自己由来細胞操作のチェンジオーバーに関するガイドライン2015

ガイドラインID 2015-E-RE-032
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療分野 ヒト細胞製造システム開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2015-E-RE-032 自己由来細胞操作のチェンジオーバーに関するガイドライン2015

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. 総則
1. 1 目的
細胞・組織加工製品の加工工程は数日~数週間を要し、中間加工品はその期間、培養装置と重要区域を往復する。加工期間を通して、1つの重要区域を同一細胞・組織で占有することは製造設備の稼働率の面で極めて非効率であり、稼働率向上のためには、同時期に加工過程にある複数の患者由来の細胞・組織加工製品について、重要区域や培養装置を共用することが必須である。本ガイドライン(手引き)では、自己細胞由来の細胞・組織加工製品における異なる患者由来の複数の細胞・組織について、順を追って(あるいは連続的に)加工する場合のチェンジオーバーについての基本的な考え方を示す。なお、本ガイドラインは万能の正解を示すものではなく、原則的な考え方を示すことに重点を置いて作成した。そのため、医薬品・医療機器等法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づく承認審査の観点とは別に、細胞・組織加工システムのなかのチェンジオーバーにおいて留意すべき事項を掲げたものであるが、加工製品の特徴によって、これら以外の事項が必要となる可能性があることに留意しなければならない。

1. 2 適用範囲
本ガイドライン(手引き)は、自己細胞由来の細胞・組織加工プロセスにおける以下のいずれかの場合のチェンジオーバーの要件について記載するもので、汚染リスクあるいは細胞・組織の特性が同一であることが明らかな複数ロットの細胞・組織について連続して加工作業を行う場合には適用しない。
・細胞・組織が入った容器を開放しながら行う無菌操作(以下、開放操作)工程を、順を追って複数症例分操作する場合
・由来や感染リスクの異なる細胞・組織を連続して無菌操作により加工する場合

GL:本体

2. 用語の定義
・チェンジオーバー (changeover):一般的には、製造ロットの異なる製品を扱う等のために作業ラインを換えることであるが、本ガイドラインでは自己細胞由来の細胞・組織加工製品において、或る患者の細胞・組織を用いた加工工程が終了したのちに、異なる患者の細胞・組織を用いる加工工程に切り替えることをいう。
・微生物 (microorganism):一般に、細菌、酵母、真菌、原虫、マイコプラズマ、ウイルス等を総称するものであるが、本ガイドラインにおいては、細菌及び真菌を指す。
・無菌 (sterile):生育可能な微生物が存在しないこと。
・滅菌 (sterilization):全ての種類の微生物を殺滅または除去し、対象物または空間中に微生物がまったく存在しない状態を得ること。
・除染 (decontamination):空間や作業室を含む構造設備に生存する微生物を再現性のある方法によりあらかじめ指定された菌数レベルにまで減少させること。
・消毒 (disinfection):対象物又は表面等の局所的な部位に生存する微生物を減少させること。
・細胞・組織加工 (cell and tissue processing):細胞・組織等に対して、最小限の操作及び加工(細胞等の人為的な増殖、細胞の活性化等を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変操作、非細胞成分との組合せ又は遺伝子工学的改変操作等)を施す行為をいう。なお、最小限の操作とは、組織の分離、組織の細切、細胞の分離・単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍又は解凍等の当該細胞の本来の性質を改変しない操作をいう。
・無菌操作 (aseptic processing):微生物及び微粒子を許容レベルに制御するために、供給する空気、原料および資材、構造設備並びに職員を管理した環境下において作業を行うこと。
注) 無菌及び無菌操作を区別して使用すること。
・重要区域(critical area):重要操作区域 (critical processing area) ともいう。細胞・組織や滅菌された資材(プラスチック容器、培地など)並びにこれらと直に接する面が環境に曝露される加工作業を行う限定された区域をいう。
・エアロゾル (aerosol):気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子のことをいう。生成過程によってはミストとも呼ばれるが、状態は同じである。本ガイドラインではエアロゾルと表記する。主な発生要因は試料の混和や振盪、ピペットの先端で培養液の気泡を割ることなどである。

3. チェンジオーバーの基本的考え方
異なる細胞・組織の加工作業を複数連続して行うためには、単一の細胞・組織のみを取り扱う場合と異なるリスク(例えば、「クロスコンタミネーション」と「取り違え」)が存在し、取り扱う細胞・組織の切り替え、すなわち「チェンジオーバー」を行う際にリスク低減のための適切な対処が必要である。従ってチェンジオーバーを有する培養工程を構築する際には、通常の無菌環境における培養作業手順の確立に加え、これらの観点でのリスク評価を行ない、予め対処方法を手順に定めておくことが必要となる。

4. 原料細胞・組織の特性
同時期に複数の患者由来の細胞・組織の加工作業を行う場合は、患者により汚染リスク及び細胞・組織の特性等が異なるものとして取り扱わなければならない。このため、エアロゾル等の付着によるクロスコンタミネーションや細胞の混入・取り違え防止の観点からチェンジオーバーを考慮した手順を適切に設定する必要がある。

5. 無菌操作設備の設計要件
5. 1 無菌操作環境の構築
最終滅菌ができない細胞あるいは細胞由来の細胞加工品の製造において、無菌操作に必要な環境が整えられており、外因性の微生物が混入しない手段が講じられていること(「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」等参照)。

5. 2 除染又は消毒対応構造
一連の細胞・組織加工作業の後にエアロゾルの付着が想定される場所や培養容器の破損、損傷などにより培養液が飛散する可能性のある場所は、除染又は消毒ができる構造、材質であること。

5. 3 リスク評価による環境管理方法の設定
細胞・組織加工作業の実施環境について行ったリスク評価に基づいて、無菌操作環境が維持されていることの確認方法(モニタリング方法、基準、無菌操作手順等)及び汚染事故の発生の際の対処方法(原因究明、再発防止措置等)を適切に設定しておくこと。
【解説】
リスク評価においては、いつ、どこの段階で外因性汚染が発生したのかを「検出」「対応」できる体制を構築しておくことが重要であるため、モニタリング手段はチェンジオーバーの上位概念となる。

6. チェンジオーバー時のクロスコンタミネーション防止の要件
6. 1 細胞・組織加工作業
1) 作業中にエアロゾルや液滴(以下エアロゾル等)が付着した可能性のある表面は予め決められた手順に従い適切なクリーニングを実施すること。
2) 作業者に付着したエアロゾル等による汚染、及び汚染の移動を防止するため、作業後は速やかに、作業中に接触するすべての表面に対し、予め決められた手順に従い適切なクリーニングを実施すること。
3) 細胞・組織加工作業後に作業エリアにある器具(ピペッター等)、プラスチック資材等は、未使用であってもエアロゾル等の付着による交差汚染の可能性があるため廃棄すること、再使用する場合は適切な除染・滅菌処置を講ずること。
4) 作業中に液滴をこぼした場合は予め決められた手順に従い適切なクリーニングを実施すること。
5) 作業中に発生する可能性がある最大量のこぼれは捕集容器へ排水でき、緊急の場合には滅菌のために回収できること。
6) 細胞・組織加工作業後に容器をインキュベータに戻す際、インキュベータ内にある由来の異なる培養容器に触れないこと。
7) クリーニングは予め承認された手順書にしたがって実施すること。手順書は必要に応じて定期的に見直し、改訂すること。

【解説】
標準作業手順書に従った実作業において、クリーニング手順の妥当性確認を実施することが必要である。重要区域内のものは毎作業後、全て排出することを前提とする。顕微鏡などの機器類に対しては、エアロゾル等や液滴の付着に対応した適切なクリーニング手順が必要である。

6. 2 非密閉筺体設備における作業
1) 安全キャビネット等の非密閉筺体の重要区域における作業中にエアロゾル等が付着する可能性のある手袋や無塵衣は作業後に汚染物として扱う。
2) 汚染した手袋や無塵衣を着用して由来の異なる細胞・組織を加工してはならない。

6. 3 筐体密閉型設備における作業
1) アイソレータ等の筐体密閉型設備の重要区域におけるマニュアル操作は設備付属のグローブを介して作業を行うが、作業中にグローブ表面にエアロゾル等が付着する可能性がある。エアロゾル等の付着の可能性がある場合、作業後は汚染物として扱うこと。
2) エアロゾル等の付着の可能性があるグローブはグローブ交換を行うこと。再使用する場合は適切にクリーニングを行った後で由来の異なる細胞・組織を加工すること。
3) 作業後、筐体内で発生したこぼれは、視覚的に清浄と見なすことができる程度までクリーニングすること。
4) 内部が予め除染されたアイソレータ等の筐体密閉型設備での自動作業では無菌維持が比較的容易に行なわれる。こうした設備のチェンジオーバーでは、こぼれを除去するための定期的なクリーニングを行なうこと。
【解説】
再生医療用途に使用されるアイソレータは通常、HEPAフィルターによってのみ周辺環境と換気する閉鎖ユニットである。これらのアイソレータは本質的にバイオハザードを封じ込めることができる。
アイソレータは長期間の無菌維持が可能であるのでチェンジオーバーではこぼれを除去するための定期的なクリーニングで十分である。消毒剤は70%イソプロパノールなど実験室の標準的な消毒剤を使用する。

6. 4 同時作業の禁止
細胞・組織加工作業により飛散した培地液滴やエアロゾル等が混入する可能性のある無菌操作環境において、同時に複数の由来の異なる細胞・組織の開放操作を行なってはならない。

7. チェンジオーバー時の取り違え防止の要件
7. 1 細胞・組織の識別
1) 細胞・組織は、人体から採取され加工工程を経て移植に至るまで、由来を明確に判別でき、かつ異なる由来の細胞・組織と取り違えを起こさないよう管理しなければならない。
2) 識別管理のために重複しない文字、数字、記号等の組み合わせた情報を個別に付与し、細胞・組織を含む全ての容器に表示しなければならない。
3) 細胞・組織加工工程で使用する培養装置や細胞・組織加工製品を運搬するための包装・梱包には、その装置や容器の中に含まれる細胞・組織を識別できる情報を表示し、変更に伴い随時追加・削除すること。
4) 検体の識別管理方法(対象、識別情報の定義、付与、作業記録用紙への記載等)はあらかじめ手順化・文書化しておかなければならない。
7. 2 個人情報の管理
自己細胞由来の細胞・組織加工製品では、移植対象患者との連結性を確保する必要があるため最低限の個人識別情報管理が必要である。ただし、識別目的以外の個人情報については開示範囲を厳しく制限する必要がある。

8 バリデーション
適切なチェンジオーバーを行うために設定した処置、作業手順の効果が期待できる十分な妥当性を有することを確認・検証するために、必要に応じてバリデーションを実施すること。

9 作業者への教育訓練
一般的な無菌操作技術、微生物に関する基礎知識、クリーンルームの構造設備、衛生管理、細胞・組織加工製品の製造工程に関する教育は、製造施設に入退室するすべての作業者に実施する必要がある。それに加え、実際にヒト細胞・組織を取り扱う培養作業者については、異なる患者から採取した細胞・組織との取り違えやクロスコンタミネーションを確実に防止するために、本ガイドラインに基づいて定めたチェンジオーバーを適切に行うための遵守すべき手順書、基準について教育訓練等必要な措置を継続的に講じなければならない。

GL:付属資料

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 浅野 茂隆  早稲田大学 招聘研究教授
牛田多加志  東京大学大学院 医学系研究科 疾患生命工学センター 教授
梅澤明弘   国立成育医療研究センター再生医療センター センター長
菊池明彦   東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 教授
紀ノ岡正博  大阪大学大学院 工学研究科 教授
小久保護   澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
小寺良尚   愛知医科大学 医学部 造血細胞移植振興寄附講座 教授
髙木 睦   北海道大学大学院 工学研究院 教授
田村知明   オリンパス株式会社 医療技術開発本部 医療探索部 探索 2 グループ 課長
西野公祥   川崎重工業株式会社 マーケティング本部 MD プロジェクト部 基幹職
畠賢一郎   株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング 常務取締役 事業開発室長
平澤真也   日本エアーテック株式会社 代表取締役社長
水谷 学   独立行政法人科学技術振興機構 FIRST 岡野プロジェクト 技術コーディネータ
山本 宏   パナソニックヘルスケア株式会社 メディカルシステムビジネスユニット バイオメディカ統括グループ 
       システム設計グループ 再生医療システムチーム チームリーダー(参事)

報告書(PDF)

2015-E-RE-032-H25-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

(再生医療等製品) 自家培養軟骨「ジャック」(JTEC) 日本申請日:2009年8月24日、日本承認日:2012年7月27日   (再生医療等製品) ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」(テルモ㈱) 日本申請日:2014年10月30日、日本承認日:2015年9月18日  

承認済み製品(海外)

製品開発状況

iPS細胞,軟骨再生(京大、旭化成)

(再生医療等製品)
口唇口蓋裂における鼻変形に対するインプラント型再生軟骨の開発(東大,富士ソフト)
日本申請日:2018年6月14日

角膜上皮幹細胞疲弊症に対する他家iPS細胞由来角膜上皮細胞シート(阪大)
first-in-human臨床研究中

iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発(阪大)

自家歯根膜細胞シートによる歯周組織再生(東京女子医)

滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来RPEシート移植(理研)

滲出型加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植(神戸市立医療センター中央市民病院)

製品に関連する規格:ISO 13019:2018

Horizon Scanning Report