再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)製造の設備設計・運用に関する考え方についてのガイドライン2022(手引き)

ガイドラインID 2022-E-RE-057
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療 ヒト細胞製造システム 開発WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2022-E-RE-057 再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)製造の設備設計・運用に関する考え方についてのガイドライン2022(手引き)

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

序文

近年の再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)(以下、再生医療等製品)の開発が、当初の体細胞・組織原料からの製品製造より、マスターセルバンクを有する無菌原料からの製品製造が増えてきたことを踏まえ、無菌操作による製品の無菌性確保の考え方や、生きた細胞を製品とする製造の安定性確保の考え方などの位置づけを明確にすることで、より適切な製造システムを設計し、構築するためのアプローチ手順が整理できる。これにより、無菌操作環境へ作業者が関わることの影響や、生きた細胞を加工する製造の不安定性を考慮した工程の自動化など、ヒト細胞加工製品の製造装置の効率的な開発が進むことが期待できる。
最終滅菌ができない再生医療等製品は、無菌操作により製造される。製品の無菌性を担保することは、製品の安全性の中で最も重要な項目であり、厚生労働省より「再生医療等製品の無菌製造法に関する指針」(令和元年 11 月 28 日付け事務連絡)が発出されており、無菌医薬品製造における無菌操作法と同等の無菌操作環境の構築と維持管理について要求事項が示されている。
再生医療等製品は、細胞に対して増幅あるいは分化誘導を行う一連の製造工程(培養期間)が、数週間~数ヶ月間と長期間であり、その間培地交換操作や継代操作などの工程操作が実施される。製品は、各工程間にインキュベータ内に静置して細胞の増幅あるいは分化誘導を進行させるため、図 1 のように、主な工程(無菌操作)の実施間隔は製品ごとに固定されている。このとき、無菌操作等区域は、長期間に渡って外因性の汚染を防止し、継続的に無菌操作環境を維持する必要が生じ、例えば 1 品目で無菌操作等区域を占有した場合、製造設備の稼働率が非常に低くなるなどの課題が生じる。各工程は自動化ができていない手操作が多く、ヒトの介入を前提とした無菌操作のリスク評価と適格性の確認が必要であり、また、取り扱う原料細胞の種類によっては、適切な封じ込めとの両立が要求される。

図 1 容器を開放して無菌操作を行う再生医療等製品製造の運用事例

図 1 のような製造工程では、無菌操作等区域(あるいは培養容器とその関連機器)は、目的の無菌操作を実施するため、無菌操作法に準じた外因性の微粒子(微生物)による汚染を防止できる手順にて、以下の作業を繰り返し実施することが想定される。一般的には、工程資材や製品種及び原料細胞に依存せず、無菌操作が達成可能な運用管理が構築されてなければならない。
① 導入作業:工程に使用する原則無菌の原料等あるいは工程資材を、無菌性を維持したまま適切な環境に持ち込む。
② 加工作業:無菌操作の対象物(細胞等)を適切な手順で、適切な環境下のもと、加工を行う。
③ 片付け作業:環境維持操作を行う。
これらの作業を複数の製造工程において無菌操作等区域を共有して行う場合、各工程における作業時間はより短い方が無菌操作等区域の占有時間の短縮が期待できる。再生医療等製品の製造では、これらの作業時間を短縮できる技術が導入できることが望ましい。
再生医療等製品の製造では、製品製造の工程に関わる設計(製品設計、製造設計、運用設計)におけるそれぞれの重要品質特性(CQA:Critical Quality Attribute)および工程パラメータの理解と設定(デザインスペース)が製品間で共通ではなく、それに係るデータが十分でない場合も多い。製造工程の途中における CQA の設定と変動が最終製品へ影響することや、製品の多様性(多様な原料細胞、製造手順および最終製品形態)から、生きた細胞を製品とする製造の安定性確保の考え方(A-1 細胞製造性【工程管理】参照)を考慮した対応が要求されるため、製造設備の工程パラメータの設定には、ユーザーとの意思統一が必要である。
また、再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GCTP 省令)の無菌操作に関する要求では、表 1 のような、従来の無菌医薬品製造と同じ無菌操作に加え、自己由来細胞原料等の無菌性が担保できない場合での無菌的操作が考慮されている。いずれも無菌操作環境の構築と維持管理に関わる考え方は同様で、表 2 に示される手順例(A-C)のように、最終製品が無菌(Sterile 相当)であることを適切に保証できる製造システムの構築が要求されている。

表 1 GCTP 省令の無菌操作に関する要求の分類

表 2 最終製品の無菌性確保を達成するための手順構築例

無菌医薬品製造では、無菌操作は処理された空気、材料、装置などの滅菌された構成要素の無菌性を維持するために、アイソレータシステムのような、作業者を製造環境から排除して行われてきた。これは作業者の介入を前提とした再生医療等製品の製造工程が、無菌操作において、必ずしも適切でないことを意味する。適切な無菌操作と先進的なプロセスモニタリングの採用を検討するために、工程途中のプロセスの有効性を実証する代替え的アプローチの検討や、リスクにもとづく製造プロセス設計と汚染防止戦略にもとづく継続的なモニタリングが必要となる。
製品の無菌性の保証を含む品質を担保しつつ、上記の特性を考慮して適切な設備を設計する上では、製品ごとで要求される最適な施設運用が実施できるように、ユーザーとメーカーが協力して設計を進めることが望ましい。

1. 総則

1.1 目的
本ガイドラインは、再生医療等製品の無菌操作による製造において、設備設計と運用に関する一般的な考え方について設備の提供業者(以下メーカー)に示すことにより、要求事項を満たし役立てることを目的とする。さらに、使用者(以下ユーザー)の製造工程管理ならびに再生医療等製品の品質確保の一助となることを望むものである。

1.2 適用範囲
本ガイドラインは、再生医療等製品の製造を行う設備設計・運用に対して適用する。

GL:本体

2. 用語の定義
本ガイドラインにおける用語の定義は次に掲げる通りとする。
・構造設備 (Buildings and facilities):作業所における製造に必要な環境を維持するための建築物並びに設備。作業室や管理室のレイアウトに加え、各作業室の仕様や清浄度維持に必要な空調システムを含んでいる。【再生医療等製品の無菌製造法に関する指針より引用】

・無菌操作 (Aseptic processing):微生物および微粒子を許容レベルに制御するため
に、供給する空気、原料および資材、構造設備並びに作業者を管理した環境下において無菌製品に対する作業を行うこと。(ISO 13408-1 参照)【再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造におけるチェンジオーバーに関するガイドライン2019(手引き)より引用】

・無菌的操作 (Processing using aseptic technique):外因性の微生物汚染を排除するために、供給する空気、原料および資材、構造設備並びに作業者を管理した環境下において、作業を行うこと。(ISO 18362 参照)【再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造におけるチェンジオーバーに関するガイドライン2019(手引き)より引用】

・無菌化 (Aseptization):汚染源を消毒又は除染・滅菌により無菌状態(無菌試験に適合する状態)に処理すること。【再生医療等製品の無菌製造法に関する指針より引用・改変】

・アイソレータシステム (Isolator systems):製品への汚染を防止する構造設備のバリア形態で、原則として外部に対して開放部が無く、物品の導入出時においても外部との隔絶が維持される、無菌操作等区域を構成する構造設備の方式。【再生医療等製品の無菌製造法に関する指針より引用】

・製造装置 (Manufacturing system): 再生医療等製品の製造工程の一部又は、全部を支援する装置【再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造装置についての設計ガイドライン2021(手引き)より引用】

・製造設備 (Manufacturing facilities):再生医療等製品の製造工程に用いられる設備。

・環境維持操作 (implement measures necessary for maintaining the environment):
清浄化および除染・消毒【再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造におけるチェンジオーバーに関するガイドライン2019(手引き)より引用】

・除染 (decontamination):空間や作業室を含む構造設備に生存する微生物を再現性のある方法により予め指定された菌数レベルにまで減少させること。【再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造におけるチェンジオーバーに関するガイドライン2019(手引き)より引用】

・消毒 (disinfection):対象物又は対象物の局所的な部位に生存する微生物を減少させること。【再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造におけるチェンジオーバーに関するガイドライン2019(手引き)より引用】

・無菌操作等区域 (cell processing area):作業所のうち、無菌操作により取り扱う必要のある製品等の調製作業を行う場所、滅菌された容器等が作業所内の空気に触れる場所及び無菌試験等の無菌操作を行う場所。【医薬品医療機器等法より引用】

3. 設備設計に関わる基本設計指針
3.1 再生医療等製品の製造に要する設備設計の基本原則
再生医療等製品の製造に使用する設備の設計は、再生医療等製品に関わる製造工程の特徴を理解して行う必要がある。原料細胞の受け入れから、製品製造し出荷までの過程で使用する設備は、対象とする製造プロセスで求められる機能・性能を理解し、運用、設置環境、製造プロセスで生じうるリスクを考慮したうえでユーザー要求を満たすように設計しなければならない。無菌医薬品の製造では、原料等が無菌であり、無菌として管理された製造環境に持ち込んだうえで製造がおこなわれる。再生医療等製品では大きく分けて3つの製品の製造形態がある。無菌の原料細胞より製造される製品、原料細胞自体の無菌性が担保されていないが、製造開始から製品となるまでの過程で無菌性を確認し製品としての無菌性を担保された製品、内在性の汚染リスクを受忍した原料細胞より、投与にあたっては適切な管理を行うことで使用できる製品がある。これらに共通している重要な事項は、外部環境からの汚染リスクに対して高度に管理された無菌操作や無菌操作環境の考え方であり、製品と製造環境の無菌性を維持するための汚染防止戦略の考え方である。汚染防止戦略では外部環境だけでなく、持ち込まれる原料等および工程資材の導入による汚染に対しての考慮が必要となる。設備の設計にあたっては、対象とする製品品目ごとに、設備に関連する作業者の操作並びに動線、原料等、工程資材、資材、試薬、廃棄物、製造環境など無菌性の維持と交叉汚染の防止と製造環境に伴う製品品質への影響を理解したうえで製造プロセスの全ての工程とそれに関わる運用に対するリスク評価を実施し、設備設計を行わなければならない。リスク評価にあたっては、リスク受容の限度基準を決めておくことも重要である。

3.2 設備設計にあたって無菌操作の考え方
無菌操作は製品の無菌性を維持するためのたくさんの効果的な活動を組み合わせて行われ、無菌操作を行う区域で製品が密封されるまでの工程群で実施される。再生医療等製品の製造では、無菌操作は原料等が無菌であることを前提に製造プロセスを構築することであり、このとき、無菌性が管理された製品や資材に直接接触する面が開放を伴う環境として無菌操作等区域にて行う。無菌操作等区域で行われる操作は、作業者の直接的な介入を最小限とする、つまりは作業者が無菌操作の主要な汚染源であるとした考え方で行わなければならない。
これに加え、製品に依っては、原料細胞の無菌性が担保されない場合があり、無菌的操作を含む運用を考えなければならない。さらには、一定の封じ込めが必要となるケースもある。無菌的操作を伴う運用については ISO 18362 を参照できる。また、無菌操作等区域を作業者の腕が出入りし、直接的に製品を操作する場合は、製品の無菌性の担保が適切に実施できる運用を求めている。メーカーは、無菌操作と無菌的操作、さらには封じ込め対応の有無とその関連を理解し、設備設計を行わなければならない。設備に含まれる付帯機器(インキュベータ、遠心機、冷蔵庫、など)は、製造プロセスと運用管理に応じて、無菌操作等区域または清浄度管理区域に設置される。設置した環境の清浄度レベルを維持できるよう微生物、微粒子、温度、湿度などを考慮した設備仕様とし、その運用が可能なようにしなければならない。原料等および工程資材、製品あるいは中間製品は設備間を移動するので、異なった清浄度レベル間の移動はそれらの形態に応じた対応が必要であり、移動先の清浄度レベルに合わせた運用を考慮しなければならない。
無菌操作の考え方を事例として示すと、達成すべき製品の無菌性は同等であるが、無菌性、操作性、封じ込めのいずれを優先とするかによって、設備と運用の違いによるリスクレベルに差異が生じることがある。容器の開放を伴う無菌操作を人手で直接行うとした場合、無菌性のリスクを設備によって最小とするのであれば、アイソレータシステム(A-2 アイソレータシステム参照)のように作業者の直接介入を排除した設備が最も適していると考えられる。アイソレータシステムと付帯設備となるインキュベータや遠心機、顕微鏡の間を容器は出入りするが、付帯設備もアイソレータシステムと同等の資材の導入や運用管理を行うことで製造システムとして、最も無菌性のリスクは低いと考えられる。また、容器の開放を伴う無菌操作を人手で直接行うとした場合、設備としてクリーンブースや安全キャビネットを用いるのであれば、人手操作に伴う作業で想定されるリスクは最も低くなると考えられるが、設置環境の運用管理や付帯設備との間の容器移動、作業者による運用と操作に関する考慮事項など、開放型の設備を用いる事項に関してリスク管理を行う必要がある。容器の開放を伴わない無菌操作の場合は、設備や運用による無菌性のリスクはより少なくなるケースがありうる。封じ込めの対応が必要な場合、設備によってリスクを最小とするのであれば、安全キャビネットやアイソレータシステムを使って運用することを考える。製品を製造するにあたって、何に対するリスクを上位として考慮するかによって、使用する設備とその運用に差異が生じる。
無菌操作等区域の環境は、作業所を構成する建築物並びに機器・設備に依存する。作業所の清浄化が行われ、そこに設置される無菌操作等区域を構成する設備を運転し、その清浄化・無菌化をもって設備導入時の環境構築が行われたこととなる。設備運用時の清浄化・無菌化の維持は、清浄化された作業所に適切な更衣を行った作業者が入り、外部から持ち込まれる原料等、工程資材、試薬の清浄化・無菌化を行い管理することで、作業所の環境が維持されることである。設備はそれ自体の機能によって発塵や微生物汚染リスクを高めるものもあるので、設置される環境の清浄度レベルを理解したうえで設計する必要がある。一般的には、外部から持ち込まれるものをその作業室の清浄度レベルと製造工程の使用する段階に合わせて順次清浄化・無菌化していく必要がある。設備の機能・構成、外部から持ち込む原料等および工程資材の清浄化・無菌化の手法によって、清浄化・無菌化の作業手順、操作のバリデーションの実施、気流の方向、圧力のカスケードなど、遵守すべき項目を検討すべきである。外部からの原料等および工程資材の持ち込みや作業者からの汚染防止、さらにはチェンジオーバー時には、外部汚染、内部汚染を考慮した上で適切な無菌操作の環境維持を行うことを考慮しなければならない。

3.3 汚染防止戦略の基本的な考え方
再生医療等製品の製造にあたっては、原料細胞の由来と製造プロセス、設備に応じた無菌操作が必要である。有効で効果的な汚染防止戦略は、作業者、工程資材、原料等、設備やその設置環境など全ての要素の選択と組み合わせを考慮しなければならない。製造工程の設計とリスク評価と汚染防止戦略は相互に関連しており、汚染防止戦略に準じた設備設計および環境構築が必要である。汚染防止戦略においては、無菌操作と無菌操作環境のリスクにもとづく重要管理項目を特定しておくことが必要である。汚染防止戦略においては、設備のみでなく、導入手順など運用操作を組み合わせることで、達成すべき製品の無菌性を満たすように適切な設計を行う。

3.4 設備の基本設計として考慮すべき事項
無菌操作と汚染防止戦略の基本的な考え方に準じて設備設計をおこなわなければならないが、以下の事項に注意することが望ましい。
① 製品の品質と安定性
② ユーザー要求仕様
③ 関連するガイドラインと遵守すべき基準や法規
④ 品質・作業・封じ込めに関するリスクマネジメント
⑤ 原料等の無菌性
⑥ 原料等の供給形体
⑦ 製品容器、中間製品容器の形体(密閉、開放)
⑧ 清掃、除染、滅菌
⑨ 製造室のキープラン
⑩ 設備・機器を設置する周辺環境
⑪ 設備と付帯設備機器の仕様
⑫ 作業者の動線操作 ⑬ 作業者の更衣基準
⑭ 作業室間の気流
⑮ 封じ込め  
4. 設備設計の基本要求
再生医療等製品の製造において、安全性に関わる最も重要な条件は製品の無菌性保証である。製品の無菌性を保証することができる製造システムの構築においては、無菌操作等区域を適切に構成することが重要となる。無菌操作を行う無菌操作等区域の製造環境がグレード A となるように設備設計を行うことが基本要求となる。また、清浄度レベルを保持するためには、その周辺区域の清浄度レベルを段階的に適切に設定する必要がある。
無菌操作等区域を構成する設備の仕様に基づいて、その周辺を構成する清浄度管理区域の清浄度レベルを適切に設定する。無菌操作等区域を堅牢性の高い設備で構成して物理的に遮蔽し、原料等や工程資材を除染機能のあるパスボックス等によって除染して搬入・搬出を行う場合は、無菌操作等区域の周辺の清浄度管理区域の清浄度レベルをグレード D やグレード C に任意に設定することができる。無菌操作等区域を気流制御によりバリアを構成し、このバリアを経由して原料等や工程資材を除染ではない清拭などの清浄化方法を施して搬入・搬出を行う場合は、その周辺の清浄度管理区域の清浄度レベルはグレード B に設定するなど、無菌操作等区域の無菌操作性を保持できるように適切に設定する必要がある。区域の清浄度レベルを管理するためには、隣接する部屋の室圧に差圧を設けるなど室圧を適切に管理し、風向、換気回数を適切に設計することも考慮する必要がある。無菌性を保証するためには、ヒトや物の動線を一方向にするなど交叉汚染防止や取り違え防止のための仕様も考慮する必要がある。また、ヒトは最大の汚染源であるため、適切な更衣とともに更衣室を適切な場所へ設置することを考慮して設備を設計する必要がある。いずれの場合も想定されるリスクを考慮して適切な清浄度レベルを設定することが重要となる。本章で示した基本要求の凡例は、A-3.設備設計の考え方と凡例に記載している。

図 4.1 設備設計の基本概念

5. 設備設計の基本的な進め方
再生医療等製品の製造においては、製品の無菌性保証を行うことができる製造システムの構築が要求される。そのような製造システムを支える設備の設計は、ハードとしての設備が、ユーザー要求仕様(UR)や GCTP 省令の準拠という目的に合った機能を有するために、施設を使用する側の条件(ソフト)を十分に理解した上での設計であることが求められる。その意味で、再生医療等製品の製造施設は、メーカーとユーザーの意思疎通が設計の初期段階から十分に行われていることが望ましい。
また、GCTP 省令では、製造業者等に対し、バリデーション等を行うことを要求している。バリデーションは、「製造所の構造設備並びに手順、工程その他製品管理及び品質管理の方法が期待される結果を与えることを検証し(又は与えたことを確認し)、これを文書化することをいう」と定義されている。バリデーションはユーザー側が実施するものであるということが基本的な考え方であり、バリデーション活動に基づく各文書は、ユーザーの承認や発行を要する。メーカー側は、ユーザーのバリデーションを支援する立場にあるので、再生医療等製品の設備の設計段階から運用段階においても、バリデーションが重要な作業となることを理解し、かつ実施可能な状態を考慮して設計を行わなければならない。
以下に設備設計およびバリデーションの基本的な流れについて解説する。

(1) 基本設計段階
新たな設備の構築を行う際には、基本設計の段階から、プロジェクトの特性に応じた実践的な全体計画を定めることが重要となる。
ユーザー要求仕様に準じて、基本計画と基本設計を行い、それに基づいた関連書(基本計画書、基本設計書等)の作成、リスクアセスメントやデザインレビューを行う。

(2) 基本設計段階のバリデーション
基本設計段階において、バリデーションの全体計画を行う。大規模なプロジェクトで、多数の設備を同時に製作・構築する場合には、バリデーションの対象範囲が広くなるため、バリデーション全体を総括して管理するためのバリデーションマスタープラン(VMP: Validation Master Plan)の必要性について検討し、バリデーションの進め方について方針をまとめることが望ましい。検討すべき内容には、バリデーションの目的、対象項目、実施時期、検証方法、基準、責任体制および実施組織の構築等が含まれる。なお、設備を対象としたバリデーションにおいては、設備機器に必要とされる性能・機能の期待される結果が得られているかを適格性確認(Qualification)として、一般的には、設計時、施工(設備据付・移設)時、試運転時、稼働時の4つのステージにおいて検証し、その結果を文書化する必要がある。

(3) 設計段階のバリデーション
基本設計の後、いわゆる詳細設計の段階において、URS で表明された要求事項を反映し、計画・設計の立場から、設備や機器の仕様、清浄度レベルなどの室内環境等を計画、検討し、設計図書・機能仕様書(FS:Functional Specification)を作成する。
詳細設計終了時に設計適格性確認(DQ:Design Qualification)を実施する。DQ は、設備や機器もしくはシステムの設計案が、意図した目的に適合していることを立証し、文書化することである。DQ の実施にあたって、事前に DQ の目的、組織、判定基準、不合格時の処理、記録様式などをまとめたプロトコル(要領書)を作成し、ユーザー側のバリデーション責任者の承認を受ける。この際、URS 要求事項や GCTP 省令における要件項目を設けたチェックリストも用意することが望ましい。DQ を行う際は、設計図書・仕様書、関連図書を準備し、各要求事項が図面または図書上に反映されていることを確認する。確認後、報告書にまとめ、バリデーション責任者の承認を受ける。

(4) 施工段階のバリデーション
設備や機器が施工(製作、設置)段階において、据付時適格性確認(IQ:Installation Qualification)を実施する。IQ は、設置された設備、機器、システムが、承認された設計内容に合致していることを確認し、その結果を文書化することである。IQ の実施にあたって、事前にプロトコル(要領書)を作成し、ユーザー側のバリデーション責任者の承認を受ける。IQ の実施項目には、機器等の文書検査、受入検査及び据付検査があり、実施する対象により、その範囲を適切に設定する。受入検査では、DQ または IQ の文書検査で適格性を確認した仕様や図面に基づき、適切な仕様の設備や機器が納入されているかを、工場検査、試験成績書、製造番号などと照合して確認する。据付検査は、設備や機器の設置位置、設置方法、外傷の有無、配管・ダクトルート、配線工事などの確認評価を、DQ または IQ の文書検査で適格性を確認した仕様や図面、施工要領書との照合の基に実施する。確認後、報告書にまとめ、バリデーション責任者の承認を受ける。

(5) 試運転段階のバリデーション
IQ 完了後に、設備や機器の試運転調整を経た後、運転適格性確認(OQ:Operation Qualification)を実施する。OQ は、設置した設備や機器が、URS や設計図書・FS に従って動作し、設計通りの性能(機能・能力)を発揮しているかを、検査結果や計測データをもって確認し、その結果を文書化することである。OQ の実施にあたって、事前にプロトコル(要領書)を作成し、ユーザー側のバリデーション責任者の承認を受ける。OQ の実施内容は、対象とする設備や機器ごとに異なるので、実施項目や性能の判定基準をあらかじめ定めておく必要がある。例として、製造所の建設における OQ は、空調システムに関する OQ が主体となり、動作検査、アラーム検査、フィルタリーク検査などを実施した後、室の室圧(または室間差圧)や気流方向が判定基準に適合していることを確認した上で、温度・湿度・清浄度等の環境が判定基準を満足していることを確認する。確認後、報告書にまとめ、バリデーション責任者の承認を受ける。

(6) 稼働時のバリデーション
性能適格性確認(PQ:Performance Qualification)は、全ての設備・機器の OQ 完了後に、設置された設備・機器を用いて、製造する再生医療等製品に関する承認された手順に基づき、品質規格を満たし、かつ再現性良く製造できることを確認し、その結果を文書化する。 PQ 以降については製品品質の作りこみおよびその検証となる為、基本的にはユーザー側にて実施する。
バリデーション活動において、設備・機器に装備されている計測機器や OQ にて使用するバリデーション用の計測機器が、規程の性能(精度)を保持しているかを確認する計器の校正(CAL:Calibration)も必須である。CAL では、対象計測機器に必要とされる精度を考慮し、適切な標準器を用いて、計測機器の示す値と真の値との関係を求め記録する。

図 5.1 設備設計とバリデーションのフロー


6. 衛生管理手順設計の基本的な考え方
6.1 日常的な管理
製造施設は 4 章で述べられているように、再生医療等製品の加工および培養に際して無菌的操作を可能にするように設計されている。しかし、設備等のハードのみで適切な製造環境を維持することは困難である。製造環境の維持には日常の監視および環境維持操作が必須であり、設備設計と並行して衛生管理手順設計が行われることが望ましい。衛生管理手順は、運用開始後に適切に管理されることによって無菌操作環境が構築される。

6.1.1 環境モニタリング
製造環境の衛生管理を進めていくうえで環境モニタリングは施設の適格性や運用の妥当性と同様に環境の維持を監視するために必ず行わなくてはならない。
「再生医療等製品の無菌製造法に関する指針」では「環境モニタリングは、再生医療等製品の製造環境の清浄度を維持する上で、無菌操作等区域及び清浄度管理区域において、微生物数及び微粒子数が設定された基準を超えないよう管理すること、環境の悪化を事前に把握し製品の汚染を防ぐこと、及び清浄度維持のための清浄化及び消毒又は除染・滅菌の効果を継続的に評価することにある。」とされている。
本章では衛生管理に特化した環境モニタリングについて記載している。

(1) モニタリング対象
無菌性におけるリスクを想定し、微生物および浮遊微粒子とする。

(2) サンプリングポイント
製品への影響を考慮しリスクベースで設定することが望ましい。

・空中微生物(浮遊菌)
無菌操作等区域内、無菌操作等区域に対してクリティカルな場所、扉など運用上隣接区域と通じる動線周囲、排気口周囲、アセスメント等でワーストに相当する場所
※無菌操作等区域内でエアーサンプラ等によるサンプリングを実施する場合は、区域内の気流を乱さないための処置を講じる。気流による影響が懸念される場合には落下菌での評価もしくは微生物迅速測定法で実施することが望ましい。
・空中微生物(落下菌)
上記浮遊菌と同様。浮遊菌および落下菌については状況に応じてどちらか一方を選択し実施すればよい。1 枚の培地で実施する場合、サンプリングに要する時間は培地の乾燥などを考慮し設定し必要に応じて培地の交換を行い評価する。一般的には培地の性能上 1 枚当たり最大 4 時間までとする。
・表面付着菌(コンタクトプレート)
ヒトの介入の有る無菌操作等区域内(グレード A)において製品に対して影響の大きい場所(作業台面、側面、ガラス面など)、清浄度管理区域内においてヒトの動線上であり無菌操作等区域や製品に影響を及ぼしやすい場所(グレード B:作業台面、製造設備の操作盤、ドアノブや各種取手、床面など)、清浄度管理区域のうち無菌操作等区域のバックグラウンドとして定義されていない区域(グレード C およびグレード D)においては汚染の拡散監視としてヒトの手が触れる場所や床面を対象とすることが望ましい。
※コンタクトプレートは培地成分がサンプリング対象個所に残留しやすいため、サンプリング後の処理には十分注意が必要である。またアイソレータシステムなど堅牢性の高い無菌操作等区域でのコンタクトプレートを使用したモニタリングは推奨しない。
・表面付着菌(手袋)
無菌操作等区域内と清浄度管理区域での作業者で区別して、1 つの工程終了時に左右の指を対象に実施することが望ましい。
・空中浮遊微粒子
モニタリングの目的を明確にし、無菌操作等区域、清浄度管理区域で実施する。常時モニタリングの対象区域以外のサンプリングポイントは空中微生物(浮遊菌)の設定時と同様の考え方で設定することができる。
※クリーンルームの国際規格である ISO14644-1:2015 で規定されている最小サンプリング位置については、設備の清浄度評価に用いるためでありヒトや製造設備が稼働した状態での作業時を対象としたサンプリングではリスクベースにもとづいてポイント数を改めて設定することが望ましい。

(3) モニタリング頻度
再生医療等製品の無菌性保証のため製造工程のトレーサビリティの範囲の中でリスクベースにて設定する。一般的には常時(製造中)、1つの工程終了時、1 日の作業終了時、週につき1回、週につき 2 回、1 か月につき 1 回など製品への影響を考慮し選択する。
※表面付着菌のように物理的に不可能な場合を除いては無菌操作等区域ならびに無菌操作等区域のバックグラウンドとして定義された区域については常時監視が望ましい。

(4) 基準値
モニタリングの対象については基準値として警報基準値および処置基準値を設けて運用する。処置基準値の設定については「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」環境微生物の許容基準(表 6.1)を参考にしてもよい。環境微生物の許容基準は製品への汚染の可能性を示すものであり製品の逸脱基準とは別に必要な対策を講じておく必要がある。警報基準値の設定については稼働性能適格性評価や過去のモニタリング結果を参考に施設ごとオリジナルで設定させることが望まれる。警報基準値は傾向分析や環境維持活動の妥当性の確認に用いることができ、処置基準値の逸脱を避けるための未然防止策に重要な役割を果たす。

表 6.1 環境微生物の許容基準

6.1.2 清掃(清浄化)
日常(一部定期を含む)の衛生管理における清掃(清浄化)は環境維持操作の一つであり、工程の終了時に作業に起因する飛沫、ヒトや物によって持ち込まれた異物が次の工程に影響を与えないための交叉汚染防止の手段である。清掃方法についてはリスクベースにより以下のような例を鑑み構築する必要がある。
(1) 清掃(清浄化)する対象物を明確にする。
・環境モニタリングにおいて把握された菌叢
・飛沫として付着しやすい培地成分
・その他目視で確認できる異物など

(2) 清掃(清浄化)する対象場所を明確にする。
・製品が直接触れる場所
・作業中に触れやすい場所
・ヒトおよび物の動線となる床など

(3) 対象物に合った清掃用具および清浄化剤を選定する。
(清掃用具)
・低発塵性不織布
・モップ
・スクレイパーなど
(清浄化剤)
・滅菌処理された純水
・界面活性剤
・消毒剤
・殺芽胞剤など

(4) 頻度や実施のタイミングを決定する。
・作業開始前
・1 つの工程終了後・1 日の作業終了後
・連続した工程の終了後
・1 週間に 1 度など
・上記を状況によって組み合わせる

(5) (1)~(4)を踏まえた手順のバリデーションを実施する。

(6) 評価については環境モニタリングの結果を参考にする。

(7) 年次ごと清掃方法の見直しを行う。

(8) 作業者への教育の実施。
・清掃手順書の確認
・作業者によるばらつきを最小限にするための力量評価

※日常の清掃は環境の初期化を目的としたものでは無いため、環境への負荷の大きい清浄化剤の使用や汚染リスクが低いと想定される場所の実施など十分な検討が行われていれば過剰策にする必要は無い。

6.1.3 日常点検
衛生管理における点検は、空調系をはじめとした設備と作業者に分けて実施する。頻度は作業開始前、作業終了後など工程に対するリスクや製品の無菌性を考慮して実施する。
(1) 設備
・環境モニタリングデータ
・室間差圧
・製造設備の異常の有無
・清浄度管理区域内の目視による異物確認

(2) 作業者
・着衣および汚染防止装備(マスク、手袋、ゴーグル等)の乱れ
・健康状況等個人衛生
・作業者のモニタリング結果
・手指・機器消毒用アルコールの有無
※日常点検においてはヒトの目や感覚による確認が重要である。環境モニタリングだけでは対象やサンプリング場所が限定されてしまうため環境を網羅的に把握することは困難である。清浄度管理区域内に入室した際の感じる温度、湿度、臭気なども注意しておくことが望ましい。

6.1.4 無菌操作環境継続の評価
無菌操作環境が適切に維持・継続されていることを評価するために環境モニタリングの結果を用いる。無菌操作等区域および無菌操作等区域のバックグラウンドとして定義されている清浄度管理区域では空中微粒子の常時監視が推奨されており、無菌操作環境の継続を迅速的評価が可能となる。しかし微生物については一般的に浮遊菌、落下菌、表面付着菌共に培養法が用いられることが多く評価に数日間を要しているのが現状である。無菌操作環境の継続には可能な限り、微生物のモニタリング結果で評価することが望ましいが培養法による評価では困難な場合には空中微粒子で評価することもやむを得ない。
近年の科学技術の進歩により微生物迅速測定法が開発されており、微生物の迅速的評価が可能となっている。無菌操作環境維持の評価として製品特性に合った適切な方法を検討、選択する必要がある。

6.1.5 有害生物管理
有害生物管理は衛生管理の中でも微生物汚染のリスクとして再認識されている。特に清浄度管理区域内に侵入する昆虫類は食菌性のものが多く体表面には多くの微生物が付着していることが知られている。昆虫類の多くは設備の僅かな隙間を通じ区域外部より侵入するが、運用状況によってはヒトや物と共に持ち込まれることもある。環境モニタリングの結果では侵入の有無については判断することができず、局所的に汚染を広げるリスクがある。従って、「再生医療等製品の無菌製造法に関する指針」A10.有害生物管理にあるように有害生物管理プログラムを構築し適切なモニタリングおよび防除対策を実施しなくてはならない。
(1) 運用時の有害生物リスクアセスメントの実施
・持ち込み物の確認
・ヒト、物の動線の確認
・昆虫類の侵入の可能性のある場所(扉、空調系ダクト、施工不備箇所、水回りなど)の把握
・現状の侵入有無
・製造設備の特性把握

(2) 有害生物管理プログラムの構築
・モニタリング対象種の明確化・モニタリングポイントの設定
・モニタリング頻度の設定
・管理基準値の設定・逸脱処置の手順化
・定期点検
・上記文書化
・教育訓練

(3) 防除対策
・発生および侵入源の特定
・発生源の除去
・侵入個所の閉塞
・サニテーションによる清浄化
・除染などによる初期化
※一般的に昆虫類をはじめとする有害生物は無菌操作等区域および清浄度管理区域外から侵入するため、バリア性を高めることが最も有効な対策となる。殺虫剤等の化学品の使用については製品への影響が無いことが明かではない場合は推奨しない。
※初期化に関わる作業区域の除染実施手順については、A-4 作業室の除染を参照のこと。

6.2 定期的な管理
日常の管理と同様に、無菌操作環境の維持には定期的は衛生管理が求められる。ここでいう定期とは製造期間外に計画的に行うものを指す。定期的な衛生管理には日常には実施することが困難な環境モニタリング機器の校正、設備の年次点検、初期化のためのサニテーションなどが含まれる。それぞれ実施する項目についてはリスクベースにより年次ごとの計画によって運用されなくてはならない。また、その年に発生したインシデントや環境モ
ニタリングの結果を踏まえ年次ごとのレビューを行い計画の見直しを実施する。

6.2.1 年次計画
製造環境を維持していくために必要と判断された項目に対して製造計画を踏まえたうえで校正、点検、サニテーションを年次計画として作成する。校正、点検についてはそれぞれの設備や機器の運用手順に従い設定する。年次計画内で実施する項目については専門性の高い作業が伴うことが多いため専門知識を有すると認められた者の下で実施されることが望まれる。また、自らで実施が困難と判断された場合には専門業者へ委託することを推奨する。
※再施工や是正措置など予期しない時間を要する場合があるため、それぞれの項目には余裕をもった時間を設定することを推奨する。
6.2.2 校正
環境モニタリングに使用する計測機器ならびにサンプリング機器は再生医療等製品の無菌性を保証するために信頼性が求められる機器である。それぞれの機器の性能に応じて決められた期間内で計画的に校正を実施すること。
※校正基準に適合しない機器は環境モニタリングには使用してはならない。また、校正基準を逸脱した場合には前回の校正以降に製造された再生医療等製品の無菌性に影響を及ぼしていた可能性があるため、調査及び評価が必要となる。

6.2.3 定期点検
無菌操作等区域を構築する製造設備ならびに清浄度を維持するための設備においては定期的な適格性評価を実施する必要がある。また、有害生物を対象とした設備点検についても同時期に実施することを推奨する。

6.2.4 定期サニテーション
日常に実施する清掃とは異なり、一般的には初期化を目的とした清浄化および消毒・除染の組み合わせた作業を指す。実施の頻度は製造計画やリスクベースで計画されることが望ましい。拭き上げ・清拭による消毒と消毒剤を空間に蒸散・噴霧する除染においても事前の清浄化を伴わなくてはならない。但し、無菌操作等区域や清浄度管理区域などにおいてドライな環境であり日常および定期的な清浄化によって製造環境が維持されている場合には事前の清浄化を省略することが可能である。定期サニテーションについては以下の項目を考慮して実施する必要がある。
(1) 対象場所の明確化
・リスクベースにより判断し日常清掃では行わない場所
・日常清掃の際に使用する清掃用具では届かない場所
・空調系統など

(2) サニテーション手順の作成
・使用薬剤、機材の選定
・実施に必要な作業者および時間の確保
・作業ごとの順序の確認など

(3) 評価方法・基準の設定
・除染の場合、一般的にはバイオロジカルインジケーター(BI)を用いて評価
・消毒の場合、一般的には表面付着菌による評価(作業前と作業後の確認や環境モニタリングの基準を参考)
※製造環境においては、いずれの場合も滅菌を保証するものでは無いため検出ゼロを評価基準としてはいけない。

(4) 逸脱時の対処
・定められた基準値内に収まらなかった場合には、再実施など適切な処置を講じる。
・逸脱が頻発する場合にはサニテーション手順の見直しもしくは評価方法・基準の見直しが必要となる。

GL:付属資料

7. 参考規格等
・再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
・再生医療等製品の無菌製造法に関する指針(平成 23 年 4 月 20 日厚生労働省事務連絡)
・無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針(平成 23 年 11 月 28 日厚生労働省事務連絡)
・ISO13408-1 ヘルスケア製品の無菌操作-第 1 部:一般要求事項
・ISO13408-7 ヘルスケア製品の無菌操作-第 7 部:医療機器及び複合製品の代替プロセス
・ISO18362 細胞ベースのヘルスケア製品の製造―操作中の微生物リスクの管理
・品質リスクマネジメントに関するガイドライン(平成 18 年 9 月 1 日厚生労働省薬食審査発第 0901004 号/薬食監麻発第 0901005 号)
・再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造におけるチェンジオーバーに関するガイドライン2019(手引き)(令和元年 12 月)
・再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造装置についての設計ガイドライン2
021(手引き)(令和 3 年 8 月)

Appendix

A1. 細胞製造性【工程設計】

A1.1 細胞製造性とは
生きた細胞を製品とする再生医療等製品の製造を安定化させるためには、細胞製造性を考慮した製造工程を構築する必要がある。細胞製造性とは、「生物学的見地と工学的見地を理解し橋渡しした工程による、細胞の製造に対する可能性」と定義されている1)。すなわち、細胞製造性を考慮するとは、細胞側が受ける生物学的な反応に対する、操作側が施す工学的なパラメータをそれぞれ理解した上で、それらを結びつけることが重要となる。

A1.2 細胞製造性を考慮した製造工程構築における設備設計
再生医療等製品の製造では、図 A1.1 に示すように、原料細胞を含む原料等を入力として、製造工程を通して、最終製品を出力とした際に、工程および製品の安定性を損なう変動を考慮したシステムを構築する必要がある。適切なシステムを構築するためには、その運用を含む設備設計は、無菌医薬品製造と同様に、製造工程に対する外乱(外因性の汚染)による影響を制御できることが前提となる。この時、製造工程に対する原料等の受け入れおよび導入では、ユーザー側が予め設定した規格を満たすものが受け入れ可能となるようにするとともに、導入時に外因性の汚染が混入しないように留意する必要がある。
製造工程は、原料であり製品である細胞が不確定であり、評価が困難であるため、堅牢かつ再現性が高い手順でなければならない。この時、細胞製造性における重要な点として、内なる乱れを考量する要求が生じる。細胞は、自らが反応に依存する変化を逐次的に引き起こすことで、プロセスに内部的なバラツキを生じさせる。具体的には、時間に依存してその性質を変化させ(時間依存性)、変化時においては、表現型として提示されるまでに反応開始時点から時間がかかること(時間遅発性)があげられる。加えて、作業者側の視点では、目的細胞が得られたかの判定は、検出開始から結果が出るまでのタイムラグが存在する(時間遅延性)。多くの製造では、製造期間が長期かつ複数の一連の工程群を関連付けて実施する為、内なる乱れが累積することで製品品質の変動によるバラツキが助長すると考えられる。また、工程群はこれらの変動と結びついているために、個別に解析・代替することが難しい。工程手順に関わる設備設計時においては、これらの特性を理解し、変動を最小化することや、変動の互換性を確保することが要求される。

図 A1.1 細胞製造における種々の変動の概念図

A1.3 参考文献
1) Kino-oka M., Mizutani M., Medcalf N. Cell manufacturability. Cell Gene Therapyinsights 2019

A2. アイソレータシステム

A2.1 アイソレータの歴史的経緯
ISOLATOR TECHNOLOGY1) によれば、アイソレータ技術は 1957 年に英国の原子力プラントでハザード物質を扱うアイソレータから始まったものとされる。日本では、1994 年頃より無菌製剤の組み立て用として国内製薬に導入され、現在では多くの企業に採用されている。規制当局によるアイソレータのガイドラインとしては、1997 年 EU-GMP2)の Annex、 2004 年 FDA c-GMP3)に記載されている。これらの流れから、各国のガイドラインに収載されるようになり、多くの団体によるアイソレータを含めたバリアシステムに関するカンファレンスが活発に行われるようになった。さて、国際標準では ISO13408-6 は ISO/TC198 WG9 で討議され 2005 年に初版を発行し、途中小規模な改訂を挟み 2020 年に大幅な改訂が行われ、正式発行直前となっている。各国のガイドラインと ISO13408-6 の最も大きな違いは Isolator と Isolator systems を明確に区別していることである。本章では ISO の国際標準の会議で合意された事項を中心にアイソレータシステムについて説明する。
ISO13408-6 と各国のガイドラインにおけるアイソレータの定義を記載する。

(1)ISO13408-6 (ISO FDIS 13408-6)4)
・isolator
<aseptic processing> enclosure capable of preventing ingress of contaminants by means of physical separation of the interior from the exterior that is capable of being subject to reproducible interior biodecontamination and where operators always remain separated from the interior of the enclosure by means of an absolute physical barrier.
Note 1 to entry: If containment requirements apply (i.e. aseptic processing of hazardous materials) egress also has to be prevented.
[SOURCE: ISO 11139:2018, 3.149]
・isolator system isolator (3.4) with transfer system(s), and ancillary isolator equipment (3.1) [SOURCE: ISO 11139:2018, 3.150]

(2) 無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針アイソレータ(isolator): 環境及び職員の直接介入から物理的に完全に隔離された無菌操作区域を有する装置であって,除染した後に HEPA フィルター又は ULPA フィルター(ultra low penetration air filter)によりろ過した空気を供給し,外部環境からの汚染の危険性を防ぎながら連続して使用することができる装置をいう.


(3) PIC/S Annex 1 (glossary)
Isolator – A decontaminated unit, with an internal work zone meeting Grade A conditions that provides uncompromised, continuous isolation of its interior from the external environment (e.g. surrounding cleanroom air and personnel). There are two major types of isolators
i. Closed isolator systems exclude external contamination of the isolator’s interior by accomplishing material transfer via aseptic connection to auxiliary equipment, rather than use of openings to the surrounding environment. Closed systems remain sealed throughout operations.
ii. Open isolator systems are designed to allow for the continuous or semi-continuous ingress and/or egress of materials during operations through one or more openings. Openings are engineered (e.g. using continuous overpressure) to exclude the entry of external contaminant into the isolator.

A2.2 国際標準におけるアイソレータシステムの合意
各ガイドラインにおける定義は記載通りであるが、アイソレータとアイソレータシステムを明確に区別しているのは、ISO 文書だけであり、ISO 国際会議での各国のコンセンサスとしては以下の通りとなる。
①アイソレータシステムはアイソレータを含むものであり、アイソレータとそれに付随する周辺装置(例:除染装置や空調装置、その他の補助装置)を組み込むことによって、アイソレータシステムとして機能する。アイソレータシステムにより、アイソレータ内の重要なプロセスゾーンが保護される。
②アイソレータシステムは”open”や”closed” のアイソレータシステム の選択、アイソレータインターフェース、周辺環境などを QRM(Quality risk management)により全ての構成要素について汚染制御と製品に関連したリスクを評価すべきである。
この国際標準における「アイソレータ」の定義は「再現性のある除染を行うことができ、外部から内部を物理的に隔離することで汚染物侵入を防止することができるもので、絶対的な物理的障壁によりオペレータが内部から常に隔離された囲い.」とされ、日本のガイドラインを含めて多くのガイドラインと大差ない記述となった。また、「アイソレータシステム」の定義については、「移送装置やアイソレータの補助装置が付属したアイソレータ」として正式に合意した。

A2.3 国際標準におけるアイソレータシステムの基本原則
形式知または暗黙知として蓋然的に理解されていたアイソレータシステムの主な基本原則として、以下の事項が標準文書として記述された。
①アイソレータシステムを出入りする物質はアイソレータ内の管理された環境の品質を維持するうえで主要なリスクであり、アイソレータへの物質の出入りは管理された移送装置を経由して微生物的除染を行う必要がある。
②アイソレータシステムはその構成と運用によりオープンアイソレータシステム / クローズドアイソレータシステムに分類され、オープンアイソレータシステムは気流のバリアにより周辺環境と分離し、クローズドアイソレータシステムは物理的なバリアにより周辺環境と分離する。
③製品への直接接触面は滅菌されていなければならず、オペレータは物理的なバリア(グローブなど)を介してアイソレータ内へアクセスする必要がある。
アイソレータシステムの基本概念図として図 A2.1 を添付する。この基本概念図は日本より提案し、国際合意された、経済産業省支援事業「平成 29 年度戦略的国際標準化加速事業:再生医療製品の製造に対して有効なフレキシブルモジュラープラットホームの要となる無菌接続インターフェースに関する国際標準化」及び「再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発/ヒト多能性幹細胞由来の再生医療製品製造システムの開発(心筋・神経・網膜色素上皮・肝細胞)」の成果である。図中の 2 種類のトランスファーポートは、無菌接続インターフェースを国際標準として表したものである。

図 A2.1 アイソレータシステム 定義と気流や物の流れを示した基本原則図 5), 6)




A2.4 参考文献
1) Carmen M. Wagner, James E. Akers. ISOLATOR TECHNOLOGY: Applications in the
Pharmaceutical and Biotechnology Industries. Interpharm Press, Inc. 1995
2) EU-GMP: EU Guide to Good Manufacturing Practice 1997
3) FDA: Sterile Drug Products Produced by Aseptic processing 2004
4) ISO: ISO/FDIS 13408-6 Aseptic processing of health care products —Part 6: Isolator systems
5) 経済産業省: 無菌接続インターフェース設計ガイドライン 2012
6) 経済産業省支援事業「平成 29 年度戦略的国際標準化加速事業:再生医療製品の製造に対して有効なフレキシブルモジュラープラットホームの要となる無菌接続インターフェースに関する国際標準化」

A3. 設備設計の考え方と凡例

A3.1 設備設計の考え方
「再生医療等製品の無菌製造法に関する指針」1)では構造設備は、作業所における製造に必要な環境を維持するための建築物や設備とされている。再生医療等製品の製造を行うための設備は、外因性の汚染を防止して無菌性を担保し、安全性や品質を確保できるように設計する必要があり、外部からの汚染防止、交叉汚染防止、取り違え防止を実現するために、清浄度区分管理、ヒトと物の動線管理、室圧管理、風向管理、更衣管理、換気回数管理などを考慮し、無菌操作等区域を構成する設備の特性に応じて設計する必要がある。容器を
開放して無菌操作を行う筐体密閉型の設備に求められる基本要求は次の通りである。

(1)清浄度区分管理
GCTP 省令では、清浄度の考え方として定量的な清浄度区分(グレード A~D 等)は設定されておらず、再生医療等製品の製造性を考慮して適用区域(無菌操作等区域、清浄度管理区域)を規定することとなっている。但し、「再生医療等製品の無菌製造法に関する指針」
1)には、無菌操作等区域は、微生物及び微粒子を許容レベル以下に制御するために、供給する空気、原料等及び工程資材、設備並びに職員を高度に管理した環境であるため、その清浄度レベルは「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」2)で規定されているグレード A にすることが記載されている(表 A3.1)。また、清浄度管理区域は役割に応じた清浄度レベルが要求されるため、作業内容に適したグレード D 以上の清浄度レベルを設定することが記載されている。

表 A3.1 清浄区域の分類(出典:無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針 2))

清浄度管理区域の清浄度レベルは、無菌操作等区域に隣接する区域か隣接しない区域か、また無菌操作等区域に隣接する区域においては、無菌操作等区域を構成する設備の特性に応じて適切に設定する必要がある。無菌操作等区域を構成する設備は、現状の技術レベルにおいて次のような大分類が考えられる。
①開放式製造装置(例:安全キャビネット、RABS 等)
②閉止式製造装置(例:アイソレータシステム)
③閉鎖式製造装置(例:容器密閉型自動培養加工装置)

無菌操作等区域を構成する設備に隣接する清浄度管理区域の清浄度レベルは、設備の仕様に応じて適切に設定する必要がある。また、その周辺の清浄度レベルを段階的に設定することにより、無菌操作等区域の清浄度レベルを担保するように設備を設計する必要がある。今後の技術開発の進展に伴い、無菌操作等区域を構成する新しい設備が提案された場合でも、清浄度レベルを担保する方法に関しては基本的に同様の考え方とすることが望ましい。

(2) ヒトと物の動線管理
交叉汚染防止や取り違え防止のために、ヒトと物の動線は極力一方通行とすることが望ましい。構造的に一方通行とすることが難しい場合は、作業に時間差を設けるなど運用管理により対応する。ヒトと物の動線は分けることが望ましく、搬入出の多い動線は最短になるように配置することが望ましい。

(3) 室圧管理
外部から室内への汚染を抑えるために室圧を管理する必要がある。清浄度の高い部屋の室圧を隣接する部屋の室圧より高くすることで清浄度を維持する。封じ込めを行う必要がある場合は、対象の部屋の室圧を隣接する部屋の室圧より低くすると同時に外部汚染を防止できるように室圧調整可能な機器やシステムを設定する。いずれの場合も、室圧に逸脱がないことを確認するためにモニタリングを行う。

(4) 風向管理
HEPA フィルターを通った清浄空気は天井から吹き出し、側壁などから吸い込むことで一方向気流を作ることができる。風上側には高い清浄度が求められる製造設備を設置し、風下側にはエアロゾル等を発生しやすい製造設備を設置する。

(5) 更衣管理
更衣室を適切な場所に設置して差圧管理を行う。無菌操作等区域に隣接する清浄度管理区域の室圧を高く設定することで無菌操作等区域の清浄度を保持する。入退出においては、着衣室と脱衣室は別々に設置することが望ましい。

(6) 換気回数管理
ヒトは最大の汚染源であり、無塵衣を着用していても微粒子の放出を防止することは難しい。よって、部屋の空気を 1 時間当たり適切な回数だけ HEPA フィルターを通過させて清浄化する必要がある。再生医療等製品の無菌製造法に関する指針 1)では、グレード B の部屋では 30 回/h、グレード C の部屋では 20 回/h を確保することが望ましいとされている。

A3.2 設備設計の凡例
無菌操作等区域を構成する設備の種類(A4.1(1))に応じて作業所を構成する設備の凡例を示す。
① 開放式製造装置(安全キャビネット、RABS 等)
設備において開放式製造装置は安全キャビネットや RABS 等がある。開放式製造装置(安全キャビネット)の清浄度区分の凡例を図 A3.1 に示す。安全キャビネットは開放部があり周辺環境の状況に内部の清浄度が影響を受けるため、無菌操作等区域が設置されている清浄度管理区域の清浄度はグレード B とする必要がある。このグレード B の清浄度を維持するために隣接する部屋の清浄度をグレード C としており、さらにその周辺の清浄度をグレード D として段階的に清浄度を設定することで無菌操作等区域のグレード A を担保している。
ヒトの動線の凡例を図 A3.2 に示す。一次更衣室、二次更衣室で更衣を行い、エアーロック室を通って入室し、退出はエアーロック室を通って、脱衣室で脱衣を行って退出することにより一方通行を実現している。物の動線の凡例を図 A3.3 に示す。原料や工程資材等はパスボックスを経由して細胞調製室へ搬入する。再生医療等製品や廃棄物は対面のパスボックスから搬出することで一方通行を実現している。
差圧管理、空気の流れの凡例を図 A3.4 に示す。再生医療等製品の品質を確保するためには、清浄度を管理して外因性の汚染リスクを抑制する必要がある。そのために隣接する部屋の間に差圧を設け空気の流れを一方向に管理する。二次更衣室から細胞調製室への空気の直接的な流入を防ぐためエアーロック室(AL)を設けており、エアーロック室の差圧を最も高く設定している。

図 A3.1 開放式製造装置(安全キャビネット)(清浄度区分)

図 A3.2 開放式製造装置(安全キャビネット)(ヒトの動線)

図 A3.3 開放式製造装置(安全キャビネット)(物の動線)

図 A3.4 開放式製造装置(安全キャビネット)(差圧管理、空気の流れ)


②閉止式製造装置(アイソレータシステム)
アイソレータシステムは物理的に隔絶されておりグローブを介して間接的に無菌操作等区域に介入する構造であるため、設置されている清浄度管理区域の清浄度はグレード D 以上を加工作業の仕様に応じて適切に設定する必要がある。炭酸ガスインキュベータ等の製造設備がグレード A 内に設置されている場合は、清浄度管理区域の清浄度はグレード D に設定することができる(図 A3.5)。製造設備がグレード A 内に設置されておらず、培養容器が清浄度管理区域を経由してグレード A と製造設備(炭酸ガスインキュベータ等)の間を往復する場合は、清浄度管理区域の清浄度はグレード C 以上に設定することが望ましい(図 A3.6)。ヒトの動線、物の動線、差圧管理・空気の流れのそれぞれの凡例は開放式製造装置(安全キャビネット)と同様となる(図 A3.2、図 A3.3、図 A3.4)。

図 A3.5 閉止式製造装置(アイソレータシステム)(清浄度管理区域(グレード D))

図 A3.6 閉止式製造装置(アイソレータシステム)(清浄度管理区域(グレード C))

② 閉鎖式製造装置(容器密閉型自動培養加工装置)
無菌操作等区域に直接的、間接的にヒトが介入しないバッグやチューブで構成された容器密閉型の自動培養加工装置などの閉鎖式製造装置の場合は、設置されている清浄度管理区域の清浄度はグレード D 以上を適切に設定することができる(図 A3.7)。
ヒトの動線、物の動線、差圧管理・空気の流れのそれぞれの凡例は開放式製造装置(安全キャビネット)と同様となる(図 A3.2、図 A3.3、図 A3.4)。

図 A3.7 閉鎖式製造装置(容器密閉型自動培養加工装置)
(清浄度管理区域(グレード D))

A3.3 参考文献
1) 再生医療等製品の無菌製造法に関する指針
2)「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」の改訂について

A4. 作業室の除染

A4.1 一般要件
除染の定義としては「空間や作業室を含む構造設備に生存する微生物をあらかじめ指定された菌数レベルまで減少させる」とされている。アイソレータや RABS(Restricted Access Barrier System)などでは除染が一般的になってきているが、清浄度管理区域を中心としたヒトの介在の有る比較的広い空間においても部屋の除染等として区域の除染が行われるようになっている。区域の除染は、環境維持操作の一つであり、無菌操作を開始する際の初期化に用いられることもある。従って、空間の広さや構造物の有無にかかわらず微生物の減少には一定の効果を示さなくてはならない。除染は除染剤の性質により空間が広くなるほど効果を一定に保つことが難しい。また、効果に注視しすぎるとヒトや物への影響が大きくなる。そのため以下を必ず実施する必要がある。
①区域や構造物に応じた効果的な除染システムを確立すること
②有効性については定期的に検証すること
③ヒトや製品への安全性は常に検証すること

A4.2 除染システム
区域の除染はグレード B、C などの清浄度管理区域を対象として実施される。また、安全キャビネットなどの開放式の無菌操作等区域を設置している場合には同時に実施することもある。比較的大きな空間ならびに構造物が存在している状況下で想定する結果を安定して得るためには、除染剤の性質、発生器の位置や気流など詳細に定め、評価検証により構築しなくてはいけない。除染システム構築までの流れの例を以下に示す。
①除染対象の区域(空間体積)を定める。
②設備の規格、広さ、構造物の状況を把握する。
③除染効果の評価基準を設ける。
④除染剤を選定する。
⑤1)~4)の条件に合わせ除染剤発生位置を設定する。
⑥除染剤を対象範囲全体に拡散させるために送風機の位置を決める。
⑦バイオロジカルインジケーター(BI)を複数個所に設置し除染検証を 3 回以上繰り返す。
仕様設計時にはケミカルインジケーター(CI)なども活用することを推奨する。
⑧構築した除染プロセスのバリデーションを行う。
⑨区域や構造物に追加など変化があった場合には除染プロセスの見直しを行う。
⑩除染に関わる作業者には適切な教育を実施する。
※区域の除染は除染剤の特性によりアイソレータなどの空間に比べて非常に複雑である。除染剤によっては温度や湿度条件が僅かに異なっただけで想定した除染が確立できないことも多いため、システム確立には十分な注意を払わなくてはならない。

A4.3 除染剤と除染法
現在汎用的に使用されている除染剤と除染法を以下に示す。これらに使用されている除染剤の多くが強力な酸化力により微生物を死滅させる作用機序を利用している。そのため、設備に使用される材質に対しては事前に適合性の評価が必要となる。ここに示した除染剤・除染法以外でも、その有効性とヒトや製品への安全性が確認された除染剤は使用することができる。除染剤によっては再生医療等製品に対して影響を及ぼす可能性のあるものも存在することから除染剤選定や仕様設計の際には十分な注意を払う必要がある。以下、除染剤の事例を示す。
(1)過酸化水素
過酸化水素水を加熱することにより蒸発させ拡散し除染を行う。物理的な刺激を受けた過酸化水素が特有の酸化力により微生物を死滅させる方法である。除染後の過酸化水素は速やかに水と酸素に分解されるため安全性が高いとされている。過酸化水素は水に非常に溶け込みやすい性質を有しているため、水気の存在する環境での使用は注意しなくてはならない。また、分解速度も他の除染剤と比較すると早いため大空間や複雑な構造物の存在下では発生器の位置や気流の調整が非常に重要になる。
(2) 過酢酸(過酢酸製剤)
過酢酸水溶液と過酸化水素などの補助剤を混合した製剤をミスト状にして噴霧し拡散させることで除染を行う。過酢酸が揮発化される際に生じる強力な酸化力により微生物を死滅させる方法である。除染後は水と酢酸に分解され安全性が高いとされている。過酢酸だけでは分解が早く広範囲の除染には対応できないが、製剤にすることにより過酸化水素が可逆的な役割を果たし広範囲に酸化力のある状態で拡散することが可能となる。噴霧器により強制的に除染剤を拡散させるため湿度が上がりやすくなる。除染時に結露が発生すると腐食や変色の起こしやすくなるため十分な湿度コントロールが必要となる。
(3) 二酸化塩素
亜塩素酸ナトリウムと塩酸を混合させるなどの化学反応により二酸化塩素ガスを発生させ拡散させることで除染を行う。常温で気体であり二酸化塩素自体の強力な酸化力により微生物を死滅させる方法である。常温で安定したガスの性質から気中拡散性に優れ、大空間、複雑な構造物、HEPA フィルターの透過などでは有効である。しかし、拡散性が良いため設備構造の僅かな隙間からも外部に漏洩するため設備の事前調査は不可欠となる。

※使用する除染剤によっては、気中濃度、温度、湿度(絶対、相対)、気流、接触時間等の条件設定が複雑となるため専門的な知見を有すると認められた者の下、実施することが望まれる。また、自らで実施が困難と判断された場合には除染システムの構築を含め専門家へ委託することを推奨する。

A4.4 評価法
区域の除染の場合、一般的にはバイオロジカルインジケーター(BI)を用いて除染効果の評価を行う。評価基準として日本薬局方参考情報では無菌操作等区域内(アイソレータなど)の場合指標菌である芽胞の 6 Log 以上減少、清浄度管理区域などの作業室では芽胞の 3 Log 以上減少としている。しかし、日常的な清掃や定期的なサニテーションなどにより汚染リスクが低いと判断された場合にはリスクベースで評価基準を自ら設定することができる。バイオロジカルインジケーター(BI)は培養法により、生残菌の有無を確認する方法が一般的である。また、培養法以外に同等以上の評価が可能な方法であれば使用することができる(微生物迅速法など)。バイオロジカルインジケーターの評価において○Log 以上減少と全数死滅とは意味が異なる。例えば、103 CFU のバイオロジカルインジケーターを用いて指標菌の芽胞が 3 Log 以上減少することを実証する場合,除染後のバイオロジカルインジケーターを全数死滅させることが要件ではない 1 か所に複数のバイオロジカルインジケーター(BI)を設置することにより統計学的解析手法を用いることも可能である。定期的に実施される除染プロセスにおいてバリデーションで想定する結果が常に得られると判断された場合には必要なパラメータの監視を行うことによりバイオロジカルインジケーター(BI)での評価を省略することも可能である。その場合バイオロジカルインジケーター(BI)を用いた定期的な検証は必須である。また、バイオロジカルインジケーター(BI)以外にも同等の評価が可能と判断された高精度のケミカルインジケーター(CI)の採用を検討してもよい。

A4.5 留意事項
①除染は空間に蒸散や噴霧などにより拡散させるため、空気中の微生物を対象としているように思われがちだが、主に空間や設備の表面に存在する微生物を対象としており物理的に拭き上げや清拭による消毒では困難な場所に対して効果的に消毒を行う方法である。
②除染を行う際には工程において発生した飛沫や、たんぱく質や油分などの汚れを事前に清浄化することが前提となる。常にドライな環境が維持されており日常の清掃や、定期的なサニテーションにより飛沫や汚れのリスクは低いと判断された場合はその限りではない。
③区域除染では除染剤により除染機器が複雑に構築されているものが存在する。除染対象エリアに外部から持ち込む際には現在の状態よりも微生物汚染を拡散させてしまう恐れがあることから適切な処置をとって持ち込む必要がある。

引用関連規格

7. 参考規格等
・再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
・再生医療等製品の無菌製造法に関する指針(平成 23 年 4 月 20 日厚生労働省事務連絡)
・無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針(平成 23 年 11 月 28 日厚生労働省事務連絡)
・ISO13408-1 ヘルスケア製品の無菌操作-第 1 部:一般要求事項
・ISO13408-7 ヘルスケア製品の無菌操作-第 7 部:医療機器及び複合製品の代替プロセス
・ISO18362 細胞ベースのヘルスケア製品の製造―操作中の微生物リスクの管理
・品質リスクマネジメントに関するガイドライン(平成 18 年 9 月 1 日厚生労働省薬食審査発第 0901004 号/薬食監麻発第 0901005 号)
・再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造におけるチェンジオーバーに関するガイドライン2019(手引き)(令和元年 12 月)
・再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造装置についての設計ガイドライン2
021(手引き)(令和 3 年 8 月)

Appendix

A1. 細胞製造性【工程設計】

A1.1 細胞製造性とは
生きた細胞を製品とする再生医療等製品の製造を安定化させるためには、細胞製造性を考慮した製造工程を構築する必要がある。細胞製造性とは、「生物学的見地と工学的見地を理解し橋渡しした工程による、細胞の製造に対する可能性」と定義されている1)。すなわち、細胞製造性を考慮するとは、細胞側が受ける生物学的な反応に対する、操作側が施す工学的なパラメータをそれぞれ理解した上で、それらを結びつけることが重要となる。

A1.2 細胞製造性を考慮した製造工程構築における設備設計
再生医療等製品の製造では、図 A1.1 に示すように、原料細胞を含む原料等を入力として、製造工程を通して、最終製品を出力とした際に、工程および製品の安定性を損なう変動を考慮したシステムを構築する必要がある。適切なシステムを構築するためには、その運用を含む設備設計は、無菌医薬品製造と同様に、製造工程に対する外乱(外因性の汚染)による影響を制御できることが前提となる。この時、製造工程に対する原料等の受け入れおよび導入では、ユーザー側が予め設定した規格を満たすものが受け入れ可能となるようにするとともに、導入時に外因性の汚染が混入しないように留意する必要がある。
製造工程は、原料であり製品である細胞が不確定であり、評価が困難であるため、堅牢かつ再現性が高い手順でなければならない。この時、細胞製造性における重要な点として、内なる乱れを考量する要求が生じる。細胞は、自らが反応に依存する変化を逐次的に引き起こすことで、プロセスに内部的なバラツキを生じさせる。具体的には、時間に依存してその性質を変化させ(時間依存性)、変化時においては、表現型として提示されるまでに反応開始時点から時間がかかること(時間遅発性)があげられる。加えて、作業者側の視点では、目的細胞が得られたかの判定は、検出開始から結果が出るまでのタイムラグが存在する(時間遅延性)。多くの製造では、製造期間が長期かつ複数の一連の工程群を関連付けて実施する為、内なる乱れが累積することで製品品質の変動によるバラツキが助長すると考えられる。また、工程群はこれらの変動と結びついているために、個別に解析・代替することが難しい。工程手順に関わる設備設計時においては、これらの特性を理解し、変動を最小化することや、変動の互換性を確保することが要求される。

図 A1.1 細胞製造における種々の変動の概念図

A1.3 参考文献
1) Kino-oka M., Mizutani M., Medcalf N. Cell manufacturability. Cell Gene Therapyinsights 2019

A2. アイソレータシステム

A2.1 アイソレータの歴史的経緯
ISOLATOR TECHNOLOGY1) によれば、アイソレータ技術は 1957 年に英国の原子力プラントでハザード物質を扱うアイソレータから始まったものとされる。日本では、1994 年頃より無菌製剤の組み立て用として国内製薬に導入され、現在では多くの企業に採用されている。規制当局によるアイソレータのガイドラインとしては、1997 年 EU-GMP2)の Annex、 2004 年 FDA c-GMP3)に記載されている。これらの流れから、各国のガイドラインに収載されるようになり、多くの団体によるアイソレータを含めたバリアシステムに関するカンファレンスが活発に行われるようになった。さて、国際標準では ISO13408-6 は ISO/TC198 WG9 で討議され 2005 年に初版を発行し、途中小規模な改訂を挟み 2020 年に大幅な改訂が行われ、正式発行直前となっている。各国のガイドラインと ISO13408-6 の最も大きな違いは Isolator と Isolator systems を明確に区別していることである。本章では ISO の国際標準の会議で合意された事項を中心にアイソレータシステムについて説明する。
ISO13408-6 と各国のガイドラインにおけるアイソレータの定義を記載する。

(1)ISO13408-6 (ISO FDIS 13408-6)4)
・isolator
<aseptic processing> enclosure capable of preventing ingress of contaminants by means of physical separation of the interior from the exterior that is capable of being subject to reproducible interior biodecontamination and where operators always remain separated from the interior of the enclosure by means of an absolute physical barrier.
Note 1 to entry: If containment requirements apply (i.e. aseptic processing of hazardous materials) egress also has to be prevented.
[SOURCE: ISO 11139:2018, 3.149]
・isolator system isolator (3.4) with transfer system(s), and ancillary isolator equipment (3.1) [SOURCE: ISO 11139:2018, 3.150]

(2) 無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針アイソレータ(isolator): 環境及び職員の直接介入から物理的に完全に隔離された無菌操作区域を有する装置であって,除染した後に HEPA フィルター又は ULPA フィルター(ultra low penetration air filter)によりろ過した空気を供給し,外部環境からの汚染の危険性を防ぎながら連続して使用することができる装置をいう.

(3) PIC/S Annex 1 (glossary)
Isolator – A decontaminated unit, with an internal work zone meeting Grade A conditions that provides uncompromised, continuous isolation of its interior from the external environment (e.g. surrounding cleanroom air and personnel). There are two major types of isolators
i. Closed isolator systems exclude external contamination of the isolator’s interior by accomplishing material transfer via aseptic connection to auxiliary equipment, rather than use of openings to the surrounding environment. Closed systems remain sealed throughout operations.
ii. Open isolator systems are designed to allow for the continuous or semi-continuous ingress and/or egress of materials during operations through one or more openings. Openings are engineered (e.g. using continuous overpressure) to exclude the entry of external contaminant into the isolator.

A2.2 国際標準におけるアイソレータシステムの合意
各ガイドラインにおける定義は記載通りであるが、アイソレータとアイソレータシステムを明確に区別しているのは、ISO 文書だけであり、ISO 国際会議での各国のコンセンサスとしては以下の通りとなる。
①アイソレータシステムはアイソレータを含むものであり、アイソレータとそれに付随する周辺装置(例:除染装置や空調装置、その他の補助装置)を組み込むことによって、アイソレータシステムとして機能する。アイソレータシステムにより、アイソレータ内の重要なプロセスゾーンが保護される。
②アイソレータシステムは”open”や”closed” のアイソレータシステム の選択、アイソレータインターフェース、周辺環境などを QRM(Quality risk management)により全ての構成要素について汚染制御と製品に関連したリスクを評価すべきである。
この国際標準における「アイソレータ」の定義は「再現性のある除染を行うことができ、外部から内部を物理的に隔離することで汚染物侵入を防止することができるもので、絶対的な物理的障壁によりオペレータが内部から常に隔離された囲い.」とされ、日本のガイドラインを含めて多くのガイドラインと大差ない記述となった。また、「アイソレータシステム」の定義については、「移送装置やアイソレータの補助装置が付属したアイソレータ」として正式に合意した。

A2.3 国際標準におけるアイソレータシステムの基本原則
形式知または暗黙知として蓋然的に理解されていたアイソレータシステムの主な基本原則として、以下の事項が標準文書として記述された。
①アイソレータシステムを出入りする物質はアイソレータ内の管理された環境の品質を維持するうえで主要なリスクであり、アイソレータへの物質の出入りは管理された移送装置を経由して微生物的除染を行う必要がある。
②アイソレータシステムはその構成と運用によりオープンアイソレータシステム / クローズドアイソレータシステムに分類され、オープンアイソレータシステムは気流のバリアにより周辺環境と分離し、クローズドアイソレータシステムは物理的なバリアにより周辺環境と分離する。
③製品への直接接触面は滅菌されていなければならず、オペレータは物理的なバリア(グローブなど)を介してアイソレータ内へアクセスする必要がある。
アイソレータシステムの基本概念図として図 A2.1 を添付する。この基本概念図は日本より提案し、国際合意された、経済産業省支援事業「平成 29 年度戦略的国際標準化加速事業:再生医療製品の製造に対して有効なフレキシブルモジュラープラットホームの要となる無菌接続インターフェースに関する国際標準化」及び「再生医療の産業化に向けた細胞製造・加工システムの開発/ヒト多能性幹細胞由来の再生医療製品製造システムの開発(心筋・神経・網膜色素上皮・肝細胞)」の成果である。図中の 2 種類のトランスファーポートは、無菌接続インターフェースを国際標準として表したものである。

図 A2.1 アイソレータシステム 定義と気流や物の流れを示した基本原則図 5), 6)

A2.4 参考文献
1) Carmen M. Wagner, James E. Akers. ISOLATOR TECHNOLOGY: Applications in the
Pharmaceutical and Biotechnology Industries. Interpharm Press, Inc. 1995
2) EU-GMP: EU Guide to Good Manufacturing Practice 1997
3) FDA: Sterile Drug Products Produced by Aseptic processing 2004
4) ISO: ISO/FDIS 13408-6 Aseptic processing of health care products —Part 6: Isolator systems
5) 経済産業省: 無菌接続インターフェース設計ガイドライン 2012
6) 経済産業省支援事業「平成 29 年度戦略的国際標準化加速事業:再生医療製品の製造に対して有効なフレキシブルモジュラープラットホームの要となる無菌接続インターフェースに関する国際標準化」

A3. 設備設計の考え方と凡例

A3.1 設備設計の考え方
「再生医療等製品の無菌製造法に関する指針」1)では構造設備は、作業所における製造に必要な環境を維持するための建築物や設備とされている。再生医療等製品の製造を行うための設備は、外因性の汚染を防止して無菌性を担保し、安全性や品質を確保できるように設計する必要があり、外部からの汚染防止、交叉汚染防止、取り違え防止を実現するために、清浄度区分管理、ヒトと物の動線管理、室圧管理、風向管理、更衣管理、換気回数管理などを考慮し、無菌操作等区域を構成する設備の特性に応じて設計する必要がある。容器を
開放して無菌操作を行う筐体密閉型の設備に求められる基本要求は次の通りである。

(1)清浄度区分管理
GCTP 省令では、清浄度の考え方として定量的な清浄度区分(グレード A~D 等)は設定されておらず、再生医療等製品の製造性を考慮して適用区域(無菌操作等区域、清浄度管理区域)を規定することとなっている。但し、「再生医療等製品の無菌製造法に関する指針」
1)には、無菌操作等区域は、微生物及び微粒子を許容レベル以下に制御するために、供給する空気、原料等及び工程資材、設備並びに職員を高度に管理した環境であるため、その清浄度レベルは「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」2)で規定されているグレード A にすることが記載されている(表 A3.1)。また、清浄度管理区域は役割に応じた清浄度レベルが要求されるため、作業内容に適したグレード D 以上の清浄度レベルを設定することが記載されている。

表 A3.1 清浄区域の分類(出典:無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針 2))

清浄度管理区域の清浄度レベルは、無菌操作等区域に隣接する区域か隣接しない区域か、また無菌操作等区域に隣接する区域においては、無菌操作等区域を構成する設備の特性に応じて適切に設定する必要がある。無菌操作等区域を構成する設備は、現状の技術レベルにおいて次のような大分類が考えられる。
①開放式製造装置(例:安全キャビネット、RABS 等)
②閉止式製造装置(例:アイソレータシステム)
③閉鎖式製造装置(例:容器密閉型自動培養加工装置)

無菌操作等区域を構成する設備に隣接する清浄度管理区域の清浄度レベルは、設備の仕様に応じて適切に設定する必要がある。また、その周辺の清浄度レベルを段階的に設定することにより、無菌操作等区域の清浄度レベルを担保するように設備を設計する必要がある。今後の技術開発の進展に伴い、無菌操作等区域を構成する新しい設備が提案された場合でも、清浄度レベルを担保する方法に関しては基本的に同様の考え方とすることが望ましい。

(2) ヒトと物の動線管理
交叉汚染防止や取り違え防止のために、ヒトと物の動線は極力一方通行とすることが望ましい。構造的に一方通行とすることが難しい場合は、作業に時間差を設けるなど運用管理により対応する。ヒトと物の動線は分けることが望ましく、搬入出の多い動線は最短になるように配置することが望ましい。

(3) 室圧管理
外部から室内への汚染を抑えるために室圧を管理する必要がある。清浄度の高い部屋の室圧を隣接する部屋の室圧より高くすることで清浄度を維持する。封じ込めを行う必要がある場合は、対象の部屋の室圧を隣接する部屋の室圧より低くすると同時に外部汚染を防止できるように室圧調整可能な機器やシステムを設定する。いずれの場合も、室圧に逸脱がないことを確認するためにモニタリングを行う。

(4) 風向管理
HEPA フィルターを通った清浄空気は天井から吹き出し、側壁などから吸い込むことで一方向気流を作ることができる。風上側には高い清浄度が求められる製造設備を設置し、風下側にはエアロゾル等を発生しやすい製造設備を設置する。

(5) 更衣管理
更衣室を適切な場所に設置して差圧管理を行う。無菌操作等区域に隣接する清浄度管理区域の室圧を高く設定することで無菌操作等区域の清浄度を保持する。入退出においては、着衣室と脱衣室は別々に設置することが望ましい。

(6) 換気回数管理
ヒトは最大の汚染源であり、無塵衣を着用していても微粒子の放出を防止することは難しい。よって、部屋の空気を 1 時間当たり適切な回数だけ HEPA フィルターを通過させて清浄化する必要がある。再生医療等製品の無菌製造法に関する指針 1)では、グレード B の部屋では 30 回/h、グレード C の部屋では 20 回/h を確保することが望ましいとされている。

A3.2 設備設計の凡例
無菌操作等区域を構成する設備の種類(A4.1(1))に応じて作業所を構成する設備の凡例を示す。
① 開放式製造装置(安全キャビネット、RABS 等)
設備において開放式製造装置は安全キャビネットや RABS 等がある。開放式製造装置(安全キャビネット)の清浄度区分の凡例を図 A3.1 に示す。安全キャビネットは開放部があり周辺環境の状況に内部の清浄度が影響を受けるため、無菌操作等区域が設置されている清浄度管理区域の清浄度はグレード B とする必要がある。このグレード B の清浄度を維持するために隣接する部屋の清浄度をグレード C としており、さらにその周辺の清浄度をグレード D として段階的に清浄度を設定することで無菌操作等区域のグレード A を担保している。
ヒトの動線の凡例を図 A3.2 に示す。一次更衣室、二次更衣室で更衣を行い、エアーロック室を通って入室し、退出はエアーロック室を通って、脱衣室で脱衣を行って退出することにより一方通行を実現している。物の動線の凡例を図 A3.3 に示す。原料や工程資材等はパスボックスを経由して細胞調製室へ搬入する。再生医療等製品や廃棄物は対面のパスボックスから搬出することで一方通行を実現している。
差圧管理、空気の流れの凡例を図 A3.4 に示す。再生医療等製品の品質を確保するためには、清浄度を管理して外因性の汚染リスクを抑制する必要がある。そのために隣接する部屋の間に差圧を設け空気の流れを一方向に管理する。二次更衣室から細胞調製室への空気の直接的な流入を防ぐためエアーロック室(AL)を設けており、エアーロック室の差圧を最も高く設定している。

図 A3.1 開放式製造装置(安全キャビネット)(清浄度区分)

図 A3.2 開放式製造装置(安全キャビネット)(ヒトの動線)

図 A3.3 開放式製造装置(安全キャビネット)(物の動線)

図 A3.4 開放式製造装置(安全キャビネット)(差圧管理、空気の流れ)

②閉止式製造装置(アイソレータシステム)
アイソレータシステムは物理的に隔絶されておりグローブを介して間接的に無菌操作等区域に介入する構造であるため、設置されている清浄度管理区域の清浄度はグレード D 以上を加工作業の仕様に応じて適切に設定する必要がある。炭酸ガスインキュベータ等の製造設備がグレード A 内に設置されている場合は、清浄度管理区域の清浄度はグレード D に設定することができる(図 A3.5)。製造設備がグレード A 内に設置されておらず、培養容器が清浄度管理区域を経由してグレード A と製造設備(炭酸ガスインキュベータ等)の間を往復する場合は、清浄度管理区域の清浄度はグレード C 以上に設定することが望ましい(図 A3.6)。ヒトの動線、物の動線、差圧管理・空気の流れのそれぞれの凡例は開放式製造装置(安全キャビネット)と同様となる(図 A3.2、図 A3.3、図 A3.4)。

図 A3.5 閉止式製造装置(アイソレータシステム)(清浄度管理区域(グレード D))

図 A3.6 閉止式製造装置(アイソレータシステム)(清浄度管理区域(グレード C))

② 閉鎖式製造装置(容器密閉型自動培養加工装置)
無菌操作等区域に直接的、間接的にヒトが介入しないバッグやチューブで構成された容器密閉型の自動培養加工装置などの閉鎖式製造装置の場合は、設置されている清浄度管理区域の清浄度はグレード D 以上を適切に設定することができる(図 A3.7)。
ヒトの動線、物の動線、差圧管理・空気の流れのそれぞれの凡例は開放式製造装置(安全キャビネット)と同様となる(図 A3.2、図 A3.3、図 A3.4)。

図 A3.7 閉鎖式製造装置(容器密閉型自動培養加工装置)
(清浄度管理区域(グレード D))

A3.3 参考文献
1) 再生医療等製品の無菌製造法に関する指針
2)「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」の改訂について

A4. 作業室の除染

A4.1 一般要件
除染の定義としては「空間や作業室を含む構造設備に生存する微生物をあらかじめ指定された菌数レベルまで減少させる」とされている。アイソレータや RABS(Restricted Access Barrier System)などでは除染が一般的になってきているが、清浄度管理区域を中心としたヒトの介在の有る比較的広い空間においても部屋の除染等として区域の除染が行われるようになっている。区域の除染は、環境維持操作の一つであり、無菌操作を開始する際の初期化に用いられることもある。従って、空間の広さや構造物の有無にかかわらず微生物の減少には一定の効果を示さなくてはならない。除染は除染剤の性質により空間が広くなるほど効果を一定に保つことが難しい。また、効果に注視しすぎるとヒトや物への影響が大きくなる。そのため以下を必ず実施する必要がある。
①区域や構造物に応じた効果的な除染システムを確立すること
②有効性については定期的に検証すること
③ヒトや製品への安全性は常に検証すること

A4.2 除染システム
区域の除染はグレード B、C などの清浄度管理区域を対象として実施される。また、安全キャビネットなどの開放式の無菌操作等区域を設置している場合には同時に実施することもある。比較的大きな空間ならびに構造物が存在している状況下で想定する結果を安定して得るためには、除染剤の性質、発生器の位置や気流など詳細に定め、評価検証により構築しなくてはいけない。除染システム構築までの流れの例を以下に示す。
①除染対象の区域(空間体積)を定める。
②設備の規格、広さ、構造物の状況を把握する。
③除染効果の評価基準を設ける。
④除染剤を選定する。
⑤1)~4)の条件に合わせ除染剤発生位置を設定する。
⑥除染剤を対象範囲全体に拡散させるために送風機の位置を決める。
⑦バイオロジカルインジケーター(BI)を複数個所に設置し除染検証を 3 回以上繰り返す。
仕様設計時にはケミカルインジケーター(CI)なども活用することを推奨する。
⑧構築した除染プロセスのバリデーションを行う。
⑨区域や構造物に追加など変化があった場合には除染プロセスの見直しを行う。
⑩除染に関わる作業者には適切な教育を実施する。
※区域の除染は除染剤の特性によりアイソレータなどの空間に比べて非常に複雑である。除染剤によっては温度や湿度条件が僅かに異なっただけで想定した除染が確立できないことも多いため、システム確立には十分な注意を払わなくてはならない。

A4.3 除染剤と除染法
現在汎用的に使用されている除染剤と除染法を以下に示す。これらに使用されている除染剤の多くが強力な酸化力により微生物を死滅させる作用機序を利用している。そのため、設備に使用される材質に対しては事前に適合性の評価が必要となる。ここに示した除染剤・除染法以外でも、その有効性とヒトや製品への安全性が確認された除染剤は使用することができる。除染剤によっては再生医療等製品に対して影響を及ぼす可能性のあるものも存在することから除染剤選定や仕様設計の際には十分な注意を払う必要がある。以下、除染剤の事例を示す。
(1)過酸化水素
過酸化水素水を加熱することにより蒸発させ拡散し除染を行う。物理的な刺激を受けた過酸化水素が特有の酸化力により微生物を死滅させる方法である。除染後の過酸化水素は速やかに水と酸素に分解されるため安全性が高いとされている。過酸化水素は水に非常に溶け込みやすい性質を有しているため、水気の存在する環境での使用は注意しなくてはならない。また、分解速度も他の除染剤と比較すると早いため大空間や複雑な構造物の存在下では発生器の位置や気流の調整が非常に重要になる。
(2) 過酢酸(過酢酸製剤)
過酢酸水溶液と過酸化水素などの補助剤を混合した製剤をミスト状にして噴霧し拡散させることで除染を行う。過酢酸が揮発化される際に生じる強力な酸化力により微生物を死滅させる方法である。除染後は水と酢酸に分解され安全性が高いとされている。過酢酸だけでは分解が早く広範囲の除染には対応できないが、製剤にすることにより過酸化水素が可逆的な役割を果たし広範囲に酸化力のある状態で拡散することが可能となる。噴霧器により強制的に除染剤を拡散させるため湿度が上がりやすくなる。除染時に結露が発生すると腐食や変色の起こしやすくなるため十分な湿度コントロールが必要となる。
(3) 二酸化塩素
亜塩素酸ナトリウムと塩酸を混合させるなどの化学反応により二酸化塩素ガスを発生させ拡散させることで除染を行う。常温で気体であり二酸化塩素自体の強力な酸化力により微生物を死滅させる方法である。常温で安定したガスの性質から気中拡散性に優れ、大空間、複雑な構造物、HEPA フィルターの透過などでは有効である。しかし、拡散性が良いため設備構造の僅かな隙間からも外部に漏洩するため設備の事前調査は不可欠となる。

※使用する除染剤によっては、気中濃度、温度、湿度(絶対、相対)、気流、接触時間等の条件設定が複雑となるため専門的な知見を有すると認められた者の下、実施することが望まれる。また、自らで実施が困難と判断された場合には除染システムの構築を含め専門家へ委託することを推奨する。

A4.4 評価法
区域の除染の場合、一般的にはバイオロジカルインジケーター(BI)を用いて除染効果の評価を行う。評価基準として日本薬局方参考情報では無菌操作等区域内(アイソレータなど)の場合指標菌である芽胞の 6 Log 以上減少、清浄度管理区域などの作業室では芽胞の 3 Log 以上減少としている。しかし、日常的な清掃や定期的なサニテーションなどにより汚染リスクが低いと判断された場合にはリスクベースで評価基準を自ら設定することができる。バイオロジカルインジケーター(BI)は培養法により、生残菌の有無を確認する方法が一般的である。また、培養法以外に同等以上の評価が可能な方法であれば使用することができる(微生物迅速法など)。バイオロジカルインジケーターの評価において○Log 以上減少と全数死滅とは意味が異なる。例えば、103 CFU のバイオロジカルインジケーターを用いて指標菌の芽胞が 3 Log 以上減少することを実証する場合,除染後のバイオロジカルインジケーターを全数死滅させることが要件ではない 1 か所に複数のバイオロジカルインジケーター(BI)を設置することにより統計学的解析手法を用いることも可能である。定期的に実施される除染プロセスにおいてバリデーションで想定する結果が常に得られると判断された場合には必要なパラメータの監視を行うことによりバイオロジカルインジケーター(BI)での評価を省略することも可能である。その場合バイオロジカルインジケーター(BI)を用いた定期的な検証は必須である。また、バイオロジカルインジケーター(BI)以外にも同等の評価が可能と判断された高精度のケミカルインジケーター(CI)の採用を検討してもよい。

A4.5 留意事項
①除染は空間に蒸散や噴霧などにより拡散させるため、空気中の微生物を対象としているように思われがちだが、主に空間や設備の表面に存在する微生物を対象としており物理的に拭き上げや清拭による消毒では困難な場所に対して効果的に消毒を行う方法である。
②除染を行う際には工程において発生した飛沫や、たんぱく質や油分などの汚れを事前に清浄化することが前提となる。常にドライな環境が維持されており日常の清掃や、定期的なサニテーションにより飛沫や汚れのリスクは低いと判断された場合はその限りではない。
③区域除染では除染剤により除染機器が複雑に構築されているものが存在する。除染対象エリアに外部から持ち込む際には現在の状態よりも微生物汚染を拡散させてしまう恐れがあることから適切な処置をとって持ち込む必要がある。

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

2020-10-01

WG終了年月

2021-02-01

WGメンバー

再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG 委員

座長 紀ノ岡 正博   大阪大学大学院 工学研究科 生物工学専攻生物プロセスシステム工学領域 教授
秋枝 静香       株式会社サイフューズ 代表取締役
天野 健太郎     株式会社竹中工務店 技術研究所 未来空間研究部 精密環境グループ長 池松 靖人 株式会社日立プラントサービス フロントソリューション本部
           大阪大学 日立プラントサービス再生医   療協働研究所 所長
牛田 多加志      東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 教授 梅澤 明弘 国立研究開発法人国立成育医療研究センター再生医療センター センター長
小川 祐樹       大阪大学医学部附属病院 未来医療開発部 特任研究員 小久保 護 澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監 中村 浩章 アース環境サービス株式会社 開発本部 学術部 課長 風呂光 俊平       味の素株式会社 バイオ・ファイン研究所 マテリアル&テクノロジーソリューション研究所
           素材開発研究室 バイオ医薬培地グループ 主任研究員
水谷 学       一般社団法人 免疫細胞療法実施研究会 理事
山本 宏       日本エアーテック株式会社 管理本部 企画部 部長 若松 猪策無 株式会社メディネット 経営管理部 サイエンティフィックアドバイザー


再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG
ガイドライン(手引き)素案検討タスクフォース委員会

坂井 一郎 日立造船株式会社機械事業本部 システム機械ビジネスユニット 設計部 電子線グループ長
谷本 和仁 澁谷工業株式会社 プラント生産統轄本部
       製薬設備技術本部 製薬設備技術Ⅱ部 兼 再生医療システム本部 部長代理

報告書(PDF)

2022-E-RE-057-R2-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report