8.関連法令・規制・規格
・ 再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成 26 年 8 月 6 日厚生労働省令第 93 号)
・ 実験室バイオセーフティ指針(WHO第三版)
・ バイオハザード対策用クラスⅡキャビネット JIS K3800 : 2009
・ NSF 規格 No.49 クラスⅡバイオハザードキャビネット
NSF/ANSI49-2008(laminar flow)biosafety cabinetry
Appendix
【目 次】
A 1. 安全キャビネットのクラス分類
A 2.再生医療用途に特化した安全キャビネットの例
A 3.枯草菌による生物学的試験
A 4. 無菌操作環境
A 5. 作業所における安全キャビネットの清掃作業例と注意点
A 6. 適格性確認
A 7. 安全キャビネットの定期検査、日常点検の項目、時期、内容
A 8. 使用済み HEPA フィルタの清浄化と交換方法
A 1. 安全キャビネットのクラス分類 (本文 3.1 参照)
安全キャビネットの規格は 1976 年に米国で発行された NSF №49 が基本となり、日本では(公社)日本空気清浄協会が 1980 年に「クラスⅡ安全キャビネット規格」として発表した。その後改訂を経て現在は JIS 規格 K3800-2009 として運用されており、本ガイドラインでは JIS 規格を基本として述べる。設置後、装置が仕様どおりに運転されているかを現場で検査する技術者の養成と認定も重要である。
安全キャビネットはバイオセーフティーレベルと用途により、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ型に分類されている。クラスⅡ型が多用されており、それらはA1、A2、B1、B2の4種に仕様、構造が分類される。従来B3と呼ばれたタイプは、2009 年の規格改定で A2 タイプとなった。
いずれも前面の空気流入部でのバリア性能が重要であり、吸込み気流すなわち排気を安定的(変動が 10%以内)に確保することが求められる。図 A1.1 に代表的気流方式、表 A1.1 にクラスⅡ安全キャビネットの分類を、図A1.2 に各々の外観を示す。
表 A1.1 安全キャビネットクラス分類表(JIS K3800-2009)
*1︓放射性障害防止法に基づく管理区域に設置するキャビネットについては、放射性同位元素をもつ化合物も含む。
*2︓JIS 規格には明記されておらず、WHO 指針より追記した。
*3︓NSF/ANSI No.49-2010a規格では、汚染陽圧チャンバーを有する構造の記載がなくなり、A2タイプと同一とすべきと記されている。よって気密性試験からハロゲンリーク法、SF6法が廃止され、圧力維持法と石鹸法のみとなった。
A 2. 再生医療用途に特化した安全キャビネットの例 (本文 3.1 参照)
再生医療等製品を製造するための作業所は、製造環境中の微粒子・微生物濃度を許容レベル以下にするために無菌操作等区域、清浄度管理区域に分類される。これらの区域は再生医療等製品が無菌操作される環境の維持、及びその環境の汚染防止の観点より適切な空気清浄度を維持する必要がある。
安全キャビネット内は前者の無菌操作等区域になる。
再生医療等製品は無菌医薬品と異なり製品自体が細胞であり完全な無菌化が出来ないこと、製造工程に人の介入が多々あること、および製造方法やロット数及び品質等の考え方が無菌医薬品と異なる等多くの相違点がある。
これら相違点を勘案し、今後新しい概念の技術、既存技術の応用、使用方法、運用方法等が多くのメーカー、作業所等より開発、考案されていくことが予想される。これらは製造環境の無菌精度向上、封じ込め性能向上、両者の向上、およびコストダウン等目的は多岐に渡ると推定されるが、いずれの場合においても再生医療等製品の安全性を維持する必要がある。また従来と異なる技術、使用方法、運用方法等を採用する場合には、客観的で適切な安全性試験を繰り返し実施し、再生医療等製品の安全性を担保せねばならない。
1)2 重封じ込め、特別な気流を付加した安全キャビネット
本安全キャビネットは内部気流の中に、更に別系統の給気、排気気流を設けている(以下、クリティカル空間と称す)。このクリティカル空間の気流内は、安全キャビネット本体内部空間より空気障壁により分離されていることがAppendix A3項の枯草菌芽胞による生物学的試験により検証されている。外観図を図A2.1 に、気流概念図を図 A2.2 に示す。
クリティカル空間の主目的は、気流制御による封じ込め性能向上と、無菌環境向上に加え、交叉汚染の防止を図るべくチェンジオーバー時の除染時間の短縮である。この空間の気流内でのみ培養容器を開放し細胞操作を制限することで、操作中に発生するエアロゾルを本空間内に封じ込めることができる。万が一漏洩したとしても、漏洩環境は安全キャビネット内部であり、安全キャビネット外部へ漏えいする可能性が極めて低い。一方、クリティカル空間は安全キャビネット作業室内と同様の ISO クラス5の環境であり、本空間内へ万が一入り込むことがあっても汚染されるリスクを極めて低くしている。また、本空間内は実体としての壁や作業台は無い。よって、チェンジオーバー時に必要な除染域を減らすことができる特徴を有している。
2)操作ロボットを付加した安全キャビネット
安全キャビネット内部に作業者に変わる操作ロボットを組み込み、製造工程を半自動化した安全キャビネットの外観を図 A2.3 に、その内部構造を図 A2.4 に示す。なお、本装置は前述1)項の応用型になる。安全キャビネットの内部には培養容器置台と培養容器のフタ緩め部がある。ロボットアームは、培養容器置台にある容器を掴み、フタ緩め部へと移送してフタを緩める。その後、クリティカル空間へ移送され、培養容器が開放される。作業者に依る培養液交換後は逆動作にて元の置台に戻る。最終的にロボットアームは初期停止位置に戻り、ハンド部には殺菌灯が一定時間照射され、容器との接触部が消毒される。
操作ロボット導入の目的は以下 3 項目である。
(1) 作業動線の一定化。
作業をロボット化することにより、作業動線が常に同一となり、再現性がとり易い。
(2) 汚染リスクの低減。
容器を操作するロボットは安全キャビネット内で動作する為、無菌性を確保しやすい。
(3) 作業者の教育負担低減。
ロボット導入にて教育負荷等が低減できる。
図 A2.3 外観図 図 A2.4 内部構造図3)細胞の加工や培養等の一連の操作を一体化した安全キャビネット
安全キャビネットの作業室内で細胞を操作した後に、一般的には細胞用容器を安全キャビネットから持ち出され、同室(清浄度管理区域)内のインキュベーターや遠心機等の操作がされる。
図A2.5に示す安全キャビネットは、細胞の加工や培養等の一連の操作を行う機器を全て組込んだ例となる。中央の安全キャビネットには、前項1)で述べたクリティカル空間を有し、その左側にはインキュベーターを連結している。この安全キャビネットの作業室内には、細胞観察用顕微鏡や廃棄物シューター等を備えている。また、右側には遠心機を組込んだクリーンベンチ(安全キャビネットでも良い)を備えている。
この安全キャビネットに、加工を必要とする細胞を入れた後は、その細胞の加工が完了するまで無菌操作等区域から出ることはなく、かつ、作業者の腕も一連の作業工程が完了するまで、この無菌操作等区域より出し入れする必要は無くなり汚染のリスクが低減される。
図 A2.5 外観図
A 3. 枯草菌による生物学的試験 (本文 3.3 参照)
規格に適合しているか確認する為に、型式認定時の検査では、第三者による枯草菌芽胞を噴霧する生物学的試験が実施される。以下に示す作業者保護試験(風速バランス 3 条件)、試料保護試験(風速バランス2条件)、相互汚染防止試験(風速バランス1条件、位置2種)を各3回行い連続で全て規定値以内とならなければならない。
1)作業者保護試験
安全キャビネットの作業室から菌が漏出しないことを確認する試験である。作業室内から外向きに枯草菌芽胞液(5~8×108 cfu/mL)を、ネブライザーにて噴霧する。
図A3.1の如く、ネブライザー下方には擬似腕としてパイプを設置し、6台のインピンジャーと2台のスリットサンプラーにて漏洩した菌数を計数する。インピンジャー捕集合計コロニー数は10 cfu 注以下、スリットサンプラー捕集合計コロニー数は 5 cfu 以下が合格基準であり、連続 3 回の試験に全て合格しなければならない。
さらに選定風速(仕様値)条件以外に、排気抵抗の増加想定条件、HEPA フィルタの目詰り条件の2 条件下でも各々3 回の試験に合格しなければならない。図 A3.2 に試験状況を示す。
注︓cfu=Colony Forming Unit(培地上で菌が発育し形成したコロニー数)
図 A3.1 作業者保護試験方法
A3.2 作業者保護試験2)試料保護試験外部の菌が作業室内に混入せず、作業台上が清浄に維持されていることを確認する試験である。
図 A3.3 の如く、外部よりネブライザーにて枯草菌芽胞液を 5~8×106 cfu/mL 噴霧する。選定風速条件、及び排気抵抗増加想定条件下にて、作業台上に並べた培地上の合計コロニー数は5 cfu以下で、各々3 回連続で合格しなければならない。
図 A3.3 試料保護試験
3)相互汚染防止試験
作業台上の試料同士が相互に汚染し合わないことを確認する試験である。図 A3.4 の如く、作業室内の下降気流が手前と奥に分かれる点にネブライザーを設置し、側壁から中央に向かい 5~8×104 cfu/mLの枯草菌芽胞液を噴霧する。選定風速条件下で、左右から3回ずつ試験し側壁より355mm 以上離れた培地上で合計コロニー数が試験毎に 2 cfu以下でなければならない。
図 A3.4 相互汚染防止試験
A 4. 無菌操作環境(本文 4.1 参照)
1)無菌操作
無菌操作とは、原料・中間品・製品への微生物による汚染を防止するため、無菌操作等区域へ供給する容器、工程資材、原料、空気や作業手順、更衣手順などを適切に管理する手法のことである。
再生医療等製品およびその原料が直接環境に暴露される安全キャビネット内部の作業は無菌操作となる為、安全キャビネット内部の環境およびその設置環境は適切に管理する必要がある。
2)無菌操作環境
無菌操作を行う安全キャビネット内部は無菌操作環境として微生物による汚染を防止する為、ISO Class5 の清浄度を確保することが望ましい。
この環境を確保する為には以下の条件が必要である。
・ 給気に HEPA フィルタを設置し、清浄な空気を安全キャビネット内部へ供給すること
・ HEPA フィルタは PAO 等によるリークテストが可能なこと
・ 安全キャビネット内部の風速は 0.3~0.6m/sec とし、一方向流を形成すること
安全キャビネット内部が常に ISO Class5 の清浄度を維持できていることを保証する為に安全キャビネット内部にセンサーを設置し、以下の項目を連続モニタリングすることが望ましい。
・ 庫内風速・・・風速計
・ 微粒子数(0.5μm)・・・パーティクルカウンター
モニタリングデータは記録計にて保存すること。記録計を ISO Class5 の環境に設置する場合は、紙粉等による異物混入を考慮しペーパーレスタイプを選定することが望ましい。
A 5. 作業所における安全キャビネットの清掃作業例と注意点(本文4 章参照)
1) 初期搬入時の外面の清掃方法例
初期搬入にあたり、出荷時の保護材(輸送中の損傷を避けるための包装フィルムの上を覆った梱包材)は、できるだけ搬入する作業所の近くで取り除くことが望ましい。安全キャビネットの作業所への搬入は、仮設前室を使用することが好ましく、その場で純水に浸した不織布などを用いて包装フィルム(プラスチックフィルム)表面を清拭するのが良い。安全キャビネットを設置する部屋への搬入後、まず包装フィルムを剥がしていく。この時、フィルムを巻きながら剥がしていき、外側に面していたフィルムが内方向に来るように開梱していくのが望ましい。包装フィルムを取り除いた後、次に安全キャビネットの外面を清拭していく。清拭作業は、天井面、壁面などに 70%エタノールをスプレーし、不織布等のワイパーで清拭する。清拭終了後、5 分程度、乾燥させる。エタノールの代わりに、イソプロパノールや下記の消毒剤を使用しても良い。清拭に使用する不織布等は使い捨てのものを使用し、一定の面積を清拭したら新品と取り替えることが望ましい。清拭手順としては、天井面を清拭後、下方向へとワイピングしていく。清拭対象表面では、ワイパーを一方向に動かすことで清拭する(往復運動では表面付着汚れを拡散させる可能性があるため)。
2) 消毒作業(清拭)操作の例
管理責任者は、メーカー担当者に推奨消毒剤の有無を確認し、ある場合はその薬剤情報(推奨濃度、使用法の情報)を入手する。消毒に用いる消毒剤としては、過酢酸溶液、過酸化水素溶液、次亜塩素酸含有溶液などがある。第 17 改正日本薬局方(平成 28 年 3 月 7 日厚生労働省告示 64 号)参考情報「消毒法及び除染法」に記載された方法(硬質表面キャリア法)にて、所望の殺菌効果が確認された消毒剤を使用することが望ましい。具体的な消毒操作としては、消毒剤を対象に噴霧し、所定時間放置した後、不織布等で拭きとっていく作業を行っていく。または、不織布等のワイパーを消毒剤に浸して絞り、対象を清拭する。使用する不織布等のワイパーは使い捨てのものを使用し、予め滅菌処理がされたもの、若しくはオートクレーブにて滅菌処理を行ったものを使用する。自己発塵が少なく、繊維の毛羽立ちが少ないワイパー(長繊維で作られクリーンルーム専用のものも市販されている)を使用すると良い。一定の面積を清拭したら新品と取り替えることが望ましい。安全キャビネット内部の消毒を行う箇所は、作業台、側面、背面、前面パネル(ガラス)の内側とする。上面の吹出し口整流板は、清拭によりパンチング板にワイパーの繊維が残存し、発塵源となることが懸念されるため清拭対象とはせず、必要に応じ消毒剤を吹き付けるのみとする。清拭順序としては、側面と背面を清拭した後、作業台を清拭する(上方から下方に清浄化する)。壁面の清拭方法としては、上から下に一方向にワイパーを動かして清拭していく。作業台は、基本的に奥側から手前方向に清拭する。拭き取り終了後、5 分程度、残留薬剤を乾燥させる。清拭時は、送風機を止めることが望ましい(排気口付近でワイパーが吸い込まれる恐れがあるため)。
消毒剤を原液から希釈する等の濃度調製を行う場合は、予め定めた手順に従い実施する。また、定めた測定法に従い、調製後の消毒剤濃度が所望の濃度となっていることを測定する。調製した消毒剤の管理・保管については、保管場所、保管方法、保管環境、保管期間等を予め定め、それに従い適正に管理する。消毒の方法は、具体的な手順を成文化しておくこととする。
表 A5.1 消毒・清拭箇所の例
図 A5.1 安全キャビネットの略図と消毒・清拭箇所の例
3) 除染(ガス除染)方法例
使用される除染剤としては、過酸化水素、過酢酸などがある。安全キャビネット全体をカバーで覆う、または、安全キャビネット内部の作業スペースのみを覆うなどして、ガス化した除染剤、または、ミスト化した除染剤を該密閉空間に供給し、一定濃度以上で、一定時間処理する。本除染法は、微生物をあらかじめ指定した菌数レベルまで減少させることに使用する。予め定めた除染時の重要な物理的工程パラメータを測定し、記録を残しておく。
除染法を適用する場合、除染バリデーションを実施することが望ましい。除染剤及び除染の効果を適切な BI(Biological Indicator)を用いて微生物学的にバリデートし、効果的かつ再現性よく除染効果が得られるようにする。また、CI(Chemical Indicator)も用い、その色の変化で除染剤がキャビネット内の隅々まで行き渡っていることを確認するのが良い。設定したバリデーションについては、具体的に文書化しておく。有効期限を定めて、定期的な再的確性確認を実施し、除染効果が的確に得られることを確認する。また、除染効果に影響があるような除染条件の変更を行う場合には、事前に除染バリデーションを再度実施する。
過酸化水素を用いたガス除染バリデーションの設定方法については、NSF/ANSI49-2011 Annex K(バイオセーフティキャビネットにおける微生物除染の代替法と除染剤バリデーション手順)を参照のこと。HEPA フィルタ1次側の BI の設置場所、枚数、除染終了の判断基準が記載されている。
4) 作業台の下の清掃
作業台手前の排気口下と作業台の下(戻り空気通路)に、明らかに培地などをこぼしてしまった場合は、清掃作業を行うことが好ましい。但し、作業台の下を取り外す作業は難しい作業であることから、基本的に管理責任者がメーカに清掃を委託して実施する。作業時は、排気口下と作業台の下の部材を外し、消毒剤に浸したワイパーで下面を清拭する。
A 6. 適格性確認(本文 4.3 参照)
1)User Requirement Specification(URS)
URS はユーザー要求(UR)を仕様書として文書化したものである。URS は設備の詳細についても記述する必要がある為、必ずしもユーザー側のみで作成する必要はなく、メーカーなど設備の専門家と共同で作成することを推奨する。
記述する仕様については、詳細に記載するとメーカーや型式を限定したり、仕様の変更を行うたびにURS を改訂することとなる為、品質への影響が大きい仕様に限定して記述することが望ましい。
URS作成時には安全キャビネット・空調システムおよびGCTPに関する有識者を集めてリスクアセスメントを行い、設備に潜在するリスクの洗い出しを行うことが望ましい。洗い出したリスクの中に許容できないリスクが検出された場合は、リスク低減策を検討しその策を URS の項目に盛り込むことで、リスクを許容レベル以下に抑えた URS を作成することができる。
URS の記載内容(例)は以下の通りである。
・ 目的 ・対象範囲 ・用語の定義 ・法規、基準 ・プロセス概要 ・設計仕様(IQ 検証範囲)
・ 性能仕様(OQ、PQ 検証範囲) ・環境、安全に関する要求仕様
・ 計装、自動化に関する要求仕様 ・図書、メンテナンスに関する要求仕様
2)Qualification Master Plan(QMP)
QMP は適格性確認を実施するための手順やルールを文書化したものであり、URS 作成後すぐに作成し
DQ 実施前までにはバリデーション責任者の承認を受ける必要がある。
QMP の記載内容(例)は以下の通りである。
・ 適用範囲 ・体制および役割 ・設備概要 ・文書責任(役務範囲) ・逸脱管理手順
・ 変更管理手順 ・文書作成方法 ・文書承認手順
3)Risk Assessment(RA)
ICH(日米 EU 医薬品規制調和会議)より 2006 年に発行された Q9 品質リスクマネジメントでは患者の健康に対するリスクを低減させるために、設備または施設の設計時・据付時・運用時そして廃棄までライフサイクルを通してリスクアセスメントを行い、必要に応じてリスクを低減させる対策を講じることを推奨している。
再生医療等製品においても同様にリスクアセスメントによるリスクマネジメントを行い、患者の健康へのリスクを低減させることが望まれる。
リスクアセスメントは以下のフローに従って実施する。
参照︓ICH Q9 ブリーフィングパック
Risk Identification(リスク特定) : ブレーンストーミングなどを行い、リスクの洗い出しをする。
Risk Analysis(リスク分析) : それぞれのリスクの原因と可能性を決定する。
Risk Evaluation(リスク評価) : リスクレベルを特定する為に数値化方法を採用する。
Risk Reduction(リスク低減) : リスク低減策を特定し、低減策の効果を評価する。
Risk Acceptance(リスク受容) : リスク再評価後、残留リスクが許容できるかどうか判断する。
図 A6.1 リスクアセスメントのフロー
リスクアセスメントの手法は特に限定されていないが、一般的には FMEA(欠陥モード影響解析)を使用することが多い。リスクアセスメントで最も重要なポイントはリスクを評価する基準と許容リスクの閾値である。これらの数値は、品質保証責任者を初め、各方面の専門家で十分な協議を行って決定する必要がある。
4)設計時適格性確認(DQ)
DQ は安全キャビネットおよび空調システムに対して、メーカーから作成・提出される製作仕様書類や設計図書の内容が、「URS を満足していること」及び「GCTP 上、遵守すべき要件が設計図書に反映されていること」を確認・記録する目的で実施し、その結果を文書化する。DQ は詳細設計完了時または製作仕様書受領時に実施する。
実施は以下の流れに従って行う。
・ URS 要求項目および GCTP 要件項目を網羅したチェックリストを作成し、要領書と一緒に実施前ま でにバリデーション責任者の承認を受ける。
・ 関連する図書や図面を準備し、各要求項目が図書または図面に反映されていることを確認する。
・ 確認についてはメーカーの専門家も含めた会議形式で実施する方が、担当者の製品品質および設備機能についての理解が一層深まるので、会議形式による確認を推奨する。
・ 確認が完了したチェックリストを報告書と一緒にバリデーション責任者の承認を受ける。
5) 据付時適格性確認(IQ)
IQでは、安全キャビネットおよび空調システムが関連するURS、設計図書及びメーカー製作仕様書に従って製作・設置され、また対象とする医薬品の製造管理および品質管理に関する基準(GMP)の要求に適合していることを確認し、その結果を文書化する。
【実施項目参考例(安全キャビネット)】
・ 外観検査、寸法検査、据付位置検査、材質検査、制御盤検査、配線検査、I/O 検査、構造検査
【実施項目参考例(空調システム)】
・ 外観検査、寸法検査、据付位置検査、材質検査、制御盤検査、配線検査、I/O 検査、フロー
(P&ID)検査
6) 計器の校正(CAL)
CAL では、CAL 対象計器の必要とされる精度を考慮し、適切な標準器や標準資料を用いて計測器の示す値と真の値とを比較し記録する。CAL は IQ の一部として取り扱うことも可能である。
CAL は全ての計器に対して行う必要はなく、製造する再生医療等製品へ影響を与えるパラメータ(CPP︓Critical Process Parameter)を測定する計器のみを対象とする。
また、CAL は運用開始後も予め決められた期間で定期的に実施する必要があるので、品質とランニングコストのバランスを考慮して対象計器を決定する必要がある。
【対象計器例(安全キャビネット)】
・ 風速計、パーティクルカウンター【対象計器例(空調システム)】
・ 温湿度計、パーティクルカウンター、差圧計
7) 運転時適格性確認(OQ)
OQ では、IQ・CAL 完了後に安全キャビネットおよび空調システムが関連する URS、設計図書及びメーカー製作仕様書に従って動作し、また対象とする医薬品の製造管理および品質管理に関する基準(GMP)の要求に適合していることを確認し、その結果を文書化する。
【実施項目参考例(安全キャビネット)】
・ アラーム検査、動作検査、フィルタリーク検査、清浄度検査、風速検査、気流測定(スモークテスト)
【実施項目参考例(空調システム)】
・ アラーム検査、動作検査、フィルタリーク検査、清浄度検査、気流測定(スモークテスト)、室圧検査、風量検査、室間差圧検査、清浄度回復検査
8) 性能適格性確認(PQ)
PQでは、全ての施設・設備のOQ完了後に安全キャビネットおよび空調システムが、生産する再生医療等製品に関する承認された手順に基づき、品質規格を満たしかつ再現性よく生産できることを確認し、その結果を文書化する。
9) コンピュータ化システムバリデーション(CSV)
コンピュータ化システムバリデーションは GAMP5 及び厚労省「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン(案)」に従って実施することが一般的である。CSV の実施内容はシステムの複雑性、重要性、供給者の品質管理能力によって変動する。従って、カテゴリー分類評価やサプライヤオーディットを行い、評価結果により決定したカテゴリー分類により実施内容が決定する。
実施内容(例)を以下に示す。
表 A6.1 コンピュータ化システムバリデーションの実施内容(例)
A 7. 安全キャビネットの定期検査、日常点検の項目、時期、内容(本文 6 章参照)
安全キャビネットの定期検査項目と実施時期について表 A7.1 に、日常点検項目と点検内容について表 A7.2 に、定期点検項目と点検頻度の一例を表 A7.3 に示す。
表 A7.1 定期検査項目および時期
表 A7.2 日常点検項目と点検内容
表 A7.3 定期点検項目と点検頻度の一例
A 8. 使用済み HEPA フィルタの清浄化と交換方法 (本文 6.2.1 参照) |