再生医療等製品製造の作業所におけるインキュベータの初期設置と維持管理に関するガイドライン2019(手引き)

ガイドラインID 2019-E-RE-048
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2019-E-RE-048 再生医療等製品製造の作業所におけるインキュベータの初期設置と維持管理に関するガイドライン2019 手引き

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.総則
1.1 背景
再生医療等製品は、治療対象や適用方法等により、原料となる細胞の種類(自家由来や他家由来、細胞種など)や製品形態(細胞懸濁液、細胞シート等)が多様である。そのため、再生医療等製品の製造では、平成 26 年厚生労働省令第 93 号「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(以下、GCTP 省令)」および関連法が整備された。再生医療等製品の製造工程で、例えば培養皿の蓋を開ける培地交換や酵素処理による剥離作業等の無菌操作は無菌操作等区域で行われ、清浄度の異なる区域を往復する場合、移動中の微生物汚染リスクについて考慮が必要である。
細胞加工物を、生体外で安定的に培養することを目的としたインキュベータは、その庫内を細胞の培養に適した一定の条件下とするため、温度を制御する機能や、二酸化炭素、酸素、窒素等のガスを供給することにより一定のガス濃度に制御する機能を持つ装置である。また、培地の蒸発を防ぐ目的で、庫内を加湿する機能を具備したものが一般的である。
現在、再生医療等製品の製造用途では、理化学機器として市販される汎用のインキュベータを選定し、採用している場合が多い。このインキュベータを再生医療等製品の製造に使用する場合、上記の機能がユーザーの製造に対する要求仕様を満たし、適切に細胞加工物を培養することができなければならない。更に、再生医療等製品は、無菌性保証を前提とした無菌製造も要求される。そのため、これまでの一般環境とは異なる使用方法や管理リスクが生じると想定される。これらの背景を理解した上で、インキュベータを適切に運用し、日常管理や定期検査、リスクマネジメントを行うことが望ましい。
再生医療等製品の製造に使用するインキュベータの運用を主体としたガイドラインはこれまで参考になるものがなかった。そこで、インキュベータの基本性能やリスクおよび管理方法を解説することで、インキュベータを再生医療等製品の製造に使用する細胞加工業者(以下、ユーザー)が適切な運用手順を構築するための一助となり、またインキュベータの製造業者(以下、メーカー)も参考にされることが望ましい。

1.2 目的
本ガイドライン(手引き)では、再生医療等製品の製造を目的とした、作業所内でヒト細胞を中心とした細胞培養等のために使用されるインキュベータに関して、基本的な構成から、設置(移設・再設置含む)、使用方法、定期検査・点検、教育、リスクマネジメント等の考え方を明らかにして、適切な運用管理を実施するための手引きとなることを目的とする。
1.3 適用範囲
1.3.1 対象機器
対象機器は、再生医療等製品の作業所にて、清浄度管理区域内で再生医療等製品の製造に使用され、培養工程中の培養処理に用いられる機器で培養加工の内、細胞・組織の人為的な増殖に寄与し培養容器(培養皿等)を庫内に保管し、環境(温度、湿度、ガス等)維持を行うことが可能なインキュベータとする。本ガイドライン(手引き)には培養容器自体が密閉構造またはそれに類似した構造であり、培養容器内への直接的な環境維持・制御が可能なバイオリアクタ等は含まない。

1.3.2 対象範囲
本ガイドライン(手引き)では、インキュベータの設置(移設・再設置含む)、使用方法、定期検査・点検、教育、リスクマネジメント等の考え方までを範囲とする。特に再生医療等製品の製造・販売を業として、インキュベータを製造に使用するユーザーが本ガイドライン(手引き)を参考とすることを想定して作成している。
ただし、平成 25 年法律 85 号「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」で運用される細胞加工業者においても、インキュベータの設置場所やインキュベータの管理運用方法等の参考となる事項が含まれており、各々のリスクマネジメントに基づきインキュベータの運用方法を構築することは有効であると考える。

1.4 管理体制
1.4.1 各運用業務に関する責任者
作業所におけるインキュベータの適切な使用及び継続的な維持管理のために、各運用業務における責任を「管理責任者」及び「作業者」に分け、確実に実施できる体制を構築する必要がある。各々の製造所においては、その業務や作業所において製造管理責任者、衛生管理責任者、施設・設備管理責任者等の役割があるが、本ガイドライン(手引き)では一括して管理責任者と呼称する。なお実際の業務については、責任を負う者が所定の手順に従い、訓練を受けた別の者に委任することは可能である。

1.4.2 各運用業務に関するユーザーとメーカーの役割分担
再生医療等製品の製造において使用するインキュベータについて、導入から運用に至る全ての運用管理業務について、ユーザーは主体的に判断・実施しなければならない。ただし、インキュベータの構造・仕様についての詳細情報や維持管理に対する専門知識等について、必要に応じてインキュベータの製造元であるメーカーやメーカーから指定された業者から情報提供を受け、運用業務の一部を委託することも可能である。上記のメーカーへの委託の内容や範囲は画一的ではなく、インキュベータの設置場所や機器構成、使用方法、導入するインキュベータの用途や運用体制等に応じて、個々の事例毎に適切に判断することが重要である。また、メーカーは取り扱い説明書等のマニュアルをユーザーに提供し、必要に応じてユーザーからの要請に応じてインキュベータの操作方法や注意点等の助言を行うことも重要である。

GL:本体

2.用語の定義
本ガイドライン(手引き)における用語の定義を以下に示す。
インキュベータ(incubator)
ヒトを始めとする動物の細胞を、生体外で安定的に培養する際に用いる箱状の装置。温度やガス濃度等の環境を制御する機能を有し、庫内を加湿する機能を具備する。培養容器内への直接的な環境維持・制御が可能なバイオリアクタ等は含まない。

庫内(chamber)
装置本体の内部である培養容器を収納する空間

庫内環境(chamber environment)装置庫内の温度・ガス濃度等の環境

設置環境(installation environment)
インキュベータを設置する作業所の環境

作業者(operator)
作業所において再生医療等製品の製造工程に従事する者

管理責任者(manager)
製造管理および品質管理の運用・維持管理がされるよう管理体制に責任を負う者

清浄度管理区域
製造作業を行う場所のうち、製品等(無菌操作により取り扱う必要のあるものを除く。)の調製作業を行う場所及び滅菌される前の容器等が作業所内の空気に触れる場所をいう。

清浄化(cleanup)
製品の品質に影響しうる汚れや粒子などの異物を取り除くことで、キャリーオーバーの原因とならないようにすること

清掃(cleaning)
汚れや粒子などの異物を取り除くこと
除染(decontamination)
空間や作業室を含む構造設備に生存する微生物を再現性のある方法によりあらかじめ指定された菌数レベルにまで減少させること

滅菌(sterilization)
全ての種類の微生物を殺滅し,又は除去し,対象とする物の中に生育可能な微生物が全く存在しない状態を得ることをいう。

消毒(disinfection)
一般的には、病原菌など有害な微生物を除去、死滅、無害化することであり、対象物又は対象物等の局所的な部位に生存する微生物を減少させること

要領書
メーカーが行う機器の仕様および性能を確認するための項目・試験方法等をまとめた文書

適格性確認(qualification)
装置等が適切に据え付けられ、正しく稼働し、実際に期待される結果が得られることを証明する活動。適格性確認は、設計適格性確認(DQ)、据付時適格性確認(IQ)、運転時適格性確認(OQ)、性能適格性確認(PQ)から構成され、個々の機器の必要に応じて実施する。プロセスバリデーションを始める前に、適格性確認を完了していることが求められる。

プロセスバリデーション(process validation(PV))
適格性確認が実施された施設・設備機器を使用して、製造工程を実施した時に、目的とする製品品質(規格)を再現性良く満たしつつ、恒常的に製造を継続することが可能なことを証明するための活動

ユーザー要求(user requirement(UR))
製造における各々の施設・設備の使用目的に応じて、備えているべき要求事項(製造工程で満たすべき機能、処理能力、精度、規模・サイズ、材質、設置環境、操作性、等)

ユーザー要求仕様書(user requirement specification(URS))
UR をとりまとめた仕様書。バリデーションの起点となる書類であり、URS に記載される項目は、DQ・IQ・OQ・PQ にて漏れなく検証する必要がある。

職業曝露限界(Occupational Exposure Limit(OEL))
健康維持の観点から見て、作業者の曝露レベルを制限するために決められる空気中の限界濃度。OEL は、通常、週 40 時間労働で、労働生涯期間に亘って曝露した場合の 8 時間加重平均として示される。

3.インキュベータの設置
3.1 設置場所
インキュベータの性能を維持し、庫内外の汚染リスクを低減するために、適切な設置場所を選定する。
設置場所の選定は、メーカーの取扱説明書等を事前に確認し、注意事項に従い、適切に設置する。また、インキュベータの周辺スペースは、扉を開閉し培養容器の出し入れを行うためだけでなく、インキュベータの清掃およびメンテナンスが容易にできることにも留意し、設置場所を決定することが望ましい。

1)設置場所選定の留意点
a) インキュベータを正しく運転させるために、温度、湿度などの環境条件に適した機種、設置場所を選定する。
b) 装置周囲の温度が急激に変化する場所、湿気の多い場所は避ける。
c) 直射日光の当たる場所は避ける。
d) 大きな発熱源や他の機器の排熱口に近い場所は避ける。
e) 換気の良い場所に設置する。ただし、冷房や暖房の空調気流の影響について配慮し、特に給気口の真下や近傍などは避け、空調設備の風が直接当たらない場所に設置することが望ましい。インキュベータの性能へ気流が影響を及ぼす場合には、配置の変更や部屋の清浄度や温度・湿度に影響を及ぼさない範囲で、インキュベータに空調気流が直接当たらないように、風向調整板等で調整する。
f) 可燃性ガス、腐食性ガスのある場所は避ける。
g) 装置重量に十分に耐え、水平で安定している場所に設置する。
h) 庫内の振動が培養に影響を与える場合があるので、振動が少ない場所を選定することが望ましい。

2)設置スペース
a) インキュベータの性能を確保するために、装置の背面、左右両側にメーカーで指定されたスペースを確保すること。また、装置の正面は扉の開閉および試料の出し入れに十分なスペースを確保することにも配慮すること。
b) 設備を容易に移動できない場合は、清掃・メンテナンス作業に対して、作業が可能なスペースを確保すること。
c) インキュベータを多段積みで使用する場合、十分な強度を有する床面上に設置し、固定金具などで転倒防止を図ること。なお、設置高さについては、設置環境や作業性に配慮すること。

3)動線や配置
a) 作業所内の人の動線や気流パターンを考慮して、再生医療等製品、原料及び工程資材の動線が適切になるように、配置に配慮すること。
b) 安全キャビネットとの位置関係を考慮し、インキュベータの扉の開閉方向を決定すること。
c) 作業者が入退室する扉等の周辺への設置は、培養容器の搬出入や庫内環境に悪影響を及ぼすリスクがあるため避けることが望ましい。
d) 庫内の微生物汚染が生じるリスクを十分に考慮し、庫内に発生した汚染物質の拡散の影響を防止するため、インキュベータと無菌操作等区域の位置関係や、発生した汚染物質が無菌操作等区域から遠ざかるように気流の流れに考慮した配置計画を行うことが望ましい。

3.2 新規導入インキュベータの設置
ユーザーは作業所における使用目的、設置環境等を満たす機器を導入するために、インキュベータの要求仕様をユーザー要求仕様書に記載することが望ましい。要求仕様書には、インキュベータ本体の仕様、並びに使用時の機能及び要求している性能等を明確に記載する。
設置に関しても、インキュベータの設置場所の温湿度、清浄度などの設置環境に関する要求事項を記載すべきである。

3.2.1 設置にむけた手順
管理責任者は、設置に必要な準備として、インキュベータが設置される作業所の環境、位置及び経路等に関する情報をメーカーへ提供し、事前に搬入手順等を確認すること。下記にユーザーとメーカーそれぞれが提供する情報例を示す。

1) メーカーから入手する情報
a) 納品時のインキュベータの梱包状態
⇒木材など持込みが禁じられている材料が使用されていないかを確認するため
b) 開梱の際の注意点
c) 組み立てや調整のために持ち込む工具・資材類
d) 搬入計画書
⇒安全かつ指定した搬入経路・開梱方法・清掃/除染/更衣手順を遵守して搬入する計画であるかを確認するため
e) 据付時適格性確認要領書/運転時適格性確認要領書 ⇒据付後に実施する適格性確認の項目を、実施前に確認するため

2) ユーザーが提供する情報
a) インキュベータの要求仕様
⇒製造目的、設置環境に適した仕様・機能を満たした機器を導入するため。特にオーダーメード品に関しては仕様を詳細に記述することが望ましい。
メーカーが搬入計画書を作成するために以下の情報が必要である。
b) 設置場所と設置条件(環境の清浄度・温度・湿度、設置スペース、固定方法、電源等の用役接続等)
c) 搬入経路(施設敷地外から作業所外部搬入口までの経路、外部搬入口から作業所内設置場所までの経路)
d) 開梱および清掃場所
e) 納入物の開梱・搬入作業に関する注意事項
f) 清掃手順(所定消毒剤等、清拭用資材、清拭手順等に関する情報を含む)
g) 消毒・除染等の手順(必要に応じて)
h) 更衣仕様
f) 廃棄物の取扱手順

なお、管理責任者は、設置するインキュベータの周辺スペースについて、扉を開閉し培養容器の出し入れを行うためだけではなく、インキュベータの清掃およびメンテナンスが容易にできること、並びに周囲の設置環境の清掃が可能であることにも留意し、設置場所を決定することが望ましい。
予定された設置場所にインキュベータへ影響を及ぼす要因が発見された場合、メーカーと協議の上、設置場所の変更を検討すること。

3.2.2 搬入
搬入前準備段階に作成した搬入計画書の手順に従い、メーカー立会の下搬入を行うことが望ましい。また、インキュベータの搬入方法や清掃方法については管理責任者が指示を行うこと。

3.2.3 初期搬入時の清掃方法
一般にメーカーはインキュベータの製作・出荷・搬送時に塵埃ができるだけ庫内外に付着しないよう配慮し、再生医療等製品の作業所に搬入する。インキュベータ製作工場からの輸送時や作業所での開梱時、据付時に付着した塵埃や微生物を除去するために、初期搬入時はAppendix A3等を参照し、設置環境に合わせて可能な限り庫内、本体外装部の清掃を適切に実施する。
3.2.4 組み立て・設置作業
メーカーは、設置環境の清浄度維持に十分配慮し、更に構成部品を異物等で汚染させることがないようインキュベータの組み立ておよび設置を行うことが望ましい。具体的には、組立時に発生した埃等の飛散を防止するため、組立作業を作業室の吸込口近傍で実施することなどが挙げられる。

3.3 適格性確認
インキュベータは 3.2 新規導入インキュベータの設置の手順に従い正しく搬入・据付された後、設置に向けた手順(3.2.1)で決定した据付時適格性確認項目および運転時適格性確認項目に従い、適格性確認を行う。
インキュベータがユーザー要求仕様や GCTP 省令の要求事項を満たしていることを適格性確認として、設計時・据付時・移設時に検証を行い、その結果を文書化する。
本項では、適格性確認の手順について記載する。各フェーズでの実施内容については Appendix A5 を参照するなどし、適切に実施すること。
なお、ここではユーザー側で実施するプロセスバリデーション(PV)などのバリデーション活動に関しては記載を割愛する。

3.3.1 適格性確認実施組織
適格性評価を実施する組織は、少なくとも以下のメンバーにて構成されることが望ましい。

1) 品質保証責任者(ユーザー)
全ての適格性確認が適正に実施されていることの保証に責任を持つ
2) バリデーション責任者(ユーザー)
適格性確認に関する図書および変更・逸脱管理の承認を行う
3) バリデーション担当者(ユーザー)
適格性確認の実施および図書の作成を行う

なお、ユーザーは設備について熟知しているメーカーと協力して、DQ から OQ に関する適格性確認を実施することが望ましい。

3.3.2 適格性確認フロー
適格性確認はユーザー要求仕様および GCTP 省令の要求事項を確実に満足するインキュベータを導入する為、フローに従って各フェーズにて検証を行う。フローの例は図 3.1 に示した。
ユーザーおよびメーカーの役務範囲は一例であり、URS 作成以降はメーカー等に技量がある場合ユーザーの代行としてメーカーが主体的に実施することも可能である。
適格性確認は基本的に実施前にプロトコル(要領書)を作成し、事前にバリデーション責任者に承認を受けるべきである。また、DQ から IQ 等次のフェーズに進む場合は、前のフェーズの適格性確認が完了し、かつその報告書がバリデーション責任者により承認されるべきである。
また、PQ 以降については製品品質の作りこみおよびその検証となる為、基本的にはユーザー側にて実施する。

図 3.1:適格性確認のフロー
3.4 移設・再設置
3.4.1 基本的な考え方
インキュベータを作業所内あるいは作業所間で移設する場合は、現設置場所と移設先の清浄度環境の差異を考慮し、適切に清掃あるいは除染・滅菌し、移設後には、適切な点検調整並びに据付時適格性確認及び運転時適格性確認を実施すべきである。
清浄な環境での使用前にインキュベータからの汚染発生リスクを低減する必要がある。したがって、移設前に設置環境に合わせて可能な限り庫内、本体外装部の清掃を行うこと。作業所間で移設する場合は適切な梱包を行い、外部環境からの異物混入を極力抑えること。 また、微生物汚染防止の観点でも設置エリアの微生物管理レベルに応じて、適切な清拭、消毒や除染方法を選択し、実施すること。

3.4.2 移設・再設置前のインキュベータの清浄化
インキュベータを移設する前の清浄化方法は、管理責任者がメーカーと十分協議の上、決めるようにする。Appendix A3 に例を示す。移設元での使用状況で微生物汚染などが懸念される場合は、必要に応じて清浄化の手段を検討する。さらに、移設・再設置における各検査項目は 5.1 定期検査を参考とし、メーカーと協議することが望ましい。

3.4.3 移設時の適格性確認
移設が完了したインキュベータは、新設時と同様に要求仕様で求められる据付・運転に関する要件を満たしていることを確認する為に適格性確認を実施すべきである。
ただし、実施項目に関しては新設時に実施した全ての項目を必ずしも実施する必要はなく、移設によって品質に影響を及ぼす項目をリスクアセスメントにて洗い出すことにより、項目を絞ることも可能である。実施項目に関しては、5.1 定期検査を参照のこと。

3.5 初期稼働および移設時の庫内の清浄化
インキュベータを起動する前の時点では、インキュベータ内はインキュベータ設置環境と同等以下の清浄度環境となっているため、インキュベータの試運転を行う前に清浄化作業を行うべきである。インキュベータを使用する直前の作業として、まず初めに庫内に付着した汚れ・粒子の除去を実施する。その後、必要に応じて、消毒作業若しくは除染作業の何れかの方法で微生物リスクの低減を行う。清浄化は、Appendix A3 等を参照し適切に実施すること。なお本作業は、基本的に作業所の作業者または管理責任者が、品質リスクマネジメントに基づいて、実施するものである。
4.インキュベータの使用方法
本章ではインキュベータの性能を適正に発揮させ維持管理するために、使用方法の基本事項を述べる。実際の使用方法は各メーカーの取扱説明書、仕様書等に基づいて、製造工程における使用条件も含め予め標準操作手順書(以下、SOP)を定めることが望ましい。なお、手順化するにあたり、使用時の庫内の汚染や庫内環境の変動についてリスク評価を行うことが望ましい。リスク評価の詳細については、7.リスクマネジメントを参照のこと。

4.1 使用上の確認事項
インキュベータの庫内を培養可能な環境に制御し安定的に維持管理するため、使用時の本体に対して以下の点を確認すること。
庫内および加湿水、ガス等の具体的な管理・点検方法については 5.2 点検を参照し、庫内の清浄化については Appendix A3 に事例を示す。

1) 温度およびガス濃度の庫内環境が安定制御されるのに必要な時間が機器ごとに異なるため、メーカーの取扱説明書、仕様書等の復帰特性(特に温度)を確認すること。
2) 温度およびガスの庫内環境の制御値が、設定値に制御されていることを表示部にて目視確認すること。その他の異常および警報が発生していないことを表示部にて目視確認すること。
3) 温度およびガス濃度の庫内環境を安定制御するため、外扉と内扉がしっかりと保持され開閉動作に問題がないことを確認すること。
4) 庫内に循環ファンが設けられている場合、温度およびガス濃度の庫内環境制御に影響するため、循環ファンが正常に動いているかを確認すること。
5) 庫内に循環ファン等の駆動部品が設けられている場合、軸ずれ等による振動および異常音がしないことを確認すること。
6) 培養容器を水平に設置するため、インキュベータ本体を水平に設置すると共に、庫内の棚およびラック等が水平に保持されていることを確認すること。

4.2 使用上の注意事項
インキュベータの庫内を培養可能な環境に安定的に制御するため、培養期間中の庫内環境変化を最小限に留めること。さらに庫内への微生物等の持ち込みにより庫内で生じる微生物等の汚染が設置環境へ暴露されることに十分留意すること。そのために使用時の注意事項を遵守することが重要で、特に庫内への培養容器の出し入れの作業において、以下の点を良く理解し使用方法について予め SOP を定めることが望ましい。

1) インキュベータの使用特性として庫内を培養可能な環境に安定的に維持し温度およびガス濃度の庫内環境変化を最小限に留めるため、原則的には培養期間中は連続稼働すること。
2) 庫内は高温・多湿環境であり、出し入れする培養容器および棚等、作業者の手による庫内への微生物等の持ち込みが原因で微生物等の汚染源となる可能性があることから、微生物等の汚染源となるものの庫内への持ち込み防止を目的とした、庫内への培養容器および棚等の出し入れ方法ついて予め SOP を定めることが望ましい。
3) 庫内が微生物等の汚染源となっている可能性があることから、微生物等の汚染の設置環境への暴露防止を目的とした、庫内からの培養容器および棚等の引き出し方法について予め SOP を定めることが望ましい。
4) 培養容器の出し入れを行う場合、微生物等の汚染源となるものの庫内への持ち込みが生じるため、作業者の手の庫内への挿入および庫内表面への接触を必要最小限に留めること。
5) 培養容器の出し入れを行う場合、扉の開放による温度およびガス濃度の庫内環境変化を最小限に留めるため、予め培養容器の設置場所を決めておくことが望ましい。
6) 培養容器の出し入れを行う場合、扉の開放による温度およびガス濃度の庫内環境変化を最小限に留めるため、庫内に設置した培養容器ごとに設置場所を記録しておくことが望ましい。
7) 庫内環境の温度およびガス濃度に不均一な分布が生じないように、庫内の培養容器は適切な間隔をあけて設置すること。
8) 培地および加湿水を庫内にこぼした場合、微生物等の汚染源となるため、清掃あるいは除染方法について予め SOP を定めることが望ましい。
9) 庫内の結露および温度低下が生じるため、庫内に対する作業が無い場合、外扉は必ず閉めることとし使用方法について予め SOP を定めることが望ましい。
10) 温度およびガス濃度の庫内の環境変化と設置環境へガス拡散が生じるため、内扉が設けられている場合、内扉は必ず閉めることとし使用方法について予め SOP を定めることが望ましい。
11) 培地のこぼれおよび振動が生じるため、内扉および外扉の開閉作業は静かに行うこととし使用方法について予め SOP を定めることが望ましい。
12) 温度およびガス濃度の庫内の環境変化と設置環境へのガス拡散を最小限に留めるため、内扉、外扉の開閉頻度および開放時間は必要最小限に留めること。
13) 微生物等の汚染源となるため、庫内表面(棚、ラック、壁面、内扉等)に異常な結露が生じていないことを目視確認すること。
14) 稼働中に加湿水を供給する場合、メーカーの取扱説明書、仕様書等の温度復帰時間を確認し、加湿水の供給方法について予め SOP を定めることが望ましい。

4.3 異常時の対応
インキュベータの予測される異常発生に対しては、メーカーの取扱説明書、仕様書等を確認し、その対処方法を事前に検討した上で予め SOP を定めることが望ましい。その際、設置環境、使用頻度、使用方法等に応じて異常時に対するリスク評価を予め行うことが有効である。以下にその代表的な異常時の対応例を示す。リスク評価の詳細については、7.リスクマネジメントを参照のこと。

1) 異常が発生した場合、取扱説明書等を参照し、速やかに原因を特定し対処すること。
2) 復旧できない異常が発生した場合、必要に応じて、予め定めた SOP に基づいて培養容器を他のインキュベータに移設する等、適切に対処すること。

5.インキュベータの定期検査・点検
5.1 定期検査
5.1.1 基本的な考え方
インキュベータは、一定の性能を維持しているかを確認するために、年 1 回を目途に定期検査を実施することが望ましい。もし製造要件を満たすために、インキュベータに改造・変更(庫内に撹拌装置等の外部機器を使用するなど)を加えた場合には、メーカーとその内容について協議する必要がある。
インキュベータは、設置現場での稼動性能確認が重要である。インキュベータの性能は主として温度、湿度、ガス等の環境制御で決定されるが、据え付け後から性能を維持するには、適切な時期に適切な方法で検証することが大切である。
検査は、インキュベータの機能・精度(カタログデータないしは仕様書)が維持され、要求仕様の許容範囲内であることを確認することが主目的である。インキュベータのカタログデータまたは仕様との乖離の程度については、メーカーと協議し、必要に応じて適切に対処すべきである。
検査結果は、検査に用いる計測機器等のトレーサビリティ証明とともに文書化し記録し、適切な期間保管・管理すること。

5.1.2 定期検査の内容と例
定期検査の検査項目の例を表 5.1 に示した。

表 5.1:インキュベータの定期検査の項目と内容

5.2 点検
5.2.1 日常点検
日常点検とは、日々の利用の際に適宜、ユーザーが実施するものを指し、インキュベータが適正な状態であることを確認するものである。管理責任者は、日常点検についての標準作業手順書を作成し、日常的に作業者に点検させることが望ましい。また点検の結果は文書化して記録すること。なお点検項目については、各メーカーの取扱説明書、仕様書等を確認して点検項目を決定することが望ましい。
各点検項目の 1 つでも異常が認められた場合は、作業者は管理責任者に報告し指示に従うこと。

5.2.2 日常点検の項目と内容の例
日常点検の検査項目の例を表 5.2 に示した。

表 5.2:インキュベータの日常点検の項目と内容

6.インキュベータの使用と運用管理に関する文書化と教育訓練
インキュベータに関する文書化と教育訓練は、インキュベータを適切に使用および運用管理し、培養工程を実施するための知識及び技能の習得や向上を目的とする。インキュベータが作業所の設置環境へ与える影響や、設置環境の中で培養中の細胞などが保管されている庫内の扉の開放を伴う操作が行われるため、庫内環境の維持を考慮して実施されなければならない。

6.1 文書化
作業所においてインキュベータを適切に使用するための操作手順書を作成するとともに、本ガイドライン(手引き)やメーカーからの資料に基づいて、機器として性能を維持するための運転・点検・保守・清掃等について、予め明文化しておかなければならない。また、インキュベータの性能を恒常的に確保するためには、管理責任者及び各作業者が、この管理文書の記載内容を遵守した運用を行い、必要に応じて管理方法を見直すことも重要である。作成する文書については以下に関する事項を参照する。

1) 設置または移設
2) 運転操作
3) 記録
4)  清掃
5) 消毒または除染
6) 定期検査
7) 点検・保守
8)  廃棄・処分

6.2 教育訓練
作業所においてインキュベータの導入から運転・点検・保守・清掃等に関して、適切な運用管理を実施するため、管理責任者や作業者は必要な教育訓練を受けなければならない。管理責任者は、教育訓練を受けた作業者の技能について、定められた基準で評価が必要である。教育訓練は 6.1 文書化にて文書化された事項及び以下に関する事項を参照する。

1) 製品品質に影響を与える操作と庫内環境
2) 細胞の混入・取り違え防止対策
3) 汚染リスクへの対策
4) 設置環境へ与える影響
5) 逸脱事項への対処

7.リスクマネジメント
再生医療等製品の作業所において使用されるインキュベータは、培養工程の中で製品品質に影響を与える培養中の環境維持に関わる機器であり、かつインキュベータの庫内環境は微生物が増殖しやすい環境であることから、外部からの微生物汚染防止と拡散防止、さらにはインキュベータを設置した環境へ与える影響を考慮してリスクマネジメント手法を行うことが望ましい。リスクマネジメントは製品品質に対するものであり、インキュベータは製造工程における機器の1つであるため、製造工程全般に対するリスクマネジメントの一環として兼ねることも可能である。

7.1 リスクアセスメント
リスクアセスメントは、リスクをどのようにコントロールするかについて判断をするため、品質リスクマネジメントプロセスの中で最も重要な段階であり、正確にリスクを特定し、分析し、評価する必要がある。インキュベータに関するリスクアセスメントについては以下に関する事項を参照する。

1) 設置場所の環境
2) 設置環境へ与える影響
3) 構造材料
4) 本体構成
5)  配管構成
6) 供給ユーティリティ
7) 培養容器の出入り(製品及び中間製品のはいったもの)
8) 培養環境維持
9) 運転制御
10) 作業者による操作
11) モニタリング
12) 汚染リスク
13) 清拭による清掃
14) 消毒または除染
15) メンテナンス

7.2 リスクコントロール
適切な手法や技術を利用した定性的なリスクアセスメント実施し、リスクをどのようにコントロールするかについて決定する。決定されたリスクコントロールの方策を実施した後には効果の定量的な評価を行うべきである。特に重要な項目として、本ガイドライン(手引き)で示した再生医療等製品の作業所で使われるインキュベータは、清浄度管理区域に設置(安全キャビネットやアイソレータなどの設備・機器に直接接続されたケースは本ガイドライン(手引き)からは除く)しており、培養容器の出し入れをするために庫内の扉の開放操作を伴うことで、インキュベータ庫内の環境は一時的に設置した作業所の環境に曝露されることを考慮すべきである。これは培養容器内の培養環境の維持を行うことで達成される製品品質に影響があることや、清浄度の異なる区域を移動する場合、移動中の微生物的な交差汚染リスクを認識した上で、リスクコントロールの方策を決定すべきである。

7.3 リスクレビュー
リスクマネジメントは、品質マネジメントの継続的なプロセスの一部であり、リスクマネジメントを予め定められた期間と頻度に応じてレビューする。重要項目のレビューとしてインキュベータ内部の環境維持機能の確認等、リスクコントロールが効果的に運用されていることを確認する。コントロールの警報基準値を予め定めておき、警報基準値に達した場合に原因究明の調査、採るべき措置について定めておくこと。製品品質に影響を与えるような逸脱やシステムの変更などもレビューし、文書化すべきである。

7.4 リスクコントロールの事例
製品の種類、製造工程、作業所の環境、作業者の操作など多数の因子により培養環境の変動や汚染リスクは異なるため、適切な手法や技術を利用したリスクコントロールを確立し運用すること。
リスクコントロールの選択肢として Appendix A6 に示す。

GL:付属資料

8.関連法令・規制・規格
1) 再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
2) ISO 13408-1 ヘルスケア製品の無菌操作-第 1 部:一般要求事項
3) ISO 13408-7 ヘルスケア製品の無菌操作-第 7 部:医療機器及び複合製品の代替プロセス
4) ISO 18362 細胞ベースのヘルスケア製品の製造―操作中の微生物リスクの管理
5) JIS T 60601-1-8 医用電気機器-第 1-8 部:基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項―副通則:医用電気機器及び医用電気システムのアラームシステムに関する一般要求事項、試験方法及び適用指針
6) ICH Q9 品質リスク管理
7) JIS T 14971 医療機器―リスクマネジメントの医療機器への適用
8) ISO 9001 品質マネジメントシステム
9) ISO 13485 医療機器―品質マネジメントシステムー規制目的のための要求事項

Appendix
A1 インキュベータの分類
A1.1 インキュベータの仕様・種類
インキュベータは加温方式、センサ方式、制御するガスの種類の 3 点において、それぞれ大別される。庫内を加湿する機能はほぼすべての機種に具備されているが、培養容器の仕様によっては、加湿機能を使用しない場合もあり、使用者の判断に委ねられている。
その他、インキュベータ内の容器(以下チャンバー)の容積は、培養容器と製造規模にあわせてさまざまなバリエーションが存在する。

A1.1.1 加温方式による種別
インキュベータは庫内を加温する方式によって 2 種類に分けられる。ひとつはチャンバーの周囲を水槽で囲む構造を持ち、水槽内の水を加温することで間接的に庫内の温度を制御するタイプ、またもうひとつは、チャンバーの周囲をヒーターで覆い、直接的にチャンバーを加温するか、あるいはチャンバーの周囲の空気を介して間接的に庫内の温度を制御するタイプである。一般的に、前者をウォータージャケット方式、後者をダイレクトヒートもしくはエアージャケット方式と呼称する。

1) ウォータージャケット方式
ウォータージャケット方式は、比熱の大きい水を加温の媒体としているため、不意の停電等による温度低下で細胞にダメージを与えるリスクを軽減する利点がある反面、その水がインキュベータ周辺の微生物汚染の根源となる懸念や、定期的に水の交換が必要となるといった管理面が必要となる
2) ダイレクトヒートもしくはエアージャケット方式
停電時の温度変動はウォータージャケット方式と比較して大きいが、扉の開閉等で変化した庫内の温度を元の温度へ復帰させる時間は短い。インキュベータ周辺への微生物汚染のリスクが低く、清浄度管理区域での使用に適し、安全キャビネットやアイソレータに直接接続する使用や、また、構造的な利点を生かして、乾熱滅菌機能が付属するモデルが登場する等、近年のトレンドとなっている。

A1.1.2 センサ方式による種別
インキュベータは庫内の CO2ガス濃度を感知するセンサの方式によっても 2 種類に分けられる。ひ熱電対方式のセンサを使用するタイプ、もうひとつは赤外線式のセンサを用いるタイプである。

1) 熱電対方式
CO2ガス濃度の変化と熱伝導の変化に相関性があることを利用した感知方式で、構造が単純であるためコストが安いが、湿度変化の影響を受けると誤差を生じる。
2) 赤外線方式
CO2ガス濃度の変化が、波長 4.3μm の赤外線を吸収率と相関性があることを利用した感知方式で、湿度の影響を受けないが、コストが高い。

A1.1.3 制御するガスによる種別
インキュベータは庫内で制御するガスの種類によっても 2 種類に分けられる。ひとつは CO2ガスを供給することにより CO2ガスの濃度のみを制御するタイプ、そしてもうひとつは、CO2 ガスに加え、酸素ガスもしくは窒素ガスを供給することによって、高酸素濃度もしくは低酸素濃度に制御するタイプである。一般的に、前者を CO2インキュベータ、後者をマルチガスインキュベータと呼称する。

図 A1.1:インキュベータの加温方式による種別

A1.1.4 設置条件に準じた分類
インキュベータには公的規格はなく、古くは電気ふ卵器の電気安全規格が比較的近い機器である。設置条件に準じた分類とその特徴を示す。なお、本ガイドライン(手引き)における接続型インキュベータでは、庫内の清浄度レベル基準に係る議論は行わない。庫内の清浄度管理および無菌操作等区域(安全キャビネット/アイソレータ)への培養容器出し入れの手順は、GCTP 省令に適合するように、ケースバイケースで、適切に設計されることを前提とする。

1) 製造作業室への単独設置型(内部滅菌無し)
庫内の加温方式別に、ダイレクトヒート式、エアージャケット式、ウォータージャケット式がある。また、制御可能なガスの種類により、CO2 インキュベータ(CO2ガス濃度のみ)、マルチガスインキュベータ(CO2ガス濃度と O2ガス濃度)がある。その他、しん揺装置付き、内部培養容器搬送装置付き等の機能を有するタイプもある。

図 A1.2:ダイレクトヒート型、エアジャケット型の CO2インキュベータ

2) 製造作業室への単独設置型(乾熱滅菌機能または除染機能付き)
庫内を 140~180℃で乾熱滅菌するタイプや過酸化水素で除染するタイプがある。
培養中に庫内で増殖が懸念される微生物を定期的に低減する目的の機能として装備されている。また、殺菌灯で庫内循環空気に存在する微生物を低減させるタイプもある。

図 A1.3:乾熱滅菌機能付き、過酸化水素除染機能付きの CO2インキュベータ

3) 安全キャビネット等への接続型①
開口部を安全キャビネットの側面に設け、安全キャビネットと連結したインキュベータ。自動搬送機構を組み込むことにより、培養容器を作業者と同じ空間に暴露せず、直接安全キャビネットに培養容器を出し入れすることができ、汚染リスクを抑制することが可能となる。

図 A1.4:安全キャビネット接続型インキュベータ

4) 安全キャビネット等への接続型②
基本的な温度やガスの制御に加え、加湿トレイに対するダイレクトヒーティングにより積極的な湿度の維持機能が備わっている。マグネット・カップリングにより駆動系機器を庫外に配置することで、振動や機械的故障を解消している。また庫内の収納プレートラックと庫外の搬送ロボットにより、プレートラックおよび安全キャビネットへの培養容器の自動搬送機能を有している。さらに培養容器搬送時の庫内環境の変動を軽減するため、庫内の搬送口には多段式シャッター機構を搭載している。

図 A1.5:安全キャビネット接続型インキュベータ

5) アイソレータへの接続型
基本的なインキュベータとしての要件(温度維持、湿度やガス等の供給)は備える。
アイソレータの内部環境の除染と同時またはインキュベータ単独で内部の除染が可能であり、一定のリーク率で管理されている。アイソレータとの接続時または単独運転時に陽圧維持が可能であり、培養環境維持のため空気やガス等の供給経路へのフィルタと内部の清浄度維持のための HEPA フィルタによる換気システムを持つものもある。アイソレータと常時接続または要事接続が可能である。

図 A1.6:アイソレータ接続型インキュベータ

6) 自動入出庫対応インキュベータ
庫内の培養容器搬送が機械制御になっており、作業者が庫内に手を挿入することなく培養容器の入庫・出庫が行える機能を有する装置。自動搬送により、作業者由来の汚染防止のみならず、ヒューマンエラーによる取り違えや液こぼれ等の逸脱の発生の抑制が期待できる。また入出庫の際のみ外部へのゲートが開閉するため、庫内環境の変化を低減できることもメリットの一つである。培地交換機能や培養容器内の観察機能を有するものや、前述の安全キャビネット、アイソレータと接続された一体型など、目的に応じた様々な活用事例がある。

図 A1.7:自動入出庫対応インキュベータ
A1.2 性能と試験方法
A1.2.1 性能
インキュベータとして維持されるべき基本性能は、庫内の温度性能、湿度性能、ガス濃度性能である。温度性能は、温度精度・温度分布精度・温度変動幅を、湿度性能は、最大湿度・最低湿度を、ガス濃度性能は、CO2ガスもしくは O2ガス濃度を対象とする。また付属機能として除染あるいは滅菌機能を具備するタイプは、その性能もあわせて確認する。

A1.2.2 試験方法
1) 温度
温度精度性能、温度変動幅性能、温度分布性能の 3 項目について、校正された温度測定機を使用しメーカー規定に基づいて測定を実施し、メーカー規定の基準値との差を確認する。
2) ガス濃度性能
ガス濃度性能は、校正されたガス濃度計を使用して、インキュベータに付属するガスサンプルポート等から採取したインキュベータの庫内のガス濃度を測定し、メーカー規定の基準値との差を確認する。
3) 除染・滅菌性能
除染あるいは滅菌の性能は、庫内の空間を対象とし、メーカー指定のインジケータ等を使用して確認する。【参考資料】インキュベータの庫内清浄度維持に関わる機能と手段
本書でも度々触れられている通り、インキュベータ運用の最大の課題は庫内の清浄度管理と汚染防止である。これら諸問題の多くは正しく運用することで対処できるものが殆どだが、メーカー各社からは清浄度管理と汚染防止に寄与する様々な付加機能や製品が販売されている。ここではその一例を示す。

1) 乾熱滅菌機能
庫内を 140~180℃の高温状態にすることで、庫内の乾熱滅菌・除染処理を行うことができる機能。メーカーによって実施温度、処理時間や除染能力には様々なバリエーションがある。薬剤などを使用せず、装置単独で実施することができる。処理中は多くの消費電力を必要とすること、10~12 時間程度のダウンタイムが生じることを考慮しなくてはならない。

図 A1.8:乾熱滅菌機能の処理サイクル例

2) 過酸化水素除染
過酸化水素を気化(ドライ式)あるいは霧状(ウェット式)で拡散することで大気中および接触する対象物の除染を行う方法。過酸化水素の強い酸化力を用いた除染方法で、日本の PIC/S 加盟後にホルマリン除染代替法として急速に普及した背景がある。常温で実施できる有効な方法だが、空間体積や環境温度・湿度に対する最適化や、除染範囲内にある物質の変色や変形、腐蝕などの他、除染対象物が過酸化水素に曝露するよう配置にも考慮する必要がある。除染後は細胞毒性の懸念から、庫内に滞留する過酸化水素の濃度低下を待って培養を開始する必要があるが、UV ランプによって過酸化水素の分解を促進する機能を持つ製品もある。
3) 過酢酸除染
過酢酸水溶液を霧状(ドライフォグなど)で噴霧拡散することで大気中および接触する対象物の除染を行う方法。過酸化水素除染と同様に酸化力を用いた除染方法で、常温で実施できる有効な方法だが、空間体積や環境温度・湿度に対する最適化や、除染範囲内にある物質の変色や変形、腐蝕などを考慮する必要がある。中和後には酢酸が生成されるため、実施する濃度によっては独特の酢酸臭がする場合がある。あらかじめ最適な濃度で希釈されたスプレー式の除菌剤として、日常的な除菌・殺菌手段として普及が進んでいる。
4) 銅チャンバー
庫内の壁面を含む露出する構成部品をすべて 100%純銅とすることで、銅そのものが持つ銅イオンの殺菌能力で庫内を抗菌状態で保つことができる機能。ランニングコストがかからず、半永久的に抗菌力を維持できる事がメリット。欧米では広く普及しているが、酸化による緑青で外見が見苦しくなること、一般的なステンレス製と比較すると高価であることから、日本での認知度・普及度は低いが、現在では銅の抗菌力とステンレスの耐腐食性を兼ね備えた銅合金ステンレスを庫内の壁面や棚に使用する製品も存在する。
5) HEPA フィルタ、庫内用フィルタ
庫内のエアフロー経路中に HEPA フィルタを装備し、雰囲気が循環することで庫内を ISO クラス 5 相当の清浄度に維持することができる機能。ドア開閉時に外部から侵入する空気中の汚染源をフィルタで捕捉できるのがメリットだが、定期的な交換が必要であること、クリーンベンチなどとは異なり、あくまで補助的な付加機能であることを理解しておく必要がある。
6) UV ランプ
庫内の循環ダクト内に装備し、庫内の空気と加湿水を一定時間照射することで微生物の増殖を抑制する機能。定期的な交換が必要であること、またあくまでも補助的な付加機能であることを理解しておく必要がある。
7) 加湿水の水質維持剤
銀イオンや銅イオンなど殺菌性を持つ素材を用いて、庫内加湿用バット内にて徐放させ水質を維持するもの。
8) 加湿水用バッグ
タイベック等の水を通さず水蒸気・気体のみを透過する透湿性素材を用いて、庫内の加湿用水を密閉状態で利用できるもの。加湿水を暴露させることなく取り扱うことができる。
図 A1.10:加湿水用バッグの例

A2:インキュベータの性能試験方法事例
インキュベータ庫内の環境制御機能を確認するための試験方法の事例を示す。
1) 温度分布試験
運転時にインキュベータの温度制御性能と温度分布性能が仕様通りであることを確認する。
 試験前に設置環境の温度が仕様範囲内で安定していることを確認する。
 インキュベータを設定したパラメータで運転し、試験要領に基づいた暖気運転を行ったあと、温度センサをインキュベータの庫内に設置する。
 センサの計測点や計測数については、メーカー標準の試験要領によって異なるが、参考規格として JTM K07:2007 および 1998 [温度試験槽-性能試験方法及び性能表示方法]を参考として用いることが多い。
 試験要領に基づき、装置が設定パラメータにて安定したことを確認した後、規定期間・規定頻度での計測を実施する。

2) ガス濃度制御試験
運転時にインキュベータのガス濃度の制御性能が仕様通りであることを確認する。
 試験前に設置環境の温度が仕様範囲内で安定していることを確認する。
 装置へのガス供給圧力が仕様通りであることを確認する。
 インキュベータを設定したパラメータで運転し、試験要領に基づいた暖気運転を行ったあと、装置に装備されている庫内空気の測定用ポートに計測器を接続する。
 装置が測定用ポートを有していない場合、あるいは庫内に直接センサを導入する場合は、内扉あるいは装置装備のアクセスポートを利用して設置する。
 センサの計測点や計測数については、メーカー標準の試験要領に準ずる。
 試験要領に基づき、装置が設定パラメータにて安定したことを確認した後、規定期間・規定頻度での計測を実施する。

3) 温度・ガス濃度の復帰速度試験
運転時のインキュベータの内扉(ガラスドア)を開けた後、庫内環境維が設定値に復帰するまでの時間が仕様通りであることを確認する。
 温度分布試験、ガス濃度制御試験に連続して実施することが殆どで、温度およびガス濃度の計測が準備状態で実施する。
 試験前に設置環境の温度が仕様範囲内で安定していることを確認する。
 インキュベータを設定したパラメータで運転し、試験要領に基づいた暖気運転を行ったあと、内扉を 20~30 秒(試験要領に基づく)開放した後に閉める。
 設定値あるいは要領書規定の数値に到達するまでの、復帰時間および庫内環境の温度・ガス濃度を計測する。

<計測点・計測数>

図 A2.1:JTM K07:1998(通称 JTM 規格)におけるインキュベータ庫内の計測点・計測数の例
A3:インキュベータの清浄化作業の事例
インキュベータの清浄化作業は初期搬入時及び製造運転時には事前に決定された期間とやり方に準じて実施する。以下に清浄化作業として、清掃、消毒、除染・滅菌作業の事例を示す。

1) 内外面の清掃(清拭)作業の事例
初期搬入にあたり、インキュベータを設置する作業室へ搬入後、外面を覆う輸送用の養生材を取り外す。養生材を取り外した後、外面を清拭していく。清拭作業は、天井面、壁面などに 70%エタノールをスプレーし、不織布等で清拭する。エタノールの代わりにイソプロパノールやそれ以外の薬剤を使用してもよいが、耐薬剤性についてはメーカーに確認すること。外面を清拭後、同様の手順で内面を清拭する。内部に取り外し式の棚板などがある場合は、取り外したうえで棚板などの全面を清拭する。エアフィルタなどの内部に突起物があり清拭により繊維が残存する可能性があるので必要に応じ薬剤を吹き付けるのみとする。清拭終了後、5 分程度乾燥させる。清拭に使用する不織布は使い捨てのものを使用し、一定の面積を清拭したら新品と取り替えることが望ましい。清拭手順として、天井面を清拭後、不織布を下方向へと移動していく。清拭対象面は不織布を一方向に動かす(往復運動は付着汚れを拡散させる可能性があるため)。

2) 消毒作業の事例
メーカーに推奨消毒剤の有無を確認し、ある場合はその薬剤情報(推奨濃度、使用法の情報)を入手する。消毒に用いる消毒剤の種類としては、過酢酸、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムなどがあり、第 17 改正日本薬局方(平成 28 年 3 月
7 日厚生労働省告示 64 号)参考情報「消毒法及び除染法」の記載事項が参照できる。具体的な消毒作業としては、消毒剤を対象に噴霧し、規定時間作用させた後、不織布等で清拭を行っていく。使用する不織布等は使い捨てのものを使用し、予め滅菌処理がされたもの、若しくはオートクレーブにて滅菌処理を行ったものを使用する。自己発塵が少なく、繊維の毛羽立ちが少ない不織布等(長繊維で作られクリーンルーム専用のものも市販されている)を使用すると良い。一定の面積を清拭したら新品と取り替えることが望ましい。インキュベータ内部の消毒を行う箇所は、培養容器の設置場所、天面、壁面、前面パネル(ガラスなどにより 2重扉の場合はガラス面の内外面)、底面の内側とする。内部に取り外し式の棚板などがある場合は、取り外したうえで棚板などの全面を消毒する。エアフィルタなどの内部に突起物があり清拭により繊維が残存する可能性がある場合、必要に応じ消毒剤を吹き付けるのみとする。清拭順序としては、天面、側面、背面、前面パネルと底面とする。壁面の清拭方法としては、上から下に一方向に不織布等を動かして清拭していく。天面と底面は、基本的に奥側から手前方向に清拭する。消毒剤の残留の影響が懸念される場合は、消毒終了後、残留消毒剤の乾燥や除去を行う。消毒剤を原液から希釈する等の濃度調製を行う場合は、予め定めた手順に従い実施する。また、定めた測定法に従い、調製後の消毒剤濃度が所望の濃度となっていることを測定する。調製した消毒剤の管理・保管については、保管場所、保管方法、保管環境、保管期間等を予め定め、それに従い適正に管理する。消毒の方法は、具体的な手順を明文化しておくこととする。

3) 除染・滅菌作業の事例
メーカーに推奨する除染・滅菌作業の有無を確認し、除染・滅菌に対応可能なインキュベータにおいて、メーカーの推奨する作業を行う。

A4:インキュベータの除染性能試験(過酸化水素蒸気を利用)方法事例
インキュベータ内部を除染する場合に必要な確認・試験項目を事例として挙げる。メーカーの除染方式により、それぞれの確認・試験項目に違いが出ることもある。本ガイドライン(手引き)では代表的な確認・試験項目のみを列記するが、詳細の実施プロトコルはメーカーの運用基準に準じる。製造作業所の室内除染と同時にインキュベータ内部の除染
を行う場合などは、除染剤の影響や残留等に関わる評価をしておく必要がある。

1)  温度分布確認
2)  蒸気分布確認
3) 除染サイクル開発
4) 残留濃度確認

図 A4.1:除染サイクル開発時バイオロジカルインジケータの設置

A5:適格性確認
1) User Requirement Specification(URS)
URS はユーザー要求(UR)を仕様書として文書化したものである。URS は設備の詳細についても記述する必要がある為、必ずしもユーザー側のみで作成する必要はなく、メーカーなど設備の専門家と共同で作成することを推奨する。
記述する仕様については、詳細に記載しすぎるとメーカーや型式を限定したり、仕様の変更を行うたびに URS を改訂することとなる為、品質への影響が大きい仕様に限定して記述することが望ましい。
URS 作成時にはインキュベータおよび GCTP 省令に関する有識者を集めてリスクアセスメントを行い、設備に潜在するリスクの洗い出しを行うことが望ましい。洗い出したリスクの中に許容できないリスクが検出された場合は、リスク低減策を検討しその策を URS の項目に盛り込むことで、リスクを許容レベル以下に抑えた URS を作成することができる。
URS の記載内容(例)は以下の通りである。
目的・対象範囲・用語の定義・法規、基準・プロセス概要・設計仕様(IQ 検証範囲)・性能仕様(OQ、PQ 検証範囲)・環境、安全に関する要求仕様・計装、自動化に関する要求仕様・図書、メンテナンスに関する要求仕様

2) Qualification Master Plan(QMP)
QMP は適格性確認を実施するための手順やルールを文書化したものであり、URS 作成後すぐに作成し DQ 実施前までにはバリデーション責任者の承認を受ける必要がある。
QMP の記載内容(例)は以下の通りである。
適用範囲・体制および役割・設備概要・文書責任(役務範囲)・逸脱管理手順・変更管理手順・文書作成方法・文書承認手順

3) Risk Assessment(RA)
ICH(日米 EU 医薬品規制調和会議)より 2006 年に発行された Q9 品質リスクマネジメントでは医薬品が患者の健康に対するリスクを低減させるために、設備または施設の設計時・据付時・運用時そして設備・施設の廃棄までライフサイクルを通して品質リスクアセスメント活動を行い、必要に応じてリスクを低減させる対策を講じることを推奨している。
再生医療等製品においても同様に品質リスクマネジメント活動を行い、患者の健康へのリスクを低減させることが望まれる。
リスクマネジメントプロセスは以下のフローに従って実施する。

参照:ICH Q9 ブリーフィングパック
Risk Identification(リスク特定):ブレーンストーミングなどを行い、リスクを洗い出す。
Risk Analysis(リスク分析):それぞれのリスクの原因と可能性を決定する。
Risk Evaluation(リスク評価):リスクレベルを特定する為に数値化方法を採用する。
Risk Reduction(リスク低減):リスク低減策を特定し、低減策の効果を評価する。
Risk Acceptance(リスク受容):リスク再評価後、残留リスクが許容できるかどうか判断する。
Review Events(事象レビュー):リスクアセスメント結果のレビューを定期的に実施し、受容できないリスクが検出された場合は、対象リスクへの低減策を検討する。
図 A5.1:リスクマネジメントプロセスのフロー

リスクマネジメントプロセスの手法は特に限定されていないが、一般的には FMEA(欠陥モード影響解析)を使用することが多い。リスクアセスメントで最も重要なポイントはリスクを評価する基準と許容リスクの閾値である。これらの数値は、品質保証責任者を初め、各方面の専門家で十分な協議を行って決定する必要がある。

4) 設計時適格性確認(DQ)
DQ はインキュベータに対して、メーカーから作成・提出される製作仕様書や設計図書の内容が、「URS を満足していること」及び「GCTP 省令上、遵守すべき要件が設計図書に反映されていること」を確認・記録する目的で実施し、その結果を文書化する。DQ は詳細設計完了時または製作仕様書受領時に実施する。実施は以下の流れに従って行う。
URS 要求項目および GCTP 省令の要件項目を網羅したチェックリストを作成し、要領書と一緒に実施前までにバリデーション責任者の承認を受ける。
関連する図書や図面を準備し、各要求項目が図書または図面に反映されていることを確認する。
確認についてはメーカーの専門家も含めた会議形式で実施する方が、担当者の製品品質および設備機能についての理解が一層深まるので、会議形式による確認を推奨する。
確認が完了したチェックリストを報告書と一緒にバリデーション責任者の承認を受ける。

5) 据付時適格性確認(IQ)
IQ では、インキュベータが URS、設計図書及びメーカー製作仕様書に従って製作・設置され、また対象とする GCTP 省令の要求に適合していることを確認し、その結果を文書化する。
【実施項目参考例(インキュベータ)】
外観検査、寸法検査、据付位置検査、材質検査、制御盤検査、配線検査、I/O 検査、構造検査

6) 計器の校正(CAL)
CAL では、CAL 対象計器の必要とされる精度を考慮し、適切な標準器や標準試料を用いて計測器の示す値と真の値とを比較し記録する。CAL は IQ の一部として取り扱うことも可能である。
CAL は全ての計器に対して行う必要はなく、製造する再生医療等製品の品質へ影響を与えるパラメータ(CPP:Critical Process Parameter)を測定する計器のみを対象とする。
また、CAL は運用開始後も予め決められた期間で定期的に実施する必要があるので、品質とランニングコストのバランスを考慮して対象計器を決定する必要がある。
【対象計器例(インキュベータ)】温度計、ガス濃度計

7) 運転時適格性確認(OQ)
OQ では、IQ・CAL 完了後にインキュベータが関連する URS、設計図書及びメーカー製作仕様書に従って動作し、また対象とする GCTP 省令の要求に適合していることを確認し、その結果を文書化する。
【実施項目参考例(インキュベータ)】アラーム検査、インターロック検査、動作検査、温湿度分布検査(無負荷)、ガス濃度分布検査(無負荷)、停復電検査

8) 性能適格性確認(PQ)
PQ では、全ての施設・設備の OQ 完了後にインキュベータが、生産する再生医療等製品に関する承認された手順に基づき、品質規格を満たしかつ再現性よく生産できることを確認し、その結果を文書化する。

9) コンピュータ化システムバリデーション(CSV)
コンピュータ化システムバリデーションは GAMP5 及び厚労省「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン(案)」に従って実施することが一般的である。CSV の実施内容はシステムの複雑性、重要性、供給者の品質管理能力によって変動する。従って、カテゴリー分類評価やサプライヤオーディットを行い、評価結果により決定したカテゴリー分類により実施内容が決定する。実施内容(例)を以下に示す。

表 A5.1 コンピュータ化システムバリデーションの実施内容(例)
A6:インキュベータのリスクコントロールの選択肢
以下にインキュベータのリスクコントロールの事例を記載する。各項目の中からそれぞれのリスクに応じて選択してよい。

1) 作業者が入室する製造環境に設置されたインキュベータのリスクコントロールの選択肢
a) インキュベータからの培養容器出し入れ前に、設置作業室の環境基準に準じた作業者の無菌更衣並びに作業前後の手指グローブの消毒
b) 培養容器の開放を伴う無菌操作等区域の環境へ培養容器を出し入れ前の、培養容器外面と作業者の手指グローブへの環境基準に準じた措置
c) ガス供給経路へのフィルタ導入
d) インキュベータ内部の清浄度維持のための換気システム
e) インキュベータ設置部での気流:インキュベータ側から作業者側への流れ
注)培養容器等の開放は安全キャビネット内部等で行われるので、この場合はインキュベータの扉開放時に作業者由来による外因性微生物による汚染防止を重視した。アイソレータなど作業者を排除したクリーンエア装置に接続した場合は、この限りではない。また、インキュベータ庫内に汚染が無いことを前提に記述しているが、庫内の汚染が確認された場合は作業者を介在した汚染拡大リスクが懸念されるので、採るべき措置を決めておくこと。
f) 定期的なフィルタの交換
注)通常は半年ごとの交換が望まれる。半年以上の長期の培養期間が必要な場合は、長期のフィルタの堅牢性を確認しておくこと。
g) 加湿用水などでの湿度供給の場合、UV 灯設置、フィルタ導入または無菌的供給等による環境微生物の予防的管理
h) 不要な扉開放並びに開放時の会話・不要動作などの禁止 i) 定期的な庫内の清掃と消毒または除染
注)作業者の操作に伴う、培地等付着物の微小な蓄積は避けられないが、庫内の汚れや汚染が無い場合は、製造時の培養期間が終了した時点で行うことが望ましい。庫内の汚れや汚染が確認された場合は、設置環境基準に準じた復帰作業を行い、作業環境への交差汚染と製品への影響を考慮した採るべき措置を決めておくこと。インキュベータ内部の除染を行う場合は室内への除染剤の漏れ量が職業曝露限界(以下、OEL)基準値以下であることを考慮しなければならない。

2) 安全キャビネット等に直接接続されたインキュベータのリスクコントロールの選択肢
a) 設置作業室の環境基準に準じた作業者の無菌更衣並びに作業前後の手指グローブ消毒と無菌操作等区域となる安全キャビネット内部での操作前に必要な措置
b) ガス供給経路へのフィルタ導入
c) インキュベータ内部の清浄度維持のための換気システム
d)  扉開放前の安全キャビネットの運転と開放時の気流
注)インキュベータ庫内に汚染が無いことを前提に記述しているが、庫内の汚染が確認された場合は作業者を介在した汚染拡大リスクが懸念されるので、採るべき措置を決めておくこと。
e) 定期的なフィルタの交換
注)通常は半年ごとの交換が望まれる。半年以上の長期の培養期間が必要な場合は、長期のフィルタの堅牢性を確認しておくこと。
f) 加湿用水などでの湿度供給の場合、UV 灯設置、フィルタ導入または無菌的供給等による環境微生物の予防管理
g) 不要な扉開放
h) 定期的な庫内の清掃と消毒または除染
注)作業者の操作に伴う、培地等付着物の微小な蓄積は避けられないが、庫内の汚れや汚染が無い場合は、製造時の培養期間が終了した時点で行うことが望ましい。庫内の汚れや汚染が確認された場合は、接続された設備の環境基準に準じた復帰作業を行い、作業環境への交差汚染と製品への影響を考慮した採るべき措置を決めておくこと。除染を行う場合は室内への除染剤の漏れ量が OEL基準値以下であることを考慮しなければならない。

3) アイソレータシステムに導入されたインキュベータリスクコントロールの選択肢
a)  設置作業室の製造環境基準に準じた作業者の無菌更衣並びに作業前後の手指グローブの消毒
b) ガス供給経路へのフィルタ導入
c) インキュベータ内部の清浄度維持のための HEPAフィルタを用いた換気システム
d)  扉開放前のアイソレータの運転
注)インキュベータ庫内に汚染が無いことを前提に記述しているが、庫内の汚染が確認された場合は接続したアイソレータ内での汚染拡大リスクが懸念されるので、採るべき措置を決めておくこと。
e) 定期的なフィルタの交換または完全性試験の実施
注)通常は半年ごとの交換または完全性試験の実施が望まれる。半年以上の長期の培養期間が必要な場合は、長期のフィルタの堅牢性を確認しておくこと。
f) 加湿用水などでの湿度供給の場合、UV 灯設置、フィルタ導入または無菌的供給等による環境微生物の予防管理
g) 不要な扉開放
h) 定期的な庫内の清掃と除染
注)作業者の操作に伴う、培地等付着物の微小な蓄積は避けられないが、庫内の汚れや汚染が無い場合は、製造時の培養期間が終了した時点で行うことが望ましい。庫内の汚れや汚染が確認された場合は、アイソレータの環境基準に準じた復帰作業を行い、作業環境への交差汚染と製品への影響を考慮した採るべき措置を決めておくこと。
i) アイソレータと同時または単独での除染が可能であること j) 一定または管理されたリーク率
注)設置室への除染剤の漏れ量が OEL の安全基準値以下であること。

引用関連規格

8.関連法令・規制・規格
1) 再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
2) ISO 13408-1 ヘルスケア製品の無菌操作-第 1 部:一般要求事項
3) ISO 13408-7 ヘルスケア製品の無菌操作-第 7 部:医療機器及び複合製品の代替プロセス
4) ISO 18362 細胞ベースのヘルスケア製品の製造―操作中の微生物リスクの管理
5) JIS T 60601-1-8 医用電気機器-第 1-8 部:基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項―副通則:医用電気機器及び医用電気システムのアラームシステムに関する一般要求事項、試験方法及び適用指針
6) ICH Q9 品質リスク管理
7) JIS T 14971 医療機器―リスクマネジメントの医療機器への適用
8) ISO 9001 品質マネジメントシステム
9) ISO 13485 医療機器―品質マネジメントシステムー規制目的のための要求事項

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 浅野茂隆 早稲田大学 招聘研究教授
秋枝静香    株式会社サイフューズ 細胞製品開発部 取締役
天野健太郎   株式会社竹中工務店 技術研究所 環境計画部空気環境グループ長
牛田多加志   東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 教授
梅澤明弘    国立成育医療研究センター 再生医療センター センター長
紀ノ岡正博   大阪大学大学院 工学研究科 生命先端工学専攻生物プロセスシステム工学領域 教授
小久保護    澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
齋藤充弘    クオリプス株式会社 研究開発部門 部長
須賀康之    清水建設株式会社 エンジニアリング事業本部 プラント事業部プロジェクト計画部 医薬プラントグループ 主査
平井克也    パナソニック ヘルスケア株式会社 バイオメディカ事業部新規事業推進部 新規事業販売推進課 課長
本郷孝幸    株式会社アステック 東京営業所 営業部
水谷 学    株式会社早稲田大学アカデミックソリューション 客員研究員
宮川功章    ワケンビーテック株式会社 テクニカルセンター 技術本部統括部長
森由紀夫    株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング生産統括本部長 製造部部長
山崎幸登    ローツェライフサイエンス株式会社 代表取締役社長
山本 宏    日本エアーテック株式会社 設計本部 取締役・設計本部長
若松猪策無   株式会社メディネット管理本部

サイエンティフィックアドバイザー
H29 年度 再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG
再生医療用途 CO2 インキュベータの運用に関するガイドライン(手引き)素案検討 TF 委員

谷本和仁    澁谷工業株式会社 プラント生産統轄本部 プラント技術部製薬設備技術部 兼 再生医療システム本部 次長
幡多徳彦    ローツェライフサイエンス株式会社 アプリケーション開発部 部長

報告書(PDF)

2019-E-RE-048-H29-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report