ヒト細胞自動培養加工装置についての設計ガイドライン2015

ガイドラインID 2015-E-RE-030
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療分野 ヒト細胞製造システム開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2015-E-RE-030 ヒト細胞自動培養加工装置についての設計ガイドライン2015 手引き

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. 総則

1.1 目的
本ガイドラインは、細胞・組織自動培養加工装置の製造業者に、ヒト細胞・組織の自動培養加工を行う装置の設計に関する基本的かつ標準的な考え方を示すことにより、細胞・組織加工の要求事項を満たすために役立てることを目的とする。さらに、使用者の自動培養工程管理ならびに目的物であるヒト培養細胞・組織の品質確保の一助となることを望むものである。
本ガイドラインでいう「ヒト細胞自動培養加工装置」とは、いくつかの工程または全工程を自動的に機械が行なう装置を指す。また、ヒト細胞自動培養加工装置であっても、自動工程を行っていない非自動化部分や、ヒト細胞培養加工装置については「ヒト細胞培養加工装置についての設計ガイドライン」に従う。上記の区別を下表に示す。

表 1 培養加工装置における人と機械の役割

さらに、操作・記録工程を一元化させることにより、一連の自動工程が実現できる。
本ガイドラインの要件は、細胞・組織の種類によらず適用できるものであり、また、原則としてヒト細胞・組織の自動培養を含む加工を対象として記述したものであるが、他の自動培養を支援する加工装置にも適用できる多くの共通事項を含んでいる。特に、2章「設計指針」については、製品としてのヒト培養細胞・組織の安全性を確保するための根幹をなす要件を取り上げている。

1.2 適用範囲
本ガイドラインは、ヒト細胞・組織を自動培養し必要に応じて加工する装置の設計について適用する。なお、本ガイドラインは、これらの自動培養加工装置を製造するための基本的設計指針であり、医療機器の設計指針ではない。

GL:本体

2. 設計指針
自動培養加工装置の設計に当たっては下記の項目に配慮することが肝要である。

2.1 コンタミネーションの防止
外因性汚染源の侵入防止に留意すべきで、培養系は、必要に応じて微生物の侵入を防ぐことができる筐体密閉または容器密閉が維持できるなどの配慮が望ましい。
異なる被験者由来の細胞同士のクロスコンタミネーションにも十分な配慮が必要で、細胞の接する部分には特に留意が必要となる。細胞の接する部分を新たに準備する場合は細胞加工機関の要求の範囲で適宜設計を行うが、基本的にディスポーザブルであることが望ましい。繰り返し使用するものは、洗浄・滅菌によって満たされるべき要件が保たれる構造とすべきである。さらに、
1 台の装置で複数の被験者由来の細胞を取り扱う場合には、細胞を含む培養系ごとに独立した閉鎖的構造を講ずるか、コンタミネーションのリスクに応じて必要な措置を講ずること。
細胞の播種、あるいは三次元組織および担体を装置に搬入する際、コンタミネーションの防止に配慮すること。

2.2 無菌保証
培養容器を開放する際、その環境は、表 2 に示す重要区域とすること。
例えば、培養系への物資の導入の際、その境界にて除染処理を施す必要があり、パスボックスを設置すること。ここで物資とは、培養容器、培地入り容器などを指し、パスボックスとは、重要区域を実現する除染パスボックスやクリーンベンチなどを指す。なお、除染機能を有さないパスボックスを使用する際は、本パスボックスの周辺環境を直接支援区域とすることが望ましい。
最終的には、細胞・組織加工機関の要求する微生物清浄度にも対応し、無菌環境を担保することが要求される。自動培養加工装置の設置環境については、4章「自動培養加工装置の設置」を参照のこと。

表 2 清浄区域の分類

2.3 外部への汚染防止
装置に使用する材料、部品、基材は、周囲を汚染しない配慮がなされていることが望ましい。ウイルス感染細胞を取り扱う可能性がある場合、作業者の安全確保、培養系間の相互汚染防止の観点から、「遺伝子治療用医薬品の品質及び安全性の確保に関する指針について」(平成 7 年 11 月 15 日付け薬発第 1062 号厚生省薬務局長通知(平成 14 年 3 月 29 日付け医薬発第 0329004 号により改正))を参考にして、バイオハザード・レベルを考慮し設計することが望ましい。
培養容器の破損・損傷などにより培養液等が装置に飛散することを考慮し、洗浄等が容易に行なえる構造であることが望ましい。

2.4 資材(培養容器を含む)などの取り違い防止
資材(培養容器を含む)や細胞などの取り違い防止を考慮し、装置側または人側で取り違いがないことの確認を行うための処置を施すことが望ましい。
ここで処置とは、製造指図書・記録書に記載された情報(バーコード、電子タグに記載されている内容など)と情報の照合操作を装置側または人側で行うことなどを意味する。

2.5 入力間違い防止
人が装置に対し入力操作を行なう場合、間違い防止処置を施すことが望ましい。例えば、二度の入力による確認などを意味する。

2.6 自動培養工程管理
自動培養工程の把握・管理を目指し、培養評価が無菌的にかつ非破壊的、非侵襲的に実施できる付帯設備を導入し、工程管理を支援することが望ましい。工程管理は、必要に応じて細胞・組織加工機関の実施するプロセスバリデーションに対応していることが求められる。
例えば、培養評価とは、観察装置による細胞数解析や細胞・組織形態解析、および培地分析装置による培地組成解析などを指す。
細胞・組織の自動培養工程に関する情報を管理するシステムにより、細胞・組織の培養に関する操作手順の保証が行えることが望ましい。
記録形式は、逸脱の有無が判断できる記録で、品質管理システム(quality management system)に対応した形が望ましい。

2.7 操作ログ管理
自動培養工程実施時の指示項目や機械的操作項目は実施ごとに、リアルタイム制御項目は必要な時間ごとに、ログを内部に記録保存するか、外部に出力できること。ただし、データ改ざん防止に努めること。
また、指示項目とは、作業者による操作指示を示し、温度設定、培地交換指示などが挙げられる。機械的操作項目とは、機械的に動作する操作を示し、培地交換時のポンプ作動、バルブ開閉などが挙げられる。リアルタイム制御項目とは、常時制御する環境物性を示し、調温湿時の温度や湿度が挙げられる。さらに、突発的停電に対するログ管理に配慮することが望ましい。

2.8 最終製品で差異を確認できない工程を実施した保証
自動培養加工装置の工程が、製造指図書・記録書通りにできることを確認できる手段を準備し、工程の実施を保証できるようにすること。

2.9 エラーの検知および表示
自動培養加工装置を設計する際はリスクマネジメントを行い、装置の異常又は人による誤操作を検出した際の内容と、その復帰方法について、加工業者の“製造管理基準書”、“品質管理基準書” に準じて事前に定めておくこと。なお、特に重要な工程については、複数の手段でエラー検知や人への表示を行うなどが望ましい。

2.10 フェールセイフと培養加工の継続
万一の異常動作が生じた時に、作業者の安全が担保できるように配慮されていること。その上で、培養加工の継続を図るなど、患者の利益を最大限に確保できる機能が細胞・組織加工機関に対して配慮されていることが望ましい。

2.11 材質の選定
試料及び培養液が接する部位の材料は、細胞・組織加工機関の設計管理に従い、細胞・組織に影響を与えない十分な実績がある、または安全性を確認した材料を選定すること。また、滅菌方法に応じた材料の選定も重要で、滅菌により変質しないものや、細胞・組織に影響を与えないものを選定すること。

2.12 装置の清浄度管理
前述した無菌環境を担保するため、自動培養加工装置は清浄度を必要グレードに維持管理しやすい構造にすることが望ましい。特に、筐体密閉型自動培養加工装置においては、培養系の清浄度レベルを必要グレードに維持管理しやすい気流形態・構造にすることが望ましい。また、清浄度レベルが適切に維持出来るようにモニター、エラー検知を設けるなどリスクに配慮した設計とし、さらに適切なメンテナンス、及び装置内のクリーニングを実施できるよう設計すること。


3. 要求事項

3.1 製造条件
自動培養加工装置の製造は、ISO 9001、ISO 13485 などを参考にした品質マネジメントを行うことが望ましい。

3.2 滅菌
試料及び培養液の接する可能性のある部位(培養系)は、滅菌により無菌性を担保すること。滅菌のバリデーションは、細胞・組織加工機関の受入基準に合わせること。
3.3 材料の材質、構造
材料の材質、構造は、定期的な清掃及び万一の汚染時の清掃・消毒を考慮すること。液体、ガス等の流体に接続する配管及び配管構成物の内面は、当該流体に腐食されにくい材料を選定すること。

3.4 試料及び培養液の接する容器、回路
専用の容器、回路を準備する場合は、細胞・組織加工機関の要求の範囲で適宜設計を行い、安全性が確認できたものを使用する。基本的にディスポーザブルであることが望ましい。

3.5 電路の絶縁
「電気用品の技術上の基準を定める省令」(通産省令第 85 号)の絶縁抵抗試験、絶縁耐力試験を満足し、人への感電防止および漏電防止に配慮すること。

3.6 誤操作防止
間違いにくい表示を採用すること。

3.7 気密性、耐圧性
無菌性を維持するために閉鎖された培養系は、外因性汚染物の侵入を防ぐことができる閉鎖的構造を持つこと。培養系は環境条件等から想定される圧力に対して十分な安全率を持って設計し、試験検査によってその安全性が担保されることを確認すること。

3.8 汚染、清浄度
試料及び培養液が環境に暴露される場合は、無菌環境を担保できる構造とすること。例えば、筐体密閉型自動培養加工装置においては、培養系を重要区域相当で設計すること。自動培養加工装置は、周辺の清浄度維持に影響を及ぼさないよう設計すること。

3.9 シーケンス動作
操作手順を自動的に遂行するためのシーケンスプログラムは、適切に検証されるとともに、改訂等を管理すること。

3.10 設計変更
設計変更の管理、装置のバージョン管理を行うこと。

3.11 具備すべきマニュアル、ドキュメント
取扱・操作マニュアル、設置マニュアル、キャリブレーションマニュアル、メンテナンスマニュアル、交換部品リスト、等



4. 自動培養加工装置の設置
自動培養加工装置の設置は、Cell processing facility (CPF)の仕様を参考に、培養系の無菌性を担保しつつ、第 16 改正日本薬局方、ISO 13408(Aseptic processing of healthcare products:ヘルスケア製品の無菌処理)における ISO 13408-1 (Part 1: General requirements、第 1 部:一般要求事項)および ISO 13408-6 (Part 6: Isolator systems、第 6 部:アイソレータシステム)を考慮し、下記に従って設置することが望ましい。

4.1 完全密閉式自動培養加工装置の設置
ヒト細胞・組織の分離及び加工作業中、培養系を開けることのない完全密閉式の自動培養加工装置、もしくは、培養系へ、または培養系からの物質移送の際、必ず除染機能の付いたパスボックスを介する場合(図1の 3 例)は、完全密閉式自動培養加工装置と定義され、表1に示すグレード C または D のその他の支援区域に設置できる。

4.2 開放操作のある場合の自動培養加工装置の設置
ヒト細胞・組織の分離及び加工作業において、除染機能を有するパスボックスを附帯しない自動培養加工装置において培養系の開放操作がある場合(図2の4例)には、グレード B の直接支援区域に設置した安全キャビネット又はバイオクリーンベンチ内の重要区域(グレード A)で培養系の開放作業を行えるような環境に設置を行うこと。例えば、培養容器の開放時の作業場所として、クリーンベンチを使用し、培養系側のパスボックス(培養系から導出されたチューブジョイント等を含む)や培養容器本体をクリーンベンチ内へ導入し、本パスボックスを介して、対象を導入(接続)する。

図1 除染パスボックスが附帯されている完全密閉式自動培養加工装置の設置

図2-1 自動培養系を開放する操作が必要であり、除染パスボックスが附帯されていない自動培養加工装置の設置

図2-2 自動培養系を開放する操作が必要であり、除染パスボックスが附帯されていない自動培養加工装置の設置

GL:付属資料

5. 参考規格

5.1 設計・検査基準
・電気用品安全法電気安全保安法:理科学機器等、汎用電気機器に適用される基準(比較的近い機器として、「電気ふ卵器」及び「電気冷蔵庫」の技術基準に準拠する。)

5.2 製造基準
・ISO 9001, Quality management system-Requirements
・JIS 規格(医療機器安全評価関連 T-60601 等)

5.3 輸出対応基準
・機械指令(2006/42/EC)
・EMC 指令(2004/108/EC)
・低電圧指令(2006/95/EC)
・RoHS 指令(2011/65/EU)
・UL 規格(米国向け規格)


6. 用語解説
本ガイドラインにおける用語の定義は次に掲げる通りとする。

6.1 培養加工(Culture)
疾患の治療や組織の修復又は再建を目的として、細胞・組織の人為的な増殖・分化、細胞の株化、細胞の活性化等を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変、非細胞成分との組み合わせ又は遺伝子工学的改変等を施すことをいう。組織の分離、組織の細切、細胞の分離、特定細胞の単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍、解凍等は加工とみなさない。(薬食発 0907 第 2 号「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」参照)

6.2 培養工程(Culture process)
下記の一連の処理における培養処理を含む工程。
前処理:容器の洗浄、滅菌、解凍、細胞分離、遺伝子処理など
培養処理:培養容器への接種や容器内での細胞維持(初代・継代・組織培養)。ここで、付随する操作としては、環境(温度、湿度、ガス)維持、刺激付加、培地成分供給、工程・品質管理(培地成分分析や細胞観察)などが挙げられる。
後処理:細胞回収、品質評価(出荷検査)など


6.3 培養系(Culture space)細胞の接しうる無菌空間。

6.4 培養容器(Culture vessel)培養系を構成する容器。

6.5 除染パスボックス(Pass box with decontamination)
滅菌および粒子除去を施すことのできるパスボックス。

6.6 自動培養加工装置(Automatic culture system)
ヒト細胞・組織の加工に対し、培養系内にて培養工程の一部、又は全部を自動操作する装置。

6.7 容器密閉型自動培養加工装置(Sealed-vessel automatic culture system)
培養系内に原料を仕込んで閉鎖した後、培養容器を開放することなしに、一連の培養工程の一部又は全部を完了する自動培養加工装置。

6.8 筐体密閉型自動培養加工装置(Sealed-chamber automatic culture system)
培養系内に原料を仕込んで閉鎖した後、必要な際に培養容器を開放し、一連の培養過程の一部又は全部を完了する自動培養加工装置。

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 浅野茂隆  早稲田大学 理工学術院 先進理工学部 教授
牛田多加志   東京大学大学院 医学系研究科 疾患生命工学センター 教授
梅澤明弘    国立成育医療研究センター研究所 再生医療センター センター長
菊池明彦    東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 教授
紀ノ岡正博   大阪大学大学院 工学研究科 教授
小久保護    澁谷工業株式会社 プラント生産統轄本部 製薬設備技術本部 参与技監
小寺良尚    愛知医科大学 医学部 造血細胞移植振興寄附講座 教授
髙木 睦    北海道大学大学院 工学研究院 教授
田村知明    オリンパス株式会社 医療技術開発本部 医療探索部 探索 2 グループ 課長
西野公祥    川崎重工業株式会社 マーケティング本部 新市場開発部 基幹職
畠賢一郎    株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング 常務取締役 事業開発室長
平澤真也    日本エアーテック株式会社 代表取締役社長
水谷 学    独立行政法人科学技術振興機構 FIRST 岡野プロジェクト 技術コーディネータ
山本 宏    パナソニックヘルスケア株式会社 バイオメディカビジネスユニット
        システム設計グループ 再生医療システムチーム チームリーダー(参事)

報告書(PDF)

2015-E-RE-030-H24-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

(再生医療等製品) 自家培養軟骨「ジャック」(JTEC) 日本申請日:2009年8月24日、日本承認日:2012年7月27日   (再生医療等製品) ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」(テルモ㈱) 日本申請日:2014年10月30日、日本承認日:2015年9月18日 

承認済み製品(海外)

製品開発状況

iPS細胞,軟骨再生(京大、旭化成)

(再生医療等製品)
口唇口蓋裂における鼻変形に対するインプラント型再生軟骨の開発(東大,富士ソフト)
日本申請日:2018年6月14日

角膜上皮幹細胞疲弊症に対する他家iPS細胞由来角膜上皮細胞シート(阪大)
first-in-human臨床研究中

iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発(阪大)

自家歯根膜細胞シートによる歯周組織再生(東京女子医)

滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来RPEシート移植(理研)

滲出型加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植(神戸市立医療センター中央市民病院)

ISO 1製品に関連する規格:3019:2018

Horizon Scanning Report