再生医療等製品の製造所における安全キャビネットの設置と維持管理に関するガイドライン2019(手引き)

ガイドラインID 2019-E-RE-047
発出年月日
発出番号
WG名 再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG
制度名 医療機器等開発ガイドライン策定事業(開発ガイドライン)
製品区分 再生医療・遺伝子治療
分野

再生医療

GL日本語版ファイル

2019-E-RE-047 再生医療等製品の製造所における安全キャビネットの設置と維持管理に関するガイドライン2019 手引き

英文タイトル
GL英語版ファイル

GL:イントロ・スコープ

1.総則
1.1 背景
再生医療等製品は、治療対象や適用方法等により、原料となる細胞の種類(自家由来や他家由来、細胞種など)や製品形態(細胞懸濁液、細胞シート等)が多様である。そのため、再生医療等製品の製造では、平成26年厚生労働省令第93号「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(以下、GCTP 省令)」および関連法が整備されて、培養作業等のうち、再生医療等製品等が製造所内の空気に触れる加工作業、例えば培養皿の蓋を開ける培地交換や酵素処理による剥離作業等の際の無菌操作等は、微生物の混入を防ぐため無菌操作等区域内で、適切な作業員や装置等により実施しなければならない。このような再生医療等製品の製造に関わる各々の工程における要求や、その要求に対して予測されうるリスクを鑑み、施設・構造設備の設計や仕様等へ反映させる必要がある。同時に、製造を実施する無菌操作等区域は、原料となる細胞によっては感染性のリスクに応じて封じ込めの要件を満たすことが求められている。特に原料である細胞は必要な微生物検査を実施済みのものが一般的なため、作業者保護の観点でのリスク評価により BSL2 相当の封じ込めレベルが求められることが多い。これらの要因を考慮し、現状の手作業を主体とした再生医療等製品製造では、細胞加工操作等に安全キャビネットを採用することが一般的となっている。
安全キャビネットは 1979 年に国内で初めて発売され、感染症の研究から微生物の研究、遺伝子組み換え実験などバイオハザード対策用途を中心に幅広く使用されてきた。安全キャビネットは、JIS K3800:2009、NSF/ANSI 49-2008 を中心とした厳格な規格に基づいて設計・製造されており、そのハザードリスクに応じて様々なクラスやタイプの分類がなされている。安全キャビネットの特性は、HEPA (High Efficiency Particulate Air)フィルタを通った清浄な空気の層流や、エアバリアによる気流管理で無菌環境の構築と封じ込めを適切な使用方法により両立できる装置である。差圧管理(装置外部に対して内部を陽圧)を積極的に活用するクリーンベンチや再生医療用アイソレーター等の他のクリーンエア装置とは構成が異なっている(表 1.1 参照)。このように安全キャビネットは、差圧を用いず、気流(風向き、風量)のみで無菌操作等区域の清浄度を維持するために、再生医療等製品の製造における使用方法や管理方法等で特有のリスクが存在し、現状では十分に認識されているとは言い難い。これらの背景を理解した上で、安全キャビネットを適切に構成(設置環境含む)し、使用の上で無菌操作をおこない、日常管理や定期検査を細やかにおこなうことが望ましい。適切ではない構成や使用をおこなうことや、日常管理を実施しないことで、無菌環境の維持が困難になる可能性があるためである。また、安全キャビネットを設置するための製造所にはインキュベーター、遠心分離機、顕微鏡などのその他機器が配置されていることが多く、それら機器間のヒトの動線も生じる。それらからの安全キャビネット内部の汚染リスク排除のため、製造所内部の安全キャビネットの設置場所の配慮も必要である。
安全キャビネットの規格やガイドラインはこれまで数多く出されているが、再生医療等製品の製造に使用する安全キャビネットの運用・管理等を主体としたガイドラインはこれまで参考になるものがなかった。そこで、安全キャビネットを採用する細胞培養加工施設を念頭に、安全キャビネットの基本性能やリスクおよび管理方法を解説することで、安全キャビネットを再生医療等製品の製造に使用する細胞加工業者(以下、ユーザー)が適切な運用手順を構築するための一助となることが望ましい。また、安全キャビネットの製造業者(以下、メーカー)も参考にされることが望ましい。

表 1.1︓再生医療用クリーンエア装置の特徴

1.2 目的
本ガイドライン(手引き)では、再生医療等製品の製造において、製造所内でヒト細胞を中心とした細胞加工操作等のために使用される安全キャビネットに関して、基本的な構成から、導入、設置(移設・再設置含む)、使用方法、定期検査・点検、教育等の考え方を明らかにして、適切な運用管理を実施するための手引きとなることを目的とする。特に安全キャビネットを再生医療等製品の製造に用いるという特殊性に配慮している。

1.3 適用範囲
1.3.1 対象機器
再生医療等製品の製造所のうち、清浄度管理区域内で再生医療等製品の製造に使用され、安全キャビネットのメーカーが供給する本体や付属品で構成される JIS K3800: 2009 等の規格を満たす標準的な安全キャビネットとする。但し、製造工程の要求事項に応じて安全キャビネット関連規格の範囲を問わず構成を変更した場合には本ガイドライン(手引き)を参考とし、更に新たな管理事項が必要となる場合には、リスク評価を行うことが望ましい。
平成 25 年法律 85 号「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」で運用される細胞加工業者においても、安全キャビネットの設置場所や安全キャビネットの管理運用方法等の参考とされることが望ましい。

1.3.2 対象範囲
安全キャビネットの設置・稼働から運用・維持管理(定期検査・点検等)までを範囲とする。特に再生医療等製品の製造・販売を業として、安全キャビネットを再生医療等製品製造に使用するユーザー企業が本ガイドライン(手引き)を参考とする主たる対象となることが望ましい。安全キャビネットのメーカー企業が主として JIS K3800:2009 等の規格で実施する性能試験(気流バランス試験等)は本ガイドライン(手引き)の対象としない。

1.4 管理体制
1.4.1 各運用業務に関する責任者
製造所における安全キャビネットの適切な使用及び継続的な維持管理のために、各運用業務における責任を「管理責任者」あるいは「作業者」に分け、確実に実施できる体制を構築する必要がある。管理責任者については、その業務や製造所において製造管理責任者、衛生管理責任者、施設・設備管理責任者等の呼称があるが、本書では一括して管理責任者と呼称する。なお実際の業務については、責任を負う者が所定の手順に従い、訓練を受けた別の者に委任することは可能である。

1.4.2 各運用業務に関するユーザーとメーカーの役割分担
再生医療等製品の製造において使用する安全キャビネットについて、導入から運用に至る全ての運用管理業務について、ユーザーは主体的に判断・実施しなければならない。ただし、安全キャビネットの構造・仕様についての詳細情報や維持管理に対する専門知識等について、必要に応じて安全キャビネットの製造元であるメーカーやメーカーから認定された業者に、情報提供及び運用業務の一部を委託することも必要である。上記のメーカーへの委託の内容や範囲は画一的ではなく、安全キャビネットの設置場所や機器構成、使用方法、導入する安全キャビネットの用途や運用体制等に応じて、個々の事例毎に適切に判断することが重要である。また、メーカーは取り扱い説明書等のマニュアルをユーザーに提供し、必要に応じて安全キャビネットの操作方法や注意点等をユーザーに教育することとする。
安全キャビネットのメーカーは、ユーザーにおいて適切に導入-運用を行うために必要な情報を、可能な範囲で提供するとともに、再生医療分野における安全キャビネットの用途や設置環境に関する顧客要求事項についても情報収集に努めなければならない。特に、設置場所となる製造所のレイアウトや搬入経路等についての情報は、ユーザーから入手しなければ安全キャビネットの設置ができなくなるので注意が必要である。

GL:本体

2.用語の定義
本ガイドラインにおける用語の定義を以下に示す。

安全キャビネット(biological safety cabinet)
危険性がある微生物を取り扱う場合に用いる箱状の装置。JIS Z8122;2000 の番号 4402 に規定されているバイオハザードクラスⅡキャビネットの慣用語である。
備考: JIS K 3800 に規定するバイオハザードを防止するための構造をもつもの。

エアロゾル(aerosol)
気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子のこと。エアロゾルの粒径は、数ナノメートルから数ミリメートルまで多岐に亘り、一般的に1μm 以下の粒子を微小粒子、1μm 以上の粒子を粗大粒子と呼ぶことが多い。微小粒子は気中での滞留時間が長いため、気流に乗って、移流、拡散される。

作業者(operator)
製造所において再生医療等製品の製造工程に従事する者。

管理責任者(manager)製造所の機器の導入から運用管理に関し、確実に運用・維持管理がされるよう管理体制に責任を負う者。
維持管理(preventive maintenance)適切な無菌的操作を継続的に実施できるよう、安全キャビネットの性能を維持するために行う日常及び定期的な点検、保守及び清掃等。

点検(inspection)
機器・設備について性能劣化の状態を調べ、必要に応じ保守または修理を行うことを判断すること。

保守(preventive care)
点検により性能の低下が認められた際に、元の状態に戻すために行う作業。例えば、消耗部品または材料の取り替え、部品の調整等の作業。

清掃(cleaning)
清浄な環境を維持するために、塵埃や付着物等を、室内や機器等から取り除くこと。
除染(decontamination)
空間や作業室を含む構造設備に生存する微生物を再現性のある方法によりあらかじめ指定された菌数レベルにまで減少させること。

消毒(disinfection)
対象物又は表面等の局所的な部位に生存する微生物を減少させること。化学薬剤を用いて、病原菌等有害な微生物を除去、無害化すること。

工程資材(component)
再生医療等製品の製造工程において用いられる器具。

適格性確認(qualification)
装置等が適切に据え付けられ、正しく稼働し、実際に期待される結果が得られることを証明する活動。適格性確認は、設計適格性確認、据付時適格性確認、運転時適格性確認、および性能適格性確認から構成され、個々に、また組はみ合わせて実施する。一般的には、プロセスバリデーションの作業を始める前に、適格性確認を完了していることが求められる。

プロセスバリデーデション(process validation)
適格性確認が実施された特定の施設において、専用に設計された工程が、目的とする品質(規格)を再現性良く満たしつつ、恒常的に製造を継続することが可能なことを証明するための活動。

3.安全キャビネット
3.1 安全キャビネットとは
安全キャビネットは、上部吹出し面からの一方向流により安全キャビネット内部の空気清浄度を維持し、同時に安全キャビネット内部で発生するエアロゾルを前面開口部のエアバリア気流等により安全キャビネット外部に漏洩させずに封じ込める機能を有する装置である。安全キャビネットの部位名称と気流イメージを図 3.1 に示す。また、安全キャビネットのクラス分類はAppendix A1 に示す。
従来、菌、ウイルス等の病原体、組換 DNA、化学物質を取扱う分野では、清浄度維持、エアロゾル感染防止の両機能を持つことから広く使用されてきた。特にクラスⅡ安全キャビネットは、操作部が開放型であり、気流バランスを厳密に調整することにより表 3.1 に示す 3 種類の重要な性能を保つことが出来る。とりわけ再生医療においては、クラスⅡタイプA2 の安全キャビネットを使用することが多い。更に近年では、再生医療用途により特化した安全キャビネットが検討されることがあり、その例をAppendix A2 に示す。

図 3.1︓安全キャビネットの部位名称と気流イメージ

表 3.1︓クラスⅡ安全キャビネットの 3 大要求性能

3.2 安全キャビネットの排気方式
安全キャビネットの封じ込め性能を保つには、前面流入空気の安定が最も重要である。そのために適切な排気方式をとることが必要である。排気方式は表3.2に示す3種であるが、ダクト接続の無い室内排気が最も安定している。しかし有害ガスを用いた場合、HEPA フィルタで捕捉されないので注意が必要である。
また滅菌時の排気方法も考慮しておく必要がある。
キャノピーフード型はタイプ A1、A2 に適用する。排気変動緩衝分としてフード周囲の開放部から安全キャビネット排気量の 30~50%分を取込み排気する。よって外乱による総排気量の変動にも、安全キャビネットの排気は密閉式より安定する。
密閉式ダクト接続はタイプ B1、B2 で使用される方式である。排気ファンまでダクトで密閉されているため、かえって室圧変動や屋外の強風等の影響を受け易く、安定し難い。据付後のトラブル防止のため、24 時間の継続運転とシステムの綿密な確認が必要である。
また排気ファンと安全キャビネットのインターロックと警報を設け、一時的にも安全キャビネット内が陽圧とならぬよう制御すべきである。
排気ファンを設置せずに、安全キャビネットから直接屋外へ排気接続する方法は、排気が極端に不安定となる為、行ってはならない。

表 3.2︓クラスⅡ安全キャビネットの排気方式 3)

3.3 性能と試験方法
安全キャビネットの封じ込め性能は気流バランス、本体の気密性及び HEPA フィルタによるろ過から成り立っている。工場出荷検査と現場検査法が詳細に規定されている。型式認定時の検査では、第三者による枯草菌芽胞を噴霧する生物学的試験(Appendix A3参照)が実施される。以下に主な検査法を述べる。表 3.3 に検査項目を示す。

表 3.3︓クラスⅡ安全キャビネットの各検査項目と実施 1)

*1 密閉度の試験方法は構造によって異なる。負圧部に囲まれていない汚染陽圧部を持つ旧型の安全キャビネットはヘリウムガス法もしくはSF6ガス法による試験。その他のBSCは汚染陽圧部が負圧部に囲まれており、より安全な構造であり、正圧維持法と石けん法を加えた 4 種より選択可能である。
*2 オプションであるが、行うことが望ましく、省略すると不都合が起き易い。
*3 毎年検査はオプションだが、数年に1度が望ましい。また密閉部分のチャンバーを開けた後は必須である。
*4 新感染症法では、年 1 回以上の点検が義務付けられている。

主な試験内容を以下に記す。
1) 吹出し風速試験
作業室内への清浄空気は下向きに流れ、前面ガラス下端より100mm上方の面において150mm以下の等間隔格子にて測定する。
安全キャビネットの仕様値として選定した風速値と測定値の平均値は±0.025m/s 以内であること等が求められる。測定風景を図 3.2 に示す。

図 3.2︓吹出し風速テスト

2) 流入風速試験
型式認定検査においては風量計を用いる直接測定法(DIM =Direct Inflow Measurement法)もしくは排気ダクト内の風量を測定し流入風速を算出する方法を用いる。安全キャビネットの量産品検査では、前述の測定値との相関を得られる代替測定法を用いても良い。装置前面に風量計を取付け、流入風速を測定している例を図 3.3 に示す。

図 3.3︓流入風速試験(DIM 法)

4.安全キャビネットの設置
再生医療等製品の製造所へ設置する安全キャビネットは、3.3に示す工場出荷検査に合格し、所定の機能を満足することが求められる。また、その設置に対し、設計時には、設置場所、設置環境、空調及び換気設備などに関する情報をメーカーまたはその関係者へ提供し、適切な設置計画を行う必要がある。また、その搬入と設置の際には、設置環境を悪化させないよう適切な手順で、搬入、組立て、調整を行った後、所定の機能が動作することを、現場検査にて確認する必要がある。
適格性確認は、設計適格性確認(DQ)、据付時適格性確認(IQ)、運転適格性確認(OQ)、性能適格性確認(PQ)の順に実施されるのが一般的である。

4.1 設置場所
安全キャビネット内部の空気清浄度と、安全キャビネットの封じ込め性能を保つには、安全キャビネット内部の一方向流と前面開口部のエアバリア気流の安定が重要である。しかし、安全キャビネットの近傍でヒトやモノの激しい移動、窓・扉の開閉、空調気流の変動等が生じると、大きな気流の乱れが発生し、安全キャビネット内への外部からの汚染物質の流入リスクや、安全キャビネット内で発生するエアロゾルの外部への漏洩リスクを高める要因となる。
そこで、安全キャビネットの設置場所の選定に際しては、安全キャビネットの開口部前面に十分なスペースを確保し、ヒトやモノの動線および潜在的に気流を乱す可能性のある障害物から遠く離すことが望ましい。
さらに、安全キャビネットの周辺スペースは、通常の培養作業を行うためだけでなく、安全キャビネットの清掃およびメンテナンスが容易にできることにも留意し、設置場所を決定することが望ましい。設置場所選定に関する留意事項を以下に示す。設置環境に関する無菌操作環境の例については、Appendix A4 に示す。

1) 壁・柱、ドアや窓等との位置関係
・ 安全キャビネット正面は十分なスペースを確保し、壁や柱との距離を十分に確保することが望ましい。
・ 安全キャビネットをドアおよび開閉可能な窓の周辺に設置することは避けることが望ましい。
2) 空調・換気システムの給排気口との位置関係
・ 安全キャビネット近傍では、部屋の空調気流の影響について配慮すること。特に給気口・排気口の真下や近傍で、エアバリア気中の形成に影響を受けやすい位置に設置することは避けることが望ましい。給気口・排気口から十分な距離を確保することが難しい場合は、部屋の清浄度や温度・湿度に影響を及ぼさない範囲で、安全キャビネットに空調気流が直接当たらないように、風向板等で調整する。
・ 部屋のレイアウトや空調設備の給排気口の位置、設備性能などが安全キャビネットの気流に影響を与える一方で、安全キャビネットの運転により部屋側の気流の流れ方にも影響があるため、室内全体の気流に配慮し、可能な限り最適な配置計画を行うこと。
3) ヒトやモノの動線との位置関係
・ 安全キャビネットは、ヒトやモノの動きに伴い発生する気流の乱れの影響を受けないように、移動・作業動線との位置関係を十分に配慮すること。
4) 他の実験機器との位置関係
・ 安全キャビネット周辺に設置する他の実験機器や作業台との位置関係に配慮すること。安全キャビネットの前面と障害物との距離を十分に確保することが望ましい。
・ 作業動作スペースには、可搬式の実験機器を含め、作業時に障害物を留置しないことが望ましい。
・ 安全キャビネットを複数台設置する場合は、特に並列設置、対面設置の場合には、相互距離を十分に確保することが望ましい。

5) その他
・ 設備の清掃・メンテナンス作業に対して、十分なスペースを確保することが望ましい。

図 4.1︓安全キャビネットの設置場所に関する留意事項

4.2 新規購入安全キャビネットの設置
4.2.1 安全キャビネット仕様の設定
製造所における使用目的、設置環境等を満たす機器を導入するために、安全キャビネットの要求仕様を文書化することが必要である。要求仕様には、安全キャビネット本体及び構成部品の仕様、及び使用時の機能及び要求している性能等を明確に記載しなければならない。

4.2.2 搬入前準備
管理責任者は、設置に必要な準備として、安全キャビネットが設置される環境、位置及び経路等に関する情報をメーカーまたはその関係者(以下、メーカー担当者)へ提供し、事前に設置予定場所の清浄度環境や搬入手順等を確認すること。
下記にユーザーとメーカー担当者それぞれが提供する情報例を示す。

1) メーカー担当者から入手する情報
・ 納品時の安全キャビネットの梱包状態
・ 開梱の際の注意点
・ 推奨消毒剤
・ 組み立てや調整のために持ち込む工具・資材類
・ 搬入計画書
・ 据付時適格性確認要領書
・ 運転時適格性確認要領書
2) メーカー担当者に提供する情報
・ 安全キャビネットの要求仕様
・ 設置場所と設置条件(環境の清浄度・温度・湿度、設置スペース、電源等の用力 接続等)
・ 搬入経路(屋外から製造所外部搬入口への経路、開梱や清掃場所等を含む)
・ 梱包納入物の開梱・搬入作業に関する注意事項
・ 清掃手順(所定消毒剤、清拭用資材、清拭手順等に関する情報を含む)
・ 除染手順(必要に応じて)
・ 更衣仕様

なお、管理責任者は設置する安全キャビネットの周辺スペースは、通常の培養作業を行うためだけでなく、安全キャビネットの清掃およびメンテナンスが容易にできること、並びに周囲の設置環境の清掃が可能であることにも留意し、設置場所を決定することが望ましい。
万が一、予定された設置場所に安全キャビネットへ影響を及ぼす要因がある場合は、メーカー担当者と協議の上、設置場所や設置方法の変更を検討すること。

4.2.3 搬入
搬入前準備段階に作成した搬入計画書の手順に従い、搬入を行うことが望ましい。特に、安全キャビネットは安全機器であるため、搬入は原則メーカー担当者立会で行うことが望ましい。
また、構成部品の清掃方法や搬入方法については管理責任者が指示すること。
4.2.4 初期搬入時の外面の清掃方法
安全キャビネットは、一般にメーカーの製作工場のクリーンルームで組み立てられ、出荷・搬送時に埃ができるだけ付着しないようフィルムで包装されて、再生医療等製品製造所に搬入される。安全キャビネット製作工場からの輸送時や開梱時等に安全キャビネットに付着した塵埃や微生物を除去するために、初期搬入時はAppendixA5の外面清掃を実施する。

4.2.5 組み立て・設置作業
メーカー担当者は、設置環境への汚染に十分配慮し、更に構成部品を汚染させることなく安全キャビネットの組み立ておよび設置を行うことが望ましい。

4.2.6 初期稼働時の安全キャビネット内部の清浄化
安全キャビネットの送風機を起動する前の時点では、安全キャビネット内は安全キャビネット設置環境と同等以下の清浄度となっており、当該区域を無菌操作が行える環境とするには清浄化作業が必要である。
安全キャビネットの送風機を初めて起動して安全キャビネット内を無菌操作が行える環境に整える直前の作業として、下記の①消毒作業若しくは②除染作業の何れかの方法にて清浄化を行う。なお、本作業は、基本的に製造所の作業者または管理責任者が、製造メーカーと協議の上、安全キャビネット内清浄化作業時の注意点を聞き取り後、実施するものである。

① 消毒法(清拭)
AppendixA5 に記載の消毒を実施する。消毒対象箇所は、AppendixA5 消毒・清拭箇所の例で挙げられている全ての箇所を消毒する。本作業を行うにあたっては、前面パネルのストッパを外しても差し支えない。安全キャビネット内の取り外すことが可能な部品については、オートクレーブにて滅菌することが好ましいが、消毒剤に所定時間浸し、その後乾燥させる処理を行っても良い。
また、上記の消毒作業に加え、安全キャビネットに備えられた紫外線ランプを点灯させ、表面付着微生物の低減を図っても良い。

② 除染法(ガス除染)
手作業による殺菌ムラ(不均一性)がないように安全キャビネット内の微生物レベルを下げたい場合には、ガス除染を実施することが好ましい。但し、安全キャビネットのみをガス除染することは困難な作業であることから、本作業は管理責任者が製造メーカーに除染を依頼する、若しくは、管理責任者が製造メーカーと協議の上、除染時の注意点を十分聞き取り後、実施することとする。特に、作業者保護のため、安全データーシート(SDS)等についても、事前に参照することが重要である。具体的な除染例は AppendixA5 を参照のこと。

4.3 適格性確認
安全キャビネットは 4.2 の手順に従い正しく搬入・据付された後、搬入前準備(4.2.2)で決定した据付時適格性確認項目および運転時適格性確認項目に従い、適格性確認を行う。
安全キャビネットがユーザー要求仕様(URS)や GCTP 省令にて求められる仕様を満足していることを適格性確認として、設計時・据付時・移設時に検証を行い、その結果を文書化する必要がある。
本項では、適格性確認の手順について記載する。各フェーズでの実施内容については Appendix A6 を参照のこと。

4.3.1 適格性確認実施組織
適格性評価を実施する組織は、少なくとも以下のメンバーにて構成されることが望ましい。

品質保証責任者(ユーザー) ︓全ての適格性確認、バリデーション業務が適正に実施されていることの保証に責任を持つ
バリデーション責任者(ユーザー) ︓適格性確認、バリデーションに関する図書および変更・逸脱管理の承認を行うバリデーション担当者(ユーザー) ︓適格性確認、バリデーションの実施および図書の作成を行う適格性確認管理者(メーカー等) ︓メーカーにて実施する適格性確認のスケジュール管理および実施内容・作成図書の確認を行う
適格性確認担当者(メーカー等) ︓メーカーにて実施する適格性確認の実施および図書の作成を行う

4.3.2 適格性確認フロー
適格性確認はユーザー要求仕様および GCTP 省令の要求事項を確実に満足する安全キャビネットや空調システムを導入する為、フローに従って各フェーズで検証を行う。フローの例は図 4.2 に示した。
ユーザーおよびメーカーの役務範囲は一例であり、URS 作成以降はメーカー等に技量がある場合、ユーザーの代行として主体的に実施することも可能である。
適格性確認は基本的に実施前にプロトコル(要領書)を作成し、事前にバリデーション責任者に承認を受ける必要がある。また、DQからIQ等次のフェーズに進む場合は、前のフェーズの適格性確認が完了し、かつその報告書がバリデーション責任者に承認されている必要がある。
また、PQ 以降については製品品質の作りこみおよびその検証となる為、基本的にはユーザー側にて実施する。

図 4.2︓適格性確認のフロー

4.4 移設・再設置
4.4.1 基本的な考え方
安全キャビネットを製造所内あるいは製造所間で移設する場合は、現設置場所と移設先の清浄度環境の差異を考慮し、適切に清掃あるいは除染・滅菌し、移設後には、適切な据付時適格性確認及び運転時適格性確認を実施する必要がある。

1) より高い清浄度区域に移設する場合
一般空調の環境に設置されていた安全キャビネットに関しては、各々の構成品を組み立てる際に表面の塵埃等が十分に除去されていない場合が考えられるため、清浄な環境での使用前に機器内部からの汚染発生リスクを低減するために、移設前に可能な限り設備内外部を清掃することが望ましい。同様に、清浄度管理区域に設置されていた安全キャビネットであっても、より清浄度の高い区域に移設するために機器表面に蓄積した塵埃や付着物を除去することが必要である。製造所間で移設する場合は適切な梱包を行い、外部環境からの異物混入を極力抑えること。 また、微生物汚染防止の観点でも設置エリアの微生物管理レベルに応じて、適切な清拭消毒や除染方法を選択し、実施すること。

2) 同等または低い清浄度区域に移設する場合
清浄度管理区域から安全キャビネットを移設する場合には、日常的に清掃できない箇所に蓄積した塵埃が分解や移動の作業により飛散する可能性があることから、作業の都度塵埃の除去を行うこと。製造所間で移設する場合は適切な梱包を行い、外部環境からの異物混入を極力抑えること。
移設・再設置時の基本的な手順は、4.2 を参照すること。4.4 では、移設時に関連する事項のみを記載する。

4.4.2 移設・再設置前の安全キャビネットの清浄化
移設作業者の生物学的安全性を確保するために、移設前には清浄化を行う必要がある。清浄化作業は、管理責任者がメーカーに委託して実施する。安全キャビネットを移設する時は、滅菌を実施した後に移設することが基本となる。但し、再生医療等製品の製造では、病原性の微生物を培養(増殖)させる工程を持たないことから、必ずしも移設前の滅菌が必須でない場合もあり、安全キャビネット内の消毒作業で対応できるケースもある。清浄化方法は、管理責任者がメーカーと十分協議の上、決めるようにする。 Appendix A5 に例を示す。さらに、移設・再設置における各検査項目は 3.3 の表 3.2 を参考とし、メーカーと協議することが望ましい。

4.4.3 移設時の適格性確認
移設が完了した安全キャビネットは、新設時と同様に要求仕様で求められる据付・運転に関する要件を満たしていることを確認する為に適格性確認を実施する必要がある。
ただし、実施項目に関しては新設時に実施した全ての項目を必ずしも実施する必要はなく、移設作業によって品質に影響を及ぼす項目をリスクアセスメントにて洗い出すことにより、項目を絞ることも可能である。
実施項目に関しては、3.3 の表 3.3 を参照のこと。

5.安全キャビネットの使い方
本章では安全キャビネットの使い方の基本事項を述べる。実際の使用方法は各メーカーの取扱説明書をよく読み、手順書を作成すること。細胞の培養方法の多様性から使用頻度や操作方法などが異なるため、安全キャビネットの使い方についてはリスク評価を行うことが望ましい。

5.1.1 作業開始前の操作
1)安全キャビネットの作業域内部表面を70%アルコール(消毒用エタノール))や過酢酸溶液等の消毒剤で十分に拭いて消毒する。消毒作業操作の例を Appendix A5 に示す。本操作の意義は、5.1.2 に示す清掃の基本的な目的と同様である。
2) 作業中に必要な工程資材は、作業を開始する前に消毒の上で安全キャビネット内に入れておき、作業が終わるまで前面開口部を横切る動作は最低限とするように配慮すること。ただし、安全キャビネット内に物を置き過ぎないよう必要最小限に留めること。
3) 前面シャッターを各メーカー指定の開口寸法に合わせて、固定すること。指定寸法以外の開口で、安全キャビネットを使用すると気流バランスが壊れ、エアバリア効果が弱まり安全キャビネットの性能が得られない。

また、安全キャビネット内部を無菌操作が可能な清浄度空間として維持しておくため、無菌操作を行っていない間(例として夜間)も、原則的には 24 時間連続稼動することが望ましいが、送風機の稼働が中断もしくは停止された場合は、作業開始前に以下の操作を実施すること。

1) 電源を投入する。
2) 安全キャビネットの送風機を運転する。
作業室内が清浄になるまで時間が掛かるので、送風機の運転を開始後に時間をおいてから、運転後作業を開始すること。(予備運転)
※ メーカーによっては、予備運転時間が設定されている場合があるので、メーカーの取扱説明書で確認すること。
差圧計で、前回使用時に比べ表示値が大きく変化していないことを確認する。また、風速計が設置されているものは、所定の風速が得られていることを確認する。
3) 安全キャビネット内部の作業域表面を 70%アルコールや過酢酸溶液等の消毒剤で清拭して消毒する。消毒作業操作の例をAppendix A5 に示す。
4) 塵埃濃度のモニタリング値を確認し、ISO Class5 の清浄度となっていることを確認する。

5.1.2 作業終了後の操作
作業終了後(用務後)は清掃を実施するが、その基本的な目的は、安全キャビネット内部に残存したリスクを減らすことである。この清掃作業により、バイオセーフティの観点からの作業者の安全を確保すると供に、汚染源となる残留を減らし微生物汚染の拡散やクロスコンタミネーションを防止する。再生医療等製品の製造以外で安全キャビネットを用いる場合は、作業者を守るための封じ込め機能が重要視されているが、再生医療等製品の製造では無菌操作等区域を維持することが重要となり、そのために用務後清掃について方法を定めて実施するものである。加工する細胞・組織によって、また実施する培養操作によって用務後清掃の手順やタイミングは異なる。安全キャビネット内部での細胞・組織加工作業中にエアロゾルや液滴・飛沫の付着が想定される表面を中心に清掃すること。清掃作業操作の例を Appendix A5に示す。管理責任者は用務後清掃を適切に行うために、メーカーから清掃に対する注意点の情報を入手しつつ手順を定めること。この用務後清掃は、基本的に製造所の作業者が実施する。また、用いた工程資材については表面を清拭してから取り出し、適切に処理する。
省エネの観点で必要があれば、清掃後に送風機の運転を停止する。
※ メーカーによっては上記の停止予備運転機能(5 分程度の運転等)が搭載されている 機種があるので確認すること。

5.1.3 その他の操作
5.1.2 の作業終了後(用務後)の清掃作業に加え、安全キャビネットに備えられた殺菌灯(紫外線ランプ)を点灯させて、微生物的清浄度を維持しても良い。殺菌灯の使い方は、各メーカーにより安全のためのインターロックが機器に設けられているが、前面シャッターを閉じて使用するように注意すること。
殺菌灯を使用する場合には、取扱説明書を読みメーカーとの協議の上、作業者に健康被害が及ばないよう十分注意すること。人の目と皮膚の不要な曝露を避けるために、紫外線ランプ照射時はできるだけ照射している安全キャビネットから作業者は離れた方が良い。

5.2 安全キャビネットの使用上の注意
安全キャビネットの性能を適正に発揮させ維持管理するためには、使用時の注意事項を遵守することが重要である。特に、以下の点を良く理解することが求められる。これらは再生医療等製品の製造での注意点が主体であり、一般的な安全キャビネットの使用については実験室バイオセーフティ指針(WHO第三版)等を参照すること。

・ 原則として24 時間連続稼働が要求される。
・ 前面シャッターは所定の高さで使用する。
・ 消毒手洗い後、ゴム手袋、マスクを着用する。必要に応じて、ゴーグル等も着用する。
・ 作業台は定められた方法で清拭する。
・ 作業台上に置く物品は最小限とし、作業中は極力物品の出し入れを行わない。
・ 安全キャビネット内に置く物品は全て 70%エタノールや過酢酸溶液等の消毒剤で清拭する。
・ 安全キャビネット内に、器材、材料等を置くときには前面吸込みスリットの上、及び後面吸込みスリットの前を塞がぬよう離して置く。
・ 器材、材料やエアロゾルを発生させる機器類(ミキサー、遠心分離、アスピレーター等)は奥側に置く。
・ 作業台上では汚染リスクに応じて、器材、材料の置く範囲を分ける。
・ 安全キャビネット内外へ腕を出し入れは最小限とし、前面開口部流入気流を乱さないように注意する。腕を、ゆっくりと出し入れし、外気を内部に入れないように動かさないように注意することが望ましい。
安全キャビネット内での操作は、安全キャビネットが順応し、かつ手と腕の表面を「吹き払う」ように、安全キャビネット内に手と腕を置いて、時間を空けてから始めるようにする。それらを記載した標準作業手順書を整備し、従うことが望ましい。また、無菌操作等を始める前に必要な工程資材等を安全キャビネットの中に置いて、前面開口部を横切るような運動の数を最小限にする。
・ 安全キャビネット内を保管場所としてなるべく物品を置かないようにすることが望ましい。
・ 原則として、安全キャビネット内にガスバーナーの設置はしない。

5.3 異常時の対応方法
安全キャビネットの設置場所、使用頻度、使用方法等に応じて異常時に対するリスク評価を行いその対応方法を事前に検討して標準作業手順書(以下、SOP)とすることが望ましい。以下にその代表的な例を示す。

・ 停電や装置異常等で運転が停止した際には、停止直後の数秒間は清浄度を維持しているため、速やかに無菌操作を止め、培養容器に蓋をすること。蓋をするまでの操作方法、時間等により汚染リスクが高くなる為、予め定めたSOPに基づいて製品の検査を行うこと。近年では、非常時電源に切り替わるまでの間に、安全キャビネットのファンを止めないように、無停電電源(UPS)を安全キャビネットに設置することもある。
・ 装置が停止した、もしくは安全キャビネット内が汚染された逸脱したリスクが発生した場合、安全キャビネット内を定められた方法で清拭を行うこと。尚、安全キャビネット内の空気は 5 秒程度で完全に入れ替わる。各製造所で清浄度回復試験を行い、SOP を定めることが望ましい。

6.安全キャビネットの定期検査・点検
6.1 定期検査
6.1.1 基本的な考え方
安全キャビネットの中でも、クラスⅡタイプ A2 は「JIS規格」等で定期検査が義務付けられており、一定の性能を維持しているかを確認するために、毎年1回以上定期検査を実施することが望ましい。安全キャビネットに改良等を加えた場合には、定期検査はメーカーと協議することが望ましい。
安全キャビネットは工場出荷時の性能保証だけでなく、設置現場での稼働性能確認が大切である。安全キャビネットの性能は主として密閉度、HEPA フィルタ、前面開口部の気流バランスの 3 点で決定されるが、このいずれも直接目視によって性能を評価することはできない。安全キャビネットの性能を据え付け後から維持するには、適切な時期に、適切な方法で、安全キャビネットを検査することが大切である。
現場検査は、製品が設計・製作された当時のデータ(カタログデータ)通りとなっているかを確認することが主たる目的である。従って、検査する製品がどの規格に基づいて設計・製作されているかによって、どの規格の検査方法で検査すべきかが決定される(時代によって、規格が異なっており、製造された時点の規格に基づき検査がなされなければならない)。例えばJIS K3800-2000に基づいて設計されたキャビネットは JIS K3800-2000 に記載されている検査方法で検査する必要がある。そのため、最新の規格のみならず、旧規格に関する知識も要求される。
JIS K3800 は 世界的に権威ある米国の NSF/ANSI 49,Class II (Laminar Flow) Biosafety Cabinetry 規格の改正に伴い、その都度見直されている。JIS K3800 は制定後 2 回改正されており、K3800-1994(制定)、K3800-2000(改正)、K3800-2009(改正)があり、今後も改正が見込まれる。
検査には、熟練度と技術が必要であり、定期検査は、各安全キャビネットメーカーのサービス担当か、 JACA(公益社団法人 日本空気清浄協会)の現場検査技術者認定を受けたメーカーに依頼することが望ましい。
安全キャビネット クラスⅡタイプの定期検査項目・点検時期については、JIS 規格が定められているが、再生医療用途として使用する場合においては、Appendix A7 も追加して定期検査を計画し、メーカーに依頼して実施することが望ましい。検査結果は文書化して記録すること。定期検査の結果は定期バリデーションとすることができる。

6.1.2 定期検査の内容
定期検査の検査項目および時期の例をAppendix A7 に示したので、参考にされることが望ましい。

6.2 点検
6.2.1 日常点検
管理責任者は、日常点検についての標準作業手順書を作成し、作業開始前に、作業者に点検させることが望ましい。また点検の結果は文書化して記録すること。なお日々の点検項目については、メーカー、機種により異なる場合があるので、各メーカーの取扱説明書、納入仕様書等を確認して点検項目を決定することが望ましい。日常点検項目と点検内容の例をAppendix A7 に示したので、参考にされることが望ましい。
各点検項目の一つでも異常が認められた場合は、作業者は管理責任者へ報告し、指示に従うこと。管理責任者はメーカーのサービス担当等に詳細の状況を連絡して、対応法を決定すること。維持管理として、HEPA フィルタの目詰りや排気風量の変化を、差圧計かデジタル表示器等で確認する。特に、使用済み HEPA フィルタの清浄化と交換方法については、Appendix A8 に示したので、参考にされることが望ましい。

6.2.2 定期点検
各メーカーの取扱説明書の点検項目に従って点検を行い、異常の認められたものは修理、又は新しいものと交換すること。点検頻度はメーカーにより異なるため、定期検査と合わせて実施することを推奨する。なお部品交換等は各メーカーのサービス担当に依頼すること。維持管理として、HEPA フィルタリークテスト、風速テストを年1回、腐食性物質を取扱う場合は年2回行うことや、密閉度テストは据付時の他、数年に1回以上を推奨し、密閉部分を開けた場合は必ず実施することが望ましい。
点検項目・点検頻度の一例をAppendix A7 に示したので、参考にされることが望ましい。

7.安全キャビネットの使用に関する教育
7.1 文書化
再生医療等製品の製造所においては、安全キャビネットを適切に使用して無菌操作等を実施するための操作手順書を作成するとともに、本ガイドラインやメーカーからの資料に基づいて、機器として性能を維持するための点検・保守・清掃等について、予め明文化しておかなければならない。また、安全キャビネットの性能を恒常的に確保するためには、管理責任者及び各作業者が、この管理文書の記載内容を遵守した運用を行い、必要に応じて管理方法を見直すことも重要である。

7.2 教育
製造所において安全キャビネットの導入から点検・保守・清掃等を実施させる管理責任者や実際に安全キャビネットで作業する作業者は、適切に安全キャビネットを取り扱うための基礎知識や使用方法について、
手順書を含めた管理文書や実際の安全キャビネットを用いた教育を受けなければならない。

GL:付属資料

8.関連法令・規制・規格
・ 再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
・ 実験室バイオセーフティ指針(WHO第三版)
・ バイオハザード対策用クラスⅡキャビネット JIS K3800 : 2009
・ NSF 規格 No.49 クラスⅡバイオハザードキャビネット
NSF/ANSI49-2008(laminar flow)biosafety cabinetry
Appendix

【目 次】
A 1. 安全キャビネットのクラス分類
A 2.再生医療用途に特化した安全キャビネットの例
A 3.枯草菌による生物学的試験
A 4. 無菌操作環境
A 5. 作業所における安全キャビネットの清掃作業例と注意点
A 6. 適格性確認
A 7. 安全キャビネットの定期検査、日常点検の項目、時期、内容
A 8. 使用済み HEPA フィルタの清浄化と交換方法

A 1. 安全キャビネットのクラス分類 (本文 3.1 参照)
安全キャビネットの規格は 1976 年に米国で発行された NSF №49 が基本となり、日本では(公社)日本空気清浄協会が 1980 年に「クラスⅡ安全キャビネット規格」として発表した。その後改訂を経て現在は JIS 規格 K3800-2009 として運用されており、本ガイドラインでは JIS 規格を基本として述べる。設置後、装置が仕様どおりに運転されているかを現場で検査する技術者の養成と認定も重要である。
安全キャビネットはバイオセーフティーレベルと用途により、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ型に分類されている。クラスⅡ型が多用されており、それらはA1、A2、B1、B2の4種に仕様、構造が分類される。従来B3と呼ばれたタイプは、2009 年の規格改定で A2 タイプとなった。
いずれも前面の空気流入部でのバリア性能が重要であり、吸込み気流すなわち排気を安定的(変動が 10%以内)に確保することが求められる。図 A1.1 に代表的気流方式、表 A1.1 にクラスⅡ安全キャビネットの分類を、図A1.2 に各々の外観を示す。

表 A1.1 安全キャビネットクラス分類表(JIS K3800-2009)

*1︓放射性障害防止法に基づく管理区域に設置するキャビネットについては、放射性同位元素をもつ化合物も含む。
*2︓JIS 規格には明記されておらず、WHO 指針より追記した。
*3︓NSF/ANSI No.49-2010a規格では、汚染陽圧チャンバーを有する構造の記載がなくなり、A2タイプと同一とすべきと記されている。よって気密性試験からハロゲンリーク法、SF6法が廃止され、圧力維持法と石鹸法のみとなった。

A 2. 再生医療用途に特化した安全キャビネットの例 (本文 3.1 参照)
再生医療等製品を製造するための作業所は、製造環境中の微粒子・微生物濃度を許容レベル以下にするために無菌操作等区域、清浄度管理区域に分類される。これらの区域は再生医療等製品が無菌操作される環境の維持、及びその環境の汚染防止の観点より適切な空気清浄度を維持する必要がある。
安全キャビネット内は前者の無菌操作等区域になる。
再生医療等製品は無菌医薬品と異なり製品自体が細胞であり完全な無菌化が出来ないこと、製造工程に人の介入が多々あること、および製造方法やロット数及び品質等の考え方が無菌医薬品と異なる等多くの相違点がある。
これら相違点を勘案し、今後新しい概念の技術、既存技術の応用、使用方法、運用方法等が多くのメーカー、作業所等より開発、考案されていくことが予想される。これらは製造環境の無菌精度向上、封じ込め性能向上、両者の向上、およびコストダウン等目的は多岐に渡ると推定されるが、いずれの場合においても再生医療等製品の安全性を維持する必要がある。また従来と異なる技術、使用方法、運用方法等を採用する場合には、客観的で適切な安全性試験を繰り返し実施し、再生医療等製品の安全性を担保せねばならない。

1)2 重封じ込め、特別な気流を付加した安全キャビネット
本安全キャビネットは内部気流の中に、更に別系統の給気、排気気流を設けている(以下、クリティカル空間と称す)。このクリティカル空間の気流内は、安全キャビネット本体内部空間より空気障壁により分離されていることがAppendix A3項の枯草菌芽胞による生物学的試験により検証されている。外観図を図A2.1 に、気流概念図を図 A2.2 に示す。

クリティカル空間の主目的は、気流制御による封じ込め性能向上と、無菌環境向上に加え、交叉汚染の防止を図るべくチェンジオーバー時の除染時間の短縮である。この空間の気流内でのみ培養容器を開放し細胞操作を制限することで、操作中に発生するエアロゾルを本空間内に封じ込めることができる。万が一漏洩したとしても、漏洩環境は安全キャビネット内部であり、安全キャビネット外部へ漏えいする可能性が極めて低い。一方、クリティカル空間は安全キャビネット作業室内と同様の ISO クラス5の環境であり、本空間内へ万が一入り込むことがあっても汚染されるリスクを極めて低くしている。また、本空間内は実体としての壁や作業台は無い。よって、チェンジオーバー時に必要な除染域を減らすことができる特徴を有している。

2)操作ロボットを付加した安全キャビネット
安全キャビネット内部に作業者に変わる操作ロボットを組み込み、製造工程を半自動化した安全キャビネットの外観を図 A2.3 に、その内部構造を図 A2.4 に示す。なお、本装置は前述1)項の応用型になる。安全キャビネットの内部には培養容器置台と培養容器のフタ緩め部がある。ロボットアームは、培養容器置台にある容器を掴み、フタ緩め部へと移送してフタを緩める。その後、クリティカル空間へ移送され、培養容器が開放される。作業者に依る培養液交換後は逆動作にて元の置台に戻る。最終的にロボットアームは初期停止位置に戻り、ハンド部には殺菌灯が一定時間照射され、容器との接触部が消毒される。
操作ロボット導入の目的は以下 3 項目である。
(1) 作業動線の一定化。
作業をロボット化することにより、作業動線が常に同一となり、再現性がとり易い。
(2) 汚染リスクの低減。
容器を操作するロボットは安全キャビネット内で動作する為、無菌性を確保しやすい。
(3) 作業者の教育負担低減。
ロボット導入にて教育負荷等が低減できる。

図 A2.3 外観図 図 A2.4 内部構造図3)細胞の加工や培養等の一連の操作を一体化した安全キャビネット
安全キャビネットの作業室内で細胞を操作した後に、一般的には細胞用容器を安全キャビネットから持ち出され、同室(清浄度管理区域)内のインキュベーターや遠心機等の操作がされる。
図A2.5に示す安全キャビネットは、細胞の加工や培養等の一連の操作を行う機器を全て組込んだ例となる。中央の安全キャビネットには、前項1)で述べたクリティカル空間を有し、その左側にはインキュベーターを連結している。この安全キャビネットの作業室内には、細胞観察用顕微鏡や廃棄物シューター等を備えている。また、右側には遠心機を組込んだクリーンベンチ(安全キャビネットでも良い)を備えている。
この安全キャビネットに、加工を必要とする細胞を入れた後は、その細胞の加工が完了するまで無菌操作等区域から出ることはなく、かつ、作業者の腕も一連の作業工程が完了するまで、この無菌操作等区域より出し入れする必要は無くなり汚染のリスクが低減される。

図 A2.5 外観図


A 3. 枯草菌による生物学的試験 (本文 3.3 参照)
規格に適合しているか確認する為に、型式認定時の検査では、第三者による枯草菌芽胞を噴霧する生物学的試験が実施される。以下に示す作業者保護試験(風速バランス 3 条件)、試料保護試験(風速バランス2条件)、相互汚染防止試験(風速バランス1条件、位置2種)を各3回行い連続で全て規定値以内とならなければならない。

1)作業者保護試験
安全キャビネットの作業室から菌が漏出しないことを確認する試験である。作業室内から外向きに枯草菌芽胞液(5~8×108 cfu/mL)を、ネブライザーにて噴霧する。
図A3.1の如く、ネブライザー下方には擬似腕としてパイプを設置し、6台のインピンジャーと2台のスリットサンプラーにて漏洩した菌数を計数する。インピンジャー捕集合計コロニー数は10 cfu 注以下、スリットサンプラー捕集合計コロニー数は 5 cfu 以下が合格基準であり、連続 3 回の試験に全て合格しなければならない。
さらに選定風速(仕様値)条件以外に、排気抵抗の増加想定条件、HEPA フィルタの目詰り条件の2 条件下でも各々3 回の試験に合格しなければならない。図 A3.2 に試験状況を示す。
注︓cfu=Colony Forming Unit(培地上で菌が発育し形成したコロニー数)

図 A3.1 作業者保護試験方法

A3.2 作業者保護試験2)試料保護試験外部の菌が作業室内に混入せず、作業台上が清浄に維持されていることを確認する試験である。
図 A3.3 の如く、外部よりネブライザーにて枯草菌芽胞液を 5~8×106 cfu/mL 噴霧する。選定風速条件、及び排気抵抗増加想定条件下にて、作業台上に並べた培地上の合計コロニー数は5 cfu以下で、各々3 回連続で合格しなければならない。

図 A3.3 試料保護試験

3)相互汚染防止試験
作業台上の試料同士が相互に汚染し合わないことを確認する試験である。図 A3.4 の如く、作業室内の下降気流が手前と奥に分かれる点にネブライザーを設置し、側壁から中央に向かい 5~8×104 cfu/mLの枯草菌芽胞液を噴霧する。選定風速条件下で、左右から3回ずつ試験し側壁より355mm 以上離れた培地上で合計コロニー数が試験毎に 2 cfu以下でなければならない。

図 A3.4 相互汚染防止試験


A 4. 無菌操作環境(本文 4.1 参照)
1)無菌操作
無菌操作とは、原料・中間品・製品への微生物による汚染を防止するため、無菌操作等区域へ供給する容器、工程資材、原料、空気や作業手順、更衣手順などを適切に管理する手法のことである。
再生医療等製品およびその原料が直接環境に暴露される安全キャビネット内部の作業は無菌操作となる為、安全キャビネット内部の環境およびその設置環境は適切に管理する必要がある。

2)無菌操作環境
無菌操作を行う安全キャビネット内部は無菌操作環境として微生物による汚染を防止する為、ISO Class5 の清浄度を確保することが望ましい。
この環境を確保する為には以下の条件が必要である。
・ 給気に HEPA フィルタを設置し、清浄な空気を安全キャビネット内部へ供給すること
・ HEPA フィルタは PAO 等によるリークテストが可能なこと
・ 安全キャビネット内部の風速は 0.3~0.6m/sec とし、一方向流を形成すること
安全キャビネット内部が常に ISO Class5 の清浄度を維持できていることを保証する為に安全キャビネット内部にセンサーを設置し、以下の項目を連続モニタリングすることが望ましい。
・ 庫内風速・・・風速計
・ 微粒子数(0.5μm)・・・パーティクルカウンター
モニタリングデータは記録計にて保存すること。記録計を ISO Class5 の環境に設置する場合は、紙粉等による異物混入を考慮しペーパーレスタイプを選定することが望ましい。

A 5. 作業所における安全キャビネットの清掃作業例と注意点(本文4 章参照)
1) 初期搬入時の外面の清掃方法例
初期搬入にあたり、出荷時の保護材(輸送中の損傷を避けるための包装フィルムの上を覆った梱包材)は、できるだけ搬入する作業所の近くで取り除くことが望ましい。安全キャビネットの作業所への搬入は、仮設前室を使用することが好ましく、その場で純水に浸した不織布などを用いて包装フィルム(プラスチックフィルム)表面を清拭するのが良い。安全キャビネットを設置する部屋への搬入後、まず包装フィルムを剥がしていく。この時、フィルムを巻きながら剥がしていき、外側に面していたフィルムが内方向に来るように開梱していくのが望ましい。包装フィルムを取り除いた後、次に安全キャビネットの外面を清拭していく。清拭作業は、天井面、壁面などに 70%エタノールをスプレーし、不織布等のワイパーで清拭する。清拭終了後、5 分程度、乾燥させる。エタノールの代わりに、イソプロパノールや下記の消毒剤を使用しても良い。清拭に使用する不織布等は使い捨てのものを使用し、一定の面積を清拭したら新品と取り替えることが望ましい。清拭手順としては、天井面を清拭後、下方向へとワイピングしていく。清拭対象表面では、ワイパーを一方向に動かすことで清拭する(往復運動では表面付着汚れを拡散させる可能性があるため)。

2) 消毒作業(清拭)操作の例
管理責任者は、メーカー担当者に推奨消毒剤の有無を確認し、ある場合はその薬剤情報(推奨濃度、使用法の情報)を入手する。消毒に用いる消毒剤としては、過酢酸溶液、過酸化水素溶液、次亜塩素酸含有溶液などがある。第 17 改正日本薬局方(平成 28 年 3 月 7 日厚生労働省告示 64 号)参考情報「消毒法及び除染法」に記載された方法(硬質表面キャリア法)にて、所望の殺菌効果が確認された消毒剤を使用することが望ましい。具体的な消毒操作としては、消毒剤を対象に噴霧し、所定時間放置した後、不織布等で拭きとっていく作業を行っていく。または、不織布等のワイパーを消毒剤に浸して絞り、対象を清拭する。使用する不織布等のワイパーは使い捨てのものを使用し、予め滅菌処理がされたもの、若しくはオートクレーブにて滅菌処理を行ったものを使用する。自己発塵が少なく、繊維の毛羽立ちが少ないワイパー(長繊維で作られクリーンルーム専用のものも市販されている)を使用すると良い。一定の面積を清拭したら新品と取り替えることが望ましい。安全キャビネット内部の消毒を行う箇所は、作業台、側面、背面、前面パネル(ガラス)の内側とする。上面の吹出し口整流板は、清拭によりパンチング板にワイパーの繊維が残存し、発塵源となることが懸念されるため清拭対象とはせず、必要に応じ消毒剤を吹き付けるのみとする。清拭順序としては、側面と背面を清拭した後、作業台を清拭する(上方から下方に清浄化する)。壁面の清拭方法としては、上から下に一方向にワイパーを動かして清拭していく。作業台は、基本的に奥側から手前方向に清拭する。拭き取り終了後、5 分程度、残留薬剤を乾燥させる。清拭時は、送風機を止めることが望ましい(排気口付近でワイパーが吸い込まれる恐れがあるため)。
消毒剤を原液から希釈する等の濃度調製を行う場合は、予め定めた手順に従い実施する。また、定めた測定法に従い、調製後の消毒剤濃度が所望の濃度となっていることを測定する。調製した消毒剤の管理・保管については、保管場所、保管方法、保管環境、保管期間等を予め定め、それに従い適正に管理する。消毒の方法は、具体的な手順を成文化しておくこととする。

表 A5.1 消毒・清拭箇所の例

図 A5.1 安全キャビネットの略図と消毒・清拭箇所の例

3) 除染(ガス除染)方法例
使用される除染剤としては、過酸化水素、過酢酸などがある。安全キャビネット全体をカバーで覆う、または、安全キャビネット内部の作業スペースのみを覆うなどして、ガス化した除染剤、または、ミスト化した除染剤を該密閉空間に供給し、一定濃度以上で、一定時間処理する。本除染法は、微生物をあらかじめ指定した菌数レベルまで減少させることに使用する。予め定めた除染時の重要な物理的工程パラメータを測定し、記録を残しておく。
除染法を適用する場合、除染バリデーションを実施することが望ましい。除染剤及び除染の効果を適切な BI(Biological Indicator)を用いて微生物学的にバリデートし、効果的かつ再現性よく除染効果が得られるようにする。また、CI(Chemical Indicator)も用い、その色の変化で除染剤がキャビネット内の隅々まで行き渡っていることを確認するのが良い。設定したバリデーションについては、具体的に文書化しておく。有効期限を定めて、定期的な再的確性確認を実施し、除染効果が的確に得られることを確認する。また、除染効果に影響があるような除染条件の変更を行う場合には、事前に除染バリデーションを再度実施する。
過酸化水素を用いたガス除染バリデーションの設定方法については、NSF/ANSI49-2011 Annex K(バイオセーフティキャビネットにおける微生物除染の代替法と除染剤バリデーション手順)を参照のこと。HEPA フィルタ1次側の BI の設置場所、枚数、除染終了の判断基準が記載されている。

4) 作業台の下の清掃
作業台手前の排気口下と作業台の下(戻り空気通路)に、明らかに培地などをこぼしてしまった場合は、清掃作業を行うことが好ましい。但し、作業台の下を取り外す作業は難しい作業であることから、基本的に管理責任者がメーカに清掃を委託して実施する。作業時は、排気口下と作業台の下の部材を外し、消毒剤に浸したワイパーで下面を清拭する。

A 6. 適格性確認(本文 4.3 参照)
1)User Requirement Specification(URS)
URS はユーザー要求(UR)を仕様書として文書化したものである。URS は設備の詳細についても記述する必要がある為、必ずしもユーザー側のみで作成する必要はなく、メーカーなど設備の専門家と共同で作成することを推奨する。
記述する仕様については、詳細に記載するとメーカーや型式を限定したり、仕様の変更を行うたびにURS を改訂することとなる為、品質への影響が大きい仕様に限定して記述することが望ましい。
URS作成時には安全キャビネット・空調システムおよびGCTPに関する有識者を集めてリスクアセスメントを行い、設備に潜在するリスクの洗い出しを行うことが望ましい。洗い出したリスクの中に許容できないリスクが検出された場合は、リスク低減策を検討しその策を URS の項目に盛り込むことで、リスクを許容レベル以下に抑えた URS を作成することができる。
URS の記載内容(例)は以下の通りである。
・ 目的 ・対象範囲 ・用語の定義 ・法規、基準 ・プロセス概要 ・設計仕様(IQ 検証範囲)
・ 性能仕様(OQ、PQ 検証範囲) ・環境、安全に関する要求仕様
・ 計装、自動化に関する要求仕様 ・図書、メンテナンスに関する要求仕様

2)Qualification Master Plan(QMP)
QMP は適格性確認を実施するための手順やルールを文書化したものであり、URS 作成後すぐに作成し
DQ 実施前までにはバリデーション責任者の承認を受ける必要がある。
QMP の記載内容(例)は以下の通りである。
・ 適用範囲 ・体制および役割 ・設備概要 ・文書責任(役務範囲) ・逸脱管理手順
・ 変更管理手順 ・文書作成方法 ・文書承認手順

3)Risk Assessment(RA)
ICH(日米 EU 医薬品規制調和会議)より 2006 年に発行された Q9 品質リスクマネジメントでは患者の健康に対するリスクを低減させるために、設備または施設の設計時・据付時・運用時そして廃棄までライフサイクルを通してリスクアセスメントを行い、必要に応じてリスクを低減させる対策を講じることを推奨している。
再生医療等製品においても同様にリスクアセスメントによるリスクマネジメントを行い、患者の健康へのリスクを低減させることが望まれる。
リスクアセスメントは以下のフローに従って実施する。

参照︓ICH Q9 ブリーフィングパック
Risk Identification(リスク特定) : ブレーンストーミングなどを行い、リスクの洗い出しをする。
Risk Analysis(リスク分析) : それぞれのリスクの原因と可能性を決定する。
Risk Evaluation(リスク評価) : リスクレベルを特定する為に数値化方法を採用する。
Risk Reduction(リスク低減) : リスク低減策を特定し、低減策の効果を評価する。
Risk Acceptance(リスク受容) : リスク再評価後、残留リスクが許容できるかどうか判断する。
図 A6.1 リスクアセスメントのフロー

リスクアセスメントの手法は特に限定されていないが、一般的には FMEA(欠陥モード影響解析)を使用することが多い。リスクアセスメントで最も重要なポイントはリスクを評価する基準と許容リスクの閾値である。これらの数値は、品質保証責任者を初め、各方面の専門家で十分な協議を行って決定する必要がある。

4)設計時適格性確認(DQ)
DQ は安全キャビネットおよび空調システムに対して、メーカーから作成・提出される製作仕様書類や設計図書の内容が、「URS を満足していること」及び「GCTP 上、遵守すべき要件が設計図書に反映されていること」を確認・記録する目的で実施し、その結果を文書化する。DQ は詳細設計完了時または製作仕様書受領時に実施する。
実施は以下の流れに従って行う。
・ URS 要求項目および GCTP 要件項目を網羅したチェックリストを作成し、要領書と一緒に実施前ま でにバリデーション責任者の承認を受ける。
・ 関連する図書や図面を準備し、各要求項目が図書または図面に反映されていることを確認する。
・ 確認についてはメーカーの専門家も含めた会議形式で実施する方が、担当者の製品品質および設備機能についての理解が一層深まるので、会議形式による確認を推奨する。
・ 確認が完了したチェックリストを報告書と一緒にバリデーション責任者の承認を受ける。

5) 据付時適格性確認(IQ)
IQでは、安全キャビネットおよび空調システムが関連するURS、設計図書及びメーカー製作仕様書に従って製作・設置され、また対象とする医薬品の製造管理および品質管理に関する基準(GMP)の要求に適合していることを確認し、その結果を文書化する。
【実施項目参考例(安全キャビネット)】
・ 外観検査、寸法検査、据付位置検査、材質検査、制御盤検査、配線検査、I/O 検査、構造検査
【実施項目参考例(空調システム)】
・ 外観検査、寸法検査、据付位置検査、材質検査、制御盤検査、配線検査、I/O 検査、フロー
(P&ID)検査

6) 計器の校正(CAL)
CAL では、CAL 対象計器の必要とされる精度を考慮し、適切な標準器や標準資料を用いて計測器の示す値と真の値とを比較し記録する。CAL は IQ の一部として取り扱うことも可能である。
CAL は全ての計器に対して行う必要はなく、製造する再生医療等製品へ影響を与えるパラメータ(CPP︓Critical Process Parameter)を測定する計器のみを対象とする。
また、CAL は運用開始後も予め決められた期間で定期的に実施する必要があるので、品質とランニングコストのバランスを考慮して対象計器を決定する必要がある。
【対象計器例(安全キャビネット)】
・ 風速計、パーティクルカウンター【対象計器例(空調システム)】
・ 温湿度計、パーティクルカウンター、差圧計

7) 運転時適格性確認(OQ)
OQ では、IQ・CAL 完了後に安全キャビネットおよび空調システムが関連する URS、設計図書及びメーカー製作仕様書に従って動作し、また対象とする医薬品の製造管理および品質管理に関する基準(GMP)の要求に適合していることを確認し、その結果を文書化する。
【実施項目参考例(安全キャビネット)】
・ アラーム検査、動作検査、フィルタリーク検査、清浄度検査、風速検査、気流測定(スモークテスト)
【実施項目参考例(空調システム)】
・ アラーム検査、動作検査、フィルタリーク検査、清浄度検査、気流測定(スモークテスト)、室圧検査、風量検査、室間差圧検査、清浄度回復検査

8) 性能適格性確認(PQ)
PQでは、全ての施設・設備のOQ完了後に安全キャビネットおよび空調システムが、生産する再生医療等製品に関する承認された手順に基づき、品質規格を満たしかつ再現性よく生産できることを確認し、その結果を文書化する。

9) コンピュータ化システムバリデーション(CSV)
コンピュータ化システムバリデーションは GAMP5 及び厚労省「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン(案)」に従って実施することが一般的である。CSV の実施内容はシステムの複雑性、重要性、供給者の品質管理能力によって変動する。従って、カテゴリー分類評価やサプライヤオーディットを行い、評価結果により決定したカテゴリー分類により実施内容が決定する。
実施内容(例)を以下に示す。

表 A6.1 コンピュータ化システムバリデーションの実施内容(例)

A 7. 安全キャビネットの定期検査、日常点検の項目、時期、内容(本文 6 章参照)
安全キャビネットの定期検査項目と実施時期について表 A7.1 に、日常点検項目と点検内容について表 A7.2 に、定期点検項目と点検頻度の一例を表 A7.3 に示す。

表 A7.1 定期検査項目および時期
表 A7.2 日常点検項目と点検内容
表 A7.3 定期点検項目と点検頻度の一例

A 8. 使用済み HEPA フィルタの清浄化と交換方法 (本文 6.2.1 参照)

引用関連規格

8.関連法令・規制・規格
・ 再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
・ 実験室バイオセーフティ指針(WHO第三版)
・ バイオハザード対策用クラスⅡキャビネット JIS K3800 : 2009
・ NSF 規格 No.49 クラスⅡバイオハザードキャビネット
NSF/ANSI49-2008(laminar flow)biosafety cabinetry

国内関連GL

海外関連GL

WG開始年月

WG終了年月

WGメンバー

座長 浅野 茂隆 早稲田大学 招聘研究教授
秋枝静香   株式会社サイフューズ 細胞製品開発部 部長
牛田多加志  東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻・バイオエンジニアリング専攻 教授
梅澤明弘   国立研究開発法人 国立成育医療研究センター再生医療センター センター長
紀ノ岡正博  大阪大学 大学院工学研究科生命先端工学専攻 生物プロセスシステム工学領域 教授
小久保護   澁谷工業株式会社 再生医療システム本部 参与技監
小林豊茂   株式会社日立製作所 ヘルスケアビジネスユニットヘルスケアソリューション事業部 再生医療プロジェクト 技師
齋藤充弘   大阪大学大学院 医学系研究科未来細胞医療学共同研究講座 特任准教授
高橋恒夫   京都大学 再生医科学研究所幹細胞研究部門 胚性幹細胞研究分野 客員教授
平澤真也   日本エアーテック株式会社 代表取締役社長
水谷 学   株式会社早稲田大学アカデミックソリューション 客員研究員
森由紀夫   株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング 生産統括部 部長
若松猪策無  株式会社メディネット 管理本部 サイエンティフィックアドバイザー


H28 年度 再生医療(ヒト細胞製造システム) 開発 WG
再生医療用途安全キャビネット運用ガイドライン(手引き)素案検討 TF委員

天野健太郎  株式会社 竹中工務店 技術研究所環境計画部 環境設備グループ 主任研究員
佐藤博利   株式会社 日立産機システム 受配電・環境システム事業部受配電統括部 クリーンエア装置設計グループ 主任技師
末松孝章   株式会社 日立製作所 技術開発本部松戸開発センタ 産業システム部 主任研究員
須賀康之   清水建設株式会社エンジニアリング事業本部 生産プラント事業部
       医薬プロジェクト部 製剤・原薬グループ 主査

報告書(PDF)

2019-E-RE-047-H28-報告書

報告書要旨(最新年)

承認済み製品(日本)

承認済み製品(海外)

製品開発状況

Horizon Scanning Report