ヒト細胞培養工程の操作手順変更における互換性確認に関するガイドライン2015

ガイドラインID 2015-E-RE-033
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療分野 ヒト細胞製造システム開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2015-E-RE-033 ヒト細胞培養工程の操作手順変更における互換性確認に関するガイドライン2015

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1. 総則

1.1 目的
本ガイドライン(手引き)は、施設変更や培養加工装置等の導入により、操作手順が変更された場合に考慮すべき最終製品への影響に対する互換性評価と、その検証方法について、ヒト細胞・組織加工業者、および、培養加工装置の製造業者に基本的かつ標準的な考え方を示すことにより、ヒト細胞・組織加工製品の品質を確保することの一助となることを目的とする。

1.2 適用範囲
本ガイドライン(手引き)は、ヒト細胞・組織加工製品の製造工程の全部あるいは一部に培養加工装置などの導入を行った場合を含め、細胞・組織加工の操作手順変更を実施する製造工程全般に対して適用する。本ガイドラインにおける手順変更とは、主に細胞・組織加工施設での設計適格性確認(DQ)より、据付時適格性確認(IQ)、運転時適格性確認(OQ)、性能適格性確認(PQ)までにおける互換性を想定したものである。培養加工装置等開発における個別の DQ から機器適格性確認までの互換性については、「ヒト細胞培養加工装置についての設計ガイドライン」等を参照のこと。
なお、本ガイドライン(手引き)は操作手順変更において生じる製品への影響に対し、互換性を評価する基本指針であり、本ガイドラインでの互換性確認のみを以って細胞・組織加工製品(最終製品)の品質の同一性を担保することはできない。同一性確認には、別途、最終製品の品質規格への適合を確認する必要がある。また、本ガイドラインで適用される互換性は、医師法/医療法下で治療(臨床研究)として使用されるロットを構成しない自己細胞由来細胞・組織加工製品を対象に考慮したものであり、ロットを構成し、受入規格値および性能が均一かつ明確な原料を用いることができる細胞・組織加工製品では、妥当性を有する評価手順と試験方法により確認されることが望まれる。

GL:本体

2. ヒト細胞・組織培養工程の互換性評価の基本的な考え方
培養加工装置の導入を含む、操作手順の変更に当たっては具体的な検証が必要となるが、その検証を設計する際の基本となる考え方を以下に示す。操作手順の互換性の評価に先立ち、下記項目については十分に考慮を行い、予め互換性の有無について検討することが肝要となる。

2. 1 製造環境の変更に伴う操作手順変更による間接的な影響による事項
培養加工装置の導入により生じる製造環境の変化により、細胞・組織加工製品には種々の影響が生じる可能性がある。しかしながら、これらについては多くの製造施設での軽微な手順変更と同様の互換性評価で対応できると考えられる。以下にその例を示す。

2. 1. 1 施設変更による影響
施設変更による環境変化から生じる影響も考慮が必要となる。例えば、施設周辺の交通状況等による振動源の変化や、床質の変更(特に、フリーアクセスフロア等)に伴う培養機器への振動等の影響については確認が必要と考えられる。また、周辺環境の温湿度の変更について、作業所内への影響が遮断されているかを確認することが望ましい。

2. 1. 2 設備・機器等のレイアウト変更による影響
培養加工装置の導入によるアイソレータの導入や、培養機器等のレイアウト変更の際には、各操作間の動線が変更されることが予想される。例えば、炭酸ガスインキュベータから無菌空間までの移動距離(時間)の変更により培地温度、pH等の変化が細胞・組織に影響を与えることが考えられる。

2. 1. 3 設備・機器等の変更による影響
培養加工装置の導入による装置・機器の変更により、これまで生じていなかった影響が生じることが考えられる。例えば、変更した機器等が発する微細な振動が近接に設置された炭酸ガスインキュベータ内で培養する細胞・組織に与える影響や、無菌空間における風量や風向等の変更によって、細胞・組織の環境(培地温度、pH 等)変化が生じることが考えられる。

2. 2 実作業の操作手順変更による直接的な影響による事項
例えば、培養加工装置の導入により、これまで人的作業で行われていた培養操作がマニピュレータ等による自動操作に変更された場合、たとえ手作業と同じ培養操作を行っていても、細胞・組織加工製品に与える影響については一定の互換性評価を行う必要があると考える。具体的には、手作業における作業者間の差異を許容するために教育訓練が必要になるのと同様に、変更によって生じる差異が許容範囲内であり、互換性があることの確認が必要となる。以下にその例を示す。

2. 2. 1 操作手順の変更による個別の操作時間の増減による影響
培養操作の操作手順変更により、ピペッタでのチップ交換時間や、試薬・培地の吸引から注液までの時間、作業間の待機時間等に変更が生じていれば、結果として作業時間の増減が生じる。そのため、これらの結果が細胞・組織に与える影響を評価することが必要となる。このとき具体的に考慮を要すると考えるのは、総作業時間のうち細胞・組織に対して影響が生じると評価できる一連の作業の間であり、本ガイドラインで議論される操作時間の変更に含まれない工程変更の範囲もあると考える。

2. 2. 2 資材・試薬の自動操作による影響
これまで人的作業で行われていた培養操作における、培養中の細胞・組織を含む容器の移動速度や加速度変化、容器への培地の注液速度の変化が細胞・組織に与える影響を評価することが必要となる。

2. 3 細胞・組織が直接触れる容器等の変更を含む操作手順変更による直接的な影響
培養加工装置の導入により、新たに培養器材等を開発した場合、材質、培養面積、気密性などの変更が細胞・組織に与える影響が考えられる。特に加工(培養)に用いられる容器(培養皿等)の場合、SOP を含め工程は大きく変更されるものと考えられ、互換性等に与える影響は大きいと予想されるため、詳細な評価が求められる。

2. 3. 1 細胞・組織加工に用いる容器等の変更による影響
容器等の材質や形状の変更により、細胞・組織の増殖や分化の速度や効率等への影響を評価することが必要となる。容器の変更には、例えば、開放系容器を高いガスバリア性能を有する閉鎖系容器へ変更するような大幅な培養条件の最適化を伴うものだけではなく、市販の培養容器の(主たる材質や形状の変化を伴わない)製造者を変更するような軽微なものまで考慮される。

2. 3. 2 加工とみなさない処理に用いる容器等の変更による影響
容器等の材質や形状の変更により、回収される細胞・組織の収率・比率、生存率等への影響が挙げられる。容器等にはピペットや刃物など原料を扱う道具類を含め、変更の影響を評価することが必要となる。

3.参考
・平成 24 年 9 月 7 日付け薬食発 0907 第 2 号「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」
・平成 20 年 2 月 8 日付け薬食発第 0208003 号「ヒト(自己)由来細胞や組織を加工した医薬品または医療機器の品質及び安全性の確保について」
・平成 13 年 11 月 2 日付け医薬発第 1200 号「原薬 GMP のガイドラインについて」
・JIS T0841-2:2009「第 2 部:成形,シール及び組立プロセスのバリデーション」

4 用語解説
本ガイドラインにおける用語の定義は次に掲げる通りとする。

4.1 培養加工
疾患の治療や組織の修復又は再建を目的として、細胞・組織の人為的な増殖・分化、細胞の株化、細胞の活性化等を目的とした薬剤処理、生物学的特性改変、非細胞成分との組み合わせ又は遺伝子工学的改変等を施す「細胞・組織の加工」を指す。組織の分離、組織の細切、細胞の分離、特定細胞の単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍、解凍等は加工とみなさない。(薬食発0902号「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」参照。)

4.2 培養工程
加工に加え、組織の分離、組織の細切、細胞の分離、特定細胞の単離、抗生物質による処理、洗浄、ガンマ線等による滅菌、冷凍、解凍等、当該細胞・組織の本来の性質を改変しない操作を含む行為で、最終製品であるヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等を出荷するまでに行う行為である「製造」を指す。(薬食発0907第2号「ヒト(自己)体性幹細胞加工医薬品等の品質及び安全性の確保について」参照。)
培養工程には、環境(温度、湿度、ガス)維持、刺激付加、培地成分供給、製造・品質管理(培地成分分析や細胞・組織観察)、細胞・組織回収、1次包装、品質評価(出荷検査)などが含まれる。

4.3 ヒト細胞培養加工装置
ヒト細胞・組織の加工に対し、培養系内にて培養工程の一部又は全部を支援する装置。

4.4 ヒト細胞自動培養加工装置
ヒト細胞・組織の加工に対し、培養系内にて培養工程の一部又は,全部を自動操作する装置。

4.5 培養容器
培養系を構成する容器。

4.6 適格性確認(評価)
細胞・組織加工施設等での品質マネジメントでは、プロセスバリデーションの作業を始める前に、重要な装置および付帯設備の適格性を確認する必要がある。適格性確認は、通常、以下の作業を個々に、又は組み合わせて実施する。
設計適格性確認(Design Qualification: DQ):
施設の装置およびシステムの設計が目的とする用途に適切であることの確認据付時適格性確認(Installation Qualification: IQ):
施設に据付けまたは改良した装置又はシステムが、個別にて承認を受けた設計要求と整合することの確認
運転時適格性確認(Operational Qualification: OQ):
施設内の全ての装置およびシステムが連携し、設計要求の範囲内で意図したように運転できることの確認
性能適格性確認(Performance Qualification: PQ):
施設内の全ての装置およびシステムが、承認された製造方法および規格の範囲内で、実際に適正かつ再現性よく機能することの確認

Qualification は、原薬 GMP のガイドラインでは「適格性評価」と記載されるが、日本工業規格における日本語用語(JIS 用語データ 4647A)に従い、「適格性確認」とした。

GL:付属資料

(参考資料)
ロットを構成しない自己細胞由来加工製品の最終製品の品質規格への適合の考え方

施設変更や培養加工装置等の導入により、定められた操作手順が変更された場合、操作手順変更前の製品と、変更後の製品の特性を評価することにより、互換性の検証が行われる。ここでは、医師法/医療法下で治療(臨床研究)として使用されるロットを構成しない自己細胞由来細胞・組織加工製品を対象に、本ガイドラインの考え方に基づいた具体的な検証方法の例を示すことで、微細な変更にかかる互換性確認時の一助となることを期待する。

1. 互換性確認の考え方
細胞・組織加工製品の互換性は、新旧の操作手順において製造された製品の品質について、あらかじめ定められた検討項目の比較において行う。この時、検討項目には前述の評価に基づく重みづけが反映され、検討可能な項目として定められていなければならない。
ただし既に製品標準書が定まっている場合、標準書における最終製品の品質管理に記載された項目は、必須検討項目となる。

2. 互換性確認のための製造試験方法
ロットを構成しない自己細胞由来細胞・組織加工製品においては、原料である細胞・組織の品質にばらつきが生じると考えられる。このため新旧の操作手順における製造試験は、新旧同一の細胞・組織を分割して用い、同時平行で実施されるのが望ましい。ただし、製造試験において実際の製品の原料に相当する細胞・組織を入手することは困難であると予想されるため、株細胞の利用やヘルシーボランティアドナーの協力を仰ぐなど、製品の特性上近しい品質を保持した細胞を用いることは可と考える。また比較試験数は3系列以上とし、系列は可能な限り品質の異なる(ドナーの異なる)細胞で行う。

3. 評価判定の考え方
新旧の操作手順において、製造された製品の品質のばらつきが、異なる系列の間に生じるばらつきと同程度、またはそれ以下と判断できるときに作業の互換性を認める。

4. 検討項目の例
考えうる検討項目としては、定められた出荷時の製品規格以外に、インプロセスコントロールとして製造時に測定している数値、また工程バリデーション実施時に検討を行い、既得データが揃っている項目などが挙げられる。表1にその例をまとめる。




表 1.操作手順の変更による互換性確認時に設定する項目の例

引用関連規格

(参考資料)
ロットを構成しない自己細胞由来加工製品の最終製品の品質規格への適合の考え方

施設変更や培養加工装置等の導入により、定められた操作手順が変更された場合、操作手順変更前の製品と、変更後の製品の特性を評価することにより、互換性の検証が行われる。ここでは、医師法/医療法下で治療(臨床研究)として使用されるロットを構成しない自己細胞由来細胞・組織加工製品を対象に、本ガイドラインの考え方に基づいた具体的な検証方法の例を示すことで、微細な変更にかかる互換性確認時の一助となることを期待する。

1. 互換性確認の考え方
細胞・組織加工製品の互換性は、新旧の操作手順において製造された製品の品質について、あらかじめ定められた検討項目の比較において行う。この時、検討項目には前述の評価に基づく重みづけが反映され、検討可能な項目として定められていなければならない。
ただし既に製品標準書が定まっている場合、標準書における最終製品の品質管理に記載された項目は、必須検討項目となる。

2. 互換性確認のための製造試験方法
ロットを構成しない自己細胞由来細胞・組織加工製品においては、原料である細胞・組織の品質にばらつきが生じると考えられる。このため新旧の操作手順における製造試験は、新旧同一の細胞・組織を分割して用い、同時平行で実施されるのが望ましい。ただし、製造試験において実際の製品の原料に相当する細胞・組織を入手することは困難であると予想されるため、株細胞の利用やヘルシーボランティアドナーの協力を仰ぐなど、製品の特性上近しい品質を保持した細胞を用いることは可と考える。また比較試験数は3系列以上とし、系列は可能な限り品質の異なる(ドナーの異なる)細胞で行う。

3. 評価判定の考え方
新旧の操作手順において、製造された製品の品質のばらつきが、異なる系列の間に生じるばらつきと同程度、またはそれ以下と判断できるときに作業の互換性を認める。

4. 検討項目の例
考えうる検討項目としては、定められた出荷時の製品規格以外に、インプロセスコントロールとして製造時に測定している数値、また工程バリデーション実施時に検討を行い、既得データが揃っている項目などが挙げられる。表1にその例をまとめる。




表 1.操作手順の変更による互換性確認時に設定する項目の例

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 浅野 茂隆 早稲田大学 招聘研究教授
牛田多加志  東京大学大学院 医学系研究科 疾患生命工学センター 教授
梅澤明弘   国立成育医療研究センター再生医療センター センター長
菊池明彦   東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 教授
紀ノ岡正博  大阪大学大学院 工学研究科 教授
小久保護   澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
小寺良尚   愛知医科大学 医学部 造血細胞移植振興寄附講座 教授
髙木 睦   北海道大学大学院 工学研究院 教授
田村知明   オリンパス株式会社 医療技術開発本部 医療探索部 探索 2 グループ 課長
西野公祥   川崎重工業株式会社 マーケティング本部 MD プロジェクト部 基幹職
畠賢一郎   株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング 常務取締役 事業開発室長
平澤真也   日本エアーテック株式会社 代表取締役社長
水谷 学   独立行政法人科学技術振興機構 FIRST 岡野プロジェクト 技術コーディネータ
山本 宏   パナソニックヘルスケア株式会社 メディカルシステムビジネスユニット バイオメディカ統括グループ 
       システム設計グループ 再生医療システムチーム チームリーダー(参事)

報告書(PDF)

2015-E-RE-033-H25-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

(再生医療等製品) 自家培養軟骨「ジャック」(JTEC) 日本申請日:2009年8月24日、日本承認日:2012年7月27日   (再生医療等製品) ヒト(自己)骨格筋由来細胞シート「ハートシート」(テルモ㈱) 日本申請日:2014年10月30日、日本承認日:2015年9月18日  

承認済み製品(海外)

製品開発状況

iPS細胞,軟骨再生(京大、旭化成)

(再生医療等製品)
口唇口蓋裂における鼻変形に対するインプラント型再生軟骨の開発(東大,富士ソフト)
日本申請日:2018年6月14日

角膜上皮幹細胞疲弊症に対する他家iPS細胞由来角膜上皮細胞シート(阪大)
first-in-human臨床研究中

iPS細胞を用いた角膜再生治療法の開発(阪大)

自家歯根膜細胞シートによる歯周組織再生(東京女子医)

滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来RPEシート移植(理研)

滲出型加齢黄斑変性に対する他家iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植(神戸市立医療センター中央市民病院)

製品に関連する規格:ISO 13019:2018

Horizon Scanning Report