再生医療等製品の製造所における顕微鏡の設置と維持管理に関するガイドライン2017

ガイドラインID 2017-E-RE-040
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療 ヒト細胞製造システム開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2017-E-RE-040 再生医療等製品の製造所における顕微鏡の設置と維持管理に関するガイドライン2017
※経済産業省のホームページに掲載無し(2021年6月18日現在)

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. 総則

1.1 背景
再生医療等製品の製造において、培養する細胞の製造管理や品質管理を行う上で、細胞や標本からより詳細な情報を得る手段として顕微鏡が広く用いられている。しかし、顕微鏡にはその観察目的・対象の特徴に即した、様々な観察方法の選択肢があるため、適切に構成品を組み合わせて機器の仕様を選定しなければならず、かつその顕微鏡の性能を恒常的に維持するためには、日常の管理を細やかに行う必要がある。適切ではない構成や管理方法では、必要な観察像の取得が困難となる。特に患者に移植される再生医療等製品の製造においては、不適切な観察は誤った判断につながり、患者への安全性・有効性の保証を確保できない可能性もある。さらに、再生医療等製品の製造所は高度に清浄化されていることから、顕微鏡の使用・運用において設置環境を汚染しない配慮も管理項目として重要である。

1.2 目的
本ガイドライン(手引き)では、再生医療等製品の製造所において使用される顕微鏡に関して、適切な選定、恒常的な観察性能の維持と清浄な設置環境の確保のための搬入据付、点検・保守、清掃等についての運用管理の考え方を示す。
なお、本ガイドラインは再生医療等製品の工程管理で使われる標準的な顕微鏡について留意すべき事項を掲げたものであり、製造工程の要求事項に応じて顕微鏡(材質、大きさ、仕様、機能、等)を変更した場合には、リスク評価を行った上で新たな管理事項に設定し直す必要が生じる可能性があることに留意しなければならない。

1.3 適用範囲
本ガイドライン(手引き)は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」下で運用される製造所に向けたガイドラインとする。
ただし、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(いわゆる新法)」下で運用される加工業者においても、各々のリスクマネジメントに基づき本ガイドラインを参考に顕微鏡の運用方法を構築することは有効であると考える。

1.3.1 対象機器
・ 再生医療等製品の製造所で使用される顕微鏡
・ 接眼レンズを通して観察することを目的としてメーカーが供給する、本体、付属品で構成される一連の観察が行える顕微鏡
・ 通常販売されている顕微鏡及び付属品を対象とし、製造所ごとの個別の要求事項に対応するため設計、製造された顕微鏡を除く


1.3.2 設置環境
再生医療等製品の製造所内で清浄度が維持管理されている環境に適用する

1.3.3 対象範囲
顕微鏡の設置から維持管理までを範囲とする

1.4 管理体制
1.4.1 各運用業務に関する責任者
製造所における顕微鏡の適切な使用及び継続的な維持管理のために、各運用業務における責任を「管理責任者」あるいは「作業者」に分け、確実に実施できる体制を構築する必要がある。なお実際の業務については、責任を負う者が所定の手順に従い、訓練を受けた別の者に委任することは可能である。
・ 日常点検 : 作業者
・ 日常清掃 : 作業者
・ 設置 : 管理責任者
・ 定期清掃 : 管理責任者
・ 定期点検 : 管理責任者

1.4.2 各運用業務に関するユーザーとメーカーの役割分担
製造所において使用する顕微鏡についての導入から運用に至る全ての運用業務について、ユーザーは主体的に判断・実施しなければならない。ただし、顕微鏡が高度な精密機器であるため、対象となる顕微鏡の構造・仕様についての詳細情報や維持管理に対する専門知識等について、必要に応じて製造元であるメーカーやメーカーから認定された業者に、情報提供及び運用業務の一部を委託することも必要である。なお、上記のメーカーへの委託の内容や範囲は画一的ではなく、各製造所における顕微鏡の使用経験の有無、導入する顕微鏡の用途、及び設置される使用環境等に応じて、個々の事例毎に適切に判断することが重要である。
顕微鏡のメーカーは、ユーザーにおいて適切に導入-運用を行うために必要な情報を、可能な範囲で提供するとともに、再生医療分野における顕微鏡の用途や設置環境に関する顧客要求事項についても情報収集に努めなければならない。

GL:本体

2. 用語の定義
本ガイドラインにおける用語の定義を以下に示す。

顕微鏡(microscope)
対物レンズで拡大された微小な物体の実像を、接眼レンズによって更に拡大して観察する光学機器を指す。構成上、下記の3つに分けられる。

1) 倒立型顕微鏡(inverted microscope)対物レンズが標本を載せた観察ステージの下に配置され、標本を真下から観察する顕微鏡。
2) 正立型顕微鏡(upright microscope)
対物レンズが標本を載せた観察ステージの上に配置され、標本を真上から観察する顕微鏡。

3) 実体顕微鏡(stereo microscope)
対物レンズは標本の上にあり、標本を真上から観察する顕微鏡。
また、光路が2つに分かれているため、標本を立体的に観察することが可能になる。

観察方法
一般的な顕微鏡の観察法は、標本を透過または反射した光を観察する明視野観察である。それ以外に観察する標本の状態や研究目的によって、位相差観察/微分干渉観察/偏光観察/蛍光観察などがあり、使い分けされる(Appendix A5参照)。

1) 明視野観察(bright field observation)
プレパラートの組織切片などを対象とし、標本を透過/反射した光を元に、その波長や強度の差によって観察する、最も基本的な観察手法。

2) 位相差観察(phase contrast observation)
通常の明視野観察では見えづらいほぼ無色透明の細胞等を対象とし、光の回折と干渉という現象を利用して、透明な標本に明暗のコントラストを付けて観察する手法。

3) 微分干渉観察 (differential interference contrast observation)
位相差観察と同様に、明視野観察では見えづらいほぼ無色透明の細胞等を対象とし、光が通過する際の屈折率の違いや、標本表面の形状による光路差(光の進み方の違い)を明暗のコントラストに変えて観察する手法。位相差観察より厚い標本の観察が可能である。

4) 偏光観察 (polarized light observation)
主に鉱物を対象とし、標本の偏光特性を明暗のコントラストや色に変化させて観察する手法。

5) 蛍光観察(fluorescent observation)
蛍光物質を持つ標本(例えば、蛍光染色した細胞)を対象とし、特定の波長の光を照射することにより標本内部に存在する蛍光物質が照射光を吸収したのち発した蛍光を観察する手法。

初期コンディション (initial condition)
設置時の性能を評価して得られた、使用開始時点での設置された顕微鏡機能の状態(コンディション)。維持する際の管理幅の上限値(目標値)となる。一般的に、据付時適格性確認と運転時適格性確認により得られた値により管理責任者が設定する。必ずしも数値である必要は無く、状態を示す基準も含む。

保守基準 (acceptable condition)
設置された顕微鏡を適切に使用できる指標の下限値。この値を下回った場合には、初期コンディションを目標として保守基準を上回るよう保守あるいは修理を実施する。必ずしも数値である必要は無く、状態を示す基準も含む。

図: 初期コンディション、保守基準と維持管理の関係

維持管理(preventive maintenance)
適切な顕微鏡観察を継続的に実施できるよう、顕微鏡の性能を維持するために行う日常及び定期的な点検、保守及び清掃等。

点検(inspection)
機器・設備について性能劣化の状態を調べ、必要に応じ保守または修理を行うことを判断すること。

保守(preventive care)
点検により性能の低下が認められた際に、元の状態に戻すために行う作業。例えば、消耗部品または材料の取り替え、部品の調整等の作業。

清掃(cleaning)
清浄な環境を維持するために、塵埃や付着物などを、室内や機器などから取り除くこと。

除染(decontamination)
空間や作業室を含む構造設備に生存する微生物を再現性のある方法によりあらかじめ指定された菌数レベルにまで減少させること。

消毒(disinfection)
対象物又は表面等の局所的な部位に生存する微生物を減少させること。

管理責任者(manager)
製造所の機器の導入から運用管理に関し、確実に運用・維持管理がされるよう管理体制に責任を負う者。

作業者(operator)
製造所において再生医療等製品の製造工程に従事する者。


3.顕微鏡の設置
再生医療等製品の製造所へ設置する顕微鏡は、観察目的・対象の特徴を適切に観察する仕様を充たすものを選定する必要がある。また、その搬入の際には、製造環境を悪化させないよう適切な手順で、開梱、消毒、搬入、組立て、調整を行った後に、所定の機能が動作することを確認しなければならない。

3.1 新規購入顕微鏡の設置
3.1.1 顕微鏡仕様の設定
製造所における使用目的、設置環境等を満たす機器を導入するために、顕微鏡の要求仕様を文書化することが必要である。要求仕様書には、顕微鏡本体及びパッケージ単位の構成、及び使用時の機能及び要求している性能等を明確に記載しなければならない(Appendix A1.1、A 1.2 参照)。

3.1.2 搬入前準備
管理責任者は、設置に必要な準備として、顕微鏡が設置される環境、位置及び経路等に関する情報をメーカーまたはメーカーが認定する者(以下、メーカー担当者)へ提供し、事前に設置予定場所の清浄度環境や搬入手順等を確認すること(Appendix A 1.3 参照)。
下記にユーザーとメーカー担当者それぞれが提供する情報例を示すが、情報の流れについてはAppendix A 1.1を参照のこと。

1) メーカー担当者から入手する情報
・ 納品時の顕微鏡本体及びパッケージ単位の状態(梱包形態含む)
・ 開梱の際の注意点
・ 推奨消毒剤
・ 組み立てや調整のために持ち込む工具・資材類
・ 基本的な据付時適格性確認に関する資料 (Appendix A 1.4参照)
・ 基本的な運転時適格性確認に関する資料 (Appendix A 1.5参照)
2) メーカー担当者に提供する情報
・ 顕微鏡の要求仕様書
・ 設置場所と設置条件(環境の清浄度・温度・湿度、設置スペース、設置場所の水平度、振動の有無、電源等の用力接続、等)
・ 搬入経路(屋外から製造所外部搬入口への経路、開梱や清掃場所等を含む)
・ 梱包納入物の開梱・搬入作業に関する注意事項
・ 清掃手順(所定消毒剤、清拭用資材、清拭手順等に関する情報を含む)
・ 除染手順(必要に応じて)
・ 更衣仕様
・ 据付時適格性確認書、運転時適格性確認書(搬入前準備を反映させた最終版)

清掃箇所と清拭方法に関しては、5章及びAppendix A 4を参考にメーカー担当者からの情報に基づき設定すること。
万が一、予定された設置場所に顕微鏡観察へ影響を及ぼす要因がある場合は、メーカー担当者と協議の上、設置場所や設置方法の変更を検討すること。

3.1.3 搬入
搬入前準備段階に設定した手順に従い、搬入を行う。
顕微鏡は精密機器であるため、構成部品の取り扱いは原則メーカー担当者が行うことが望ましい。
構成部品の清掃方法や搬入方法については管理責任者が指示すること。

3.1.4 組み立て・設置作業
メーカー担当者は、搬入時に清拭した構成品を汚染させることなく顕微鏡の組み立てを行うこと。
なお、管理責任者は設置する顕微鏡の周辺スペースは、通常の観察作業を行うためだけでなく、顕微鏡の日常清掃が容易にできること、並びに周囲の設置環境の清掃が可能であることにも留意し、設置場所を決定することが望ましい。

3.1.5 据付時適格性確認
組み立て・設置を完了した後、搬入前準備(3.1.2章)で決定した据付時適格性確認項目に従い、各々の設置条件を満たしていることを確認し、文書化すること(Appendix A 1.4参照)。

3.1.6 運転時適格性確認
据付時適格性確認で「適合」を確認した後、搬入前準備(3.1.2 章)で決定した運転時適格性確認項目に従い、各々の動作、機能項目を確認し、文書化すること。
なお、設置時の運転時適格性確認の項目及びその合格基準値は、維持管理の際に実施する点検・保守、及び清掃後の適格性確認の目安とすることができる(Appendix A 1.5参照)。

3.2 移設・再設置
3.2.1 基本的な考え方
顕微鏡を製造所内あるいは製造所間で移設する場合は、現設置場所と移設先の清浄度環境の差異を考慮し、適切に清掃あるいは除染し、移設後には、新規購入顕微鏡の設置と同様に据付時適格性確認及び運転時適格性確認を実施する必要がある。

3.2.1.1 より高い清浄度区域に移設する場合
一般空調の環境に設置されていた顕微鏡に関しては、各々の構成品を組み立てる際に表面の塵埃等が十分に除去されていない場合が考えられるため、清浄な環境での使用前に機器内部からの汚染発生リスクを低減するために、移設前に構成品単位に分解して清掃することが望ましい。同様に、清浄度管理区域に設置されていた顕微鏡であっても、より清浄度の高い区域に移設するために機器表面に蓄積した塵埃や付着物を除去することが必要である。 また、微生物汚染防止の観点でも設置エリアの微生物管理レベルに応じて、適切な清拭消毒や除染方法を選択し、実施すること。

3.2.1.2 同等または低い清浄度区域に移設する場合
清浄度管理区域から顕微鏡を移設する場合には、日常清掃時に清掃できない箇所に蓄積した塵埃が分解や移動の作業により飛散する可能性があることから、作業の都度塵埃の除去を行いながら行うこと。

3.2.2 移設前準備
管理責任者は、移設に必要な準備として、顕微鏡が設置される環境、位置及び経路等に関する情報をメーカー担当者へ提供し、事前に設置予定環境の適切性や搬入手順を確認合意すること。
1) メーカー担当者から入手する情報
・ 推奨消毒剤
・ 分解、再組み立てや調整のために持ち込む工具・資材類
・ 据付時適格性確認案、運転時適格性確認案
2) メーカー担当者に提供する情報
・ 移設対象となる機器型番、オプション品型番
・ 設置場所と設置条件(環境の清浄度・温度・湿度、設置スペース、設置場所の水平度、振動の有無、電源等の用力接続、等)
・ 搬入経路(清掃、必要に応じて包装・開梱場所等を含む)
・ 清掃手順(所定消毒剤、清拭用資材、清拭手順等に関する情報を含む)
・ 除染手順(必要に応じて)
・ 更衣仕様(使用者が着衣を提供する場合は不要)及び手順
・ 据付時適格性確認書、運転時適格性確認書

分解する構成品の単位や適切な清掃方法に関しては、5.2.1章やAppendix A 4を参考に、メーカー担当者からの情報も参考にして設定すること。顕微鏡は組み合わせ部品が多いため、必要に応じて現場での確認を行うこと。
万が一、予定された設置場所の環境が顕微鏡観察へ影響を及ぼす要因がある場合は、メーカー担当者と協議の上、設置場所や設置方法の変更を検討すること。

3.2.3 移動・搬入
3.1.3章に従い、移動・搬入を行うこと。
なお、より高い清浄度区域に移設する場合は、移設前準備段階でメーカーからの情報に基づいて設定した手順に従い、顕微鏡を構成品単位に分解し、清拭した後に移動・搬入を行うこと。
3.2.4 組み立て・設置作業、適格性確認
3. 1.4章、3.1.5章、3.1.6章に従い、組み立て・設置を行ったのち、据付時適格性確認と運転時適格性確認を実施すること。


4. 顕微鏡の点検 ・保守
4.1 基本的な考え方顕微鏡を含め一般的に精密機器は、長期使用することにより構成部品が劣化や消耗することにより、機器本来の性能が発揮されずに使用される場合があるため、定期的な点検や保守が重要となる。管理責任者は、製造所における顕微鏡の使用目的、使用方法、使用頻度を踏まえ、状態変化、劣化や消耗が起こる各機能や部品に対してリスク評価を行い、点検と保守手順とその頻度を規定することが必要である。
具体的には以下の手順で実施する。
1) 顕微鏡の使用期間に応じて性能に影響を及ぼす可能性のある重要な部品の名称とその調整や交換に関する情報を可能な範囲でメーカー担当者から入手する
2) 製造所における顕微鏡の使用方法、使用頻度、設置環境等に基づいて、重要な保守対象とする機能や部品等を選定する。
3) 経時的な変化を評価するための点検方法、基準、頻度(日常、定期)を定める
4) 日常あるいは定期的に、保守基準以上の状態を維持していることを点検し、初期コンディションを目標として保守基準を上回る状態に復帰させるための保守手順を定める
なお、点検・保守で使用する試薬や資材などが、製造所の環境や設備の劣化、腐食又は塵埃等の原因とならないよう、その選択に注意すること。

4.2 点検・保守の実施区分
4.2.1 日常点検・保守方法
日常点検は、観察作業に支障をきたすリスクのある項目に対して日々確認するものであり、製造所における顕微鏡の使用方法、使用頻度、設置環境等に基づいてAppendix A 3を参考に項目を選択すること。
作業者は、顕微鏡を使用する前に予め設定した点検項目について、各部の設定、機能を確認する。保守基準を満たさない場合には、再度設定あるいは調整したのち使用する。
ただし、再設定・調整が困難で使用に支障がある場合には、使用を中止し適切に部品の交換、修理等を行うこと。

4.2.2 定期点検・保守方法
日常使用時に点検できない箇所、あるいは長期使用することにより徐々に劣化する部品等については、一定期間ごとに日常の使用時の不具合や消耗部品の交換時期の情報を参考として、詳細に点検、調整、部品交換を実施する(Appendix A 3 参照)。その際、顕微鏡が精密機器であり、不用意に分解、部品交換を行うことにより大きく性能を損なう可能性があることに留意し、メーカーへ依頼する範囲を予め確認しておかなければならない。
5. 顕微鏡の清掃
5.1 基本的な考え方
再生医療等製品製造所の清浄度管理区域のような清浄度の高い環境であっても、構造が複雑であり、かつ長期に設置・使用される顕微鏡には塵埃や付着物が蓄積する箇所が存在する。レンズ類への塵埃や付着物の蓄積は機器の性能に影響を及ぼすだけでなく、機器の各部位に蓄積した塵埃や付着物を放置することは環境を悪化させるリスクとなるため、管理責任者は適切に顕微鏡の清掃を行うために、メーカーから構造や特徴の面から、清掃に対する注意点の情報を入手しておくことが重要である。
また、再生医療等製品の製造工程では、細胞の入った容器を顕微鏡により観察する作業が繰り返し頻繁に行われる。その際、培養容器や作業者の手が触れる場所については、微生物汚染の拡散やクロスコンタミネーションのリスクがあることに留意し、清掃の範囲、手順、タイミングを定めなければならない。なお、清掃で使用する試薬や資材などが環境や設備の劣化、腐食又は塵埃等の原因とならないよう、その選択に注意すること。

5.2 清掃の実施区分顕微鏡の清掃は基本的に製造所の作業者が実施する。ただし、顕微鏡が複雑な構造の精密機器であることから、清掃することにより性能を損なう可能性がある箇所については、管理責任者が予め顕微鏡メーカーに清掃を依頼する箇所及び手順を明確にしなければならない。また、清掃の実施時期、頻度については、初期搬入時、日常使用時、定期等に分類される。


5.2.1 初期搬入時の清掃方法
顕微鏡は多くの場合、パッケージ単位で製造所に納品され、最終的に使用場所で組み立てられる。再生医療等製品の製造所の清浄度管理区域に搬入する際は、清浄度環境を悪化させないために搬入前準備段階で取り決めた清掃手順に従い、パッケージ単位で清拭したのち搬入し、使用場所にて組み立てを行う。
代表的なパッケージ単位は、以下の通りである。
・ 本体(ベース部)
・ 鏡筒ベース、鏡筒、接眼レンズ
・ レボルバー
・ 対物レンズ
・ ステージ
・ コンデンサレンズ、ターレット・ 照明支柱、フィルタースライダー
・ ランプ、ランプハウス光源カバー
・ 電源、電源コード

5.2.2 日常清掃方法
日常清掃は、顕微鏡を操作する際に作業者が接触した箇所、及び観察対象物(製品や中間品の容器等)が接触した箇所を清潔に維持するための清掃と、顕微鏡の性能を維持するために行う清掃がある。清掃箇所の例をAppendix A 4.1に示す。
作業者や観察対象物が接触した箇所を清掃するタイミングや頻度については、各製造所の顕微鏡の使用方法、使用頻度、使用環境、観察対象物、等を考慮したリスク管理により決定することが重要である。
レンズ類の表面の汚れは画質の低下の原因となるため、初期コンディションを維持するために清掃を行う必要がある。
なお、清掃を行う際に以下の点に注意すること。
・ 顕微鏡観察の直後は、ランプなどの光源が高温になっているため、接触することにより火傷の危険があり、また清掃のために消毒剤または除染剤を噴霧することで急激に冷却されランプが破損する可能性がある。光源部の清掃については、十分に冷却したことを確かめた後に行うこと。
・ 消毒剤を顕微鏡表面に噴霧して清拭する場合は、レンズ類へ直接吹きかけないように注意する。消毒剤が付着した場合、そのまま放置することはレンズの染み、曇り、等が発生する原因となるため、速やかに乾燥したクロス等でふき取ること。
・ 清掃により設定がずれる危険性がある箇所については、4.2.1章、Appendix A 3.2を参照し、清掃後に初期コンディションに再設定すること。

5.2.3 定期清掃方法
定期清掃は、蓄積した塵埃による環境清浄度汚染を防止する目的として、日常清掃以外の箇所で、長期的な使用により塵埃が溜まりやすい箇所を対象とする。清掃箇所例をAppendix A 4.2 に示す。実施頻度は、顕微鏡が設置されている環境の清浄度や使用条件を考慮したリスク管理により決定することが重要である。


6. 維持管理のための文書化と教育

6.1 文書化
再生医療等製品の各製造所においては、顕微鏡による観察作業を適切に実施するための操作手順書を作成するとともに、本ガイドラインやメーカーからの資料に基づいて、機器として性能を維持するための点検・保守・清掃等について、予め明文化しておかなければならない。また、顕微鏡の性能を恒常的に確保するためには、管理責任者及び各作業者が、この管理文書の記載内容を遵守した運用を行い、必要に応じて管理方法を見直すことも重要である。

6.2 教育
製造所において顕微鏡の導入から点検・保守・清掃等を実施させる管理責任者や実際に観察を実施する作業者は、適切に顕微鏡を取り扱うための基礎知識や使用方法について、手順書を含めた管理文書や実際の顕微鏡を用いた教育を受けなければならない。

GL:付属資料

Appendix

【目 次】
A 1. 設置の作業フローとチェックシート例
A 1.1 設置の作業フローと役割分担
A 1.2 要求仕様書の作成フロー例 A 1.3 搬入前準備チェックシート例
A 1.4 据付時適格性確認のチェックシート例
A 1.5 設置時動作適格確認のチェックシート例
A 2. 観察作業と維持管理手順のフロー
A 3. 製造所における顕微鏡の機能変動につながるリスク例と点検・保守例(ユースケースをもとに)
A 3.1 リスク 1: 経時変化/劣化に起因するもの
A 3.2 リスク 2: 作業者の行動に起因するもの
A 3.3 リスク 3: 設置環境・清掃に起因するもの
A 4. 製造所における顕微鏡の清掃箇所と清掃手順、注意点の例(ユースケースをもとに)
A 4.1 日常清掃例
A 4.2 定期清掃例
A 5. 観察作業手順
A 5.1 観察前調整手順
A 5.2 観察時手順
A 5.3 主要な点検・保守の例
A 6. 顕微鏡を使用する際の参考資料
A 6.1 顕微鏡の種類
A 6.2 倒立顕微鏡の構造 A 6.3 顕微鏡の観察方法
A 6.4 位相差観察の原理

A 1. 設置の作業フローとチェックシート例 (本文 3 章参照)

A 1.1 設置の作業フローと役割分担
顕微鏡の設置にあたり、顕微鏡仕様の設定から OQ の実施までの作業フローと、ユーザーとメーカーとの作業の役割分担の例を図 A 1.1 に示す。

図 A 1.1 設置の作業フローと役割分担
1.2 要求仕様書の作成フロー例 (本文 3.1.1 章)

ユーザーが要求仕様書を作成するにあたり、考慮すべき情報のインプット例を図A 1.2 に示す。なお、ユーザーの観察対象やその他の観察条件によって、インプットする情報項目や内容も異なるため、ユーザーは自身の観察目的を明確にしたうえで要求仕様書の作成に取り掛かること。

図 A 1.2 要求仕様書の作成フロー例
A 1.3 搬入前準備チェックシート例 (本文 3.1.2 章)

搬入前準備を実施する際のチェックシート例を示す(図A 1.3)。なお本チェックシートはあくまで例であり、納品される顕微鏡の種類や、設置場所となる製造所の場所や運用方法に応じ、項目を設定すること。

図A1.3 搬入前準備チェックシート例
A 1.4 据付時適格性確認のチェックシート例 (本文 3.1.5章)

据付時適格性評価を実施する際のチェックシート例を示す(図 A 1.4参照)。なお本チェックシートはあくまで例であり、顕微鏡の要求仕様を始め、機器の特性、設置条件、使用条件などに応じ項目や判定基準を設定すること。

図 A 1.4 据付時適格性確認(IQ)のチェックシート例
A 1.5 運転時適格性確認のチェックシート例 (本文 3.1.6章)
運転時適格性確認を実施する際のチェックシート例を図A 1.5に示す。なお本チェックシートはあくまで例であり、顕微鏡の要求仕様を始め、機器の特性、設置条件、使用条件などに応じ項目や判定基準を設定すること。

図 A 1.5 運転時適格性確認(OQ)のチェックシート例

A 2. 観察作業と維持管理手順のフロー
適切な観察環境を維持するため観察作業前と観察作業中に実施する主な調整作業と維持管理の手順を図A2に示す。

図 A 2 観察作業と維持管理手順のフロー

A 3 製造所における顕微鏡の機能変動につながるリスク例と点検・保守例(ユースケースをもとに)
顕微鏡の性能が変動する主要因とその点検・保守方法に関して、倒立型位相差顕微鏡を例にとり下に記す。

A 3.1 経時変化/劣化に起因するもの (倒立顕微鏡を例にして)
A 3.2 作業者の行動に起因するもの
(倒立顕微鏡を例にして)
A 3.3 設置環境・清掃に起因するもの
A 4. 製造所における顕微鏡の清掃箇所と清掃手順、注意点の例(ユースケースをもとに)
顕微鏡の日常・定期清掃箇所について、倒立型位相差顕微鏡を例にとり下に示す。ただし、これらはあくまで例であり、ユーザーは製造作業内容やリスク評価により適宜選択すること。

A 5. 観察作業手順 A 5.1 観察前調整
作業疲労を低減し、かつ適切に観察するために、作業者は、観察作業前に顕微鏡の所定部位を各作業者の
身体的特徴に調節することが重要である。

A 5.1.1 視野欠けなく観察するための調整(アイポイントの調整)
アイポイントとは、下図の示すように接眼レンズ目当てからある程度離れたところの観察者の目の虹彩を通過する点のこと(図A5.1.1-1参照)。正しい高さで観察することで、視野欠けなく全視野を観察することができる。
目を接眼レンズに近づけ過ぎると、かえって視野欠けを起こす。

図A5.1.1-1 アイポイント

1) 顕微鏡の設置環境の調整作業疲労を低減し、かつ適切に観察するためには、椅子や机の高さを選び、楽な姿勢で観察できるようにアイポイントの高さを調節することが重要である。その際、顕微鏡は水平な作業台の上に設置すること。また作業台の真上に照明がある場合などは外乱光が入り、見えが悪くなる場合があるので設置場所には注意すること。

図A5.1.1-2 適切な姿勢での観察例

【補足】アイポイントの高さ調整
顕微鏡の種類によっては、傾角鏡筒の接続により鏡筒の俯角(b)及び双眼部伸長範囲(c)が調整可能となり、適切な姿勢での観察が容易になる(図A5.1.1-3 参照)。

図A5.1.1-3 傾角鏡筒の調節機能

A 5.1.2 作業者ごとの眼幅差に合わせた双眼視調整(眼幅調整)
両眼の間隔(眼幅)は個人それぞれ異なる。双眼部を双眼鏡のように折り曲げるようにして、視野がひとつになるように眼幅を調整することで、両眼での観察(双眼視)が容易となり、作業者への負担が軽減する。

図A 5.1.2 双眼部の眼幅調整方法

A 5.1.3 作業者ごとの視力差に合わせたピント調整(補正視度)
視力は作業者ごとに異なる。また、左右の眼でも視力に差異があるため、観察を始める前に視度補正を行ことでこれらの視力差が補正され、顕微鏡の操作性が向上する。
なお作業前に視度補正を行ったとしても、観察作業を実施している間に目の疲れにより視力は変化するため、時々確認することが好ましい。

1) 補正視度の調整方法
(1) 接眼レンズを鏡筒から外し、視度補正環を回して刻線を基準位置に合わせる(図 A 5.1.3参照)。

図 A 5.1.3 視度補正環と刻線位置


(2) 4Xもしくは10Xの低倍対物レンズでおおよそピントを合わせたのち、高倍対物レンズに切り替え、焦準ハンドルでピントを合わせる。 この時利き目のみでピントを合わせる。
(3) 次に反対側の目で像をのぞき、焦準ハンドルは操作せずに、接眼レンズの視度補正環を回してピントを合わせる。これにより両眼でピントが合うようになる。

A 5.1.4 観察ステージをスムーズに操作するための調整

1) ステージハンドル高さ/トルクの調整方法
(1) ステージハンドルの高さを調整することにより、長い時間の顕微鏡観察においても手首の負担を抑えた快適な操作を実現できる。調整する場合は、ハンドルを持ち好みの高さまで垂直方向に移動させること(図 A5.1.4 左図 参照)。

(2) ステージハンドルのトルクを調整することにより、スムーズなXY方向の像移動を実現できる。調整する場合は、ステージハンドルを上下に分けた時に見えるハンドルトルク調整ネジを回し、XY それぞれのハンドルトルクを調整する(図 A5.1.4 右図 参照)。

図 A 5.1.4 ステージハンドル高さ/トルクの調整方法

A 5.2 観察
A 5.2.1 観察倍率の切り替え

1) 対物レンズの切り替え観察倍率を切り替える場合は、接眼レンズの倍率を変更するのではなく、対物レンズが付いているレボルバ部分を回し、目的の倍率の対物レンズが観察光路の真下に来るように設定する。

2) リング絞りの切り替え対物レンズには、それぞれに適合するリング絞りが存在するため、対物レンズを切り替えた後は、対物レンズ側面に記載されたPhコードに適合したコンデンサ側のリング絞りを選択する必要がある(図A5.2.1-1 赤矢印の表記を合わせる)。
緑色で文字が表記された対物レンズは位相差観察用の対物レンズであることを意味する(各メーカー共通)。また、その下の黄色のカラーコードは10☓の対物レンズであることを示している(図A 5.2.1-2
参照)。

図 A 5.2.1-1 リング絞りと対物レンズの表記文字箇所

図 A 5.2.1-2 カラーコード

3) ピント合わせ
顕微鏡本体にある焦準ハンドルを回して、ピントを合わせる(図 A 5.2.1-3 参照)。

図A 5.2.1-3焦準ハンドル

4) 照明光の強弱調整
本体もしくは照明用パワーサプライにある照光ボリュームにて調整する(図 A 5.2.1-4 参照)。

図 A 5.2.1-4 昭光ボリューム (本体の場合)

A 5.2.2 観察ベースのXY移動
ステージハンドルを回して、観察したい部位を視野の中心に移動させる。その後、ピント合わせを行う。

A 5.3 主要な点検・保守の例適切なケーラー照明を維持するためには定期的な点検・保守が必要である(ケーラー照明に関しては、A 6.3 参照)。

A 5.3.1 視野外からの迷光を防ぎ、綺麗な観察をするための調整(視野絞りの光軸調整)注)顕微鏡によっては視野絞りが構成に含まれていない機種もある。その場合は調整を必要としない。

視野絞りは、照野絞りとも言われ、観察範囲に限定して照明光を照射する役割を果たしており、これにより視野外からの迷光を防ぎ、観察像のS/N比を高めることができる。
調節方法は、コンデンサ高さ、心出しと視野絞り径の調節を併せて行う。本来は、対物レンズを切り換える
ごとに調整が必要である。

1) 視野絞りの光軸調整方法
(1) 標本にピントを合わせる(A 5.2.1-3)参照)。
(2) 視野絞りを視野内に見えるまで絞る(図 A 5.3.1-4 参照)。
(3) コンデンサの高さ調節によってピントを合わせる(図 A 5.3.1-1 参照)。

図 A 5.3.1-1 ピント合わせした視野絞り像

(4) コンデンサ心出しネジで視野絞り像を中心に移動させる(図 A 5.3.1-2 参照)。

図 A 5.3.1-2 視野絞り像の移動

(5) 視野絞りを開き、視野像を接眼レンズ視野環に外接するまで広げる(図 A 5.3.1-3参照)。

図A 5.3.1-3視野絞り像の拡大

図 A 5.3.1-4 絞りの光軸調整作業に関連する箇所
2) 開口絞りの光軸調整方法
注)位相差観察時にはリング絞りが絞りの役割を果たすため不要。その際は開口絞りを全開にしておくこと。

(1) ベルトランレンズもしくは心出し望遠鏡を光路に挿入する(図 A 5.3.3-1参照)。
(2) 開口絞りのレバーを回し、開口絞りを使用する対物レンズの瞳(ベルトランもしくは心出し望遠鏡越しに見える像)の70~80%程度になるように調整する。
(3) ベルトランもしくは心出し望遠鏡を光路から外す。(この操作は対物レンズを切り替えるたびに行う)。

図 A 5.3.1-5 開口絞り像

A 5.3.2 対物補正環の調整
20×以上の対物レンズには、対物内のレンズ間隔を調整する補正環が付いているものもある(図 A 5.3.2-1参照)。

図 A 5.3.2-1 補正環付対物レンズ

補正環付対物レンズにおいては容器ごとの底板の厚みに応じて、対物レンズの補正環を調整する必要が
ある(図 A 5.3.2-2参照)。底板とは、観察範囲(観察)の容器の底の厚さを指す。

図 A 5.3.2-2 容器断面と容器底板厚さ

1) 対物補正環の調整方法
(1) 底板の厚さを確認する。実際に測定する、あるいは容器メーカーの規格値を参考にすること。
(2) 容器の底板の厚さ(Ⅹmm)に対物レンズの補正環の目盛(X)を合わせる。
(3) 焦準ハンドルを回して標本にピントを合わせる。
(4) 像の解像度やコントラストが悪い場合は、対物レンズの補正環をわずかに回す。その際、ピントが僅かにずれるため、焦準ハンドルにて再度ピントを合わせる。
(5) (3)~(4)を繰り返してピントの良い位置を探す。

A 5.3.3 正しく位相差像を観察するための調整(リング絞りの心出し調整)
位相差像は、無色透明の物体の光情報を、リング絞りによる照明と位相リングによる位相変化と吸収作用により明暗のコントラストに変換することによって得られる。コントラストに変換するには、位相リング(グレーハーフトーンのリング)の中にリング絞り(光源リング)が内側に重なるように調整されていることが必要である。

1) リング絞りの心出し調整方法コンデンサの「リング絞り」と対物レンズの「位相リング」の心出しを、鏡筒のベルトランレンズ(B)を光路に入れて(または心出し望遠鏡を使って)調整する。

図 A 5.3.3-1 ベルトランレンズと心出し望遠鏡

(1) 対物レンズに記載されたPhコードを確認し、同じ表記のコンデンサ側のリング絞りを選択する。

図 A 5.3.3-2 リング絞りと対物レンズの表記文字箇所

(2) 図 A 5.3.3-1 のベルトランレンズ調整つまみもしくは心出し望遠鏡の接眼部を回し、リング絞りの像にピントを合わせる。
(3) 六角ドライバーを用いて、コンデンサ内のリング絞りの心出し用のネジを回し、リング絞りの像を対物レンズ内の位相リングの像に重ねる。(位相リングが見にくい場合はステージ上に標本等を置いた状態で調整すると良い)(図 A 5.3.3-3参照)

図 A 5.3.3-3 リング絞りの調整  
A 6.顕微鏡を使用する際の参考資料

A 6.1. 顕微鏡の種類
顕微鏡は、微小な物体を光学的な技術を用いることによって肉眼で見える大きさにまで視覚的に拡大する機器である。
構成上、下記の 3 つに分けられる。スライドガラス上の標本などを観察するために対物レンズが標本の上に配置されている正立型顕微鏡、培養容器等標本を下から観察するために対物レンズが標本の下に配置されている倒立型顕微鏡が一般的に使用されている。更に、比較的低倍率で立体的な構造を持つ標本を観察し、更に顕微鏡下に標本に微細な操作を行う時に用いられる実体顕微鏡がある。
なお、目視で観察する場合、顕微鏡の種類により観察像は反転しているので注意が必要である。注)鏡筒の種類によっては像の反転は変わることがある(下図は標準的な顕微鏡で記載)

表 A 6.1 顕微鏡の種類と観察像例

ここに挙げた顕微鏡は拡大する原理が異なるため、観察対象によって適切に使い分けることが望ましい。
A 6.2. 倒立顕微鏡の観察方法
顕微鏡では、いくつかの観察方法があり、観察対象の特徴によって最適な観察方法を選択する必要がある。

表 A 6.2 各種観察法

A 6.3. 倒立顕微鏡の構造再生医療等製品の製造工程において一般的に使用されている倒立顕微鏡を例にとり、説明する(図 A 6.3
参照)。

倒立顕微鏡は、試料を下側から観察する構造を有し、対物レンズはステージの下にある(①)。
透過光源(ハロゲンやLED)(②)から発生した光は、コンデンサ(③)によって集光され標本に照射される。
標本を透過した光は対物レンズに寄って集められ、接眼レンズ(④)を通して観察者の目に光が導かれる。
この顕微鏡における光の照明方法にはクリチカル照明とケーラー照明の2つの方法があり、一般的にはケーラー照明が用いられる。ケーラー照明は、開口絞りと視野絞りの2つの絞りを持ち、光源の像が標本面ではなく、別途作られた開口絞りに結像する構成であり、照明ムラがなく、フレアやゴーストのない鮮明な視野が得られる照明法である。
倒立顕微鏡の場合、正立顕微鏡と同じ観察姿勢となるように、光軸は途中で斜め上方に折り曲げられて接眼レンズに導くため光路が長くなるため、対物レンズの一次像を接眼レンズまでリレーする光学系(⑤)が内蔵されている。
また、培養容器(シャーレ等)を底から観察する必要があるため、透過照明系(⑥)はステージ上に配置され、作動距離の長いコンデンサが組み合わされる。また容器の厚さは、正立顕微鏡でのカバーガラス越しの観察と比べ、かなり厚いため培養用の対物レンズもこれに対応した設計となっており、作動距離も長くなっている。また観察ステージ(⑦)は固定式で、焦点合わせは対物レンズを上下に動かすことで行う。

(参考:日本顕微鏡工業会ホームページ 3.2 倒立顕微鏡 http://www.microscope.jp/knowledge/03-2.html)

図 A 6.3 倒立型顕微鏡の構造

A 6.4. 位相差観察の原理
生細胞は一般的に透明なため、透過する光の明暗の差が出にくく、そのままでは観察することは難しい。しかしながら、細胞の内部の各微小物体の物質の違いによる屈折率の違いを利用して観察する方法がある。細胞内の微小物体の屈折率差は、光では位相差の変化と置き換えることができるため、この方法は位相差顕微鏡と呼ばれる。位相差顕微鏡では、物体を透過する光が物体の屈折率により位相周期がずれることと光の干渉効果でコントラストをつけることで明視野より生細胞を見やすくしている。
細胞を観察する場合には、倒立顕微鏡の内、光路中コンデンサ側にリング絞りと、対物レンズ内に位相リングが組み込まれた位相差観察が一般的である。リング絞りはリング状に穴が空いた構成になっており、この中を照明光が通過する。通過した照明光は標本を通過するがこの際、標本(位相物体)を透過した光(直接光)と、標本にて回折現象を起こした光(回折光)の2つの光が発生する。回折現象は屈折率に違いのある部位にて発生するため、回折光は細胞と溶液との境界部分、細胞の内部構造部等、観察位相物体の形状情報を含んでいる。
像面では、この二つの光の重ね合わせが像となって見えている。しかし回折光は直接光に比べ極端に弱く、このままでは殆ど何も見えないので、直接光が必ず通る光路、すなわち対物レンズの瞳面にて照明側に置かれたリング絞りに対応する位置に、直接光の位相周期をずらし、かつ光量を下げる働きをもつ位相リングを置くことで、回折光と直接光が干渉して位相差観察が可能になる。

図 A 6.4 位相差観察の原理

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 浅野 茂隆 早稲田大学 招聘研究教授
秋枝静香   株式会社サイフューズ 細胞製品開発部 部長
新井 進   住友ベークライト株式会社 S-バイオ事業部 研究部長
牛田多加志  東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻・バイオエンジニアリング専攻 教授
梅澤明弘   国立研究開発法人国立成育医療研究センター 再生医療センター センター長
紀ノ岡正博  大阪大学大学院 工学研究科 教授
清田泰次郎  株式会社ニコン マイクロスコープ・ソリューション事業部 ステムセル事業開発室 室長
小久保護   澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
後藤英一   横河電機株式会社 計測事業本部 ライフサイエンスセンター センター長
小林悟朗   株式会社クラレ 新事業開発本部 成形部材事業推進部 主管
齋藤充弘   大阪大学大学院 医学系研究科 未来細胞医療学共同研究講座 特任准教授
高橋恒夫   京都大学 再生医科学研究所 幹細胞研究部門 胚性幹細胞研究分野 客員教授
藤本洋久   オリンパス株式会社 科学開発本部 科学商品企画部 戦略商品分野 担当部長
松田博行   藤森工業株式会社 ライフサイエンス事業本部 市場開拓部 主任
水谷 学   株式会社早稲田大学アカデミックソリューション 客員研究員
森由紀夫   株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング 生産統括部長
山内 悠   株式会社堀場製作所 アプリケーション開発センター 液体計測開発部
若松猪策無  株式会社メディネット 製造統括室
和田昌憲   エイブル株式会社 開発部 課長代理

報告書(PDF)

2017-E-RE-040-H27-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report