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2. 用語の定義
2.1 プラズマ (plasma)
一般に、プラズマとは、多様な圧力環境において空間中の原子、分子が電離し、イオン、電子、活性粒子、中性粒子、光などから構成され、電気的に準中性の状態として定義される。(国際規格案では、ionized gas と称されるが、その内容は同じである。)
2.2 プラズマフレアー (plasma flare)
装置から被照射物まで視認(もしくは可視化)することが可能なプラズマ発光領域。
【解説】 当該機器においては、組織損傷が軽微でマイルドな血液凝固・止血用のプラズマ流であり、放電用ガスとともに移送される。当該機器は、プラズマフレアーを発生させ、低侵襲な止血を行う物質併用型電気手術器として利用される。
2.3 止血(Haemostasis)
プラズマを用いて、生体組織の毛細血管及び同様な小さな血管からの出血を止めること、ないしは出血を抑えること。
【解説】 止血について、高周波凝固装置では Coagulation という用語を用い、熱の効果を引き起こす高周波電流の使用とあり、止血制御のために組織の挫滅を引き起こすと定義されている。一方で、当該装置では低温プラズマを用いており低侵襲であるため、Haemostasis という用語を使用し区別している。
2.4 低温プラズマを活用した低侵襲プラズマ
恒星(太陽等)、核融合プラズマ、プラズマ溶射、アーク放電、雷などのように、電子温度のみではなく、イオン温度も数千度以上の高温な状態となっている高温プラズマに対して、蛍光灯、プロセスプラズマ、プラズマテレビなどのように、電子の温度は1万度程度以上であるが、イオンの温度や中性粒子の温度が電子温度に比べて低い状態(数千度以下から常温程度)になっているプラズマを低温プラズマとして一般に定義される。特に、前述のプラズマフレアーが人体に触れても焼灼・挫滅などを生じさせないエネルギーが低い低温プラズマを低侵襲プラズマ(minimally invasive plasma)と定義する。一方、短時間(例えば、1 マイクロ秒以下)でも、1 アンペア程度以上の電流が、電圧とほぼ同位相で流れる状態で放電が生じるプラズマを、ここでは高エネルギープラズマと定義するが、本ガイドラインの範疇に含まれない。
2.5 外科手術用及び内視鏡下手術用(体腔鏡下手術で使用される)低侵襲プラズマ止血装置
ガス流とともに生成されるプラズマフレアーを、止血の必要な部位へ照射処置する外科手術用の低侵襲プラズマ医療機器である。
【解説】 生体組織における止血の目的で装置は使用され、漏れ電流が20 mA、ないしはそれ以下に制限される。
2.6 構成装置の定義
当該装置は、コントロールユニット及びプラズマアクセサリー(ハンドピースユニットを含む)、から構成される。その構成例を図1に示す。
【解説】 ハンドピースユニットの形状等は、外科手術用及び内視鏡下手術用(体腔鏡下手術に使用される)場合それぞれに対して、適合するように製作される。
図1.外科手術用及び内視鏡下手術用(体腔鏡下手術に使用される)低侵襲プラズマ止血装置例
・コントロールユニット (control unit)
ガスの流量、出力電圧を調整する装置。AC入力系、絶縁トランス、1次電源、フローメーター、ガス弁、フットスイッチ、表示モニターなどから構成される。ガスは、別置きのガスボンベ、レギュレーター、ガス配管から構成される。2次電源が含まれる場合もある。
・プラズマアクセサリー(Ionized gas accessory)
プラズマを生成・維持し、血液にプラズマフレアーをガスと共に移送する手持ちのユニット。一般に、ハンドピースユニットガスパイプ、2次電源、プラズマ生成・射出部から構成される。また、コントロールユニットとハンドピースユニットをつなぐ構成物である1次電源出力ケーブル、ガスパイプも含まれる。2次電源がコントロールユニットに含まれる場合は、1次電源出力ケーブルのかわりに2次電源出力ケーブルが構成物となる。
プラズマアクセサリーは、シングルユースを想定している。シングルユースの場合は、図2の記号を表示しなければならない。(ISO 15223-1: Medical devices — Symbols to be used with medical device labels, labelling and information to be supplied — Part 1: General requirements参照のこと。)
図2.シングルユースを意味する記号
2.7 基本性能(Essential performance)
医療機器としての安全性を確保するために必要とされる性能。基本性能の考え方や事例理解には、医用電気機器に関する国際規格IEC 60601-1(JIS T 0601-1)を参照すること。
【解説】 設計・開発・製造業者が、リスクマネジメントにより、必要に応じて考慮すること。
2.8 一般性能
医療機器を設計・開発時に想定した温度、気圧、電磁場といった外部環境下で動作させたときに得られる性能。一般性能基準は、許容されないリスクをもたらさない範囲で設定される。
2.9 ME (Medical Electrical)機器
電気電子、機械、ソフトウェア要素から構成される医用電気機器 (Medical Electrical Equipment)。
【解説】 国際規格IEC 60601-1では次のように定義されており、本装置もこれに分類される。
「医用電気機器 (MEDICAL ELECTRICAL EQUIPMENT)とは、装着部をもつか、患者へエネルギーを与えるか、又は患者からのエネルギーを受けるか、若しくは患者への又は患者からのこのようなエネルギーを検知する電気機器。」
3. 装置の構成要素に関する検証の際に要求される事項
3.1 プラズマアクセサリー
外科手術用及び内視鏡下手術用(体腔鏡下手術で使用される)低侵襲プラズマ止血装置のプラズマフレアーの特性を計測することが求められる。(例えば、プラズマフレアー電流値の時間変化情報。リード線の直流抵抗を測定。ガスの漏れは流速などから検知。)
ハンドピースユニットの接続コードに関して、過度な張力及び屈曲に対して安全性を確保するためには、次のような屈曲試験が要求される。プラズマを作る高電圧を含むハンドピース及びコネクター部でのコード又はチューブの固定が確実になされているか、±45度の屈曲を与えダメージがないかどうか確認する。ディスポーザブルのプラズマアクセサリーの場合、屈曲の回数はハンドピース側のコード及びチューブは200回、コネクター側は100回に耐えること。
指標の例は、IEC 60601-2-2(JIS T 0601-2-2)201.8.10.4.2に記載があるので、本ガイドラインではこれを参照することが望ましい。
取扱説明書等に製造販売業者が明示する関連仕様及び特性は、これらの結果に一致すること。
体腔内手術に使用される内視鏡下手術用のハンドピースユニットは、図1の形状とは異なるため、「4.1.形状、外装、ケーシング及び表示に関する事項」を参照すること。
3.2 コントロールユニット
止血に用いる出力設定については、装置の意図する適用部位等に依存するので、装置の用途等により一概に定めることはできない。動物による安全性試験、有効性試験等の結果、文献などを利用して決めること。出力設定値は、取扱説明書に記述すること。
4. 一般的要求事項
4.1 形状、外装、ケーシング及び表示に関する事項
各端部のバリの除去に注意する。液体(水、血液等)による電子機器への影響がないようにシーリングしてあることが望ましい。形状、外装、ケーシングに関して、安全性を確保するための指標の例は、IEC 60601-1(JIS T 0601-1) (11.6.3)、及び(11.6.5)に記述されているので、これを参照すること。
体腔内に挿入する部分は、鉗子類挿入のための管状のルート(トラカール)として、適合する径であること。
体腔内で人体に触れる部分は生体適合性(ISO 10993-1、又はJIS T 0993-1)を満たすこと。
体腔内での使用時に変形した場合でも出力特性が変化しないこと、また破損しないこと。
警告文について、取り扱い説明には、体腔内で使う際の警告を示すこと。例えば、危険な使用になることがある場合は、注意事項を記載する。
【解説】
a)取扱説明書には、既知の禁忌事項の記載はもちろんであるが、少なくとも「動脈圧での血液の流れに対しての使用を意図していない」ことを記述していなければならない。また、プラズマアクセサリーの定格を超えるような出力設定をしないように、操作者へ助言をすること。
b)取扱説明書の警告として、ペースメーカの動作に障害またはダメージを起こすハザードがあり得る場合は、その旨を記載すること。
c)最大設定電圧を技術文書に記述すること。
4.2 電気的安全性に関する事項
外科手術用及び内視鏡下手術用(体腔鏡下手術で使用される)低侵襲プラズマ止血装置の電源を含むシステム全体の電気的安全性は、例えば、IEC 60601-1( JIS T 0601-1)、及び「6. 安全性評価試験」に示された内容や指標に合致させることを目標とする。「電気を原因とする患者への危害からの保護」については、IEC 60601-1(JIS T 0601-1)(8.7及び8.8)に記述されている漏れ電流の程度、電極リードの絶縁耐久性についての指標を、本ガイドラインでは達成すべき目標の例として提示する。電撃を防止するため、内部電源、クラスⅠ又はクラスⅡ機器に適合すること。また、装着部はBF型又はCF型に適合すること。
他の電気手術器、例えば高周波凝固装置等と併用する場合には、電磁ノイズによる影響などを受けないよう留意すべきである。
また、患者又は操作者の保護のためには、高周波漏れ電流、高周波耐電圧及び電源周波数耐電圧に関するIEC 60601-1( JIS T 0601-1)の要求事項を、本ガイドラインでは達成すべき目標例として提示する。
ただし、高周波回路を有するハンドピースユニットの電気的安全性においては、IEC 60601-1( JIS T 0601-1)(8.8)に従わなくともよい。
体腔内に挿入する部分は、患者保護のため絶縁特性は、基本的に IEC 60601-1( JIS T 0601-1)、又は IEC 60601-2-2(JIS T 0601-2-2)に適合すること。
4.2.1 出力されるプラズマフレアーの評価
外科手術用及び内視鏡下手術用(体腔鏡下手術で使用される)低侵襲プラズマ止血装置から出力されるプラズマフレアーの電流値、プラズマ放電用高電圧電源の出力電圧、及び時間平均電力値の仕様を明確にしておくことが望ましい。つまり、基本的安全性の評価として、設定値に対して出力される2次電源の出力電圧、及びプラズマフレアーの出力電流などを検出することで、評価を行うことが望ましい。製造業者が意図しない臨床現場での使用、例えば積算の処置使用時間以上の使用が発生する可能性を考慮し、積算の処置使用時間以上の使用となったプラズマ照射装置の構成部材についても、その耐久性について検討しておくことが望ましい。また、プラズマフレアーの開始特性、維持特性も合わせて評価することが望ましい。
【解説】 開発したプラズマ機器の電気的な安全性の評価として、次の項目の計測を行い明示する必要がある。2次電源(プラズマ放電用高電圧電源)の出力電圧の計測。更に、出力電流実効値、出力電圧実効値、及び時間平均電力値を表示することが可能なシステムとすることが望ましい。プラズマフレアーの出力電流実効値に関しては、例えばIEC 60601-1(JIS T 0601-1)8.7に適合していることを確認し明示することが望ましい。時間平均電力値に関しては、設定出力値との相関関係を開発評価書、リスクマネジメントファイル(第5章参照)などに明示することが望ましい。
プラズマを発生させるための放電方式を明示するとともに、局所組織の熱損傷や電撃損傷を軽減できることを、因果関係を持って仕様書などに記述することを、本ガイドラインは提案する。もしくは、処置により局所組織の熱損傷や電撃損傷を生じるリスクがあるならば、その旨取扱注意事項として仕様書などに記述することを本ガイドラインは推奨する。
4.2.2 許容される漏れ電流と測定
漏れ電流に対する要求事項は、以下の項目を除いて、基本的にはIEC 60601-1( JIS T 0601-1)の要求事項が適用される。
a) プラズマフレアーから人体への高周波漏れ電流人体への漏れ電流は、一般には高周波数帯には高い許容値が許容される。そのため、プラズマフレアーから人体を通して流れる高周波漏れ電流は、プラズマを生成する電源周波数により、ここでは以下のように規定する。
i) 電源周波数が30 kHz以上の場合
プラズマフレアーから患者を通して流れる高周波漏れ電流は、20 mA (RMS)以下となるよう設計しなければならない。本装置は、プラズマフレアーによって患者に導電接続されるため、測定は、ハンドピースからプラズマフレアーを銅板(100 mm × 100 mm × 1 mm)に照射し、200Ωを接続し、高周波電流計にて行う(図3参照)。高周波電流計は、少なくとも30 kHzから20 MHzの帯域で使用可能な機器を使用すること。
図3.200Ω抵抗を用いたプラズマフレアーから患者へ流れる高周波漏れ電流計測例
ii) 電源周波数が30 kHz未満の場合
IEC 60601-1ではDC~1 kHzの患者漏れ電流許容値が規定されている。30 kHz未満の場合、IEC 60601-1に適合すること。本装置は、プラズマフレアーによって患者に導電接続されるため、測定は、ハンドピースからプラズマフレアーを銅板(100 mm × 100 mm × 1 mm)に照射し、MD(Measuring Device;測定用器具)を接続して電流を計測する。(図4参照)。
図4.MDを用いたプラズマフレアーから患者へ流れる漏れ電流計測例
b) プラズマアクセサリーからの高周波漏れ電流
プラズマを発生させる高周波回路がハンドピース内に設置され、この時電磁気的シールドが施されていない場合は、当該ハンドピースからの高周波漏れ電流の計測が求められる。また、プラズマを発生させる高周波回路がコントロールユニットに設置されている場合、ケーブルによりハンドピースに電力が供給される。この時ケーブルからの高周波漏れ電流の計測が求められる。
計測方法としては、ケーブル及びハンドピース全体にわたって0.9 %の生理食塩水に浸した布で覆い、中間部に10 cmの幅で金属箔を巻き、その金属箔に200Ωを接続し、高周波電流計をつないで接地する。設定を最大出力として、プラズマフレアーを発生した時の電流を計測する(図5参照)。
プラズマアクセサリーからの高周波漏れ電流は、20 mA (RMS)以下を目安とする。
プラズマアクセサリーの内、コントロールユニットとハンドピースユニットをつなぐ構成物である電源出力ケーブルにAC電力が供給される場合は、当該ケーブルとして同軸線を用いること。ただし、ハンドピースに設置されている放電用の電極が人体に対して露出している場合は、本ガイドラインでは扱わない(IEC 60601-2-2 (JIS 0601-2-2)を参照のこと)。
図5.プラズマアクセサリーからの高周波漏れ電流計測例
4.2.3 接触を保護する沿面・空間距離
高周波回路を有するハンドピースユニットの電気的安全性においては、電気的神経刺激は周波数依存性を持つため、接触を保護する沿面・空間距離はプラズマを生成する電源周波数に応じて以下のように規定する。
i) 電源周波数が1 kHz以下の場合
IEC 60601-1(8.8)に示された事項に適合すること。
ii) 電源周波数が1 kHzを超え、200 kHz未満の場合
接触を保護する沿面距離は、以下の2つのどちらか大きい値が要求される。ただしfは電源周波数を示し、単位はkHzである。
数式
また、空間距離も同様に、以下の2つのどちらか大きい値が要求される。
数式
iii) 電源周波数が200 kHz以上の場合
接触を保護する沿面・空間距離が3 mm/kV、又は4 mmの二つのどちらか大きい値が要求される。
4.3 電磁環境に関する事項
電磁環境に関しては、IEC 60601-1-2(JIS T 0601-1-2)に示された事項・指標を、適合の目標例として本ガイドラインでは提示する。
4.4 機械的安全性に関する事項
機械的安全性に関しては、ハンドピースユニットの落下に対する電気ケーブル、ガス管の強度など、IEC 60601-1(JIS T 0601-1)に示された事項と指標を、達成すべき目標例とする。
外装についてはテストフィンガ、テストフック、テストピンなどについて設定されている事項を達成すべき指標の例として、機械的ハザードに対しては衝撃試験などに設定された規格要求事項を適合目標の例として、本ガイドラインでは提示する。
4.5 熱的安全性に関する事項
熱的安全性に関しては、IEC 60601-1(JIS T 0601-1)(11.1)に記載された検討とその指標を、達成すべき目標例として提示する。機器によって引き起こされる意図しない結果に対する防止・保護は、予測可能な範囲において考慮しなければならない。
当該機器の装着部は患者に熱を供給することを意図したものではないため、プラズマフレアーによって生ずる熱は、48℃以下になるよう設計しなければならない。
温度の計測にあたっては、Kタイプ熱電対を銅板(100 mmx100 mmx1 ㎜)中心部に熱伝導率 4.5 W/mk以下のグリースを使って取り付ける。プラズマフレアーを熱電対とは反対側の銅板の中心に10分間照射した際の温度を計測し、最も高い温度を記録する(図6参照)。
図6.プラズマフレアーからの温度計測例
4.6 アラーム
電圧の設定値、電流の設定値、ガスの設定流量からの差異をモニターすることで、設定値を越えた場合に、モニター表示もしくはランプなどで警告することが求められる。各種ケーブル、ガス配管が抜けた場合には警告すること。基本的な要求事項は、IEC 60601-1-8(JIS T 60601-1-8)の記載内容と指標を達成すべき目標の例として、提示する。ただし、警告は最終手段であり、設定値を越えないように、また、ケーブル及び配管などが抜けないように設計するなどの防護対策を行うこと。
4.7 ソフトウェア
ソフトウェアを使用する場合、プログラマブル電気医用システム(PEMS)として開発・品質管理工程に導入することが望ましいことから、本ガイドラインは、例えばIEC 62304 (Medical device software – Software lifecycle processes) (JIS T 2304)に示された事項と指標を達成すべき目標の例として提示する。
4.8 装置の意図しない動作からの保護
装置の設計には、意図的ではない変化からの電気的出力パルス特性の保護(出力制限機能等)を含まなければならない。
4.9 安定性・耐久性、洗浄・滅菌
4.9.1. 安定性・耐久性
機器の開発段階では、消耗・汚損する部位の耐用期限の設定について、設計段階から検討すること。
【解説】 積算の処置使用時間の耐久性シングルユースのハンドピースの最長の連続使用時間の設定について、なぜその値に設定時間を指定したかの理由を開発評価書、リスクマネジメントファイル(第5章参照)などに記述するとともに、装置耐久性試験方法と結果について仕様書などに記述すること。
例えば、装着するボンベを使い切る時間を最大連続運転時間とした場合、その理由とハンドピースが損耗していないことを示す耐久性試験方法と結果を仕様書などに記述する。
4.9.2. 洗浄・滅菌性
プラズマアクセサリー(ハンドピースユニットを含む)は包装を行った後、エチレンオキサイドガス、オートクレーブ、放射線滅菌などによる滅菌を行うこと。どのような滅菌を行ったのか、及び滅菌の有効期限を表示すること。
体腔内に挿入する部分の滅菌に関しては、出荷時の滅菌、及び用時滅菌について明確にすること。
滅菌に関しては、次の図記号を使うこと。(ISO 15223-1の表記を参照。)
表1.滅菌に関する記号
【解説】
滅菌は、「滅菌バリデーション基準の制定について」(平成26年12月18日付け薬食監麻発1218 第4号厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課長通知)に基づき、各種滅菌方法で指定しているJIS規格又はこれと同等以上の規格・基準により実施すること。用時滅菌については、滅菌時のパラメータ、使用後の洗浄方法を明確にすること。
4.10 機器への液体のこぼれ
機器への液体のこぼれに関しては、例えば、IEC 60601-2-2(JIS T 0601-2-2) 201.11.6.3 に記述された内容を、達成すべき目標・指標とすることを提示する。例えば、1 リットルの水を 15 秒間かけ適合性を調べる事項が記されている。これらに示された要件を満たすことで、液体のこぼれによって液体が電気的絶縁又は他の部品を濡らした場合でも、機器の外装は安全性に悪影響を及ぼさない構造を担保する指標となる。
4.11 構成部材の生物学的安全性評価
構成部材の生物学的安全性評価に関しては、ISO 10993-1(JIS T 0993-1)の規定に従って実施する。装着部(Applied part)に用いられる構成部材(表面修飾剤を含む)の安全性について、実施した評価試験の結果等は、開発評価書、リスクマネジメントファイル等に記述することが適切である。
4.12 体腔内圧力制御
体腔内手術用に使われる場合は、次の項目を明確にしておくこと。
ガス気腹装置は、圧力が急激な変化をきたさないように自動気腹圧調節システムにより炭酸ガスが供給され、一定圧力が維持されること。
更に、プラズマ源からヘリウム、アルゴン等のガスの導入がある場合は、自動気腹圧調節システムにより一定圧力に制御可能であること。ヘリウム、アルゴン等のガスの流量は、5.0 l/min以上は想定していない。
5. リスクマネジメント
機器の研究開発者の行うリスクマネジメントに関する基本事項は、例えば、ISO 14971(JIS T 14971)に記載された内容に適合することが望ましい。ISO14971(JIS T 14971) では、Annex C (附属書C)に記載された内容を参考に機器の特質を明確化し、リスク分析、リスク評価、リスクコントロールといった一連のリスクマネジメントを行うとされているので、参考となるよう以下にその一例を示す。
ハザード(危害の潜在的要因)を可能な限り明らかにし、その危害がどの程度の頻度で発生するか、どの程度のリスクをもたらすのか(重大さ、レベル)を推定する。そのリスクが許容されないと判断される場合は、対策(リスクコントロール)が求められる。具体的な対策が検討され、リスクが低減されたことを検証し、残留リスクの評価が必要となる。これら一連のリスクマネジメント活動をまとめたものが表2の例である。
表2.(a) リスクマネジメントの例、(b)リスク特定の例
【解説】 この事例でのⅠ,Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴは、リスクを受容できるかどうかのレベルを示すものであり、Ⅰ(十分に受容できる),Ⅱ(受容できる)、Ⅲ(リスクを低減することが望ましい)、 Ⅳ(受容できない)、Ⅴ(まったく受容できない)を意味する。これらの受容性のレベルは、人に対してもしくは製品に対しての被害の大小を意味し、製造業者が判断する。
第4章の製品に係る一般要求事項で述べた電気的安全性評価試験を含む全ての項目に係るリスクマネジメント、そして、第7章の品質管理では工程設計に係るリスクマネジメントを実施すること。
設計・開発時のリスクマネジメントは、設計・開発活動と一体となって実施すること。設計・開発プロセスにおいて、必要に応じてハザードを考慮し、リスクを特定する。許容できないリスクが存在すれば、その都度リスクコントロールしてより安全にしていく必要がある。
6. 使用模擬試験
実臨床における使用を想定した動物試験は、開発装置の安全性と有効性を確認することに役立つ。
適切なリファレンスサンプルやファントムを使用することによって、過去に行われた研究結果、論文等の科学的エビデンス資料との関連づけを行い、開発される装置間の安全性と性能を比較検討することが可能である。これにより、最小限の動物匹数実験となるように配慮することが望まれる。
【解説】 開発した機器の使用による性能の評価は、動物試験、病理組織学的解析、によって、血液凝固と組織障害の程度を判定することができる。例えば参考指標として、小動脈、細小動脈、毛細血管、静脈における血流量は、止血性能を想定するうえで参考になる可能性がある。創傷治癒プロセスにおける特定遺伝子の発現を検出評価することは、出血点を焼きつぶして止血するタイプの器具(総じて,エネルギーデバイスとも呼ばれる)との効能の違いを明確にするのに役立つ。特に、高周波電気凝固装置、超音波凝固装置等を使用した止血と比較し、その違いを明示することは、評価結果の理解として役立つ。
動物試験へと進む前に、in vitroでの実験を行うことが望ましい。EDTA (ethylene-diaminetetraacetic acid)などの抗凝固剤の存在があっても、プラズマ照射によって血液凝固物の生成が確認されることが、プラズマに特徴的な血液凝固であることが知られている。そこでin vitroでの実験として、EDTA採血した血液にプラズマ照射することで、血液凝固物が生成するかどうかを検討することは、開発機器の効果判定に有用である。なお、再現性の高い「プラズマ照射による血液凝固効果の判定法」の一つとして、血清アルブミンタンパクの溶解液や血清をファントムとして利用し、プラズマ照射によるタンパクの凝集(凝固)を直接、検出評価する方法をあげる。
ちなみに、クラスⅡあるいはⅢ医療機器に分類される高周波電気凝固装置、超音波凝固装置、レーザー凝固装置などについては、その基本性能が、血液凝固の程度で提示されるものではない。
7. 品質管理
意図した製品品質を達成するためには、製造ラインにおける製品を構成する原材料、製品を製造するための道具(設備や器具、試験検査装置等を含む)、製品を製造する作業者(試験検査をする作業者等を含む)、製品を製造するための方法、及び、これらを取り巻く環境(作業環境や業務運営基盤を含む)等、必要により、製品品質に影響を及ぼす管理対象を明らかにし適切に管理すること。それらの管理の程度や方法(製造条件や方法、試験検査の条件や方法等)は、それらが製品に与える影響の度合い、それらの工程の安定度合い等を検討し、具体的に決定(例えば、検査においては、全品検査を行う工程、抜取り検査を行う工程などの決定)する必要がある。
製造管理、及び品質管理の基準としては、ISO 13485、及び医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理、及び品質管理の基準に関する省令(Quality Management System (QMS)省令)を参照すること。特に、設計・開発活動においては、計画段階で品質マネジメントシステム(QMS)に基づき管理する範囲を確定すると共に、必要な管理項目や方法を明確にし、それらに基づき設計・開発に係る手順を確立(明確化、文書化、実行)し維持する必要があることに留意すること。また、実施した結果の記録を作成し保管する必要があることにも留意すること。
【解説】 製造工程において、製造されたハンドピースの安全性評価のサンプリングとして、製造個数何個あたりに1回サンプリング評価を行うか否かをそれぞれ検討した上で、必要に応じて実施することが望ましい。 |