Appendix
【目 次】
A 1. 設置の作業フローとチェックシート例
A 1.1 設置の作業フローと役割分担
A 1.2 要求仕様書の作成フロー例 A 1.3 搬入前準備チェックシート例
A 1.4 据付時適格性確認のチェックシート例
A 1.5 設置時動作適格確認のチェックシート例
A 2. 観察作業と維持管理手順のフロー
A 3. 製造所における顕微鏡の機能変動につながるリスク例と点検・保守例(ユースケースをもとに)
A 3.1 リスク 1: 経時変化/劣化に起因するもの
A 3.2 リスク 2: 作業者の行動に起因するもの
A 3.3 リスク 3: 設置環境・清掃に起因するもの
A 4. 製造所における顕微鏡の清掃箇所と清掃手順、注意点の例(ユースケースをもとに)
A 4.1 日常清掃例
A 4.2 定期清掃例
A 5. 観察作業手順
A 5.1 観察前調整手順
A 5.2 観察時手順
A 5.3 主要な点検・保守の例
A 6. 顕微鏡を使用する際の参考資料
A 6.1 顕微鏡の種類
A 6.2 倒立顕微鏡の構造 A 6.3 顕微鏡の観察方法
A 6.4 位相差観察の原理
A 1. 設置の作業フローとチェックシート例 (本文 3 章参照)
A 1.1 設置の作業フローと役割分担
顕微鏡の設置にあたり、顕微鏡仕様の設定から OQ の実施までの作業フローと、ユーザーとメーカーとの作業の役割分担の例を図 A 1.1 に示す。
図 A 1.1 設置の作業フローと役割分担
1.2 要求仕様書の作成フロー例 (本文 3.1.1 章)
ユーザーが要求仕様書を作成するにあたり、考慮すべき情報のインプット例を図A 1.2 に示す。なお、ユーザーの観察対象やその他の観察条件によって、インプットする情報項目や内容も異なるため、ユーザーは自身の観察目的を明確にしたうえで要求仕様書の作成に取り掛かること。
図 A 1.2 要求仕様書の作成フロー例
A 1.3 搬入前準備チェックシート例 (本文 3.1.2 章)
搬入前準備を実施する際のチェックシート例を示す(図A 1.3)。なお本チェックシートはあくまで例であり、納品される顕微鏡の種類や、設置場所となる製造所の場所や運用方法に応じ、項目を設定すること。
図A1.3 搬入前準備チェックシート例
A 1.4 据付時適格性確認のチェックシート例 (本文 3.1.5章)
据付時適格性評価を実施する際のチェックシート例を示す(図 A 1.4参照)。なお本チェックシートはあくまで例であり、顕微鏡の要求仕様を始め、機器の特性、設置条件、使用条件などに応じ項目や判定基準を設定すること。
図 A 1.4 据付時適格性確認(IQ)のチェックシート例
A 1.5 運転時適格性確認のチェックシート例 (本文 3.1.6章)
運転時適格性確認を実施する際のチェックシート例を図A 1.5に示す。なお本チェックシートはあくまで例であり、顕微鏡の要求仕様を始め、機器の特性、設置条件、使用条件などに応じ項目や判定基準を設定すること。
図 A 1.5 運転時適格性確認(OQ)のチェックシート例
A 2. 観察作業と維持管理手順のフロー
適切な観察環境を維持するため観察作業前と観察作業中に実施する主な調整作業と維持管理の手順を図A2に示す。
図 A 2 観察作業と維持管理手順のフロー
A 3 製造所における顕微鏡の機能変動につながるリスク例と点検・保守例(ユースケースをもとに)
顕微鏡の性能が変動する主要因とその点検・保守方法に関して、倒立型位相差顕微鏡を例にとり下に記す。
A 3.1 経時変化/劣化に起因するもの (倒立顕微鏡を例にして)
A 3.2 作業者の行動に起因するもの
(倒立顕微鏡を例にして)
A 3.3 設置環境・清掃に起因するもの
A 4. 製造所における顕微鏡の清掃箇所と清掃手順、注意点の例(ユースケースをもとに)
顕微鏡の日常・定期清掃箇所について、倒立型位相差顕微鏡を例にとり下に示す。ただし、これらはあくまで例であり、ユーザーは製造作業内容やリスク評価により適宜選択すること。
A 5. 観察作業手順 A 5.1 観察前調整
作業疲労を低減し、かつ適切に観察するために、作業者は、観察作業前に顕微鏡の所定部位を各作業者の
身体的特徴に調節することが重要である。
A 5.1.1 視野欠けなく観察するための調整(アイポイントの調整)
アイポイントとは、下図の示すように接眼レンズ目当てからある程度離れたところの観察者の目の虹彩を通過する点のこと(図A5.1.1-1参照)。正しい高さで観察することで、視野欠けなく全視野を観察することができる。
目を接眼レンズに近づけ過ぎると、かえって視野欠けを起こす。
図A5.1.1-1 アイポイント
1) 顕微鏡の設置環境の調整作業疲労を低減し、かつ適切に観察するためには、椅子や机の高さを選び、楽な姿勢で観察できるようにアイポイントの高さを調節することが重要である。その際、顕微鏡は水平な作業台の上に設置すること。また作業台の真上に照明がある場合などは外乱光が入り、見えが悪くなる場合があるので設置場所には注意すること。
図A5.1.1-2 適切な姿勢での観察例
【補足】アイポイントの高さ調整
顕微鏡の種類によっては、傾角鏡筒の接続により鏡筒の俯角(b)及び双眼部伸長範囲(c)が調整可能となり、適切な姿勢での観察が容易になる(図A5.1.1-3 参照)。
図A5.1.1-3 傾角鏡筒の調節機能
A 5.1.2 作業者ごとの眼幅差に合わせた双眼視調整(眼幅調整)
両眼の間隔(眼幅)は個人それぞれ異なる。双眼部を双眼鏡のように折り曲げるようにして、視野がひとつになるように眼幅を調整することで、両眼での観察(双眼視)が容易となり、作業者への負担が軽減する。
図A 5.1.2 双眼部の眼幅調整方法
A 5.1.3 作業者ごとの視力差に合わせたピント調整(補正視度)
視力は作業者ごとに異なる。また、左右の眼でも視力に差異があるため、観察を始める前に視度補正を行ことでこれらの視力差が補正され、顕微鏡の操作性が向上する。
なお作業前に視度補正を行ったとしても、観察作業を実施している間に目の疲れにより視力は変化するため、時々確認することが好ましい。
1) 補正視度の調整方法
(1) 接眼レンズを鏡筒から外し、視度補正環を回して刻線を基準位置に合わせる(図 A 5.1.3参照)。
図 A 5.1.3 視度補正環と刻線位置
(2) 4Xもしくは10Xの低倍対物レンズでおおよそピントを合わせたのち、高倍対物レンズに切り替え、焦準ハンドルでピントを合わせる。 この時利き目のみでピントを合わせる。
(3) 次に反対側の目で像をのぞき、焦準ハンドルは操作せずに、接眼レンズの視度補正環を回してピントを合わせる。これにより両眼でピントが合うようになる。
A 5.1.4 観察ステージをスムーズに操作するための調整
1) ステージハンドル高さ/トルクの調整方法
(1) ステージハンドルの高さを調整することにより、長い時間の顕微鏡観察においても手首の負担を抑えた快適な操作を実現できる。調整する場合は、ハンドルを持ち好みの高さまで垂直方向に移動させること(図 A5.1.4 左図 参照)。
(2) ステージハンドルのトルクを調整することにより、スムーズなXY方向の像移動を実現できる。調整する場合は、ステージハンドルを上下に分けた時に見えるハンドルトルク調整ネジを回し、XY それぞれのハンドルトルクを調整する(図 A5.1.4 右図 参照)。
図 A 5.1.4 ステージハンドル高さ/トルクの調整方法
A 5.2 観察
A 5.2.1 観察倍率の切り替え
1) 対物レンズの切り替え観察倍率を切り替える場合は、接眼レンズの倍率を変更するのではなく、対物レンズが付いているレボルバ部分を回し、目的の倍率の対物レンズが観察光路の真下に来るように設定する。
2) リング絞りの切り替え対物レンズには、それぞれに適合するリング絞りが存在するため、対物レンズを切り替えた後は、対物レンズ側面に記載されたPhコードに適合したコンデンサ側のリング絞りを選択する必要がある(図A5.2.1-1 赤矢印の表記を合わせる)。
緑色で文字が表記された対物レンズは位相差観察用の対物レンズであることを意味する(各メーカー共通)。また、その下の黄色のカラーコードは10☓の対物レンズであることを示している(図A 5.2.1-2
参照)。
図 A 5.2.1-1 リング絞りと対物レンズの表記文字箇所
図 A 5.2.1-2 カラーコード
3) ピント合わせ
顕微鏡本体にある焦準ハンドルを回して、ピントを合わせる(図 A 5.2.1-3 参照)。
図A 5.2.1-3焦準ハンドル
4) 照明光の強弱調整
本体もしくは照明用パワーサプライにある照光ボリュームにて調整する(図 A 5.2.1-4 参照)。
図 A 5.2.1-4 昭光ボリューム (本体の場合)
A 5.2.2 観察ベースのXY移動
ステージハンドルを回して、観察したい部位を視野の中心に移動させる。その後、ピント合わせを行う。
A 5.3 主要な点検・保守の例適切なケーラー照明を維持するためには定期的な点検・保守が必要である(ケーラー照明に関しては、A 6.3 参照)。
A 5.3.1 視野外からの迷光を防ぎ、綺麗な観察をするための調整(視野絞りの光軸調整)注)顕微鏡によっては視野絞りが構成に含まれていない機種もある。その場合は調整を必要としない。
視野絞りは、照野絞りとも言われ、観察範囲に限定して照明光を照射する役割を果たしており、これにより視野外からの迷光を防ぎ、観察像のS/N比を高めることができる。
調節方法は、コンデンサ高さ、心出しと視野絞り径の調節を併せて行う。本来は、対物レンズを切り換える
ごとに調整が必要である。
1) 視野絞りの光軸調整方法
(1) 標本にピントを合わせる(A 5.2.1-3)参照)。
(2) 視野絞りを視野内に見えるまで絞る(図 A 5.3.1-4 参照)。
(3) コンデンサの高さ調節によってピントを合わせる(図 A 5.3.1-1 参照)。
図 A 5.3.1-1 ピント合わせした視野絞り像
(4) コンデンサ心出しネジで視野絞り像を中心に移動させる(図 A 5.3.1-2 参照)。
図 A 5.3.1-2 視野絞り像の移動
(5) 視野絞りを開き、視野像を接眼レンズ視野環に外接するまで広げる(図 A 5.3.1-3参照)。
図A 5.3.1-3視野絞り像の拡大
図 A 5.3.1-4 絞りの光軸調整作業に関連する箇所
2) 開口絞りの光軸調整方法
注)位相差観察時にはリング絞りが絞りの役割を果たすため不要。その際は開口絞りを全開にしておくこと。
(1) ベルトランレンズもしくは心出し望遠鏡を光路に挿入する(図 A 5.3.3-1参照)。
(2) 開口絞りのレバーを回し、開口絞りを使用する対物レンズの瞳(ベルトランもしくは心出し望遠鏡越しに見える像)の70~80%程度になるように調整する。
(3) ベルトランもしくは心出し望遠鏡を光路から外す。(この操作は対物レンズを切り替えるたびに行う)。
図 A 5.3.1-5 開口絞り像
A 5.3.2 対物補正環の調整
20×以上の対物レンズには、対物内のレンズ間隔を調整する補正環が付いているものもある(図 A 5.3.2-1参照)。
図 A 5.3.2-1 補正環付対物レンズ
補正環付対物レンズにおいては容器ごとの底板の厚みに応じて、対物レンズの補正環を調整する必要が
ある(図 A 5.3.2-2参照)。底板とは、観察範囲(観察)の容器の底の厚さを指す。
図 A 5.3.2-2 容器断面と容器底板厚さ
1) 対物補正環の調整方法
(1) 底板の厚さを確認する。実際に測定する、あるいは容器メーカーの規格値を参考にすること。
(2) 容器の底板の厚さ(Ⅹmm)に対物レンズの補正環の目盛(X)を合わせる。
(3) 焦準ハンドルを回して標本にピントを合わせる。
(4) 像の解像度やコントラストが悪い場合は、対物レンズの補正環をわずかに回す。その際、ピントが僅かにずれるため、焦準ハンドルにて再度ピントを合わせる。
(5) (3)~(4)を繰り返してピントの良い位置を探す。
A 5.3.3 正しく位相差像を観察するための調整(リング絞りの心出し調整)
位相差像は、無色透明の物体の光情報を、リング絞りによる照明と位相リングによる位相変化と吸収作用により明暗のコントラストに変換することによって得られる。コントラストに変換するには、位相リング(グレーハーフトーンのリング)の中にリング絞り(光源リング)が内側に重なるように調整されていることが必要である。
1) リング絞りの心出し調整方法コンデンサの「リング絞り」と対物レンズの「位相リング」の心出しを、鏡筒のベルトランレンズ(B)を光路に入れて(または心出し望遠鏡を使って)調整する。
図 A 5.3.3-1 ベルトランレンズと心出し望遠鏡
(1) 対物レンズに記載されたPhコードを確認し、同じ表記のコンデンサ側のリング絞りを選択する。
図 A 5.3.3-2 リング絞りと対物レンズの表記文字箇所
(2) 図 A 5.3.3-1 のベルトランレンズ調整つまみもしくは心出し望遠鏡の接眼部を回し、リング絞りの像にピントを合わせる。
(3) 六角ドライバーを用いて、コンデンサ内のリング絞りの心出し用のネジを回し、リング絞りの像を対物レンズ内の位相リングの像に重ねる。(位相リングが見にくい場合はステージ上に標本等を置いた状態で調整すると良い)(図 A 5.3.3-3参照)
図 A 5.3.3-3 リング絞りの調整
A 6.顕微鏡を使用する際の参考資料
A 6.1. 顕微鏡の種類
顕微鏡は、微小な物体を光学的な技術を用いることによって肉眼で見える大きさにまで視覚的に拡大する機器である。
構成上、下記の 3 つに分けられる。スライドガラス上の標本などを観察するために対物レンズが標本の上に配置されている正立型顕微鏡、培養容器等標本を下から観察するために対物レンズが標本の下に配置されている倒立型顕微鏡が一般的に使用されている。更に、比較的低倍率で立体的な構造を持つ標本を観察し、更に顕微鏡下に標本に微細な操作を行う時に用いられる実体顕微鏡がある。
なお、目視で観察する場合、顕微鏡の種類により観察像は反転しているので注意が必要である。注)鏡筒の種類によっては像の反転は変わることがある(下図は標準的な顕微鏡で記載)
表 A 6.1 顕微鏡の種類と観察像例
ここに挙げた顕微鏡は拡大する原理が異なるため、観察対象によって適切に使い分けることが望ましい。
A 6.2. 倒立顕微鏡の観察方法
顕微鏡では、いくつかの観察方法があり、観察対象の特徴によって最適な観察方法を選択する必要がある。
表 A 6.2 各種観察法
A 6.3. 倒立顕微鏡の構造再生医療等製品の製造工程において一般的に使用されている倒立顕微鏡を例にとり、説明する(図 A 6.3
参照)。
倒立顕微鏡は、試料を下側から観察する構造を有し、対物レンズはステージの下にある(①)。
透過光源(ハロゲンやLED)(②)から発生した光は、コンデンサ(③)によって集光され標本に照射される。
標本を透過した光は対物レンズに寄って集められ、接眼レンズ(④)を通して観察者の目に光が導かれる。
この顕微鏡における光の照明方法にはクリチカル照明とケーラー照明の2つの方法があり、一般的にはケーラー照明が用いられる。ケーラー照明は、開口絞りと視野絞りの2つの絞りを持ち、光源の像が標本面ではなく、別途作られた開口絞りに結像する構成であり、照明ムラがなく、フレアやゴーストのない鮮明な視野が得られる照明法である。
倒立顕微鏡の場合、正立顕微鏡と同じ観察姿勢となるように、光軸は途中で斜め上方に折り曲げられて接眼レンズに導くため光路が長くなるため、対物レンズの一次像を接眼レンズまでリレーする光学系(⑤)が内蔵されている。
また、培養容器(シャーレ等)を底から観察する必要があるため、透過照明系(⑥)はステージ上に配置され、作動距離の長いコンデンサが組み合わされる。また容器の厚さは、正立顕微鏡でのカバーガラス越しの観察と比べ、かなり厚いため培養用の対物レンズもこれに対応した設計となっており、作動距離も長くなっている。また観察ステージ(⑦)は固定式で、焦点合わせは対物レンズを上下に動かすことで行う。
(参考:日本顕微鏡工業会ホームページ 3.2 倒立顕微鏡 http://www.microscope.jp/knowledge/03-2.html)
図 A 6.3 倒立型顕微鏡の構造
A 6.4. 位相差観察の原理
生細胞は一般的に透明なため、透過する光の明暗の差が出にくく、そのままでは観察することは難しい。しかしながら、細胞の内部の各微小物体の物質の違いによる屈折率の違いを利用して観察する方法がある。細胞内の微小物体の屈折率差は、光では位相差の変化と置き換えることができるため、この方法は位相差顕微鏡と呼ばれる。位相差顕微鏡では、物体を透過する光が物体の屈折率により位相周期がずれることと光の干渉効果でコントラストをつけることで明視野より生細胞を見やすくしている。
細胞を観察する場合には、倒立顕微鏡の内、光路中コンデンサ側にリング絞りと、対物レンズ内に位相リングが組み込まれた位相差観察が一般的である。リング絞りはリング状に穴が空いた構成になっており、この中を照明光が通過する。通過した照明光は標本を通過するがこの際、標本(位相物体)を透過した光(直接光)と、標本にて回折現象を起こした光(回折光)の2つの光が発生する。回折現象は屈折率に違いのある部位にて発生するため、回折光は細胞と溶液との境界部分、細胞の内部構造部等、観察位相物体の形状情報を含んでいる。
像面では、この二つの光の重ね合わせが像となって見えている。しかし回折光は直接光に比べ極端に弱く、このままでは殆ど何も見えないので、直接光が必ず通る光路、すなわち対物レンズの瞳面にて照明側に置かれたリング絞りに対応する位置に、直接光の位相周期をずらし、かつ光量を下げる働きをもつ位相リングを置くことで、回折光と直接光が干渉して位相差観察が可能になる。
図 A 6.4 位相差観察の原理
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