細胞加工に特化した工程資材の要求事項に関するガイドライン2017

ガイドラインID 2017-E-RE-041
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療 ヒト細胞製造システム開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2017-E-RE-041 細胞加工に特化した工程資材の要求事項に関するガイドライン2017
※経済産業省のホームページに掲載無し(2021年6月18日現在)

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.目的
本ガイドラインは、再生医療等製品の製造工程における細胞加工に特化した工程資材の設計・開発・製造についての基本的かつ標準的な考え方を示し、再生医療等製品の品質の確保に資することを目的とする。また、本ガイドラインは、工程資材の製造者(サプライヤー)に適用することを目的とするが、当該工程資材を使用する細胞加工業者(ユーザー)が引用することで、目的物である再生医療等製品の品質確保の一助となることを望む。なお、規制当局からの通知等による要求事項以外は、本ガイドラインと同等以上の、又は合理的な根拠に基づく他の方法により再生医療等製品の品質が確保される場合においては、一律に本ガイドラインに示す方法の適用を求めるものではない。
細胞加工に特化した工程資材は、多くの場合、単回使用(使用回数が1回)のシングルユース工程資材である。シングルユース工程資材を活用することは、多品目製造への迅速な対応、および工程における取り違えや交差汚染の防止等、製造の効率化が期待される。現在の再生医療等製品の製造における細胞・組織の加工では、研究・開発段階から商業生産に至るまで、一貫してプラスチック製のシングルユースの工程資材が用いられることが一般的である。細胞加工に使用されるシングルユースの工程資材は、適切な品質確保や製造工程管理に関して、考慮すべき課題を明確にするべきである。
本ガイドラインでは、シングルユースの工程資材を用いて製造される再生医療等製品の安全性に係る品質確保を目的として、シングルユースの工程資材の設計、製造、品質に関して考慮すべき要件を提言する。また、機能付与を謳うシングルユースの工程資材については、その機能の有効性評価、バリデーションの要件も提言する。なお、本ガイドラインは、現時点での知見や科学水準に基づく一般的な考え方を示すものであり、シングルユースの工程資材を用いて製造される個々の再生医療等製品の品質確保のために考慮すべきリスクや、リスク対応の戦略は、これらに限定されるものではない。個々の事例において、本文書の記載内容を取捨選択して適用することが可能であり、当該再生医療等製品の目標製品品質プロファイルや技術の進歩に応じて、適切にリスクアセスメントを行い、適宜、適切なリスク対応を行うことが肝要である。

2.適用範囲
再生医療等製品の細胞加工を含む製造工程で用いられる工程資材の設計・開発・製造を対象とする。工程資材は、培養容器、ピペット、セルスクレーバー、フィルター、チューブ、コネクター、ボトル、バッグ、センサー等のシングルユース工程資材のうち、培養液、緩衝液、細胞等が直接接する工程資材を対象とする。最終の再生医療等製品の容器(一次包装)についても、本文書を参考にすることができる。ただし、人体からの細胞・組織の採取器具、移植器具等の医療機器は除く。また、輸送に関する要件(耐衝撃性等)、および保存に関する要件(低温耐性等)を除く。

3.基本的要件
再生医療等製品の品質を確保するためには、細胞・組織から最終の再生医療等製品を通した視点での評価が必要である。また、日本薬局方、生物由来原料基準、ならびに、再生医療等製品の製造管理および品質管理の基準に関する省令等を順守することが前提となる。そのため、再生医療等製品の品質に影響を及ぼす可能性を有するシングルユースの工程資材の設計・開発・製造は、省令等を順守することはもとより、再生医療等製品の品質(有効性・安全性)の確保、および安定供給に対するリスクとその対応策を明確にし、関係者で共有することが基本的要件となる。
これらは、再生医療等製品の品質および安定供給を向上させるための品質システムの重要な要素となり得る。また、適切なリスクアセスメントに基づいて工程資材の品質管理戦略を構築することは、工程資材のサプライヤー、ユーザー、および規制当局の間でのコミュニケーションや、再生医療等製品のライフサイクルを通じた継続的改善にも役立つ。
再生医療等製品の製造用として開発される工程資材は、理化学試験用の汎用品として販売される場合でも、再生医療等製品の製造での使用に必要とされる安全性情報等が添付されるべきである。ユーザーによっては、目的とする細胞加工製品の製造における安全性を担保するために、理化学試験向け汎用品の安全性情報だけでは十分でないと考える場合、個別に仕様書を取り交わすことによって対応することが可能である(分析データの追加、成績書の発行、契約書の締結等)。また、ユーザーによっては、目的とする細胞加工製品の製造において汎用品では十分な性能が担保できないと判断した場合は、製品の形状、サイズ、表面処理、構造等の変更を含む設計書を個別に取り交わすことによって対応することが可能である。

GL:本体

4.用語の定義
・工程資材
再生医療等製品の製造工程において用いられる器具

・単回使用 (Single use)
単回使用とは、使用回数が1回であることを指す。なお、同一物質を取り扱う1工程で複数回使用後、廃棄されるシングルユースの工程資材についても、本文書を参考にすることができるが、操作を繰り返す際に洗浄操作が必要な場合は、本文書では除外する。

・リスクアセスメント (Risk assessment) リスク特定、リスク分析およびリスク評価のプロセス全体 (JIS Q 31000:2010参照)

・リスクマネジメント (Risk management) リスクについて、組織を指揮統制するための調整された活動 (JIS Q 31000:2010参照)

・重要品質特性(Critical quality attribute: CQA)
要求される製品品質を保証するため、製品に対する、適切な限度内、範囲内、分布内であるべき物理学的、化学的、生物学的、微生物学的特性又は性質

・抽出物 (Extractable)
苛酷条件下で、シングルユースの工程資材から内容液に移行する化学物質。本文書において苛酷条件とは、内容液の組成、pH、温度、接触時間等の点で、再生医療等製品の製造工程における細胞加工での使用条件と比較して、内容液に化学物質が移行しやすい条件を言う。

・溶出物 (Leachable)
実際の使用条件下で、シングルユースの工程資材から内容液に移行する化学物質。

・不溶性異物 (Foreign insoluble matter)
シングルユースの工程資材に付着または練り込まれている目視可能な不溶性の不純物

・不溶性微粒子 (Insoluble particulate matter)
シングルユースの工程資材に由来する不溶性の不純物

5.品質確保のためのリスクマネジメント
工程資材の品質は、再生医療等製品のライフサイクルを通して維持されなければならない。そのためには、再生医療等製品の製造工程を考慮した工程資材の品質のリスクアセスメントを実施する。必要に応じて、リスクを低減又は回避するプロセスを実施し、品質に対するリスクを許容できるレベルまで減らす。リスクアセスメントを実施するにあたり、必要に応じて工程資材のサプライヤーとユーザーとの間で情報を共有するとともに、リスクコントロールのための実施計画を明確にする。これらの一連のリスクマネジメントの内容については文書化されることが望ましく、重要な事項については必要に応じて納入仕様書へ反映させる。


5-1.リスクアセスメント
再生医療等製品の製造において、工程資材を用いることによって影響を受ける事象として、工程資材の品質が挙げられる。影響を受ける事象ごとにリスクの洗い出しを行い、その影響の大きさと起こりやすさや不確かさから、リスクの大きさを推定する。その結果をリスク基準と比較し、リスクの大きさを把握する。リスクアセスメントに用いられる手法の例として、リスクマトリックス等を用いる定性的な手法、あるいは、リスクスコアのような半定量的な手法が挙げられる。リスクアセスメントの詳細については、ICH Q9が参考になる。

5-2.細胞加工への影響
工程資材を用いることによって影響を受ける品質上の事象として、再生医療等製品の重要品質特性(CQA)を適切な限度内、範囲内、分布内に収めることへの阻害が挙げられる。例えば、工程資材への構成成分の吸着による濃度の低下、細胞の分化能や細胞の遺伝子等の性質の変化が生じる可能性が想定される。
CQAごとに工程資材の使用に起因するリスクの大きさを算出するとき、工程資材を構成する化学物質組成、表面構造、抽出物/溶出物プロファイル、不溶性微粒子等の不純物プロファイルといった工程資材の物質特性、ならびに工程資材と内容液の接触の程度(面積、時間、温度等)、内容液のpHや導電率、当該工程資材を用いる工程等のシングルユース工程資材の使用方法が参考になる。必要に応じて細胞加工への影響を確認するために、実液あるいは実液を模した溶液を用いた検証を実施することで、影響についての特性を明らかにする。

5-3.不純物の残存
工程資材を用いることによって影響を受ける品質上の事象として、溶出物や不溶性微粒子、不溶性異物等の不純物(以下、工程資材由来不純物)の残存がある。これらはそれ自身が再生医療等製品のCQAになり得る要素である。再生医療等製品の製造工程中に持ち込まれることにより、健康被害をもたらすことがないよう、持ち込まれる可能性のある工程資材由来不純物をリスト化し、工程資材の材質、製法、試験結果等に関する情報、既存の知見等の科学的根拠に基づいたリスクアセスメントにより、優先管理すべき不純物を明確にする。

5-3-1.不溶性微粒子
不溶性微粒子とは、本ガイドラインでは、工程資材由来の不溶性の不純物を指し、目視できるものは、不溶性異物として区別する。不溶性微粒子は、工程資材の製造工程で用いられる原材料、部材や、工程資材の製造施設内の浮遊物等に由来し、組成や粒子径に関して、多様なものが存在すると考えられる。工程資材の材質、製造工程、製造環境、不溶性微粒子の管理方法等を参考に、必要に応じて、通例、水を用いた不溶性微粒子試験を行い、必要かつ可能な範囲で、工程資材に由来する不溶性微粒子の存在とその特性を明らかにする。
例えば、日局において注射剤では不溶性微粒子試験が定められ、粒子径が10μm以上、および25μm以上の不溶性微粒子について管理範囲が設定されている。再生医療等製品の製造工程において、不溶性微粒子は大きさや比重等により細胞と分離することが困難であることが多いことから、あらかじめそのリスクの大きさをユーザーへ提示し、必要に応じてリスク低減や回避方法について情報共有することが望ましい。

5-3-2.不溶性異物
不溶性異物とは、本ガイドラインでは、シングルユース工程資材の内側または外側に付着または練り込まれている目視可能な不純物を指す。不溶性異物は、工程資材の製造施設内に存在する部材や浮遊物、作業者等に由来すると考えられる。不溶性異物の例として、人毛や皮膚片等の人体由来異物、紙片や塵埃などの製造環境由来異物、プラスチック成型時の残渣や機械部品等の摩耗片などの工程由来異物などが挙げられる。
日局において注射剤では不溶性異物検査法が定められており、規格への適合が求められる。工程資材の使用に関連して再生医療等製品の製造工程で管理すべき不溶性異物については、目視可能な異物の範囲が、工程資材の透明度や、目視検査を実施する環境等に依存することに留意し、管理範囲を設定する。

5-3-3.エンドトキシン、微生物等
エンドトキシンや微生物等も、工程資材に関連する不純物として、再生医療等製品のCQAになり得る。全ての再生医療等製品において、エンドトキシンおよび微生物は、健康に影響するため、ユーザーの品質に対する要求を踏まえてリスクアセスメントを行い、管理の必要性があると考えられる場合は管理範囲を設定する。

5-3-4.抽出物/溶出物
抽出物は、温度、時間、pH、溶媒等に関する苛酷条件下で、工程資材から再生医療等製品に移行する化学物質を指す。溶出物は、実際の使用条件下で、工程資材から原料に移行する化学物質を指す。抽出物/溶出物には、工程資材の製造に用いられた種々の化学物質およびその派生物質が含まれる可能性があり、抽出物/溶出物の原因となる可能性のある化学物質として、触媒、重合開始剤、添加剤(酸化防止剤、滑材、粘着防止剤、静電気防止剤等)、低重合度オリゴマー、接着剤、アンカー剤、接着性樹脂、放射線照射やエチレンオキサイドガス滅菌による分解物や酸化物等が考えられる。
溶出物の化学物質プロファイルについては、必要に応じて、実液あるいは実液を模した溶液を用い、実際の製造工程で想定されるワーストケースでの溶出物試験を行い、必要かつ可能な範囲で、溶出物の特性を明らかにする必要がある。溶出物のリスク評価に際して、ユーザーの品質に対する要求を踏まえて、抽出物の調製法や分析法が適切であるか判断した上で行う。また、工程資材の放射線やエチレンオキサイドガス等の滅菌操作により、新たな抽出物/溶出物が生じることが知られているので、滅菌条件も重要な情報である。実液あるいは実液を模した溶液を用いた溶出物試験が必要となる例として、抽出物に関する試験結果からの溶出物の予測が困難である場合や、実液の組成により抽出物試験で検出されない化学物質の溶出が想定される場合などが挙げられる。
抽出物として存在すると考えられた各化学物質に関して、リスクアセスメントを行い、管理の必要があると考えられた化学物質に関して、管理範囲を設定するとともにユーザーと共有することが望ましい。リスク分析・評価の際には、必要に応じて毒性評価を行うことが有用である。特に溶出物/抽出物が細胞増殖に与える影響や、細胞の分化能に与える影響、細胞の遺伝子に与える影響、細胞表面等の変化に与える影響などが考えられる場合は、適切な管理範囲の設定とユーザーとのコミュニケーションが有用である。

5-4.培地成分等の相互作用
細胞加工に用いられる培地には、アミノ酸、糖、脂質や、成長因子等が含まれており、工程資材との相互作用によって再生医療等製品の品質に影響する可能性がある。工程資材の使用に起因するリスクの大きさを算出するとき、工程資材を構成する化学物質組成、表面構造等の物質特性、ならびに、工程資材と内容液の接触の程度(表面積、時間、温度等)、内容液のpHや導電率の変化を考慮すべきである。必要に応じて細胞加工への影響を確認するために、ユーザーと協力の上、実液あるいは実液を模した溶液を用いた検証を実施することで、影響についての特性を明らかにする。

5-5.無菌性の保証
工程資材は無菌であることが必要であり、無菌性を保証することが重要である。また、無菌性は、物理的および微生物学的手法に基づく滅菌バリデーションを通して保証される。

5-5-1.適切な滅菌方法の選択
適切な滅菌方法の選択には、滅菌剤、微生物殺滅効果の有効性、化学物質組成や表面構造などの材料への影響や環境への配慮等が考慮されるべきである。滅菌方法の例としては、高圧蒸気滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌や放射線滅菌等がある。それぞれの滅菌方法には、異なった重要管理項目(温度、湿度、圧力、線量、時間等)があり、工程資材毎に適切な方法を選択する必要がある。


5-5-2.滅菌バリデーション
工程資材の滅菌に係る設備、手順や工程その他の工程管理および品質管理の方法が、工程資材の無菌性を保証できることを検証する。滅菌バリデーションの実施方法の詳細については、ISO 11137-2:2013が参考になる。

5-6.機能付与
再生医療等製品の製造工程における細胞加工に影響を及ぼす機能を付与した工程資材については、その付与されている機能の有効性を科学的根拠に基づき検証する必要がある。例えば、培養液や緩衝液等の計量を実施するために使用されるピペットはその機能である
計量精度、遠心操作に使用される遠沈管はその機能である遠心強度を検証する必要がある。
その他、特定細胞もしくは非特定細胞における細胞接着機能、細胞非接着機能、細胞増殖機能、未分化性維持機能、細胞分化機能等が挙げられる。

6.安定供給のためのマネジメント
再生医療等製品の安定供給のためには、工程資材の安定供給が重要である。工程資材のサプライヤーにより選択された樹脂等の原材料の使用が、工程資材の製造時における再現性の破綻や製造された工程資材の廃棄、供給停止といった結果につながることのないよう、リスクアセスメントの結果に基づき、リスク対応策を構築する。このとき、リスク対応策の構築を目的としたリスクアセスメント、すなわち、原材料由来不純物の残存やその他の工程資材のCQAに影響する工程資材製造工程中のリスクの特定、分析、評価を行い、優先管理すべき工程、および当該工程において優先管理すべき工程パラメータを特定することが有用である。工程資材のサプライヤーは、ユーザーの求めに応じ、リスク対応に必要な情報を提供する必要がある。
いずれかの管理方法を選択するかは、工程パラメータが逸脱した場合の影響の大きさ、頻度の他、逸脱の影響に関する検出力を考慮して決定する。通例、一つの工程資材のCQA に対して、複数の管理方法を組合せて、管理戦略を構築することが望ましく、管理戦略を構築する際には、工程資材の製造企業における品質部門のみならず、開発部門、製造部門、購買部門等、あるいは社外の有識者等との連携が必要である。

6-1.適切な原材料および原材料メーカーの選択
前項で述べた原材料に関連するリスクを考慮し、工程資材の製造工程への原材料由来不純物の持込みやCQAへの影響の観点から、用途に適した品質が確保され、また、原材料メーカーからの供給の確実性が確保された原材料を用いることが、工程資材の品質確保と安定供給につながる。工程資材の品質と原材料メーカーからの供給の確実性は、原材料メーカーでの管理に依存するため、原材料メーカーにおける品質システム等に関する情報を入手し、適切に品質が評価・管理されたものを選択することが重要である。
この際に考慮すべき事項には、原材料の構造設計、原材料化学物質等の管理、製造環境管理、製造工程管理、抽出物の試験方法および試験結果の信頼性、不溶性微粒子の試験方法と規格、不溶性異物の検査方法と規格、出荷試験、包装・配送等の管理が含まれる。また、工程資材の品質への影響が大きい原材料については、原材料メーカーの協力により仕様書や試験成績書(CoA)の入手により適合規格を明確にし、各工程資材ロットの規格への適合を確認する。原材料のロットの違いが工程資材の品質に影響することがないよう、適切に品質管理がなされた原材料を選択することが重要である。また、必要に応じ、代替品の有無や、原材料メーカーが工程資材ライフサイクルを通して継続的に供給可能かも考慮して、原材料の選択を行う必要がある。
原材料に生物由来原料(例えば、牛脂由来ステアリン酸塩等)が使用されている場合は、生物由来原料基準に従っていることを確認する。
工程資材の品質確保や安定供給に及ぼす影響が大きい原材料の場合は、工程資材のサプライヤーは原材料メーカーへの監査を実施し、原材料メーカーにおける品質管理体制を定期的に確認する。また、品質に関する契約において、品質基準、規格・仕様、工程資材製造に影響する原材料製造工程、記録管理、工程資材サプライヤーおよび原材料メーカーにおける保管条件、品質保証期限、監査、変更管理と工程資材のサプライヤーへの変更通知法等の項目を取り入れるといった対応も有用である。

6-2.工程資材の製品規格および製品仕様書の設定
工程資材における品質規格の項目として、材質、サイズ、無菌性、不溶性微粒子、エンドトキシン、抽出物等が挙げられる。仕様書や契約書には、品質規格の試験方法および結果の信頼性、品質保証期限や保証の範囲、仕様変更時の対応等の明記が挙げられる。特定の機能を謳う場合には、その科学的根拠を記載し、ユーザーからの要求に応じて提出することが望ましい。
保証の範囲において、工程資材の適格性確認は、ユーザーが実施すべき品質リスクマネジメントの一環であり、サプライヤーに課せられるものではないが、ユーザーの要求に対して可能な範囲で応じることが望ましい。
工程資材の仕様変更(原材料や製造方法、装置、検査方法等)については、ユーザーに対し十分な期間を有して通知を行う必要がある。また、変更を実施する際には、変更による影響の範囲や程度をリスクアセスメントにより明確にした上で、予め作成された変更管理の手順書に基づいて実施する。



6-3.原材料の受入れ時の確認と品質評価
原材料が工程資材の品質や生産性に影響することがないよう、受け入れ時の検査が必要である。原材料の工程資材の品質へ与える影響を考慮して、原材料の受け入れ検査の方法と適否の判断基準を設定する。受け入れ検査で確認すべき項目として、原材料の出荷証明書の内容、ラベルの確認、外観(破損の有無、異物付着等)、内容確認等が挙げられ、原材料の仕様書や規格との一致を確認する。

6-4.工程資材の品質試験
出荷の為の品質試験(出荷検査)の他に、必要な場合は製造工程内での品質試験(工程内検査)を設定することも有用である。
工程資材の品質試験においては非破壊の目視検査(外観、異物)や抜き取り後の破壊検査が有用である。各々の検査を実施する場合において、実施される検査の規格やその検査結果が当該工程資材における何を担保するかを明確にする必要がある。特に、特定の機能を謳う場合には、その機能を保証するための科学的根拠に基づいた検証を行う。また、品質検査の実施においては、検査ごとに適切な頻度を設定した上で品質検査の手順書を作成し、検査実施後は品質検査記録として管理・保管し、ロットごとに追跡出来るようにする。
工程資材における何らかの不良が明らかとなった場合、速やかにユーザーに報告し、予め定められた手順に準じて回収を実施することが重要である。回収の範囲に関しては、不良の発生原因を調査したうえで決定すべきである。

6-5.サプライヤーとユーザーの間での情報の共有
再生医療等製品の製造において、工程資材の仕様が用途に適合していない場合や、使用条件、使用方法が適切でない場合に、再生医療等製品の品質や安定供給に問題が生じる可能性がある。したがって、サプライヤーは、原材料化学物質や品質管理に関する情報をユーザーに可能な限り開示し、ユーザーは、再生医療等製品の製造工程における工程資材の使用方法をサプライヤーに開示して意見交換を行うことで、工程資材の選択と使用方法が適切であることの確認に役立てることが望まれる。

6-6.是正措置と予防措置
サプライヤーおよびユーザーにおいて発生する種々の苦情や不合格、非適合、回収、逸脱、監査、ならびにプロセス稼働性能および製品品質のモニタリングの傾向についての調査に起因する是正措置および予防措置を実施する為に、サプライヤーは予め手順書を作成しシステム化しておくことが望ましい。ユーザー側において不具合が生じた場合、サプライヤーは、好ましくない傾向を示す品質の内容を明確にし、速やかにユーザーに情報の提供を行うことが有用である。また、サプライヤー側において不適合が生じた場合、是正措置が必要かもしれない顕在化している機器や品質の問題を明瞭にし、是正措置および予防措置を講じる。講じる是正措置および予防措置については、措置の有効性が適切に評価された上で実施し、その情報および作成される文書記録類は一元管理されることが重要である。

GL:付属資料

参考資料
(1) 厚生労働省関連文書 第十六改正 日本薬局方 一般試験法
<4.01> エンドトキシン試験法
<4.06> 無菌試験法
<6.06> 注射剤の不溶性異物検査法
<6.07> 注射剤の不溶性微粒子試験法
<7.02> プラスチック製医薬品容器試験法

日本薬局方 参考情報 G7 プラスチック製医薬品及び輸液用ゴム
栓の容器設計における一般的な考え方と求められる要件

生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示第210号)

生物由来原料基準の一部を改正する件について(平成26年10月2 日 薬食発1002第27号)

再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(平成26年厚生労働省令第93号)

(2) 国際調和ガイドライン ICHガイドライン Q8、Q9、Q10

(3) ISO,JIS
ISO 10993-18:2005(E), “Biological Evaluation of Medical Devices, ” Part 17: “Establishment of Allowable Limits for Leachable Substances,” Part 18: “Chemical Characterization of Materials” 医療機器の生物学的安全性評価

ISO 15747:2010, “Plastic containers for intravenous
injections” 静脈注射用プラスチック容器

ISO 11137-2:2013, “Sterilization of health care products”
ヘルスケア製品の滅菌

(4) 海外規制関連文書
”Guidance for Industry: Container Closure Systems for Packaging Human Drugs and Biologics” FDA (1999)
USP <661> Containers—Plastics
USP <788> Particulate matter in injections
USP <790> Visible particulates in injections
EP 2.9.19 Particulate contamination: sub-visible particles
EP 2.9.20 Particulate contamination: visible particles

(5) 海外関連団体文書
ASME Bioprocessing Equipment (2014)
“Application of Single-use System in Pharmaceutical
Manufacturing” PDA technical No report 66 (2014)
“Recommendations for Testing and Evaluation of Particulates From Single-Use Process Equipment,” Bio-Process Systems Alliance (2014)
“Recommendations for Testing and Evaluation of Extractables From Single-Use Process Equipment,” Bio-Process Systems Alliance (2010)
PQRI — Safety Thresholds and Best Practices for Extractables and Leachables in Orally Inhaled and Nasal Drug Products (2006)

(6) 文献
Ding W. et al. Standardized Extractables Testing Protocol for Single-Use Systems in Biomanufacturing. Pharmaceutical Engineering 34 (6), 1-11 (2014)
Kaufman, J.S., “Identification and Risk-Assessment of Extractables and Leachables,” Pharmaceutical Technology, Feb 1, (2006)
Hammond M et al. A cytotoxic leachable compound from single-use bioprocess equipment that causes poor cell growth performance. Biotechnol Prog. 30(2), 332-337 (2014)
バイオ医薬品ハンドブック~Biologicsの製造から品質管理まで~じほう社 日本PDA製薬学会バイオウイルス委員会/編

その他 シングルユースシステムを用いて製造されるバイオ医薬品の品質確保に関する提言(案)v5 国立医薬品食品衛生研究所 生物薬品部2014.12.26

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 浅野 茂隆    早稲田大学 招聘研究教授
   秋枝 静香    株式会社サイフューズ 細胞製品開発部 部長
   新井 進     住友ベークライト株式会社 S-バイオ事業部 研究部長
   牛田 多加志   東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻・バイオエンジニアリング専攻 教授
   梅澤 明弘    国立研究開発法人国立成育医療研究センター 再生医療センター センター長
   紀ノ岡 正博   大阪大学大学院 工学研究科 教授
   清田 泰次郎   株式会社ニコン マイクロスコープ・ソリューション事業部 ステムセル事業開発室 室長
   小久保 護   澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
   後藤 英一   横河電機株式会社 計測事業本部 ライフサイエンスセンター センター長
   小林 悟朗   株式会社クラレ 新事業開発本部 成形部材事業推進部 主管
   齋藤 充弘   大阪大学大学院 医学系研究科 未来細胞医療学共同研究講座 特任准教授
   高橋 恒夫   京都大学 再生医科学研究所 幹細胞研究部門 胚性幹細胞研究分野 客員教授
   藤本 洋久   オリンパス株式会社 科学開発本部 科学商品企画部 戦略商品分野 担当部長
   松田 博行   藤森工業株式会社 ライフサイエンス事業本部 市場開拓部 主任
   水谷 学     株式会社早稲田大学アカデミックソリューション 客員研究員
   森 由紀夫   株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング 生産統括部長
   山内 悠     株式会社堀場製作所 アプリケーション開発センター 液体計測開発部
   若松 猪策無   株式会社メディネット 製造統括室 和田 昌憲 エイブル株式会社 開発部 課長代理

報告書(PDF)

2017-E-RE-041-H27-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report