骨折整復支援装置

ガイドラインID 2010-HN-DE-003
発出年月日 2010-01-18
発出番号 平成22年1月18日付薬食機発0118第1号
WG名 ナビゲーション医療(整形外科分野)審査ガイドラインWG
制度名 次世代医療機器・再生医療等製品評価指標(審査ガイドライン)
製品区分 医療機器
分野

ナビゲーション医療

GL日本語版ファイル

2010-HN-DE-003 骨折整復支援装置

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.はじめに
近年わが国では高齢化に伴い大腿骨近位部骨折などの下肢の骨折が増加している。この骨折は、自立性を喪失しうる重大な外傷であり、低侵襲で正確に治療することが求められている。下肢骨折の治療において、低侵襲に金属内固定材料で正確かつ強固に固定できれば早期離床が可能で、合併症を防ぎ、患者の自立性を維持でき、治療期間の短縮と再手術の減少により医療費節減にもつながる。しかしながら、骨折整復が不完全であれば優れた内固定材でも強固な固定が困難で、三次元的に正確な骨折の整復がすべての治療の基本である。
現状の骨折整復操作においては、(1)骨折部の状態を2次元画像から推定しているため “整復精度“に限界があること、(2)整復確認のためX線透視を繰り返すことによる“X線被曝“(医療者と患者)があること、(3)牽引・ねじり操作を繰り返すため“労力を要する(非力な術者には負担が大きい)“こと、などの問題点が挙げられる。このような状況下、整形外科ナビゲーション領域での新たな機器開発が行われており、整形外科領域で必要とされている各種骨折手術用ナビゲーションや骨折整復支援装置などが開発され、臨床研究の緒に就いている。
しかし、わが国においてこれらの革新的な医療機器の開発研究は盛んに行われているが、臨床応用への展開は、諸外国に比べて遅れていると言える。その理由として次世代医療機器の臨床応用にあたり、明確なる評価指標がないことが一因と考えられる。このような状況を踏まえ、骨折整復支援装置について科学的根拠を基盤にした品質、有効性及び安全性の評価を、適正かつ迅速に進めるために、本評価指標を作成した。

2.本評価指標の対象
本評価指標は、下記に示す骨折整復支援装置を対象とする。
(1) 下肢牽引手術台の足部牽引装置に駆動装置を付加したもの(医師による操作を機器の作用点で再現する製品)
(2) 術中の X 線透視画像を参照しながら医師が下肢を牽引・回旋する動作に装置が受動的に追従して力の補助を行なうもの(同上)
(3) 術前又は術中のCT画像又は三次元X線画像(3DXR 画像)に基づいて医師が整復目標を決定し、医師の操作下に能動的に下肢を牽引・回旋整復するもの(同上)
(4) 術前又は術中のCT画像又は3DXR 画像に基づいて医師が整復目標を決定し、整復動作計画を機器が計算し、医師の承認下で自動的に下肢を牽引・回旋整復するもので、骨折両端骨片に刺入した金具を把持し、そこに整復力を加えるものを含む。(機器が提示した動作計画を医師がリアルタイムで許可することにより作動し、かつ事前に医師により入力された情報を反映してナビゲーションシステムに情報が提示される製品)

3.本評価指標の位置づけ
本評価指標は、技術開発の著しい機器を対象とするものであることを勘案し、問題点、留意すべき事項を網羅的に示したものではなく、現時点で考えられる点について示したものである。よって、今後の更なる技術革新や知見の集積等を踏まえ改訂されるものであり、申請内容に関して拘束力を有するものではない。
骨折整復支援装置の評価にあたっては、個別の製品の特性を十分理解した上で、科学的な合理性をもって柔軟に対応することが必要である。
なお、本評価指標の他、国内外のその他の適切な関連ガイドラインを参考にすることも考慮すべきである。

GL:本体

4.評価に当たって留意すべき事項
(1)基本的事項
①開発の経緯、品目仕様(装置全体のサイズ及び重量など)、国内外での使用状況、設計開発と装置の原理、目標とされる使用方法等を明確にする。また、考慮すべきリスクと期待される効果のバランスについて評価する。
②装置全体の安全性や操作性が確保されているか、という観点から以下の事項に対する影響の可能性について評価する。 a) 手術室への搬送時の安定性
・重量(使用場所の床に要求される耐荷重条件)
・寸法(格納時も含めて)
・安定性(転倒防止対策)
・移動補助駆動の有無とその性能、及び停止性能
・労働安全(衝突安全性など) b) 手術室設置後の安全性
・始業点検
・転倒防止
・地震対策
・洗浄対策(再使用のための洗浄が容易かどうか等)
c) 電気的安全性(漏電など)
d) 機器の騒音、振動
e) 他の医療機器(麻酔器、電気メス、ナビゲーション機器、放射線発生装置など)との相互作用による影響
f) 生物学的安全性(損傷表面等に接触する部位及び体内外を貫く部分))
g) 機械的性能(位置的な精度(パワーアシスト機器の場合を除く。以下同じ。)、応答性及び再現性)
h) ソフトウェア
i) 機械的安全機構(アラーム、生体へ障害を及ぼす過負荷防止機能)
・安全機構が作動する移動距離、牽引力及び回旋力の設定根拠などを示す。
j) 緊急停止対策
・緊急停止装置及びその構造
・緊急停止する条件(術者の意に反する誤動作、安全機構作動時など)
・停止中の患者及び医療従事者への安全性の確保(装置姿勢保持など)
・緊急停止後装置の再稼働の容易性
・代替手術への変更
k) 停電対策(予備電源の要否など)
l) 誤操作予防対策(ユーザーインターフェース)
m) 医療従事者に対する安全性
n) 患者と装置の接続部での安全性(足部装置との確実な連結法)
o) 手術清潔野で骨に挿入した金具と連結した場合の接続部の安全性(2.(4)に示す製品の場合。)
p) 保守点検
q) トレーニング計画の必要性とその内容

(2) 非臨床試験
以下の各事項についてそれぞれ具体的なデータ又は考察をもって明らかにし、装置の安全性及び有効性の評価を適切に行うこと。なお、JIS等の規格への適合を示すことによって評価できる場合もある。
①骨折整復支援装置の物理的・機械的安全性及び耐久性の評価
a) 手術台との装置連結による手術台への影響
b) 装置設置後の安全性(機械的安定性)
c) 他機器、使用者、患者との干渉(手術操作を妨げない空間的配置)
d) 耐久性
e) 発熱対策
f) 腐食対策
g) 耐水性
h) 耐衝撃性
i) 装置及び患者の位置ずれに対する対策
・手術台との連結(ロック機構など)
②駆動制御装置の性能、物理的・機械的安全性、信頼性及び耐久性(必要に応じ、モデル骨又は遺体骨評価試験を含む。) a) 位置的な精度、応答性及び再現性
・臨床的有効性を想定した装置の位置的な精度、応答性及び再現性の根拠
b) 移動範囲
・動作距離と角度の設定根拠
c) 装置出力
・最大出力の設定根拠
d) 動作速度
・最大速度の設定根拠
e) 最大出力制限装置(機械的安全機構)の規格(最大力又は最大移動距離など)の妥当性
f) 信頼性及び耐久性に関しての具体的な対策
g) 装置の動作状況の表示
h) 制御のロジック(動作モード)の種類とその妥当性の確認 i) 自己診断機能
③エネルギー関連機器の性能、物理的・機械的安全性及び耐久性
a) 消費電力の妥当性(発熱含む)
b) 電源コネクターの耐水性、耐衝撃性
c) 電気ケーブルの耐久性(劣化、破損対策)
d) 電気エネルギー以外の場合の種類とその妥当性
④生物学的安全性(損傷表面等に接触する部位及び体内外を貫く部分)
⑤電気的安全性 (参考:ISO14708-1, IEC60601-1)
⑥使用目的を勘案した際の信頼性及び耐久性評価の妥当性
⑦無菌性(損傷表面等に接触する部位及び体内外を貫く部分)

(3) 臨床試験(治験)の必要性について
医療機器の臨床的な有効性及び安全性が性能試験、動物試験等の非臨床試験成績又は既存の文献等のみによっては評価できない場合に臨床試験(治験)の実施が必要となり、臨床試験成績に関する資料の提出が求められる。また、その性能、構造等が既存の医療機器と明らかに異なる医療機器(新医療機器)に該当するものについては、原則として臨床試験の試験成績に関する資料の提出が必要である。2(1)及び(2)に示すような製品では、非臨床試験データのみでその有効性及び安全性を評価することが可能な場合がある。一方、2(4)のような製品では治験の実施が必要になる可能性が高いが、臨床試験の試験成績に関する資料の要否については、個々の医療機器の特性、既存の医療機器との同等性、非臨床試験の試験成績等により総合的に判断されることから、その判断には必要に応じ、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の臨床評価相談又は申請前相談を活用することが望ましい。

GL:付属資料

【関連規格及び参考資料】

(薬事関連)
1.平成17年2月16日付け薬食機発第0216003号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「医療機器の製造販売承認申請書添付資料概要作成の手引きについて」
2.平成16年11月15日付け医療機器審査 No.19厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室事務連絡「医療用具の有効性、安全性評価手法に関する国際ハーモナイゼーション研究『医療用具の製造(輸入)承認申請書における原材料記載について』の報告書の送付について」
3. 平成15年2月13日付け医薬審発第0213001号厚生労働省医薬局審査管理課長通知「医療用具の製造(輸入)申請に必要な生物学的安全性試験の基本的考え方について」
4. 平成15年3月19日付け医療機器審査 No.36厚生労働省医薬局審査管理課事務連絡
「生物学的安全性試験の基本的考え方に関する参考資料について」
5.JIS T 0993-1:2004 医療機器の生物学的評価 ― 第1部:評価及び試験方法
6.「医療機器の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成17年厚生労働省令第37号)
7.「医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成17年厚生労働省令第36号)
8.「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第135号)
9.「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品質管理の基準に関する省令」(平成
16年厚生労働省令第136号)
10.「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成
16年厚生労働省令第169号)
11.「医療機器の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(平成17年厚生労働省令第38号)
12. 平成20年8月4日付け薬食機発第0804001号厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長通知「医療機器に関する臨床試験データの必要な範囲等について」



(安全原則)
1.ISO/IEC Guide 51:1999. Safety aspects - Guidelines for their inclusion in standards
2.ISO/IEC Guide 63:1999. Guide to the development and inclusion of safety aspects in International Standards for medical devices

(機械的安全性)
1.JIS B9700-1:2004. 機械類の安全性 - 設計のための基本概念 一般原則 - 第 1 部:基本用語、方法(ISO 12100-1:2003)
2.JIS B9700-2:2004. 機械類の安全性 - 設計のための基本概念 一般原則 - 第 2 部:技原則(ISO 12100-2:2003)
3.JIS B9702:2000. 機械類の安全性 - リスクアセスメントの原則(ISO 14121:1999)
4.JIS B9703:2000. 機械類の安全性 - 非常停止 - 設計原則(ISO 14121:1999)
5.JIS B9705-1:2000. 機械類の安全性 - 制御システムの安全関連部 - 第 1 部:設計のための一般原則(ISO 13849-1:1999)
6.JIS B9711:2002. 機械類の安全性 - 人体部位が押しつぶされることを回避するための最小すきま(ISO 13854:1996)
7.ISO 10218-1:2006. Robots for industrial environments - Safety requirements - Part I : Robot
8.ISO 13855:2002. Safety of machinery - Positioning of protective equipment with respect to the approach speeds of parts of the human body
9.ISO 14118:2000. Safety of machinery - Prevention of unexpected start-up
10.ISO 14119:1998. Safety of machinery - Interlocking devices associated with guards - Principles for design and selection
11.IEC 60204:2000. Safety machinery – Electrical equipment of machines - Part I : General requirements
12.IEC 61508-1:1998. Functional safety of electrical/electronic/programmable electronic safety-related systems - Part I : General requirements

(プロセス管理、リスクマネジメント)
1.JIS T14971:2003. 医療機器 - リスクマネジメントの医療機器への適用(ISO
14971:2000)
2.IEC 62304:2006. Medical device software - Software lifecycle processes
3.CDRH US-FDA:2002. General principles of software validation : Final guidance for industry and FDA staff
4.CDRH US-FDA:1999. Guidance for Off-the Shelf software use in medical devices; Final

(電気的安全性)
1.JIS T0601-1:1999. 医用電気機器 - 第一部:安全に関する一般的要求事項(IEC 60601-1 Ed.2)
2.JIS T0601-1-1:2005. 医用電気機器 - 第一部:安全に関する一般的要求事項 - 第一節:副通則 - 医用電気システムの安全要求事項(IEC 60601-1-1:2000)
3.JIS T0601-1-2:2002. 医用電気機器 - 第一部:安全に関する一般的要求事項 - 第二節:副通則 - 電磁両立性 - 要求事項及び試験(IEC 60601-1-2:1993)
4.IEC 60601-1:2005. Medical electrical equipment - Part 1 : General requirements for basic safety and essential performance
5.IEC 60601-1-2:2007. Medical electrical equipment - Part 1-2 : General requirements for safety - Collateral standard : Electromagnetic compatibility - Requirements and tests
6.IEC 60601-1-4:1996. Medical electrical equipment - Part 1-4 : General requirements for safety - Collateral standard : Programmable electrical medical systems
7.IEC 60601-2-46:1998. Medical electrical equipment - Part 2-46 : Particular requirements for the safety of operating tables

(その他)
1.JIS B7440-2:2003. 製品の幾何特性仕様(GPS)- 座標測定機(CMM)の受入検査及び定期検査 - 第 2 部:寸法測定(ISO 10360-2:2001)
2.JIS B8431:1999. 産業用マニピュレーティングロボット - 特性の表し方(ISO
9946:1999)
3.JIS B8432:1999. 産業用マニピュレーティングロボット - 性能項目及び試験方法(ISO
9283:1998)
4.JIS B8437:1999. 産業用マニピュレーティングロボット - 座標系及び運動の記号(ISO
9787:1998)
5.JIS Z8101-2:1999. 統計 - 用語と記号 - 第 2 部:統計的品質管理用語
6.JIS Z8103:2000. 計測用語
7.ASTM F1719-96:2002. Standard Specification for Image-Interactive Stereotactic and Localization Systems

引用関連規格

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

H17年度

〇座長
勝呂 徹  東邦大学 医学部整形外科 教授

〇委員(五十音順)
伊関 洋  東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 助教授
小林寿光  国立がんセンター がん予防・検診研究センター 室長
菅野伸彦  大阪大学大学院 医学系研究科 器官制御外科学講座(整形外科) 講師
千葉敏雄  国立成育医療センター病院 特殊診療部 部長
古川俊治  慶応義塾大学 法科大学院 助教授
本郷一博  信州大学 医学部脳神経外科 教授

〇厚生労働省 医薬食品局 審査管理課
山本弘史  医療機器審査管理室 室長
高江慎一  医療機器審査管理室 室長補佐
高畑正浩  医療機器審査管理室 厚生技官

〇国立医薬品食品衛生研究所(事務局)
土屋利江  療品部 部長
佐藤道夫  療品部 埋植医療機器評価室 室長

報告書(PDF)

平成17年度報告書
2010-HN-DE-003-H17-報告書-表紙、序文、委員名簿、目次、1~11章
2010-HN-DE-003-H17-報告書-12章: ナビゲーション審査WG委員からの報告書
2010-HN-DE-003-H17-報告書-13章: 合同検討会報告資料
2010-HN-DE-003-H17-報告書-14章: 付属資料
2010-HN-DE-003-H17-報告書-15章: 参考資料、16章: 参考文献

平成18年度報告書
2010-HN-DE-003-H18-表紙、序文、委員名簿、目次、1~4章
2010-HN-DE-003-H18-5章: ナビゲーション審査WG委員からの報告書
2010-HN-DE-003-H18-6章: 合同検討会報告資料
2010-HN-DE-003-H18-7章: 参考資料 FDA関連、学会関連
2010-HN-DE-003-H18-7章: 参考資料 ソフトウェア関連、承認関連、事務局資料、8章: 参考文献

平成19年度報告書
2010-HN-DE-003-H19-表紙、序文、目次、委員名簿、骨折整復支援装置評価指標 案 、関節手術支援装置評価指標 案、Annex
2010-HN-DE-003-H19-総括 1、2、3.委員報告A、B①
2010-HN-DE-003-H19-総括 1、2、3.委員報告A、B②
2010-HN-DE-003-H19-総括 1、2、3.委員報告A、B③
2010-HN-DE-003-H19-参考資料

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

(医療機器クラスⅢ) ①関節手術支援装置「ROBODOC」(Integrated Surgical System社) ②直達式骨折整復支援装置「FRAC-Robo」(東大、阪大、大阪南医療センター)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

製品に関連する規格:IEC 80601-2-77:2019(経済産業省 工業標準化推進事業テーマ)

Horizon Scanning Report