8.関連法令・規制・規格
1) 再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
2) ISO 13408-1 ヘルスケア製品の無菌操作-第 1 部:一般要求事項
3) ISO 13408-7 ヘルスケア製品の無菌操作-第 7 部:医療機器及び複合製品の代替プロセス
4) ISO 18362 細胞ベースのヘルスケア製品の製造―操作中の微生物リスクの管理
5) JIS T 60601-1-8 医用電気機器-第 1-8 部:基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項―副通則:医用電気機器及び医用電気システムのアラームシステムに関する一般要求事項、試験方法及び適用指針
6) ICH Q9 品質リスク管理
7) JIS T 14971 医療機器―リスクマネジメントの医療機器への適用
8) ISO 9001 品質マネジメントシステム
9) ISO 13485 医療機器―品質マネジメントシステムー規制目的のための要求事項
Appendix
A1 インキュベータの分類
A1.1 インキュベータの仕様・種類
インキュベータは加温方式、センサ方式、制御するガスの種類の 3 点において、それぞれ大別される。庫内を加湿する機能はほぼすべての機種に具備されているが、培養容器の仕様によっては、加湿機能を使用しない場合もあり、使用者の判断に委ねられている。
その他、インキュベータ内の容器(以下チャンバー)の容積は、培養容器と製造規模にあわせてさまざまなバリエーションが存在する。
A1.1.1 加温方式による種別
インキュベータは庫内を加温する方式によって 2 種類に分けられる。ひとつはチャンバーの周囲を水槽で囲む構造を持ち、水槽内の水を加温することで間接的に庫内の温度を制御するタイプ、またもうひとつは、チャンバーの周囲をヒーターで覆い、直接的にチャンバーを加温するか、あるいはチャンバーの周囲の空気を介して間接的に庫内の温度を制御するタイプである。一般的に、前者をウォータージャケット方式、後者をダイレクトヒートもしくはエアージャケット方式と呼称する。
1) ウォータージャケット方式
ウォータージャケット方式は、比熱の大きい水を加温の媒体としているため、不意の停電等による温度低下で細胞にダメージを与えるリスクを軽減する利点がある反面、その水がインキュベータ周辺の微生物汚染の根源となる懸念や、定期的に水の交換が必要となるといった管理面が必要となる
2) ダイレクトヒートもしくはエアージャケット方式
停電時の温度変動はウォータージャケット方式と比較して大きいが、扉の開閉等で変化した庫内の温度を元の温度へ復帰させる時間は短い。インキュベータ周辺への微生物汚染のリスクが低く、清浄度管理区域での使用に適し、安全キャビネットやアイソレータに直接接続する使用や、また、構造的な利点を生かして、乾熱滅菌機能が付属するモデルが登場する等、近年のトレンドとなっている。
A1.1.2 センサ方式による種別
インキュベータは庫内の CO2ガス濃度を感知するセンサの方式によっても 2 種類に分けられる。ひ熱電対方式のセンサを使用するタイプ、もうひとつは赤外線式のセンサを用いるタイプである。
1) 熱電対方式
CO2ガス濃度の変化と熱伝導の変化に相関性があることを利用した感知方式で、構造が単純であるためコストが安いが、湿度変化の影響を受けると誤差を生じる。
2) 赤外線方式
CO2ガス濃度の変化が、波長 4.3μm の赤外線を吸収率と相関性があることを利用した感知方式で、湿度の影響を受けないが、コストが高い。
A1.1.3 制御するガスによる種別
インキュベータは庫内で制御するガスの種類によっても 2 種類に分けられる。ひとつは CO2ガスを供給することにより CO2ガスの濃度のみを制御するタイプ、そしてもうひとつは、CO2 ガスに加え、酸素ガスもしくは窒素ガスを供給することによって、高酸素濃度もしくは低酸素濃度に制御するタイプである。一般的に、前者を CO2インキュベータ、後者をマルチガスインキュベータと呼称する。
図 A1.1:インキュベータの加温方式による種別
A1.1.4 設置条件に準じた分類
インキュベータには公的規格はなく、古くは電気ふ卵器の電気安全規格が比較的近い機器である。設置条件に準じた分類とその特徴を示す。なお、本ガイドライン(手引き)における接続型インキュベータでは、庫内の清浄度レベル基準に係る議論は行わない。庫内の清浄度管理および無菌操作等区域(安全キャビネット/アイソレータ)への培養容器出し入れの手順は、GCTP 省令に適合するように、ケースバイケースで、適切に設計されることを前提とする。
1) 製造作業室への単独設置型(内部滅菌無し)
庫内の加温方式別に、ダイレクトヒート式、エアージャケット式、ウォータージャケット式がある。また、制御可能なガスの種類により、CO2 インキュベータ(CO2ガス濃度のみ)、マルチガスインキュベータ(CO2ガス濃度と O2ガス濃度)がある。その他、しん揺装置付き、内部培養容器搬送装置付き等の機能を有するタイプもある。
図 A1.2:ダイレクトヒート型、エアジャケット型の CO2インキュベータ
2) 製造作業室への単独設置型(乾熱滅菌機能または除染機能付き)
庫内を 140~180℃で乾熱滅菌するタイプや過酸化水素で除染するタイプがある。
培養中に庫内で増殖が懸念される微生物を定期的に低減する目的の機能として装備されている。また、殺菌灯で庫内循環空気に存在する微生物を低減させるタイプもある。
図 A1.3:乾熱滅菌機能付き、過酸化水素除染機能付きの CO2インキュベータ
3) 安全キャビネット等への接続型①
開口部を安全キャビネットの側面に設け、安全キャビネットと連結したインキュベータ。自動搬送機構を組み込むことにより、培養容器を作業者と同じ空間に暴露せず、直接安全キャビネットに培養容器を出し入れすることができ、汚染リスクを抑制することが可能となる。
図 A1.4:安全キャビネット接続型インキュベータ
4) 安全キャビネット等への接続型②
基本的な温度やガスの制御に加え、加湿トレイに対するダイレクトヒーティングにより積極的な湿度の維持機能が備わっている。マグネット・カップリングにより駆動系機器を庫外に配置することで、振動や機械的故障を解消している。また庫内の収納プレートラックと庫外の搬送ロボットにより、プレートラックおよび安全キャビネットへの培養容器の自動搬送機能を有している。さらに培養容器搬送時の庫内環境の変動を軽減するため、庫内の搬送口には多段式シャッター機構を搭載している。
図 A1.5:安全キャビネット接続型インキュベータ
5) アイソレータへの接続型
基本的なインキュベータとしての要件(温度維持、湿度やガス等の供給)は備える。
アイソレータの内部環境の除染と同時またはインキュベータ単独で内部の除染が可能であり、一定のリーク率で管理されている。アイソレータとの接続時または単独運転時に陽圧維持が可能であり、培養環境維持のため空気やガス等の供給経路へのフィルタと内部の清浄度維持のための HEPA フィルタによる換気システムを持つものもある。アイソレータと常時接続または要事接続が可能である。
図 A1.6:アイソレータ接続型インキュベータ
6) 自動入出庫対応インキュベータ
庫内の培養容器搬送が機械制御になっており、作業者が庫内に手を挿入することなく培養容器の入庫・出庫が行える機能を有する装置。自動搬送により、作業者由来の汚染防止のみならず、ヒューマンエラーによる取り違えや液こぼれ等の逸脱の発生の抑制が期待できる。また入出庫の際のみ外部へのゲートが開閉するため、庫内環境の変化を低減できることもメリットの一つである。培地交換機能や培養容器内の観察機能を有するものや、前述の安全キャビネット、アイソレータと接続された一体型など、目的に応じた様々な活用事例がある。
図 A1.7:自動入出庫対応インキュベータ
A1.2 性能と試験方法
A1.2.1 性能
インキュベータとして維持されるべき基本性能は、庫内の温度性能、湿度性能、ガス濃度性能である。温度性能は、温度精度・温度分布精度・温度変動幅を、湿度性能は、最大湿度・最低湿度を、ガス濃度性能は、CO2ガスもしくは O2ガス濃度を対象とする。また付属機能として除染あるいは滅菌機能を具備するタイプは、その性能もあわせて確認する。
A1.2.2 試験方法
1) 温度
温度精度性能、温度変動幅性能、温度分布性能の 3 項目について、校正された温度測定機を使用しメーカー規定に基づいて測定を実施し、メーカー規定の基準値との差を確認する。
2) ガス濃度性能
ガス濃度性能は、校正されたガス濃度計を使用して、インキュベータに付属するガスサンプルポート等から採取したインキュベータの庫内のガス濃度を測定し、メーカー規定の基準値との差を確認する。
3) 除染・滅菌性能
除染あるいは滅菌の性能は、庫内の空間を対象とし、メーカー指定のインジケータ等を使用して確認する。【参考資料】インキュベータの庫内清浄度維持に関わる機能と手段
本書でも度々触れられている通り、インキュベータ運用の最大の課題は庫内の清浄度管理と汚染防止である。これら諸問題の多くは正しく運用することで対処できるものが殆どだが、メーカー各社からは清浄度管理と汚染防止に寄与する様々な付加機能や製品が販売されている。ここではその一例を示す。
1) 乾熱滅菌機能
庫内を 140~180℃の高温状態にすることで、庫内の乾熱滅菌・除染処理を行うことができる機能。メーカーによって実施温度、処理時間や除染能力には様々なバリエーションがある。薬剤などを使用せず、装置単独で実施することができる。処理中は多くの消費電力を必要とすること、10~12 時間程度のダウンタイムが生じることを考慮しなくてはならない。
図 A1.8:乾熱滅菌機能の処理サイクル例
2) 過酸化水素除染
過酸化水素を気化(ドライ式)あるいは霧状(ウェット式)で拡散することで大気中および接触する対象物の除染を行う方法。過酸化水素の強い酸化力を用いた除染方法で、日本の PIC/S 加盟後にホルマリン除染代替法として急速に普及した背景がある。常温で実施できる有効な方法だが、空間体積や環境温度・湿度に対する最適化や、除染範囲内にある物質の変色や変形、腐蝕などの他、除染対象物が過酸化水素に曝露するよう配置にも考慮する必要がある。除染後は細胞毒性の懸念から、庫内に滞留する過酸化水素の濃度低下を待って培養を開始する必要があるが、UV ランプによって過酸化水素の分解を促進する機能を持つ製品もある。
3) 過酢酸除染
過酢酸水溶液を霧状(ドライフォグなど)で噴霧拡散することで大気中および接触する対象物の除染を行う方法。過酸化水素除染と同様に酸化力を用いた除染方法で、常温で実施できる有効な方法だが、空間体積や環境温度・湿度に対する最適化や、除染範囲内にある物質の変色や変形、腐蝕などを考慮する必要がある。中和後には酢酸が生成されるため、実施する濃度によっては独特の酢酸臭がする場合がある。あらかじめ最適な濃度で希釈されたスプレー式の除菌剤として、日常的な除菌・殺菌手段として普及が進んでいる。
4) 銅チャンバー
庫内の壁面を含む露出する構成部品をすべて 100%純銅とすることで、銅そのものが持つ銅イオンの殺菌能力で庫内を抗菌状態で保つことができる機能。ランニングコストがかからず、半永久的に抗菌力を維持できる事がメリット。欧米では広く普及しているが、酸化による緑青で外見が見苦しくなること、一般的なステンレス製と比較すると高価であることから、日本での認知度・普及度は低いが、現在では銅の抗菌力とステンレスの耐腐食性を兼ね備えた銅合金ステンレスを庫内の壁面や棚に使用する製品も存在する。
5) HEPA フィルタ、庫内用フィルタ
庫内のエアフロー経路中に HEPA フィルタを装備し、雰囲気が循環することで庫内を ISO クラス 5 相当の清浄度に維持することができる機能。ドア開閉時に外部から侵入する空気中の汚染源をフィルタで捕捉できるのがメリットだが、定期的な交換が必要であること、クリーンベンチなどとは異なり、あくまで補助的な付加機能であることを理解しておく必要がある。
6) UV ランプ
庫内の循環ダクト内に装備し、庫内の空気と加湿水を一定時間照射することで微生物の増殖を抑制する機能。定期的な交換が必要であること、またあくまでも補助的な付加機能であることを理解しておく必要がある。
7) 加湿水の水質維持剤
銀イオンや銅イオンなど殺菌性を持つ素材を用いて、庫内加湿用バット内にて徐放させ水質を維持するもの。
8) 加湿水用バッグ
タイベック等の水を通さず水蒸気・気体のみを透過する透湿性素材を用いて、庫内の加湿用水を密閉状態で利用できるもの。加湿水を暴露させることなく取り扱うことができる。
図 A1.10:加湿水用バッグの例
A2:インキュベータの性能試験方法事例
インキュベータ庫内の環境制御機能を確認するための試験方法の事例を示す。
1) 温度分布試験
運転時にインキュベータの温度制御性能と温度分布性能が仕様通りであることを確認する。
試験前に設置環境の温度が仕様範囲内で安定していることを確認する。
インキュベータを設定したパラメータで運転し、試験要領に基づいた暖気運転を行ったあと、温度センサをインキュベータの庫内に設置する。
センサの計測点や計測数については、メーカー標準の試験要領によって異なるが、参考規格として JTM K07:2007 および 1998 [温度試験槽-性能試験方法及び性能表示方法]を参考として用いることが多い。
試験要領に基づき、装置が設定パラメータにて安定したことを確認した後、規定期間・規定頻度での計測を実施する。
2) ガス濃度制御試験
運転時にインキュベータのガス濃度の制御性能が仕様通りであることを確認する。
試験前に設置環境の温度が仕様範囲内で安定していることを確認する。
装置へのガス供給圧力が仕様通りであることを確認する。
インキュベータを設定したパラメータで運転し、試験要領に基づいた暖気運転を行ったあと、装置に装備されている庫内空気の測定用ポートに計測器を接続する。
装置が測定用ポートを有していない場合、あるいは庫内に直接センサを導入する場合は、内扉あるいは装置装備のアクセスポートを利用して設置する。
センサの計測点や計測数については、メーカー標準の試験要領に準ずる。
試験要領に基づき、装置が設定パラメータにて安定したことを確認した後、規定期間・規定頻度での計測を実施する。
3) 温度・ガス濃度の復帰速度試験
運転時のインキュベータの内扉(ガラスドア)を開けた後、庫内環境維が設定値に復帰するまでの時間が仕様通りであることを確認する。
温度分布試験、ガス濃度制御試験に連続して実施することが殆どで、温度およびガス濃度の計測が準備状態で実施する。
試験前に設置環境の温度が仕様範囲内で安定していることを確認する。
インキュベータを設定したパラメータで運転し、試験要領に基づいた暖気運転を行ったあと、内扉を 20~30 秒(試験要領に基づく)開放した後に閉める。
設定値あるいは要領書規定の数値に到達するまでの、復帰時間および庫内環境の温度・ガス濃度を計測する。
<計測点・計測数>
図 A2.1:JTM K07:1998(通称 JTM 規格)におけるインキュベータ庫内の計測点・計測数の例
A3:インキュベータの清浄化作業の事例
インキュベータの清浄化作業は初期搬入時及び製造運転時には事前に決定された期間とやり方に準じて実施する。以下に清浄化作業として、清掃、消毒、除染・滅菌作業の事例を示す。
1) 内外面の清掃(清拭)作業の事例
初期搬入にあたり、インキュベータを設置する作業室へ搬入後、外面を覆う輸送用の養生材を取り外す。養生材を取り外した後、外面を清拭していく。清拭作業は、天井面、壁面などに 70%エタノールをスプレーし、不織布等で清拭する。エタノールの代わりにイソプロパノールやそれ以外の薬剤を使用してもよいが、耐薬剤性についてはメーカーに確認すること。外面を清拭後、同様の手順で内面を清拭する。内部に取り外し式の棚板などがある場合は、取り外したうえで棚板などの全面を清拭する。エアフィルタなどの内部に突起物があり清拭により繊維が残存する可能性があるので必要に応じ薬剤を吹き付けるのみとする。清拭終了後、5 分程度乾燥させる。清拭に使用する不織布は使い捨てのものを使用し、一定の面積を清拭したら新品と取り替えることが望ましい。清拭手順として、天井面を清拭後、不織布を下方向へと移動していく。清拭対象面は不織布を一方向に動かす(往復運動は付着汚れを拡散させる可能性があるため)。
2) 消毒作業の事例
メーカーに推奨消毒剤の有無を確認し、ある場合はその薬剤情報(推奨濃度、使用法の情報)を入手する。消毒に用いる消毒剤の種類としては、過酢酸、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムなどがあり、第 17 改正日本薬局方(平成 28 年 3 月
7 日厚生労働省告示 64 号)参考情報「消毒法及び除染法」の記載事項が参照できる。具体的な消毒作業としては、消毒剤を対象に噴霧し、規定時間作用させた後、不織布等で清拭を行っていく。使用する不織布等は使い捨てのものを使用し、予め滅菌処理がされたもの、若しくはオートクレーブにて滅菌処理を行ったものを使用する。自己発塵が少なく、繊維の毛羽立ちが少ない不織布等(長繊維で作られクリーンルーム専用のものも市販されている)を使用すると良い。一定の面積を清拭したら新品と取り替えることが望ましい。インキュベータ内部の消毒を行う箇所は、培養容器の設置場所、天面、壁面、前面パネル(ガラスなどにより 2重扉の場合はガラス面の内外面)、底面の内側とする。内部に取り外し式の棚板などがある場合は、取り外したうえで棚板などの全面を消毒する。エアフィルタなどの内部に突起物があり清拭により繊維が残存する可能性がある場合、必要に応じ消毒剤を吹き付けるのみとする。清拭順序としては、天面、側面、背面、前面パネルと底面とする。壁面の清拭方法としては、上から下に一方向に不織布等を動かして清拭していく。天面と底面は、基本的に奥側から手前方向に清拭する。消毒剤の残留の影響が懸念される場合は、消毒終了後、残留消毒剤の乾燥や除去を行う。消毒剤を原液から希釈する等の濃度調製を行う場合は、予め定めた手順に従い実施する。また、定めた測定法に従い、調製後の消毒剤濃度が所望の濃度となっていることを測定する。調製した消毒剤の管理・保管については、保管場所、保管方法、保管環境、保管期間等を予め定め、それに従い適正に管理する。消毒の方法は、具体的な手順を明文化しておくこととする。
3) 除染・滅菌作業の事例
メーカーに推奨する除染・滅菌作業の有無を確認し、除染・滅菌に対応可能なインキュベータにおいて、メーカーの推奨する作業を行う。
A4:インキュベータの除染性能試験(過酸化水素蒸気を利用)方法事例
インキュベータ内部を除染する場合に必要な確認・試験項目を事例として挙げる。メーカーの除染方式により、それぞれの確認・試験項目に違いが出ることもある。本ガイドライン(手引き)では代表的な確認・試験項目のみを列記するが、詳細の実施プロトコルはメーカーの運用基準に準じる。製造作業所の室内除染と同時にインキュベータ内部の除染
を行う場合などは、除染剤の影響や残留等に関わる評価をしておく必要がある。
1) 温度分布確認
2) 蒸気分布確認
3) 除染サイクル開発
4) 残留濃度確認
図 A4.1:除染サイクル開発時バイオロジカルインジケータの設置
A5:適格性確認
1) User Requirement Specification(URS)
URS はユーザー要求(UR)を仕様書として文書化したものである。URS は設備の詳細についても記述する必要がある為、必ずしもユーザー側のみで作成する必要はなく、メーカーなど設備の専門家と共同で作成することを推奨する。
記述する仕様については、詳細に記載しすぎるとメーカーや型式を限定したり、仕様の変更を行うたびに URS を改訂することとなる為、品質への影響が大きい仕様に限定して記述することが望ましい。
URS 作成時にはインキュベータおよび GCTP 省令に関する有識者を集めてリスクアセスメントを行い、設備に潜在するリスクの洗い出しを行うことが望ましい。洗い出したリスクの中に許容できないリスクが検出された場合は、リスク低減策を検討しその策を URS の項目に盛り込むことで、リスクを許容レベル以下に抑えた URS を作成することができる。
URS の記載内容(例)は以下の通りである。
目的・対象範囲・用語の定義・法規、基準・プロセス概要・設計仕様(IQ 検証範囲)・性能仕様(OQ、PQ 検証範囲)・環境、安全に関する要求仕様・計装、自動化に関する要求仕様・図書、メンテナンスに関する要求仕様
2) Qualification Master Plan(QMP)
QMP は適格性確認を実施するための手順やルールを文書化したものであり、URS 作成後すぐに作成し DQ 実施前までにはバリデーション責任者の承認を受ける必要がある。
QMP の記載内容(例)は以下の通りである。
適用範囲・体制および役割・設備概要・文書責任(役務範囲)・逸脱管理手順・変更管理手順・文書作成方法・文書承認手順
3) Risk Assessment(RA)
ICH(日米 EU 医薬品規制調和会議)より 2006 年に発行された Q9 品質リスクマネジメントでは医薬品が患者の健康に対するリスクを低減させるために、設備または施設の設計時・据付時・運用時そして設備・施設の廃棄までライフサイクルを通して品質リスクアセスメント活動を行い、必要に応じてリスクを低減させる対策を講じることを推奨している。
再生医療等製品においても同様に品質リスクマネジメント活動を行い、患者の健康へのリスクを低減させることが望まれる。
リスクマネジメントプロセスは以下のフローに従って実施する。
参照:ICH Q9 ブリーフィングパック
Risk Identification(リスク特定):ブレーンストーミングなどを行い、リスクを洗い出す。
Risk Analysis(リスク分析):それぞれのリスクの原因と可能性を決定する。
Risk Evaluation(リスク評価):リスクレベルを特定する為に数値化方法を採用する。
Risk Reduction(リスク低減):リスク低減策を特定し、低減策の効果を評価する。
Risk Acceptance(リスク受容):リスク再評価後、残留リスクが許容できるかどうか判断する。
Review Events(事象レビュー):リスクアセスメント結果のレビューを定期的に実施し、受容できないリスクが検出された場合は、対象リスクへの低減策を検討する。
図 A5.1:リスクマネジメントプロセスのフロー
リスクマネジメントプロセスの手法は特に限定されていないが、一般的には FMEA(欠陥モード影響解析)を使用することが多い。リスクアセスメントで最も重要なポイントはリスクを評価する基準と許容リスクの閾値である。これらの数値は、品質保証責任者を初め、各方面の専門家で十分な協議を行って決定する必要がある。
4) 設計時適格性確認(DQ)
DQ はインキュベータに対して、メーカーから作成・提出される製作仕様書や設計図書の内容が、「URS を満足していること」及び「GCTP 省令上、遵守すべき要件が設計図書に反映されていること」を確認・記録する目的で実施し、その結果を文書化する。DQ は詳細設計完了時または製作仕様書受領時に実施する。実施は以下の流れに従って行う。
URS 要求項目および GCTP 省令の要件項目を網羅したチェックリストを作成し、要領書と一緒に実施前までにバリデーション責任者の承認を受ける。
関連する図書や図面を準備し、各要求項目が図書または図面に反映されていることを確認する。
確認についてはメーカーの専門家も含めた会議形式で実施する方が、担当者の製品品質および設備機能についての理解が一層深まるので、会議形式による確認を推奨する。
確認が完了したチェックリストを報告書と一緒にバリデーション責任者の承認を受ける。
5) 据付時適格性確認(IQ)
IQ では、インキュベータが URS、設計図書及びメーカー製作仕様書に従って製作・設置され、また対象とする GCTP 省令の要求に適合していることを確認し、その結果を文書化する。
【実施項目参考例(インキュベータ)】
外観検査、寸法検査、据付位置検査、材質検査、制御盤検査、配線検査、I/O 検査、構造検査
6) 計器の校正(CAL)
CAL では、CAL 対象計器の必要とされる精度を考慮し、適切な標準器や標準試料を用いて計測器の示す値と真の値とを比較し記録する。CAL は IQ の一部として取り扱うことも可能である。
CAL は全ての計器に対して行う必要はなく、製造する再生医療等製品の品質へ影響を与えるパラメータ(CPP:Critical Process Parameter)を測定する計器のみを対象とする。
また、CAL は運用開始後も予め決められた期間で定期的に実施する必要があるので、品質とランニングコストのバランスを考慮して対象計器を決定する必要がある。
【対象計器例(インキュベータ)】温度計、ガス濃度計
7) 運転時適格性確認(OQ)
OQ では、IQ・CAL 完了後にインキュベータが関連する URS、設計図書及びメーカー製作仕様書に従って動作し、また対象とする GCTP 省令の要求に適合していることを確認し、その結果を文書化する。
【実施項目参考例(インキュベータ)】アラーム検査、インターロック検査、動作検査、温湿度分布検査(無負荷)、ガス濃度分布検査(無負荷)、停復電検査
8) 性能適格性確認(PQ)
PQ では、全ての施設・設備の OQ 完了後にインキュベータが、生産する再生医療等製品に関する承認された手順に基づき、品質規格を満たしかつ再現性よく生産できることを確認し、その結果を文書化する。
9) コンピュータ化システムバリデーション(CSV)
コンピュータ化システムバリデーションは GAMP5 及び厚労省「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン(案)」に従って実施することが一般的である。CSV の実施内容はシステムの複雑性、重要性、供給者の品質管理能力によって変動する。従って、カテゴリー分類評価やサプライヤオーディットを行い、評価結果により決定したカテゴリー分類により実施内容が決定する。実施内容(例)を以下に示す。
表 A5.1 コンピュータ化システムバリデーションの実施内容(例)
A6:インキュベータのリスクコントロールの選択肢
以下にインキュベータのリスクコントロールの事例を記載する。各項目の中からそれぞれのリスクに応じて選択してよい。
1) 作業者が入室する製造環境に設置されたインキュベータのリスクコントロールの選択肢
a) インキュベータからの培養容器出し入れ前に、設置作業室の環境基準に準じた作業者の無菌更衣並びに作業前後の手指グローブの消毒
b) 培養容器の開放を伴う無菌操作等区域の環境へ培養容器を出し入れ前の、培養容器外面と作業者の手指グローブへの環境基準に準じた措置
c) ガス供給経路へのフィルタ導入
d) インキュベータ内部の清浄度維持のための換気システム
e) インキュベータ設置部での気流:インキュベータ側から作業者側への流れ
注)培養容器等の開放は安全キャビネット内部等で行われるので、この場合はインキュベータの扉開放時に作業者由来による外因性微生物による汚染防止を重視した。アイソレータなど作業者を排除したクリーンエア装置に接続した場合は、この限りではない。また、インキュベータ庫内に汚染が無いことを前提に記述しているが、庫内の汚染が確認された場合は作業者を介在した汚染拡大リスクが懸念されるので、採るべき措置を決めておくこと。
f) 定期的なフィルタの交換
注)通常は半年ごとの交換が望まれる。半年以上の長期の培養期間が必要な場合は、長期のフィルタの堅牢性を確認しておくこと。
g) 加湿用水などでの湿度供給の場合、UV 灯設置、フィルタ導入または無菌的供給等による環境微生物の予防的管理
h) 不要な扉開放並びに開放時の会話・不要動作などの禁止 i) 定期的な庫内の清掃と消毒または除染
注)作業者の操作に伴う、培地等付着物の微小な蓄積は避けられないが、庫内の汚れや汚染が無い場合は、製造時の培養期間が終了した時点で行うことが望ましい。庫内の汚れや汚染が確認された場合は、設置環境基準に準じた復帰作業を行い、作業環境への交差汚染と製品への影響を考慮した採るべき措置を決めておくこと。インキュベータ内部の除染を行う場合は室内への除染剤の漏れ量が職業曝露限界(以下、OEL)基準値以下であることを考慮しなければならない。
2) 安全キャビネット等に直接接続されたインキュベータのリスクコントロールの選択肢
a) 設置作業室の環境基準に準じた作業者の無菌更衣並びに作業前後の手指グローブ消毒と無菌操作等区域となる安全キャビネット内部での操作前に必要な措置
b) ガス供給経路へのフィルタ導入
c) インキュベータ内部の清浄度維持のための換気システム
d) 扉開放前の安全キャビネットの運転と開放時の気流
注)インキュベータ庫内に汚染が無いことを前提に記述しているが、庫内の汚染が確認された場合は作業者を介在した汚染拡大リスクが懸念されるので、採るべき措置を決めておくこと。
e) 定期的なフィルタの交換
注)通常は半年ごとの交換が望まれる。半年以上の長期の培養期間が必要な場合は、長期のフィルタの堅牢性を確認しておくこと。
f) 加湿用水などでの湿度供給の場合、UV 灯設置、フィルタ導入または無菌的供給等による環境微生物の予防管理
g) 不要な扉開放
h) 定期的な庫内の清掃と消毒または除染
注)作業者の操作に伴う、培地等付着物の微小な蓄積は避けられないが、庫内の汚れや汚染が無い場合は、製造時の培養期間が終了した時点で行うことが望ましい。庫内の汚れや汚染が確認された場合は、接続された設備の環境基準に準じた復帰作業を行い、作業環境への交差汚染と製品への影響を考慮した採るべき措置を決めておくこと。除染を行う場合は室内への除染剤の漏れ量が OEL基準値以下であることを考慮しなければならない。
3) アイソレータシステムに導入されたインキュベータリスクコントロールの選択肢
a) 設置作業室の製造環境基準に準じた作業者の無菌更衣並びに作業前後の手指グローブの消毒
b) ガス供給経路へのフィルタ導入
c) インキュベータ内部の清浄度維持のための HEPAフィルタを用いた換気システム
d) 扉開放前のアイソレータの運転
注)インキュベータ庫内に汚染が無いことを前提に記述しているが、庫内の汚染が確認された場合は接続したアイソレータ内での汚染拡大リスクが懸念されるので、採るべき措置を決めておくこと。
e) 定期的なフィルタの交換または完全性試験の実施
注)通常は半年ごとの交換または完全性試験の実施が望まれる。半年以上の長期の培養期間が必要な場合は、長期のフィルタの堅牢性を確認しておくこと。
f) 加湿用水などでの湿度供給の場合、UV 灯設置、フィルタ導入または無菌的供給等による環境微生物の予防管理
g) 不要な扉開放
h) 定期的な庫内の清掃と除染
注)作業者の操作に伴う、培地等付着物の微小な蓄積は避けられないが、庫内の汚れや汚染が無い場合は、製造時の培養期間が終了した時点で行うことが望ましい。庫内の汚れや汚染が確認された場合は、アイソレータの環境基準に準じた復帰作業を行い、作業環境への交差汚染と製品への影響を考慮した採るべき措置を決めておくこと。
i) アイソレータと同時または単独での除染が可能であること j) 一定または管理されたリーク率
注)設置室への除染剤の漏れ量が OEL の安全基準値以下であること。 |