4.評価にあたって留意すべき事項
(1)基本的事項
装置についての説明は総論に準じて行う。体内植込み型BMI装置は体内植込み部分と体外部分に大きく2つに分けられるが、そのそれぞれについて総論の記述に準ずるものとする。基本的な装置構成の例を図示する。
1)体内植込み部分
・植込み電極 ・脳信号計測装置
・ワイヤレスデータ通信装置 ・非接触充電装置
・バッテリー ・ケーブル
・ケーシング
2)体外部分治験で使用を想定する体外装置の全てについて記述すること。
・ワイヤレスデータ通信装置
・体外処理用コンピュータ(神経信号解析や外部機器制御等を行う。)
・運動機能補助・代行装置ロボットアーム、電動車いす、嚥下・咀嚼補助装置等
・意志伝達補助・代行装置
カーソル制御や文字や画像を表示することで意志伝達を補助・代行する装置等
・環境制御装置家庭電化機器等を操作する装置
(2)リスクマネジメント
原則的に総論に準じて、リスクマネジメント(JIST14971参照)及び品質マネジメント(JISQ13485又は医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理に関する省令参照)を行う。ただし、これらの規格に従うことができない可能性がある部分については、これらに準じた形でのリスクマネジメントを行うこととする。
本装置を利用する対象患者の特性をよく考慮してリスクマネジメントを行うこと。例えば本装置の対象患者は重度四肢麻痺や意志伝達困難な状態であることが想定され、重大なハザードが発生した場合に患者自身では応急対応が困難な場合があるので、リスク回避の方法やハザード発生時の復旧方法等対応可能な方法を考慮すること。また臥位や座位で利用される場合が多いことに留意し、皮膚・臓器・器官への圧迫による影響の可能性を考慮すること。
(3)非臨床試験原則的に総論に準じて行う。
申請書には、以下のinvitro評価、invivo評価を含めることとする。含めない場合には、その理由を記載することとする。
1)Invitro評価原則的に総論に準じて行う。
本装置は体内埋植部分の消費電力が大きくなることが予想される。消費電力が大きい場合には、特に以下の項目に関して十分な対策と評価を行うこと。
④エネルギー関連装置の性能、安全性、信頼性
a)体内電池を含めた電池容量、電池寿命及び再充電回数の限界の妥当性
b)電池の充放電時、経皮エネルギー伝送装置の伝送時の発熱
c)電池破裂や腐食による液漏れ等に対する安全対策
対象患者の特性を考慮し、特に総論の以下の項目に関して十分な対策と評価を行うこと。
⑤その他、装置全体に求められる性能、安全性、信頼性
a)緊急時セーフガード機構の妥当性
b)可視光及び電磁気の放射、MRI適合性
MRIに対する適合性については、植込み部分に関してのみ適用され、体外部分には適用されない。
植込み電極を利用した刺激を行わない場合、invitro評価に特に総論の以下の項目を含める必要はない。
②神経系に作用する装置部分の性能、安全性、信頼性b)治験において計画している刺激値の範囲
c)刺激方向の設定
d)パルスの各フェーズにおける注入密度、注入量、周波数、波形とduration等
③刺激制御装置の性能、安全性、信頼性a)患者の状態に応じた刺激制御機構
b)ホットスポットを含めて生体組織に火傷を与える発熱の有無c)信頼性及び安全性を確保するための具体的な対策
d)患者への負荷を計測又は推定出来るシステムの付与e)パルス制御のロジックの有無とその妥当性の確認
f)目的に応じて設定した装置制御プログラムの妥当性
但し、項目③に関しては、計測装置・体内外のデータ通信装置としての性能、安全性、信頼性を確保するため以下の項目を新たに設定する。
③’計測装置・体内外のデータ通信装置の性能、安全性、信頼性a)生体組織に火傷を与える発熱の有無
b)信頼性及び安全性を確保するための具体的な対策c)計測精度の妥当性
d)データ通信の信頼性と通信エラーが生じた際の対策
2)Invivo評価原則的に総論に準じて行う。
植込み電極を利用した刺激を行わない場合、動物試験のレポートに特に以下の項目を含める必要はない。
・刺激レベルとレート
・刺激効果確認試験
①短期試験電極に対して刺激を行わない場合、短期の電極テストを省略できる。
②長期試験原則的に総論に準じて行う。
(4)臨床試験(治験)原則的に総論に準じて行う。
治験計画書について
①基本的な事項
・対象患者に対する他の治療法との違い
現時点での代替治療法とその問題点、BMI装置の必要性は、適応疾患と症状によって異なる。運動機能を補助・代行するための器具としては車いす・杖や義手・義足・装具等は広く普及しているが、全て運動機能の一部が失われた場合の補助・代行機器であり、運動機能が完全に廃絶した場合には活用できず、またその補助・代行機能も本来の身体機能と比較すると十分でない面がある。意志伝達を補助・代行するための機器はいまだスタンダードなものはなく、筋電信号、簡易脳波、脳血流、呼気を利用したもの等種々のものが存在するが、精度や性能面で不十分である。総じて言えることは現在の代替治療法は患者のトレーニングを必要とし、本来の身体機能と比較すると劣る。
治験計画書には以上の点を踏まえて、対象患者に対する他の治療法との違いを明確に説明することが望まれる。
②治験対象、及び、③使用目的と適応条件環境制御や運動・意志伝達機能の補助・代行が必要とされる主な適応疾患を以下に列挙する。
a)筋萎縮性側索硬化症(ALS)、筋ジストロフィー等の神経筋難病b)脊髄損傷
c)切断肢
d)腕神経叢損傷等の重度末梢神経障害e)脳卒中
基本的には大脳皮質機能は大部分残存しているが、それより末梢の基底核、脊髄、末梢神経、身体の障害により大脳皮質の情報が身体に伝達されない状態が治療の対象となりうる。体内植込み型BMIの技術が初期段階では、筋萎縮性側索硬化症や脊髄損傷等により運動機能が廃絶し、身体が完全麻痺で発話もできない閉じこめ症候群の状態もしくはそれに近い状態にある患者が対象となる。技術が進歩して性能が向上すれば、障害のより軽い患者も対象となり、脊髄損傷、切断肢、腕神経叢損傷、脳卒中も漸次治療対象となると考えられる。
治験計画書には以上の点を踏まえて、目標とする装置の性能(エンドポイント)と適応基準の関係を明確に記述することが望ましい。
対象患者は意思疎通が困難な場合もある。そのような場合には治験に関する説明や治験への参加意志の確認は慎重に行うこと。(医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令第4章第4節被験者の同意を参照すること。)
④症例数と実施期間原則として治験の目的に応じた科学的な根拠がある数が求められるが、希少疾
患で十分な症例数が確保できない場合には、適応患者数と他の代替治療法に比較
して有用性が優れているという根拠を示すことが望ましい。計測安定性、習熟・訓練効果等長期留置による変化についても評価すること。
⑤エンドポイント設定原則的に総論に準じて行うが、今後急速な進歩が予想される分野であること、
適応疾患により装置構成も異なること等を考慮すると、審査時点で必要に応じて、より詳細かつ具体的なエンドポイントを設定し、その根拠を説明することが望ましい。
a)安全性原則的に総論に準じて行う。
・外部装置の安全性については個々の装置の特性を考慮して個別に評価することが望ましい。
・神経倫理学的問題の評価脳の可塑性に基づく予期せぬ脳活動の変調、及びそれに伴う副作用の有無個人の脳活動が外部に出力されることに起因する個人情報への影響や不利益
b)有効性有効性に関する諸要因(対象疾患、年齢、重症度、罹患期間等)についても検討することが望ましい。
主要エンドポイント外部制御機器の操作性能を客観的に示す評価項目を外部制御機器毎に設定し、装置を利用しなかった場合、装置の各種パラメータをランダムに設定した場合等と比較する。また代替治療法がある場合にはそれと比較することが望ましい。
・ロボットアーム:操作精度、操作速度、一定の作業の所要時間・精度等
・電動車いす:停止・移動の正解率、方向変換の正解率等
・意志伝達補助・代行:カーソル移動の精度・速度、文字表示の正解率・速度等
・環境制御:機能選択の正解率、速度等
副次エンドポイント
生活の質(QOL)に関するアンケート調査やQOL尺度等にて、QOLの改善を証明することが望ましい。QOL尺度としてはSEIQoLDW(SchedulefortheEvaluationofIndividualQoL-DirectWeighting)やALSSQOL等が挙げられる。
5.試験結果の報告(構成内容)
原則的に総論に準じて行う。 |