準じる。 
 ・ 特に、血液適合性評価については、ISO 10993-4, Biological evaluation of medical devices 
 — Part 4: Selection of tests for interactions with bloodに準じる。 
 ・ 特に、溶血特性評価については、ASTM F1841-97, Standard practice for Assessment of hemolysis in continuous flow blood pumpsに準じる。 
  
 (11)	動物実験 
 1)システムの使用目的と患者の安全性を十分に考慮したプロトコール、生データ、観察記録、及び結果
 の解釈・考案を記載すること。2)装置に起因すると考えられる高度の血栓塞栓症があってはならない。「高度の」とは、動物の生命を脅かしたり状態悪化を引き起こすような事象を含むものと定義される。高度の血栓塞栓症は、通常の臨床及び検査所見において、上で定義されたような臨床的に許容不可能なレベルの腎又は肝機能障害を引き起こすこと、鎮痛剤投与や他の鎮痛処置によっても制御できない痛み、動物の状態を悪化させ介助を必要とするような体動不能、などによって確認される。 
 3)国際ハーモナイゼーションの観点を尊重し、動物実験の数量及び期間は特に指定しない。ただし使用目的に応じて、6頭60日以上ないし8頭90日以上の動物実験を行い、これをもって臨床試験に移行しても良いという十分な根拠を示せることが望ましい。 
  
 (12)信頼性(耐久性試験) 
 1)	リスク解析等に基づいて、日常の使用において信頼性に関わると思われる箇所を含めて、システムに問題ないことを実証することを、耐久性試験の目的とする。いかなる患者を対象にするかは、申請者が使用目的に述べた条件による。全てのイベントを記録し報告することが基本である。イベントが生じた場合に、試験を打ち切るか、続行するかを事前に決めておく必要がある。 
 2)	システムの信頼性は、申請者が決めた仕様(期間、環境)において、目的とするシステムとしての機能を検証するために必要な試験台数と故障台数で表す。即ち、ReliabilityとConfidence Levelを達成するために必要な試験台数を設定する。 
 3)	耐久性試験の試験条件と期間については、最低限 80% reliability, 60% confidence level で6ヶ月
 の試験が必要であるが、国際ハーモナイゼーションの観点も勘案し、80% reliability, 80% confidence levelで6ケ月以上の試験について検討することを推奨する。なお試験はそのまま継続して、2年間以上実施することが望ましい。機器の特性を考慮して、下表を参考として試験条件の設定を行うこととする。 
 4)	耐久性試験環境は、圧力、流量、拍動性、pH、温度、電解質などの生理学的条件や生活パターンを勘案して決定することを推奨する。 
(13)臨床評価 
   臨床評価プロトコールは ISO 14155-1, ISO 14155-2 に準じ、体内埋め込み型能動型機器(高機能人工心臓システム)審査ガイドライン2007、及び国際ハーモナイゼーション・タスクフォース GHTF SG5(PD) 
 N1R7 及び N2R7を指針とする。 
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| GL:付属資料 | 
文 献 
  
 (1)関連規格(ISO,IEC,ASTM) 
  
 1)ASTM F1841-97, Standard practice for Assessment of hemolysis in continuous flow blood pumps 2)IEC 60300-3-2, Dependability management — Part 3-2: Application guide — Collection of dependability data from the field 
 3)IEC 60601-1, Medical electrical equipment — Part 1: General requirements for safety and essential performance 
 4)IEC 60601-1-2, Medical electrical equipment — Part 1-2: General requirements for safety — Collateral standard:Electromagnetic compatibility — Requirements and tests 
 5)IEC 60601-1-6, Medical electrical equipment — Part 1-6: General requirements for safety — Collateral standard: Usability 
 6)IEC 60601-1-8, Medical electrical equipment — Part 1-8: General requirements for safety — Collateral standard: Alarms 
 7)IEC - CISPR-11, Industrial, scientific and medical (ISM) radio-frequency equipment  
 – Electromagnetic disturbance characteristics – Limits and methods of measurement 
 8)IEC/TR 60878, Graphical symbols for electrical equipment in medical practice 
 9)IEC 62304, Medical device software — Software life-cycle processes 
 10)ISO 5198, Centrifugal, mixed flow and axial flow pumps — Code for hydraulic performance tests — Precision grade 
 11)ISO 4409, Hydraulic fluid power — Positive displacement pumps, motos and integral transmissions 
 — Determination of steady-state performance 
 12)ISO 5840, CardioVADcular implants — Cardiac valve prostheses 
 13)ISO 7198, CardioVADcular implants —Tubular VADcular prostheses 
 14)ISO 10993-1, Biological evaluation of medical devices — Part 1: Evaluation and testing 15)ISO 10993-4, Biological evaluation of medical devices — Part 4: Selection of tests for interactions with blood 
 16)ISO 13485, Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes 
 17)ISO 14155-1, Clinical investigation of medical devices for human subjects —  Part 1: General requirements 
 18)ISO 14155-2, Clinical investigation of medical devices for human subjects —  
 Part 2: Clinical investigation plans 
 19)ISO 14708-1, Implants for surgery — Active Implantable medical devices —  
 Part 1: General requirements for safety, marking and for information to be provided by the manufacturer 
 20)ISO 14971, Medical Devices — Application of risk Management to medical devices   (2)参考文献(体内埋め込み型能動機器) 
  
 1.FDA:Preparation and contents of application for ventricular assist devices and total artificial hearts, FDA No. F89-33838 (1987) 
 2.NIH: Phased readiness testing of implantable total artificial hearts, request for proposal, NHLBI-HV-92-28 (1992) 
 3.ASAIO-STS:Long-Term Mechanical Circulatory Support System Reliability Recommendation (1998) 
 4.AAMI: TIR26:2000心室補助及び心臓置換システム(2000) 
 5.NEDO: 臨床応用に向けた体内埋め込み型人工心臓システム総合評価実験プロトコール(NEDOプロジェクト)(2001) 
 6.日本人工臓器学会:重症心不全に対する治療機器の臨床試験ガイドライン(2003) 
 7. ISO-14708-5 (Draft): Implants for surgery – Active implantable medical devices  
 Part 5: Particular requirements for circulatory support devices (2005) 
 8.L.W. Stevenson, R.L. Kormos, et al.: Mechanical cardiac support 2000: current applications and future trial design: June 15–16, 2000 Bethesda, Maryland, Journal of the American College of Cardiology, Vol. 37, No. 1, pp.340-370 (2001) (総説) 
 9.Nelson W, Weibull. Analysis of reliability data with few or no failures. J Qual Tech 1985;17:140 
 –146.(信頼性解析)  
A 完全置換型人工心臓への補足 
 1)	本ガイドラインでは補助人工心臓(VAD: Ventricular Assist System)と完全置換型人工心臓(TAH: 
 Total Artificial Heart)の両者を取り扱うこととした。 
  
 2)	適用目的が共通している限り、VADとTAHを区別する必要はなく、共通する一般原則について指針を示した。ただし、個々の機器の特徴に合わせた評価は、別途行わなければならない。 
  
 3)	ガイドラインに特記していないが、評価基準設定に影響するVADとTAHの差異としては、以下のような項目がある。 
 3-1	心房カフはTAH特有の構成部品である。逆に、VADの場合は、送脱血コンデュイット、心尖カフ、脱血管チップなどが特有の構成部品といえる。 
 3-2	VADはBTT、BTR、DT全てへの使用機会があるが、TAHにはBTRへの使用可能性はない。 
 3-3	TAH及びBVADでは左右流量バランスが重要であり、それぞれの機器の特徴、使用条件、適用対象などを十分に考慮した駆動制御が行える必要がある。 
 3-4	解剖学的適合性は、VAD及びTAHともに必要であるが、TAHではより厳しく問われるであろう。これについては、「意図する使用目的」に含めて記述しても良い。 
 3-5	機器停止に対する対策は、VAD及びTAHともに必要であるが、TAHではより厳しく問われるであろう。「意図する使用目的」に含めて記述しても良い。 
  
  
  
 B 耐久性試験への補足 
 1.耐久性試験にいう「生理学的条件や生活パターン」とは 
 1)	流体には生理食塩水(0.9wt% NaCl)またはグリセリン食塩水溶液(粘度調整)を用いる。その
 他の流体を使用する場合は説明を加える。なおセンサには試験期間これに対応できるものが必要。
 蒸発に対しては蒸留水添加で補う。 
 2)	温度はデバイス内外とも、摂氏37度±3度に維持する。 
 3)	拍動流の設定方法:申請者が機器の使用目的で述べた心機能条件に合わせ、不全心をどのように設定したかを圧力波形・流量波形等で示す。申請者によって無拍動流での設定もありえるが、説明を加える。 
 4)	流量設定:申請者により生活パターンを、流量変化(弁開閉)として盛り込むことができる。 
  
 2.耐久性試験にいう「イベントが生じた場合に、試験を打ち切るか、続行するかを事前に決めておく」ことの例は 
 耐久性試験システムは、被験デバイス、流体回路、センサ・記録系からなると考えると、 
 1)	被験デバイス自身のイベント: 原則的に試験を停止して詳細検査。 
 2)	被験デバイスの電流異常・停電: 上記のうち製造過程によらない原因明瞭な電源遮断(停電、落雷、操作ミス)は、ロスタイム記録を残した上で修理して続行。また被験デバイスの摩耗等の原因で当然予想される電流増加については試験続行。 
 3)	流体回路・拍動機構のイベント:水漏れ等が生じた場合、出来る限りデバイス動作を維持したまま修理して試験続行。デバイスを停止させた場合はロスタイムを記録して再開。回路流体の再調整、洗浄の場合もこれに含まれる。 
 4)	センサ・記録系のイベント:出来る限り修理して、あるいはバックアップに切り替えて、試験続行。 
  
  
  
 C 自宅復帰に関する補足 
 次世代型の人工心臓では、病院外で良好なQOL(療養生活の質)を保つことが望まれる。そのためには、臨床試験を行う人工心臓に応じた自宅復帰プログラムが必須となる。これまでの補助人工心臓装着例における自宅復帰プログラムに関して国内アンケート調査を行ったが、その結果もふまえ、下記の要件を含む自宅復帰プログラムを作成することを推奨する。 
  
 1)	人工心臓を扱う病院医療チームを整える。 
 2)	患者及び介護者のトレーニングシステムを整える。 
 3)	住宅条件を含めた退院許可基準を定める。 
 4)	在宅時における緊急時の患者、介護者及び病院の対応方法を明らかにするとともに、必要な地域(消防署等)への協力要請も検討すること。 
 5)	在宅時の患者及び機器のモニタリング方法を整える。 
 6)	機器の保守点検法を整える。 
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