ヒト細胞培養加工装置についての設計ガイドライン[改訂] 開発ガイドライン2015(手引き)

ガイドラインID 2015-E-RE-031
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療 ヒト細胞製造システム開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2015-E-RE-031 ヒト細胞培養加工装置についての設計ガイドライン 改訂 開発ガイドライン2015 手引き

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

前文 開発ガイドライン改訂の目的

平成 19~20 年度に、経済産業省 医療機器開発ガイドライン策定事業 再生医療分野(細胞シート)開発ワーキンググループ委員会において、「ヒト細胞培養加工装置についての設計ガイドライン」(以下、本ガイドライン)が作成された。本ガイドラインでは、ヒト細胞培養加工装置(以下、培養加工装置)の製造業者を「メーカー」、培養加工装置を使用する細胞培養加工機関を「ユーザー」と呼び、メーカーに対して、再生医療に使用するヒト細胞・組織の培養を支援する装置の設計に関する、基本的かつ標準的な考え方を示すことにより、ユーザーが臨床向けの培養加工に使用する培養加工装置の設計品質を確保することを目的としている。本ガイドラインでは、最終の滅菌処理ができない細胞培養加工物について、主に、無菌操作が可能な環境の構築について、基本的な考え方と留意点が提示された。これに対し、近年の細胞培養加工物の製造では、再生医療等安全確保法等が成立した経緯を踏まえ、品質リスクマネジメントに対する考え方が重要視され始めた。特に、細胞培養加工施設の一部である、培養加工装置の開発では、ユーザーが実施する設計管理における、メーカーの関与が注目されている。
本年度、再生医療(ヒト細胞製造システム)開発ワーキンググループ委員会では、メーカーにおいて、ユーザーの設計管理の考え方を前提とした、本ガイドラインへの項目追加が要求されていると考え、改訂を進めた。別途、タスクフォース委員会を編成し、改訂ガイドラインの素案作成を実施した。
ヒト細胞・組織の培養加工では、ユーザーが、培養加工における工程管理ならびに目的物であるヒト培養細胞・組織の品質管理について責任を有している。ユーザーは、原則として、細胞培養加工における工程や手順が、目的とする細胞培養加工物の品質を達成するのに最適かどうか(科学的根拠、妥当性があるかどうか)、開発段階の設計から生産に至るまでを一貫して検証(品質リスクマネージメント)し、バリデーションを実施することが求められる。
具体的に、ユーザーは、バリデーションの作業を始める前に、重要な施設・設備及びその付帯設備に対し、適格性確認(Qualification)を実施する必要がある。適格性確認は、通常、図 1 のように、設計適格性確認(DQ: Design Qualification)、据付時適格性確認(IQ: Installation Qualification)、運転適格性確認(OQ: Operation Qualification)、性能適格性確認(PQ: Performance Qualification)の順に実施される。培養加工装置の設計も、ユーザーにおいては、本適格性確認に含まれる。

図 1.設計から導入までの典型的な作業フロー(適格性確認)

原則として、適格性確認は、ユーザーが実施すべき品質リスクマネジメントの一環であり、メーカーに課せられるものではない。しかしながら、再生医療分野においては、ユーザー側に機械・装置を利用した培養加工操作をイメージし機能解析する経験が不足していることが多く、メーカーは、自らが実施する設計管理の経緯をユーザーが理解できるように、各仕様の提示(設計提案)を行うことが求められていると考える。
改訂ガイドラインでは、メーカーの仕様決定から検証に至る一連の設計管理について、ユーザーが実施する品質リスクマネジメントと適格性確認の考え方を反映させていく。そのため、各実施項目は、ユーザーが使用する図 1 の用語(DQ~PQ)に準じて内容を示すが、メーカーがユーザーの要求に応じて実施する、設計から製作及び設置後検証までの手順と比較し、大きく齟齬は生じないと考える。

1 総則

1.1 目的
本ガイドラインは、ヒト細胞培養加工装置(以下、培養加工装置)の製造業者(メーカー)が、ヒト細胞・組織培養の操作を支援する装置の設計を行う際に本ガイドラインを参照することにより、品質(特に、細胞特性や活性の維持)に想定外の変化を生じさせず、再現性のある操作手順の構築、並びに、全工程を通して培養細胞・組織の無菌性の維持が達成される、適切な装置設計が行える一助となることを目的とする。
培養加工装置の具体的な自動操作手順の設計については、細胞培養加工機関(ユーザー)側だけでは実施が困難な場合も多く、メーカー側の関与(協力)が求められている。目的物であるヒト培養細胞・組織(細胞培養加工物)の品質確保のため、双方の枠を越えた設計管理の実現が必要と考える。
メーカーは、ユーザーとともに、採算性(製造コスト)に係る見通しに留意した上で、培養加工装置の設計を実施することが望ましい。

【解説】
(1) ガイドラインの位置付け
本ガイドラインは、培養加工装置のメーカーに対して、再生医療に使用するヒト細胞・組織の培養を支援する装置の設計に関する、基本的かつ標準的な考え方を示すことにより、培養加工装置の設計品質を確保することを目的とする。メーカーにおける、ユーザーの実施する培養加工における工程管理ならびに細胞培養加工物の品質管理を確立するための一助となれば幸甚である。
本ガイドラインの要件は、細胞・組織の種類によらず適用できるものであり、また、原則として、ヒト細胞・組織の培養加工における品質リスクマネジメントを考慮した装置設計について記述したものであるが、他の培養を支援する加工装置にも適用できる多くの共通事項を含んでいる。

(2) ガイドライン作成の背景
本ガイドラインでは、主に細胞培養加工物の品質確保の観点より、培養加工装置の達成すべき目標を具体的に示し、装置設計が目標を達成するために必要とする項目に係る指針を示すことを目的としている。これにより、適切な培養加工装置が作製できる。あわせて、メーカーがユーザーと協力し、要求を満たす装置を開発するために活用できる指針を示すことも目指している。 生きた培養細胞を患者に移植する再生医療の分野においては、従来の無菌医薬品とは異なり、培養加工を実施する細胞そのものの状態が、原料から治療(移植)まで一貫して重要となる。すなわち、細胞培養加工物が満たすべき品質(規格)を再現性よく達成・維持できるために必要な、培養加工の自動操作手順の構築、並びに、無菌操作が可能な環境の構築、これらを両立することが装置設計の要件となる。
細胞培養加工物の品質を確保しつつ再現性よく製造を実施する上で、最も大きな課題は、製造工程における作業者(人)の介在である。作業者は、細胞の無菌的な培養加工(無菌操作が可能な環境)を阻害する最大のリスク(汚染源)であり、細胞培養加工施設では、人由来の汚染を防止するために、高度な清浄度管理を可能にする施設・設備(ハードウェア)と、衛生管理等の運用(ソフトウェア)が要求され、高額な運用コストが培養加工費に上乗せされてしまう。そこで、平成 19~20 年度の本ガイドライン作成においては、無菌医薬品の指針(現在の、平成 22 年度厚生労働科学研究「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」)に基づいた無菌性の担保と、無菌性の維持に必要な培養系(容器密閉型と筐体密閉型など)の構築について、基本的かつ標準的な考え方を示した。
細胞培養加工物製造のもうひとつの課題として、培養加工操作の安定性を維持する難しさが挙げられる。培養加工装置の設計では、求められる品質の細胞培養加工物を、再現性よく製造するために、手作業の操作手順の単純化し、工程の全体あるいは一部を一貫して管理できる装置設計が不可欠となる。現状の再生医療分野では、ユーザーに手作業と装置設計をつなぐエンジニアの存在が不足しており、ユーザーだけでは実施が困難な場合も多く、メーカーの関与(協力)が求められている。
また2014年に、再生医療に係る新法(再生医療等安全性確保法)及び改正薬事法(医薬品医療機器等法)が施行され、「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(GCTP 省令)において品質リスクマネジメントの考え方が示されたことで、メーカーにも、細胞培養加工物の品質確保に係る考え方の理解(共有)が求められ始めている。
そこで、本ガイドラインの改訂では、細胞培養加工物の再現性ある安定した品質確保を念頭に、ユーザーの品質リスクマネジメントに基づいた適格性確認の実施を考慮し、メーカーとユーザー、双方の枠を越えた設計管理の実現に向けた、基本的かつ標準的な考え方を示す。

(3) 培養加工装置の設計に関する基本的な考え方
培養加工装置の目標(設計要素)は、第 1 に、細胞培養加工物の品質を、特に、細胞特性や活性について、想定外の変化をさせない培養加工操作が達成できること、及び、その操作を含めた再現性が得られることである。従来の無菌医薬品製造と異なり、細胞そのものを回収して品質を確保し、製品として出荷する細胞培養加工物では、拡大培養等の一時的な培養加工のみの安定化では十分ではなく、全工程の操作を通じて一貫した品質確保のための管理を必要とする。
第 2 の要素としては、細胞培養加工物に対して無菌性の維持が、全工程を通じて継続的に達成されることが求められる。同時に、外環境に対する封じ込めも必要となる。これらの要求を達成するためには、細胞培養加工施設の施設・設備に対して、無菌操作法指針を参照し、適切に無菌操作が可能な環境を構築し、検体の独立性を確保させることで、無菌的操作を支援しつつ、交差汚染や取り違えを防止することが不可欠となる。

(4) 培養加工装置の経済性効果に対する基本的な考え方
培養加工装置を導入するユーザーのメリットは、手作業による培養加工を安定化、あるいは、手作業では達成できない手順を実施することによって、より均一な品質の細胞培養加工物を確保できる可能性であるが、同時に、高度な教育訓練を必要とする作業者確保を必要としない、省面積化した施設設計や、それに伴う簡便な衛生管理などにより、製造コストを大幅に抑制することが期待されている。
細胞培養加工物の品質の向上と製造コストの低減は、必ずしも両立するものではなく、トレードオフの関係である場合も多いが、再生医療の実現可能性・持続可能性を経済的側面から議論しやすくすることは、参入を検討する企業(メーカーとユーザー双方)にとって重要な要素と考える。また、実際にユーザーがどのようなメリットを享受できるのかについては、再生医療の多様性を考慮しつつ、ケース・バイ・ケースでの議論が必要になると考えるが、一般的にユーザーは、培養加工装置の導入により、継続的な生産計画の中での、スループット(処理能力)の向上を求めていると考える。
メーカーは、ユーザーとともに、採算性に係る見通しに留意した上で、培養加工装置の設計を実施することが望ましい。

1.2 適用範囲
本ガイドラインは、細胞培養加工施設内において、ヒト細胞・組織を培養し必要に応じて加工することを目的とした、培養加工装置の設計に対して適用する。
なお、本ガイドラインは、培養加工装置を製造する設計の基本的指針で、医療機器に該当する機器を対象とした指針ではない。

【解説】
本ガイドラインは、細胞培養加工施設内において、臨床用の細胞培養加工物あるいはその中間加工物を製造することを目的とし、ヒト細胞・組織を自動培養し必要に応じて加工する、培養加工装置の設計に対して適用する。本ガイドラインで、「培養加工装置」とは、細胞培養加工物の研究開発により得られた培養加工手順をもとに設計(技術移管)された製造工程において、細胞・組織の培養加工を実施し、必要に応じて工程の一部を担う装置と定義付ける。対して、「自動培養加工装置」とは、いくつかの工程または全工程を連続的に機械が行う装置を指す。自動培養加工装置であっても、自動工程管理を行っていない部分については本ガイドラインに従う。上記の区別を下表 1 に示す。

表 1 培養加工装置における人と機械の役割

なお、本ガイドラインは、これらの培養加工装置を製造する設計の基本的指針で、医療機器に該当する機器を対象とした指針ではない。

GL:本体

2 培養加工装置の設計手順

本章では、ユーザーが細胞培養加工施設設計の一部として実施する、培養加工装置設計におけるユーザー要求について概説する。
ユーザーは、生産システムの一部となる培養加工装置の設計においては、原則として、品質リスクマネジメントに準じ、細胞培養加工物製造のプロセスバリデーションを前提とした、施設・設備の適格性確認を必要とする。

2.1 培養加工装置設計に求められる細胞培養加工物製造の概念
細胞の培養加工においては、複数の手作業を適切に機械化し、組み合わせることで、細胞培養加工物製造工程の一部あるいは全部を担う装置(システム)が求められる。全ての外的要因により変化する可能性のある細胞を取り扱うことを念頭に、手順変更時の互換性確認(細胞に影響を与える外的要因の評価)に配慮した装置設計を実施する必要がある。
ユーザーは、培養加工装置の設計において、装置の適格性確認を実施する必要がある。そのため、メーカーは、設計管理に係る仕様(要求・機能・設計)決定においては、ユーザーと協力して適切な文書化を実施し、検証を行なうことが求められる。

【解説】
(1) 培養加工装置の基本
培養加工装置(培養加工)を構成する要素は、基本的に、2 種類の機械化要求の組み合わせによる。1 つは、培養容器や資材を場所から場所へ搬送するような単純操作を代替する装置ユニットの開発で、もう 1 つは、教育訓練された操作(手作業)を代替する装置ユニットの開発、あるいは、手作業とは異なる、省スペース化、大容量化、高速処理化などに係る装置ユニットの開発である。これらの装置ユニットを単独あるいは複数で、人の手作業との連携を考慮しつつ、適切に組み合わせることにより、工程の一部あるいは全部を担う培養加工装置を開発することができる。
次に、開発された培養加工装置が、従前(開発時あるいは工程変更前)の操作手順と同等の品質を有する細胞培養加工物の製造を検証(バリデーション)できることで、製造工程(細胞培養加工施設内)への導入が可能となる。
特に留意すべきは、培養加工装置の取り扱う対象である細胞が、製造条件のみならず、全ての外的要因の影響により変化しやすい点である。すなわち、薬剤処理時間や攪拌速度等の直接的な工程条件のみならず、培養容器をインキュベータから安全キャビネットへ移動させるような単純作業においても、生物である細胞の品質に影響を与える可能性が否定できない。従って、培養加工装置の設計にあたっては、操作手順変更における互換性確認が重要となる。

(2) 培養加工装置の開発から導入までに必要な検討項目
ユーザーは、目標とする品質の達成を検証(バリデーション)する作業を始める前に、品質リスクマネジメントに準じ、培養加工装置を含めた重要な施設・設備及び付帯設備に対し、適格性確認を実施する必要がある。適格性確認は、通常、設計適格性確認(DQ)、据付時適格性確認(IQ)、運転適格性確認(OQ)、性能適格性確認(PQ)の順に実施される。培養加工装置の設計についても、本手順に従い、適格性確認が必要である。
培養加工装置の DQ を実施するには、ユーザーの細胞培養加工物製造におけるユーザー要求から、要求仕様(URS: User Requirements Specification)を確定することが不可欠となる。URS は、各装置(工程)の設計及び適格性確認のベースとなるので、いかに詳細に作り込めるかが重要なポイントとなる。重要な要素や、リスクの高い要素などを特定し、対象パラメーターの抽出や、リスクの低減策を検討することが求められる。URS 作成については、本分野において培養加工と装置設計(DQ)をつなぐ実績が現在充分に蓄積されていないため、この段階からユーザーとメーカーが密にすり合わせを進め、継続的に機能や設計の仕様につなげていくことが望ましい。
具体的には、URS を纏めることで、目的とする培養加工装置の「要求仕様」を抽出し、対応する「機能仕様」及び「設計仕様」が検討される。機能仕様及び設計仕様は、要求仕様を適切に反映して作成される必要があり、ユーザーが両者(要求と機能・設計)のすり合わせを確認できることで DQ が完了する。新たな装置が、機能仕様及び設計仕様が要求仕様を満たす確認については、必要に応じて予め要素試作等を実施し、予め検証されていることが求められる。

2.2 培養加工装置設計における要求項目の基本的な考え方
培養加工装置の設計では、従来の操作手順との互換性確認を考慮し、適切なパラメーター管理により、細胞培養加工物の品質を確保できる自動操作手順が検討される必要がある。使用する培養容器やピペット等の器材類については、細胞培養加工物の品質に影響を与えるものであってはならず、シングルユースの滅菌品であることが望ましい。
同時に、外因性の汚染源の侵入防止、及び、内在性の汚染源の拡散防止を達成する、細胞の無菌性維持に対して適切な操作手順と環境について、詳細な仕様を明示することが求められる。具体的には、設置環境(細胞培養加工施設内)において清浄度を維持して細胞培養加工物の無菌性を担保すること、および、個々の培養系における独立性を確保して交差汚染を防止できることが挙げられる。また、装置本体あるいはその部品が、細胞(培養系)及び周囲の環境を汚染しないことを担保する設計が不可欠となる。
培養加工装置には、細胞培養加工施設の一部として、装置の動作保証や、記録管理、安全に関する考え方が、具備されることが望ましい。

【解説】
(1) 細胞培養加工物の品質確保に関する設計
培養加工装置の要求仕様において最も重要となるのは、従来の手作業における手順と同等の品質を達成する手順の決定、工程内における動線設計及び作業時間の評価となる。特に、手順の決定では、細胞が適切に扱えているのか、適切なパラメーター管理により目的の品質が達成できるのか、手順変更により細胞がどのような影響を受けるのかなど、十分な対策を検討する必要がある。培養加工装置を含む装置・設備の導入では、人と物の動線及び手順を大きく変化させる可能性が高いので、それに伴う作業(細胞に影響を与える可能性のある加速度・時間などのパラメーター)の変化が細胞培養加工物の品質に影響を生じさせないか、互換性確認を実施した上で、対策を検討する必要がある。 また、培養加工装置において採用する、培養容器やピペット等の器材類については、細胞培養加工物の品質に影響を与えるものであってはならない。特に、交差汚染等のリスクを排除するために、細胞・培養液の接する器材類については、培養容器が送液チューブ等とともに構成される培養系(回路)を含め、シングルユースの滅菌品であることが望ましい。プラスチック製品である場合、「プラスチック製医薬品容器」(日局参考情報)などを参考とし、溶出物や細胞毒性について十分に考慮し選択することが望ましい。リユースする器材の場合は、適切な洗浄及び滅菌手順のバリデーションを実施する必要がある。

(2) 外因性の汚染源(微生物・異物等)の侵入防止
培養加工の操作を実施する空間は、外部環境からの汚染等の侵入リスクを最大限に低減可能な、「無菌空間」相当であることが求められる。そのため、細胞培養加工施設及び施設としての培養加工装置は、外因性の汚染防止対策として、作業空間の無菌性を維持・管理する必要がある。具体的には、表2に示される清浄度ゾーニングによる区分管理(無菌操作等区域(重要区域)、直接支援区域、およびその他支援区域)と、そのために必要な差圧管理・風向管理・換気回数となる。
(再生医療等安全性確保法では、無菌操作等区域の周囲である直接支援区域を「清浄度管理区域」としているが、清浄度は明確には定めていない。)また、細胞培養加工施設を適切に運用するためには、適切な更衣管理と、衛生管理(環境維持業務)、施設管理(バリデーション)及び作業者の教育訓練(更衣・清掃・消毒・保守など)について文書・記録を通した適切な運用が不可欠となる。閉鎖系の培養容器や、筐体密閉系のアイソレータ等の技術を利用する場合は、除染パスボックス等を採用することで、上記のうち直接支援区域を省略することが可能となる。

表 2 無菌操作に必要な環境の清浄度管理基準

ISO のクラス表記では、非作業時/作業時および環境微生物評価基準を定めていない

作業空間に設置した培養加工装置は、装置本体あるいはその部品が、細胞(培養系)及び周囲の環境を汚染しないか、リスク評価を実施し、適格性を確認する必要がある。例えば、装置の摺動部より発生する金属粉、機械油、その他破片等の異物混入する可能性や、生物学的な汚染が発生する可能性など、必要に応じてリスクの低減策を検討することが求められる。 培養加工装置を構成する材料の材質、構造については、上述した異物混入リスクを考慮し、必要な強度及び耐摩耗性を有することが必須となる。液体、ガス等の流体に接続する配管及び配管構成物の内面は、当該流体に腐食されにくい材料を選定することが求められる。定期的な清掃及び万一の汚染時の清掃・消毒を考慮した耐薬性を含め、経時的な材料劣化に対する考慮も不可欠と考えられる。

(3) 内在性の汚染源(微生物・ウイルス等)の拡散防止
培養加工では、細胞操作にともなって発生するエアロゾル(ミスト等)を介して作業空間を汚染させる可能性が否定できない。そのため、対象となる細胞培養加工物は、常に培養容器内(培養系)あるいは筐体内において独立性を維持させることが求められる。また、細胞を培養容器にて保管(培養)する場合は、必ず培養容器ごとに周囲環境に対して密閉(隔絶)の閉鎖系であることが望ましい。通気の必要に対しては、フィルター付き通気孔等を利用することで、微生物管理上では密閉されているとみなすことができる。密閉されない開放系の培養容器(培養皿等)を使用する場合は、個別の筐体(インキュベータ)に保管する等で、培養系ごとに独立させることができる。
培養加工操作時は、同一の作業空間(無菌操作等区域)において、同時に複数の異なる由来の培養系を開放することはできない。また、作業においてミスト等が発生する可能性がある場合には、作業終了後の清掃(消毒、必要に応じ除染等)によって、汚染リスクが完全に取り除かれること(チェンジオーバー)を確認しなければ、次の作業を受け入れることは適切ではない。

(4) 培養加工装置の運用における留意点
細胞培養加工施設において、同時期に複数(多検体)の培養加工作業を行う場合は、感染因子の交差汚染や細胞の混入・取り違え防止の観点から、妥当なチェンジオーバーが達成可能な、管理手順を設定する必要がある。
同時に、細胞培養加工物は、原料細胞から移植に至るまで、由来を明確に判別でき、かつ異なる由来の細胞・組織と取り違えを起こさないよう管理しなければならない。検体の識別管理方法(対象、識別情報の定義、付与、作業記録用紙への記載等)はあらかじめ手順化・文書化し、間違いを生じないように対策を検討する必要がある。バーコードやICチップ等により、より適切なトレーサビリティ体制を構築できる場合、積極的に採用することが望ましい。ただし、装置の故障や事故等の緊急に対応するリスクを考慮し、目視にて検体を識別できる手段を確保する等の対策が必要である。

(5) 培養加工装置の動作における要求事項
A. 装置の作動保証
培養加工装置を含む装置・設備は、ユーザーの操作(指示)によって予め決められた内容で作動することを保証できることが望ましく、特にコンピュータ化された装置・設備は、該当するプロセスの重要度に応じて、コンピュータ化システムバリデーション(CSV)を実施できることが求められる。
CSV は、ハードウェア(装置・設備及び支援システム)に対する適格性確認と並行して実施する。IQ 及び OQ によりプロセスの実行に適合するかどうか検証できることを確認する。PQ は、一般的に、最終のバリデーションと併せて実施する。

B. 装置の操作及び作動記録と管理
培養加工の工程に係る装置・設備の操作項目は、操作ログとして装置内部に記録保存できるとともに外部に出力できることが求められる。種々のログデータ記録機能は、改ざん不可のシステムであることが求められる。また、外部出力は、デ―タロガー等、装置本体とは別系統の独立した記録装置に接続できることが望ましい。記録項目については、例えば、① 温度等の常時モニタリング項目、②培地交換やバルブ開閉等の作業・動作の記録、③ 環境異常や装置の異常作動等の異常・警告等アラート情報などが挙げられる。

C. 集中管理機能の設計について
複数の装置の集中管理や遠隔管理は、作業者の負担軽減に有効であると考えられる。その実現には LAN やインターネット等のネットワーク環境の利用が現実的であるが、これらの利用にはセキュリティ上の課題と信頼性に関する課題が存在する。具体的な課題解決の手段として、安全ネットワークによるシステム構築があり、CC-Link Safety などの産業オープンネットワークなどの利用と安全コントローラーなどの自己診断機能を備えたハードウェアの利用が考えられる。

D. 培養加工装置の安全に関する考え方
培養加工の工程に係る装置・設備の安全の確保では、培養細胞と使用者をそれぞれ保護することが求められる。培養加工装置の設計・開発段階において、適切なリスクアセスメントに基づいて安全対策を検討し、製品の安全性に関するリスクを許容できる範囲内に低減しなければならない。例えば、ISO/IEC ガイド 51 の安全原則(safety principles または 3 step method)に従い、「設計(本質的安全設計)によるリスクの低減」 ⇒ 「保護手段(安全防護)によるリスクの低減」 ⇒ 「使用上の情報によるリスクの低減」の優先順位により製品安全を具現化する必要がある。
リスクアセスメントを実施するには、① 製品自体の情報(要求・設計仕様、性能、構造等)、 ② その製品に適用される安全に関する法令・強制規格の情報、③ 類似製品の製品不具合・事故に関する情報を収集・分析し、これらの情報から実際の使用条件への適合性を確認し、ハザード (危害の潜在的な源)を推定し、それによる危害を抽出(予測)し、危害による残存リスクの大きさを適切に評価することが求められる。

E. 安全機構の適用
培養加工装置が、培養加工する細胞の維持(患者利益)を最大限に担保しつつ、ユーザーの安全を確保するためには、以下のような安全設計手法による安全機構が設けられることが有効な手段となり得る。メーカーは、培養加工装置の供給方法(使用者の特定が可能か否か)に応じたリスク評価を実施し、ユーザー要求を精査した上で、詳細な仕様を決定する必要があると考える。
① フェールセイフ設計:機械は必ず故障する前提で、万が一故障が発生した場合でも、常に安全側にその機能が作用する設計のことを言う。何かしらの異常が検出された時点で、先ず停止することが一般的に求められていると考える。不特定のユーザーに供給する場合では、意図的に壊れやすい部分を作り込むことで過負荷時にその部分を優先的に壊れさせ、故障状態のまま運用(再起動)できないようにすることで、周囲に危害や損害を与えないようにする設計を行なうことが設計において考慮されることもある。
② フォールトトレラント設計:システム設計の手法であり、システムの一部に問題があっても全体の機能は停止せず、機能を縮小してでも動作し続けるようなシステム設計のことを言う。例えば、装置の動作中に何らかの問題が生じても、実施中の細胞培養加工操作の全部あるいは一部の動作を継続し、細胞への影響を最小限にすることにより、細胞(品質)の逸脱を回避することにより、患者利益を担保することが挙げられる。機能を縮小して得られる培養加工細胞の品質や二次被害が生じるリスクを考慮し、予めユーザーとの合意の上、導入を検討することが望ましい。
③ フール・プルーフ設計:間違った操作方法(誤使用)を行っても、事故が起こらないようにする安全設計のこと。例えば、ユーザーが誤ってボタン等を押すことで重篤な事故が生じる可能性が考えられる場合には、誤操作防止のためのスイッチや認証番号入力を求めるなどの安全対策を講ずることが挙げられる。同様に、製造指図にて指示されることのない条件について、設定できないような仕様とすることも有効な安全対策と考えられる。
使用者が教育訓練受けた経験者であることを前提とする場合は、予めメーカーとユーザーの間でリスクを共有化し、装置(設計)と教育訓練の各々における安全対策に係る責任分担を明確にしておくとことが望ましい。
④ 冗長化に係る設計:システムの一部に何らかの障害が発生する場合に備えて、万が一障害が生じてもシステム全体の機能を維持できるように予備装置を常用稼働時からバックアップとして配置し運用しておくことを冗長化という。冗長化によって得られる安全性は冗長性と呼ぶ。常に安定した実用稼動状態を保ち、システムに障害が発生した時は瞬時に切り替わる設計。障害によってシステムが本来の機能を失った時、人命や財産、企業活動に大きな損失が出ないようにするための方法として、冗長性設計が有効である。

2.3 培養加工装置の工程管理設計に関する考え方
培養加工装置は、ユーザーの発行する「製造指図書」を正しく履行できる培養工程の構築に対応可能であることが求められる。また、培養加工の工程における記録形式は、少なくとも「製造指図書」に対して逸脱がないことを確認できる記録システムが求められる。

【解説】
培養加工装置は、原則として、ユーザーが、細胞培養加工施設内にて実施する生産管理体制(品質リスクマネジメント)の一部として導入されることが前提となる。
製造・品質管理業務を適正かつ円滑に実施するため、ユーザーにより準備される、品質文書(基準書、手順書、等)の内容に適合する培養工程の管理に準ずる必要がある。従って、培養加工装置の操作・手順については、製造管理者より発行される「製造指図書」(都度の製造指図)を正しく履行することに対応し、その実施結果が記録により閲覧可能であることが求められる。
工程の記録形式は、少なくとも「製造指図書」に対して逸脱がないことを確認できる記録システムが求められる。またその記録は、必要に応じ、最長30年間保管できるシステムを考慮する必要がある。


3 要求事項

本章では、メーカーが実施あるいは分担する、培養加工装置設計の手順を具体的に示す。
原則として、ユーザーの生産システムの一部となる培養加工装置では、メーカーはユーザーの全体要求を実現するために協力することが求められていると考える。

3.1 培養加工装置の開発における設計管理
細胞培養加工物の製造ラインを構築する際には、ユーザーは細胞培養加工物の研究開発によって得られたデータ等や情報を基に、装置に求められる仕様を決定・選定を実施する。そのため、装置を新たに設計する上において、装置設計担当者に求められる役割としては、ユーザーの要求に対し、完全性・正確性・信頼性及び意図された性能(設計管理)が具備された装置を実現することが求められる。ユーザーは、最終的に、それらのバリデーションが不可欠となる。
バリデーションの目的は、開発された装置を含む、施設・設備(ハードウェア)及び運用(ソフトウェア)による全体構成の性能(パフォーマンス)が、ユーザーの要求を満たすことであり、このユーザーが要求する性能を各装置及び全体構成が達成しているかの適格性確認を実施する。このとき、ユーザーの要求仕様(URS)が、メーカーがユーザーとともに実施する可能性の高い、 DQ~PQ までの全適格性確認、及びその後のバリデーションの元となるため、その内容が適切であることが装置開発において特に重要となる。
特に、URS は、ユーザーが開発した細胞培養加工物を実現するために不可欠となる、品質規格や梱包形態及びそれを得るための手順(原料と資材、工程操作、評価手順)を元に、実現してもらいたいと望む細胞培養加工物の培養加工手順、及び、それに伴う施設・設備や装置の性能や機能、サービス等について、文章化する作業から始まり、最終的には、メーカーが適切に機能要求、設計要求を理解できるように仕様化したものであることが前提となる。すなわち、URS の作成では、ユーザーとメーカーが相互的に理解できるよう、適切に詳細内容を示し、文書化することが重要となる。特に、再生医療分野においては、ユーザーとメーカーの双方において、手作業の細胞操作を機械化する意図やコツの可視化に関するノウハウが不足している。また、ユーザー側に機械・装置を利用した培養加工をイメージし機能解析できる経験豊富なエンジニアが不足している場合も多い。そのため、DQ の仕様(要求・機能・設計)決定までには、両者の協力が不可欠であり、メーカーは、ユーザーが理解できるように、各仕様の提示(設計提案)を行うことが望まれる。
本項では、ユーザーの URS を個別の装置の DQ に落とし込み、適切に PQ まで繋げるための各ステップを示す。

3.1.1 ユーザー要求仕様(URS)
URS とは、上述したように、ユーザーが目的とする品質を達成するために、細胞培養加工施設全体の必要な設備・装置への要求(仕様)をまとめたものを示す。URS は、原則としてユーザーが作成するが、ユーザー側に施設や装置の機能や設計のイメージができていない場合、必要に応じ、メーカーが協力することで、施設・設備の要求仕様と齟齬の生じにくい内容にすることが望ましい。
URS では、適切な操作手順を達成する装置や施設の動線管理に係る考え方と、無菌操作を継続的に維持するゾーニングや差圧等の施設環境に係る考え方により、装置を含む施設・設備のハードウェアの要求仕様が示されるが、同時に、運用などのソフトウェアの要求も示される。施設に搬入する原料や器材類を含む資材、それらを一度に用いる量やリスクに対する取扱い手順、及び、希望する処理能力(生産量)等に関する情報は、ユーザーしか知り得ない情報であり、ハードウェアの設計に多大な影響を及ぼすための配慮が必要である。
また、運用(ソフトウェア)において重要となるものに、施設の清浄度維持における、微生物管理が挙げられる。メーカーは、一般的に微粒子管理によって設計仕様を決定するが、表 2 に示される、グレード A~D の清浄度管理では、微生物管理も並び示されており、ユーザーは、両者の管理が必須となる。

3.1.2 設計適格性確認(DQ)
メーカーは、URS を適切に解析することで、ユーザー要求を満たしつつ、実現可能な、個々の装置あるいは施設・設備の要求仕様書を作成する。この時、培養加工装置設計では、品質を変化させない培養加工操作であることを含め、メーカーとユーザーが協力し、ユーザーの要求を満たす要求仕様書であることを確認することが望ましい。
次に、要求仕様書を元に、機能仕様書及び設計仕様書(ハードウェア、ソフトウェア)を作成する。設計仕様書は、具体的な施設・設備に設置する培養加工装置の最終設計となるが、一般的に、要求仕様をそのまま設計仕様に読み替えることは難しい。そこで、要求仕様書における目的を培養加工装置で実現するために必要な機能仕様(手順)を構築する必要がある。具体的には、 URS に示される細胞培養加工品の品質を達成するため、要求仕様で求められる手作業を含む従来手順を機械化するために不可欠な、操作・手順を担う装置ユニット設計や、必要に応じて専用器材類の設計が挙げられる。このとき、ユーザーの要求によっては、必要な要素技術等の開発(試作)が伴うと考える。
機能仕様の結果(各機能要素)を組み合わせ、要求仕様の達成が可能なシステムに落とし込むことにより、設計仕様の作成が完了する。最終的には、設計仕様に対し、ユーザーとともにリスク評価を実施する。トレーサビリティがあり、要求仕様書の各項目が満足されていることを検証することで DQ が達成できる。

3.1.3 据付時適格性確認(IQ)
IQ では、メーカーの工場で出荷承認を得た製品または設備が設計仕様書通りであり、また正しく据え付けられていることを現地にて確認し、その記録を残す。一般的に、IQ は、電源投入前に確認できる項目を評価対象とすることが多い。設置場所が、電源電圧や設置場所の温湿度、広さなど、装置が正常に機能するように準備されていることが前提となる。
IQ の実施は、一般的にメーカーではなくユーザーが責任を持つが、メーカーは、設置環境、付帯設備、大きさ、重量等についての仕様を事前にユーザーに提出し、ユーザーの準備作業が確実かつ円滑に実施できるように支援することが望まれる。また、実際の作業時には立会い確認する可能性が高く、ユーザーに対して取扱い説明を実施する場合は、説明内容並びに受講者の記録も作成する。

3.1.4 運転適格性確認(OQ)
OQ では、正しく設置された装置やシステムが、実使用に問題の無い範囲で正常に動作することを(特に精度、真度を中心に)確認し、その結果を記録する。一般的に OQ では、電源を入れて確認できる項目を評価対象とすることが多いが、装置が機能仕様書通りであることを確認することが目的である。また、対象となる装置あるいは施設・設備の全てが、取扱説明書等に従い、適切に校正が行われた後に実施されるのが原則となる。
OQ の実施も、一般的にユーザーが責任を持つものであるが、メーカーは IQ と同様に、ユーザーの準備作業が確実かつ円滑に実施できるように支援することが望まれる。IQ 及び OQ を実施する間に、ユーザーは、PQ を自ら実施できるように、装置の稼働方法や調整方法について習熟を進める。このとき、必要に応じ、メーカーよりトレーニングを供給することが求められると考える。

3.1.5 性能適格性確認(PQ)
PQ では、原則としてユーザーにより、実原料を用いた製造(運用)時に、装置あるいは施設・設備が要求仕様通りであることを確認するとともに、一貫して目的(URS)に適合した性能を維持していることを確認する。具体的には、操作の上限と下限を包含したある条件、あるいは、一連の条件を含めて実施する試験により、予想される全ての操作条件の範囲において、期待した結果を達成(意図したとおり稼働)していることを確認することをいう。
PQ は、できる限り実製造に近い条件で試験を実施する。理想的な PQ の最終段階においては、当該施設・設備の全てを含む工程及び中間製品を含む製品の品質が期待される結果を達成していることを、ユーザーは、原則 3 ロット実生産規模での製造にて確認をする、プロセスバリデーション(PV)により検証することが求められる。しかしながら、現状の細胞培養加工物の製造においては、原料(細胞)の選択性に依存する個体差(ばらつき)が生じる場合もあり、必要に応じてベリフィケーションを併用するなど、適宜に確認手順を検証する必要が生じる。

3.2 構造
本項目では、培養加工装置の培養系の考え方を含む構造について、考え方を示す。

3.2.1 培養系に係る構造設計の考え方
細胞培養加工物は、培養開始時から移植時まで、一貫して滅菌することができない。特に、自己細胞が原料である場合は、組織表面のみならず、組織内部や細胞内部が微生物により汚染されている可能性を否定できないまま培養を開始する。そのため、万一の微生物汚染に備え、漏洩防止(封じ込め)対策をしつつ培養を実施する必要がある。これに対応するため、培養加工は、検体(バッチごと)の独立性を維持しつつ、外因性の汚染を防止することを目的として、全工程を通して、無菌操作が達成可能な、無菌的な環境下において実施される必要がある。
従って、培養加工装置における培養系は、無菌操作と封じ込めを両立させる構造・機能を有することが求められる。無菌的操作環境と封じ込めの構築要件は、装置の設計思想及び構造により、設計方針はケース・バイ・ケースで異なる。実際の運用においては、リスク評価に基づき、無菌操作と封じ込めの機能が維持されていることの確認方法(モニタリング方法、基準、無菌操作手順等)及び汚染事故の発生の際の対処方法(原因究明、再発防止措置等)を設定しておくことが求められる。
培養加工では、前述したように、製造環境の清浄度評価は微粒子のみではなく、微生物数と合わせて判定(クレード A~D)されるため、適宜評価できる構造が望ましいが、現在の科学的技術においては全てを即時判定することは不可能である。モニタリング手段として、空中微粒子を常時測定することは可能であるが、必ずしも微生物を含む異物の混入と相関させることはできない。そのため、装置の培養系を含む構造は閉鎖系で設計されることが望ましい。閉鎖系の構造では、リスクに応じた工程内の微生物測定等の環境清浄度評価の考慮は必要であるが、リアルタイムのモニタリングは必要としないと考える。また、チェンジオーバー時を含む、無菌的操作等区域での清浄度の確立手順は、事項で示すように、可能な限り消毒ではなく、除染であることが望ましい。以下に、閉鎖系(密閉式)の考え方について示す。

A. 容器密閉型培養加工装置の構造
容器密閉型とは、細胞及び細胞に直接触れる器材類(培養系)が外界と隔絶され、無菌操作等区域を含む外部環境に対して開放されることがない、あるいは限定される閉鎖系のシステムを示す。培養系への原料等の出入に関して、無菌的接続手段を介する培養加工装置の場合は、完全密閉式培養加工装置と定義する。原料等の出入り、及び、細胞培養加工物の回収から梱包までの操作の完全性を保証することで、限りなく一般環境に近い環境(ISO クラス 8以下相当の微粒子環境)でも、無菌操作と封じ込めが担保できると考える。培養系の設置(組立)時を除き、工程の一部において無菌操作等区域を要する容器密閉型の構造は、培養系の外側が除染できる場合を除き、従来の開放系培養容器での器材類の扱いと同様になる。培養系が容器内で閉じているため、閉鎖された空間内における微粒子のモニタリングは必要とせず、環境微生物のリスクも理論上は除外される。

B. 筐体密閉型培養加工装置の構造
筐体密閉型とは、市販の培養皿のように、培養系が無菌操作等区域で開放される場合において、無菌操作等区域が外部環境から完全に隔絶されることにより、培養系が外部に開放されることのない閉鎖系のシステムを示す。従来の安全キャビネットに相当する無菌操作等区域が、閉鎖系(アイソレータ等)に変更され、除染機能を有するパスボックスや無菌接続機構を介して、無菌的に原材料の無菌操作等区域への搬入を行うことができる構造であれば、完全密閉式培養装置と定義することができると考える。限られた体積の筐体(無菌操作等区域)が、外部環境に対し閉じた形で維持されるため、原料等や資材類の搬入時における汚染リスクを考慮することで、微粒子及び微生物の混入リスクは最小限に抑えられる。

3.2.2 培養加工装置の構造
培養系に対し培養加工を実施する、培養加工装置の構造は、容器密閉型を除き、培養系へ操作を行う部分(マニピュレータ等)に関しては、無菌性を維持管理できる構造が求められる。特に、筐体密閉型においては、装置の一部あるいは全部が、無菌操作等区域に設置されることを前提とするため、除染等による装置表面の無菌化の手順確立、発塵や異物混入への配慮が不可欠となる。装置の駆動部や摺動部など、対策を行っても完全にリスクを否定することができないものは、培養系の作業面よりも高い位置に設置しない等の設計対応を実施する必要がある。また、過酸化水素等での装置除染を考慮する場合、薬剤との接触時間を考慮し、構造上の隙間や穴(径と深さ)については設計において配慮が必要となる。予め考えられ得るリスクについては、設計仕様時に、ユーザーと協力し、対応を進めることが求められる。
装置の一部を無菌操作等区域に設置する場合は、例えば筐体の内側と外側で装置をつなぐために必要な壁面の貫通孔において、空気や微粒子が行き来しないよう、適切な(一定以上の)気密性を確保することが望ましい。一定以上とは、例えば、過酸化水素による除染バリデーションで実施される、リーク試験における許容範囲の値が挙げられる。十分な安全率を持って設計し、適格性が確認されることが求められる。
培養加工装置が、アイソレータ構造など、無菌操作等区域を含めた設計とする場合は、第4章に記載された設置環境の内容を加味し、清浄度や封じ込めを考慮した、細胞培養加工施設の一部として、適切な設計を実施する必要が生じる。

3.3 無菌操作が可能な環境の維持・管理
上述した外因性汚染の防止、及び、封じ込めや混同防止を含む交差汚染防止を両立させた運用を維持管理するには、施設・設備のハードウェアの仕様だけを考えるのではなく、同時に、運用方法などのソフトウェアも構築する必要がある。特に、原料等や器材類の搬出入における外装の消毒・除染や、作業者の更衣を含む動線管理や、作業後の後処理(チェンジオーバー)については、品質リスクマネジメントを基に、滅菌・除染・消毒を適宜選択し、運用方法を構築する必要が生じる。滅菌・除染・消毒の違いは、表 3 に示すが、いずれを選択するのかは、対象のリスク度合により異なる。また、対象が環境の場合は、全工程を通じてリスクを評価して、適切な選択
(消毒・除染)をすることが望ましい。

表 3: 滅菌・除染・消毒の比較

3.3.1 滅菌(sterilization)
資材等の消耗品類は、原則として滅菌品であることが望ましい。特に、培養系など、細胞及び培養液の接する可能性のある器材類は、滅菌により無菌性を保証する必要がある。滅菌品の要求は、除染あるいは消毒では、代替することはできない。

3.3.2 除染(decontamination)
無菌操作等区域の環境、及び、区域内への持ち込み物については、細胞に直接触れるものを除き、理想として、全て除染されていることが望ましい。除染とは、例えば過酸化水素蒸気の噴霧など、予め定められた一定以上の殺菌能力が繰り返し達成できる手段を示す。除染対象は、具体的には、無菌操作等区域内の床や壁、無菌操作等区域に持ち込まれる装置類や、資材等の外装(滅菌品の袋)表面が挙げられる。閉鎖系の培養加工装置では、無菌操作等区域内部と全ての持ち込み物について除染以上が実施できれば、理論上では無菌操作が達成される。

3.3.3 消毒(disinfection)
無菌操作等区域の環境、及び、区域内への持ち込み物は、上述の通り、除染以上の処理が望ましいが、ユーザー側の実施環境と運用により、消毒によって代替することが可能である。消毒とは、例えば70%アルコールによる清拭などが挙げられるが、除染と異なり殺菌能力のバリデーションは困難である。しかしながら、ユーザーが消毒により生じるリスクを把握した上で、適切な清拭手順や清浄度管理によって適切な運用が確認されることを前提とし、採用することができる。

3.4 材質

3.4.1 細胞・培養液の接する培養系・器材類
培養加工装置で使用する細胞・培養液の接する培養系を含む器材類は、シングルユース品であることが望ましい。シングルユース品の材質は、経済性や廃棄性などの観点から、プラスチック素材で構成されることがほとんどであるが、プラスチックに限定されず、ガラス、金属、セラミック、ゴムなどの材質を選択することも可能である。内溶液に接する材質は、素材からの抽出物(Extractable)や溶出物(Leachable)、微粒子(Particle)、培地成分等の相互作用(Interaction)を考慮すること。また、エンドトキシンや微生物、異物(目視できる異物を含む)の管理をすることが求められる。
材質の透明性や色は、内溶液の状態が確認できるように十分な透明性を有することが望ましく、細胞・培養液への影響を考慮し可能な限り無地であることが望ましい。

3.4.2 無菌操作等区域で細胞・培養液に直接接しない部位
筐体密閉型などの培養加工装置において、無菌操作等区域に設置される細胞・培養液に直接接しない部位(装置の全部あるいは一部)は、その装置が設置される環境を汚染することがないように、発塵、腐食などを考慮した材質を選定する。特に、微粒子の発生原因となる駆動部や摺動部を有する場合、熱履歴や経年劣化による微粒子の発生が想定される箇所については、発塵を考慮する。過酸化水素等による除染を考慮する場合は、ステンレス等の腐食性の高い材質が要求される。

3.4.3 筐体
培養加工装置の筐体の材質は、装置全体を無菌操作等区域に設置する場合、消毒・除染等による腐食や錆を防ぐためにステンレスやプラスチックであること。操作ボタンなどにゴムやエラストマーを使用する場合は、経年劣化を考慮すること。筐体の表面は、汚染を防ぐため、及び清掃を容易にするために、滑らかであることが望ましい。塗装を施す場合は、除染剤の塗装への影響や、塗装の剥離や劣化を考慮する必要がある。筐体が、直接支援区域などに設置される場合でも、消毒剤・除染剤による経年劣化を考慮し、清掃が容易で、滑らかな材質を選定することが望ましい。

3.5 動作管理

3.5.1 電源
培養加工装置に用いる電源設計は、適切な JIS/IEC 規格を参照し、設計時において、規格の要求事項に対する適合性を確認すること。
電気設備に求められる要件及び安全基準については、設計仕様時にユーザーと確認することが原則となる。メーカーが、予め自ら設計した装置をユーザーに供給する場合は、予めユーザーに確認を行う必要がある。例えば、接続する電源が商用電源であるか、連続稼働が求められる装置が非常電源に接続することができるかなどが挙げられる。非常電源等が得られない場合には、ユーザーとともに患者利益を考慮し、リスク評価を実施することで、必要に応じた対応を実施すべきと考える。

3.5.2 電路の絶縁
培養加工操作、器材類の搬送等に用いるユニットにおいて、電気エネルギーを動力源として使用する場合は、ユーザーを感電等の事故から保護するために電気的安全性を確保することが重要である。一般的には通電部及び接続部を絶縁すること(基礎絶縁)とし、仮に絶縁部の劣化、破損したとしても十分な安全性を確保するためのもう一つの保護手段(補強絶縁)を設ける二重絶縁の考え方を採用することが望ましい。設計に当たっては JIS/IEC 規格を参照し、「電気用品の技術上の基準を定める省令」(通産省令第 85 号)の絶縁抵抗試験、絶縁耐力試験を満足し,ユーザーの感電防止と安全確保に十分な配慮をすること.

3.6 ユーザーインターフェイス

3.6.1 操作(入力)間違い防止
ユーザーインターフェイス設計においては誤入力、誤接続を防止するための配慮を行うことが望ましい。キーボード等の入力装置を用いる場合には、入力支援機能や予期せぬ接触等による誤入力が生じにくい工夫を行うこと。また装置設定情報、動作管理記録等の重要機能へのアクセスはユーザー種別に応じたアクセス権限設定等を用いることにより、閲覧、編集を制限することができるシステムであることが望ましい。

3.6.2 緊急停止システム
自動培養装置においても作業者の安全を確保するため、機械装置を緊急に停止させるための非常停止システムを備えることが望ましい。非常停止機能については、JIS/ISO 等の規格に基づき設計することが望ましい。一方で、メーカーは、フォールトトレラント設計に従い、ユーザーとともにリスク評価を実施することで、患者利益を考慮し、必要に応じて非常停止の範囲や復帰方法について対応することを求められる可能性がある。

3.7 その他

3.7.1 設計変更について
設計変更は、変更の重要度や目的、内容、細胞培養加工物に対するバリデーションの要、不要等を事前に確認し、機能、性能、安全性に与える影響を十分考慮したうえで行うこと。設計変更は、設置環境や経年変化など何らかの原因で、本来設計仕様時に目標とした機能や性能が発揮できないことへの対策の場合は、是正処置として速やかに原因究明を実施し、対応を進めることが望ましい。一方で、設計変更が細胞培養加工物に対して何らかの影響を与える可能性がある場合は、手順変更による互換性確認を実施することが求められる。
変更に際しては検証(リスク分析)記録、バリデーション(適格性確認)記録を残し、設計変更内容を履歴として残し、管理する事。

3.7.2 具備すべき設計・品質確認文書及びマニュアル等
設計した培養加工装置については、製品仕様書、設計変更履歴等の設計ドキュメントや各種検証記録等の品質に関連する文書を作成すること。品質文書の作成に当たっては事前に文書の作成計画を立て、その計画に従いドキュメントを整備することが望ましい。
培養加工装置をユーザーが適切に使用できるように、取扱説明書などのマニュアル類を準備することが必要である。ユーザーが必要とする場合は、教育訓練の手順など、使用者の資格(要件)について考慮することが求められる。


4 培養加工装置の設置環境(細胞培養加工施設)

培養加工装置の設置環境は、施設・設備の仕様を参考に、培養系の無菌を担保しつつ、平成 22 年度厚生労働科学研究「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」、あるいは、ISO 13408(Aseptic processing of health care products:ヘルスケア製品の無菌処理)ISO 13408-1 Part 1: General requirements(一般要求事項)、ISO 13408-6 Part 6: Isolator systems(アイソレータシステム)等を考慮し、下記に従って設置することが望ましい。

4.1 完全密閉式培養加工装置の設置
培養加工の全期間を通して、培養系を開放することのない完全密閉式の培養加工装置は、容器密閉型あるいは筐体密閉型に係らず、表 1 に示す ISO クラス 8 以下の、その他支援環境区域に設置できる。その他の支援区域とその外部である周囲の環境とは、エアロック室等を用いて、外部の空気が容易に流入しない構造を有しなければならない。

4.2 培養系に開放操作がある培養加工装置の設置
培養加工において、培養系の開放操作がある場合には、清浄度ゾーニングにより、直接支援区域(ISOクラス7)に設置した安全キャビネット内などの無菌操作等区域(ISO クラス 5)で培養系の開放作業を行う必要がある。直接支援区域と ISO クラス 8 以下の周囲環境(その他支援区域)との間は、封じ込めを考慮し、エアロック室等を用いて、外部の空気が流入しない構造を有することが望ましい。
一方で、除染機能を有するパスボックスあるいは無菌接続機構が付設されたアイソレータ等の隔絶空間内に設置した場合、直接支援区域を省略することが可能で、その他支援環境区域に設置することができる。培養加工装置が、アイソレータ等の機能を含めた一体型である場合も同様である。

4.3 環境モニタリング
無菌操作等区域とその周辺区域(清浄度管理区域)においては、適切な環境モニタリング(微粒子管理、微生物管理、差圧管理、温度管理等)を行い、製品が適切な管理状態において生産されたことを保証する記録を残すことが求められる。そのため、特に培養系の開放操作を伴う培養加工装置は、必要に応じ、環境モニタリングのための必要なサンプリングポート等を備えるべきである。環境モニタリングについては、自動記録式の環境モニタリングシステムの設定も考慮されるが、ユーザーにおいては、微生物管理等の実施も不可欠となるため、サンプリングポートの考慮は必要である。

4.4 無菌性の担保
メーカーは、細胞培養加工施設内にて運用する培養加工の無菌性の担保ができることが求められる。細胞培養加工物の無菌保証については、用いる原料等の無菌性を含め、ユーザー側が担保すべき内容であるが、適切な設置環境に設置された培養加工装置が、設計通り「無菌操作」を実施できることを確認することは必須と考える。ただし、設置場所において実際に無菌性を確認するには、細胞培養加工施設全体の微生物管理体制が不可欠となるため、微粒子測定等の代替試験による妥当性確認方法を予めユーザーと定めておくことで差支えないと考える。

4.5 その他
培養加工装置は、細胞培養加工施設内において、適切な衛生管理及び施設管理が実施される必要がある。例えば、外因性の汚染リスク対応するため、区分管理に応じた適切な更衣管理や、適切な頻度で、消毒剤による清拭(消毒)や除染を行うことが求められる。メーカーは、ユーザー側の管理手順に沿って培養加工装置が適切に運用できるように、管理手順や記録に関する情報について、設計(あるいは導入検討)段階から協力できることが望ましい。
また、細胞培養加工物の品質に関わる重要な計器についてのキャリブレーションや、HEPA フィルターの完全性試験等については、適切な頻度で実施する必要があり、装置は、細胞培養加工施設内において、これらの実施が容易であることが望ましい。

GL:付属資料

5 参考規格

5.1 設計・検査基準
・電気用品安全法電気安全保安法:理科学機器等,汎用電気機器に適用される基準(比較的近い機器として,「電気ふ卵器」及び「電気冷蔵庫」の技術基準に準拠)。

5.2 製造基準
・ISO 9001 製造管理基準
・JIS 規格(医療機器安全評価関連 T-60601 等)
・JIS 1010-1/IEC 61010-1(測定用、制御用及び試験室用電気機器の安全性一般要求事項)
・ISO 13850(非常停止規格)
・JIS B 9703(機械類の安全性−非常停止−設計原則)

5.3 輸出対応基準
・EC 指令(欧州指令,CE マーキング)
・機械指令(98/37/EC に統合):1998-08-11
・EMC 指令(89/336/EEC,92/31/EEC):1996-01-01
・低電圧指令(73/23/EEC):1997-01-01
・RoHS 基準
・UL 規格(米国向け規格)



6 用語解説
本ガイドラインにおける用語の定義は次に掲げる通りとする。

6.1 培養加工装置 (Culture system)
細胞・組織の培養加工に対し、培養系内にて培養工程の一部又は全部を支援する装置。

6.2 自動培養加工装置 (Automatic culture system)
ヒト細胞・組織の培養加工に対し,培養系内にて培養工程の一部又は,全部を自動操作する装置。

6.3 細胞培養加工施設 (Cell Processing Facility)
細胞の培養・加工を行なう専用の細胞加工施設。

6.4 培養加工(Culture)
ヒト細胞・組織の人為的な増殖,細胞・組織の活性化等を目的とした薬剤処理,生物学的特性改変,非細胞・組織成分との組み合わせ又は遺伝子工学的改変等を施すことをいう。(薬食発第 0208003 号「ヒト(自己)由来細胞や組織を加工した医薬品又は医療機器の品質及び安全性の確保について」あるいは、薬食発 0907 第 2 号「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針」参照。)

6.5 細胞培養加工物(Cultured cell/tissue)
細胞を培養加工することで得られる一定の品質を満たした細胞・組織。

6.6 適格性確認(評価) (Qualification)
細胞培養加工施設等で準備される構造設備が、細胞培養加工物の培養加工を実施するための要求に対し、実際に期待される結果が得られることを確認し、記録する活動。重要な装置及び付帯設備の適格性は、同様に、プロセスバリデーションの作業を始める前にを確認する必要がある。

6.7 機械化 (Mechanization)
熟練を要する培養加工に係る作業者を補助する機械を導入すること。または、作業者の培養加工における手順の一部あるいは全部を機械で置換すること。

6.8 アイソレータ (Isolator)
環境及び職員の直接介入から物理的に完全に隔離された無菌操作区域を有する装置であって,除染した後に HEPA フィルター等によりろ過した空気を供給し、外部環境からの汚染の危険性を防ぎながら連続して使用することができる装置をいう。

6.9 無菌操作 (Aseptic processing)
微生物及び微粒子を許容レベルに制御するために、供給する空気、原料及び資材、構造設備並びに職員を管理した環境下において作業を行うこと。
注) 無菌及び無菌操作を区別して使用すること。

6.10 互換性確認(Comparability assessment)
施設変更や培養加工装置等の導入により、操作手順が変更された場合に考慮すべき最終製品への影響に係る評価のことをいう。(経済産業省 再生医療「ヒト細胞培養工程の操作手順変更における互換性確認に関するガイドライン 2015」参照。)

6.11 装置ユニット(Operation unit)
培養工程の操作手順の一部あるいは全部を分担する機械装置。

6.12 シングルユース品(Single-use product)
一操作だけ利用する、または、一工程の間利用して、利用後廃棄する器材類。

6.13 チェンジオーバー (Changeover)
一般的には、製造ロットの異なる製品を扱う等のために作業ラインを換えることであるが、本ガイドラインでは自家細胞由来の細胞培養加工物等において、1つのドナーの細胞・組織を用いた工程操作が終了した後に、作業空間の清掃(消毒、必要に応じ除染等)を経て、異なるドナーの細胞・組織を用いる工程操作に切り替えることをいう。(経済産業省 再生医療「自己由来細胞操作のチェンジオーバーに関するガイドライン 2015」参照。)


6.14 培養系(Culture space)
細胞が接しうる無菌空間。細胞を培養する培養容器、あるいは、培養容器が送液チューブ等とともに構成される回路。

6.15 閉鎖系(Sealed/closed system)
培養系あるいは培養系を含む空間が、物理的あるいは気流等によって外界と隔絶される状態が構築されること。HEPA 等の微粒子・微生物が不透過の通気窓が付設された培養系も閉鎖系とみなす。

6.16 容器密閉型培養加工装置 (Sealed-vessel automatic culture system)
培養系内に原料を仕込んで閉鎖した後、培養容器を開放することなしに、一連の培養工程の一部又は全部を完了する培養加工装置.

6.17 筐体密閉型培養加工装置 (Sealed-chamber automatic culture system)
培養系内に原料を仕込んで、培養系ごと外界と隔絶した筐体閉鎖した後、必要な際に筐体内で培養容器を開放し、一連の培養過程の一部又は全部を完了する培養加工装置。

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

2014-10-01

WG終了年月

2015-03-01

WGメンバー

座長 浅野茂隆 早稲田大学 招聘研究教授
牛田多加志  東京大学大学院 医学系研究科 疾患生命工学センター 教授
梅澤明弘   国立成育医療研究センター再生医療センター センター長
紀ノ岡正博  大阪大学大学院 工学研究科 教授
小久保護   澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
齋藤充弘   大阪大学医学部附属病院 未来医療センター 講師
髙木 睦   北海道大学大学院 工学研究院 教授
高橋恒夫   京都大学 再生医科学研究所 幹細胞研究部門 客員教授
田村知明   オリンパス株式会社 医療技術開発本部 医療探索部 探索 2 グループ 課長
中嶋勝己   川崎重工業株式会社 マーケティング本部 MD プロジェクト部  MD 技術開発室長
畠賢一郎   株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング 常務取締役 事業開発室長
平澤真也   日本エアーテック株式会社 代表取締役社長
水谷 学   株式会社早稲田大学アカデミックソリューション 客員研究員
若松猪策無  株式会社メディネット CP(セルプロセッシング)部 信頼性保証室

報告書(PDF)

2015-E-RE-031-H26-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

(再生医療等製品) 自家培養軟骨「ジャック」(JTEC) 日本申請日:2009年8月24日、日本承認日:2012年7月27日   (再生医療等製品) ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」(テルモ㈱) 日本申請日:2014年10月30日、日本承認日:2015年9月18日  

承認済み製品(海外)

製品開発状況

iPS細胞,軟骨再生(京大、旭化成)

(再生医療等製品)
口唇口蓋裂における鼻変形に対するインプラント型再生軟骨の開発(東大,富士ソフト)
日本申請日:2018年6月14日

角膜上皮幹細胞疲弊症に対する他家iPS細胞由来角膜上皮細胞シート(阪大)
first-in-human臨床研究中

iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発(阪大)

自家歯根膜細胞シートによる歯周組織再生(東京女子医)

滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来RPEシート移植(理研)

滲出型加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植(神戸市立医療センター中央市民病院)

製品に関連する規格:ISO 13019:2018

Horizon Scanning Report